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三木審議委員記者会見要旨(4月20日)

平成12年4月20日・大分県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2000年4月21日
日本銀行

―午後2時から45分程度
於東洋ホテル「久住の間」

【問】

本日の金融経済懇談会の中で出された質問、要望にどのようなものがあったかご紹介いただきたい。また、大分県内の金融経済情勢についてどのようにご覧になられているかお聞かせいただきたい。

【答】

本日は、県内の景気情勢について、各界代表の方々から貴重なお話を承った。

県内の景況感を総括してみると、大分県の経済情勢は、企業の生産活動が増加を続け、景気は持ち直しに転じているとのことであった。ただ、景気の回復感を実感するまでにはなかなか至っていないとの印象が強かった。すなわち、今回の景気回復パターンは構造問題を抱えているわけで、様々なかたちでの二極分化──まだら模様──が業種別、企業別、地域別それぞれにみられている状況であり、こうした二極分化が当地でも如実にみられている。

特に当地の場合は、製造業、非製造業別にみた場合の二極化が顕著に顕れているとの印象であった。鉄鋼や石油化学、IT投資に支えられた半導体など製造業では明らかに生産について強気になってきており、景気の持ち直し感が強いようであった。ただし、その中でも鉄鋼などに代表される、いわゆるTビジネス(Traditional business)はあくまでも公共投資やアジア向け輸出(といった外生需要)に支えられた好況であるため、中身の脆弱な景気回復と言わざるを得ない。逆に、IT関連の半導体などのEビジネスについては、民需に支えられていることから、いわば中身の濃い景気回復といえよう。

これと対照的なのは、建設、流通業(卸・小売)といった非製造業からみた景況感であった。特に卸・小売を担っておられる方々からは、個人消費の回復感が今一つとなっていることに加え、個人消費の中身が構造変化を起こしているということなどを反映しているためと思われるが、景気の回復感は「今一つとならざるを得ない」との厳しい印象であった。また、建設についても、全国と同様、「公共投資に支えられていることから、土木は良いが建築関係はなかなか回復感が出ていない」とのことであり、依然として景気に対しては厳しい見方が多かった。

このように、当地においても全国と同様に、様々な形での二極分化が出てきているため、その中でマクロの景況判断をどのように行うかがポイントだと思われる。この辺りが、当地でも全国と同様であったというのが本日の印象である。

  1. また、懇談会の中で特に印象的だったのは、社会資本整備についてのご意見が1点目である。「大分県は社会資本整備が未だ遅れており、こうした社会資本の整備にはまだまだ手を入れていかなければならない」とのことであったが、物流を担う、特に道路整備については(社会資本整備の中でも)最後に遅れて出てきたとのことである。当地では、重厚長大型の工場立地から始まって、テクノポリスといった形態での工場立地とか、新しい物流センター建設など種々のプロジェクトが目白押しとなってきた中で、物流の効率化に資するものとして道路整備が漸く進んできているとのことであった。こうしたなお未整備の道路整備や下水道などを含めた社会資本整備に対する理解を求めるご意見を承った。あわせて大分市長からは、環境問題を中心に据えた都市の再開発を考えており、しかもそれを民間活力を発揮できる手法としてPFI(Private Finance Initiative)で作っていかれるとのお話を承り、これからの日本経済の再生に当っての官の役割、民の役割を考えるうえでも極めて重要な方途ではないかと受止めたところである。

  2. 2点目はベンチャー企業の問題である。大分県はベンチャー企業を育成するための官、民からのバックアップ体制の整備に積極的に取組んでおられるとの印象を持った。中小企業が日本経済を支える大きなエネルギーとなっているわけであるが、今のベンチャー企業が育って将来の核となっていくわけであり、ベンチャーに対する支援体制作りに──金融面を含めて──、大分県の場合は積極的に取組んでおられるという印象であった。

    また、今流行りのネットビジネスという面からもご意見を承った。いわゆるEビジネス、ネット経済が進展していくと、むしろ東京集中になっていくのではないかとの懸念を持っておられる方がいらっしゃった。ネット経済になってくれば、何も東京に居なくても良い──むしろ地方の活性化に繋がる──のではないかと私は思っていたが、逆に東京に集中してしまうとの強い危惧を持っておられるようであった。一方では、この問題を地域の活性化に繋げていって、新しい日本の情報通信社会を全国津々浦々まで作りあげていくためには、「東京集中ではなく、やはり地方にもう一度呼び戻す努力をしなければならない」とのご意見もあった。行政の面からは(大分県)臼杵市などを中心にCATVを全戸に引いていくといった事例のご紹介があり、こうした官の動きも踏まえ、民の方でも地方から発信するという方向を考えていかなければならない──現に福岡県などではそういう方向に動き始めており、それを大分県にも持ち込んでやっていきたい──とのことであり、これに対しても理解とバックアップを求めたいとの貴重なご意見が聞かれたところである。

  3. 3点目は、懇談会における基調説明の中でもお話させていただいたことであるし、全国でも同様のことであるが、最大の問題として個人消費をどうみるかということである。

    消費が構造変化の真っ只中にあるうえ、消費の最も原点となる所得、雇用がなかなか伸びない中で、「身の丈にあわせた消費支出」という局面まできているわけであるが、それでは原点となる所得がこれから伸びていくのかというと、これには多少時間がかかる──下げ止まってはいるが──ことが見込まれる状況下で、消費の現状をどう評価すべきか、また先行きのレベル感をどう考えれば良いのかという点についてご意見を承った。この点については、私どもも一番に考えなければならない問題だと思っている。本日は、懇談の席でも私見を述べさせていただいたが、個人消費の動きをどうみるかによって、政策判断もかなり変わってくるわけで、大勢の意見として納得できる見解を見極めなければならない状況だと思われる。

    大分県の場合は、個人消費を担っておられる卸・小売業の方々からのお話を伺うと、やはり個人消費はかなり厳しいとの見方であった。県内では大規模小売店の撤退が相次ぎ、店舗整理が進んできているとのことであったし、売上げもなかなか伸びないという中で、一方では価格破壊も起こっているという状況で、個人消費を支える卸・小売では、先行きもまだまだ回復というには程遠いとの厳しい受止め方をされておられたと思う。

  4. 最後に、「ゼロ金利」の問題については、明らかに相反する(2つの)ご意見を承った。すなわち、ゼロ金利政策を長期間続けていると、その間の弊害の拡大や政策変更した際のマイナスの傷が大きいため、必要な期間が終わったら早期に解除すべきだとのご意見をお持ちの方がおられた。一方、今回の景気回復は企業の収益回復を契機としているが、企業からみると収益の中身は未だ脆弱である──リストラにより何とか収益をカバーしている──中にあって、ゼロ金利は金融収支の面でもまだまだプラス効果が大きく、ゼロ金利政策は継続すべきとのご意見の方もおられたことをご紹介しておきたい。

【問】

審議委員は先ほどの基調説明の中で、設備投資や個人消費について、もう少し前向きなモメンタムを確認したいとおっしゃられていた。ゼロ金利を解除する場合に、最短では次の6月短観でこうした点について確認してからというのが素直な捉え方と思われるが、逆にそれ以前にこうした点を確認してゼロ金利を解除する可能性があるとすれば、どういったことを判断材料とされるのか。

【答】

先ほど申し上げたように、経済というものは時々刻々と変わっているわけである。現在は二極分化・まだらな景気回復となっており、他方では構造調整問題も抱えている。こういう中で実体経済の動きをみなければならないわけであるが、経済は日々変わっていくわけで、ある時点時点でどう判断していくか、ということに尽きると思う。そういう意味で、判断のタイミングが極めて大事だということを本日の懇談会でも申し上げたつもりであるが、それでは、ご質問にあったような(特定の)データを以ってすぐに判断できるかというと、そういうものでもないと思われる。それだけのデータを以って次のステップの判断ができるとは言えないのではないかと思っている。

したがって、本日ご説明したような実体経済、その裏にある各需要項目の動きをその時点時点で的確に判断しながら、──マクロで政策をやらざるを得ないわけである以上──総合評価していく以外にないわけである。現状の景気は、そこまで判断を進める段階ではなく、故にゼロ金利政策を継続するというのが今のスタンスである。

【問】

  1. (1)ゼロ金利の解除が金融引締めに繋がるのではないかとの懸念が(市場で)混乱を招いているのではないかという見方があるが、審議委員の見解如何。
  2. (2)また、最近の株価の動向が本年度後半からの自律的景気回復シナリオに影響するかどうか伺いたい。
  3. (3)さらに、今回のG7では、米国からゼロ金利継続の要請が強かった印象があり、日銀の金融政策が米国の市場に与える影響が大きいとの見方があるが、この点をどうご覧になっておられるか。

【答】

  1. まず1点目のご質問については、ゼロ金利が異常な金利体系であることは間違いないわけで、これを正常な金利に戻すということと、これが金融政策として引締めなのか緩和なのかというのは別の問題である。たまたまゼロという水準まで低下しているため、この両者は同じ問題と受止められかねないというところに、ご指摘のような混乱があるのではないかと受け止めている。

    すなわち、金利体系として捉えると、経済の安定的・持続的成長を考えた時には、ゼロ金利は誠に異常な金利体系であり、ゼロ金利が必要な条件さえなくなれば正常な金利体系に戻すべきであろう。(正常な金利体系に戻すということと)金融政策として──今でいえば金融緩和政策であるが──これだけの低金利政策をとり、潤沢な資金供給を行うということとは、別のジャンルに属する話だと思っている。

    仮にゼロ金利を正常な金利に戻すというタイミングが来たとしても、それがすなわち金融引締めに繋がるというものではなく、今のような景気情勢が続くのであれば、やはりあくまでも「超金融緩和政策」であることには変わりはないわけである。低金利政策というかたちで豊富な資金供給を行うという政策は継続することになると思う。

    したがって、ゼロ金利政策を解除することが、すなわち金融引締めになるということではないと思う。この辺りが誤解されるというか、分かりにくいという面はあるのかもしれない。現在はまだデフレ懸念の払拭が展望できるような情勢ではないわけであるから──ゼロ金利は景気の回復のため、すなわち公需から民需への円滑なスイッチングを図るためにやっているわけであるから──、現状はゼロ金利政策を継続しているということである。

  2. 2点目の株価については、金融政策は株価のために行うものではないわけであるが、経済を判断するうえでは、株価を含む資産価格の動きについても考えなければならないというのは事実である。そういう中で、一時13,000円(前後)まで下落した日経平均株価が2万円台の水準まで戻ったということは、企業、家計ともにマインド面で大きな効果があったと思う。今後の株価の動きをみた場合にどういう影響があるかとのご質問だと思うが、金融政策の立場からいうと、株価そのものを目的としているわけではなく、判断する要素として大きいという面で市場をみているわけであるが、我々が考えなければならないのは株式相場の急激な変化だと思う。株価の急激な変化を問題として考えるのは、あくまでも短期金融市場に対する影響という点においてであろう。株価の急激な変化が短期金融市場に急激な変動を引き起こすという事態は困るわけであり、日銀の立場からすれば、そういうことが起こらないような政策手段を考えていこうということになると思う。

    端的に言えば、我々が低金利をやろうとしている時に、ボラタイルに金利が上昇するといった場合が考えられよう。これが資金の流動性に問題があることに起因するのであれば、我々の金融政策に反する動きであるわけであるから、豊富に資金を供給して、狙い目の金利水準に誘導していくことを考えなければならないということであり、株価はこういう観点でみなければならないと我々は考えている。

  3. 3点目のご質問であるが、米国経済は10年以上にわたる好況を続けており、しかもグリースパン議長流にいえば「軟着陸」、すなわちこの好況を持続させる政策を採っているわけである。特に東アジアを中心とした経済回復の動きを一手に米国が引き受けているというのが今の世界経済の姿であろうと思うが、米国は3千億ドルにも上る経常赤字を抱えており、この経常赤字がファイナンスされていればこそ米国はもっていると言えるのではないかと思う。

    米国が景気の「軟着陸」を狙っているということは、当然ながら東アジアを中心とした世界の米国への輸出依存がいつまでも続けられないということだと思う。だからこそ、米国当局は日本に対し「自律的な内需拡大」を強く求めてきているのだと思うし、何もゼロ金利政策の維持というわけではなく、日本経済の自律回復を確たるものにせよというのが米国当局の大きなアナウンスメントだと思う。その分だけ米国は身が軽くなり、経常赤字もそれだけ減らしていけるということになろう。米国の要求はこの一点にあるのだと思う。これはある意味で内政干渉ということになるのかもしれないが、これまで世界の需要を一手に引き受けてくれたのは米国であって、このことに多いに感謝しなければならないし、これで米国の役割は終わったと言っているのであろうから、今度は日本が引き受ける立場になっていくのだろうと思う。日本はそういう局面に漸く行きつつあるという感じもあるし、日本の景気回復も公需から民需へという回復パターンに入りつつあるため、これを確たるものにしてくれというのが米国からの強い要請だと思う。したがって、日本の内需を中心とした自律回復の足を引っ張るような政策は困る、というのが米国の見方だと思う。

これに対しては、我々の考え方も一致しており、自律回復──公需から民需への円滑なスイッチング──を見届けなければならないし、また進めていかなければならない。そのためのバックアップとして、これだけの財政出動をしているわけであるし、日銀もゼロ金利政策を採っているわけであって、自律回復の動きがきちんと出るまではこれを継続していこうということである。この点では、先日のG7においても、「ゼロ金利政策を継続する」という事実だけを述べているはずである。

【問】

政策決定会合の議事録によると、一部の委員による「ゼロ金利政策の年内解除が課題」といった趣旨の発言があったと思うが、やはり年内解除は困難ということか。

【答】

議事要旨の中には、政策課題として異常な金利体系であるゼロ金利政策を正常な金利体系に戻すといった表現はあったと思うが、「年内解除」といった解除の時期に触れた発言はないはずである。

金融政策については、先ほどから申し上げているとおり、その時点時点で判断していく以外にないと思う。せっかく景気が回復過程にあるわけであるが、現在はデフレ懸念の払拭を展望できるような情勢にはなっていないということで、ゼロ金利政策を継続しているわけである。

【問】

速水総裁も「市場がゼロ金利解除を織り込んでいるのは間違いではない」といった趣旨のご発言をされたが、審議委員の見解如何。

【答】

私は総裁がそうした趣旨の発言をされた場に立ち会っていたわけではないので分からないが──もちろん、記者会見要旨は読んでいるが──、年内とか期間に触れた発言はなかったと思う。

総裁が記者からのそうした趣旨の質問を肯定したということであれば、おそらくそれは、正常な金利体系に戻すということが政策課題であるということが一方にあって、他方では低金利を続けて景気の回復に繋げていかなければならないという別の課題もあって、そうした中で記者から「正常な金利体系に戻すというのは年内位か」といった質問だったのではないかと推測される。

いずれにせよ、現時点では解除の時期は分からないわけである。かねがね申し上げているとおり、判断のタイミングが大事だということだ。

【問】

本日午前中に開かれた自民党の金融問題調査会で、4月12日の総裁のご発言を巡って、これまで日銀が公式におっしゃっていたことと、ゼロ金利の解除時期を明示したような質問に対しそれを否定しなかったこと──特にG7を目の前にしたタイミングでアナウンスされたこと──について、やや分かりにくい──何故そのタイミングでそういう発言をされたのか──ということを巡って、かなり厳しい意見が出されたようであるが、その辺りのご発言は、ボード全体の見方として出ていたことを総裁がおっしゃったのか、あるいは単に可能性も否定しないという一般論としておっしゃられたのか、背景を説明していただきたい。

また、その金融問題調査会において出た「(総裁は)辞任せよ」といった厳しい意見に対する審議委員の見解如何。

【答】

金問調については、私も出席したわけではないので分からないし、本店から連絡も受けていないので──皆さん方の記事は拝見したが──コメントのしようがないところである。

先ほどから申し上げているとおり、ボードの中で、ゼロ金利政策の解除時期はいつかとか、いつまでに解除しようとか、そんな議論は一切ない。異常な金利体系であることは間違いないわけであるから、そこから脱却する条件さえ揃えば正常な金利体系に戻すべきであるということは課題としつつ、一方では景気回復を狙った低金利政策を続けているわけであるが、その金利水準がたまたまゼロであるということである。この2つを念頭において、本日ご説明したように、どういうことで判断したら良いのかという点についてはボードで議論されている。

また、その判断をただ単に「デフレ懸念払拭を展望できる情勢」に求めるというのは、確かに分かりにくいし、アカウンタビリティーの面からみても不充分かもしれない。これも数値化できれば良いし、数値化できなければもう少し定性的な表現ができないかといった点についてはボードでも何度か議論されている。その結果として、本日申し上げたようなところまで議論が進んだということである。

すなわち、(1)物価の下落が止まるということと、(2)物価の下落懸念リスクが極小になる、ということについては、比較的具体的な判断基準としてその議論の中で導き出されたものである。

そこから先は、実体経済が重要であるが、これは数値化が難しく、定性的にもなかなか言いにくいため、どうしてもモメンタムの力強さとか広がりとか、そういうものをみながらの総合判断になろう、といった議論はなされているが、それ以上に時期といった議論はなされていない。

当然、議事要旨をお読みいただければお分かりいただけるとおり、「ゼロ金利を早期に解除すべし」というご意見の委員が1人いらっしゃって、一方では「さらに量的緩和を拡大すべし」とする委員もいらっしゃるわけである。これを別にすれば、議長案というかたちでの決定会合の結果は「ゼロ金利を継続する」というものであり、それ以上のことはないということである。

したがって、4月12日の総裁発言をどのように受止めているかとのご質問に対しては、コメントのしようがないところである。

【問】

本日の基調説明の中で、「インフレ懸念がない状態であるが故にまだその判断にはなお時間的余裕がある局面である」といった趣旨のご発言があったが、これはデフレ懸念が払拭されたか否かということを判断するのを急ぐ必要はないと理解してよろしいか。

また、アカウンタビリティをかなり強調されていたが、マーケットもしくは外部からみると、G7と日銀金融政策の関係──G7が第2の政策決定会合のような位置付けにあるとマーケットはみているが──についてどう思われるか、審議委員の見解をお聞かせいただきたい。

【答】

マーケットがG7を第2の決定会合とみているといったお話があったが、我々が考えているアカウンタビリティというのは、マーケットと日本銀行との間で、できるだけ、政策とその政策の基盤にある環境を共有していこうということであろう。そういう中で、政策変更を行う場合も、できるだけマーケットや、その裏にある企業や家計が納得したかたちで行っていくということが、最も期待と、期待からくるボラタイルな変動を回避できるわけであり、そういう努力をこれからやっていかなければならないのではないかということであり、我々としては、ますますアカウンタビリティの向上に向けて努力していくということになっているわけである。したがって、今後ともアカウンタビリティの向上に向けた努力は継続していくし、あくまでも共有していこうということであって、ある日突然世の中が思ってもいない別の方向で政策を行使するというのは、ボラタイルな条件変動を呼びこむことになるわけであり、こうしたことはぜひ避けたいということである。

これまでの日本銀行のやり方はその辺りが非常にまずかった。これはマスコミの見方でもあるわけであるが、米国のグリーンスパン議長のやり方を日銀も見習うべきだ──こうしたご意見は金問調などからも頂いたようであるが──確かに我々として見習うべきところはあったように思う。その努力を我々としてもやっていこうということであり、アカウンタビリティの向上ということであろうと思う。

G7というのは、単にスケジュールとしてあるものであって、政策判断は本日も申し上げたように、物価の安定とそれを取り巻く実体経済の動きを判断し、そして判断していく過程をできるだけ市場と共有していく努力をすべきだということである。したがって、たまたまG7があったというだけの話で、別にG7を意識して政策判断を行ったということではないと思う。

これを政治の立場からみるとどう思われるかは分からないが、我々としてはそういう考え方でよいと思う。ただ、マーケットとその裏に企業と家計があって、判断をできるだけ共有するという中での判断のタイミングということになってくると、やはり経済と政治の関係もあるし、経済の中でも日本だけではなくてG7など様々な場があるわけであるが、これらを全て抜きにして(政策判断を)やっていいかというとそういうことにはならないと思う。政府の政策との整合性を持ちながらということが新日銀法に謳われているが、その裏にはこうしたことがあると思う。したがってそこは良く考えながらということになるのではないかと思う。その中で独立性を持った日本銀行として判断していくということではないかと思う。

1点目のご質問については、先ほど申し上げた物価を取り巻く実体経済の各需要項目について判断していこうということを考えた時に、最も重要なことは、(その判断のタイミングが)早過ぎてもいけないし遅すぎてもいけないということである。過去2回日本銀行が非難された原因は、その点に尽きると思う──特にバブルの時は遅すぎたということで非難されたわけであるが──。そういう意味でフォワードルッキングなタイミングが重要だということであり、少なくとも3か月なり半年先の景気の動きまでみたうえで判断しなければいけないわけである。もう一つは判断のタイミングの問題があるわけである。判断のタイミングといっても、それは当然今日1日というようなものではなくて、時間軸的なものが入ってくるわけである。

仮に、日本が米国のようにインフレ懸念がどんどん高まっていくというような場合には、フォワードルッキングでみるということになると、やはり判断の時間的なタイミングは狭まってくると思う。今の日本はそうしたインフレ懸念が全くないわけであるから、むしろ景気の回復ということを念頭において実体経済の動きを丹念にみていくという、それだけの時間的余裕がある、という趣旨で申し上げたものである。

【問】

審議委員の基調説明の中で、消費は落ち込んでいるが、これはむしろ「平時」と判断して良いのではないか、また購買力がかつての水準に戻るには相当時間がかかるだろうとおっしゃっておられたが、既に消費の現況についてそのように判断しておられるとすれば、この先消費にどんな動きを期待しておられるのか、もう少し具体的にお伺いしたい。

【答】

消費については、景気の二極分化の中で構造変化が起こっているということであり、こうした中でマクロの判断をしなければならないということである。消費についてマクロの判断を下す過程では2つの局面が考えられる。1つは所得が伸びて所得分配が行われ、それが家計に入り、家計がそのお金を使って消費するという、こういうかたちになれば、極めてオーソドックスな姿で経済が成長するということになるわけであるから、個人消費のレベル感も当然上がっていくことになる。その姿はGDPでいえばおそらく3%成長の時を考えればそうなっていくと思われる。ところが、その局面は、今すぐには──少なくとも政府のGDP見通しも1%前後となっている平成12年度は──望めないということであろう。そういう中での個人消費ということを考えるとせいぜい1%前後と考えざるを得ないということである。

これは所得が伸びないという中での個人消費ということにも繋がるわけである。所得が伸びない中での個人消費というのは、やはり今のように「身の丈」にあわせて必要なものは買う、良いもの、安いものには飛びつくという個人消費の二極分化ということを考えると、消費を好・不況、あるいは中立(平時)という形で区分した時に、もちろん好況ではないが、その一方でもう不況だとはいえないのではないか、ということである。1%前後の回復過程の中では平時だとみざるを得ないのではないかという意味である。なお、これは私の個人的な意見であって、ボードとして皆が賛成しているというわけではない。個人消費について回復感がまだまだみえないという点は皆さんの意見として一致しているが、それを平時と呼べるかどうかについては議論を呼ぶ点だと思う。私としては消費についてはそうした見方をしなければやむを得ないのではないかという気がしている。

具体例で申し上げると、自動車生産がかつての1,300万台程度から1,070万台程度まで落ち込んで、ここ2年間は1,000万台を割り込んでいるわけである。このうち600万台弱がいわば個人消費の部分に当る国内需要になるわけである。これが今年は1,000万台になるかというと、絶対に回復しないといって良いと思う。しかし、それで企業──自動車メーカーに素材を供給しているところも含めて──の経営が成り立たないかというとそういうわけではない。自動車メーカーはそれでも収益をきちんとあげておられるし、自動車メーカーに材料を供給する鉄鋼メーカーなどでも、収益をあげられるようにリストラによって身を小さくして対応しているわけである。これは一例であるが、こうしたことを踏まえると、やはり平時だという前提で個人消費を考えなければならないのではないかと思うわけである。かつて3~4%成長の時の個人消費を念頭において、それがすぐに今年あらわれるといったことを期待しても、それはやはり無理ではないかという意味で申し上げたものである。

以上