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後藤審議委員記者会見要旨(6月3日)
平成11年6月3日・道北地区金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
1999年6月7日
日本銀行
―平成11年6月3日(木)
午後1時30分から約1時間
【問】
本日の道北地区金融経済懇談会の模様如何。
【答】
金融経済懇談会の席上で出された多様な話題を、私なりに要点をかいつまんでお話したい。
まず、当地区の景気については、平成9年に北海道で象徴的な事件であった天塩川木材が倒産した後も、昨年7月には旭川市が失業対策の特例が適用される緊急雇用安定地域の指定を受けるなど、非常に厳しい状況が続いているとのことであった。当地の産業においては、木材や家具がかなりのウェイトを占めているが、その業況は、販売不振と市況低迷が続いているとのことであった。また、集成材や輸入材に地元の製材業の製品が押されているとか、国有林、道有林とも良質な天然木の収穫が減っていることに伴い山元の工場の数も減ってきているとか、プレカットの普及に伴う流通経路の変化など、構造的な変化が起きている。先行きについては、現在政策的に推進されている住宅建設の増加に期待を持っている、という話もあった。また、建設業については、昨年後半から良くなってきており、倒産もない状態で、今年度は事業を前倒しで実施している状況であるとのことであった。ただ、他方で、後半の息切れが心配だとか、平成12年度に北海道開発庁がなくなることが、公共事業に占める北海道のシェア低下に繋がることを心配している、といった話があった。
その中で、明るい側面としては、一つは、富良野・美瑛の観光の入り込みが増えていること、また、昨年は米、野菜など農作物が豊作であったという点があげられた。ただ、観光については、入り込み客は増加しているが、中身を色々分析してみると通過型の観光客が多く、どのように地元に足を止められる観光にしていくかが、これからの課題であるとの話が出された。
この間、政府の公共事業対策、道の制度融資、また国の特別保証枠設定を通じて、足許は徐々に明るさが出てきているが、依然先行きに対する不透明感が続いている状況であり、このため、旭川市では、今年度、緊急対策として、小規模企業の金融対策あるいは商店街対策としてプレミアム付商品券の販売といった対策も考えられているほか、新しい産業を育成するための産業クラスター構想や産官学の技術開発、あるいは「ベンチャーカレッジ」の創設などの努力を続けていきたいという話があった。
その他、付加価値の高い加工食品を伸ばしたいとか、酒を含めて道内産の農作物が原料として使いやすい価格になれば、ともすれば輸入物との競争が強まる傾向にある中で、道内農産物の加工食品向け出荷を伸ばせるのではないか、との話も出された。
金融関係については、北海道拓殖銀行の破綻以来、中小零細企業の不安感が非常に強かったが、道が制度融資で機動的に対応してくれたほか、北海道では自己資本比率の制約による貸し渋りより、そもそも信用リスクによる影響が大きかったので、国の特別保証枠の拡充が有効であったとの話が聞かれた。また、拓銀破綻の頃から考えると、よくここまで乗り切ってきたという気持ちがする、との声も聞かれた。ただ、公共事業の増加で支えられているとはいうものの、旭川市の有効求人倍率が0.25倍といった厳しい雇用状況であるほか、企業の売上や収益の減少も、2~3割減のオーダーで続いており、目下のところは頑張って踏みとどまってはいるが、早く景気が浮揚しないとこのままではなかなか耐えられない、構造改革といっても間に合うか不安だという声も聞かれている。
また、金融政策に直接関係することとしては、現在、日本銀行が行なっているゼロ金利政策について、マクロ的にみると、大変な勇断であるし、景気を下支えする意味で大きな効果も発揮していると思うが、取引の大部分が個人である地域金融機関—— しかも資金需給ということからいえば、マーケットで資金を取る方ではなく出す側 ——からすると、なかなかゼロ金利というのは厳しい面がある、このことは日銀も承知の上でやっておられることだとは思うが、そういう実感を持っている地域金融機関があるということを念頭において欲しい、というようなお話もあった。
【問】
現在の国内の景気をどう判断しているのか。また、ゼロ金利政策をいつまで続けるのか。
【答】
国内の景況感を申し上げると、現在は、財政・金融政策に支えられ、景気は下げ止まっている。しかし、民間需要の動向をみると、自律的な回復へのはっきりとした動きがみられるまでには至っていない。
金利政策については、これまでも大変長い間、低金利政策を続けてきたが、今年2月からは実質ゼロ金利を目指した金融調節を行ない、3月に実質ゼロ金利が実現している。こうした中、金融資産の利子収入に依存している方々、あるいは年金財政などへ悪影響が出ているとの声は、私共としても十分承知している。しかし、金融政策は、マクロでの政策効果を重点に考えなくてはならないので、景気がデフレスパイラル的な状況に陥らないように食い止め、倒産や失業者の急激な増加を回避しながら、設備投資など民間の経済活動の浮揚に繋げていくといった下支えを要請されている点をご理解頂きたいと思う。
総裁も記者会見で申し上げているが、デフレ懸念の払拭が展望されるまでは、実質ゼロ金利政策を継続していくというのが現在の考えである。
【問】
補正予算を組むか組まないか話題になっているが、委員はどのように考えているか。また、仮に補正予算を組んだ場合、市場に与える影響をどのようにみているか。
【答】
補正予算を組むべきかどうかについては、中央銀行として具体的にお答えする立場にない。新日銀法では、中央銀行の独立性が大きなテーマの一つであるが、金融政策と財政政策を一緒に論じてはいけない。中央銀行としては、世論に耳を傾けながら、最終的に金融政策について判断すべきである。反面財政政策について、何時、どの様に補正予算を組むべきかといった点について、具体的な意見表明をすることは慎みたい。
【問】
昨日破産宣告を受けた山一證券に対する特融について質問したい。後藤審議委員は一昨年の特融決定時、既に政策委員を務められていたが、当時の経緯も踏まえ今の議論に対する感想はどうか。また、昨日、小畑理事が特融の返済財源として財政資金も念頭においているような発言をされておられるが、詰まるところ、財政資金が返済原資として有力なのか。
【答】
現在の審議委員の中で私と武富委員が当時既に政策委員であった。当時を振り返ると、平成9年の夏にはアジアで通貨不安が発生し、その後、わが国の株価も非常に不安定な動きを示していた。また、相次ぐ金融機関の経営破綻が発生するなど、金融システムを巡る環境が急激に険しくなっていた。さらに、景気も減速局面が続き、企業の景況感も慎重なものであった。そうした中で、山一證券の問題が発生した—— その前に三洋証券も破綻した ——訳である。証券投資に損得はつきものであり、証券会社は顧客の預かり資産を分別管理し、自己勘定でディーリングをやっているのであるから、元本保証の預金を預かっている金融機関とは性格が違うとの議論はあった。しかし、問題は、山一證券が四大証券の一角を占め、関連会社や海外現法を通じ、国内外市場において広範な業務を展開し、海外でも大きなエクスポージャーを持っていたことである。山一證券の経営が行き詰まり、内外市場で約定不履行が発生すれば、国内のみならず、国際的に大きな混乱が発生することとなり、ジャパンプレミアムの発生どころの話ではなく、わが国の金融・証券業界に対する信用が失墜することが懸念された。日本銀行は、大蔵省との協議の中で、こうしたプレゼンスの大きい山一證券の破綻に際し、約定済み取引の円滑な履行、海外からの円滑な撤退に齟齬を来すようなことは放置できないと判断した。併せて、大蔵大臣からも、証券会社の破綻処理のあり方について、寄託証券補償基金制度の法制化等、十全な処理体制を整備すべく適切に対処したいとの談話が公表されることになったので、特融についても、回収不能になる懸念はないとの判断から実施した。
そういう経緯もあるので、この問題については、最終的な処理までにまだ時間を要しようが、私共としては、破産手続の中で適切に権利を行使することによって、資金の回収に努めてまいりたい。また、政府におかれても、大蔵大臣談話に沿って、本件の最終処理が適切に実施されることを期待している。
一方、返済財源として財政資金を当てにしているかとの質問については、現在のところ色々な選択肢がある訳で、財政資金も一つの選択肢としてはありうるかもしれないが、特定の財源を念頭においている訳ではない。今後、政府ともよく協議しながら、私共として融資の回収に努めてまいりたい。
1年半も前の話で記憶が薄れているのかもしれないが、個人的には、山一證券が破綻した時点で、私共が特融を実行していなければ、日本の証券業界、また、金融業界がどれだけの痛手を受けたかを、今一度、証券業界でも思い浮かべて頂きたいとの感慨を持っている。当時、色々悩み、議論する中で最終的に特融をやむをえざる臨時異例の措置として実施した関係者の一人としてそのことを申し上げておきたい。
【問】
補正予算に関する議論が活発化し、長期金利が上昇傾向にある中で、先般の長期金利上昇時のように、日銀に対して国債の直接引き受けの議論が出てくるかもしれないが、この点についてどのように考えているのか。
【答】
金融市場というのは、その日その日の市場参加者の様々な声やルーマーで動くものである。お尋ねの件については、補正予算の時期や規模が決まった訳ではないので、仮定の問題に対してお答えするのはなかなか難しいというのが正直なところである。ただ、昨秋ないし年末から年始のような金利上昇が起きるのではないかということについて言えば、昨年の11月頃までは信用不安が広がっており、フライト・トゥ・クオリティー(安全な資産に対して資金需要が集中すること)がみられたことから、長期国債の利回りが0.8%程度まで著しく低下していた。こうした状況下で、国債の増発、そして資金運用部が国債の買入れを停止するという話が出て、長期金利の急上昇が起きた。
しかし、今日の状況をみると、財政当局においても、仮に国債を増発するとしても、デュレーションの観点から10年債に偏った国債発行の見直しや、シ団の問題を含め市場でどのように消化していくのかといった問題について、検討していると伺っている。そこには国債市場の混乱を避けるという配慮も検討事項として入っていると思う。
もう一つは、金利水準についても、昨年11月の0.8%といった長期国債の異常な低利回りの頃とは違い、今は1.6%台であり発射台が違う。
また、今、非常に潤沢な資金供給を行っているので、ゼロ金利がターム物からさらに長めのものに波及している。運用面で資金が長め長めのものへシフトし、イールドカーブがフラット化している。このように、ゼロ金利が中長期金利の一つのアンカー役となっていることを考えると、大幅かつ急激な長期金利の上昇が直ちに起こることは、仮定の話ではあるが、考えにくいのではないかと思う。
【問】
そうしたお話であれば、一部のアナリストの間で議論されている輪番オペの拡大の可能性は少ないとみて良いか。
【答】
仮定のまた仮定の話になるので、ご質問にはお答えしかねるが、本行のスタンスは、一つには、マーケットに出たものを買い切るオペを無制限に行えば、国債引き受けと同じになるということである。
もう一つは、根本的な問題として、長期金利を中央銀行が完全にコントロールすることはできないということである。これは歴史を調べれば分かることだが、1940年代に米国のFRBが長期金利を抑え込もうと悪戦苦闘したが、結局は駄目だということになり、1950年代に入り、財務省との間で、長期金利については責任を持てないというアコードを結んだ経緯がある。そうしたことを思い出して頂くことが必要であろう。
【問】
日頃は中央でマクロ的な観点から金融政策を考えておられる訳であるが、北海道に来てみて、これまで行われた金融政策等がどのようなかたちで効果として現れていると思われたか、率直な感想を伺いたい。
【答】
色々あるが、一つは、景気対策あるいは信用不安に対する対策という面で、日銀や政府の対策だけではなく、道・市それぞれが地元の企業、特に中小企業対策について、厳しい財政状態の中で随分と努力されているという印象を持った。
二つ目は、拓銀の破綻について、東京でも間接的に話を聞いたり、中央紙による報道等をみてきたが、当地で話を聞いてみると、拓銀破綻の影響が非常に大きかったかということを実感した。拓銀が北海道のリーディングバンクとして、金融だけではなく、将来性のある中小企業育成や技術開発への支援、あるいは東京支店における北海道への企業誘致といった面で果たしていた機能が、今のところ他に引き継がれず、失われたままになっているところがあるように思われた。今後、地元金融機関が力をつけて、こうした機能を引き継がれていくことを期待している。
三つ目は、公共事業が全国平均よりもかなり厚めに配分されており、公共事業の発注が着実に増えているにも拘わらず、旭川市の有効求人倍率をみると0.25倍、上川支庁では0.28倍と厳しい状況にあり、こうした状態から離陸するためには如何に新しい雇用や産業を創出していくかということが当地にとって大事なことであると感じた。
【問】
道内の金融機関、特に信金について、再編を進めていく必要があるのではないかとの議論があるが、こうした点についての考え方如何。
【答】
信金業界の再編の動きについて具体的なことはお答えできないが、一般論としていえば、現在は金融業界の再編の時期にある訳であり、今の経済環境、あるいはこれから予測される金融環境の変化の中でそれぞれの金融機関が生き残っていけるだけの体力をつけることが大事なことである。こうした再編の動きがどういったかたちで、また、どのようなテンポで行われるのか、あるいは行われるべきなのか、については個別具体的には申し上げにくいが、信金は信金業界の中で、信組は信組業界の中で、地銀もそうだと思うが、それぞれの業界において、将来の経営のあり方や先行きの金融環境の中で如何に自己の存立を確保し、伸ばしていくのか、またそのために必要な体力の強化をどのように行っていくのかについて、色々議論されていると思うので、皆さんの議論の集約するところを見守りながら、必要があれば意見を申し上げていきたいと考えている。
【問】
デフレ懸念の払拭が展望されるまでゼロ金利政策を維持されるということだが、具体的にはどのような状況を念頭においているのか。また、中央銀行として、ある程度のインフレを容認するという考え方についてどのような考えを持っているのか。
【答】
どの様な状況になったら、デフレ懸念の払拭が展望されると判断するかについては、一つの経済指標をみていれば分かるというものではないし、アプリオリに一定の条件を示せるものでもない。あくまで先行きの景気見通しや金融の状況など、将来の物価動向を巡る様々な要素やリスクを多面的に勘案して、的確に判断していくべきものだと考えている。
また、独自の解釈として擬似インフレ目標を日銀において検討しているという記事が報道されていたが、少くとも私が昨日東京を離れるまで、そうした検討が行内でなされているということはない。
要すれば、私共は月二回開催される政策決定会合において、様々な指標や将来を見通したリスクを勘案して、金融政策の判断を下していく—— 必ずしも全会一致とならないかもしれないが ——ということしかない、ということである。
【問】
東京から発信される情報をみると、北海道は非常に厳しいといわれているが、東京でご覧になられているところとの違いがあれば伺いたい。また、このままペイオフを迎えてしまうと、「全国が北海道化してしまう」という話があるが、この点はどうか。
【答】
東京でみたところとの違いは、先程申し上げたことに尽きると思う。私は、東京の方が北海道を厳しくみているとは思わない。また、「全国が北海道化してしまう」というものの言い方は、誠に失礼な言い方であると思う。
【問】
北海道銀行の資本増強に向けた取組みについてどう評価しているか。
【答】
当初は、「増資目標の達成は難しいのではないか」との声も一部にあったようだが、自ら率直な見通しに基づき増資のための努力をし、自己資本比率が5%を見込める状態にまで自力でいったとのことであり、道銀および出資要請に応えた企業等の努力に敬意を表したい。増資目標の達成見込みができた背景には、やはり拓銀破綻で受けたトラウマが道内にあり、「北海道の銀行にこれ以上おかしなことが起きたらいけない」という思いもあったのではないか。
【問】
足許の物価は若干下げ止まっているが、これは景気にどのような影響を与えるのか。
【答】
景気に対しては、物価は下げ止まった方が良いと思っている。もし、物価が下げ止まらなければ、今買わないで来月買おうということになる。確かに国内の需給ギャップは大きく、これをどうするかということについては政府の中でも色々議論されているが、海外の経済、特にアジア経済の不況が底入れし、一部の国では上向いてきていることなどから、国際商品市況にも底入れ感がでている。また、石油価格も若干の上下動はあるが、一頃に比べると水準は上がっているので、こうした状況を考えると、一時危惧されたような、物価の対前年比マイナス幅が拡大するといった事態が発生する可能性は、やや遠のいたと思っている。
【問】
本日の金融経済懇談会の席上では、「常に機動的な政策運営を行えるように、資産の流動性確保に努める」と発言されたようであるが、これは、いずれ日銀は長期国債の保有を減らすということか。
【答】
金融経済懇談会では、資産の長期固定化が進むのは避けたいと考えている旨を申し上げた。日銀は、輪番オペで長期国債をかなり購入している。しかも、日銀が流動性確保のために国債を売るとなったら、それだけでマーケットに非常に大きな影響を与えることとなるので、購入したものを売却したことがない。また、預金保険機構への貸付も短期の転がしで実質的には長期固定的な貸出となっている。こうしたことから、これ以上長期固定化が進むことは避けたいというのが、私の発言の趣旨である。もっとも、足許、金利が低くなっていることから、預金保険機構でもできるだけ民間借入れにシフトしていく努力をして頂いており、日銀としても有り難いことであると考えている。
以上
(参考)
道北地区金融経済懇談会出席者一覧
(順不同、敬称略)
- 旭川市助役
- 和嶋昌幸
- 上川支庁副支庁長
- 浴山正久
- 旭川金融協会会長
旭川銀行協会会長
((株)北洋銀行旭川支店長) - 宮脇憲二
- 旭川銀行協会副会長
((株)北海道銀行常務取締役旭川支店長) - 小林千臣
- 旭川経営者協会会長
(旭川信用金庫理事長) - 松田忠男
- 旭川建設業協会会長
((株)広野組社長) - 北海道経済同友会旭川支部長
旭川繊維製品卸商組合組合長
(東栄(株)会長) - 松山正雄
- 旭川地方木材協会会長
(相田木材(株)社長) - 相田嗣郎
- 北海道土木コンクリートブロック協会理事会長
((株)旭ダンケ社長) - 山下 弘
- 日本製紙(株)取締役旭川工場長
- 中村雅知
- 東芝ホクト電子(株)社長
- 村田隆之
- 合同酒精(株)旭川工場長
- 中野敏夫
- 北海道酒造組合会長
(高砂酒造(株)社長) - 小檜山亨
- 旭川林産協同組合理事長
(斎藤木材(株)社長)
(以上14名)