ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2000年 > 総裁記者会見要旨 ( 5月19日)
総裁記者会見要旨 (5月19日)
2000年 5月22日
日本銀行
―平成12年 5月19日(金)
午後 3時から約30分
【問】
今朝公表の「金融経済月報」では、景気の現状について、持ち直しの動きが明確化しているという判断で、前月の表現と同じだった。先月、日銀は景気の現状について一歩前進する判断を出したが、その後の状況変化も踏まえた景気の現状判断、および当面の金融政策運営スタンスを伺いたい。
【答】
今朝公表した金融経済月報(5月号)に示した景気認識は、一言で言えば「景気は、持ち直しの動きが明確化している。民間需要面でも、設備投資の緩やかな増加が続くなど、一部に回復の動きがみられる」というものである。
先月は、設備投資については「緩やかながら増加に転じた」という言葉を使っている。今月は、その後、関連指標などにより増加傾向が続いていることが確認できたという表現になっていると思う。
少し詳しくみると、まず最終需要面では、輸出が増加傾向を辿り、公共投資も補正予算の執行に伴い増加に転じつつあるように思う。民間需要については、個人消費が回復感に乏しい状態が続いているが、今述べたとおり、設備投資は緩やかな増加が続いている。
以上の需要動向のもとで、生産は増加し、これを受けて、企業の収益や業況感も改善を続けていると思う。
個人消費面では、家計の雇用・所得環境について、下げ止まりから改善への道筋がみえてくるかどうか、なお見守る必要があるように思う。また、設備投資についても、その持続性や広がりを注意深くみていくことが必要であると思う。
物価は当面、横這いで推移するとみられ、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は、民間需要の一部に回復の動きが出ているため、一頃に比べて後退しているが、引き続き留意する必要があると思う。
このように、日本経済は、民間需要の自律回復力という観点からみて、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に徐々に近づきつつあるようにみられるが、現段階では、なお注意深く見極めるべき点も残っていると言える。
一昨日の金融政策決定会合では、以上のような情勢判断をもとに、ゼロ金利政策を継続することを決定した。
【問】
先月の記者会見で、ゼロ金利解除について前向きと受け止められる発言をされたが、その後、株価低迷等の動きの中で、市場ではゼロ金利の早期解除観測がむしろ後退しているように見受けられる。この間、ゼロ金利解除の条件がどの程度整ってきたと思うか。また、ゼロ金利解除について、先月の会見では、金融政策決定会合で所得や賃金環境を十分見守る必要があるという声が出たとのお話であったが、これについてのその後の動き如何。
【答】
ゼロ金利政策の解除については、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢になること」ということを一貫して申し述べてきている。そのためには、設備投資や個人消費といった民間需要の自律的回復の道筋がある程度見えてくることが必要だと思う。このうち、設備投資については、すでに緩やかな増加局面に入ったものと判断している。一方、個人消費については、なお回復感が乏しい状態にあるが、雇用・所得環境の面では、雇用者数や賃金に下げ止まりの動きが出てきているということは、明るい兆しだと思っている。
従って、今後、個人消費の基盤となる所得環境がこれ以上悪化せずに改善の方向感が掴めることができれば、自律的回復、つまり「デフレ懸念の払拭」への展望が得られるということになると考えている。一昨日の金融政策決定会合においても、これらの点について、たいへん熱のこもった議論が行われた。その結果、ゼロ金利解除のためにはもう少し見極めるべき点が残っている、ということで、ゼロ金利政策を継続することを決定した次第である。
【問】
次に、株価の指数の問題について伺いたい。この間、株価について不安定な動きがあった中で、宮澤蔵相をはじめ閣内あるいは証券業の業界団体などから、「日経平均の銘柄変更に伴って、指標としての連続性が失われたのではないか」との疑問の声があがっている。総裁はこれについてどのようにお考えか。
【答】
株価指数の対象銘柄を、産業構造の変化などに応じて適宜変えていくということ自体は、指数の有用性を確保するという観点から、必要なことだと思う。
ただ、今回の日経平均の対象銘柄の入れ替えは、たまたま8年振りに行われたことであり、また、入れ替え対象も225のうち30銘柄とかなり多かったということもある。しかも日取りが米国の株価が下がる前後であったということも、かなり影響が大きかったと思う。こうした見直しが、日経平均指数の動きにかなりの影響を及ぼしたことは、否定できないと思う。
各種の株価指数の動きをみると、日経平均は、4月中旬に米国株価が急落したことに伴って下落したが、その後も戻り足がかなり鈍いように思う。
一方、東証株価指数(TOPIX)とか東証2部指数、あるいは日経店頭平均(OTC)といった株価指数をみると、いずれも、4月中旬に急落した後、ほどなく持ち直している。
ただ、足許の株価については、やや不安定な動きもみられており、まだまだ注視して参りたいが、いずれにしても、株価の動向を捉えていく上では、幅広い株価指数を総合的にみていくことが、従来以上に必要なのではないかと思っている。
【問】
その株価について、今も指摘されたように、不安定な動き、低迷が続いている。こうした株価の動きが、含み益の減少あるいはコンフィデンスの悪化を通じて、実体経済にどのような影響を及ぼしているとみているか。金融政策との関連で、株価低迷を受けてゼロ金利政策の早期解除観測が後退しているが、こうしたことを含めて伺いたい。
【答】
今申し上げたように、日経平均の動きだけを捉えて「株価が低迷している」と言うことは、適当でないと思う。その他の株価指数は、4月中旬の米国株の急落を受けていったん下落したが、その後はほどなく持ち直した。
ただ、足許では、内外の資本市場にやや不安定な動きもみられるので、株価動向については、各種指標に目を配りながら引続き注視していく、というのが、私どもが今思っていることである。
【問】
異業種からの銀行業参入について、昨日、監督庁からガイドラインが示されたが、日銀でも先般、持株会社に対する検討方針を打ち出している。これについて、その後具体的に検討作業は進んでいるのか。
【答】
日本銀行では、考査やモニタリングで取引先の経営の実態を把握することにずっと努めてきているが、取引先の重要な経営機能が持株会社などに移管されていくような場合には、取引先に対する調査だけでは、その経営実態が十分に把握できなくなる惧れがあると思う。経営実態が十分に把握できなくなる場合には、持株会社等に対しても調査を行うことによって、これを補っていく必要があると考えている。
ただ、一口に持株会社と言っても、子会社の経営に対する関与の仕方はそれぞれ異なるわけで、日本銀行としては、今後、取引先が持株会社へ機能を移転したり、あるいは事業会社の銀行子会社ができて、それが日本銀行との当座預金取引を希望するといった場合には、個々の事例毎に吟味した上で、調査の要否や具体的な調査内容を判断していく考えである。
【問】
民間需要の自律的回復をみていく上で、所得や雇用の環境は、これ以上悪化しないということを見極めることが重要だと先程おっしゃったが、そういう意味で、例えば夏のボーナスの支給状況は、一つのポイントとなると思う。民間のシンクタンクなどの調査では、昨年よりも今年は良くなるという予測の結果を出している所もあり、これをもってゼロ金利解除に向けたきっかけの一つととらえる向きもあると思うが、総裁のお考えはどうか。
【答】
ボーナスはまだこれからだと思うが、近年、賃金調整をボーナスで行うという企業が増えているので、ボーナスには、リストラや構造調整の影響が集中的に現れてくる可能性はあると思う。その意味で、ボーナスの支給動向だけで所得の趨勢的な傾向を判断するということは難しいように思う。
一方、給与の8割を占めるのはやはり定例給与や時間外給与であるが、これらは今年に入って、連続して前年を上回ってきている。こうした定例給与あるいは時間外給与の動きは、心強い材料だと思っている。
家計の所得環境を判断する上では、ボーナスだけでなくて、定例給与や時間外給与の動向も含めて総合的に判断していくことが必要なのではないかと思っている。
【問】
ゼロ金利解除についてだが、いま国内の個人消費の動向を非常に注目していると思うが、国内だけではなく、アメリカ経済がソフトランディングするかどうかといった見極めも、ゼロ金利解除の判断材料になるのかどうか。
それから、現状のアメリカの景気過熱感は、徐々にソフトランディングしつつあるのか、まだ非常に厳しい情勢にあるのか、どういう判断をされているのかという点をお聞きしたい。
【答】
アメリカの景気については、もう少しよく見ていきたいと思う。息の長い景気拡大を続けてきていることは事実であるし、賃金の上昇といったようなコストの上昇圧力を生産性が上昇していることで打ち消しているということで、これまでは物価も安定を維持してきたわけであるけれども、先月あたりから、CPIが少し飛び上がったり、失業は減っているのだけれども、労働の需給関係なのであろう、賃金が少し上がってきている、コストアップになってきているということを、おそらく連銀はかなり気にはしていると思う。
もうひとつは、前から申しているオーバー・スペンディング、消費過剰というか、貯蓄を上回ったスペンディングをやるという問題。しかも、ゼロ貯蓄の時に借入れで株を買って株価がどんどん上がっていく。それが一種のバブルであるかどうかは難しいところだが、早い時期に抑えて行こうというのが、今回50ポイントも金利を上げた背景ではないかと思う。
インフレのない持続的な成長を維持していくということが彼らの狙っているところだと思うし、米国経済が、日本を含めて世界経済に与える影響は非常に大きいだけに、インフレ的な不均衡──いわゆる需要超過──というものが拡大していかないかたちで息の長い成長を続けていくことを、私どもとしても期待したいと思うし、その動向を注視して参りたいと考えている。
【問】
そうしたアメリカ経済が息の長い成長軌道に入っているかどうかの見極めができないうちに、ゼロ金利を解除するということはあり得るのか。
【答】
海外の要因はひとつのファクターではあるけれども、それが全てではないと思う。
日本の場合は、ゼロ金利というのは、昨年の2月に、危機的なデフレスパイラルの可能性とか、あるいは経済システムの破綻というか不安というか、大銀行の破綻などが起こって、それに対して公的資金を導入し、何とかやっていくということがようやく決まりかけた時点で、金融サイドからこれを救っていく、資金を潤沢に供給して今の危機を救おうということで決めたわけである。
その時の情勢と今の情勢とでは、国内の景気動向を見てもかなり良くなってきているし、アメリカとの関係がこれからどうなっていくかということはいつも問題になることではあるが、アメリカの景気が良いということは我々にとってもプラス要因であるし、そうかといって、アメリカが引き締めに入ったからといってこっちも引き締めなければならんということではないと思う。
その辺は、日本は、アメリカを見ながら日本の情勢を判断してタイミングを逸しないで適切な手を打っていく、というのがこれからの私どもの課題だと思う。
【問】
総裁は、市場との対話ということを最近口にされるが、一つの視点として、これまで総裁や日銀が色々メッセージを発していることで、金融機関はゼロ金利解除への備え、ALM上の備えを着実に進めているのか。考査、モニタリング、ヒアリングのなかでこうしたことも把握しながら、政策判断のタイミングを探っておられると思うが、その点、ゼロ金利解除の機が熟しつつあるとの日銀のメッセージは、市場・金融機関経営に適切に浸透しているのか。この点について、どのようにご覧になっているのか。
【答】
この前、4月12日に、4月10日の決定会合で議論したような感じを少しご説明したつもりである。4月10日の議事要旨は来週月曜日(5月22日)に公表されるので、それをご覧頂ければ、どのようなことを議論して、そのうちどのようなことを皆さんに申し上げたかがお分かり頂けると思う。私は市場とのコミュニケーションの必要性をここにきて非常に強く感じている。私どもが、今議論し頭の中で考えていることと、市場の一般的な考えというのが——これもまた、話が的確に分かるわけではないが——新聞記事その他を通じてみている限り、時にはかなり開いている、違っているなと思う時もあるし、そういうことがあると、いわば政策を決めたときに、なかなか市場に理解してもらえなかったり、思わぬ効果(が出たり)、我々の期待している効果が出なかったりということがある。この辺は、平素からなるべく予期したもの、考えていること、問題にしていることを、出来る限りのチャネルを通じて、市場に知ってもらう努力をして参りたい。そういうことで、4月12日の会見でも、10日に議論したような考え、頭をもって、少し話をしたつもりである。私は、比較的上手く伝わったのではないかと思っている。
その後のことをどう考えるかということは別の問題であるが、ただ、ちょっと残念だったのは、その後のG7の時に、——G7のコミュニケをみて頂ければ非常にはっきりしているわけであるが——何もあそこでゼロ金利を約束したとか、約束させられたということは全くないわけで、10日の決定会合で現状維持を決定しましたと、事実を報告しただけであった。それを色々、持って回った報道で、「これは約束したからもう出来ないのだ」ということは無かったのであり、その辺のところは、ちょっと私にとって残念だなという気がする。
【問】
前月の月報では、かなり景気認識を大きく前進させたとおっしゃったが、政府の月例報告はほとんど据え置きの判断であったほか、先日発表された今月の月例経済報告も、やや前進との認識であるが、中身はほとんど据え置きだったと思う。景気認識において、日銀は政府よりもかなり前に進んでいるのではないかとか、日銀と政府との景気認識に差があるのではないかとの声もあるが、その点について、総裁はどうお考えか。
【答】
日本銀行の景気認識については、さっき申し上げたとおりであるが、現時点での政府の見方も「企業部門を中心に自律的回復に向けた動きも徐々に現れており、景気は緩やかな改善が続いている」と、5月の企画庁の月報で報告している。こういうふうに、政府と日本銀行の見方は、表現こそ若干異なるが、内容においては大筋で同じようなことを言っていると、私は思っている。経済閣僚懇などで、堺屋長官のお話を聞き、私の方でも話をするが、それを聞いていてもそんな大きな違いはない、大体同じ判断だなと考えている。
以上