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総裁記者会見要旨(9月1日)
平成12年 9月 1日・名古屋での各界代表者との懇談終了後の記者会見要旨
2000年 9月 4日
日本銀行
―平成12年9月1日(金)
午後3時30分から約30分
於 名古屋観光ホテル(名古屋)
【問】
ゼロ金利政策解除後、約3週間が経過した。この間、長期金利が上昇し始めているほか、為替レートも円高方向に振れるなど、ゼロ金利政策解除の影響が徐々に金融市場に波及し始めているのではないかと思う。総裁は、この間の市場の動きをどのようにみているか。また、こうした動きが実体経済に与える影響について、どのように捉えているか。
【答】
ゼロ金利解除後の市場動向については、冷静に受け止めてくれたと思う。タイミングその他、いろいろと市場でも心配していたと思うが、私どもも出来る限り(市場と)コミュニケートするように、4月頃から努力をしてきた訳であり、そういうこともある程度勘案されて、冷静に受け止められている。今後とも、市場動向と、それが経済に与える影響については、丹念に点検してまいりたい。
【問】
昭和51年から昭和53年まで名古屋支店長として勤務した経験を踏まえ、現在の東海地域の経済の状況をどのようにみておられるか。
【答】
私にとって名古屋は非常に懐かしい場所である。戦争中、軍隊でもここにいたほか、1976年から78年までの1年と3ヶ月、景気の悪いところから良くなっていく段階をここで支店長として勤務した。今日、久方振りに、——(前回は)一昨年の12月1日に来たので、約2年振りに——名古屋を訪れ、駅前のセントラルタワーズの展望台を見せてもらって、私が支店長として勤務していた1976年~78年に比べて名古屋の街が非常に広がり、高速道路が出来るなど、都市基盤も整備されてきて、活気にあふれる街(になった)という感じがした。タワーズの上から名古屋の街を見下ろして、当時と変わらない広い街路の間に、かなり高層のビルがいくつも立ち並んでいるのを見て、この間の名古屋の発展振りを実感した。
先ほど当地の経営者の方々と懇談する機会を頂いた。元々ここには非常に立派な経営者がおられたし、良い企業が沢山あった訳だが、そういう方々が「創意と工夫」に満ちた、進取の気性に富んだ経営を行っておられることを、その当時から感じていた。そういった地元の経営者の方々の努力が当地の発展に結びついているのではないかと、非常に心強く思った次第である。
また、当地の経済情勢に関しては、この前の支店長会議でも感じたのだが、輸出が堅調であることと、自動車の販売が国内も輸出も非常に伸びていることが支えとなっており、景気は比較的緩やかながら回復してきていると判断している。先ほどの懇談会でも各界の代表者の方々から同様なお話を伺ったように思う。
【問】
東海地方は元々製造業が盛んな地域だが、今後この地域の経済にどのような役割を期待しているか。
【答】
当地は長年にわたって「モノ作りのメッカ」という定評があるが、そういう中にあっても、時代の要請に応えるかたちで、「モノ作り」の主役も移り変わってきていると思う。例えば、かつては当地の繊維がわが国の輸出を支えていたが、今では当地の自動車製造がわが国を代表する主要産業となっている。これは、当地の企業が、創意に溢れる企業家魂と、不断の改善・改革に努める職人気質をもって、「モノ作り」に取組んでこられた賜物ではないかと思う。
産業構造が変遷していく中にあっても、「モノ作り」が重要な基盤をなすことには変わりはないと思う。その意味で当地産業界では、最近の潮流となっているIT関連の技術革新の成果をも意欲的に取込みながら、付加価値の向上に努めているように思うし、今後も引続きわが国の製造業をリードしていく役割を期待したい。
さらに、付け加えさせて頂くと、当地は、自動車産業・輸出産業に支えられているほかに、大きな2つのプロジェクトを抱えており、これらが今、正に動き始めた訳である。2005年に開港、あるいは開催となる、中部国際空港の建設——これは事業費が約8000億円といわれている——と愛知万博という2つの大きなプロジェクトは、地元の経済にはかなり大きな影響を与えていくものではないかと思っている。当地財界の皆さんが(2大プロジェクトの遂行を)共通の目標・課題として非常に力を入れておられることを見て、非常に心強く思った次第である。
【問】
先ほどの懇談会における総裁挨拶の中で、金利機能の重要性を指摘されたが、オーバーナイト金利が公定歩合を下回っている状態に対して、異常であるとか、公定歩合が形骸化しているとの見方もある。これに対する総裁の見解如何。
【答】
ご承知のように、日本銀行は、数年前までは、市場相手というよりはむしろ各銀行別に貸出をするという政策を採ってきた。しかし、戦後長い間続いたオーバーローン、あるいは(そうした状況下での)窓口指導(の実施)といった状況を乗り越えて、市場を相手にして金融調節をするというふうに変わってきた訳で、この点は米国などと同じである。
その場合に、公定歩合というものはシンボリックなものになってくる訳である。勿論、時には、これを使う場面もあるだろうが、当面、毎日毎日の金融調節は、やはり短期市場への資金供給や吸収といったオペレーションによって行うことになる訳で、その場合に、翌日物の無担保コールを基準レートというか、金融調節の目標とするレートということにし、政策委員会の金融政策決定会合において、翌日物の無担保コール(のレート)をどれくらいに維持するかということを政策として事務局に指示していくというかたちを採っている。
従って、(翌日物無担保コールレートが)公定歩合よりも低くておかしいというものではないと思う。また、必要に応じて公定歩合を動かさなければならないということが起こってくるかもしれないが、今のところは、米国が行っているFFレート調整というやり方——日本の場合には無担保翌日物コールを使う——で、十分調節が出来ているというふうに思う。
【問】
先ほどの懇談会で、総裁は、「市場の活性化がこれから重要になってくる」とおっしゃっていたが、その具体的なイメージをお聞かせ願いたい。
【答】
一口に市場と言っても、コール市場もあり、オペレーションの(対象となる)市場もあり、為替の市場もあり、短期債、長期債、株式といろいろなマーケットがあるが、それらの市場が、自由な、しかもフェアな、そしてグローバルなマーケットに育っていくことが一番大切なことではないか。どこをどうするかということは、これからの金融政策に課せられた課題であるが、そういう方向で政策を運営していきたいと思っている訳である。
【問】
総裁は、本日の懇談会における答弁の中で、為替相場について、「何か起こらない限り、そう大きく変動することはないだろう」と発言されたが、この判断の背景をもう少し詳しく伺いたい。
【答】
為替市場というのは、二十四時間、世界中のどこかで動いており、しかも大量に、直物・先物両方(の市場)で動いている。損得を賭けた——場合によっては大胆な、あるいは慎重な——取引がなされている訳である。市場というものは、時には酔っ払ったような形になって、一方通行に相場が進むこともあるかもしれないが、今のところそうした動きは無くなっているのではないか。むしろ、いろんな形でヘッジをしながら動いていくということで、(相場が)行き過ぎだと思えば逆の取引が出てきて、相場の調整が自動的に図られていくといった機能を──特定の国の通貨についてはいろんなことが起こるかもしれないが、特に、円・ドルとか、円・ユーロといった場合は──十分に持っているように思う。
【問】
いわゆるダム論について、堺屋経済企画庁長官などは、企業部門に溜まった収益が企業の財務リストラや対外投資などによって、家計部門以外に流出しているという趣旨の反論をされていたように思う。これに対する見解如何。
【答】
いろいろな水の使われ方があるのはご指摘の通りであるが、やはり給与・所得は企業収益が源泉である訳である。タイムラグが生じたり、途中で迂回したりといろんなことが起こるとは思うが、企業の設備投資が増加し、収益が増えているので、必ず家計の所得の増加という形で——あるいは株価上昇といった形になるかもしれないが、何らかの形で——一定の時を経て家計に入ってくることになると思う。
【問】
今日の挨拶の中で、「金融・資本市場を通じる規律は最終的には政府や公共機関にも及んでいく」旨、述べられていたが、このところ、与党内でかなり大型の補正予算を組もうという動きもある。これほど財政赤字が膨らんでいるのに、更に赤字国債を発行して行こうとする動きについてどのようにお考えか。
【答】
当面の財政政策運営については、私の立場から具体的にコメントすることは差し控えたいと思う。
【問】
先ほど、中部国際空港と愛知万博という当地域における2大プロジェクトが地元経済に大きな影響を与えるという話があったが、以前、総裁ご自身が民間企業や経済団体のトップであった経験も踏まえ、万博の中身に関する助言があればお聞かせ願いたい。
【答】
愛知万博については、どのような計画が進められているか、それ程詳しく承知していない。一時、自然保護を主張する方々の反対が強かったようには聞いているが、それが完全に解消したのかどうかも、はっきり知らない。
ただ、かつて大阪で開催された万博のケースをみると——皆さんも行かれたと思うし、その後の万博の跡地がどのようになっているかご存知だと思うが——、万博そのものが随分脚光を集め、大きな効果をもたらしたほか、跡地がいろいろな形で開発され、利用され、それが大阪にとって大きな経済の発展に繋がったということは、皆さん認めておられるところである。(愛知万博についても)開催中の客の来訪、移動、宿泊、買い物といったようなものに加え、跡地の運用も含め、交通機関やホテルといったものが残っていくのではないか。そういう交通機関やホテルが——名古屋駅前にもすごいホテルができており、あれも万博を一つの目当てに作っておられるのであろうが——万博だけのためではなく、これを契機として地域に残っていくということは、地域の経済発展に非常に大きな効果をもたらすものではないかと、大阪万博のケースを一つの前例として感じる次第である。
【問】
来年4月に東海銀行と三和銀行が統合し、新しい金融グループが誕生するが、東海地域の金融情勢への影響をどう考えているか。
【答】
三和銀行と東海銀行については、——昨日は大阪で三和銀行の室町頭取ともお会いして、この話をしたのだが——私はいいコンビだと思う。特に東海銀行は、自動車産業が中心となって大きな生産活動が行われているこの地域に強く根差している。三和銀行の方は、かつて「ピープルズ・バンク」と言っていたが、国内外に店舗網を持ち、マネーセンター・バンクになり得る資格を十分に持った銀行である。私はうまくいくのではないかと期待しているし、ぜひそうなって欲しいと思っている。銀行の性格からいっても割合似たような感じがするので、うまくいくのではないかというふうに思っている。
【問】
東海地区ではそれほどではないが、全国では有利子負債を大きく抱えた企業もまだ残っていると思う。今後金利が上昇していくと、金融機関やこうした企業において、構造改革の痛みはどうしても出てくると思うが、それは止むを得ないこととお考えか。
【答】
困るところも出てくるかもしれないが、「たかが」と言っては何であるが、(今回のコールレートの引上げ幅は)0.25%である。先ほど(の懇談会で)、「構造改革」という言葉を使ったが、将来希望の持てる、あるいは競争力が十分発揮できる産業や金融機関が強く伸びていって、先行きの見通しが薄いというか、競争に勝って生き延びていくことができるか疑わしい産業や金融機関は、それなりに早く再編の道を考えていくということが、構造改革にとって重要なことだと思う。
特に、クリエイティブに前へ出ていくということは、割合と動き始めている。けれども、リストラ(されるべき企業、事業)についても、あまり見込みの無いものをいつまでも続けていくこと、そのまま先延ばししていくということは、経済の構造改革、発展にはマイナスになっていくのではないかと思う。ケースにもよるが、方向としては、金利が付いていって、良い企業には銀行も喜んで貸す、悪いものや見込みの無いものにはそれなりの次の手を打っていくということが、もう少し進んでいってもいいのではないかと考えている。
以上