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総裁定例記者会見要旨(6月16日)

1999年 6月17日
日本銀行

―平成11年 6月16日(水)
午後 3時から55分間

【問】

本日の金融経済月報で「足許の景気は下げ止まっているが、回復へのはっきりとした動きはみられていない」と先月と同じ認識を示したが、1~3月のGDPの成長率は高めに出ており、また政府の月例経済報告も「下げ止まり」から「横這い」とやや上方修正されている。これと比べると日銀の景気認識は慎重なようにも思われるが、如何か。

【答】

今ご指摘があった本日公表の金融経済月報にお示ししているように、景気の現状に対する私どもの判断は前月に引き続いて、「足許の景気は、下げ止まっているけれども、回復へのはっきりとした動きはみられていない」というものである。

簡単に申し上げると、設備投資は年明け後やや持ち直してきているが、基調としてはまだ勢いがない。個人消費も全体として回復感に乏しい状態が続いている。一方、公共投資については高水準で工事が進捗しているほか、住宅投資は持ち直している。

前回確か、在庫調整が進んでいるから最終需要が動き出せば生産は伸びていける状態にまでなってきたというようなことを申し上げたと思うが、まだ最終需要の動向が目立って動いていないということで、生産も、概ね下げ止まっているというのが現状である。

金融の面でも、日本銀行による金融緩和措置の効果とか、金融システム不安の後退等によって、市場の環境は全般に好転してきているように思う。企業金融を巡る逼迫感は和らいできていると思う。これらが、景気に対して徐々に好影響を及ぼしていくことが期待されている。

民間需要が問題な訳であるが、企業収益の低迷が続いているほか、家計の雇用・所得環境というのは引き続き悪化している。また、企業のリストラが動き始めると、短期的には設備投資や雇用等にマイナスに響くという可能性もある。

これらの点を踏まえると、民間需要の速やかな自律的回復は依然として期待しにくいと判断している。

また、物価面をみると、卸売物価、輸入物価が上昇を示している訳であるが、これは原油などの国際商品市況の底入れが一時的には物価を下支えしていることが主因ではないかというふうにみられる。今申し上げたような実体経済の見通しに基づくと、こうした面からの物価に対する潜在的な低下圧力というのは引き続き残っているというふうに考えられる。

GDP統計1~3月の成長率は大変高かった訳であるが、これは足許の景気下げ止まりを示す材料のひとつではあるが、先ほど申した経済全般の情勢を踏まえると、今回の結果だけをもって民間需要の回復力が今後自律的に強まっていくというふうにみることはまだできないように思う。

こういうことで、一昨日の金融政策決定会合では、以上のような金融経済情勢に対する認識を踏まえて、討議を尽くした結果、当面の金融市場調節方針について現状維持とすることを決定した次第である。

【問】

物価に関しては、デフレ懸念の払拭ということを金融政策の目標にしていると思うが、今日金融経済月報で明らかにされた「物価に対する潜在的な低下圧力は引き続き残存している」という状態は、まだ経済の現状はかなりデフレ懸念の払拭からは遠いところにあるという認識か。

【答】

5月の卸売物価は前月比上昇したが、先程申し上げたように、原油など国際商品市況の上昇の影響が大きい訳であるから、物価の基調については、もう暫く慎重に見極める必要があると考えている。

日本銀行としては、需給ギャップや賃金の動向などからみて、こうした面からの物価に対する潜在的な低下圧力は引き続き残っているのではないかとみており、その意味で、デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢には、まだ至っていないと判断している。

7月の初めに短観が公表されるが、どういう数字が、どういう変化が起ってくるか、私どもとしても注目している。

【問】

長銀の元経営陣が粉飾決算の容疑で逮捕された訳であるが、去年日銀が同行に対して行った考査について、安斎頭取は5月末の会見で、「考査結果が2つ出て、どちらを採用するかについて日銀内で議論をした。信用不安を煽る結果にならないように、片方の考査結果を採用した」──ここから憶測すると、不良債権額がやや少ない方の考査結果を採用した──というような趣旨のことを会見でおっしゃったが、考査というものは2つ結果が出て、A案、B案どちらかを選ぶというようなことが日銀の中でなされるものなのか。そうだとすれば、非常に問題ではないかと思うが、長銀の考査についてどういうふうにみていたのか。

【答】

長銀については、元経営陣が逮捕されるといったようなことが起こって大変残念であるが、この件については、現在、捜査当局による事実関係の究明がなされているので、コメントは差し控えたい。

一点だけ付け加えるならば、いわゆる護送船団方式ともいわれたかつての体制の下で、金融機関の経営者を含めて、自己責任意識の定着が遅れた面があったことは否定できないと思う。こういう点についてディスクロージャーの拡充とか償却・引当基準の整備とか、制度や法律面での従来のやり方に対する反省のうえに立った改革が、ここ一年着実に進んできたように思う。そういった改革を今後とも推し進めていくことが重要だと考えている。

安斎頭取の発言については、詳しく承知していないが、恰も考査結果が2つあって甘い方を選択したかのような報道がなされたことについては、誠に不本意に思っている。厳正な資産査定を経て得られた考査結果というのは、あくまでも一つだけであり、私どもとしては、その結果を当該行に伝達するとともに、経営改善努力を促していた点は付け加えておきたいと思う。

安斎頭取の言われた2つの見方というのは、おそらく貸出先の企業の見方について、2通りの考え方がありうるという趣旨の発言ではなかったかと思う。その場合、一つの見方としては、個別企業毎に財務状況や経営改善計画の合理性、先行きの業績の見通し、金融機関の支援姿勢などを吟味したうえで、債務者区分を最終的に判断していくという、いわゆる資産査定に当たっての通常の原則に沿った企業の見方を指していると思う。つまり、ゴーイング・コンサーンとして実態をみていくという見方であると思う。

もう一つは、金融機関の企業に対する支援がストップするといった事態を前提として、その時点でみた企業の清算価値に応じて、機械的に実質破綻先かどうかを認定していく、いわば最悪のケースを想定した極端な見方を指しているのではないかと思う。清算価値でみるといっても良いかと思う。

考査における私どもの資産査定というのは、もちろん前者の立場を取っているので、個別企業毎の事情を吟味したうえで、体力に応じた金融機関の支援を勘案しながら、債務者区分を判断するということが原則である。日本長期信用銀行でも、こうした原則に基づいて、資料の提出や詳細な説明を受けたうえで、厳正な査定に努めたということだと思う。

【問】

国民銀行、幸福銀行、東京相和と銀行の破綻が立て続きに起きた。この先銀行の関連企業の連鎖倒産とか、地域経済に与える影響が大きいと思うが、そういう意味で地域経済への影響と金融システムの打撃については、どのように考えているか。

【答】

地方銀行等について、ここのところ相次いで破綻が起こったので皆様方も、これは大変だなと思われたかもしれない。国民銀行、幸福銀行、山一證券、東邦生命、東京相和が破綻し、あるいは、なみはやとか新潟中央とかそういったところの問題も出てきているが、これらは、やはり今までの自己査定が甘かった面もあっただろう。自己資本比率が4%を割って債務超過になってきたようなところも出てきた訳だが、そういうことに対する対応というか──これは、やはりこの一年ですっかり広い意味でのセーフティーネットが出来ているので、預金の引出しについても、そんなに巨額な引出しは起っていない。

これから、それぞれ金融監督庁、あるいは金融再生委員会の指導を受けながら、今後のやり方、生き方を考えていくのだろうと思うが、地方の銀行でも、地方は地方で、かなり地元からの出資なども出てきているようだし、一概には言えないと思うが、なんらかの形で地方の銀行にはそれなりの再編の道が開かれ、その道を進んでいくことになるのではないかとみている。この後もどんどん引き続き破綻が出てくるというふうな感じは、私は今のところ思っていないが、集中的に出てきたことは確かにちょっと意外だった。

【問】

先日発表されたGDPについてであるが、米国の有力ニューズレターが「先の金融政策決定会合で、ケルン・サミットや自民党総裁選を睨んで捏造された数字ではないか、といった議論があった」と報道をしているが、その真相はどうか。

【答】

ご質問については、私も先程みて少しびっくりしたのだけれども、GDPの統計自体が政治的な理由から歪められたのではないかといったような議論は、金融政策決定会合では一切出ていない。1~3月のGDP統計に関する委員の意見は、先程も申し上げたように、「足許の景気下げ止まりを示す材料の一つではあるけれども、今回の結果だけをもって民間需要の回復力が今後自律的に強まっていくとみることはできない」というのが大勢であった。

【問】

物価情勢について、CPIが下げ渋っているが、その要因は何か。先程総裁もおっしゃったが、WPIが反転し、マネーサプライの伸びが少し高まる一方、CPIが下げ渋っている。こうした中で現状の政策を続けた場合、かなり遠い将来だとは思うが、インフレへの懸念が生じないか。

【答】

今後、放っておけばインフレの懸念があるのではないかとのご質問かと思う。物価については、もう少しみていかないと、──CPIについてもここにきて少し落ち着いてきたようにみえるけれども──何とも申しかねる。このまま、物価がずるずる上がっていくという状況ではまだないとみているし、むしろ今大切なことは、ご指摘のようにデフレ懸念がなお残存する中で物価が上がり出すと、年金などフィックスされた給与で生活している方々にとっては非常に大きな脅威になるということであり、この点は、私どもも十分心配しているので、注意深くこれはみていきたいと思っている。

それから、もう一つその問題との繋がりで申し上げておきたいのは、国債その他証券市場というものが、かなり一般の人達にも注目を浴びてきているということである。これは大変結構なことだと思うのだが、従来は、1,200兆円の個人金融資産のうちおよそ800兆円位が預金あるいは郵便局への預け金、あと300兆円位が保険であって、証券、特に国債は、去年の暮れの残高でみると、一般の方々は5兆円位の運用しかしていない。従来は、銀行が殆どリスクがなくて、どこへ預けてもだいたい同じだった訳であるが、そうした状況が変わってきている訳であるし、特に、定期預金は平均で0.14%位でしか回っていない、これは非常に低い訳である。そういう方々も、証券への運用、あるいは多角的な運用というものを考えて頂きたいと思うし、私どもの方でも、特に目玉である国債、これはいわゆるリスク・フリーの証券、債券で、価格は多少変動するけれども、今下がっているといっても1.6~1.7%の利回りであるから、国債をはじめとする債券への運用を、1,200兆円の金融資産を持っておられる方々が、自己責任において運用を分散し考えていかれるということが大切なのではないか。

もちろん、CPIが上がっていくことのないように十分注意をしていきたいと思っているけれども、一方で、そういうことを考えていって良い時代になっている。そういう意味でも、国債市場を、──国債の銘柄もここへ来てだいぶ多角化・多様化してきているようであるし、政府の方でも、与党の方でも、色々、国債の流動性を高めることを考えておられるようであるが──、私ども日本銀行としても出来るだけそういったPRをすると同時に、債券市場、特に国債の市場を広くして、また(国債を)使い易い、使い勝手の良い、運用し易い資産にしていきたいと考えている。

そういう意味で、日銀ネットによる国債決済とか、あるいはDVP(Delivery versus Payment)、あるいは2000年末までに実施を予定しているRTGS(Real Time Gross Settlement)、といった形で、国債市場の発展のために手を打っていく、という気持ちを持っている。

物価の面は勿論であるが、そういった面でも、──これも一種の構造改革といえば構造改革──、家計の構造改革が行われていって良い時期に入っていると思っている。

【問】

今の発言に関連して、前回の経済関係閣僚会議で、総裁が「国債市場の拡大、並びにその流動性の向上が必要だ」と発言されているが、その流れで、国債市場の流動性を厚くすることによって、日銀としてもオペの活用で債券市場を落ち着かせていく、という意図があるのか。

【答】

市場を広くし、流動性を高めるということは、売ったり買ったりすることが自由にできるということである。今まであまり国債運用が一般に行われてこなかった訳だが、リスクのない、最も信頼できる、政府の出している債券であるから、そういうものが海外からもずいぶん買われ、同時に、民間の社債や株式のほか国債がもっと一般の国民の投資の対象になっていく、資産運用の対象になっていくように図っていきたい。

細かいことは色々な面であるのだが、税制その他でも随分、ここ1年で変わってきた訳であるし、ビッグバンによって海外からも自由に入って来られるようになっているし、税制の面でも、特に非居住者については便利になってきている訳で、そういった内外からの国債への投資を、流動化しあるいは市場を大きくしていくということは、今、私どもにとって非常に大事な、urgentな課題であると申し上げたつもりである。具体的なこと、細かいことは色々あるけれども、一つ一つ解決し、流動性を高めていく、市場を身近なものにしていくことが必要であると思っている。

【問】

この国債の問題で、政府は今年の初め頃から日銀に対して買い切りオペ増額の圧力をかけていた訳であるが、「債券市場の流動性を向上させることによってそうした圧力を弱めるという意図もあるのではないか」といった見方に対してはどのようにお考えか。

【答】

そのために言っている訳ではない。一般に、国債は増額されていくし、もっと色々な人が投資していってよい債券である。今までお金が余れば銀行に預ける、あるいは信託銀行に預けるといったようなことで、単純な資産の運用をしてきたと思うのだが、一人当たり国民所得が非常に高い訳であるし、貯蓄の残高は世界的にも高い水準にある訳であるから、そういう国民の金融資産というものの運用の仕方がもう少し変わっていっても良いのではないか。G7などで比較しても、我が国の国債市場は非常に小さいし、あまり使われていないということ、──かなり日本銀行に依存しすぎているという面があったこと──は確かだと思う。そういうことを最近調べてもらって、『日本の国債市場の機能向上に向けて』という論文が日銀のホームページに出ている。それと同時に、G7諸国における国債市場についても調査ができているから、そういうことをなるべく早くみなさんに分かって頂くように広めていきたいと考えている。

【問】

1~3月のGDPが1.9%成長ということで、政府の目標である今年度0.5%成長も固いのではないかという見方も随分出ている一方で、4~6月期にその反動が出てマイナスになるという見方もあるが、総裁ご自身の今年度の経済成長率に対する所見を伺いたい。

【答】

数字で幾らというようなことを言う立場にもないし、そういう資料も持っていないが、金融・財政面での手が打たれて景気が下げ止まっている訳であるから、この間に──まだ多少補正(予算)が出てくるのかもしれないが、──民間の経済というものを活性化していく(ことが必要である。)今、産業競争力会議で政府と財界、学者の方々で議論が進んでいるが、ああいった方策がやはり日本はかなり遅れている訳である。雇用面でもそうだし、それから新しいベンチャーキャピタル、あるいはその他の新しい仕事をしていくことについての色々な規制がまだ残っていて、そういうものが邪魔になって新しい会社ができたり、設備投資が進んだりということが止まっていたというのがこれまでの現状である。その必要性を皆が感じ始めて、構造改革というのがまず大事で、バブルの遺産である過剰設備、過剰雇用、過剰債務というものを早くなくして、新しい需要に見合った競争力のある生産なりサービス業なりを作っていかなければいけないということを皆が感じ始めて、動き始めたのがここ数か月の動きである。

そういうものが早く決まっていけばいくほど、動き出せば動き出すほど、GDPは増えていくのが自然の流れだと思うし、そのことを切に願っている。それが成功すればおそらく2年続いたマイナス成長というものはこの辺で止まって、年度としてはプラスになっていくのではないかというふうに思う。

ただ先がまだ読み切れないから、現状維持の金融政策をとっているという私どもの考え方も、今のような線でもう少しはっきりした動きがみえてくれば、それは先行きに対する明るい材料になってくるし、デフレ懸念がそこから消えていくということが言えようかと思う。"Creative Destruction"──創造的な破壊──をやっていかない限り資本主義は成り立たないということをシュンペーターが言っているが、そういったイノベーションというのが構造改革を成功させている訳であるから、それがどの程度進んで動き出しているのか、その辺を非常に関心を持ってみている訳である。

先程も申し上げた7月(公表)の(6月)短観などもそういった動きが芽生えてきているようであれば、先行き新しい明るい見通しを持っていけるのではないかというふうに思っている。

【問】

一時期GDPの発表を受けて、債券市場などで期待先行で金利が上がるような状況が出ていたと思うが、そういった実体経済を先読みするような景気回復を織り込んだ形で金利が上昇することに対して、日銀はどう対応していくのか。

【答】

金利を下げることによって資金の供給を潤沢に行っていくということを昨年の暮れあたりから、特に今年の2月になってオーバーナイト物コールの金利を最低限にもっていく、いわゆるゼロ金利というのが動き出した訳である。その結果、金利はオーバーナイト物から段々長い中期のターム物に移っていき、あるいは長期物の金利も下がってくる、それから債券などでも価格が上がって金利が下がっていく、国債についても金利が一時2.5%位していたのが1.5%位のところまで下がってきている。

これはやはり私どもの方から潤沢に出している資金が色々な市場に、短いものから段々長いものに、あるいは債券市場などにまで浸透していって、これから銀行がどの程度これを使って貸出をしていくか、あるいは借入の需要が起こっていくかということがこれからの最大の課題ではないかというふうに思っている訳で、今の段階はまだ(金利を)上げることは考えていないから、潤沢に資金を供給してデフレ懸念がなくなるまでそれを続けていくというのが今の私どもの方針である。

【問】

先程総裁が述べられたように、年金生活者といった方々のゼロ金利に伴う収入の減少などといった、ゼロ金利政策の副作用というのが出てきていると思うが、一方で、景気の明るさもややみえてきた中で金融政策のタイムラグを考えると、反転の方向も同時に考えていく必要があるのではないか。

【答】

確かに年金生活者等一般の中・高年の方々には、金融資産の運用先がなくて──運用利回りが低くて──非常に困ってこられるということは私どもも十分分かっている。しかし、やはり雇用所得というか、企業の業績が良くなって雇用も増え所得水準も上がっていくということになっていかないと、所得が全体として増えていかない訳であるから、そこのところを年金生活者等には本当にご苦労を十分承知の上で我慢して頂いている訳である。

なるべく早い時期に運用利益などが上がっていくことは望ましいことであるが、やはり景気を良くしていくということを先に実現していかないと、そちらの方だけが先行するという訳にはいかないので、ここのところを今政府が一生懸命、新しい企業・産業を興し、あるいは競争力をつける、あるいは労働の流動性をつけて雇用を増やしていくというようなことを検討し、実施し始めている訳である。この辺は大分これが一番今大事なことだということが認められてきている訳であるから、もう少し我慢して頂きたいというのが実情である。

【問】

総裁が言う「デフレ懸念」には資産デフレも念頭に置かれているのか。

【答】

私どもでは、物価が下がって、その下がっていく物価が景気をさらに悪くしていくということを懸念している訳である。新しい日銀法では、はっきりと、「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」との基本理念が述べられている。私どもに与えられた課題というのは、物価を安定させるということであって、デフレも勿論困るし、物価が上がっていくのも困る訳で、安定した物価を保ちながら、国民経済が発展していくということを課題としている訳である。

【問】

現在の景気が不調な要因のひとつとして資産価値の下落があると思われるが、その辺は金融政策においては考慮しないということか。

【答】

金融資産といっても色々あるであろうが、それは個々の方々が、状況をみながら自らの責任で選択をして資産の運用をしていくという時代であるので、その辺はかなり変わりつつあるのではないかとみている。また、そう変わっていけるように、私どもも、色々な市場を、特に証券・債券の市場、国際的な短期金融市場を創っていく必要があると思っている。それが円の国際化にも繋がっていくし、内外との資金の交流が盛んになっていくということかと思う。

【問】

国債はかなり大きな価格変動リスクがあり、こういうものを一般国民に買ってくれと日銀総裁が言うのは違和感を感じるが、これは日銀が長期金利に対して強く関与していくという意味合いと受け止めても良いか。

また、総裁は、7月に発表される短観に注目していると2回発言されたが、短観が良ければ、デフレ懸念の払拭が展望できるような状況になり得ると考えて良いのか。

【答】

長期金利については、やはり今、国債がこれだけ出ており、まだ増加していこうということであるので、今出ている国債をできることなら内外の民間で消化するというか、投資の対象として買われていくことが最も望ましい。それと、いつでも売ったり買ったりできる市場ができていくことが大切だというのを申し上げた訳で、何も長期金利をどうこうするということではない。

それから短観は、1つの民間企業の動きを知る資料として、この時点で非常に関心があるということである。その他にも、色々な資料──物価もそうだし、日本銀行では調統局で色々な資料を作っている──そういうものをみながら、デフレ懸念の払拭が展望できるような状況かどうかを判断していきたいと思う。

【問】

為替について伺いたい。今週の月曜日に円売り、ドル買い介入に踏み切ったようで、断続的に120円台になったが、日銀として120円/ドル割れというレベルは容認できないのか。また、この方向に為替相場が動いたら同じような措置をとるのか。

【答】

円相場の水準については、勿論私どもも関心を持っているけれども、私の立場からコメントすることは差し控えたいと思う。ただ一般論として申し上げるならば、為替相場は、経済のファンダメンタルズを反映して、安定的に推移するということが望ましいことであるから、そういう意味で今の動きについても、安定して動いていくことを願っている次第である。

【問】

100億ドル近く介入したという見方もあるが、そのまま円売り資金を放置すれば、金融緩和効果が倍加される「非不胎化」ということになると思うが、「非不胎化」というような形で金融緩和を倍加させるという考えはないのか。

もう1点は、力ずくの為替介入ということは過去の例をみていると、反動が出るという惧れも強いと思うが、その辺りの懸念はないか。

【答】

為替の介入については、日本銀行としては、これを金融調節の手段として使うという考えは全く持っていない。今回の場合も、ドル買いのため出ていった円は、それにほぼ匹敵するものが引揚げられている。それは日本銀行の色々なオペの玉を使って吸い上げている訳である。

それから反動が起こりはしないかということだが、それは為替市場のことだから、ちょっと何とも申しかねる。しかし為替市場というものは国際的に非常に大きな市場だから、行き過ぎれば、かなり一方的に動くことはあるだろうが、しばらく経てば、戻るべき所に戻ってくるというのが、──私は長年為替を日本銀行の中でもみてきたが──長年の結論である。そういうもののきっかけとして、介入はあったりする訳だろうが、為替市場というのは、やはり安定的にファンダメンタルズを反映した相場が続いていくというのが理想だというふうに思っている。

【問】

ペイオフについてだが、第二地銀の破綻が続いたこともあって、ペイオフを凍結すべきではないかといった議論が色々な角度からされている。総裁は、これまで「現段階で安易に凍結などを論ずるべきではない」という考えを述べられた思うが、そのことに変わりはないか。また変わりがないとすれば、どういう観点からそういうふうに思われるのか。

【答】

ペイオフというのは、2001年3月までという極めて緊急の事態の中で、前内閣がお決めになったことだが、これを延ばすのは私はやはり良くないと思っている。

預金者にとっても金融機関にとっても、この残された一年半強の間に、それぞれのとるべき措置をとり、預金者の立場から言えば、今の銀行で良ければいいし、そうでなければ色々ここへきて(銀行の)資産の公開とかが、随分進んできている訳であるから、そういうもので預金者の方としても、自分の持っている資金をどうやって運用していくかということを考えていく時期だと思っている。

ただこの前も申し上げたように、2001年4月以降ペイオフが解除になった後に、何らかのセーフティーネットが必要ではなかろうかということは、私は今もそう思っているし、そういう方向で、検討が始められている。

やはりこれを単純に延ばしていくというのは、預金者にとってもそうであるし、金融機関にとっても、モラルハザードというか、改革をしよう、あるいは新しい資産運用をしていこうというふうに考えている銀行、預金者にとって、この2001年3月を更に延ばすということは、やらない方が良いと思っている。これを延ばせば延ばすだけ先延ばしになる訳だから、せっかく構造改革をやり、金融機関も家計も変わろうとしている時期だから、決めたことを決めた時期に実行していくということが望ましいのではないかというふうに思っている。

【問】

介入の入った14日だが、大蔵省の方から何らかの連絡はあったか。

【答】

それは実際に実行するのは日本銀行でやっている訳だから、担当の方へ話があったはずである。

【問】

総裁の方には何かあったか。

【答】

私は政策決定会合をやっていた。

【問】

会合の場には何かそういう話題は出なかったか。

【答】

特に出なかった。

以上