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総裁定例記者会見要旨 (9月13日)

1999年 9月14日
日本銀行

―平成11年 9月13日(火)
午後 3時から約35分

【問】

先週発表された第2四半期のGDPは2期連続プラスで、やや明るさが見えてきたとの見方もある。しかし、日銀は本日発表された金融経済月報でも、「民間需要の自立的な回復の動きがみられない」、あるいは「デフレ懸念が残る」との依然慎重な見方をしている。日銀の景気の現状認識および先行きの見通しを伺いたい。

【答】

本日公表の金融経済月報でお示ししたとおり、景気の現状に関する日本銀行の判断は、「下げ止まりの状況が続く中で、輸出、生産等の一部に明るい動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられない」というものである。

主な項目を申し上げると、設備投資が減少傾向を続けており、個人消費は全体として依然回復感に乏しい状態にある。また、住宅投資は頭打ちとなっている。一方、公共投資が増加しており、輸出は、米国、アジア向けを中心に増加に転じている。こういう最終需要の動向や在庫調整の進捗を背景にして、生産は増加に転じつつある。

しかしながら、設備・雇用の過剰感が根強く、企業収益はなお低水準にある。家計の雇用・所得環境も引き続き悪化している。また、企業のリストラの動きが、短期的には、設備投資や家計支出にもマイナスの影響を及ぼすと考えられる。さらに、最近、円為替が強くなっている状況を踏まえると、為替相場の動向やその企業収益等に与える影響を良く見極めていく必要がある。これらの点を踏まえると、民間需要の速やかな自律的回復は、依然として期待しにくい状況にある。

また、物価の点については、これまでの輸入物価上昇を反映した国内商品市況の下げ止まりなどを背景にして、当面は、概ね横這いで推移していくものとみられる。しかし、只今申し述べたような実体経済の見通しを踏まえると、物価に対する潜在的な低下圧力は、引き続き残存しているのではないかと思われる。

したがって、現時点では、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」には、依然至っていないと判断している。先日の金融政策決定会合では、こうした判断を踏まえ、当面の金融市場調節方針について、現状維持とすることを決定した次第である。

【問】

今、お話にあった為替動向についてであるが、為替相場は現在110円を割って108円台前後で動いている。現在の為替水準が企業収益に与える影響、あるいは輸入物価に与える影響について総裁ご自身はどの様に捉えておられるか。

【答】

為替相場の動向をみると、7月中旬以降円為替が強くなって、その動きが進んできている。最近では相場の変動はやや急激なものとなって、108円台といったところまで来ている訳であるが、為替相場の変動というのは、行き過ぎれば景気や物価に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。かねて申しているとおり、日本銀行としては、為替相場については、経済のファンダメンタルズに応じて安定的に推移することが望ましいと考えている。今後の相場動向やその経済への影響については、十分注意して参りたいと思っている。

【問】

今後の動向を見極めたいということであるが、現在の水準が企業の収益に悪影響を与えるとの見方が一部にある。これは短期的にそうなのか、あるいは更に円高がどんどん進むとそのような状況になるのか、その辺はどちらだとお考えか。

【答】

ドル建でやっている輸出業界、あるいは輸出産業は、先物でヘッジしていない限り、円が強くなればドル建換算の円の代わり金受け取りは減る訳だから、収入は減る。しかし、反面、ドル建で輸入している人達、そういう原燃料等を輸入している場合は、コストが安くなっていく訳だから、輸出業界もいずれはそういうものの影響を受けてコストが下がっていくということである。

先月も申し上げた通り、日本はこれだけ円がよく使われるようになり、ドル・ユーロ・円というふうになってきているにも拘わらず、ドル依存の比率が高い。ドイツなどはアメリカに対してですら60~70%マルク建でやっている訳だから、日本(の自国通貨建て比率)はまだ対米で15%といったような数字をみると、こういうものを変えて(いかなければいけないと思う)。為替市場というのは、24時間、絶えずどこかで動いている訳で、特にこの3つの通貨については、何か事があればすぐ動く性質のものであるから、そういうものをいちいち気にしていくよりは、そういうものを乗り越えていけるような経営—─それにはやはり円建を増やすとか、あるいはヘッジの方法を考えるとかということになっていかなくてはいけない。急激な変動については介入ということもある訳だが、そういう大きな流れを変えていくような、特定の水準に相場を持っていくということは、相手国ともよく話をしてやらないと日本だけの考え方だけでは出来ないことであるから、そういうことを日本としてもよく理解をして、業界も財界も銀行も私共も、為替というものはそういったものだということを頭に入れてやっていかなくてはならない。私も、戦後360円が決まって、ブレトンウッズで金ドル本位の下で、それを如何に守っていくか、そして70年、71年のニクソンショック、フロートになった過程も現地でみていたし、その後も相場の調整、どうやってフロートのもとで為替を安定化させていくかということを各国と話し合ったり、Code of Conduct をIMFを中心に作ったり、色々なことをやってきた。これだけ市場が大きくなって、日本の円も日本の経済も成長してきた訳だから、輸出採算というものを考えるときに、よく業界においても、今後、努力をして為替相場の変動にあまり大きく動かされないような体制にしていってもらいたいと思うし、私共としても、なるべく安定したものとしていくようにしていきたい。健全な通貨を持っている国というものは、そういうことが行われなくてはいけないと思う。

【問】

先般、第一勧銀、富士銀、興銀の3行統合が発表された。一部では、マネーセンターバンクは日本に4行あれば良いとの話もあるようだが、総裁は今後の金融再編の望ましい姿についてどう考えているか。

【答】

先般、3行の全面的な統合について合意が得られた訳だが、これは金融・情報通信技術が著しい発達を遂げ、金融機関の国際的な競争の激化等、金融を巡る環境の変化に積極的に対応していくため、3行が自主的に決断されたものであると思う。日本銀行としては、3行の思い切った経営判断を高く評価しており、こうした動きが、今後わが国金融機関の再生と発展に向けた大きな一歩にもなると考えている。これは、金融界だけではなく、他の業界にも響いていくのではないかと思っている。

また、統合に当っては、重複分野において徹底した合理化・効率化を行っていく一方、戦略的投資を積極的に進めていくとしており、これらはいずれも時宜に適ったものと考えている。日本銀行としては、関係者の努力により、今後、本構想が円滑に実現されていくことを強く期待するとともに、必要に応じてこれをサポートしていきたいと思っている。

次に、わが国金融業界の今後の再編のあり方についてのお尋ねであるが、一般論として私の考え方を申し上げれば、次のようなことになろうかと思う。すなわち、近年、規制緩和や情報通信技術の発達等を背景に金融技術革新が進展していく中で、金融業自体が非常に多様なものとなってきているように思う。そうした中で、これからの金融機関経営には、多様化する金融業務の中からどの分野に自らの比較優位を見出し、積極的に経営資源を投入していくか、また足らざる分野を如何に効率的に補っていくか、といった戦略的対応が従来以上に求められているように思う。欧米では、ここ数年来、欧州統合や金融のグローバル化への対応等を背景に、国際金融市場のダイナミズムを示すような、国境や業種を超えた大規模な金融再編が進んでいるのが現状である。マネーセンターバンクは何行がいいか、ということは私としても数字をはっきり申し上げる用意はないが、こういう流れの中で、マネーセンターバンクにしろ、インベストメント・バンクにしろ、これからのあり方を考えて時期を失せずに実行に移していくことが必要であると思っている。

金融再編は、個々の金融機関が、こうした金融環境の大きな変化に対応していく上での有力な経営上の選択肢の一つであると思う。ただ、そうした再編は、当局が強制すべきものではなく、あくまで各行の自主的な経営判断の下で、将来を見据えた経営戦略上の観点や業務の再構築等の一環として進められることが重要ではないかと考えている。まだまだ、これからいろんな変化が起こってくるであろうと思うし、今の長銀等についてもどういうふうになっていくか、私どもも非常に感心を持って見ている訳である。

【問】

昨日の民放テレビで、前の大蔵省財務官の榊原氏が、円高問題に絡めて日銀の金融政策に言及するとともに、政府の為替介入政策について日銀幹部が批判をしたと発言した。

日銀幹部が政府の介入政策について批判したというところは、榊原氏によると、榊原氏が7月に辞める前後に、日銀幹部が非公式な場でそういう話をしたということである。新日銀法の下では、為替については大蔵省に一切の権限がある訳だが、政府の為替政策について日銀幹部が批判したという事実はあるのか。

また、過度の円高を阻止するため、日銀は金融を一段と緩和すべきと榊原氏は言っているが、具体的にどういう緩和の内容かはテレビの発言では分からなかった。推測するに、今度の追加補正予算の下で数兆円の財政支出が行われる場合に、国債が増発され、それが長期金利に波及する。それが円高要因になるので、何らかの金融政策が必要ではないかということで、「国益の為に日銀は政府と一体になって財政・金融両面から対処すべきだ」と榊原氏は言っているように思われるが、この点についてはどうお考えか。

【答】

私は(前財務官が)何をおっしゃったのか聞いていないので分からない。

ただ、日本銀行としては、為替相場については経済のファンダメンタルズに応じて安定的に推移することが望ましいという考え方であり、この考え方は政府とも共有されている。そればかりでなく、為替の介入等についての考え方については、各国の中央銀行の幹部とともに全く意見が一致しているものであり、特に私が特別な意見を言っているようなことはないと考えている。

それから、金融政策を更に緩めるということは、これは為替相場を円安にする一つの要因ではあるけれども、介入を大量にかつてしたときにも不胎化方針をとっていた訳であるが、他の面で十分潤沢な資金を供給してきた。これは日銀が何故不胎化してきたのかという問いにもなろうかと思うが、先進国の中央銀行は殆ど共通に不胎化方針でやってきている。

一層潤沢な資金の供給を行うべきであるという考え方があるのかもしれないけれども、今ゼロ金利政策の下で金融機関の短期の資金需要を全て満たすような資金供給を行っている訳で、そういう状況の下では介入を不胎化しないことによって、追加的な資金を供給するといったような効果は乏しいものだと思う。言い換えれば、日本銀行は不胎化しない介入といった主張が念頭に置いている以上の潤沢な資金供給を既に実施してきているというふうにご理解頂ければと思う。この辺のところは、私自身、海外主要国の中央銀行にも十分説明して理解を得ている。

【問】

今の発言は、今回も不胎化するという意味か。先週金曜日の介入については明日決済日が来るが、明日のオペで吸収するということか。

【答】

不胎化介入を続けている訳である。資金の供給は十分他の面で行っている訳だから、通常の介入で良いと思っている。

【問】

9月8日に2000年問題に関連して、コール金利が上昇することがあったが、先般の金融政策決定会合で2000年問題に絡んで何か話は出たのか。

【答】

会合では特に出なかったが、9月9日という日が前から一つマークされていた訳で、何が起こるのかと思っていたら、やはり心配からあのような一時的な混乱──混乱と言っていいのか分からないが、金利が上昇した──が起こったりしたが、結果としては何も起こらないで、極めて平静に戻ってきている。むしろ金利はその頃よりも下がってきている訳である。

短期金融市場、債券市場の動きで、年末越え資金のレートがやや高目の水準になっているほか、債券市場では先月来、特定銘柄の玉不足についての懸念が一時的に強まっているように思うが、こういうものの背景の一つには、市場参加者が2000年問題を意識したという面があると考える。これまでのところ、金融機関や企業の年末の資金繰りについての不安感が特に高まっている訳ではないし、金融資本市場の機能が、全体として、著しく低下しているといった状況にはないように思うが、日本銀行としては、2000年問題の影響を含めて、市場の動きを十分注意深くみていく方向で進んでいる。

一般論として申し上げると、2000年問題に関する流動性対応については、基本的には各金融機関の自助努力が不可欠であるということである。日本銀行としても、市場の状況等を注意深く見守りながら、必要に応じて適切な対応を図っていく所存である。

もう一つ、金融機関の年末年始の取引自粛といったようなことであるが、2000年問題への対応を当面の最重要案件の一つと私どもも考えており、危機管理計画──いわゆるコンティンジェンシー・プラン──を作り、2000年への円滑な移行に必要な準備作業には鋭意取り組んできている。この結果、わが国金融界の2000年問題対応は、総じて順調に進んでいるというふうに思っている。年末年始の取引・決済について、取引相手の理解を得ながら、ある程度リスクの削減を図っていくことも、そうした自主的な取り組みの一環というふうに理解している。

日本銀行としては、今後とも、市場参加者や政府・関係省庁、諸団体、これらと密接に連携をしながら、2000年への移行に備えた最終的な準備作業に取り組み、2000年問題への対応に万全を期していく体制である。以上が現状である。とりわけ、決定会合でこのことを議論はしていない。

【問】

来月、都銀地銀の普通社債の発行が解禁となるが、日銀の担保としての適格性はどうなのか。現状、金融債は担保になっているが、民間金融機関の債務を担保として認めることについて、どう考えているのか。

【答】

銀行の普通社債の発行に関してのご質問であるが、銀行が発行する普通社債については、現在、日本銀行の適格社債となっていないが、こうした扱いを変更する必要があるとは考えていない。金融債が担保になっていると言う(意見がある)かもしれないが、現在、日本銀行は金融債を担保の種類のひとつとして認めている訳だが、これは長期産業資金の順便な供給を図るといった戦後復興期の政策目的を受け継いだという歴史的経緯などによるものかと思う。

個別の担保種類について、これ以上具体的にコメントすることは差し控えるが、一般論として申し上げると、日本銀行の担保のあり方については、金融機関の保有資産の変化とか、金融市場の状況を踏まえつつ、常に見直しを行っていくことが必要ではないかと考えている。

【問】

郵貯の大量満期が来年度以降予想されるが、長期金利に及ぼす影響はもちろんのこと、日銀の金融政策にとっても何らかの制約となることが懸念される。総裁はこの点についてどう考えているのか。

【答】

郵便貯金の集中満期が金融市場に与える影響については、今の段階ではまだ郵貯からの資金流出の規模が実際どれくらいになるのか、仮に多額の資金が流出した場合、それがどのような金融資産に向かっていくのかということが分かっていない。現時点では見極めは非常に難しいと思う。ただ、市場全体の資金の総量はそれによって変わる訳ではないので、金融市場に大きな影響を与えるものではないと思っている。

また、この件に関しては、政府においても、「財政投融資計画の編成に当たって一般財政投融資や郵便貯金の金融自由化対策資金への貸付を見直す等種々の方策を組み合わせて対応するなど、資金運用部の適切な運営に万全を期す」ということを先般、意志表明されているものと承知している。

いずれにしても、郵便貯金の集中満期時における金融市場の安定確保については、日本銀行も円滑な金融調節の実施という点を含め、中央銀行の立場から関心を持っているので、今後、財政当局とも連絡を密にして参りたいと考えている。

【問】

郵貯の集中満期の関連で、財投の方の資金需要が苦しくなるということで、資金運用部の保有する国債を日銀が購入するのではないかという見方があるが、その点についてはどのようにお考えか。

【答】

郵貯の集中満期は、金融市場にも密接な関係を有する問題であることは今も申し上げた通りであるが、円滑な金融調節の実施という点を含めて、日本銀行としては、関心を持って、今後財政当局とも連絡を密にして参りたいというのが現状であり、まだ何も具体的なことは考えていない。

【問】

先日、金融監督庁が、信用組合の経営安定化に絡んで1,800億円規模の資金を集めるということを発表し、そのなかに日銀の名前も挙がっていたが、これについて、総裁はどのようにみているか。

【答】

信用組合の監督事務が都道府県から国に移管されるということに当たって、その円滑化を図るための施策として、(1)信用組合の再編等を支援する機構を設置するということと、(2)国として当該機構に資金供与を行うために、12年度予算で70億円くらいの概算要求を行うということと、併せて、(3)日本銀行、各都道府県、全信組連、これらに融資を求めている訳で、こういうものを骨子とした計画が検討されていることは、概略説明を受けている。

中央銀行資金の供与ということになると、返済確実であって、かつ、一時的な資金繰りに充てるべき性格のものであって、現在承知している限りでは、本件のような構想の下で融資を行うことは全く考えていない。

以上