ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2000年 > 政策委員会議長記者会見要旨 ( 8月11日)
政策委員会議長記者会見要旨 (8月11日)
2000年 8月12日
日本銀行
―平成12年 8月11日(金)
午後 6時45分から約45分
I.冒頭説明
──対外公表文「金融市場調節方針の変更について」を読み上げ。
今お読みしたことが全てだが、ポイントだけをピックアップさせて頂くと、ゼロ金利政策というのは、昨年の2月に、金融システム面で、法律は出来たけれども公的資金の導入などはまだどうなるか分からない、大銀行が──日本長期信用銀行、日本債券信用銀行もそうだが──どういうことになっていくのかといったことがある中で、経済の方もデフレスパイラルに陥るようなことになるかもしれない──当時はGDPはマイナス1.9%、1997年、1998年とGDPがマイナスになった訳だが──そういう状況の中で政府も色々な景気対策をしたし、私どもも翌日物のコールレートを下げられる所まで下げていこうという指示を決定会合で決めて、金融市場局がそれ以来0.02%という所で維持してきて、今日まで来ている訳である。こういう極端な緩和政策というのは、日本経済がここまで改善してくると、──ご承知のようにGDPの1−3月は年率で1割程度であった訳であるし、本年度も、前年度の0.5%よりもうんと高くなるであろうと言われている中で、──非常事態の時にとった危機対策というものを、いつまでも置いておくと、いずれ経済、物価情勢の大きな変動が起こった時に、より急激な金利調整を必要とするようなリスクが待ち構えているというような感じもする訳である。
ポイントとしては3つあり、1つは、ゼロ金利政策の解除をするけれども、経済の改善に応じて金融緩和の程度を微調整するという措置であって、引締めというよりも、──金利は0.25%になるけれども──今まで「超超緩和策」で危機対策であったものを0.25%まで上げて、微調整、緩和を若干弱めると、──弱めるという言い方はおかしいのかもしれないが──そういう「超超緩和」を「超緩和」にするという措置である。それが一つ。
もう一つは、ゼロ金利政策解除後も、コールレートは極めて低い水準にあり、金融が大幅に緩和され、景気回復を支持する役割を果たす状況は、引き続き維持されていくということである。
三つ目は今回の措置をひとつの契機として、国民が、日本経済は改善しているという明るい認識を持って頂ければと思うし、市場のダイナミズムが一段と発揮されることを期待する。
ご承知のように、家計は1,360兆円もの預貯金を持っている。特に60才以上の方が半分以上を持っておられるそうだが、一方で、もちろん借入れも400兆円弱ある。差し引いても1,000兆円位の預貯金を持っている訳だが、1990年以来ずっと金利は下がってきている。それで、そういう方々がどうなるんだろうかと、生涯かけて貯めた預貯金というものの利回りがなかったのが、ここへきてようやく下げ止まって──10年かかって下げ止まって──ここで少しではあるだろうけれども上がってくるという明るさというのは、やはり彼らには非常に大きな希望であり、明るいニュースではないかというふうに思う。いずれ、じっと貯め込んで持っていた資金を消費に使ったり、あるいは物を買ったり、旅行したりというようなことになっていくことを、私どもも期待している訳である。
市場のダイナミズムというのは、いつかもここで説明したと思うが、国が国会で予算を決めて、その必要な資金を国民の納税義務の下で集めて、それでやるべきことをやり、国を治めていくというのが財政である。最近は、歳出の方がオーバーして、国債の発行が増えてきていることが、これからの金融の一つの大きな問題になると思うが、そういう財政に対して、金融というのは、常に信用の供与であり、リスクを伴うものである。コール資金というのも単位が大きく、翌日物であっても無担保なのだから、信用供与していることは確かである。そういうリスクのあるものに金利が付くのは当然のことであるし、それが無利子の信用供与というのでは、やはり資本主義のダイナミズムというのがそこからは生じてこない。ただで金が借りられるということでは、経済は活気を持つはずがないと思う。これは弱い所は非常に助かるかもしれないが、これからの日本はそういう時代ではなく、これから伸びていくものをどんどん伸ばしていくという構造改革とか技術革新とか、そういったことを民間が自発的にやらなくてはならない時代である。そういう状況の中で、いつまでもゼロ金利を維持していくと、そういうものも非常に活力を失っていって、日本経済の再生あるいは立上がりというものに、かえってマイナスになる可能性もあるのではないかというふうに思う。そういうこともあって、私どもの考え方は政府と基本的にはほとんど違っていない。景気を良くなるようにしていかなくてはいけない訳である。しかし、財政と金融というのは、今申し上げたように性格の違うものであるし、金融の方は、私どもが情勢を見ながら機動的に手を打って、必要な所へ金が流れていくようにしていくのが大切だと思う。そういう意味で、日銀法4条にある政府との関係というところで、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とあるが、日銀も政府の各省とそれぞれに非常に密接に、それぞれのレベルで連絡を密にしながら、整合的な考え方を持っており、今度の経済企画庁の8月の月報と来週発表される私どもの月報と比較してみてもほとんど同じような考え方でいる訳である。私どもが動かしていく通貨及び金融の調節における日本銀行の自主性、新法で与えられたこの自主性を尊重して頂き、これを金融調節において活かしていきたいというふうに思っている訳であり、日銀法4条にも3条にもかなう政策ではないかと私は思っている。そういうことで、今日の決定会合でも大多数の委員がこれに賛成してくれた。私の方からは、まずそこまで話をしてご質問に答えたいと思う。
II.質疑応答
【問】
まず最初に、今日の会合で賛成多数でゼロ金利解除が決定されたが、幾つか前回以来積み残されていた課題があったかと思う。今回の会合の議論の過程でどの部分に一番時間を費やしたのか、またその過程でどのような議論をしたのかについてかい摘んでご説明頂きたい。
【答】
一番気を使ったのは、情勢判断の最終的な詰めで、7月の時に私がこの席で申し上げたと思うが、経済指標や支店長会議で報告された色々な地域経済情勢や金融市場の動向等、7月の時点でもかなり良くなっているという感じを持っていた。そこへきて設備投資の増加傾向が非常にはっきり確認できるようにでてきた訳である。雇用や所得環境が下げ止まっているところから改善に向かいつつあるという見方は出てきていたが、それをもう少し確認しようというのが、7月の時の宿題として残っていた。そこのところを今回はどうだろうかということでかなり議論をした。その後に出た機械受注とか雇用とか消費とか、どの数字を見ても皆このひと月でかなり良くなっている。企業収益が非常に良くなっていく中で、設備投資の増加が続いており、景気は緩やかに回復していくと判断できると思った訳である。
海外経済など外部環境にも大きな変化がなければ──アメリカはこれから総選挙があるが、大分ソフトランディングが出来てきているようであるし──今後も緩やかな回復が続く可能性が高いという判断が、大体皆さんできたのだと思う。これによって前々から言っていたデフレ懸念の払拭が展望できる情勢に至った、という結論が得られた訳である。それが一つである。
それから、もう一つは「そごう問題」が7月12日に起こって、17日のまでの間に、株や為替がかなり動いた。従来の債権放棄のやり方で対処していくのかと私どもも考えていたが、急遽枠組が変わって、民事再生法という新しくできた法律を適用するということで──(民事再生法は)中小企業等を処理するための法律であると私どもは理解していたが──市場はかなり驚いたのだと思う。その問題を契機にして、これが市場心理等にどういう影響を与えるかということを見極めたいということで、7月はこれが二つ目の課題であった訳である。
その間の金融市場の動きを点検すると、株式市場では、一時不安定な動きが見られたが、足許では一応下げ止まっている。また、株式市場以外の市場を見ても、信用不安が高まって、金融機関の円や外貨の調達が非常に困難であるという事態には至っていない。従って、全体として見ると、これまでのところ金融システムに対する懸念が広まったり、あるいは市場心理が大きく悪化するといったような事態は見られていないと、皆さん思われた訳である。その辺が今日の決断のかなり大きな背景になったと思う。
【問】
先程、総裁が日銀法4条の話をしていたが、今日の会合の中で、議決延期請求が出されるといったことから見ても、政府と日銀の経済状況の認識は、依然としてややずれがあるのではないかと思うが、この点、経済政策と金融政策の整合性という日銀法4条に照らして見た時に、どのように考えればいいのか。
【答】
先程もちょっと触れたが、日銀法4条には、「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」との規定がある。先程申し上げたように、私どもとしては、それぞれのレベルで担当の政府とは十分意思疎通を図っていると思うし、整合性は十分持っていると信じている。
それと同時に、先程の財政と金融の違いといったようなこともあるし、日銀法3条で「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」とあるが、これはまさに、新法で一番新しく私どもに与えられた義務であり、課題だというふうに思う訳で、各国の中央銀行は皆だいたいこういうふうになっている。私どもの旧日銀法の下では、こういう自主性、独立性というものへの権限が、はっきり与えられていなかったので──新しい日銀法の下で2年余経つが──こういった時にこそ、日銀が独立性、自主性を発揮して、日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性を発揮していくということが出来ようかという判断をした訳である。
こういうふうに日銀法で、政府との十分な意思疎通を図りながら、最終的には日本銀行の責任と判断で、金融政策決定を行っていくということが決められている訳であるから、情勢判断や基本方針の整合性とかは、十分政府と話合いもし、やっていくということである。そのもとで金融にどのタイミングで何をやるか機動的にどういうふうに動くかというのは、私どもの判断で金融政策決定会合が責任を持って決めて、日本銀行の必要な部局を動かして、政策を遂行し金融の調節を図り、物価の安定を通じて経済の安定的な成長を図るというのが、日銀法の1、2条にはっきり書いてある訳である。今回のゼロ金利の解除、そして新しい0.25%に──ほんとに低い金利ではあるが——変えたということは、私どもとしては、かなり思い切った決断でもあるし、予てから、ゼロ金利をいつどこでどうやって解除していくかと、なるべく可及的速やかにやりたいということは、私もこの席で何回か言った思う。4月12日のこの席で──4月10日の決定会合で、市場とのコミュニケーションをよくしていこうではないかということで──皆さんになるべく早い機会にゼロ金利は解除したいと、そのことを市場にも伝えていきたいというふうに初めて言ったのは、その時だと思う。それは、いろいろ取り方もあっただろうし、私どもの方でも、もう少し早くやれればと思う時期もあった。しかし、いずれにしても、月に1、2回の政策決定会合でもあり、いわゆるG7とか、解散総選挙があるとか、7月の場合はそごうの破綻が思わぬ格好で出てくるとか、そういうことが重って、結局8月まで出来なかったというのが実情である。
今回の措置実施後も、コールレートは0.25%という極めて低い水準にあって、金融が景気回復をサポートするという状態は、引き続き維持されていく訳である。従って今回の措置が政府の方針と総合的で整合的でないとは考えていない。
【問】
今回の金利引き上げは、金融引締めではなく金融緩和状態が続いているとのご説明であるが、これをいつまで続けるという時期的な目処、あるいは条件のようなものを想定しているのか。
【答】
特に条件というものを付けている訳ではないが、先行きの金融政策については、経済の現状が漸く民間需要の自律回復への道筋が開けて、デフレ懸念の払拭というものが展望できるような情勢になった段階であるから、金融緩和スタンスを継続することによって物価の安定を確保しながら、引き続き景気回復を支援していくという方針でいきたいと思っている。
また、ゼロ金利政策の下でデフレ懸念払拭の展望という解除の基準を示したのは、金利の引き下げ余地がないというぎりぎりの状況の下で人々の期待形成に強力に働きかけて、金融緩和効果を十分に浸透させることを狙ったものであった訳である。今回の措置により、そうしたぎりぎりの状態からはひとまず脱した訳であり、ゼロ金利政策時のような特殊な手当てを講じる必要はなくなっているものと判断している。もちろん、今後とも金融政策運営の考え方や、その背景となる情勢判断については、金融経済月報とか議事要旨などを通じて、なるべく分かり易く説明し、アカウンタビリティというか、新法により新しく私どもに課せられた責任義務を果たしていきたい。広く市場や政治、実業界、あるいは学会、海外、それらに理解を得る努力を重ねて参りたいと考えている。これは私どもの課題だと思う。
【問】
ゼロ金利政策解除は賛成多数ということであるが、何対何であったのか。また、議決延期請求権の否決は何対何であったのか。
【答】
何対何ということは申し上げられない。これは次の次の会合の後で議事要旨で出ると思う。ただ、どちらも決定は極めてはっきりした多数決で決まった。議決延期請求も新日銀法19条にはっきり書いてあるので、19条3項による議決の取り方で9人が諾否を出して決めた。採否を決定したということ、これはまさに19条の2項、3項が初めて使われたということである。
【問】
景気は回復傾向が明確になってきているということであり、それから国民に対しても、先行き明るい期待を持って頂きたいという話があったが、これは事実上の景気回復宣言とも受け止められるが、如何であろうか。
【答】
いや、景気回復宣言というものは、私どもは今までやったこともないし、今回も景気回復宣言とまでは申しません。ただ、デフレ懸念の払拭が展望できたということは、これは、予てからの私どものゼロ金利政策解除の要件になっていたことが満たされたと。これに基づいて、みんな決断したと思っている。
【問】
総裁は日銀と政府との景気判断の整合性が取れていると言ったが、そうした中で、19条の議決延期請求が初めて発動されたことについては、どう考えているか。また、法的には政府の議決延期請求が認められているが、日銀の独立性を揺るがすようなものになるという考えはないか。
【答】
基本方針の整合性とか、基本的な方針を整合的なものとするというのは4条の線だが、金融の実質的なことはむしろ3条で、私どもの責任で、いつどのように手を打っていくかを我々が決めていかねばならない。今日も政府から代表者が出席され、景気や物価情勢等に関する認識を示されて、その下でゼロ金利政策の解除は時機尚早であるという議決延期の求めを提出された訳だが、会合では、こうした政府からの意見も含めて十分討議を尽くした結果、公表文で示したような判断が委員の大勢を占めるに至った訳である。このために、議決延期の求めについても、反対多数で否決された。なお、議論の詳細については、次の次の回の決定会合後に公表される議事要旨で明らかとなる扱いとなっているので、そちらを見て頂きたい。
【問】
市場との対話についてであるが、今回は、先週来、市場ではあまり織り込みが進まず、総裁のかなり強い発言等々に至って、今週の半ば位から織り込みが進んだという状況だと思っている。日銀が最も重視している市場との対話について、総裁は今回のことを踏まえ、どう考えているか。
【答】
それはどうですかね。私も4月12日に申した時、その時は皆さんびっくりされ、大きく新聞にも書かれたりしたが、また、何か、少しそれが冷めてきたと言うか、「年内は大丈夫だ」とか、「秋以降だ」とかいうような色々な噂や風説や見方や考え方があったのは確かだ。そういう中でも、私どもは「デフレ懸念の払拭が展望できるようになれば、なるべく早くやりますよ」ということを言い続けてきた。日銀からの情報発信というものは、なかなか難しいと思うが、中央銀行が金融政策を適切に運営して行くためには、国民や内外の市場参加者から十分な理解を得ることが非常に重要であるということを私どもも本当に身にしみて感じているところであり、そういう観点から日本銀行は金融・経済情勢の判断、あるいは金融政策の考え方というものを、国民や内外の市場参加者にできる限りわかりやすく説明するように努めていきたいと思っている。ただ、独立性と透明性を理念とする新しい日銀法が施行されて僅か2年強であるので、時として日銀と市場のコミュニケーションが円滑さを欠くことがあったかもしれないと思う。中央銀行と市場とのコミュニケーションのあり方については、各国とも模索をしているように思われるが、日本銀行としても更に努力をしていきたいと思っている。その点は(マスコミの)皆様にもひとつ仲介役を努めて頂きたいと思う。
【問】
自民党の一部に総裁の辞任を求める声があるが、辞任されるお積もりはあるのか。
【答】
僕はあまり、誰がどこでどう言っているのか知らないので、全くノー・コメントである。
【問】
今回のゼロ金利解除を巡って、事前に森総理大臣が日銀に対して自重を求めるというような発言をしたが、総理大臣までもが金融政策に発言したことについて総裁自身はどうお考えか。
【答】
どの席で言われたことを指しているのか知らないが、月例経済報告関係閣僚会議の時は総理は何も言われてなかったと思う。森総理とは、(私が)同友会の代表幹事の頃から政治改革の議論をした方で、割合親しく色々なことを言わせて頂ける方だったが、なかなかこのような金融の話は専門的と言っては何だが、一般的な話ではないので難しい。
以上