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政策委員会議長記者会見要旨(2月28日)
2002年3月1日
日本銀行
―平成14年2月28日(木)
午後3時から約65分
【問】
今回、一段の金融緩和に踏み切った理由と、その期待される効果についてお伺いしたい。前回の記者会見では、政府の求めていた国債の買い入れについて今の段階では必要ないというお考えを述べられたが、今回どういった判断でこれに踏み切ったのかという点を伺いたい。
【答】
発表文はお手許にあるかと思うが、ここで特に強調したいところだけ先に言わせて頂く。
2つ目に書いてあるとおり、「年度末を控え、金融資本市場などの展開如何では、流動性需要がさらに高まる可能性がある。金融市場の安定確保に万全を期すことは、デフレ・スパイラルに陥ることを未然に防ぎ、景気の持続的回復を目指す上で、極めて重要である」ということである。決定したことは(3.に書いてある)4つであるが、これはお読みになれば判ると思う。
次に、4つ目にある点は、今までも書いてきたことであるが、「日本銀行の思い切った金融緩和が経済全体に浸透していくためには、迅速な不良債権処理を通じて金融システムの強化・安定を図るとともに、税制改革、公的金融の見直し、規制の緩和・撤廃等により経済・産業面の構造改革を進めることが前提となる。この点について、政府および金融機関をはじめとする民間各部門の一段と強力かつ果断な取組みを強く期待したい」と思う。
それから5.のところで述べたとおり、「最近の物価の継続的な下落傾向は、輸入依存度の上昇等の供給構造の変化に加えて、経済全体の需給バランスの悪化を反映している。日本経済がデフレから脱却するためには、上記4.の措置を含む抜本的な対応により、民間経済活動の活性化を図り、わが国経済を持続的成長軌道に復帰させることが不可欠である」という点であり、この辺のところが、特に強調したいところである。
ご質問にある「何故ここでやったか」ということについては、今読んだ2.のところにあったように、やはり3月を迎え、年度が変わればペイオフも解禁になるし、こういうデフレ状況の中で、銀行の株価が下がったり、不良債権の整理が進み始めたり、倒産会社が出たりといったような、金融システムへの不安なり脅威がある。皆がシステミック・リスクを何とか回避していきたいと思っている訳だが、3月は19日、20日の決定会合1回しかないので、年度末に間に合うように政策を決めるとなると、今日決めておかないと制度が動き出さないということでやった。
昨夜、諮問会議があり、政府のデフレ対応策が発表された。それと整合的に、タイミングも一致してこの政策が決められたということは、私としては良かったと思っている。関係大臣にもご報告したが、皆さん喜んで下さっていたようである。
「効果」については、先程申し上げたように、デフレ・スパイラルを何とか回避して景気の持続的な回復を目指していく上では、金融市場の安定を確保するということが極めて重要であると思う。今回の措置は年度末を控えた金融市場の安定化に万全を期して、金融緩和効果を途切れなく浸透させていくことに大きく寄与するものと考えている。
【問】
昨日決まった政府のデフレ対策について伺いたい。小泉総理と総裁が直接会談されて、公的資金の早期投入を含む抜本的な不良債権処理が必要だという考えを伝えたと言われているが、昨日公表されたデフレ対策の感想と、それが今回の政策変更に及ぼした影響について伺いたい。
【答】
かなり広範な対応策が書かれているが、デフレ脱却のためには、迅速な不良債権処理を通じて金融システムの強化・安定を図るとともに、税制改革や公的金融の見直し、規制の緩和・撤廃といった経済・産業面での構造改革を通じて、民間の経済活動を活性化させ、需要を高めていくことが必要不可欠である。
その過程では、ある程度の「痛み」と「時間」がかかるということで、今まさにそれが始まったところである。不良債権への対応というのも構造改革の「痛み」のひとつだと思う。今回の対応策が不良債権の早期処理と金融システムの強化・安定に寄与していくことと、同時に、構造改革の具体的な取組みが力強く進められることを通じて、経済活動が活性化していくことを願っている。
日本銀行としては、既にデフレ脱却に向けた強い決意を表明し、今般の措置も含めて、思い切った金融政策を行っていくつもりである。今後とも、潤沢な資金供給とシステミック・リスクの顕現化回避の両面で、中央銀行としてなし得る最大限の努力を続けていく方針である。
構造改革を進めていくためには、「痛み」が伴うというのは前から言っていることである。小泉首相は、「構造改革なくして成長なし」と、経済成長するためには構造改革しかないのだということを繰り返し言っておられる。経済成長なくして、また物価の上昇はないと私は思う。そういう意味で、デフレ対策と構造改革とは別だとおっしゃる方もいるが、私はそう思っていない。構造改革をひとつひとつ進めていく過程で、民間需要が創り出されていって、物価が上がっていって、デフレが解消されていく、という順序であると思う。
いくらお金だけ出しても、物価が上がっていくものではないと思う。日本銀行で出しているマネタリーベース(ハイパワードマネー)は、2月の途中経過で前年比27%位増えている。1月が23%だったが、これだけお金をドンドン出しているが、やはりまだ貸出が増えるところまでいっていないし、マネーサプライも3~4%しか増えていない。まして成長とか物価は、なかなか明るいものが出てこないということである。私どもの通貨面からの押上げというのは、構造改革を速めていくことに伴い、デフレを回避することに役立っていくと思う。
【問】
デフレ対策の中に、政府として資金繰りに窮した金融機関への日銀特融を求めたいと書かれているが、本日の決定会合の中で何か議論があったのか。また、今の時点での総裁のお考えを伺いたい。
【答】
本日は、ロンバート貸付について、今まで5日間だったのを、3月1日から4月15日まではいつでも公定歩合で貸せると切り替えたのであって、特融のことは、今日は何も触れていない。
私どもは、4つの原則を作ってそれに適合した時に特融を出すということになっている。(1)システミック・リスクの惧れがあること、(2)不可欠性というか、これ以外に方法はないということが確認された時、(3)モラル・ハザードを防止する、(4)これによって日銀財務の健全性が崩されない、この4つの原則に適合する場合には、日銀の特別融資が出せるのである。これも、勿論、政策委員会にかけて決定することである。
必要があれば、資本注入を含む政府の金融システムの安定化策と併せて実施することも適当なことがあると思う。
【問】
政府の対策では、日銀に思い切った金融緩和を要請するとなっているが、今回の施策はどちらかと言うと、金融システムに光を当てた金融緩和になっていると思う。政府とか自民党の中には、デフレ対策で日銀はもっとアグレッシブな政策を取るべきで、国債の直接引き受けやインフレ・ターゲット等をやって、もっと役割を果たしていくべきだという議論が根強くある。こうした声に対して今後応えていく用意があるのかどうか、伺いたい。
【答】
今回やったことは追加緩和策といってもよいくらいだが、今までもかなり思い切ったことを随分やってきた。ゼロ金利もそうであるし、量的緩和も古今東西の中央銀行の歴史にはないことである。そういうことをやってきて、その成果が構造改革を通じて民間需要の創出という形で出てくるのを待っているのが現状である。それは、現に少しずつ出てきていると思う。そういうものを、この機会にもう少し追加して、流動性を出す。3月末はペイオフ解禁直前であるし、銀行にとっては株価が時価評価となって、外国人の株主が随分邦銀の株を売って、株価を下げている。そういう情勢の中で、どうやって年度末を越えて行くのか。今まで銀行は、株の含み益が不良債権の償却に使える一つの含み資産だった。それが時価評価になり、銀行の不良債権が一向に減っていかないということで、銀行の株価が下がってきている。これまでは含み益で償却、あるいは投資に使えたものが、むしろ含み損になっている。株で出てきた損失を資本金で埋めていかなければならない。それでなくても不良債権の償却には、資本金を使っていかなければならない。自己資本については、これからは、そんなに大きな増資が出来るところはないだろうから、やはり自分で貯めた資本金を使って消していかざるを得ない。どうやって収益を増やしていくかということについては、銀行も去年の秋ぐらいから、貸出の合理化を通じて、収益を増やそうとしているし、リストラもやっている。収益は今15行で年間4兆円ぐらいだと思うが、そう急速に収益が増えていくことは無理なことである。
そういった中で、期末を越えていかなければならない訳で、非常に難しい時期だと思っている。不良債権がある上に、持っている株がどんどん下がっていくだけでなく、自社の株も売られていくという、今まで経験したことのない難しい状況の中で、年度末を迎え、しかもペイオフが始まるということであるから、金融機関は非常に苦しい局面に立っていると考えていかなければいけないと思う。
思い切った手段があるかと言っても、思い切ったことをやれば必ず副作用もあるし、やったことのないことをやるというのは危ないことである。特に、デフレの中でのインフレ・ターゲットというのは、他国でもやった例はないし、効果があるとも思わない。インフレを抑えるためのインフレ・ターゲットならよいが、デフレの最中にインフレ・ターゲットを設けるというのは、私は意味がないと思っている。
【問】
発表文の中でも、今回の金融緩和が浸透していくためにも、迅速な不良債権処理を通じて金融システムの強化を図る必要がある、ということが強調されているが、現状で、公的資金の投入を含めて、不良債権の処理を、どんなスピードでどのようにやるのが一番効果的とお考えか、伺いたい。
【答】
これは銀行によって違うと思うが、他の国でも、ベルリンの壁が崩壊して戦争がなくなり、90年代に入りディスインフレでその時に不良債権が出て、1年か2年で大体の国がそれをなくして、銀行が健全化していった。日本の場合は、丁度その頃、バブルが弾けて、景気もよくなく、それをなんとか保つために、赤字国債を出して公共投資をやり、2%前後の成長を保ちながら10年過ぎてきた訳だが、それが終わってみて残ったものは、一つは不良債権。それから、政府は大きな赤字を残し、大量の国債を発行した。経済全体で見れば、その間にも賃金も増えていって、日本は相対的に非常に高賃金の国になった。そういったものが残って、悪い面だけが浮き彫りになってきているのが現状である。そういった中で、不良債権を消していくのは、非常に難しいし、もっと早く動いて、早く出していけば良かったとも思うが、経済全体の不況の中で、銀行が稼ぎや資本を増やしていくということは難しいことである。
公的資本の注入は、私は早くやるべきだと思うが、この点について、特に海外は、日本はどうやってこれを解決していくのかということを、皆注目していると思う。不良債権処理をスピードアップしていけば、自己資本が少なくなっていくことは仕様がないことで、そのための資金をどこから出すかといったら、やはり収益が急速に増えないのであれば、先程も申し上げた含み益も使えず、むしろ含み損になっている訳であるから、やはり何か起った時には、大胆かつ柔軟に対応していかないといけない。そういう時に、公的資金の注入が起ってくることは十分あり得ると思う。
【問】
先程総裁は、公的資本注入は早くやるべきだという話をされたが、これは総理または柳沢金融担当大臣がおっしゃっている意味ではなく、予防的に公的資本注入をやるという意味なのか。また、今回の措置は金融政策の変更、つまり追加金融緩和であると総裁は認識されているのか。
【答】
金融の緩和は一生懸命やっているところであるが、今度の措置も追加緩和と言って良いと思う。
それから、公的資金の注入というのは、新しい預金保険法102条をご覧になるとわかると思うが、予防的にも必要な時に公的資金は使えると書いてある。そういうやり方も考えていかなければいけないだろうと思う。
金融危機対応会議は総理が招集をかけて、総理を入れて6人の会議で決めれば使える訳だが、これから必要に応じてそういうことが起ってくるのではないかと思う。
【問】
昨日の政府のデフレ対策と今回の緩和に至るまで、総裁は19日に直接首相に会われて、その後に経済閣僚と早朝に懇談したりと、かなり異例の動きがあったと思うが、この中で総裁はどういったことを主張されたのか。
塩川大臣は、昨日の早朝の会談の中で、総裁はかなり前向きな発言をしてくれたとおっしゃっていたが、そこでの話し合いが総裁のお考えにどのように影響したのか。さらに、塩川大臣は日銀には1兆円やってほしいと、数字まで挙げて話を出された訳だが、日銀の独立性や政府の介入との関係で、どのようにお考えか。
【答】
小泉首相とは、諮問会議でお話する機会はあっても、ゆっくりお話はできないので、この前ブッシュ大統領のパーティーでご一緒になった時に、一度ゆっくりお話ししたいと申し上げて、翌日帰られた午後に時間が空いていたのでお訪ねして、30分ぐらいだったが今の金融情勢、経済情勢、そして金融市場の状況をお話しした。非常に一生懸命聞いてくださって、その中にはもちろん不良債権の償却の話も含まれていたことは確かである。しかし、そのために訪問した訳ではない。
それから、経済関係の大臣、特に諮問会議のメンバーとは割合よくお話しするが、金融大臣や、出ておられない方もおられるので、そういう方々と、国会があるときはなかなか時間が取れないが、塩川さんが色々苦労なさって会を開くようにしている。それも1時間くらいであるが、色々な話ができるので、意見交換、情報交換の場としては非常に良いと思っている。
私は1兆円という話は、塩川さんからは聞いていない。皆さんがお聞きになってお書きになっているのではないかと思う。
【問】
塩川財務大臣が具体的に1兆円と、前日か前々日だったと思うが、国債の買い切り額を増やしてほしいというふうに言っていた訳だが。
【答】
私は1兆円という話は塩川さんから聞いてない。皆さんがお聞きになってお書きになっているのではないかと思うが。
【問】
本日の措置について、金融緩和と言ってよいとのことだが、実際に決定したのは、年度末に向けて安定確保に万全を期すために10−15兆円の目標にかかわらず一層潤沢な資金供給を行うということである。前回までのディレクティブにも、もともとなお書きとして、必要な場合には、急激な資金需要が高まった場合には資金を出す、と書いていた訳で、あえてここで書く必要があったのか。その上で長期国債を1兆円にしたということだが、この長期国債1兆円のことを追加緩和と言っているのか。逆に言えば、これ以降、長期国債の買入れ額を増やすことが金融政策の中心となって、長期国債買入増額イコール追加緩和ということになるのか。
【答】
そうではない。そんなことはない。この4つが追加緩和である。今、ご承知のように15兆円近くある訳だが、これから3月の年度末を迎えて銀行が手許に資金を置きたいのは当然である。手許に置いておかないと、いつ何が起こるか分からないから。手許に置いておくということは、日銀に預けておくということだから、3月下旬に入ると、当座預金の残高は増えるだろうと思う。そういうことに備えて、今までのような一般的な表現ではなく、3月、4月にかけて、流動性需要が増大してきたときに、一層潤沢な資金供給(流動性の供給)が出来るように、既存の但し書きを書き換えた訳である。これは資金的には非常に大きなことだと思う。長期国債2千億円というのは、全体で言ってそう大きなものではないと思うし決定会合で決めなくてはいけないことではない。これは事務方が自分たちで情勢判断して、決められることである。それを、どなたかが言い出されてそれを新聞が盛んにお書きになったから、長国1兆円というのが有名になっているが、我々の政策手段としてはそんな大きなことではないと思う。また、10年物ばかり買ったら政府の資金調達にはなるかもしれないけれども、中央銀行がこんなに買ってしまったということになれば、やはり信用にもかかわることになるので、価格が下がり金利が上がることが起こり得る。その辺は情勢を見ながら決めていかなければいけないことだと思う。
【問】
ということは3、4月が終わってその需要が落ち着けば、この1兆円をまた減らすということもあり得るのか。
【答】
景気が変わっていけば、そういうこともあり得るだろうが、まだ今はそういう情勢は見えていない。
【問】
昨日FRBのグリーンスパン議長が米国の景気回復がかなり確固たるものになっていると証言したが、日米の景気格差はこの先もより開いてくるのかと思われる。実体面では米国経済の回復というのは好ましいことだろうが、市場面には日米の景気格差はどのような影響を及ぼしていくのか。日本売りにつながるようなことはないのか。
【答】
米国も昨年9月のテロ事件で随分揺らいだ訳だが、もともと生産性の伸びが非常に高い経済である。一時的に流動性需要が増えたり、職がなくなったり、需要がなくなったりというようなことで、経済が低調となったが、財政も出すことにより、経済も落ち着いてくれば、もともと生産性の高い経済だから、日本より回復が早いのは自然だと思う。よくあれだけ次々と金利を下げて、公定歩合も下げ、市場金利も下げているのだが、長期物の国債というのは下がっていない、5%である。これなんかも、随分日本と違うところだなと思う。だけども米国が良くなることは我々にとっても明るいことだと思う。
【問】
日米の景気格差が広がることによる、市場への影響をどう考えるか。日本売りに繋がると考えるか。
【答】
動きは色々あるだろうと思う。一時、トリプル安が生じて、アメリカの方へ流れるような動きがあったが、これも一時的な動きであると私は思う。日本が早く立ち直って、構造改革がひとつひとつ進んでいけば、また資本も戻ってくるであろう。もともと、日本の方が経常収支も黒字で、対外面でも、1兆2千億ドルの債権超過を持っている。アメリカはどちらも赤字である。そういうポテンシャルというか、底力は日本は十分持っている。今のデフレ状態から早く抜け出すためには、民間の需要、企業と家計の需要が増えていかないと景気は良くなっていかない。そのためにも構造改革をやっている訳で、日本の賃金が高くても、競争力のある新しい技術や新しい機械を使って物を作ったり、あるいは新しいサービス産業を興したり、そういうことをやっていくことによって、日本経済は立ち直れると思う。そういう構造改革の成果が出てくるまで、流動性を供給して、それを下支えしていくというのが私どもの今やりつつあることである。やはり、願うことは、構造改革を進めて欲しいということ。その第一歩として、不良債権の整理があると思う。特に、諸外国は皆それを見ている。
【問】
先程、総裁は「国債買い入れ1兆円」というのは大きな話ではないとおっしゃったが、確かにそう思う。一方、ディレクティブもほとんど変わっていない。そうなると、今回の措置の眼目は政府との協調、さらに言えば、政府のデフレ対策にお付き合いする、以上でも以下でもない、と失礼ながらお見受けできるが如何か。
【答】
年度末に何が起こるか分からないことに備えて、これだけの非常措置を講じた訳で、非常に大きな対策だと思う。それと、ここに書いてあるように、緊急措置としてロンバートを工夫したり、あるいは当座預金残高目標の特例を設けたり、適格担保を拡大して、預金保険機構や地方交付税特別会計で、銀行が貸している債権を適格担保に取ると。これはまだ制度を作らなければならないので、すぐは使えないが。こういうことをやって流動性を供給すると同時に、何か起こった時には、すぐに対応出来るということを見せておくことにより、皆さんが安心して年度末を越せることになるのであろうと期待している。
【問】
総裁は、これまで金融緩和の度に、政府の圧力などを一貫して否定されてきたと思うが、今回は、塩川大臣もはっきり要求されているし、総裁もデフレ対策と一緒になって良かったとおっしゃった。今回に限っては、政府の要求を踏まえて決定したのか。
【答】
要求でない。こちらが年度末をどうやって越えるのかということで、政策を作ったのであって、別に政府に言われたからやった訳ではない。
【問】
先程、総裁は公的資金の注入に関して、予備的にもできる、出来るだけ早くやるべきだということであった。特に金融市場は、4月1日を金融機関がどのように迎えるのかということを一番気にしていると思う。総裁のお考えでは、やはり年度内に公的資金注入をやっていくべきだという認識なのか。
【答】
年度内にやれればいいと思うが、金融庁の検査結果がまだ出ていない。3月いっぱいかかるのであろう。それが出るのを待っているというのが金融庁の今のスタンスではないか。
【問】
先程、長期国債買い入れの2千億円増額について、「あまり大きなものではない。しかし10年国債ばかり買っていたら金利上昇に繋がる恐れもある」と言われたが、大した金額でないのであれば、心配しなくてもよいのではないか。
それとも、今後は10年国債に限らず、もっと短かいものをバランス良く買うということか。
【答】
今も、短いものを既に買っている。
【問】
それでは、「情勢をよく見ていきたい」といわれたのは、どのような趣旨か。
【答】
長期国債と言えば、10年物が今までは専ら市場の商品だったと思う。最近では、中期の国債を出すようになったから。
【問】
日銀特融について、これまで総裁は国会答弁の際に、公的資本注入を含む政府対応と併せて実行したいとおっしゃっていたが、先程の答では必ずしもそれに拘らないというように、やや変化を感じた。昨日の政府のデフレ対策では、特融の単独発動もありうべしという書き方だったが、ペイオフ解禁後の特融の単独発動についての総裁の見解を伺いたい。
【答】
「どこの銀行がおかしい」という風評が出て、それでその銀行が取り付け騒ぎになりそうだというようなことは今までもあった。そういう時に流動性を供給しなくてはならないという時は特融の対象になると思うが、今の金融システムの問題というのは、単なる風評の問題だけでなく、不良債権や市場が銀行の体力をどのように見ているかということが影響するので、必要があれば資本注入を含む政府の金融システム安定化策と併せて、こちらも先程の4条件を満たすのであれば貸すことになると思う。
【問】
他に方法がないという時に、「日銀特融ではなく、公的資本注入という方法があるではないか」との反論が日銀にとってあり得るということか。
【答】
それは公的資本がうまく出せればいいがということである。
【問】
年度末の資金需要対応については、事実上の青天井という宣言をしたのだと思うが、どの位の水準を想定しているのか。
【答】
よくわからないが、担当の話を聞くと、20兆円を超えることもあり得ると言っている。今のところ一時的に札割れがなくなっているが、また4月になってからどのように市場が変わっていくかということが読めない。従って、3月~4月にかけて、こうした特別な制度を設けて対応していくことを今回決めることができたのは良かったと思っている。
【問】
預金保険機構向けと地方交付税特別会計向け貸付債権はどの程度の規模なのか。
【答】
残高はそれぞれ16~17兆円である。銀行としては担保に取ってくれるとありがたいのだろう。
【問】
RCC(整理回収機構)向けに日銀がファイナンスをして、不良債権の買い取りを進めたらどうか、という意見が自民党から出ていると思うが、預保向けの民間からの貸出を担保に取るということは、日銀としては預保向け、あるいはRCC向けにファイナンスするつもりはないということを意味するのか。
【答】
RCCの話は別の話だと思う。まだ、RCCの話は、我々のところには来ていない。
【問】
今までは、当座預金残高目標を増やすことと長期国債の買入額を増やすことはセットになっていたと思うが、今回、基本的に当座預金残高目標自体は変わっておらず、これまでのロジックとは異なると思うが、例えば、当座預金残高目標を15兆円以上にするといった議論はなかったのか。今回、これを全く変えなかった意味合いはあるのか。
【答】
今回、10~15兆円の当座預金残高目標に特別の但し書きを設けたのは、年度末対策であって、年度末、年度初の混乱が終わればまた落ち着いてくると思う。ここでベースを増やす必要はないと思う。
【問】
昨日ダイエーの再建策がまとまり、年度末にかけてゼネコンの債権放棄も進んでいきそうな感じだが、こういう動きについて総裁はどういうふうに見ているか。不良債権処理が進んでいるという証なのか、あるいは、まだこういうものでは不十分というふうに評価しているのか。
【答】
やはり金融機関というのは借り手(borrower)の情勢がどうなっているか、によって銀行の動きが変わってくる訳だから、そこは借り手(borrower)の状況に皆が注目し始めた、──今度の特別検査なんかもそうだろうが──ということは、やはり構造改革の一歩前進であり、不良債権整理の方法を考える場合の大事な資料だと思う。
それから日本は戦後特殊なメインバンク制というのが出来て、債務者の業況が悪化しても銀行が面倒を見て行くというケースがあった訳で、その点も今度金融機関の見直しが起こってきた一つの原因だと思う。やはり金融再編を契機にしてメインバンク制というものが見直されているのだと思う。従来のメインバンク制だったら、とにかく悪くてもなんとか助けて行こうと、お互い株も持ち合っているし、預金・貸出両方で面倒を見て来たが、金融再編が起こって、それと同時にこういう不良債権を整理しないといけないということになってくると、どこから先に手をつけるかということが問題になってくる訳である。そういうことが同じ業種の中で再編がきっかけになって、なかなか方針が決まらないというケースを随分耳にした。しかし、いつまでもそれでやっていけず、ここへ来て思いきって3行なら3行が金を出し合って企業の再生を企画するというのが、この間のケースなのだろう。ああいうのが良いのか、それともだめなものはだめとした方が良いのか、その辺は難しい所だと思う。
【問】
今日の会合で財務省からの出席者は予言どおり長期国債の買い切りオペを1兆円にして欲しいという要望をしたのか。
【答】
出ていない。
以上