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総裁記者会見要旨(3月25日)

2002年3月26日
日本銀行

―平成14年3月25日(月)
午後3時から約50分

【問】

「景気は循環的に見ると回復局面に入りつつある」という見方が増えているが、その一方で、その持続性や回復力の強さについては疑問視する向きもまだある。そうした点も含め、当面の景気の現状について総裁の認識を伺いたい。

【答】

「金融経済月報」を先週末公表したからお読み下さったと思うが、そこにも書いたように、景気の現状については「輸出や在庫面からの下押し圧力は弱まりつつあるが、全体としてなお悪化を続けている」と、前月に比べ、判断を幾分上方修正したということである。

若干内容を言うと、設備投資とか個人消費といった国内最終需要の方は、弱めの動きが続いている訳で、家計の雇用、所得環境も厳しさをむしろ増しているような感じはする。

その一方で、やや明るい方と言えば、海外経済の回復に向けた動きが、一段とはっきりしてきており、これを受けて、わが国の輸出も下げ止まりつつある。それによって国内の在庫調整も一段と進んでおり、生産の減少テンポもかなり緩やかになってきていると言える。

先行きについては、輸出の回復などに伴って生産が下げ止まるにつれて、景気全体の悪化テンポも次第に和らいでいくと予想している。

ただし、景気の脆弱な地合い自体は引き続きある訳だから、こうした中で、内外の金融・資本市場の動きが実体経済に悪影響を及ぼすようなリスクについては、引き続き留意していく必要があるというのが私の今の感じである。

【問】

一頃に比べて株価が回復してきたということもあり、年初言われた3月危機は回避されたのではないかという楽観的な見方が広がっている。ただ、その一方で、危機は先送りされたに過ぎず、銀行の決算が公表される時期や、中間期末が近づけば、また同じことが繰り返されるのではないかという懸念も残っている。総裁ご自身、今後危機が再燃する可能性について、どういうふうに見ているか。

【答】

一頃に比べて、株価が上昇したことから、わが国の金融システムについての見方が幾分緩和した面もあるが、基本的には引き続き厳しいと受け止めてよいと思う。そういった厳しい見方の基本的な背景は、不良債権問題があることだと思う。多くの金融機関で毎年多額の不良債権処理が行われているにも拘らず、地価の下落や景気の低迷、構造問題の深刻化などが背景にあって、新規に不良債権が発生して、残高がなかなか減るところまで行っていないということだと思う。また、既存の不良債権が劣化しており、金融システムにとって、不良債権問題の克服は依然として最大かつ喫緊の課題ではないかと思う。

4月からのペイオフも控えて、各金融機関が不良債権処理を迅速かつ適切に行って内外市場からの安定を確保していくこと、信認回復に努めていくということは、金融システム全体の安定を確保していく上で、非常に重要なことではないかというふうに思っている。

これでお答えになったかどうかはちょっと分からないが、3月末になって甘くなったのかどうかということについては、まだはっきりしたことは言えないのではないかと思っている。株、特に銀行株が下がったり、一時は色々な事情があったにしろ、盛り返して来た。ここへ来て、また若干下がりつつあるけれども、あと残された数日、グッド・フライデーとかイースターが週末控えているから、海外市場の方はかなり静かだろうと思う。それだけに、国内はまたナーバスにはなるかもしれないけれども、ここまで何とか持ち込んで来れたということは、よかったと思っている。

【問】

総裁は先月の記者会見で、公的資本の注入については、「早くやるべきだ」、「場合によっては年度内にもやれればよい」と発言をされていた記憶があるが、特別検査の結果が出るのに時間がかかるうえ、株価が回復傾向にあることもあって、現段階では早い段階での再注入は必要ないのではないかという見方が強まっている。そうした公的資金の注入を巡る今の動き、必要性について総裁は現段階でどういうふうに考えているか。

【答】

繰り返しになるが、わが国の金融システムに対する内外市場の見方というのは、やはり不良債権問題を背景にしていると言ってよいと思う。私が海外に行った時に聞く話も、また、この間もハバード米CEA委員長が来て話をした際も、やはりこの問題については、非常に鋭い眼で眺めている。

金融機関には不良債権処理を迅速かつ適切に行って、内外市場からの信認回復に努めてもらわなければ困る訳だが、その過程で、金融システム全体の安定について、疑問が呈せられるような事態になれば、タイミングを逸することなく早目に対応していくのがよいと思う。

前回の記者会見でも、そういった趣旨のことを申し上げたと思うけれども、公的資本を早くやれということは前々から私は思っている。ただ、特別検査とか、現在金融庁がやっていることを十分に受けて、対策を打っていくべきであると思う。ただ、「万が一の時にはこれがあるぞ」ということは、内外にはっきり言っておく必要があると思う。

【問】

ペイオフの解禁をいよいよ4月1日、つまり1週間後に控え、柳沢大臣は、「ペイオフ解禁に向けた銀行の体制整備はできた」と言わば安全宣言を出したが、4月1日で営業している銀行について、預金者は、すべて健全であると信頼してよいのか。中央銀行総裁としての見解を伺いたい。

【答】

現時点で直ちに体力面で問題がある金融機関があるとは認識していない。

しかしながら、繰り返し申し上げているように、わが国金融システムにとって、不良債権問題が依然として最大かつ喫緊の課題であることは間違いないと思う。

したがって、金融機関としては、ペイオフ解禁後も不良債権処理に向けて迅速かつ適切な努力を重ね、内外市場や預金者からの信認確保に努める必要があることを重ねて強調しておきたい。

【問】

昨年3月、日本銀行は例のない量的緩和に踏み切り、1年が経過したが、こうした中で経済の実態を見ると、景気もなかなか上向かない、デフレについても改善の状況がみられていない。この間の量的緩和策が本当に効果があったのか、疑問視する声もある。総裁はこの1年を振り返って、量的緩和の効果をどう考えるか。また、それを踏まえて、今後の金融政策の運営──竹中経済財政政策担当大臣はデフレに向けた追加的な緩和策の第一歩というような言い方もされているが──について考えを伺いたい。

【答】

ちょうど1年経った訳であるが、この金融緩和措置は、金融市場にはかなり強力な緩和効果をもたらしたことは間違いのないところだと思う。短期金利はほぼゼロに低下し、マネタリーベースも、第1次石油ショック当時以来の前年比3割近い伸びを示している。

このような金融緩和は、昨年来、金融市場の安定確保を通じて景気の底割れを防止するという点で、大きな役割を果たしてきたように思う。

しかしながら、日本経済が様々な構造問題を抱える下で、金融緩和の効果が、企業や家計の経済活動を十分に活発化させたかどうかについては、まだそこまでいっていないと言わざるを得ないと思う。

日本銀行は、今後とも、金融市場の安定確保と緩和効果の浸透に全力を挙げていく方針である。

同時に、こうした金融緩和が力強い効果を発揮するためには、いつも言うことであるが、金融システムの強化や経済・産業面の構造改革を進め、それによって民間需要を活性化させていくことが不可欠であることは申すまでもない。

【問】

先週、スウェーデンとニュージーランドの中央銀行で利上げがあり、9月11日の同時テロ発生以降の世界的な利下げのトレンドが反転してきているように見受けられる。そういった中で、日銀は先週、20か月振りに景気判断を若干上方修正したが、日銀の金融政策がこれからどちらに向かっていくかということが海外から注目されている。その辺を含めて総裁の見方を伺いたい。

【答】

今申したように、我々はできる限りの金融緩和をやってきて、その効果は数字でもはっきり出ている。いつも示すように、マネタリーベースが3割近く増えても、マネーサプライは3~4%、貸出は未だマイナスという状況が続いている。やはりそういったものが企業や家計に浸透していかないと、物価の安定化、あるいは経済の成長は起こってこない。そのためには、やはり、先程も申したように、民間の需要(企業や家計の需要)を引っ張り出すような、構造改革の色々な手が早く打たれていくことが必要だと思う。

その中の最も必要なもののひとつは、不良債権への対応である。小泉政権が動き始めている訳であるが、政治の方は今のところ色々な問題が起こって、おそらく国会の方もそちらに取られる時間が多いのではないかと思うが、財政金融政策を早くまとめ上げて実施に移していくということが必要であると思っている。

我々の方で、あと何ができるかということをよく聞かれるが、やはりデフレから脱却するためには、金融システム面や経済・産業面での構造改革を通じて、民間需要を活性化させることが不可欠である。この点の重要性は、現在も全く変わっていないし、それができないと金融緩和効果も本当の意味で出てこないと言ってもよいかもしれない。

日本銀行としては、物価が継続的に下落することを防止するという断固たる決意のもとで、今後も、金融市場の安定確保と緩和効果の浸透に、全力を挙げていく方針である。

【問】

先週末、中国人民銀行の総裁が来日する際に、日中通貨スワップ協定が結ばれるとの報道があったが、その事実関係についてご説明頂きたい。また、今後、中国人民銀行との関係をさらに深めていくお考えがおありなのかどうか、またその方向性などについてもご説明頂きたい。

【答】

中国人民銀行とのスワップ取極については、いずれ公式に公表されると思うが、一昨年タイのチェンマイで開催された蔵相会議において、ASEAN諸国、日本、中国、韓国の13か国の間で、2国間のスワップ取極のネットワークを構築することが合意された。

これは、東アジアにおける通貨・金融協力の強化促進を狙ったもので、チェンマイ・イニシアティブと呼ばれている。

このイニシアティブに基づいて、日本と中国の間で、円と中国元のスワップ取極を両国の中央銀行で結ぶことになった。

日本銀行は取極が中国人民銀行との協力関係を一層推進することに資するものと確信している。

細かいことはいずれ発表できると思うが、日中の国交回復は1972年に田中総理が北京に飛ばれて始まったことだから、ちょうど30年になる。その日中国交回復30年のこの時期に調印をしたいということで、人民銀行の戴行長が今週来られることになっている。中国は隣国であるし、歴史も古く、我々と関係の深い国である。経済大国になりつつあるところで、私どもとしても色々な形で情報を交換し合い、協力しあって行くべき相手であると思っている。そういう意味で、これは一つのよい機会になると思っている。

【問】

総裁はかねて、内外の見方として邦銀の資本不足を指摘されているが、内外の見方を引くまでもなく、日銀は考査で各金融機関の財務の内容を知る立場にあると思う。日銀考査の結果を踏まえても、日本の銀行は資本不足と言えるのかどうかということを伺いたい。

もう一つ、先ほどの発言の中で、現時点で日本の金融システムに関して直ちに問題はないという箇所があったが、一方では、前々から公的資本は必要だと思っているとおっしゃっていて、どうも矛盾しているように感じるが、その点についてご説明頂きたい。

【答】

私は、会計ルールに則った繰延税金資産の計上とか、公的資本のカウントの是非というものを問題にしている訳ではない。私がずっと言い続けてきたことは、あくまでも金融機関の中長期的な課題として、日本の銀行はもう少しコア・キャピタルを増やさないと駄目だということである。1998年の就任直後から、それをアメリカでも言ったし、日本でも言った。このことは皆さんもご記憶されていると思う。

これはどういうことかと言うと、繰延税金資産は色々と計算の数字がアメリカと日本では違っているが、いずれにしても収益がなければ機能しないものであるし、公的資本も、いずれ民間資本に切り替えていくためには、収益が増えていかなければいけない訳で、民間が出資に応じるに足るような収益力の強化が必要である。このことを、私はずっと言い続けてきたつもりである。

このことは、万が一、資本の再注入を行う場合には、尚更重要なポイントになる。コア・キャピタルを増やせということと、中長期的に重要な課題──収益を増やさなければいけないということ──と、万が一、金融システム不安が起った時に備えて公的資本を準備する──あるいは早く出せるものなら、出して支援していく──ということとは問題が別であるから、決して矛盾しているものではない。間違えないでご理解頂きたいと思う。

【問】

考査を踏まえて資本不足と言えるのかということについてはどうか。

【答】

表立った資本は9月に10%あったのだから、不足していないと思う。

しかし、大事なことはコア・キャピタル──真の自己資本である。結局、不良債権を償却していくためには、資本を増やさなければいけない。資本を増やすためには、収益を増やさなければいけない。収益を増やし、利益を出して、それによって自社の株も上がって、それで初めて民間の資本増加もできる訳だから、そういうことをもたらすものは、やはり収益力の増加であり、コア・キャピタルの増加であるということをずっと言い続けているのである。

【問】

日銀は、金融庁あるいは銀行自身と並び、銀行の資産内容がどうなっているかを知る立場にあると思うが、日銀の考査結果においても、邦銀は資本不足と言えるのかどうか、伺いたい。

【答】

自己資本、いわゆるコア・キャピタルは不足だと言えると思う。広い意味で自己資本とおっしゃれば、今の10%台という数字が出てくる訳であるから、それは決して少なくないと思う。BIS規制を上回っている訳であるから。その中身を問題にしている訳である。

不良債権を償却していくのは、結局自己資本、そういう意味でのコア・キャピタルが増えていく、その背景には収益が増えていかなければだめなのであるから。それを自助努力で進めていくことが大切だということを言っているのである。

【問】

資本の質の問題であるが、マーケットから発せられている疑いというのは、公的資金が現在入っているが、これは返済計画が付いた返さなければならない金であって、資本性が低いということである。そうであれば、総裁がおっしゃる公的資金を入れても、同じように資本の質はやはり問題だと思われてしまうのではないか。

【答】

中長期的には、それは解決にならないと思う。だけど、破綻してしまったらそれこそおしまいである。緊急措置として、公的資本の注入が必要なケースが起こってくると思っている。しかし、それをやったからといって、中長期的にその銀行が健全になったとは言えないと思う。

【問】

マーケットには、次に公的資金を入れる場合には、今までのような「返してくれ」という資本ではなくて、一般の資本と同じように毀損も覚悟したようなものでなければいけないのではないか、という意見もあるが如何か。

【答】

公的資金がそういったものでなければいけないということか。それは、皆さん色々検討は重ねておられるのだと思う。前にやった、あのような入れ方がよかったのかどうか、ということは色々と議論が分かれるところだと思うが。

【問】

日銀は3月の景気判断を僅かに上方修正したが、文言などを見ると日銀の判断は、政府よりやや慎重ではないかとの印象がある。日銀が政府より景気判断をやや慎重にしている理由があるのであれば、教えて頂きたい。

【答】

今回、政府の方が少し先になっていたと思うが、私はそんなに表現が違っているとは思わない。

【問】

総裁に就任して丸4年が経ち、その間、量的緩和を断行したり、石を投げられるなど、色々なことがあったと思うが、振り返ってみて如何か。

【答】

まだ、そこまで考える暇がない。毎日、毎日に追われていて。

世界全体がグローバリゼーションへ変わっていった時期に、日本はバブルの崩壊に対応するために赤字国債を毎年出し、公共投資を行い、成長をなんとか保ってきた。他の国は、グローバリゼーションに切り替わった時に──今、日本が困ったと感じているような不良債権の問題も含めて──、軍事産業が一斉になくなった訳だから、色々な意味で景気が悪くなった。その時期に、不良債権への対応、償却を欧米諸国はかなり手早くやっている。日本では、そうした時期に銀行としても手を打てなかったし、それが結局97、98年まで続いた結果、一斉に出てきた。

この間もお話ししたかもしれないが、一つは累積されてきた不良債権であり、一つは累積された赤字国債であり、もう一つはどんどん高くなっていった賃金、この三つのものが日本に残った。この三つがいずれも経済の前進を遮るものになってしまったと言える。そういうものを背負った超低金利というものを──それによって何とか物価が下がるのを防いでいこう、そして経済の成長を進めていこうということで、──日本銀行はかなり早い時期から動いたと思う。

ところが、IT産業で急激な在庫過剰が起こったり、テロ事件が起こったりと、思わぬことが起こって、日本のデフレ経済がなかなか明るくなっていかないというのが、この4年の経過である。私どもは、一歩一歩、前もって対応してきたつもりである。構造改革は動き始めたが、実際問題として規制の撤廃・緩和が本当に行われたのか、あるいは海外から入って来たビッグ・バンがかなりの効果はあったにしても、本当に内外の競争の自由化が同じ土俵の上で行われていたのかどうかということになると、やはり日本は遅れていた。

このままでは、如何に世界第2位の経済大国であっても、諸外国は相手にしなくなっていく可能性が十分あり、日本が取り残される心配がある。そういうことを考えた上で、金融緩和を続け、十分な流動性の供給をその都度行なってきたというのが、この4年の歩みである。

昨年、小泉政権になって、構造改革のための具体的な提案が次々と出され、遅れ馳せながら一つ一つ進んでいることは確かだし、私も経済財政諮問会議のメンバーに入れて頂いて色々意見を聞いたり、言ったりしている訳だが、そういうことを通して毎日毎日が過ぎていったというのが、今感じている4年の経過である。

【問】

端的に言って、長かったと感じているか、短かったと感じているか。

【答】

あっという間に4年間が経った。

【問】

銀行の不良債権処理の促進と収益力向上のために、できるだけ早めに手を打つべきだとおっしゃったが、大手行の大半がこうした問題を抱えている現状下において、公的資金の注入方法としては、個別注入よりは幅広く大規模に注入すべきとのお考えか。

【答】

公的資金の投入については、政府が決めることだから、今ここで私が意見を言うのは差し控えさせて頂きたい。ただ、日本銀行として、特融によって対応するのはどういう時機なのか、ということもよく聞かれるので、この点についてお話したい。

まず、申し上げたいことは、金融機関としては、ペイオフ解禁の後も不良債権問題をはじめとする重要な経営課題に一層前向きに取り組んでいくことが不可欠ではないかということ。また、そうすることが、金融機関に対する預金者からの信認の向上にも繋がっていくのではないかということが言えると思う。各金融機関においてそうした努力をした上で、なお金融システム全体の安定について疑問が呈されるといった事態に陥った場合には、金融危機対応会議の議を経て、公的資金注入等の適切な対応を講じる仕組みが決められている。日本銀行としても、現段階で具体的な事態とか、方策を想定している訳ではないが、万が一にもこういったことが起こった場合には、そうした政府の対応と併せて、金融システムの安定を確保していくために、流動性の供給の面から適切に対応して参る所存である。

この間も、日本銀行の特融4原則の話をしたが、どういう事態に日本銀行が出ていくのかといったような仮定の話には、今答えるわけにはいかない。一般論として申し上げれば、中央銀行が最後の貸し手(Lender of Last Resort)としての機能を果たすには、システミック・リスクの顕現化を回避するためのものであることが必要であるということ、それから特にわが国の中央銀行として財務の健全性を常に確保するように慎重な配慮を加えながら、政策運営を行なっていくことが必要である、という二つのことは常に念頭に置いておく必要がある。その上で、万が一、金融システム全体の安定について疑問が呈されるような事態に陥った場合には、政府の対応等と併せて日本銀行として必要な対応を採っていくというつもりである。

風評によって倒れそうになった銀行が出てきた時には、日銀が特融を出すべきだという議論がある。もちろん、単なる風評だけの問題であって、健全性に全く問題がなく、一時的な流動的支援で問題が解決できることが明らかな金融機関について適切に流動性を供与していくことは、私どもも心掛けていくつもりである。

ただ、現在の金融システムが抱えている本質的な問題は、単なる風評リスクではなく、不良債権の問題であるということを忘れてはならない。金融機関に対する市場や預金者の評価が厳しいのも、不良債権の問題がなかなか解決しないからだと思う。こうした状況を十分踏まえながら、万が一金融システム全体の安定に疑問が呈せられる事態となっていくような場合には、政府の対応と併せて──政府とよく話し合った上で──、日本銀行としても必要な対応を採っていくつもりでいる。

いずれにしても、現時点で具体的な事態とか、方策を想定している訳ではないので、これ以上の仮定の質問には答えるべきではないと思う。

【問】

先程、これまで4年の話があったが、残すところいよいよ後1年。この期間を総裁はどのようなお気持ちで、どのような抱負を持って舵取りをされて行くお積もりか、率直な気持ちを伺いたい。また、総裁はインフレターゲットは意味がないと再三おっしゃられているが、積極的な金融政策という意味で、こういったものを採用する可能性は、今後1年間まったくないのか、ご見解を伺いたい。

【答】

これから残す1年で何ができるかと、私も思うが、何といってもデフレからの脱却が必要であるということは、私共の忘れてはならない目標だと思う。しかし、デフレから脱却するためには、やはり経済の成長が必要であって、経済の成長をもたらすものは、小泉首相の言われるように、「構造改革なくして成長なし」ということなのであって、逆に言えば、構造改革が進んで経済成長が起こって行って、物価が少しづつ上がり始めるという順序になっていくのではないかと、私はそういう変化が早く起こることを期待している。その場合には、金利ももう少し正常化するかもしれない。

【問】

デフレ対策に関連して、量的緩和の効果に限界がある以上、むしろ政府の方が財政支出を伴う積極的な景気対策を打つべきではないかとの意見もあるが、これについての総裁のお考えを伺いたい。

【答】

財政支出、あるいは税をどうするのか、増やすのか減らすのか、色々議論が出てきているようだが、私は、こういう財政の仕組み、動きも、構造改革を早く実現するために、色々な面で政策を展開していくという、——これは抽象的だといえば抽象的になってしまうかもしれないが——その辺に目標を置いていただきたいということを申し上げたい。

先程、インフレターゲットについてもご質問があり、いつも私が言っていることで、またかと思われるだろうが、今はデフレの状況で、私どもは、早くゼロを上回るところで物価が安定するところへ持って行きたい、それまでは今の量的緩和を続けるということを申し上げているのであって、この時点で金融が先行して物価を上げて行くということは、なかなか難しいことで、できないかもしれない。そういう意味で、今、インフレ・ターゲットを掲げても、ターゲットに向かって実現していくことは非常に難しいと思う。やはり、構造改革が行われて、経済・社会の構造が変わって、民間需要をクリエイトしていけるような政策や、民間のコンフィデンスというかマインドというか、そういうものが出てきて初めて物価も上がって行くのだと思う。だから、今は、インフレ・ターゲットは、適当ではないと思う。

【問】

資本の質と金融システムについて、もう一点、お伺いしたい。生命保険と銀行との間で株式の持ち合いや基金の拠出について、いわゆるダブル・ギアリングの問題がむしろ強まる傾向にあると思うが、日銀の見解を伺いたい。

【答】

私は、生保の問題についてはあまり詳しくないし、勉強不足なので、専門家に聞いて欲しい。

以上