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総裁記者会見要旨 (4月12日)
2000年 4月13日
日本銀行
―平成12年 4月12日(水)
午後 3時から約55分
【問】
今朝公表された4月の金融経済月報では、景気の現状について持ち直しの動きが明確化しているとの表現で前月より判断が前進している。また、先般の短観でも、企業収益や業況感に関して、自律回復に繋がる動きを確認するかたちになっているが、こうした結果も踏まえた総裁の景気判断と当面の金融政策運営についてまず伺いたい。
【答】
本日公表の金融経済月報における景気の基本認識については、かなり大きく前に進んだと言えると思う。一言で言えば「景気は、持ち直しの動きが明確化している。民間需要面でも、設備投資が緩やかながら増加に転じるなど、一部に回復の動きがみられ始めている。」と言える。
具体的に内容を申し上げると、最終需要面については、輸出が増加傾向を辿り、公共投資は補正予算の執行に伴い増加に転じつつある。民間需要については、住宅投資が緩やかに減少し、個人消費も回復感に乏しい状態が続いている。しかし、設備投資は緩やかながらも増加に転じている、というのが大きな変化だと思う。
以上の需要動向のもとで、企業の生産は増加している。これを受けて、企業の収益や業況感(マインド)は改善を続けており、雇用面でも、雇用者数・賃金の両面で下げ止まりつつある。因みに、4月3日に発表した3月短観では、一つ目は、企業収益は今年度も増益計画となっていること、二つ目は、企業からみた金融環境は改善を続けていること、三つ目は、設備投資計画はこの時期の調査としてはしっかりとしたものとなっていること、この3つの点が確認されたことが特徴的であった。これらを踏まえると、企業部門では、回復に向けた動きが始まったとみてよいのではないかと思う。
この辺の経済の動きについて私が感じるのは、ゼロ金利を導入した昨年の2月頃に比べると、──あの頃は金融システムに対する先行き不安、経済がデフレスパイラルに陥るのではないかという不安があった、いわば異常事態だったわけである──1年あまりゼロ金利をやってきて、大きく変わったと言えると思う。
個人消費がまだはっきり出ていないという意見があると思うが、家計の雇用・所得環境における下げ止まりから改善への道筋がこれからはっきり見えてくるかどうかである。企業収入が増えるということは設備投資にもプラスになっていくし、一方で雇用や給与所得が増えていく、そしてそれが各家計に所得の増加というかたちで入っていくわけである。経済の成長が1%程度であるから、消費の伸びはそうはっきり見えてくるものではないと思う。消費については、日本はかなり生活水準が高く、平均国民所得も高いわけであるから、かなり消費のレベルも高いわけである。それが1%増えるということになっても、なかなかはっきりとした数字にはなり難いと思う。しかし、安くて良いものが売れているとか、あるいは旅行関係が今伸びているとかの話が耳に入るにつけ、全体として少しずつ明るくなっていると思う。
設備投資についても、その持続性や広がりを注意深く見ていくことが必要であると思う。したがって、民間需要の自律回復力については、もう少し見極めるべき段階にあると判断したわけである。
物価は当面、概ね横這いで推移すると思う。需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は、民間需要の一部に回復の動きが出ているため、一頃に比べて下への圧力は後退してきていると思う。ただ、もう少し引き続き留意して見ていく必要があると思っている。
そういうわけで、先日の金融政策決定会合においては、当面の金融政策運営についてこれまで以上に活発な議論が行われた。これまでのゼロ金利継続に反対するという意見のほかに、早目のゼロ金利解除を念頭において情勢を点検していきたいという意見も出されたが、議論の結果、ただいま申し上げたような情勢判断に基づいて、賛成多数でゼロ金利政策を継続することを決定した次第である。
以上が、経済に対する判断と、先日の金融政策決定会合について今申し上げられる概要である。
【問】
消費については、今月4日の衆議院大蔵委員会で「消費マインドがどう変わっていくか、もう少しはっきりしたところでゼロ金利政策の解除を考えたい」と述べておられるが、ただいまの前向きな景気認識等からみて、ゼロ金利政策解除の条件は整いつつあるとお考えか。
【答】
おっしゃるとおりである。大蔵委で私は個人消費がまだ伸びていないと言ったわけではない。先ほども申し上げたように、企業収入から給与所得を経て個人所得が少しでも増えていけば、マインドは必ず変わってくる。それには多少のタイムラグがあるかもしれないけれども、私どものこれまでの経験からすれば、そういう方向で消費も伸びる方向に向かうと申し上げたつもりである。それが多少違った方向に取り上げられた面もあり、あの時の議事録を私ももう一度読み直してみたが、その通りのことを言っている。
もう一度繰り返すならば、民間需要の自律的回復力を判断する場合、設備投資と並んで個人消費の動向というのは重要だと思う。但し、その際大事なことは、企業部門の回復が家計部門にも波及していく見通しが持てるかどうか、ということだと思う。
そもそも低成長の時代に個人消費がそれほど大きく盛り上がっていくということは非常に期待しにくいことである。先ほども申し上げたように、仮にGDPが1%程度の伸びである場合に、消費がそんなに急に伸びるということはまずあり得ない。それに加えて、流通革命が色々な面で起こりつつあると思う。直接海外で作ったものを大量に安く仕入れることにより、中間の経費を削減し、安い商品を豊富に販売し、それが売れているというケースも承知している。若者のニーズに合わせた飲食物や衣料品等の店のカラーが変わりつつあるのも目に付くところである。
こうした流通革命あるいは個別の売り上げから、消費を判断するのは大変難しいわけである。個人消費を見る上で重要なことは、個々の統計もさることながら、「コンフィデンス」や「所得の環境」といった環境の改善がポイントになっていくのではないか。消費者が明るいマインドになっていけば、それが消費の伸びに繋がっていくのではないかと思う。そういう意味で、先ほども申し上げたように、「所得環境がこれ以上は悪化しないだろう」ということがもう少しはっきりしてくることが待たれると言っていいと思う。
先週の国会では、こうした考え方に基づいて「私は悲観はしていない」と申し述べたつもりである。この点が正しく伝わっていないとすれば、今申し上げたことが私の本心である。
【問】
本日公表の金融経済月報の基本的見解の中では、先月まであった、円高が「企業収益の減少要因として作用すると見られる」との表現が全て削除されている。近く開かれるG7での焦点の一つは、各国による円高懸念の共有が確認されるかどうかであると思うが、総裁は現時点においてG7各国による円高懸念の共有というものが必要だとお考えか。
【答】
G7では、為替相場というものも一つのテーマかもしれないが、ご承知のようにG7というのは、色々なアジェンダがあり、各国のサーベイランスをやったり、コミュニケの議論をしたりというのは、ほとんど時間が限られている。だから為替相場がどうだとか、どこがおかしいといったようなことは、恐らくほとんど議論にならないのではないかと思う。特に今、方向としてはユーロは多少弱いのかとか、円が106~107円といったようなところはどうなのか、という感じは持っているかもしれないけれども、そういう具体的な話は恐らく出ないと思う。今の為替市場というのは、円とドルとユーロの3つだから、それが、どこがどうなるかといったようなことが、どの程度議論されるかというのは、私としては、今この時点では、何とも申し上げられないというのが、正解だと思う。
【問】
小渕前総理が月の初めに倒れられた。突然の退陣ということになったが、小渕前総理と総裁とは、日本国内はもとより、世界的に経済が不安定な状況の中で、共に仕事をしてきたという関係にあったと思う。小渕前内閣に対する評価を頂きたいのと同時に、新しく発足した森内閣への特に経済政策運営についての所見を頂きたい。
【答】
小渕前総理は、日本経済が大変厳しいさ中に橋本総理からバトンを受けて総理に就任され、その後、かなり思い切った景気対策を──優先順位を景気対策という所において──次々と打ち出されて、景気の回復に全力を挙げてこられたということは、皆さんお認めになるところだと思う。
この間、日本銀行も、ゼロ金利政策という、これも思い切った金融緩和策をとったわけである。こうした中で、小渕前総理とは国会などでも、あるいは月例経済報告関係閣僚会議などでも何度もお目にかかっているが、「経済を何とか立て直さなければならない」という相通じる強い思いも感じたし、私自身も前総理のそういうお気持ちを大変心強く感じていた次第である。
これらの政策が効を奏してきたこともあって、日本経済は最悪期を脱して、持ち直しの動きが明確になっていると言えると思う。それだけに、こうした中で前総理が病に倒れられたということは、私にとっても大変大きなショックであったし、ご本人もさぞご無念のお気持ちを持っておられることとお察しする。
一日も早くお元気になられることを、心から願ってやまない。
森新内閣におかれては、閣僚もそのままで、引き続き経済状況に応じた適時適切な政策運営に努めていかれることと思う。日本経済にとって、今最も必要なことは、構造改革を進めていって、規制の緩和・撤廃を打ち立てていくということであり、今まさにそこに差し掛かったところだと思っているので、小渕さんの後を引き継がれて、森総理がどんどんこれを着実に、前に進めていかれることを強く期待している。森総理は非常に明るく実行力のある方である。私も経済同友会代表幹事の時によくお目にかかり、それ以来、森さんとは色々なことを口論もしたし、議論もしてきたけれども、非常にさっぱりした、しかも物分かりの良い、行動力のある方であるので、大いに期待をしている次第である。
【問】
先ほどの質問の中で、「ゼロ金利解除の条件は、かなり整ってきているのか」という質問に対して、総裁は「おっしゃるとおりである」と答えたが、つまり解除の条件は整いつつあるということで良いか。
【答】
かねてから申し上げているように、ゼロ金利政策の解除の条件は、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になること」ということを内外に申してきているわけである。そのためには、設備投資や個人消費といった民間需要の自律的回復への道筋が、ある程度はっきり見えてくるということが必要だと思う。
設備投資については、先ほど3月短観のことも申し上げたが、調査結果や関連資料からみて、緩やかながら増加に転じていると判断できる。
個人消費については、もう少し回復感に乏しい状態が続いていると思う。しかし、雇用・所得環境の面では、雇用者数や賃金に下げ止まりの動きがみられるといったようなことから、明るい兆しも出てきているわけである。企業のリストラ圧力が残っていることは事実であるが、企業部門の回復傾向がしっかりしてくれば、タイムラグを伴って消費の方も必ず好影響が出てきて、家計に波及していって、消費の増加に繋がっていくだろうと見ている。
こうした情勢を踏まえると、デフレ懸念は一頃に比べて後退していると言って良いと思う。今後設備投資の動きを確認していくとともに、「個人消費の基盤となる所得環境などがこれ以上悪化しないであろう」といったことがもう少しはっきりしてくれば、自律的回復、つまり「デフレ懸念の払拭」への展望が見えてくると考えている。そういった点を中心に、情勢を注意深く点検していきたいと思っている。
自律回復と言う場合に、先ほども申し上げたが、設備投資は緩やかに増加に転じていること、民間需要の自律的回復の動きが一部に見られ始めているということは、はっきり申し上げられると思う。このように民間需要の自律回復についても、判断を進めてきているのだということをご理解頂きたい。
【問】
最近サマーズ米財務長官が日本経済の現状について、かなり回復が進んできているがまだなお注意が必要であると、全幅の信頼をまだ置いていないようなスピーチをされていたが、総裁は、今回のG7で政策決定会合で決められた通り、ゼロ金利政策の継続について表明することになるのか。
【答】
コミュニケは、そのような先の約束などする性質のものではないので、かなりデフレ懸念は払拭されつつあり、経済は立ち上がりつつあるが、先般の決定会合ではゼロ金利を継続して現状維持のままの政策でいく(ことを決定した)、というところまでは申し上げられると思う。
私どもが、特に今大事だと思っているのは、市場との意思の疎通を図っていくということ、経済金融情勢に関する見方などを極力市場と共有していくように努めていくことだと思う。そういう点は、ぜひ一つマスメディアの方々も、私どもの考えを市場に、あるいは一般にそのままお伝え頂きたいと思っている。この「コミュニケーション」ということについては、新法の下で独立性というものが与えられ、政策をどう打ち立てていくのが今の情勢の下では正しいか、ということは私どもで考える。しかし、その場合にやはり相手になるのは市場であるので、市場を良く見て、私どもの考え方を良く伝えていくことが大切だと思っている。最近の金融市場、為替市場にしてもそうであるが、世界中が24時間常に動いているわけであるので、私どもの考え方を、現状の判断というものを市場に伝えていく。その方法としては、毎月の金融経済月報で日本銀行の経済金融情勢に対する見方をきちんと示していくということに努めている。二つ目は、議事要旨が約1ヶ月後に発表になって、金融政策の決定に至る議論の内容を明らかにするようにしている。さらに、本日この場のように、記者会見などの場でなるべく丁寧な説明をさせて頂くように努力して参りたいと思っている。「政策運営の透明性」と、一口に「透明性」と書いてあるが、内容はこういったことではないかと私は思う。こういうことを忠実に、その都度やっていくことが大切なのではないかと思っている。
「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になるまで」というのは抽象的だというご批判もあるであろうが、これがやはり、私どもにとっては当面の一つの目標であり、この基準の具体的な内容はどのようなものなのか、あるいはそれを巡ってどのような議論が行われているのか、といったようなことを今申し上げたような手段を通じて極力率直にお伝えしていきたいと思っているので、どうぞ宜しくご協力頂きたいと思う。
【問】
今の総裁のマーケットとの対話の話というのは良く分かり、非常に大切なことでもあると思うが、総裁が冒頭で言った「景気認識はかなり大きく前に進んだ」という表現がメッセージとしてマーケットに伝わると、年内どこかのタイミングで日銀はゼロ金利の解除を視野に入れて政策判断していくのかなというような受け止め方になるかもしれないが、マーケットがそういう判断を持つとしたら、それは別に誤りではないと考えるか。
【答】
先ほど申し上げたようなことを、どのように受け止めるかは知らないが、今おっしゃったような受け止め方をされる方も多いと思う。それが間違っているとは思わない。
【問】
言葉の定義の問題かもしれないが、「ゼロ金利の解除」という言葉がよく使われるが、この「解除」がマーケットから見て、引き締め局面に入ったかのような印象を受けるような時もある。「解除」とは異常な低金利を普通の低金利に戻すだけのことを意味されているのか、それとも引き締め局面に入ったというようなイメージで使われているのか、意見があれば伺いたい。
【答】
「解除」というのは、今のゼロ金利に毎日持っていくように金融市場局に指示をして、日々の資金の出し入れを、色んな手を使ってやって、0.02%というのがずっと1年近く維持されてきたわけで、これをゼロ金利と言っているわけである。そのことがもたらす副作用というかマイナス効果というものも出てきているわけであり、ゼロ金利を直すことが直ちに引き締めだという理解は、それは通用しないのではないか。今あるゼロ金利というものが、中央銀行の歴史でも例をみない、非常事態に対する非常対策であるというふうに皆さん理解しておられると思う。それを「解除する」ということが「引き締め」だというふうに判断するのは、私は間違っているのではないかと思う。それは、先のことは、どういう情勢が起こるか分からないから、いつどういう時点でどうなっていくかは、その都度政策決定会合で現状を良く見た上で判断していくべきものだと思っている。
念のために、今私どもが感じている副作用というものがどういうものか敢えて申し上げれば、例えば老齢者、年金生活者が働いて積み上げた預貯金、金融資産──これは今日本は1,360兆円だか──があるわけである。そういうものは元本の減価は起こっていない──それは物価が上がっていないから──と思うが、運用益というか利回りが極めて低いということに1年近く我慢をしてきて下さっている。また、財団とか、保険会社の一部が運用難で非常に苦労をしているということも聞いている。そうした預貯金等の運用益が極めて歴史的な低さであるということは、そういう新たな所得を持たない方々、あるいは団体にとっては、大きなマイナス作用であっただろうと思う。
その他に金融機関等にとっても、企業にとってもそうであるが、一つのモラル・ハザードのようなものになって、資金は極めて低いコストでいつでも調達ができるから、無理してリスクを伴う構造改革などに手を出さないでも何とか経営していけるんだという安心感から、今最も必要とする構造改革などを先延ばししていくというようなことになりはしないであろうか。こういうことも非常に心配されるところである。
それと同時に、金融面では、資本主義経済の最先端であるべき金融市場、特にインターバンク・マネー・マーケットにおいて、翌日物無担保がゼロ金利であるということは資本主義の原則に反するものであるだけに、ご指摘もあるように市場が段々小さくなってきている。このことは、これからの日本経済、あるいは日本の金融市場を国際化していくとか、健全なものに育てていくというような場合に、非常に大きなマイナスになる可能性があるといったようなことがあるわけで、そういうことを考えるといつまでもゼロ金利で良いわけではない。金利を正常化していく、非常事態の非常金利ではなく、正常化していくということは、次の段階としてなるべく早い時期にやるべきことだと私は思っている。景気が良くなっていけば、金利は上がっていくのは必然の動きだと思う。
【問】
先ほどのマーケットが正しく日銀のサインを受け止めているかどうか、ということに関連するが、日銀の今回の判断を待つまでもなく、いくつかの良い指標が出ているにもかかわらず、年明け以後の長期金利は一進一退を続けているが、この状況をどうみているか。
【答】
国債の増発が行われているわけだが、今のところ、ご承知のように国債依存度が38%近いとか、国債残高がGDPに対して110%とか120%というような数字がよく出てくる。そういう意味では、国債残高をどうやってこれから縮小していくかというのは、財政の大きな問題であろうと思う。今のところ、景気を上昇させて正常化していくことが先だということで、ここまできている。
新規に発行した国債については、ご承知のように国債残高だけで30~32兆円だと思うが、新しく発行していく国債が、かなり順調に市場に吸収されている。それはやはり、財政の方で色々な種類の国債を出し、——1年以内の短期国債は、今70兆円近い残高になっているが、出す度に2倍ないし3倍近い応募が出てきており、そういうものは、特に金融調節の手段として非常に有効に使わせてもらっている。その他、2年物、4年物、5年物、6年物、10年物、15年物、20年物、30年物も発行されている──それらが内外の市場にうまく吸収されていくようにやっていくことが、私どもの今の大きな課題のひとつだと思う。
また、そういうものが非常にうまく流れるようになったのは、ひとつは税制面で、有価証券取引税をなくしたり、それから一部に海外から買ってきた時には、源泉課税を免除するとか、そういう税制面での取り計いも行われたし、何よりも市場が開放されて流動性のある円への投資だということで内外から買いがきている。特に、ここにきて投資信託が株もやっているが、むしろ公社債の方が多いくらいで、そうしたものを通じてどんどん消化されていく。国債には、海外からは今のところ7%ぐらいしか入っていないが、これはアメリカやドイツなどに比べると非常に低い。色々とアプローチしにくいという障害があったからであるが、ここ1~2年でそういうものがだんだん取り払われてきているので、何分、発行元が政府であるということでリスクがないわけであるから、色々な期間に応じた国債への投資が行われていくことは、十分可能なことだと思っている。
10年物でも1.7%台で市場で売買されているが、このような市場での消化が順調に行われているということがうまく続いていけばいいと思う。この水準が絶対的というものではないが、景気が良くなって金利が少しづつ上がっていけば、国債の金利も、今のままではありえないが、市場が驚いて金利が上がることがないように取り計らって、注意深く、私どもの考え方がよく市場にコミニュケートできるような努力をしながら調節をしていきたいと思っている。一方で、景気が良くなれば税収も増えていくと思う。2月には少しそうした傾向も出てきているようだが、そのように流れが移っていくことが最も望ましい方法だと思う。
【問】
確認であるが、ゼロ金利政策の解除の時期は、念頭に置いていないと言っていたが、今の時点も変わりないのか。
【答】
いつやるかということは、今考えていない。その時々の情勢を判断して、決定会合で政策を決めるということしか答えられない。
【問】
先ほど、「景気が良くなって金利が上がるのは自然なことだ」との話があったが、為替についても、「景気が良くなると円高になるのは自然なことだ」とお考えか。
【答】
必ずしもそうではないのではないか。色々な、もっともっと複雑なファクターがあると思う。為替相場は、ドル、円、ユーロが、色々な理由でそれぞれ動いているなかで、ひとつが動けばこっちも動くわけであるから、そんな簡単に「金利が高くなれば為替が強くなる」というものではないと思う。
【問】
先ほど、「ゼロ金利の下でも物価が上がっていないからこそ、個人の金融資産は何とか守られている」とのお話だったが、卸売物価が実質的に8年半ぶりに上昇して、今後、もし仮に、それが消費者物価に波及するような状況になれば、物価面でもかなりゼロ金利解除のインセンティブになるとお考えか。
【答】
いや、今のところ、むしろ消費者物価はどちらかというと下がり気味である。先ほど申し上げたように、IT産業などで製造コストも下がっていくし、民間にもそうしたものが普及していくし、それと同時に、流通革命のようなことが起こって、安くて良い物のところへ消費者が集まっていって、そうしたものがどんどん売れていくということになり、そうしたものが確実にCPI、消費者物価の計算のなかに入って来るようになれば、必ずしも卸売物価が上がっても消費者物価は上がらないということは十分あり得ると思う。卸売物価はまだ上がっている状態ではない。ほぼ横這いである。
【問】
先ほど、マーケットとの対話が非常に大事だとおっしゃったが、今日の会見を聞いていると、次回の会合ででもゼロ金利の解除を決めるのではないかとの思惑も生まれかねないと思うのだが、総裁ご自身としては、所得が増えるというのがはっきり確認されるのは、いつ頃だという目処のようなものはあるのか。
【答】
それはちょっと、目処は立たない。先ほど申し上げたように、消費が伸びるといっても、そんなに急に伸びることはまずあり得ないと思う。仮に1%の成長のなかで消費が伸びるとしても、それは極めて限られたあり方だと思う。物価の方も、必ずしも上がっていくものでもない。良い意味での物価の下がり方というものも、これから十分あり得るわけであるし、その辺は、先般、物価の安定について、私どもも半年くらいかけてもう少し詳しく勉強したいということを申し上げたと思うけれども、そうしたものも使いながら、これから今の物価の動きの性格というものをしっかり把握して、政策を立てていく必要があると思っている。だから、この次はどうこうというものではない。それは、またその時の情勢判断で政策が決まっていく、ということしかお答えできないと思う。
【問】
物価の中で、資産価格のうち株は上がっているが、地価はまだ下がっている。日銀の政策判断の中で地価の下落というものは影響するのか。
【答】
資産価格という意味で地価の動きにも関心を持たざるを得ないが、地価についても、なかなか上がっているのか、下がっているのかということは非常に理解が難しいところだと思う。一般的に言えることは、場所によっても違うし、二極分化というか、上がるところは上がるし、下がるところは下がり続けるということで、はっきりとした傾向として知り得るのは、二極分化ということではないか。非常に大きな変化が起これば別だが、今のところ土地の価格についても、買取り機関が出来たり、あるいは証券化が進む、流動化が進むことによって売買ができていって、価格が非常にはっきりしていくといった変化が起こっていくことを期待している。
【問】
衆院の解散総選挙の時期が6月頃に迫っているとの見方が強まっている中で、自民党からも先ほど総裁がおっしゃったように、年金生活者や財団のことを考えて、そろそろ金利を上げた方が良いのではないかという意見がちらほら聞かれるようになっているが、総裁の耳にもそういう意見は届いているのか。また、そういう意見をどうお考えになるか。
【答】
そういう声は聞いている。私どもの仲間は大体隠居しているので、いつ上げてくれるのかと私の顔をみる度に皆が言うが、その辺の気持ちは分かっているつもりである。今まで本当に我慢してもらっているわけだから、思い切って早い機会に——資産の価値を守ることはまず第一だが——年金生活者等にとってはやはり大事なものである運用利回りを正常化しなければいけない。これは、先ほども申し上げたとおり、私の本心でもある。
【問】
前回1月のG7では、ゼロ金利の継続を述べているが、今週末はどうなるのか。今は維持を決定しているが。
【答】
先の政策というのは、まず、そういう公の席で言うべきものではないし、誰も言わない。経済情勢がこれだけ上向きに変ってきたということは言えることだと思う。それに対して、私どもは今のところ、まだゼロ金利で出来るだけ資金の供給を円滑にして、国債その他の消化をうまくいくようにしているということだと思う。企業には、やはり構造改革というものが、この時期にどんどん進んでいくことを期待したいと思う。これは今、世界的に同じような状況ではないかと思う。それだけ言っただけで、十分分かって頂けると思う。
以上