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総裁記者会見要旨(1月18日)
2002年1月21日
日本銀行
―平成14年1月18日(金)
午後4時から約45分
【問】
最近の景気の現状認識と金融政策の運営スタンスから伺いたい。このところの金融資本市場は、比較的落ち着いた状態と見受けられる。昨年末の追加的な緩和策とか一連の政策によって、これからもこうした安定した状態を保っていけるのか、年度末が無事乗り切れるのか、この辺りから伺いたい。
【答】
確か前回は銀行に対する市場の見方、評価が厳し過ぎやしないかというようなことをお話しした記憶がある。年末を比較的無難に──地方の銀行が1つ破綻したが──越えて3週間近くなるが、海外ではいろいろな事が起こっている。国内でもまた1~3月を目指していろいろな事が起ころうとしているし、予算もこれから審議に入るし、税制その他に関し、諮問会議も今日から始まる訳だが、景気の方は、昨日の金融経済月報をご覧になったと思うが、輸出や設備投資の減少に加えて個人消費も弱まるということで、広範に悪化しているというふうにみている。
金融面をみると、このところ、企業破綻の増加などを契機にして、民間銀行や投資家の姿勢が慎重化してきている。一部の企業では資金調達環境が厳しくなる傾向がみられている。
こうした経済金融情勢を踏まえて、日本銀行は、昨年末に、日銀当座預金を大きく増やすとともに、金融調節手段を拡充する措置を決定した。これらの措置を受け、ひところ上昇をみていたターム物金利──企業の破綻などが起こって銀行などがインターバンクをかなり取りあさったといったようなことで、一時ターム物の金利がかなり上がったが、それは少し下がってきている──、高格付けのCPの発行金利なども再び下がってきているというようなこと、あるいは期末越えの資金の調達についての安心感が広がってきたといったようなこと、そういう効果が当面出てきていると言ってよいと思う。
しかしながら、相対的に信用力の低い企業とか中小企業については、資金調達環境が厳しくなる傾向が続いている。また、邦銀に対する市場の見方も引き続きかなり厳しい状況であると思う。
こうした情勢を踏まえると、金融システムや企業金融面でのリスク要因については、引き続き、細心の注意をもってみていく必要があると思う。
日本銀行としては、新たに拡充した調節手段も十分に活用しながら、潤沢な資金供給を行っていくことを通じて、市場の安定と緩和的な金融環境の維持に最大限の努力を続けて参りたいというふうに考えている。銀行については、1月15日にUFJ銀行が設立になった。これで三和銀行、東海銀行が一緒になる。更に3月1日には、大和銀行、近畿大阪銀行、奈良銀行の持株会社である大和銀ホールディングスの傘下にあさひ銀行が合流し、更に大和銀行から信託が分社化される。4月1日にみずほ銀行とみずほコーポレート銀行ができて、富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行が一緒に事業を始める。これとペイオフ解禁といったようなものも重なって、かなり慌ただしい変化の多い情勢がしばらくは続いていくというふうにみている。私どもも十分注意深く市場、企業、銀行の動きを見て参りたいというふうに思っている。
【問】
最近の為替相場について伺いたい。政府サイドには日本のファンダメンタルズを反映した調整過程での動きというようなかたちで円安を容認する発言が相次いでいる。ただこれをこのまま放置しておくと、日本売りにつながるのではないかというような声も非常に高まっているような気もするが、この点について総裁はどういうふうに考えているか。
【答】
今朝の新聞を見て私はおやっと思ったのだが、金融経済月報に関して一部の新聞で、「円安を日銀が前向きに評価している」とか、「円安効果に期待をしている」といったような大きな見出しで書いている新聞があったが、これは全くの誤報であり、極めて遺憾である。金融経済月報というのは、あくまで情勢の展開を客観的に分析してお示しするものである。「前向きに評価する」とか、「期待している」といったような判断を示すようなものではない。そういうふうに表題を書いて、日銀はこうなんだとお書きになるのは、私としては大変遺憾に思う。
為替相場については、ファンダメンタルズを反映して、安定的に推移することが望ましいという考え方に変わりはない。そもそも中央銀行として自国通貨の売りが望ましいなどという中央銀行はあまりないと思う。こうした報道は、日本の経済運営に対する内外の信認を傷つけるものであるから、皆さんも重々注意して書いて頂きたいというふうに思う。
前月、チャートをお配りして、日本のこの面でのポテンシャルズ、潜在力といったようなものを説明するつもりで出した。それもある新聞が取り挙げて、積み上げたものだから、またこれは積み下がってしまうだろうというようなことを書いている新聞もあったが、そのようなものではない。私は少なくとも半世紀、日銀に入って国際収支をみてきた。その間、10数年民間に出て輸出輸入サービス産業や資本の受け払い、そういうものを責任をもってやってきた経験を持っている。競争社会の中で、そういうものがどういう機能を果たしているのかということは十分承知しているつもりである。今年になってからもBISへ行って、総裁会議でもそうだが、特に近隣諸国が、日本がどうして円をそんなに安くするのかと、経常収支は黒字じゃないかと、どうして我々がこうやって苦労して一所懸命通貨の強さを守りながら輸出を伸ばそうと言って努力しているのに、こういう非常に迷惑な動きをするのか、ということを言っている近隣国の総裁もいたし、アジア、欧州諸国の総裁なども、どうして日本はここで円を売らなくては(いけないのか)、円が安くなるのを容認するのかと、日本も困り果てて日本売りを始めたのかというふうな見方でみていた総裁もかなりいたという感じを受けた。そういうことを考えると、通貨当局が円安を容認するというようなことは、これはセントラルバンキングの常識からは出てこないことだと思う。
日本の経済力と同時に通貨が強くなってきたということが、この間の資料でもご覧頂いたように、日本のこれまでの発言権あるいは存在感を支えているものであり、そういうことを私どもは長い経験の中で、十分認識しているだけに、通貨というものは強く維持していくということが大事なことだというふうに思っている。
【問】
今年の年頭に小泉首相が、年度末の金融不安があった場合における公的資金の再注入について言及され、政府サイドでもかなり色々な検討議論が進んでいるようだが、それについて改めてお聞きしたい。
まず、昨年の経済財政諮問会議の場で総裁が公的資金の再注入についてかなり強く柳沢金融担当相について求められたとの報道があったが、こういうことがあったのかということ、また現段階における総裁の公的資金再注入についてのお考えを改めてお伺いしたい。
【答】
あれは11月の終わり頃の経済財政諮問会議の自由討議のことで、柳沢さんはメンバーではないが臨時に出ていらしてご説明があり、それに委員の方々が意見を申し上げるという機会があった。そこで公的資本の注入に対する私の考えを言わせて頂いたが、非公開の会議でありその内容についてはコメントすることは差し控えたいと思う。そこはご理解頂きたい。
私のこの問題に関する考え方は国会でも何回か説明させて頂いたが、公的資本を再注入するということを考える場合に、一番大事なポイントはやはり金融システムの安定度合ということを考えなければいけないと思う。この点、主要行は、11月の中間決算発表時において、期初の見通しを約3倍増やして13行で6兆4千億円の不良債権処理をするということを決めた。それと同時に、信用リスクに応じた金利を取って、貸出条件を見直して収益を増やしていく、さらにコストの削減、リストラをやって、これらを通じた収益力の強化を図った上で資本を強化することにより、将来まだこれから残っている償却原資に充てることもできるし、株価の維持のための配当、その他にも使うことができるといったようなことを決めて、その方向で動き出していると思う。
そういう収益力強化の自助努力というものがなくて、ただ公的資金を入れるということであれば、これは下手をするとモラルハザードになる可能性もある思う。
また、万が一に金融システム全体の安定について疑問が呈されるような事態に陥った場合には、金融危機対応会議というのが法律の改正で新しく設置されることが決まっており、そこで必要な時に総理が会議を招集されて、公的資本の適切な注入ないしは対応を講じる仕組みが整えられている。ここで公的資本の注入というのは、どういうかたちでどういう時に入れるかということは決まってくる訳である。その他にも日本銀行としては、万が一の場合には、公的資本の注入を含むセーフティネットを活用し、ロンバート貸出とかあるいはレンダー・オブ・ラストリゾート(LLR、日銀特融)を必要に応じて出していくというルートは既に出来ており、昨年の暮れにもこれを使ったりしている。
こういうことを申し上げて、11月20日の会議でそれがどういう議論になったかということは、ここでは申し上げられないのでお許し頂きたいと思う。
【問】
現時点で金融危機対応会議等の話が詰まっているとは思わないが、金融庁あるいは柳沢大臣がおっしゃっておられるのは、自己資本が欠損しなくても、株価が下がって信用不安が起き、取付け騒ぎ等が起ることで、資金ショートが起り得るから、公的資金の再注入がその時に考えうるというご説明だと思う。金融危機対応会議についてはそういう考え方もあると思うが、総裁がこれまで2、3年前からおっしゃっている話と金融庁の考え方と、我々が聞いていてかなり差があると思う。繰延税金資産の問題等色々なものを考えると、自己資本が言われているほど充実していないのではないかというのが総裁のお考えで、先程申し上げた信用収縮の中で公的資金再注入を考えるということとは、いささか実態認識において差があるのではないかと考えるが、どのように理解すればよいのか。
【答】
私が3年ぐらい前から言い続けていることだが、日本の銀行の自己資本は、アメリカなどに比べて公的資本が入っているし、繰延税金資産もかなり大量に入っている。これは今やるとかやらないとかいうことではなくて、中長期的な課題として、そういうものは早く自己資金で入れ替えていかないといけないということである。公的資金は、いずれは民間資本に置き換わるべきものであるし、繰延税金資産についても、無税化が生じる時には、見合いとなる収益が必要である。そういう点を言い続けてきたつもりで、非常の時にどうするという話とは少し違う。
市場参加者の中で、金融機関の将来の収益力向上に不透明感を抱いている向きもあると思うし、こういった中長期的に見た収益力の向上と、それによる資本基盤(コア・キャピタル)のさらなる強化を図っていくことが、金融機関が内外市場からの信認を回復するために基本的に重要であるということは、今もそう思っている。
こういった自助努力を行うことが大前提であるが、万が一、金融危機が起った場合には、市場の信認を回復し、金融システムの安定を確保できるよう公的資本の注入など適切な対応を講じる仕組みが整えられており、これは非常事態の対応である。
柳沢大臣も、国会で同じ趣旨の発言をされており、その点についてはまったく同じではないかと思っている。
【問】
前回の会見で、総裁は「ペイオフ解禁で混乱が起きないように銀行に努力を促したい」との言い方をされた。解禁を巡っては、預金保険法改正の日程などを考えると、一部の間で出ていた再延期は事実上、不可能になったのではないかとの見方もあるが、この考え方でよいか。
【答】
ペイオフの問題は政治的な判断であるので、国が適切な判断をお決めになることである。私どもとして意見を言わせてもらえば、ポイントは金融システムの安定度合いをどのように判断するか、ということにかかっているように思う。
円滑にペイオフ解禁を実施していくためには、各金融機関が不良債権問題をはじめとして、重要な経営課題を自助努力で克服する道筋を明確にし、市場等の信認を十分に回復することが不可欠な要件ではないかと思う。
本年4月のペイオフ解禁まで残された時間は多くはないが、各金融機関が、各種経営課題への取組みを更にここでスピードアップさせることを強く期待している。解禁時期をずるずると先延ばししていくことは、不信認につながりかねないと思うので、予定通り進められていくことができればよいと思っている。
【問】
本日ダイエーが5時半から会見して再建策を発表されるそうであるが、こうした不良債権処理は昨年から本格的に進められている。ただ一部には、「青木建設は破綻したが、ダイエーは救済というか、広義の債権放棄によって救われることになるがこの差は何であるか」とか、構造改革の中でダイエーがこういうかたちで債務免除を受けることの意味合いについても、色んな議論がある。構造改革が進む中で、ダイエーについてはこのようなかたちで大枠収まりそうであるが、この件についてどう考えるか。
【答】
ダイエーについては、本日夕方発表するということは耳にしているが、個別の問題であるので、私からコメントすることは差し控えたいと思う。
ただ、非常に大きな問題の一つであったことは確かであると思う。これがうまく整理されていけば、後々にもよいケースを残したということになり、そうなればいいがな、と思っている。
一般論としては、金融機関と借り手企業との協議などを通じて、金融機関の不良債権処理と企業の再生が同時に、円滑に進行することを期待していきたいと思っている。
【問】
先日自民党の麻生政調会長が、「日銀の金融政策はもう効かなくなっているのではないか」というようなことをお話しされて、日銀にとってはその説明が宿題になっているようなイメージを持っているが、その点について、総裁はどのようにお考えなのか、答える予定があるのか、お伺いしたい。
その関連で、麻生政調会長の真意としては、財政とのアコード論が混じっているようにも聞こえるが、財政と日銀が手を組んでこの先考えていった方がよいという考え方が、今あるのか。
【答】
一昨日、月例経済報告関係閣僚会議が夕方にあり、その時に麻生政調会長が仙台にご出張で質問書を送ってこられた。それは柳沢大臣と私宛てのものであったと思うが、私の方には山崎幹事長が取り次がれてご質問になられたので、私は金融政策について答えた。
その趣旨は、12月19日に非常に大幅な緩和をやり、新しい制度も作ったが、これがどのような効果をもたらすかということと同時に、金融だけでは中々、現在の日本経済が直面している不況、デフレに対応していけないのではないかという懸念を表明されており、やはり財政と一緒になってやっていかないと効果が出ないのではないかというご質問であったと思う。
私は、それに対して、ごく概要だけではあるが、これまで緩和してきて市場の安定や景気の下支えには相当の効果が出ていると思うということと、勿論ご指摘の通り金融政策だけでは無理なのであって、日本経済の問題を解決するにはやはり構造改革を通じて民間需要を引き出していくということが重要であるとかねてから訴えてきており、金融緩和をする都度、これが本当に効果をもたらすのは構造改革が出来てきて初めて緩和の効果が出てくると申していることをお伝えするとともに、ご質問の財政については、財政の安易な拡大には賛成しかねるが、内容的に民需を引き出すような工夫がなされればよいし、それが必要ではないかというような意味のことを申し上げた次第である。
また機会を見て、私なり、あるいは代わりの者が、必要であればもう少し詳しいことをご説明に伺うということにしたいと思っている。
【問】
財政と金融が、一緒にセットで、この先は取り組んだ方がよいのではないかという議論もあるが、その点についてお考えはおありか。
【答】
塩川大臣とはよくお目にかかるし、会議でも一緒になるし、電話でもよく話しをしておるので、どうすれば一番効果が出るかということは話し合っている。
ただ、金融政策の方は、ご承知のように、政策決定会合で月2回、ないしは1回決めることになっており、それはその時にならないと結論を出せないので、そこで決めたことを連絡するということが大切であるし、また財政サイドの動きをよく見ながら必要な政策案を考えていくということが、私どもの任務ではないかと思っている。
【総裁】
ここで、一つ私から言わせて頂きたい。それは、最近新聞を賑わせている偽造券のことであり、これはどこの国にも起こっていることだが、最近、銀行券の偽造事件が増加しているということは、通貨の信認を維持するという観点からは誠に遺憾なことだと思う。
私どもでは、これまで関係当局──財務省、警察庁──と連携を取りながら、偽造券の特徴点等について金融機関等に注意喚起を行っているほか、ホームページ等を通じて一般向けの広報にも注力している。また、日本自動販売機工業会など関係業界に対して両替機・券売機等の検知精度──偽造券を検知する機械の精度──を引き上げるように要請しているところである。
さらに、本行では、偽造券の発見をより容易にし、その流通を防止することを狙って、昨年の10月以降、きれいな銀行券をより多く市中に流通させる措置も講じている。日本銀行としては、今後とも関係当局と密接な連携を取りながら、偽造事件の再発防止に向けて努力してまいりたいと思っている。
偽造券については、日本は、他の国に比べて非常に少なかった。特に欧州などでは、私もBISの会合などでよく偽造券の話を聞いたり、他の国の例を聞いたりしている。これは余談だが、ダンテの「神曲」の中に「地獄編」というものがあり、地獄に入って来る人の中で一番苦しんでいるのは通貨の「贋造(がんぞう)」、即ち偽造を行った親父さんなのである。このように、欧州では市民の信頼の基礎である通貨というものを偽造、贋造して自分の金を儲けるということは、最悪の罪人であるということが常識になっている。日本でも、このようなケースが出てくるということは、これから余程注意していかなければならないし、関係当局ともよく話し合って早い時期にこれを阻止していけるようにしていきたい。
【問】
最近比較的安定していた長期国債の利回りが、節目とされていた1.4%を上回り、市場の中では長期金利の上昇懸念が出始めている。先程、財政の話もあったが、国債買い切りの対象を広げたということを、財政規律の面とあわせて不安視する向きもあるが、最近の長期金利の上昇についてどうみているか。
【答】
上がっているといっても、1.42~1.40%といったところであるから、ここに来て高くなってきた、国債価格が下がってきたというものではないと思う。今回、国債の買入銘柄の拡大をして、これまで発行後1年以内のものは買わないとしてきたものを直近の2銘柄は買わないと切り替えた。それだけ、買い入れる範囲は広くなったということが言えると思うが、それは決して引き受けに近づいたという性格のものとは全く違う。ご承知のように、国債というものは2銘柄分ぐらい出回って、そこで収まると金融機関や個人も含めてだと思うが、期日まで持つというのが多い。そういう意味で、この2銘柄だけは買わないが、その前に出たものは買って行くことによって、買入の範囲を拡大した。これは国債市場の整備状況をみながら政策を決めたということであって、「引き受けへの一歩前進で、そんなことでは国債は信用できない」というものではないということをよくご理解頂きたい。
【問】
先ほど為替の話があったが、円安を容認していないのは日銀、ということか、財務省を含めて政府がということか。
【答】
日銀は容認していないし、容認しているとおっしゃった人がいるかどうかは知らないが、財務省も容認はしていないと思う。それは塩川さんともよく話をしてある。
以上