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藤原副総裁記者会見要旨(12月7日)
平成12年12月 7日・神戸市における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
2000年12月8日
日本銀行
―平成12年12月 7日(木)
午後 2時から約30分間
於 日本銀行神戸支店
【問】
6月の福岡に続いて今回神戸に来て、この間にゼロ金利政策の解除があった訳であるが、兵庫県の場合は震災という特殊要因があって、その影響が抜け切れていない。その特殊要因はあるが、今日地元金融経済界の皆さんの話を聞いて、ミクロ経済に対してゼロ金利政策の解除がどのような影響を与えているか、プラス、マイナスどのように感じられたか伺いたい。
【答】
本日の午前中に開催された金融経済懇談会や昼食懇談会を通じて、知事、神戸市長、神戸、姫路、尼崎の各商工会議所会頭、それから地元企業の代表や金融機関の方々と活発で率直な意見交換をすることができた。その席ででた話題は、阪神・淡路大震災復興状況から、鉄鋼、造船といった当地の中心産業であるいわゆる重厚長大産業や、中小企業の動向に至るまで、金融情勢も含めて、広範多岐に亘った。また、いわゆる「元気印」というか、活発な創意工夫をしている企業からの話も大変興味深く拝聴した。兵庫県経済の現状については、全国のトレンドと同じように、「緩やかな回復局面にある」というのはそのとおりであるが、産業構造の転換の遅れなどから、全国に比べれば厳し目の状況にあると認識している。ただ、本日の話の中では、現状なお厳しい状況が続いているのは確かであるが、近い将来の飛躍に備えた前向きの構造改革の動きが、大企業から最近では中小企業にまで広がっているということであり、強い印象を受けた。震災復興についても、復旧に力を注がざるをえなかった最初の5年間を終えて、今後の5年間では官民挙げて力強い復活のために総仕上げを目指しているという印象を持った。
この間のゼロ金利政策解除との関連であるが、皆さん、引き続き経済状況は民需の自律的回復を目指して厳しい状況には変わりないとの認識の下、ゼロ金利解除後もなお金融緩和を続けていくという私どもの方針を説明したところ、概ね、私どもの政策をご理解いただいたと思う。
【問】
神戸経済の回復の遅れの要因である産業構造の転換について、金融政策面から何かできることはあるのか。
【答】
当地特有の産業構造が経済の変化、時代の流れから転換を余儀なくされており、目下そのための努力をされている、という話を伺ったが、金融政策によって産業構造を転換する直接的な効果は限られていると思う。しかし今、民需の自律的回復を目指すという方向の中で、日本銀行は──政府による政策とともに──金融緩和政策の継続を通じて構造転換を側面から下支えしていくつもりである。
【問】
日本銀行の景気判断は、「緩やかな景気回復が続いている中でも、内外の株価などそのリスクについて注視しなければならない」というのが大勢の意見であると思うが、仮にそのリスクが現実化した場合、ゼロ金利に戻るということが選択肢として有り得るのか。それとも、いわゆる景気の下支えということに関して、ゼロ金利に戻るということは有り得ないというスタンスにあるのか。
【答】
結論を先に申し上げると、イエスともノーとも言えない。中央銀行は常に標準的な経済のシナリオを念頭に置きながら、経済的に影響が大きいリスクを常に意識しておく必要がある。したがって、10月に公表した展望レポートの中でも、「緩やかに景気は回復している」という認識を示すとともに、あわせて、今後のリスクは何かを重点的に点検したところである。そうした意識で経済環境をみると、現在は下振れリスクに留意しながら情勢を点検していく状況にある。リスクが間近にあるという訳ではなく、中央銀行としては当然に求められる"転ばぬ先の杖"の作業を行っている。
【問】
来年1月にRTGSへの決済制度の移行が迫っているが、これに向けた金融調節の方針如何。また、昨年Y2K対策としてかなり潤沢に資金を供給したが、それで株価が上がったという指摘が政界等から出ているが、こうした声に対するご感想を伺いたい。
【答】
日本銀行としては、RTGSの制度自体を円滑に実現させなければならないが、それに向けて、関係金融機関と密接な連絡をとりながら万全の対策を講じようとしている。ご承知のとおり、週末を使ってテストを重ねてきており、回を重ねる毎に自信を深めてきている。
【問】
7−9月期のGDPの伸びが年率1.0%というのは、今までの感じからいくとかなり良い感じという捉え方が多いと思うが、振り返ってみて、ゼロ金利解除のタイミングについて、日本銀行の判断が正しかったということか。これからの金融政策運営について、もう一段踏み込んだ意見を伺いたい。
【答】
7−9月期は国内民間需要が設備投資の伸びを背景に増加し、プラス成長となったが、消費の内容をみると、プラスでもなくマイナスでもない。ゼロ金利政策を解除した時の我々の判断、個人消費については一進一退で、全体として緩やかな景気回復といった判断の内容が、数字でも裏付けられたかたちである。だからといって、ゼロ金利政策解除のタイミングが正しかったかと申し上げることは、避けたいと思うが、あの時の判断は裏付けられたと思う。今後については、内外様々なリスク要因があり、これらリスク要因を慎重に点検しながら、今後の金融政策運営のディスカッションを政策決定会合で展開していきたいと考えている。
【問】
本日の講演で、物価の見方に関し、需要サイドの要因とならんで技術革新や流通革命、規制緩和などの供給サイドの要因が物価低下圧力として作用していると指摘され、その際、数字的な裏付け、根拠があると言われたが、具体的にはどういうことか。また、先程話があった年末の資金の潤沢な供給と株価の関係については、どのような思惑が日本銀行にあるにせよ、潤沢な資金供給が結果的に株価上昇に繋がれば、それはそれで良いということなのか。
【答】
物価動向については、技術革新や流通革命等により様々な商品の価格が下がっていることは、全体的な趨勢として捉えている。全部の数字を分析している訳ではないが、我々は個々の物価について、消費者物価や卸売物価で──特に卸売物価は日本銀行専管の調査であるから──アイテム・バイ・アイテムで詳細に分析している。そうした中で、明らかに技術革新や流通革命に基づくものがどれぐらいあるか──例えば、あの時と同じ性能のパソコンが今どうなっているかなど──具体的な検証をした結果をもって数字的な裏付けがあると申し上げた。このほか、アイテム・バイ・アイテムという商品ごとの検証作業のみならず、各市場でのヒアリングによる実態調査も行っており、こうしたものを総合して申し上げた。
年末の金融調節の件について、先程、年末のRTGSを踏まえた金融調節が株価に影響するかどうか注意深くみていきたいと申し上げたのは、日本銀行としては当然のことをやっていくということであり、「株価が上がれば良い」と短絡的に考えている訳ではない。我々の政策──金融緩和政策ということであるが──が本来の目的である景気回復をサポートしていくということに繋がっていくことに期待して申し上げた。
【問】
一時期の金融システムに対する不安というのはかなり薄まってきたかと思うが、関西をみると、韓国系の信用組合の経営悪化の問題が残っていると我々は思っている。特に、大阪・神戸エリアはこれら信用組合が多いが、金融システムに影響するような経営不安が発生する可能性について伺いたい。
【答】
金融システムの問題は、1997年以来98年にも大きな事件があったし、政府の法的枠組みの整備や公的資金の導入も行われた。一方で金融業界内でも統合とか再編の動きが様々みられ、先日発表された銀行の12年度上期決算をみても、不良債権処理が順次進んでいることから、金融システムの問題は一頃に比べると改善しているとみられる。しかし、これも終わった訳ではない。大手銀行を中心に対応が進んできたが、ご承知のとおり、金融庁はその後検査・監督の重心を中小の金融機関に移しており、中には、その結果を踏まえて再建の途上にある先もある訳で、これからもそういう状況が続くであろう。ただ、一大不安が再燃するという印象にはなく、むしろ金融システムの問題もこれから安定の方向に向かいつつあるとみられる。個別金融機関、業態についてのコメントは差し控えさせていただく。
【問】
日銀神戸支店は裏方の仕事のほか、支店長を中心に地元経済のための各種提言もなされている。今、日本銀行では支店の見直し・統廃合を検討しているかと思うが、神戸支店がその対象になるという可能性はあるのか。神戸支店は大阪や京都と地理的に近い状況にあるが、例えば、見直しに当たっての基準はあるのか。
【答】
日本銀行のネットワークについては、新法施行後いろいろ検討してきた。ヒト・モノ・カネ・カルチャーの全面的な見直し作業をやってきた。これは内部的な自己改革が中心であるが、一方で、新法施行に当たり、衆参両院から決議のかたちで提案がなされている。給与の改善とか人員の整理、資産売却など、この2年半の間でできるものからやってきた。その最後に支店ネットワークの見直しという項目があり、これも長年時間をかけて検討してきた。どういう点から検討したかというと、時間や距離といった流通面のシステムが大きく変わってきたこと、地域経済構造が変化してきたこと、さらに、それとの関連で金融機関と日本銀行との取引上の変化──銀行券の受払等であるが──など、細かく何十という切り口から検討を進めてきた。そこで申し上げたいのは、始めに固有名詞あっての検討ではなく、飽くまでも白紙の状態から進めてきたものであり、その結果、小樽支店と北九州支店廃止との判断に至った。手続き的には今後、政策委員会の決定を受けて大蔵省の認可を得ないといけないが、そういったアクションに移る前に、やはり地元経済に影響を及ぼす話でもあるので、地元に対して、私どもの基本方針を説明し、できるだけ納得を得たうえで具体的行動に移りたいと考えている。廃止店舗の中に神戸支店は入っていないが、こうしたネットワークの検討・見直しは今後絶え間なく続くものであり、現段階ではこれ以上の具体的な検討は行っていないということである。
【問】
グリーンスパンFRB議長が米国の金融緩和を示唆する発言をしているが、日本銀行では米国の利下げ時期をいつ頃とみているか。また、仮に米国が利下げに踏切った場合の国内金融市場や日銀の金融政策に対する影響をどのようにみているか。
【答】
それは議長に聞いて下さい。米国経済は日本経済に大きな影響を与える環境にあり、株価の動向を見ても然りである。コピー相場とまでは言わないが、IT関連を中心に大きな影響を受けているのは事実である。したがって、米国の経済動向や金融政策については絶えず注意深く見守っていきたい。
【問】
先程の質問で、将来の問題としてゼロ金利への回帰の可能性について「イエスでもノーでもない」とのことであったが、少なくとも先日の決定会合の時点、ないし現段階ではゼロ金利に戻すスタンスにはないと理解してよいか。
【答】
直近の金融政策決定会合の決定どおり、金融政策については「現状維持」が妥当であると考えている。現在の経済情勢を見る限り、これまでのスタンスを変える必要はないと思う。
以上