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武富審議委員記者会見要旨(9月14日)
1999年9月16日
日本銀行
―平成11年9月14日(火)
午後5時から40分
【問】
本日の金融経済懇談会の内容は如何であったか。
【答】
出席者の方々から頂戴した意見・テーマは大きく分けて3つあった。1つ目は景況感についてであり、全体感としては、「景気の底はみえているが上に上がっていく力は強くない」ということであった。ただ景況感には出席者の方々の間でも若干のニュアンスの違いがあり、先ほど申し上げたような全体感の中で、地場企業の方々が色々な意味での構造変化の渦中におられ、環境をかなり厳しく受け止められているという印象であった。
2つ目は金融に関する話題であるが、県全体としては一頃に比べ資金繰りや倒産の問題が改善しており、いわゆる後ろ向きの資金需要も落着いてきているということであった。ただ、業種または企業によっては、先行きについて心配しているとの声も聞かれた。例えば信用保証協会の保証付き融資に関して、今後返済時期が近づくとどうなるかとか、また金融システムの先行きについても、ペイオフ解禁後にどうなるのかという関心が県内にも高い、とのお話が聞かれた。
最後に、足許の円高についてかなり幅広く関心、どちらかと言えばご懸念を示される向きがあった。
【問】
総じて言えば、埼玉県内の景況についてはどういう状況にあると認識されたか。
【答】
県全体の印象としては、先程も申し上げた通り、「底はみえたが、上向いていく力は感じられない」ということであり、マクロレベルでの私どもの景気認識と概ね似ていると思う。ただ−−平均値としてマクロ的にみる場合と、今日のような個別の産業に従事しておられる方と近しく接した場合とでは、受ける印象に差が出るということかもしれないが−−個人的には当地の方々の方が先行きについて少し慎重にみられているように感じた。
【問】
昨今の円高が金融政策にどのような影響を与えるか、金融政策と為替相場の関係についての考え方如何。
【答】
このところの為替の動きは少し円高方向に急激に動いているという印象を持っている。産業界の方々がおっしゃるとおり、短期間で円高に振れると企業側で対応をとるだけの充分な時間がないということや、為替のようなマクロの環境の急激な変化に対しては企業努力をしても対応に限りがあるということは、我々も多々認識している。せっかく景気がある程度良い流れになっているという大変デリケートな局面で、今の急激な円高がもたらし得る潜在的な悪影響については、重大な関心を払わざるを得ない。それだけに今採っている大幅な金融緩和政策を、今後もしっかりと持続していくことが必要と思っている。
【問】
大幅な金融緩和というのは追加的な緩和、更には量に目標を置いた緩和、ということを念頭に置いているのか。
【答】
大幅な緩和と申し上げたのは、現在採っている金融緩和政策を形容して申し上げたに過ぎない。デフレ懸念の払拭が展望できる情勢になるまでは現在の政策を続けるとはっきり申し上げている訳であり、また量の面でも実質ゼロ金利政策の下で、かなりの量の−−金融市場が必要とする以上の−−流動性が潤沢に出ている。従って、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで(ゼロ金利政策を続ける)」という強いコミットと、市場が必要とする以上の流動性を供給し続けているということが、私が先ほど申し上げた大幅な金融緩和政策の中身である。何か先行きについて示唆するようなことでは、一切ない。
これは既に懇談会で申し上げたことだが、景気にとって先行き非常に大切な時期であるので、金融政策はマクロ経済全体を支え続け、そうした中で、為替がファンダメンタルズを反映するような形で安定的に推移するということ、この両者が相俟って先行きの回復への道筋をきっちりと作り上げていくことが重要である。前々から申し上げているが、このような金融と為替相場の安定というマクロの組み合わせが必須の条件と考えている。
【問】
円高に対して金利を下げる措置は有効ではないということか。
【答】
私個人としては、現在既にゼロ金利であるので、なかなかそういうことは難しいと思っている。
【問】
くどいようだが、「量的緩和をすべきだ。とくに量的緩和は円高に対して有効な政策である」という指摘もあるが、この点如何。
【答】
先ほども申し上げたように、今行っている金融政策によって、量的にも既に潤沢に資金を供給しており、緩和スタンスは非常にはっきりしている訳なので、そのことが為替市場にもきちっとした効果を持つであろうと期待している。
量的緩和については、何を念頭に置いて質問されているのかよく分らないが、とにかく量的な目標を設定すれば、円高に対する歯止めとして、より効果があるのではないかという議論は如何なものか。今の金融政策により、量的にも緩和した状況で対応していくということで、取り敢えずは良いのではないかと思う。
【問】
堺屋経企庁長官が、本日の定例記者会見において、「今後打ち出す経済対策の中には、金融政策も含まれる」という趣旨の発言をされたと聞いているが、日銀の独立性の観点からこうした発言があったことに対してどう思われるか。また、それとは別として、今後金融政策がどうあるべきとお考えか。
【答】
私自身、長官が具体的にどのような発言をされたのか承知していないので、独立性の観点からというご質問についてはコメントを差し控えたい。また、金融政策のあり方という点については、繰り返しになるが、現在の金融政策は、「デフレ懸念が払拭されるまで(ゼロ金利政策を続ける)」という強いコミットをしており、また、市場が必要とする以上の大幅な流動性を供給している、すなわち既に物価や量的目標をターゲットとした政策と機能的にはかなり近い姿になっている、ということだと思う。数値目標を設定した方が分かり易いというのは人間の心理なのかも知れないが、結局は、刻々の金融政策をどのように行うかということは、仮に目標があってもなくても、先行きの情勢をよく考えて、いろいろなことを総合して見ていくということだと思う。形式でなく実質を見て頂きたい。
【問】
先ほど、「既に必要とされている以上の流動性を供給し、十分な金融緩和を行っている。そのうえでそれが為替にも効果を持つことを期待する」と言われたが、2月12日にゼロ金利政策に踏み切って、一旦は円高は止まったが、ここにきて再び105円水準まで円高が進んでいる。我々には、これまでの金融緩和効果が為替に与える影響は出尽くしたのではないか、と感じられる。仮に、これ以上の円高が進んでも、金融政策面では、これ以上やれることはないのか。また、2月12日にゼロ金利政策に踏み切った時は、先行き円高や長期金利の上昇が、デフレ懸念を強めるという理由のもとに政策変更を行ったと思うが、一段とデフレ懸念が強まった場合には、金融政策としてやれることはないのか。
【答】
相場が一方向に動くと、そのこと自体が実体経済その他にどのような影響を及ぼすかといった期待によりまた相場が反転するということもありうる。只今のご質問には、先行きの相場についてある一方向へのみ動くとの見込みが相当入っているように思われるが、まだ実際にはそのような事態までには至っていないので、今後よく様子を見ていく必要があるということだと思う。基本的には、為替円高により万が一にも実体経済に悪影響が出ないように、今行っている金融政策で支えていくというスタンス自体は変わっていない。
【問】
懇談の席上、当県の景気の先行き見通しについて何か議論となるようなことはなかったか。
【答】
出席者の方々からいろいろご意見を伺ったが、経営環境に対する認識が厳しい方とそうでない方とで、多少ニュアンスに差があったようには思われたが、大勢としては、そう食い違っているということはなかった。先ほども申し上げたように、厳しめの環境認識というのは、景気の足許の流れというよりも、構造的要因から来る部分に由来しているものでもあるとの印象を受けた。
【問】
米国、中国を含めた海外の経済の状況とそれがわが国の景気に与える影響をどうみているか。
【答】
まずアジアについては、一頃の厳しい状況から脱しつつあって、国によって多少の差はあるが、概ね回復の度合いを強めてきているというふうに思う。従って、アジア地域との日本の貿易取引も、拡大の途に進む方向付けは出来つつあると期待している。
アメリカについては、色々な議論があるとは思うが、今の段階では比較的堅調であって、一部に懸念されているようなバブル的な問題は表面化しないで済んでいるように思う。
従って、海外環境は−−もちろん潜在的なリスクがないわけではないが−−、今の段階としてはまずまず良いのではないかと思う。だから日本もここで踏ん張って、そういう中で世界経済にも貢献していけるように、それを妨げるような行き過ぎた市場の動きがあるとすれば、それに対しては強い懸念を持つということであろう。
【問】
日本銀行の金融経済月報をみると、アメリカの経済については株高に支えられている面が少なくないと指摘している。(アメリカの経済は)今のところ良いという話であったが、アメリカ経済の好調が株高による部分が大きいとすれば、いずれは崩壊するというのが一般的な見方であると思うが如何か。
【答】
あまり先行きのことについては断定的に申し上げられないが、先ほど申し上げたように潜在リスクについても認識はしている。アメリカ経済は、90年代前半から、規制緩和と情報技術革新が両輪となって良い循環を始めてきていて、測り方にもよるが、生産性の向上もみられるという、大変ポジティブな面が片一方にある。他方、株価についてはリスクを指摘する向きもある。好循環で回っているところのどこか一角が崩れれば、多少の調整は必要となるだろうが、政策的にも早めに色々な対応を取っているようであるし、ソフトランディングの可能性は十分にあると思う。
【問】
挨拶の中で、「為替の状況をみると、景気に対して十分に緩和された金融と安定した為替相場という組み合わせが大切だ」と言われたが、これは要するに通貨政策と金融政策の関係について、ポリシーミックスという考え方について述べたものなのか、また、為替政策と金融政策の関連性についてこれまで決定会合等で議論されたことはあるか。
【答】
決定会合での議論の内容についてはつまびらかにできないのでコメントを差し控えたい。挨拶の中でお話したのは、ポリシーミックスということよりも、自然に考えて、景気の展開に未だはっきりしないところが残っている段階では、一般論として言えば、マクロ的にそれを支えるのは金融であるということと、そうした中で、日本経済にとって特に影響の大きい為替相場については、ファンダメンタルズを反映する範囲内という意味で安定的であることが望ましい、ということである。ポリシーミックスというよりも環境の整備という意味だ。大切なことは、金融緩和と安定した為替相場という環境を整えるということ、その中で企業等のプレーヤーが伸び伸びと前に進んでいくことができる環境を十分整えましょう、という意味である。
【問】
懇談会の冒頭挨拶では、景気が好循環に入る可能性について言及しているが、現時点では円高等による下振れリスクよりは好循環に入る可能性が高いということか。
【答】
今それが混在し始めたというところだと思う。好循環の素地はあると思うが、もし急激な円高があると、生まれつつある循環の道筋を邪魔するかもしれないので、この局面での行き過ぎた円高というのは好ましくないという認識だ。
【問】
今の話では急激な円高は好ましくないということであるが、最初に言われたとおり現在少し急激に円高の方向に動いているということであるから、必然的に介入するしかないということか。
【答】
それほど短兵急な話ではないが、介入については、コメントを差し控えたい。
【問】
物価についてであるが、5月以降原油高により物価の下げ止まりという現象が続いているが、例えば企業収益に与える影響という意味でどのように認識しているか。
【答】
原油高は、交易条件が悪化するという意味で、他の条件が等しければ確かに企業収益の圧迫要因にはなる。ただ、デフレ懸念が強い中では、そういう原材料費の上昇が経済全体、物価全体へ波及することによりデフレ色がだんだん薄まっていくというようなプラス面もある訳で、なかなか従来のような単純な理解はしにくい。
なお、急激な為替の変動は、実体経済に対してと同様、せっかく横這いで落ち着いている物価に対しても波乱的な要因になるという点で望ましくない、というのが私の感想である。つまり実体経済だけでなく物価についても、為替が急激に変動すると大幅な振れに繋がるため、その大幅な振れからマインドの問題とか収益の問題とかが発生し、経済全体に悪い影響が出ること、これは是非避けたいということである。
以上