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総裁定例記者会見要旨(3月16日)

1999年 3月17日
日本銀行

―平成11年 3月16日(火)
午後 4時30分から約 1時間

【問】

今日の「金融経済月報」で景気について「下げ止まりの様相」という表現が使われて、若干景気認識を前向きに改善したようだが、ただ、先月の金融緩和措置が、この景気認識の改善にどのように働いたのかという点がよく説明されていないとも受け取れる。この1か月間のフォローアップも踏まえて、現在の景気認識、更には今後の金融政策の基本的スタンス如何。

【答】

今日公表した「金融経済月報」──アイボリーペーパー──の中で、お示ししたとおりであるけれども、景気の現状については、私どもでは、「足許、下げ止まりの様相を呈している」という表現を使っている。

すなわち、設備投資が大幅な減少を続けているほか、個人消費も回復感に乏しいという状態がまだ続いている。しかし、公共投資が引続き増勢を辿っているし、住宅投資の下げ止まりがその中で少しはっきり出てきているといったようなことがある。こうした最終需要の動向や、在庫調整が一段と進展していることを背景にして、生産は下げ止まっているということかと思う。

ただ、企業収益や雇用・所得の状況というのが引続き悪化していることなどからみて、景気の先行きについて、現時点で、速やかな民間需要の自律的回復を期待し難いということではないかと思う──その点は従来と余り変わっていない。しかし、こういうふうに金融面で明るい数字が出てきたりすると、民間の方のコンフィデンスにも多少の影響を与えていくのではないかと思っている。

先月来の金融緩和措置のもとで、日本銀行が潤沢に資金を供給していることから、オーバーナイト・コールレートは、例えば昨日は0.04%まで低下してきている。1か月物あるいは3か月物など──やや長めの短期金利物──が、かなり低下している。更に、——これには金融緩和以外の要因もあると思うけれども——長期金利が一頃に比べて明確に下がって、1.7%台というところであるし、為替相場も118円/ドル前後ということで、そこへ株価が上昇して、出来高が非常に大きく──今日も10億株を超えたということだが──、こういうことは久方ぶりの少し明るい、期末を控えて企業には明るいニュースになり、動きになっているのではないかと思う。

私どもでは、こういう金融資本市場全体の変化が、投資採算の改善や、金融機関・企業の資金繰りの緩和、更には企業や家計のコンフィデンスを改善していくということで、経済に好ましい影響を与えていくものと考えている。

先週末の金融政策決定会合では、このような金融経済情勢に対する認識についてはほぼ皆一致しており、討議を尽くした上で、当面の金融政策運営について、先月決定した金融市場調節方針を引続き維持していくことを決定したところである。

【問】

今お話にもあったが、オーバーナイト・コールレートがほとんどゼロに近い水準になり、これ以上、下に動かしようがないということで、中央銀行としては、そういうオーバーナイト・コールレートを目標とした金融政策に手詰まり感が強まっており、そういう観点から新たなターゲットが必要ではないかという指摘があるが、この点について、先週12日の金融政策決定会合の中ではどういう話し合いがあったのか。

【答】

今後の政策運営の手法として、おっしゃるように、オーバーナイト・レートに加えて、1週間物とか3か月物といったようなターム物金利、あるいは量的な金融指標をターゲットとしてはどうかといった議論があることは承知している。

もちろん金融政策運営の手法については、中央銀行として常日頃から基礎的な研究を加えているし、政策委員の間でも議論が行われている。例えば、中央銀行がそうした操作の対象をどの程度コントロール出来るかということとか、そうした操作の対象と実体経済との関係について、どれ程の繋がりがあるものか、またどの程度安定的に維持できるものかといったようなことなどについての議論はある。このような議論は今後も続けていくつもりである。

ただ、先週末の金融政策決定会合では、あくまでも、先程述べたような最近の金融経済情勢を踏まえて、現状維持が決定された訳である。私どもとしては、調節方針に従って、オーバーナイト・レートを出来るだけ低く推移していくように促しながら、今後とも、市場の動向を慎重に見極めていく考えである。

それが私どもに課せられた課題──ディレクティブ──であり、長年の経験で鍛えられたセントラル・バンカーたちが、上手く市場を調節し、かつ資金の流れ、動きというものを長年の勘で、よくフォローをし、かつ先を見ていってくれるものと信じている。

「行く所まで行ったのではないか、次は何か」ということは余り焦る必要はないのではないかと思う。またその情勢を見て次のことを考えれば良いのであって、今のオーバーナイト・コールレートをなるべく低い水準に維持しながら、どういうことが起こっていくか、もう少し情勢を見ていく必要があると思う。とにかく0.04%とか0.05%とかいうような所に行ってから、まだ2週間位しか経っていないので、その辺の所は今直ちに次の手がないじゃないかと考えるのは、少し早過ぎやしないかと考えている。

【問】

景気の話であるが、色々な指標を基に下げ止まりの様相という話であるが、こういうところが景気の下げ止まりの様相を感じるとか、あるいはこれまで自分の身の回りで景気認識の指標として見てきたというものがあればお話頂きたい。

【答】

私どもはオーバーナイト・コール(レート)をどの辺で維持していくかということを1つのメルクマール——ディレクティブの標識——にして指示を出し、それを事務方は毎日毎日市場を見ながらフォローをしているのであり、これは私どもにとっては、非常にやり易い方法でもある。ただ、これだけの変化が起こっていて、コール市場とか他の市場にどういった影響が出てくるかが、やはり私どもとしては一番関心を持つべきところである。

コール市場残高が2割くらい少なくなったということであるが、これは主として生命保険などの機関投資家がコール資金の一部を銀行の普通預金にシフトさせていったことかと思う。幸い、今までのところコール取引の縮小に伴って資金決済に支障が生じるといった事態はまだ起こっていないと思う。市場における資金の流れにはかなり大きな変化が起こっている訳であるが、今後とも市場機能が損なわれることがないようにその動向を十分注意していきたいと思っている。

景気面の数字としては、設備投資の動きとか、消費の動きとか、そういう割合肌身に近いところで、今まで大きな需給ギャップの種になっていたことが変化しつつあるかどうか、それから——よく私が申し上げたと思うが——、民間部門——私どもが付き合っている企業家の人達、家計——の明るさ、将来に対する希望——コンフィデンスという言葉を使ってきたつもりであるが——、そういうものは新聞でも色々な形で出てくるし、テレビでも出てくるし、友人・家族その他と話し合っている時にも出てきていることであるから、私としてはそういうことを非常に関心をもってウォッチしている次第である。

【問】

今日の経済関係閣僚会議で総裁が量的緩和の問題に関連して、「将来のインフレの芽が生まれる」ということに懸念を表明されて、中川農水大臣からかなり辛辣なご意見があったようだが、それについてこの会見の場でもう一度その考え方をご披露頂きたい。

【答】

今日の「中川大臣の辛辣な何とか」というのは、(会議の)後で中川大臣と私が話をした時に中川大臣がおっしゃったことを新聞にお話になったのだと思う。

会議の席では、大臣は「やはり短期物が潤沢に出ていっても中期・長期にはあまり影響を与えないのではないか。もう少し景気全体を動かすような金融手段はないのか」といったような意味のことをお聞きになったので、私はそれに対して、「短期のものは政策決定会合で極力コールのオーバーナイト物が低くなるようにやってくれということで、それについてはかなり実現してきたと思う。そのことが短期だけではなく、中期のターム物にしてもかなりここに来て下がっている。——表もお見せしてご説明したが——ユーロ(円金先)が0.22%まで下がってきているし、それからジャパン・プレミアムが久方ぶりに解消した。あるいは長期金利が2.4%くらいまでいって、皆さん大変だというような感じをお持ちになっていたが、これもやはり1.7%台というところまで下がってきている。短期物で、一番短いところで潤沢に資金を出しているということが、やはり市場を通じて、中期物・長期物にも移っていく、流れていくという影響を与えていくということが今、現に起こっている」ということを申し上げた次第である。

その後で、私に「今はインフレではなくてデフレ対策である」とおっしゃったので、私は「資金をなるべく潤沢に供給していきたいと思っているが、ただ将来のインフレの種を作るような資金の出し方には十分注意していきたいと思う」ということを申し上げた。そのことは皆さん大体何を言っているかということはご存知であると思うが、その言葉について中川大臣が「今はデフレ対策が大事であって、インフレ対策ではない」というような意味のことをおっしゃっておられた。

私が言っているのはそういうことではなく、「やはり、ここでインフレの種を植えてしまうと、これまでの長年の歴史の中で内外で起こったようなことがやはり起こる。今はデフレ対策(が必要)であることは私も十分承知しております」というようなことを帰り際に中川大臣にお話をして、よく分かって頂いたつもりでいたが、そういうこと——公の席の話と個人同士の話——が一緒になって、(ニュースとして)流されたのだと思う。

【問】

量的緩和に関連してであるが、非常に良い指標が一部で出てきた一方で、マネーサプライあるいはベースマネーにしても、日銀の大量な資金供給の割には伸び悩んでいる。こうした量的指標の状況、現況についてはどういうふうにお考えか。

【答】

マネーサプライ(M2+CD)は1月が3.6%、2月は3.5%であるが、これは平均残高の前年比である。前年の1月というのは、ご承知のように、山一(證券の経営破綻)の後でみんなが慌てて、預けて運用している資金を現預金に換えて、著しく現預金が増えた時期である。それとの前年比較であるから、前年比3.5~3.6%というのは1年前のウラが出ているというというふうに見て頂く必要があるかと思う。

【問】

今の答えは、量的な問題——マネーサプライ——は実はウラが出ているだけで、伸びとしては非常に好ましい数字であるという見解か。

【答】

3.5%、3.6%というのは決して高い数字であるとは思わないが、昨年1月の高い伸びの統計上のウラが出ているということを考えれば、少し(表面上の)前年比(伸び率)が下がったとはいっても、前月よりも(実勢としての伸びが)下がったという訳では必ずしもなく、実態はそういうことだという点は知っておいて頂いてもよいと思う。

【問】

総裁が就任されてからほぼ1年になるが、この1年を振り返って、政策運営、透明性・独立性、あるいは機構改革等について、総裁はどのように評価するか。また、残された任期の課題があるとすれば、どのような点があるか。

【答】

私は3月20日の任命であるので、そういう意味で大体1年が経過した。また、就任10日後の4月1日から新法が施行になり、日本銀行も組織替えを行って、大きな変化が起こった時であったと思う。私は(日銀から)ずっと離れていて戻ってきたので、どういうふうに変わっているのか、あるいはこれからどうしていくのかということについては、その時には余り感じなかったが、新日銀法がインディペンデンシーとアカウンタビリティーの2つを柱にして、施行になったことに対して、非常な喜びと励ましを感じた。

ご承知の通り色々と暗いこともあったが、新しい政策委員会が決って、4月1日に任命されて、月2回の金融政策決定会合とか、事務局から上がって来るものを政策委員会で討議して決定するとか、あるいはPB懇と称してポリシー・ボードで勉強会のようなものを随分積み重ねていき、事務局からも色々な話を聞かせてもらい、勉強・討議するといったようなことが始まった。それが中心になって、日本銀行の政策あるいは内部管理が動き始めた。そのことによって、この1年、非常に独立性を保ちながら、ポリシーを決めてこられた。それと同時に、金融政策決定会合とか金融経済月報とかホームページ——私はあまり見ていないのだが、日銀のホームページをみておられる方が随分おられるということを知って、これは新しい日銀が動きつつあるなというふうに思っている。これがまず第一の印象である。これをしっかり維持して、今後も続けていかなければいけないというふうに思っている。

金融政策面では、日本経済がここにきてようやく下げ止まったということであるが、なお先行きについては難しい局面が予想される。決断をしなければならない、あるいは責任を感じて動かなければいけないということがたくさん出てくると思うが、そういう国民からの負託に的確に応えて、判断に誤りのないように政策を運営していくには、やはり金融政策決定会合、政策委員会に支えられて、日銀が動いていくということがよろしいのではないかというふうに思っている。

国際的にはこの一年あまり動いていないようにお感じかもしれないが、アジア等のリスクの後始末などがあった。中央銀行としては、金融の自由化——金融システムの安定化も含めて——が大きな課題で、今までどちらかと言うと、金融行政のもとで、護送船団を組んで動いてきた日本の金融機関がそれぞれのリスクを持って、競争して動いていくというふうに変わってきた。これは非常に大きな変化である。それと同時に、ビッグバンと円の国際化——これは新内閣が特に強く掲げている——がスタートした。たまたまユーロが単一通貨として基軸通貨になりつつあるという中で、円がこれから国際通貨として動いていくためには、まず東京のインターナショナル・マネー・マーケットを作り上げて使い勝手の良いマーケットにしていかなければならない。日本経済は、少なくとも1人当たり国民所得は主要国ではトップクラスにあり、対外純資産は世界第1位である。そういう国の通貨が、戦後色々波があったとしても一貫して360円/ドルから今の120円/ドル前後まで強くなってきている。こういう通貨がもっと持たれ、使われ、そして、基軸通貨としての重みをシェアしていかなければならない。これは、私の長年の抱負でもあり、本にも書いた。たまたま私が着任した時に、そういうことが始まった。まず第一歩として、円の国際金融市場で最も使われるべき政府短期証券が日銀引受けから公募に移っていくということが、この4月から始まる訳である。

そういう動きやCPが市場で売買され、その中から日銀が買っていくといったような、企業と直結したというか、企業の債務を市場に出していき、それを内外の投資家が使っていく、あるいは運用していくというようなことが出来ていく。それとともに、この4月からは、債券についての課税も自由化されていく。そういう時期にたまたま総裁として色々考え動くことができるということは、私としては、恵まれたというかやりがいがあるというふうに思っている。

金融システム問題については、私もかなり早い時期——6月か7月頃であったと思うが——に、ここで、自己査定、自己開示を行うべきだということを言った。当時は「そんな無理なことを言っても」という意見が多かったと記憶している。そこから始まって、半年余り経つ間に、それは当たり前で、自己査定、自己開示を行って、不良債権を早く整理していく、そのための早期償却が大事だということになった。

また、日本の銀行が海外の銀行に比べて非常に劣っている資本勘定の充実についても、日本経済全体の減価の皺が銀行に寄ったということもある訳で、他に資本を出すところがなければ足りないところは公的資金で注入・投入していかなければならないということを言い続けてきた。これについても、この3月に大手15行に7兆5千億円が注入されることになって、実現していくということは、大変嬉しいことである。

もう一つ、その時に、それぞれの銀行がもっと特色のある自己の歩む道を選んで、15行が並行に走るのではなくて、マネーセンター・バンクになるところもあるし、スーパーリージョナルになるところもあるし、あるいはインベストメント・バンクになるところもあるというように、特色が出ていくことがこれからの課題であり、リストラを行った上で、そういう自己の進むべき方向を金融再編の世界的な流れの中で決めて下さいということを申した。

この3つのことがこれからの課題であるというように、銀行に対して、あるいはこの席でも何回か申したが、今になってみれば、それぞれ実現されつつある。これは非常に嬉しいことであると思う。金融システム問題で、色々と苦労があり、日債銀、日長銀問題も含めて、色々経験させて頂いたが、そういうことで一応一段落し、先が読めてきたということは、非常に明るい動きであると思う。

内部管理面については、色々な問題があって、前任の総裁、副総裁が監督責任を取って辞められた訳である。色々なことがあったが、大体片がついて、税務とか、あるいは今度も会計検査院が見に来るとか──これはもう例年のことが行われているだけであって、記事になる方がおかしいのだが──、そういうようなことも大体乗り越えてこられたということは、──悲しいことも色々あったが──一応正常化しつつあるというふうに思っている。

日本銀行にとっては色々なことのあった年であるが、私としては働き甲斐と誇りを感じているし、職場の一人一人についてもそういう中央銀行員として、力を合わせて新しい日銀を作っていって頂きたいというふうに思っている。

【問】

金融政策についてであるが、先程、オーバーナイト金利を事実上ゼロにしてからまだ2週間くらいなので、その次は何だと考えるのはまだ早過ぎるのではないか、という趣旨のことをおっしゃったが、日銀としては金利を最後まで下げた場合、この後次の手がないと、金利が場合によって逆に反騰してしまうという心配もある中で、次の手があるということを思わせておいて、何も打ち出さないのは、それが居心地が良いからではないか。

【答】

中央銀行は常に将来を先取りして政策を検討していかなければいけないということを今までも言った覚えはあるが、現時点で何か特別なことを考えているという訳ではない。

先程申し上げたように、金融政策にとって最も重要なことの1つは、将来のインフレの種を作らないこと──スタグフレーションとかあるいはインフレ不況とか私は言っているが、──(である。)何気なしに「はい、そうですか」といって今皆に喜ばれると思ってやったことが、将来何年か経ってそれがインフレの大きな源泉になっていくということは、今までの歴史の中に随分ある訳である。高橋是清蔵相の日銀国債引き受けで、戦後のインフレが起こっていった、あるいは戦中の経費がどんどん出ていったというようなこともそうである。そういうこれまでの経験を踏まえて、しかも年長者が多くなってくる、年金生活者が多くなってくる、そういう中で、一番これらの人たちが困るのは、物価が上がっていくということだと思う。そういうことも考えて、今打っていく手が、将来のインフレの種にならないように、種を作らないようにしていくということだけは、一生懸命考えていかなければいけないことである。

もう1つは、やはりこういうふうに金融面で色々お金が出て、少し明るい面が出てきた訳であるが、これからこの空気を支えていくものは、むしろ日本経済の構造改革というか、民間経済で、今の需給ギャップというようなものをみても、設備投資がなかなか伸びてこないというのは、企業家が今まで余り動かなかった、競争力のない物は壊してでも新しい物を作り、新しい需要が出来る物を作っていくと、あるいは設備を整えていくということがこれから始まっていかなければいけない訳である。政府の方もそれのための委員会を今度作られる訳であるから、そういう経済改革というか、需給ギャップの問題を支えていくものは、むしろそういうことを早く民間の企業が始めることと、4月に税制改正の効果も出てくるであろうが、家計からもそろそろもう少し前向きの動きが出てくれば、今の走り出した明るい空気というものは支えられていくし、それが景気の上昇に繋がっていくというふうに思っている。

こういうことを考えて、今すぐ量をどうやって増やすかというようなことを決めたり、あるいは申し上げたりするという時ではないというふうに思っている。

【問】

それは、更に金利をゼロ以下にしたのと同じような効果があるような量的緩和については、将来のインフレの種を蒔くことになりかねないので、やらないということか。

【答】

それは必ずしも結びつかない。オーバーナイト金利をなるべく低くしていくということをもうしばらく続けて、それが市場にどういう影響を与えていくかということをまだみている段階であって、そのことが完成された、達成された段階ではないというふうに判断している。そういうオーバーナイト物をゼロに近いところまで持っていくことによって、資金を潤沢に供給していくと、それが他に効果をもたらしてくるかというようなことをみているのが現状で、それで今しばらくは十分だというふうに思っている。

【問】

ここ数日若干円高が進んでいる中で、今日、宮澤蔵相が昨晩の円の上昇などはファンダメンタルズの範囲内だということをおっしゃったが、その辺りの総裁のお考えは如何か。

【答】

円相場は今週の初めから少し円高気味になってきているが、これは外人の日本株買いが出てきて、それが株を上げ、円を強くしているということではないかと思うが、為替相場の水準はどれ位が良いのか、あるいはどういうふうに動いていくかというようなことは、私の立場から評価を述べたり、コメントしたりするのは適当でないと思うので、これは差し控えさせて頂く。言えることは、為替相場というのは、経済のファンダメンタルズに応じて、安定的に推移していくのが望ましいということである。

【問】

今の質問に関連して、前回の金融緩和措置決定時に総裁は記者会見で、日本経済の現状からは円安が望ましいというような話をされていたが、それは変わったということか。

【答】

いや、あの頃は大分円が高かったが──115円/ドルくらいではなかったか──、これは、(無担保コール・オーバーナイト物の)金利を大幅に下げることによって、円が安くなっていってもそのことは別に気にはしないというふうなことを申し上げた記憶はある。

【問】

日銀が預金保険機構への貸出に強い難色を示すのは、日債銀や、整理回収銀行への出資の毀損、あるいは山一證券への特融等での苦い経験があるからか。

【答】

預金保険機構に日銀がつなぎ資金を立て替える、貸出すことは、長銀、日債銀が一時国有化── temporary nationalized bank──ということになっているので、その間必要な資金を出すのは決まっていた。その後、早期健全化法が出てきて、その法案を見た時に、資本の投入資金は日銀から借りられる、政府保証にするけれど借りられる──あれは議員立法であったので、私は最後まで法案を見ていなかったのだが──と書いてあるので、「ちょっとこれは大変だな」という感じがした訳である。

というのは、ちょうど金融再生委員会が柳沢大臣のもとで組織され、これから資本注入について、25兆円ぐらいの資金を用意するというようなことが伝えられていたので、もしこの資金が日銀から──つなぎ資金としても、政府保証であるとしても──出ていくとすれば、これはちょっと大変なことになると。長銀、日債銀等の分だけでも5兆円余り出しているのに、さらに資本注入に必要な資金を、日銀から借りるというのでは、それこそ大量の貸出になるし、これは早く手を打たなければいけないというふうに思い、宮澤大蔵大臣とか、柳沢大臣とか、預金保険機構の理事長に私が参った。

この点については、日本銀行としては、預保向け貸出というのは、仮につなぎであるとしても、既に5兆円を超える大量の資金を貸している上に、そのうちつなぎ資金で大量なものを年度内に注入するということであったから、これは大変だと思って、この資金はなるべく私どもに依存しないで、──預金保険機構というのは、収入の道がある訳で、預金保険料も入るし、買入れた担保物件とかそういうものを売却して資金も入るし、あるいは民間から資金の調達もでき、現にずっとやってきている訳であるし、それから政府保証債も出せると法律に書いてあるから──これはなるべく早く手を打って、「民間からの調達を進めて下さい」、「自己調達で私どもの方から余り大きな金額を借りないで頂きたい」ということをお願いした訳である。御三方とも、「良く趣旨は分かるが、足りない時にはお願いします」ということであった。その後、金融再生委員会など関係者とも話し合い、私も柳沢大臣のところにもお願いに行って、7兆5,000億円の資本注入というものが決まった時に、「日銀として余り大きなものを負担できませんからよろしくお願いします」ということで、結局話し合った結果、最初のスタートは日銀の方が少ない金額で、条件は国債担保の公定歩合となり、6か月で切って、どんなに長くても、3、4年以内に返してもらう、早いものは少しずつ半年毎に返して頂くということを話し合って、妥結した訳である。

今日、預金保険機構が最初の資金として、2兆円を民間から公募し、かなり多くの応募があって、0.35%で調達したというニュースを先程聞いて「それは良かったな」と。今一般に金利が安い時期であるから、民間から調達すること──この種の政府機関にお金を出すこと──は、私は決して無理な話ではないというふうに思う。

そういう経緯があって、預金保険機構への立て替えというか、つなぎ資金の供与を決めた訳である。これは、政策委員会で決定して、最後に決めたということである。それから政府保証債についても、なるべく早い時期に出して下さいということをお願いしてある。

なお、山一證券は、日銀法38条の特融の残高として4,900億円程残っているが、これはまだ整理が進んでいない──自己保有資産の処分等を進めている──段階で、最終的な処理にはなお時間がかかると思っている。特融の返済財源については、まず基本的には山一證券の資産処分替わり金をもって充てる。それが足りない場合には、寄託証券補償基金が法制化されて、投資者保護基金から資金が特融返済のために確保されると私どもは理解している。そのことも、大蔵大臣談話の趣旨で、そういうふうに考えている訳である。

以上