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総裁記者会見要旨(2月15日)

2000年 2月16日
日本銀行

―平成12年2月15日(火)
午後3時から約45分

【問】

昨年2月に現在のゼロ金利政策が決定されてから既に丸1年が経過した。当初は緊急避難的措置との位置付けであったと記憶しているが、丸1年を経過したゼロ金利政策について、総裁はどのように評価しているか。併せて、先日の支店長会議での報告を踏まえた景気の現状と先行き、並びに当面の金融政策運営スタンス如何。

【答】

ゼロ金利政策の評価については、政策委員会でも様々な議論がある。そこでの大勢の考え方を披露させて頂くと、ゼロ金利政策が金融環境の改善に大きな力を発揮していることは、間違いない。これは、企業金融の円滑化や企業・家計のコンフィデンスの回復を通じて、実体経済活動にも好影響を与えていると思う。具体的にメリットというか、良い面を4つ申し上げると、

  1. (1)金融市場での流動性懸念が払拭されたということ、
  2. (2)長期金利の安定、株価の上昇、──財政赤字が大きいと言われながらも、国債の金利は比較的低いところで止まっている、
  3. (3)金融機関や投資家のリスクテイクの積極化、──個人なども、1,300兆円の金融資産を持っているわけだが、投資信託などを通じて株買いに入っているし、金融機関も低コストの資金で前に向かって進んで行くということが起こり始めている、
  4. (4)社債・CP市場など、直接金融市場で企業が資金を調達する環境が好転してきている、──大きな流れとしては、今まで間接金融一本槍というのが、少しずつ直接金融の方へ移っていく傾向が出始めている、

こういうことが、プラスの点である。

一方で、副作用と言われる、いわゆるデメリットを3つ挙げると、

  1. (1)当初から言われていたことだが、家計の利子所得が減って、所得分配に歪みが出てきている。その他、運用益で仕事をしている財団等も、この1年間の低金利──1年といってもかなり前から低かったわけだが──を堪えているということを私どももよく耳にする。
  2. (2)市場参加者の間でのモラル・ハザードの発生──いつでも金は調達できるという意味での、やや緩んだ気持ちが起こってきていること──市場というのは本来厳しいものであるはずだが、本来のそういう性格が薄くなってくるというのは問題の一つだと思う。
  3. (3)いま一番大事な構造調整を、低金利が推進する面もあるが、一方では、金融関連で見ても少しまた財閥系が戻ってくるような動きが出たり、それから creative destruction(創造的破壊)と言われるものでも、創造する方はやるにしても、destruction などについては、なかなか思い切ってやれないと、それから不良資産を償却していく──これは金融機関も企業も同じだが──これについても、思い切ってバランスシートから落とすというようなことではなく、もう少しそのままにして持っておこうといったようなことが出てきたりする。そういう超低金利のもたらした副作用なりデメリットというものも指摘できると思う。

こういうプラス、マイナス双方の面を合わせて、経済全体との関連で評価すると、日本経済の状況は、ゼロ金利政策の効果もあって、この1年間でかなり改善してきたと言えるのではないかと思う。

そこで、現在の景気認識であるが、今朝発表された月報でご覧頂いたと思うが、景気は、足許、持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続いているし、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつあると思う。ただ、民間需要の自律的回復というはっきりした動きは、まだ依然として出てきていないということが問題点だ、と思っている。

最終需要面では、住宅投資とか公共投資とか、これらが少し小幅の減少を示しており、個人消費も、どちらかというと、安くて良いものには集中しているようだが、マクロで見ると、まだ回復感に乏しいと言わざるを得ない。一方、輸出はアジア、米欧、EUは比較的景気が良く、特にアジアは良いわけで、増加傾向を辿っている。これまで減少していた設備投資も、ようやくここへ来て下げ止まりつつあるということで、こういうことを背景にして、生産はここへ来て明らかに増加しているし、企業収益や業況感の改善も明確になってきているように思う。これら民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつあると言えるかと思う。

しかしながら、目下のところ、こうした環境の改善が、まだ積極的な企業活動にまで発展していないというところが問題ではなかろうか、と思う。先行き、設備投資あるいは個人消費といった民間需要が、自律的回復に向かって行くかどうかという点は、更にもう少し慎重に見極めなければならないと思っている。今回の支店長会議でも、各地から、情報関連など成長性が高い分野で、投資活動が積極化しつつあるという動きについての報告もあったが、これらは、まだやはり一部の動きに止まっているという報告が多かったように思う。

一方、物価の方は、当面横這いで推移しているが、今申し上げた経済の先行きの展望を踏まえると、需給要因に由来する潜在的な低下圧力というものについては、引続き留意していく必要があると思う。

こういうことで、先週の金融政策決定会合では、以上のような情勢判断をもとにして、ゼロ金利政策を継続していくということを決定した次第である。

【問】

自民党金融問題調査会では、インフレターゲットを検討する勉強会を立ち上げたが、日銀はインフレターゲットを導入することについて、どのようなスタンスにあるか。また、日銀として金問調での議論にどのように関わっていくつもりか。

【答】

この問題については、政策委員会でも、また日銀の事務局でも随分議論していることだと思う。一般に、「インフレ・ターゲティング」と呼ばれているものの中には、大きく分けて2つの考え方があるように思う。

まず一つは、やや高めのインフレ率の目標を設定し、その範囲内ならば、短期的な実現のために、あらゆる手段を総動員してでも景気を良くしていくといった発想である。これは、いわゆる「調整インフレ論」であり、この考え方は採り得ないものである。

もう一つは、中央銀行として、物価安定に向けた強い決意を示すという意味で、政策運営の透明性を高める方法としてのインフレ・ターゲティングを決めて行くということである。こうした考えであれば検討に値すると考えているし、実際、これまでの金融政策決定会合でも、しばしば議論を行ってきた。

もちろん、こうした意味でのインフレ・ターゲティングについても、国民にとって望ましい「物価の安定」という状況を、ある物価指標の特定の数値で示すことは、技術的に非常に難しいことであり、また適当でないことが多いように思う。何をもって目標とするかというのは、なかなか難しい課題である。例えば、物価は需給バランスだけではなく、外部的なショックや技術革新など、大きな外からの変革で影響を受ける。これらを一律の目標でどう取り扱うかは、なかなか難しい問題である。

こうした問題をよく考えずに、少し高めの目標値を設定し、それを達成するために何でもやるといった仕組みを作ってしまうと、大義名分は「物価安定」でも、中身は「調整インフレ論」と変わらなくなってしまう危険性もある。

ただ、「インフレ・ターゲティング」といった議論が出てくる背景には、金融政策の透明性を中央銀行はもっと高められないのか、といった市場や国民の声があるように思われる。したがって、日本銀行としても、各方面のご意見に十分耳を傾けながら、インフレ・ターゲティング採用の可否といったことにとどまらず、広く、政策の透明性をより高めていくためにどのようなことができるのか、検討をさらに深めてまいりたい。

【問】

先日、東京都が大手銀行や日銀などに対する外形標準課税の導入を表明された。今のところ都議会でも可決される公算が高まっているが、一方で銀行界などからは、今回の措置について課税の公平性を欠くとか、対象となる金融機関の経営を圧迫するとかという反発の声も出ている。今回の措置について総裁はどのように受け止めているか。

さらに、納税者の立場からの日銀のスタンス如何。

【答】

突如出てきたので、私もまだ内容をよく勉強していないため、これの是非について意見をここで申し上げるのは差し控えたいと思っている。

ただ、今回東京都が発表した銀行業等に対する外形標準課税の導入というのは、「安定的な税収及び税負担の公平性の確保」を目的としたものだというふうに理解している。

地方法人課税における外形標準課税に関する一般論ということで言わせて頂くと、このような課税を導入する場合には、一つは地方税源の適切な確保という観点だけでなく、二つ目には「公平・中立・簡素」という税の基本原則との関係がどうなのか、そして三つ目はそういった課税を受け入れる法人の事業活動への影響──今回の場合は、東京で事業活動を行う銀行や金融市場の競争力がどういうふうに変わっていくかといったような影響。こういう様々な論点があるのではないかと思う。

今回は、5兆円以上の大銀行ということになっている。それが良いのかどうか、当座の動きからの感じで言わせて頂くと、──間違っているかもしれないが──長年一般的に「銀行憎し」というのは、庶民及び財界の中でもそうであったし、私も同友会にいた頃からそういう「銀行はけしからん」という声を随分聞いたものである。しかし、ここ2年、私が総裁になってからの銀行の動きをみていると、相当金融システムの破綻というぎりぎりのところへ追い詰められて、──今まで「護送船団」で言われるままにやってきたのだろうが、それが下手をすると破綻、谷に落ちなければいけないというところまで追い詰められて──ぎりぎりの決断をしてきたと思う。リストラも真っ先にやったし、今日本経済に最も必要とされている構造改革の最先端を大銀行が走りつつあると思う。これは再建に向けてシビアに進もうとしているわけで、その走り出したところで税金がかかるということは、銀行の再編も含めて非常に大きな変化、歴史的な変化が起こりつつある時に、たまたま外形標準課税というのが5兆円以上の銀行にだけかかってくるということであって、これが大きなショックにならなければいいがという感じはする。銀行株などもかなり下がっているようであるが、この機会を逸しては困るわけで、是非とも構造改革なり金融の再編なり、──おそらくこれを払う銀行はマネーセンターバンクの中心になる、日本の代表として出てくる銀行だと思うので、そういう意味でも大いに頑張って頂きたいという意味で、公平・中立という、先程申し上げたことがやはり十分検討の対象になってしかるべきだというふうに私は思っている。これは私の率直な感想である。

それから、納税者としての日本銀行はどうなのかというご質問であるが、今回の東京都の発表では、日本銀行も外形標準課税の対象に含まれているけれども、詳細を承知していないので、ちょっとコメントをするには勉強不足である。

ただ、日本銀行の場合は、中央銀行としての性格から、所要の配当と内部留保とを差し引いた後の利益は総て、国税、地方税、国庫納付金──これは一般会計に日銀納付金というのがあって一般会計に直接納めている──いずれにしても、国または地方自治体へ納めていくのが長年の歴史である。

本件についても、こうした点を含めると、どちらにどれだけ入っていくかということは、私どもの立場よりも関係者の間で十分な検討が行われることが何よりも重要ではないかというふうに思っている。

【問】

先日「昨年10-12月の実質GDPはマイナスの可能性が高い」という堺屋長官の発言があったが、もしこれがそうなれば、2期連続のマイナスということになり、景気後退というような受け止め方もされかねない。一方で、日銀や政府の景気判断というのは、ここのところ徐々に改善という方向にあると思うが、なぜこのような乖離が生まれるのか、伺いたい。

【答】

10-12月のGDPはまだ出ていないので、まだ出ていない数字を巡って私の立場からあれこれ申し上げることは差し控えたい。

景気の流れという観点から見ると、やはり昨年後半は回復への環境は徐々に整いつつあって、しかしそれが具体的な支出活動に結びついていくには、まだ達していない。それを具体的なGDPを構成する支出項目という面に限定して言うと、設備投資というのは、漸く下げ止まりつつあるということであるし、個人消費の方もマクロの推移で見ると、おそらく一進一退の動きを続けているのだと思う。こうした中で、公共投資などの外生需要が端境期となって、少し需要が落ちてくるということになると、全体としての支出活動が強くなかったという可能性もあると思う。しかし、(いま言われているGDPの数字というのは)去年までの数字であるから、大切なことは、これからの生産・所得・支出という前向きの動き──循環メカニズム──が本当に働き始めたのかどうかということだと思う。この点、昨年後半は、生産は明確に増加しているし、企業収益も下期は増益の見通しにある。さらに、企業や家計のコンフィデンスも大きく改善してきていると思う。このように、景気回復メカニズムという観点から見ると、むしろ昨年10-12月には前向きの材料が多くて、回復への道筋自体はしっかり確保されていると言っていいと思う。日本銀行としては、GDPだけでなく、こうした様々な指標を総合的に勘案して、的確な情勢判断に努めて参りたいと思う。

それから、構造改革というようなことが──アメリカの場合もそうであるが──起こってくると、統計を作る色々な経済統計の資料、対象としてきたものがすっかり変わってくることが起こるのではないかと思う。それは雇用にしてもそうであるかもしれない。そういうことも含めて、統計の見直しということも必要となってくるであろう。ただ単に、GDPが2期連続マイナスであったからといって、日本経済がまただめになるというふうには思っていない。このことは、ちょうど先週私はBISでバーゼルにいて、この発言があって、海外の新聞などもそれを取り上げていたが、会議で聞かれても、私は今申し上げたことを言って、「上向きになっていることは間違いない。我々は十分注意しながら経済を見ているけれど、こういうマイナスが今後続いていくことは起こり得ないと思う」と申し上げた。そういうことが、円が安くなったりするようなことに響いているのかもしれないが、今のところは、日本経済が底をついたということは、むしろ皆さんが認めていることではないかと思う。

【問】

金融市場の動向を見ている限りでは、依然貸出が伸びず、マネーサプライの伸びも芳しくない。そう考えると、景気判断を好転させたとしても、やはりゼロ金利政策は当面続けなければいけないのではないのかという印象を受けるが、如何か。

【答】

マネーサプライは、確かに2.6%という数字が今朝発表になっており、方向としては下がっている。銀行貸出もそんなに伸びているわけではない。貸し渋っていることは間違いないし、銀行も危ないところへは金は貸さない、ということである。そういうものが現れていると同時に、例えば先程の個人の資産などが、投資信託を通じて株に回ったり、直接株を買ったり、そういった方向に流れていくとすれば、マネーサプライはプラスにはならない。そういう構造改革が起こりつつあるということも考えておく必要がある。

アメリカも、91年に経済が底になった後、所謂"jobless recovery"と言われて、2年くらい、雇用と銀行貸出等が、GDPが上がっても増えていかない(時期があった)。構造改革の時期には──本当に行おうとすれば──このようなことが起こり得るのだというふうに思っている。ただ、株がこれだけ上がってきているということは、やはりかなり企業の収益が良くなってきている(と見られているということだ)。伸びる企業、確かにこれは2極に分かれていて、良いところはどんどん良くなるし、悪いところは引き続き悪いという傾向があるわけであるが、良いところはこれから伸びていく産業であるから、そういうものにこれまで海外から買いが入ってきた。それと同時に、ここにきて一般個人からの投資も色んなかたちで株買いに向かっている。内外から日本買いが始まったということが昨年後半の動きだったように思う。そういうことを考えると、そんなに悲観することはないと思っている。

【問】

2点質問したい。一つ目は、原油高が進んでニューヨークの先物が湾岸危機以来の高値になっているとのニュースも流れているが、この原油高が日本経済、それから世界経済に与える影響をどのようにお考えか。できれば、日本経済と世界経済を分けてお答え頂きたい。

もうひとつは、相変わらずインターネット関連の株の値上がりが続いており、一部には批判的にみる向きもあるが、総裁はネット関連の株高をどのようにみているか、伺いたい。

【答】

かつて日本経済が70年代に入り——ブレトンウッズ体制(の崩壊や)、ニクソンショックもあったが——通貨も強くなり、これから世界制覇に向かって伸びていくのだというときにオイルショックが起こって、一時、少し勢いが鈍ったことを、当時私も日銀にいて外国局長をやっていたから、身をもって感じた。今度の上がり方もかなり激しい上がり方であることは間違いないが、今、石油の代替——原子力をつかったりLNGを使ったり——というものが、ずいぶん日本の経済の中でも色々なかたちに変ってきているから、従来のような大きな影響はないと思う。何よりも日本の経常収支が毎月100億ドル以上も黒字であるということ、——年間で1,300~1,400億ドル、この間少し減ったという昨年の数字が出ていたが——こういう経常黒字があり輸出が伸びているなかで、石油価格が今回のように上がっても、そんなに心配することはないと思っている。

アメリカと日本とどう違うかというと、アメリカは世界最大の石油の輸入国であるから、アメリカはかなり影響が大きいと思う。ご承知のようにアメリカは年間3,000億ドル以上の経常収支の赤字。これは日本と大変な違い。何が違うかというと、やはり、(アメリカの)生産性は伸びているしGDPも伸びている。財政も黒字だと。日本と非常に対称的であるが、所得がどんどん増えて、それを消費に使っている。アメリカは、オーバー・スペンディングで、貯蓄率がゼロに等しい。これがアメリカの色々な消費の輸入を増やし経常赤字となっているわけで、3千数百億ドルの赤字、今年も4,000億ドルの赤字、来年はもう少し増えるかも知れない。この間のG7で——ちょっと余談となるが——みなさん日本の円高懸念というものを十分大きく追っかけられていたが、あれを良く読むとアメリカのところに貯蓄をincreaseすることが政策の中心にあるべきですよと書いてある。これはやはり、アメリカがこれからどうなっていくのか。どんどん所得を使って、あるいは使い尽くして金を借りてまで株を買い、株が上がる。これが行き過ぎるとバブルになる。そういうかたちの中で、消費物資をどんどん海外から買って輸入超過となっている。そういうところで、石油価格が更に上がっていくということは輸入超過が更に増えていくということになると思う。

日本の方は、多少物価、コストに響くことはあるかと思うが、幸いに円が比較的強く、日本の石油輸入はドルベースで買っているので、円高である程度消しているのではないかと思う。油についての影響は、そういうところで、日本にはそれほどクルーシャルな影響はないと思っている。

それから、IT(Information Technology)産業であるが、やはりこれからは、製造の段階でも、流通サービスの段階でも、消費者の段階でも、構造改革の中心になっていくのは、インターネットであり、IT産業であり、あるいはIT機器の利用だと思う。そういう意味で、これがどんどん普及していくということ——日本でも携帯電話がずいぶん普及しているようであるが——、使われていくということは、明らかに目に見えているわけで、こういうものの株が買われていくというのは自然な動きだと思う。これがリードして、生産が伸び、所得が伸び、収益が伸び、GDPもプラスになっていくということがいつ頃から起こってくるのか、この辺が私どもが注目をして見ているところである。これは、意外に早いものは早く伸びていくと思うし、特にサービス産業、サービス部門でこのようなものがどんどん使われていけば、割高で、日本の物価高、内外価格差の大きな要因となっているサービス部門というものが、消費者にとって安くて便利で良いものが買えるようになっていくのではないかと思う。これをやっていくには、大企業の場合でも、ITをどんどん使っていけば雇用者は少なくて済むわけであるし、それと同時に今まで使っていた古い機械はやはり償却していかなくてはならない。それが先ほど申し上げた「創造的破壊」"creative destruction"であって、これが産業構造を変え、それが景気の循環をもたらし、景気の上昇をもたらしていくというのはシュンペーターがかなり前から言っているわけで、そういうことが今、起こりつつあるのだとすれば、大いに期待して注目をしていってよいのではないか。

【問】

2つお伺いしたい。先ほど石原知事の銀行増税について、是非は敢えて言わないとのことであったが、今回の増税程度では、金融システムの安定化にはたいした影響はないという認識か。再生委員会の委員長は当初色々言っていたようだが、日銀としては、どう見ているのか。もうひとつは、今回の議論はほぼ通る方向にあるが、かなり感情論だけで進んだ面もあると思う。その論議については、総裁はどのようにご覧になったのか。

【答】

金融システムを壊すようなことになったらこれは大変だが、大銀行——まさに再編を発表したようなところ——が皆引っかかってくるわけで、そうでなくてもリストラをやって、一生懸命経費を落として、それこそ先ほどのIT、金のかかる設備を作り、合併した効果を出していこうとやっている最中であるから、ようやくスタートしたところに、これがかかってきたということは、彼らにとって非常に大きなショックであったことは間違いない。株の下がり方を見ても、いささかショックであったのではないかという感じはする。構造改革にようやく走り出して、その効果が出始めたところで、水がかかったということが、私は、感情的には気の毒だなという感じがするが、取る方は早く財政を良くしなければならないということで、東京都としても、これだけの赤字を積み上げてきたことについて反省してもらわなくてはならないということだと思う。先ほど申し上げた公平・中立・簡素ということが皆に理解してもらえるかどうかというところが決め手ではないか。私は、ここまでならいい、ここまではいけない、これからはいけない、ということは、この段階では何とも申し上げられない。感情論については、先ほど申し上げたつもりなので、この辺で勘弁して頂きたい。

【問】

今回の月報では、多少前回と表現が変わっている部分なども設備投資の中にあるが、これは全体として多少明るくなったと評価してもよいのか。

【答】

少しずつ明るくなってきているというふうに、全体としては、私どもはみている。ただ、手放しでゼロ金利はもう要らないというようなところへは、とてもまだいっていないと思っている。

以上