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政策委員会議長記者会見要旨(10月13日)

1999年10月14日
日本銀行

―平成11年10月13日(水)
午後 7時30分から約40分間

I.冒頭説明

最初に私から、本日の決定の内容や考え方について、簡単にご説明したい。

まず、日本経済の現状については、「景気は下げ止まっており、足許、輸出や生産面には持ち直しの動きがみられる。しかし、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」と判断した。

詳細については、明後日公表の「金融経済月報」をご覧頂きたいが、若干付け加えると、足許では、輸出や生産の増加、企業の業況感の改善など、前月に比べ、若干明るい材料が増えているように思う。しかし、先行きの民間需要の回復力については、最近の急激な円高の進行が企業収益などに与える影響も含め、なお慎重に見守るべき段階にあると考えられる。

また、金融面では、年末要因や2000年問題に伴う資金需要の変動が予想される中で、金融市場の安定性を確保することの重要性が、従来以上に強まっている。

このような経済情勢や市場動向を踏まえると、現在、金融政策運営面で取り組むべきもっとも重要な課題は、ゼロ金利政策という思い切った政策を継続しつつ、その金融緩和効果の一層の浸透に努めていくことである、との結論に至った。

こうした考え方に基づき、本日、お手許の資料にお示ししたとおり、次のような3種類の措置を講ずることとした。

まず第1に、ゼロ金利政策の継続という方針をより明確にする金融市場調節方針を採用した。

従来の調節方針には、「徐々に低下を促す」といった、ゼロ金利政策を採用した当初の段階的な誘導方針が残っていた。しかし現在、オーバーナイト金利は既に実質ゼロまで低下しており、この間、市場には大きな混乱は生じていない。このため、現在では、只今申し上げたような経済情勢や市場動向の下で、いかに豊富かつ弾力的に資金を供給し、ゼロ金利を安定的に維持していくかが、重要な課題になっている。こうしたことを踏まえ、今回の調節方針を採択した。

第2に、いわゆる2000年問題への対応である。まず、金融調節面では、年末越え資金を豊富に供給するなど、2000年問題に伴う資金需要の変動にも十分配慮し、弾力的な対応を行っていく方針を決定した。また、その上で、個別金融機関の流動性問題については、日銀貸出により、適時・適切に対応していくことを明らかにした。

第3に、金融市場調節手段の機能強化措置を講じることとした。具体的には、短期国債のアウトライトオペの導入や、レポオペの対象国債の拡大、年末越え資金需要に対応した弾力的なオペの運用などである。

日本銀行としては、これらの措置を通じて、ゼロ金利政策のもつ金融緩和効果の一層の浸透に努め、日本経済の回復を確実なものとするため、引き続き、最大限の努力を払っていく方針である。

II.質疑応答

【問】

総裁はかねてから2月に決めたゼロ金利政策によって、資金は潤沢に供給されているということを繰り返し強調されてきたが、今回敢えて政策運営方針の表現を変えられた狙い、意図といったところを説明願いたい。

【答】

金融市場調節方針を変えたというか、これまでの方針には、「徐々に低下を促す」という、ゼロ金利政策を採用した当初の段階的な誘導方針が残っているかたちになっていた。しかし、現在では、オーバーナイト金利はすでに実質ゼロの水準まで低下しており、この間、市場には大きな混乱は生じていないわけである。

むしろ、当面は、年末要因とかコンピューター2000年問題などの影響から、短期の資金需要の増大が予想されるなかで、いかに豊富で弾力的な資金供給をして、ゼロ金利を安定的に維持していくか、──要するにゼロ金利政策の効果の浸透ということが、今回の措置の狙いである。

こういう情勢を踏まえて、政策委員会で討議をして、現状最も適切な調節方針だと思われるものを決め、今回のディレクティブが採択されたわけである。

【問】

確認であるが、これまでの金融政策の運営方針自体は、表現は変わっているけれども、意味としては変更はないという理解で良いか。

【答】

それは、──変わったとか変わらないとか言うのはあれであるが、──ゼロ金利ということは変わっていないわけであるから、より効果を必要な方面に浸透させるということが今最も大切なことだと思うので、弾力的に、しかも2000年問題といった何が起こるか分からない事態に備えて、いわば適時・適切な措置を準備したということである。

【問】

日銀としては、今回、「現状維持で据え置き」なのか、「方針を変えた」のか、明確にしないということか。

【答】

方針を変えたというか、先程説明したように、ゼロ金利は変えないで、むしろゼロ金利の効果を浸透させるという措置を取ったということである。

【問】

大蔵省と経企庁からそれぞれ総括政務次官が出席されたが、2人からはどのような発言があったのか。

【答】

会議の内容については、まだ申し上げるわけにはいかないので、それはお許し頂きたい。(議事)要旨の発表があるまで申し上げられないと思う。この度、新たに就任された大野大蔵政務次官と企画庁の小池政務次官がご出席下さった。小池次官は午前中で帰られ、(小峰調査)局長に代わられたが、私どもの議論を良く聞いて下さったというふうに思っている。

【問】

これまでも「当初0.15%を目指し、その後徐々に金利を引き下げる」という表現については議事要旨等を見る限り議題に上っていたし、2000年問題に関しても以前から危険性が指摘されていた。敢えてこの時期にこういった方針を打ち出したのはなぜか。

【答】

それはやはり、ここにきてゼロ金利が行き渡ってきたわけであるが、(その効果を)一層浸透させて、これから新しい内閣が起こすであろう色々な財政金融政策、特に構造改革とか、そういった景気回復のための資金をうまく潤沢に流していくということ。それと、FB、TBも市場に出回ってきているので、そういうものをオペで買って調達の道をさらに広げていく。2年物についても、かなり市場に出回っているので、そういうものをレポオペに使って、資金の供給を必要に応じてやっていくということが今回決まったわけである。

【問】

さきほど、総裁は景気認識のところで、円高の進行について触れられたが、今回表現振りを敢えて変えて、日銀の姿勢をはっきりさせたというのは、円高に対する日銀の姿勢をはっきりさせるという狙いがあったのか。それから、さきほどから総裁が言っている「一層の効果の浸透」というのは、ターム物金利などを、もっとどんどん下げていくという狙いがあるのか。「一層の効果の浸透」の具体的なイメージを教えてほしい。

【答】

これから年末にかけて市場はかなり変わってくるであろうから、そうした体勢に備えていくことが必要と思うし、特に年末越えのものまで資金が潤沢に回っていかないといけないし、万が一、2000年問題で何か思わぬことが起こった場合にも備えていかなかればならない。このようなことを、この時点で考えたわけである。

為替相場については、私どもは9/21日に発表した文書の中でも、「為替相場を考えない」といったことは書いていないはずで、私どもの状況判断のひとつの重要な要素であることは以前と同じである。

円高がこれからどうなっていくか、これは日本だけでなくて相対的なものだから、アメリカの方でドルが安くなっていって、そのこと自体が円高をもたらすということもあり得るわけで、そうした思わぬ事態が今後起こってくるかもしれない。そうしたことに備えて、よく市場をウォッチしていく、適時・適切に対策を打っていくという、政策の種というか弾(タマ)を作ったということは言えるかと思う。

【問】

短期国債のアウトライト方式のオペの導入ということは予てから言っていたと思うが、それに加えてレポオペであるとか、輪番オファー先を常時オファー先にするとか、そうした細かいところまで踏み込んでいるというのは、実際には札割れが起きたり資金供給がままならない状況を踏まえて、現行のオペでは年末越えの資金供給に対しては心許ないという認識があったのか。

【答】

充分資金を供給して、それが充分すぎるほどだと私どもは思っているわけであるけれども、短資を通じて日本銀行に戻ってきて積み上がっていくということが、多少、私どもも気にはなっていたわけで、本当に適切なところへ、必要なところへ資金が流れていくということが大事だと思う。

そういう意味から、今度のオペ──1年以内の短国を対象とした買い切りオペ──の導入や、あるいは、何か起こったときに手形のオペができるように担保を揃えてもらうといったようなことを、ここで皆さんに申し伝えて、準備を整えて頂こうということである。

【問】

短期国債の買い切りオペであるが、その総額、例えば長期国債の買い切りオペだったら月間4,000億円といったシーリングがあるかと思うが、短期国債の場合はどのような考えで臨むのか。

【答】

短期国債の買い切りオペについては、まだ、もう少し具体的な手続きを検討する必要もあるので、次回の決定会合で、おそらく具体的なことが決まると思う。これは、銀行券の動きに見合ったかたちでの月2,000億円ずつ2回という長期国債の買い切りオペとは全く性格が異なるものである。また、期日が来る前にも売ることがある。

この辺りは、今まで現先では取引をしていたけれども、買い切りということになって、もっと自由に、必要な時に買って、売る必要がある時にはこれを売って調節していく。玉(タマ)としては、最も適切な材料であるし、これが市場を大きくしていく所以ではなかろうかと私どもは期待を持っている。ビッグバンで短期の証券市場が大きくなっていくと思うが、その中で、こういったものが中心になる債券だと思う。最も信頼のできる、しかも短期のものであるだけに、流動性の高い債券であるので、そうした意味からも市場を早く大きくしていきたい、育てていきたいという気持ちを持っている。そうしたことから、今回これを買い切りで買おうということを決めたわけである。

【問】

市場などでは、運用方法によってはこの短国の買い切りオペが、隠れ輪番オペのようなものになっていくとの懸念も出ているが、そうした懸念に対してどのようにお答えになるのか。

【答<黒田理事>】

輪番オペというのは長期国債の買い切りオペのことをおしゃっているのだろうが、その点については、今、総裁からも申し上げたように、今回決めた短国のアウトライトオペは、基本的に短期の流動性を調節する手段として使っていくものであって、長い目でみて銀行券の増加額に見合った額を買い入れる考え方で行っている長期国債の買い切りオペとは、性格が異なるものとして位置づけられると考えている。

【問】

性格が異なるのは分かるが、残高をどんどん増やしていくようなやり方を、もし、やった場合には、輪番オペと同じような——もともとの狙いは違うが——そういうことになってしまうのではないかとの指摘があるが、そこら辺はしないということか。

【答】

途中で売却することもあるし、期日が来たものについて、それをまた新しく買って行くというようなことはしない。期日が来たものは償還になるわけだから。残高を幾らにするかといったことは、今のところ一切考えていない。

【問】

売り切りも含めてアウトライトオペということか、買い切りだけでなく。

【答<黒田理事>】

両方を含んだものである。

【問】

前回9月21日の会見時には、当面の方針として現状維持を決めて、今までの政策が如何に理に適ったものであるかということを説明したぺーパーまで作った。今回は一層の効果の浸透という表現で、方針を決めたら効果の浸透に努めるのは当然であるにもかかわらず、敢えてそういうことを強調する表現にした。市場や世論は、この間日銀の方針が右へ左へ揺れているのではないかといった印象を持ったようだが、現段階でこの間の経緯についてどのように総括されているのか、総裁からその考えを聞かせて頂きたい。

【答】

今までずっと現状維持ということで発表してきたわけであるが、それは確かに政策としては現状維持であるが情勢はかなり変わっている。ここで、よくこの「ゼロ金利政策」というものが——名前ばかり有名になっているが──かなりの効果を発揮して、景気の回復や企業収益等には非常に大きな——株価の上昇といったようなことも間接的に──効果を持っているということをもう少し積極的に説明をした方がいいだろうという意見が委員方の中にも出たのがひとつ。

もうひとつは、この前のG7でも日本の円高問題について、あるいは景気の回復について、あるいは不良資産の償却とか、コミュニケに書かれているように、日本の経済力が大きいだけに、また、円もかなり多く使われている——円、ユーロ、ドルが今やグローバルなエクスチェンジ・マーケットで揉み合いになって基軸通貨のひとつになりつつある──わけですから、そういうものを、円がなぜ強いのか——これは円が強いということもあるが、円が当時、独歩高という格好で強くなっていること──に対して、それぞれの立場で各国とも注目していたに違いないと思う。ひとつには日本の経済が底をついて特に株価が上がってきて、海外からの株買いが著しい勢いで流入して株高、円高をもたらしたとか、海外へ出て行く、特にアメリカヘ出ていった債券投資といったものが、アメリカの方が金利が上がり債券価格が下がる、あるいは株も安くなるといったことで、流出が止まるというかむしろ還流してきているといったような情勢が起こってきているので、いろんな立場で各国とも注目していたことは事実である。

それに対して、日本銀行がどういうふうに考えているかということを、先般、記者会見でもご説明した4つの項目──G7の日本の問題を議論する時に、こういう4つのことを中心にやって行くんだというステートメント──をG7の蔵相・中央銀行総裁の方々の前で説明したわけである。これが、皆さんそういうことなら大丈夫だ、速水の言うことは間違っていない、ということでコミュニケの文章ができたわけである。

その中に、「金融政策運営については引続き、現在のゼロ金利政策のもとで豊富で弾力的な資金供給を行ない、為替変動の影響も含めて金融経済情勢に応じて適時・適切に対応して行く方針である」ということが、3つ目にのっている。4つ目には、「ゼロ金利政策の効果浸透をより確実なものとするという観点から、調節手段の拡充についても検討していく」と申し上げたわけである。それをこの時期、こういう形で、あそこ(G7)で言ったことを実現すべく努力をしているんだということを言う時期としては非常にタイミングは良いと思ったので、市場の方は比較的落ち着いて安定しているのだが、この時期を選んでこうしたことをやったわけである。

【問】

今回の決定は、いわゆる政府・与党の金融緩和を求める圧力に、何らかの影響を受けたと考えているか。

【答】

まだ、私も何もそういう話を直接聞いていないし、与党の政策というものも新聞で拝見しただけで、金融緩和の浸透ということは確か使っておられたが、特にそれを意識してやったものではない。

【問】

どういう結果をもって金融緩和の浸透が図られたと判断するのか教えて欲しい。

【答】

金融緩和がどの程度浸透しているかという点に関して、──株価が上がったりするのもその一つだが──私どもとして、これからやはり一番注目すべきことは、企業が潤沢な低利資金を、どういうふうに使っていくかということである。これは銀行を通じて借りる場合もあるだろうし、あるいは市場を通じて投資家から資金を調達していくということもあるだろうし、色々なルートはあるにしても、今私どもが最も期待しているのは、民間の自律的な需要の回復というか、IT産業とかバイオとかこれから需要が高まることが見込まれるハイテク産業を、どういうふうに作り上げていくか、これは今本当に大事な時期ではないかと思っている。今のところは、企業収益にはゼロ金利はかなり貢献していると思う。これからも、この資金が企業のニュービジネスとか、設備投資を推進していく糧になっていけば良いと思っている。

消費者の場合にも、住宅金融とかそういったものは、やはり金利が下がればやり易いだろうし、とにかく民間需要の自律的な回復というか、今政府がやろうとしている構造改革というものができていかない限り、日本経済は今後立ち上がれない。企業の方も、先行きを見て、今やるべきかどうしようかと迷っている時期ではないかと思う。そういう時期に、低金利の資金を潤沢に出して、企業家の決断というか、イノベーションをどんどんやってもらわないと、景気の回復はあり得ないと思う。今までは公共投資と低金利で支えてきたわけで、GDPも上がってはきているが、これから自律的に民間需要がどれだけ伸びていくかということを、私どもは期待しつつ、これをやっているのだというふうにお考え頂きたい。それがどれ位進んでいくかというのは、もう少し経たないと分からないので、今の所は当面このゼロ金利を浸透させることが私どもの課題だというふうに考えている。

【問】

言葉の使い方の違いを素朴に伺うが、従来日銀は、「デフレ懸念の払拭が展望できるまで、ゼロ金利を継続する」と言っていた。今回の「ゼロ金利を継続することにより、金融緩和の浸透に努めていく」という表現は、何がどう違うのか。日銀の中におけるターミノロジーではどう整理されているのか。

【答】

デフレ懸念を払拭することが展望できるまで、ゼロ金利を続けていくということを、これまで言ってきているわけだが、その点は全然変わらない。それを早くしたいから、なるべく必要な所へ(効果を)浸透させていきたいというのが、今回のゼロ金利を上手く使っていきたいというこの手段だというふうにお考え頂きたいと思う。

以上