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政策委員会議長記者会見要旨(9月21日)

1999年 9月22日
日本銀行

―平成11年 9月21日(火)
午後 6時30分から約45分間

I.冒頭説明

先ほど発表した「当面の金融政策運営に関する考え方」をご覧頂いたと思うので、大体分かって頂いたと思うが、本日の金融政策決定会合において、これまでのゼロ金利政策を継続することを決定した訳である。これは現状維持であるから、特にこういう会合をする必要はないと思うが、──1ヶ月後に今日の討議の内容は議事要旨でご覧頂ければ分かると思う──今回、こういう金融政策のあり方そのものを巡って、内外からあれ程──皆様方も書いて下さった訳だが、──書かれて、関心が集まっていると考えざるを得ない訳であるので、特別にこうした場を設け、当面の金融政策運営について、考え方をご説明させて頂くこととした次第である。

詳しくは、「当面の金融政策運営に関する考え方」という公表文のとおりであるが、改めてポイントだけを申し上げる。

一つは、日本銀行は、ゼロ金利政策のもとで金融市場に対して資金を十分潤沢に供給しているということ。

それから第二に、そこにさらに追加的な資金を十分供給しても、もはや今以上の金融緩和効果は期待できないということ。仮に市場心理面への効果があるとしても、そうした効果は永続きするものではなく、中央銀行としては、その目的と政策効果についてきちんと説明できない政策をとることはできないと思う。

三つ目は、最近の為替相場の変動は急激であり、その企業収益に与える影響等が懸念される。景気の先行きにどのような影響を与えるか、慎重にみていく必要があると思う。現在は、様々な政策効果の発現やアジア経済の回復などのプラス要因とあわせて、全体としての影響を見極めていくべき段階にあると思う。

四つ目は、介入の不胎化を巡る議論についてであるが、様々な資金の流れをすべて勘案したうえで、全体としてどれだけ潤沢な資金が供給されているかが重要なことだと思う。この点、日本銀行は、豊富で弾力的な資金供給を行ってきており、こうした資金供給姿勢は、現在の政府の為替政策とも整合するものと考えている。

最後に五つ目は、日本銀行としては、引き続き「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで」現在のゼロ金利政策を維持していくという考えであるということである。

II.質疑応答

【問】

これまで日銀は量的緩和を求める外部からの声に対して、金融政策は金利を指標とすべきだということを主張してきた。今回配られたペーパーを読むと、日銀は既に潤沢な資金を市場に供給しているということを強調しており、読み方によっては、既に量的緩和を十分にやっているというふうにも読めるが、その辺説明の仕方が変わったのかどうか。

【答】

金利と量とがコインの裏表ということは、この席でも何度か説明させて頂いているが、金利については、いわゆるゼロ金利と言われるまで短期のコールレートを下げている訳で、そのことは量を出せるだけ出すということとつながっている訳である。

これだけ資金が潤沢に出ていて、私どもの方に積んでいる資金を見ても、或いはオペをやって、札割れが起こったりしているというようなことを見ても、言ってみれば、だぶだぶ、じゃぶじゃぶというか金が出ているということは明らかであると思う。そういう意味で、これ以上量を出していくということにどれだけの意味があるのか、或いはまた効果があるのかという気がする訳である。

そういう意味では、引き続き、量と金利というのは、裏表で同じものだという考え方は変わっていない。我々は、むしろ金利を中心にして操作をしてきた。量と言っても、何をどうやってコントロールするのか、或いは何が目標になるのか非常に難しい。金利であれば、そこのところがはっきりしている。そういうことで、金利で操作をしてきている訳である。

【問】

今後もゼロ金利政策を継続していくという考え方は分かったが、実際の日々のオペレーションについて、何か新しい手法を採用するとか方法を改めるという考えはあるか。

【答】

それはこれからの課題であるが、特に今すぐ何かを新しく始めるということはないけれども、オペの対象として、例えば短期の国債、FBといったようなものとか、その他の私どもの勘定に入っている資産を対象にしたオペを検討して下さいということは執行部に指示している。これにより、新しいオペの機能を発揮していくことが十分期待出来ると思っている。それは量を増やしていくというよりも、むしろ必要な所へ浸透させていくのに役立つというふうに考えている。

【問】

為替市場では、今回の政策決定会合の発表を受けて104円台まで円高が進んでいるが、この点についての総裁のお考え如何。総裁は金融政策と為替のコントロールを直接リンクさせることは望ましくないと考えているのか。

【答】

ちょっと現在の相場は分からないが、乱高下のように動くものに対しては、もちろん介入で乱高下を止めていった方が良いと思っている。私どもも大蔵省の指示を受けて為替の介入実務をやっている訳であるが、今後も引続き乱高下に対しては、スムージングオペレーションというか、そういう類のものは引続きやっていくことになると思う。

為替と金融をどういうふうに考えるのかということだが、為替政策と金融政策というのは必ずしも結びついている訳ではない。その点は今日の「考え方」の「為替市場と金融政策」というところにも書かれていると思うが、日本銀行は、為替相場については、経済のファンダメンタルズに応じて安定的に推移することが望ましく、相場変動が行き過ぎれば、景気や物価に悪影響を与える可能性が大きいと考えている。また、最近の円高の進行は急激であり、その企業収益に与える影響等が懸念されている。こうした為替相場に関する基本認識とか最近の円高進行に対する評価については、政府とも共有していると思っている。

日本銀行は、為替相場そのものを金融政策の目的とはしていない。金融政策運営を為替相場のコントロールということに直接結び付けて考えると、誤った政策判断につながるリスクがあることは、かつてバブル期の政策運営から得られた貴重な教訓と言ってもいいと思う。80年代にそういうことがあったと、今になって見ると指摘できる訳で、こういうことの二の舞がないようにしていく必要があると思う。金融政策運営において為替相場の影響をみないでよいということではない。日本銀行は、あくまでも、為替変動が景気や物価の先行きにどのような影響を及ぼすのかという観点から、その動向を注意深くみていくというふうに位置付けている。

【問】

今日の政策決定会合の議決の状況と具体的にどのような議論が出たかについて、もう少し詳しくお話を伺いたい。

【答】

申し訳ないが、どういう議論をしたかというのは、1ヶ月後に、いつものように議事要旨が出るので、それまでは申し上げられない点、お許しをいただきたい。

経緯については、いつもと同じような進め方であったが、主として為替相場と金融の関係等についてかなり討議を——委員の間でかなり時間をとって、フリーディスカッションをしたことは申し上げてもいいと思う。その結果、採決をして現状維持ということを賛成多数で決めた訳である。

【問】

マーケットでは、量的緩和に日銀が踏み込むのではないかという見方が織り込み済みであったと思うが、そうした中で金融政策を維持すると、その結果としてまた為替円高が進むということも予想できたと思う。そういう中、日銀が現行政策維持の判断をした結果、為替相場は104円までいっている訳だが、こういうマーケットの動きについて、どう分析をされているのか。また、政府からの出席者がおられたかと思うが、政府側からどういうふうな何か意見が出たのか。

【答】

政府からどういう意見が出たかとか何を言われたかというのは、今日ここで言う訳にはいかないので、議事要旨を公表するまでお待ち頂きたい。

量的緩和を何故やらなかったのかという質問かと思うが、量的緩和については、やるだろうやるだろうと内外の新聞や雑誌等が書いておられたが、私どもの立場から言わせてもらうと、金利を通して十分な量的緩和、資金の供給を潤沢にしている訳で、それが証拠に先程言ったように、色々なところに資金が余っているというのが現状である。そういう意味では、新たに量的な緩和をやる余地はほとんどないと言っていいと思っている。

そういう現状判断から、この際新しい手は打たない、現状維持でこれをよくウォッチしていくと同時に、為替の動きについても十分注意をしていきたい。円高になったじゃないかと言われるが、この点は、何かが出るだろうと期待していたのが出なかったことによるショックが確かにあると思うが、大きな変動に対するスムージング・オペレーションには、私どもも反対している訳ではなく、なるべく安定した為替相場が続くように政策を運営していくということが大切だと思っている。

【問】

公表された資料をみると、当面金融政策の発動は全く考えていないというようにも読めるが、円高が進み円高に伴うデフレ圧力が一段と加速した段階でもそうした姿勢を貫くのか。

【答】

先程申し上げたように、必ずしも為替政策と金融政策というのは同じものではない訳である──目的も違うし──けれども、為替が今の日本経済にとって非常に望ましくない方向に影響を与えるということであるならば、それは私どもとしても十分関心を持って、ウォッチしていかなければいけないと思っている。

金融については、先程から申し上げているように、円相場が強いから金融はいつまでも緩めていかなければいけないというようなことではないと思う。もう少し広い意味での経済の動向、内外の経済動向をみながら、金融政策というのは決めていくべきものというふうに考えている。今のところは、デフレ懸念の払拭が展望できるまで、現在のゼロ金利を続けていくというのが今の私どものポリシーである。

【問】

これまで日銀は、そうした量的緩和を否定する説明をずっとして来られたと思うが、それにもかかわらず、何故米国や政府の一部から、今回量的緩和論が浮上したのかということについて、総裁はどのように分析されているか。また、今後またこういった要求が起こらないとも限らないが、日銀が効果がないと思っていることを、米国や今回量的緩和論を主張された方に理解してもらうためには、どういうことが必要だとお考えか。

【答】

日本銀行のゼロ金利政策による資金の供給が、いかに潤沢に行われているかということをやはり説明して、理解して頂かなければいけない。これまでもあらゆる機会を通じて話したり、書いたりしてきたつもりではあるが、今日はそういうこともあったので、特別にステートメントを出し、当面の金融政策運営に関する考え方はこういうことなんだ、資金がこういうふうに潤沢にある時に量的な緩和、量的な新しい政策を何か打ち出すというようなことはしない方がいいということを補足説明させて頂いた訳で、これは英文にもして、海外にも今日送るつもりである。従って、日本銀行の政策委員会で決定されたステートメントとして読んで頂きたいというふうに思っている。私どもも、なるべくこれからも機会を捕えて、量的にいかに潤沢に資金が出ているかということや、更に量的緩和をやる必要が何故ないのかということを、もう少し説明をしていく必要があるということを感じており、今後はそういうふうに担当の事務局に指示をして参りたいと思っている。

【問】

新しいオペについて執行部に検討を指示したとのことであるが、これは近々その結論を政策委員会に出すようにという指示なのか。

【答】

これは、大体方向は、──どういうことをやっていくかということは──頭の中にある。今のオペレーションにしても、金融市場局等の事務は全部機械化されているので、やはり、コンピューター関係はかなり詰まっている。新しく出てきたことをやろうとする時には、相当な準備が要る訳で、そこにやはり優先順位というものが、──国債についても、新しい国債がどんどん出て来ているし、そういうものを全部一辺に日銀のシステム、機械化された、この今の施設と人材でやり切れるかということが──いつも障害になる。そういう意味で、そういうシステムを強化していくと同時に、優先順位をはっきり決めて、どの順番でやるか。この間のFBの市中公募などでも、機械を通すにはかなりの準備が必要だった。そういうことがあって、今年の4月まで出来なかった。決めてからでも相当時間がかかるのが現状なので、この辺がこれからのひとつの課題だと思う。

【問】

今回こういう量的緩和に対する思惑が色々出てきた一つの背景として、総裁がいつもおっしゃる「デフレ懸念の払拭が展望できるまで現状の政策を維持する」というところの「デフレ懸念が払拭できるまで」という条件が非常にわかりにくいという面があるのではないかと思う。総裁ご自身として、そこをもう少し明示的に示す、あるいは、例えば日銀は経済見通しを持っているはずだが、それを公表する、そういったことで、よりわかりやすい政策運営をするというお考えはないか。

【答】

実体経済面、物価面、金融面、内外の諸事情、そういうものを全部みたうえでの結論でないと困るわけである。金融政策というものは、特にこの数年来そういうものが大事になってきている訳で、どこのところだけがポイントであるとか、ここまで行けばいいんだということを指摘するのは、ちょっと難しいことだと思う。従って、デフレ懸念が払拭されることが展望できるまでという表現でみていきたいと思っている。

【問】

年末越え資金について、2000年問題に関係した金利上昇圧力が今後かかってくると思うが、ゼロ金利の効果を浸透させていくためにも、そうした状況に対して日銀の資金供給姿勢はどうあるべきだとお考えか。

【答】

この問題については、かねてからかなり準備が進められており、年末越え資金の金利が少し上がって行くようなことが起こるかもしれないが、十分潤沢に資金を供給する自信もあるし、万が一、何か起こった場合にも、色々な面で準備は万端整っている。市中銀行に対しても、そのための考査を行っており——これはひとつが引っかかるとバタバタと全部に引っかかってくる可能性があることであるから——そういうことも含めて十分準備を進めている。

【問】

政府やアメリカとの関係について、アメリカの方も協調介入の前提条件として量的緩和を求めるというようなことが言われてきた訳であるが、今回のこの現状維持が政府や米国に十分に理解してもらえると考えているのかどうかという点と、これまでの日銀の政策判断の歴史からすれば、ここまで政府や米国から要求が出れば、折れて判断を変えるのではないかというふうに多くの人が思っていた訳であるが、今回維持をしたということにどういう思いがあるのか、全くそういう思いがなくて論理的に考えれば、結論としてこうなったというだけなのか、政府との関係について、総裁なりの考えをお聞きしたい。

【答】

まず、アメリカの話は、これは別にアメリカがそういう条件を出しているということを私は聞いていないし、今の円高が、アメリカが関係しているというものでもないと思う。むしろ、アメリカ側は、今の円高は日本の問題であるというふうに考えていると思う。

何をやれという条件を与えられたかという点についても、カウンターパートとしてのFRBの幹部らとはBISで会ったり、あるいは電話でのやり取りがあったり、本行のニューヨーク駐在参事を通じて色んな話が伝えたり、伝わったりしている訳である。その点、アメリカから条件がついたということは、私は聞いていない。むしろ、アメリカは、日本には十分に関心を持っているとは思うが、何をやれというようなことを指示を受けた記憶はない。ただ、今度G7の時に、FRBや、場合によっては財務長官や財務省の方々とお会いする機会があると思うし、宮澤大臣も一緒に行かれるので、ご一緒にお話したり、あるいは議論をしたりする機会は十分あると思っている。

それから、大蔵省との関係では、これは先ほども申し上げたように、為替のあり方、対策等については、この間も宮澤蔵相は、急に円高株安が進んだこともあって、非常に気にされて意見交換させて頂いたし、今後も密接に意見を交換し、話し合っていこうということになっているから、特に今、見方や考え方が違っているというふうには、私は思ってはいない。

【問】

この円高を止めるための手立てとしてどのようなものがあるのか。もしくは協調介入の考え方について、協調介入は必要なのか、必要でないのかについて伺いたい。

また、公表文には「バブル期の金融政策から得られる教訓」と書き込まれているが、これについてもう少し分かり易く説明して頂きたい。

【答】

協調介入というのは、かつて1987年ルーブル合意の後、──宮澤さんもその頃大蔵大臣をやっておられたと思うが──半年くらいそうした協調介入というものが割合スムーズにいった経験があるが、協調介入というのは二国間だけでなく、あるいはG7でやるとかという話になってくると、これはなかなか相手があることである。こちらが円の相場が強すぎるため円を売ってドルを買うということになると、ドルの方が強くなる。ドルが強くなることが──サマーズ(米国財務長官)もドルが強くなることは国益に反しないとおっしゃっているが、私どもの方からみていると、やはり貿易の大きな赤字や経常収支の大きな赤字がある、そういう中で他国がドルを買ってドルが強くなっていくということが、──彼らの経済にとってプラスであるのかという疑念も出てくるし、そういうことはやはりよく話し合って、両国間で合意が出来て初めて出来ることである。その時その時で合意をしてやるというやり方もあるであろうし、もう少し昔やっていたように、関係国数か国で、──ヨーロッパの方はユーロということになってくるだろうが、──7か国なら7か国で話し合うというようなことも、それは可能性としてはあると思うが、なかなか難しいことだと思う。

もう一つのバブルの話については、87年のルーブル合意などの後で、日本銀行は当時──87年2月だったと思うが、──公定歩合を引き下げて2.5%という当時で一番低い水準にした。その頃からそろそろ景気がぐっと上がり気味で、バブルの走りであったと思うが、本当なら金利を早目に引き上げていくべきものであったのかもしれない。それが為替が円高であるということで、財界その他政治家からもおそらく色々な圧力があったのであろう。そういうことがあって、89年の5月まで金利の引き上げが延びた──延びたというか89年の5月になって3.25%に引き上げている。これは後から考えてみるともう少し早く引き上げていれば、バブルをもう少し早い時期に抑えられたかもしれないといったようなことから、為替にだけとらわれていると金融政策を誤る可能性もあるということを、この時の教訓で日本銀行は今でも心に残っている訳である。そういうことが一つの例として申し上げられると思う。

【問】

繰り返しになるが、バブルの時には政府や経済界からの圧力があったから金利を引き上げるのが遅かったというお話をされたが、今回は圧力があったにも拘らず、政策を変えなかったというのは、日銀が変わったのか。今度の判断について、独立性についての議論などがあったのか、なかったのか、お伺いしたい。

【答】

そんなに強い圧力があったとは思わないが、量的緩和をやったらどうだという声が随分内外に出ていたことは、私どもも十分知っている。しかしながら、私ども金融政策(をあずかる者)の立場で考えてみると、今ここでこれ以上量的な緩和をしていく必要性があるのか、そしてまたその適当な方法があるのかということになると、無理してやることはないというのが今日の結論であったと思う。現状維持で、もう少し様子をみようということである。ただ、為替の方はあまり乱高下があるのであれば、これは当然大蔵省も介入に出られるかもしれないし、その辺のところは別の問題だと思う。

以上