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植田審議委員記者会見要旨(3月3日)
平成11年3月3日・四国政経懇話会主催の講演会および香川県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
1999年3月8日
日本銀行
——平成11年3月3日(水)
午後4時10分から20分程度
(植田)
まず、懇談会で地元経営者の方々の話をうかがって感じたことを申上げさせて頂く。この地域の金融の状態は、他の地域あるいは都市部に比べ相対的に問題が小さいため、ゼロではないにしても、金融面に強い不安を訴える先は少なかった。明るい話としては、明石海峡大橋の開通に伴い観光関連で様々な需要の増大・波及効果がみられることや公共工事が着実に出ていることがあった。また、明るいか暗いかは立場の違いにより区々であるが、大型小売店の出店ラッシュの波及効果が出ているといった話があった。さらに、学者出身の私が個人的におもしろいと思ったのは、香川・徳島県には大学との共同研究による先端技術開発の動きがあり、これらのことは、この地域だけでなく、日本、場合によっては世界全体で評価されるといった動きで、地方経済が進むべき一つの方向を示しているのではないか、とも思った次第である。
しかし一方で、規制緩和の中で競争が激化していること、あるいは今後リストラの一層の広がりが予想されることに伴うデフレ効果についても、いろいろな方々から指摘があった。また、住宅投資についても、短期的には増加傾向をみせているものの、長期的にはもう少し低いところに行くのではないかといった心配の声も業界の方から聞かれた。このように、当地域においても規制緩和、構造改革という大きな流れが不可避である中で、短期的にはデフレ効果という痛みが伴うことが懸念されるといった日本全体の持つ問題がやはり様々な形で意識されていると強く感じたところである。
多くの方々からご指摘を頂いたのは、為替レートが振れすぎるのが困るといった点である。私ども日本銀行としては、為替レートがある程度動くことはやむを得ない一方、短期的に過度に動くことは出来れば避けたいと考えているが、ただ、こうしたことを適時、適切に阻止していくことはそう簡単なことではないということを答えさせてもらった。
【問】
2点質問する。まず、2月12日の金融緩和に関し、講演の中で個人的な見解と前置きをしたうえで、今回の金融緩和は金利と量の中間的な措置であるとの考え方を示されたが、今後一段の対策を求められる状況となった場合、さらにどういう形での政策対応があり得るのか。また、本日の講演の中で長期金利上昇の原因として、銀行のリスクテイク能力の欠如といった点を強調されたが、2月8日の「フォレックスセミナー」での講演では、どちらかというと財政破綻懸念プレミアムの方を強調していたと記憶しているが、これは植田委員の見方に修正、あるいは変化があったということか。
【答】
一段の金融緩和策に関しては、今後それが必要となった場合、さらなる打つ手があるかと言えば、それはあると思うが、その具体的な内容がどんなものになるかはこの場で話すことはできない。
長期金利上昇に関する理解については、同じことについての表と裏を申上げたに過ぎない。すなわち、大量の国債が発行され、民間部門の保有資産に占める比率が高まっていくと、それに対し高いプレミアムを要求する、ということが出てくる可能性がある。一方、そのプレミアムがどれくらいのものになるかという点については、金融機関がどれくらいの購買力、リスクテイク能力をもつかということによって決まってくる訳である。従って、供給増の要因と金融機関のリスクテイク能力双方の要因が影響してリスクプレミアム、長期金利が定まってくると思う。
【問】
2つ質問する。本日の講演で、最後の貸し手機能は無制限には出来ないとの話をされたが、本日の一部報道によれば大手金融機関への公的資金注入額7兆4千億円のうち、半分を日銀貸出で行うという。これについてどう思われるか。また、連日、短期市場で大量の資金供給を行っている結果、本日はオーバーナイト金利が0.02%まで低下したが、場合によっては金利がゼロパーセントを下回ることが起こり得ると考えるのか。
【答】
前者については、日本銀行としてどのような対応をしたらよいか、検討していることは事実であるが、まだ検討中の段階であるため、この場でこうするといった答えをすることは差し控えさせて頂きたい。また、後者は、オーバーナイト金利がかなり低いところまできて、ゼロを超えて下に行けるのか、というのは興味深い点ではあるが、今のところ具体的にそういう可能性について検討はしていない。
【問】
短期市場では実質的に金利がゼロになっているようであるが、ゼロ金利の達成は一方では政策目標の喪失とも言えるのではないか。日本銀行の政策の空白を回避するため、あるいは世界からの信認を得るためには、日本銀行として今後何をすればよいと思われるか。
【答】
これは、先程の、次に手を打つとすればどういう手があるのか、という質問と同じ趣旨と受け止めるが、この点については、外部でいろいろな憶測・意見があることは承知しているが、まだ決定には至っていないので、この場で申上げることは出来ない。また、現在、一時的にかなり低い水準にきており、これでもう一杯なのか、あるいはこれで達成し終えたのか、といった感想を持たれるかもしれないが、2月12日の政策決定会合の後、新しい準備預金の積み期間が終了していないので、いろいろな市場の混乱等が本当にないのか見定めてみたい、という気持ちもある。
【問】
オーバーナイト金利がゼロに近づく中で、先程の講演の中で触れられたターム物をターゲットにするということが、新たな調節手段としてあり得るのか。
【答】
金利をターゲットとする、という政策を選択するとすれば、ひとつのオプションにはなりうると思われるが、具体的に方針を決めている訳ではない。
【問】
国債の引受けに関しては、日銀のコンセンサスとしてはやらない、ということのようであるが、国債の買い切りオペの増額については、フィッシャーIMF副専務理事やサマーズ米国財務副長官といった方々から、買い切りオペの増額を念頭に置きつつ一段の金融緩和、流動性供給をすべきであるといった要請が出ている点に関し、どう思うか。
【答】
仮に金融緩和をさらに進めるとして、量を増やすやり方としては買い切りオペ以外にも様々な手段がある。国債の買い切りオペに関しては、2月12日の政策決定会合で従来の方針を変えないということを確認したところである。
【問】
金融システム絡みで信用創造が今どうなっているか、意見を伺いたい。これまでマネタリーベースを増やしても実際のマネーサプライが伸びなかったという問題があったと思うが、資本注入その他のスキームが固まった現在では、何か従来とは変化があるとみているか。
【答】
まだ現実に資本注入が行われていないので、今は何とも言えないが、資本注入後に金融機関の行動に変化があるかどうか、注意と期待を持って見守って参りたいと考えている。