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中原審議委員記者会見要旨(7月10日)

平成14年7月10日・長崎県金融経済懇談会、講演会終了後の記者会見要旨

2002年7月11日
日本銀行

―平成14年7月10日(水)
午後3時00分から約30分間
於 ホテルニュー長崎

【問】

長崎の印象、経済的なものを含めて、午前中から行われた金融経済懇談会での話題を差し支えない範囲内でお話し頂きたい。

【答】

長崎には何度も来ているが、印象といえば、先程講演の中で申し上げたあの言葉の感覚は非常にぴったりしていて、この美しい緑の山と、青い海と、この日の光と、この落ち着いた雰囲気と、これらを大きな観光資源として是非活かして頂きたいというのが雑駁な印象だ。

金融経済懇談会では、私の方から、まず最近の景気情勢に対する私なりの判断をお話しし、次に地方経済と東京を中心とした都市経済の格差について、このところ色々なデーターでみても景況感や実体経済といった面で格差が広がっていることを非常に大きな問題として受け止めているが、これを皆様がどのように考えておられるのかといった問題提起をし、3番目に日銀の量的緩和金融政策についてのポイント、4番目に不良債権処理とペイオフについての考え方ということで話題提供させて頂いた。

ご参加頂いた皆様からも色々なご意見を頂戴したが、大きなテーマとしては、まず、先に申し上げた東京都市部と地方との景況感格差、また長崎としての立場からいえば九州の中での福岡へのある種の経済圏の集中のような流れについて、参加された皆様方の問題意識をお聞きし、次に今後、構造改革が日本全体として進んでいく中で、景況感格差も生まれているが、長崎としてどのような経済的資源を活用していくべきかということで、当地では3000億円市場とお伺いした観光資源というのが大きなポイントで、この潜在力を今後どう活用していくかということをお聞きした。

3番目は最近の中小企業の問題で、特に金融面で非常に厳しい状態に中小企業があり、しかもそれが単なるアベイラビリティーの問題だけではなくて、業容そのものが縮小していくところも出ている状況の中で、運転資金等の借入には非常に厳しい環境が続いていることをお聞きした。以上申し上げた3点が、懇談会の話題になった。

総じて県内の景気については、日本全体が悪いながらも持ち直しの傾向が一部に出てきており、企業や生産の面でのマインドも改善が見込まれているという話を伺っている。是非日本の景気も底を打って、自律的な回復過程につながっていくことを願っている。全国と同様、雇用面での厳しさが当地でもみられ、今後も慎重に見ていく必要があるということを印象づけられた。ご参加の方から色々伺うと、県とか市のレベルでも、産業振興財団等の活動を通じて廃棄物処理とか色々なリサイクル問題とか、新しいベンチャーキャピタルの環境を作り出す、あるいは新しい事業分野への展開の進出をサポートするといった動きが見られるが、そういうミクロレベルでの努力というものも活発に進められているという印象を持った。

【問】

講演の中でも触れられていたが、ペイオフの話で、14年4月に解禁された定期性預金とは質的に異なるということで、環境が整っているかどうか慎重な検討が必要ということだったが、具体的にどういう環境整備が必要だとお考えか。

【答】

  1. 1つは不良債権処理の筋道が明らかになること。もちろん、不良債権処理については、特別検査、その後の金融監督庁の色々な施策を通じて前向きに進んでいるとは思うが、果たしてここ2、3年のうちに処理という大きな方針が達成していけるのかどうか。また、銀行の収益力を高めることが必要だが、この施策が個別の銀行レベルでどこまで進んでいくのか、財務体力がどこまで強化していけるのか、といった問題があると思う。

  2. もう1つは、多少テクニカルにはなるが、預金保険法102条の発動についての具体的な考え方、あるいは処理のための事務手続、P&Aというような処理方法についての具体的な発動の仕方、ステップの取り方、こういうものについて、まだ、細かに対応が練られていないと思う。

以上2点からの環境整備がきちんと行われ、かつ混乱なくペイオフができるという確信が持てるかどうかということが重要と考える。

【問】

ペイオフに対する現状認識として、政府・金融機関の統一見解というのはまだできていないと考えてよいか。

【答】

まだできていないのではないか。統一見解というより、まず客観的な事態の認識そのものが、必ずしも十分に統一された客観的な認識として出来上がっていないと思う。ペイオフに向けての環境整備について、どこまでできるのか、できたのか、あるいは、現実に流動性預金のペイオフを開始したときにどのような影響が出るのか、といった認識についても共通のものがないし、まずはペイオフがどういう環境ならできるのか、その環境整備がどこまでできるのか、その環境の下で実施に移した場合、どこまでの影響が想定されるのか、そういった点について、日銀もその当事者の一人だが、共通の認識とそれに対する危機対応のシナリオがきちんと出来上がらない限りは、結論は出せないのではないかと思うし、その認識を早く作ることが大事だと思っている。

私は正直言って、これまでも色々な議論が行われながら、来年の年度末に近づくというような事態になったときに、様々な議論がなされていること自身が金融システムに対する不安感を増長させることになるのではないかと心配している。できるだけ早くそのあたりの認識統一をした上で、この問題をどうするのか話し合う必要がある。もちろん、法律的にはこのままでいけば整斉と実施ということになってしまうが、もしペイオフを延期するということになると、法律的な手当てが必要になり、それ相応の時間も必要になると思う。

もしペイオフが本当に行われるということになると、相当な資金シフトを考えておかなくてはならないと思う。今年の4月に定期預金のペイオフを実施しただけでも相当な資金シフトが起きているが、今度はある意味では逃げ場がない訳だから、どういう事態が起きるのか、きちんとした危機対応のシナリオを考えておく必要がある。

この問題は、資金の出る方はもちろん大問題だが、資金が入ってくる方もALMの観点から非常に深刻な問題を生ずる可能性もある。

どういう商品に金が流れ込むのかというのも、まだ今のところは分からないが、場合によってはその金融商品の市場が非常に不安定な状況になるということもありうる訳で、単なる資金流出を恐れる金融機関の問題だけではないと思う。そういう意味で金融機関側の対応にも相当時間が必要になるし、法律面でもそれなりの時間的な余裕も必要となり、早めに認識統一、環境の客観評価をやるべきだという風に思っている。

【問】

ここのところの株安と為替の円高について講演の中でも触れていたと思うが、改めてこれに対する審議委員の見方と、今後の展望についてお聞きしたい。特に為替については、講演の中ではそれほどどんどん円高が進むようなことはないだろうという見解を示されたが、その点について、もう一度改めてお伺いしたい。

【答】

株については、日本の株安はやはり米国発だという風にここのところの株価の動きからは感じているが、日本が景気回復の上方に向かったモーメンタムがここまで強くなってくるところで、株が改めて大きく下押しするというのは、相当な外部からのネガティブなショックがない限りないだろうと思っている。ただ、そうだからといって、日本経済の回復がかなり弱々しいものであると、あるいは内需がどの程度の強さでいつ頃のタイミングで出てくるかまだまだ自信が持てない中で、そう簡単に株価が大きく回復することも考えにくいと思っている。基本的には、米国の株がどう動くかというのが最大の関心事項だろうと思う。

次に、米国の株については、先程講演会の中でも申し上げたとおりの理由で現在の状態にあると思うが、最終的には企業収益の期待成長率が基本であろうと思うので、米国の企業収益が本年後半から回復に向かってくるということが、この4~6月の決算発表あたりでかなり確信が持てるようになってくれば、ある程度回復も期待できるのではないかと思っている。

ただ、企業会計不信の問題はかなり根深いものがあるのではないかという心配もしており、米国政府も相当腰を入れてこの問題に対して対応を進めているようだが、早く投資家の信頼が回復されることが必要ではないかと思っている。

次に、ドル・円の問題は、講演の中でも申し上げたとおり、これが長期構造的な変化なのか、あるいは比較的循環的なものなのか、中々まだ見極めがつかない状況だ。差し当たりのドル・円の相場が、ここに来てかなり円高方向に急激に動いているので、これが企業収益、ひいては日本景気全体にどのような影響を与えるのか、慎重に見ていく必要があると思うし、更に円高が進むということになれば、日本の景気回復への影響は避けられない恐れがあるということで、注意深く見ていく必要があると考えている。

また、これも講演会の中で申し上げたが、今のところはまだ円高というよりはドル安という流れであり、アジア通貨やユーロに対してはそれほど大きな円高になっている訳ではない。今後のドル・円相場というものは日本の景気に大きな影響を与えるということを念頭に置きながら、慎重に見ていく必要がある、というのが今の私のスタンスだ。

【問】

  1. 2つお聞きしたいが、講演の中で金融政策について緩和の軸を振らさないことが必要で、具体的には10~15兆円の上限15兆円を目標にするという、緩和の軸を振らさないことが必要であるとおっしゃっているが、その一方で量的緩和策が市場機能や価格メカニズムを失わせ、信用さえあれば必要な時にお金がとれるというアベイラビリティを損ない、結果的には緩和効果を抑制することにならないか、慎重に見ていく必要があるとおっしゃっている。もしこうした副作用が大きくなったとしても、緩和の軸を振らさないという政策に執着していると、副作用を見落としてしまう可能性もあると思うが、こういう副作用が大きくなったときには、緩和の軸を振らすのか、あるいは15兆円を減らしていくことが考え得るのか。

  2. 2点目は、外債の購入について、今、調節手段としては考えうるが、法律面の問題もあり、当面必要だとは思えない、とのことであったが、これについての先程の審議委員の発言の中で、円高が更に進めば、日本経済に与える影響は避けられないとのことであった。一義的には為替の介入は当然財務省が行う訳だが、調節手段として外債を買うことによって、ある意味で側面支援をしていくといったことも、今後全く選択肢としてないとは言えないと思う。そうしたある意味での危機対策というのも、ペイオフと同様に当局間での色々な詰めなり法律面での解釈の擦りあわせというのが、ペイオフと同様に危機対応として必要であると思うが、そうした点について具体的に財務省なりと色々な形で話し合うということが行われているのか。

【答】

緩和の軸を振らさないということと、副作用とは、ある意味では論理矛盾があるのではないかとのご指摘ではないかと思う。量的緩和を進める段階では、この副作用というのは、実は程度の差こそあれ、いわゆる緩和効果を弱めるという意味での副作用ではなく、マーケットの性格や質が変わってきたという──副作用といってよいかわからないが──認識はかなり前から多くの審議委員も持っていたと思う。ただ、結局選択肢としては、ある程度のそうした市場の変質という問題に目をつぶりながら、量的緩和を進めてきたということであり、そのスタンスは、少なくとも景気が自律的な回復過程に入り、時間軸のコミットメントが満足されるまでは、続けざるをえないと私は考えている。ただ副作用といっても、それが本当に緩和効果を落としているかというと、現実には、今の政策の下で日銀は必要であればたっぷりと流動性を供給している訳だから、そうした意味では非常に緩和効果を抑制してしまい、緩和効果が上がらないとか、流動性を供給している意味がなくなるような状況が現出しているようなことはないと思う。副作用という言い方が緩和効果を抑制するという言い方につながったので、そうした方向に副作用が働いた場合と受け止められたかもしれないが、副作用という言葉の中には、市場の変質というようなものも含めて、あるべき市場、望ましい市場という観点から今の市場は変質してきているという意味での副作用も含まれていて、そこのところはある程度割り切って緩和を進めているというのが現在の認識であると思う。ただ、将来、副作用というものがどこまで大きくなるか分からないし、もう少し状況をモニターしていく必要があると思う。マーケットから副作用というか問題だといわれているのは、銀行の資金裁定の機会を奪ってしまっているとか、あるいはALMのノウハウが失われつつあるといったミクロレベルのお話しを時々伺うが、これはこれで個々の銀行としては大きな問題だと思う。このようなマーケットをいつまでも放置するのではなく、早く景気回復をさせるということが、まず最も大事な目標であると思っている。

次は、為替介入の代りに外債を購入するという手法を採ることについて、危機管理対応として財務省と話をしているか、とのご質問かと思うが、外債購入を、為替相場を円安にもっていくための手段として使うというのは、そもそも今の日銀法の下ではある種の論理矛盾であり、基本は介入という形を採るべきであると思う。ただ、介入よりも外債購入の方が効果が高いというような論理的な結論が得られるのであれば、最終的な危機対応として、そうした手段ももちろん否定できないかと思うが、基本的には、為替相場の問題は財務省の管轄事項であり、日銀が外債を購入するのは流動性供給において必要がある場合である、と私は理解している。

【問】

流動性供給に必要がある場合ということで、講演の中で、ダウンサイドリスクが顕現化する惧れが強まる場合や、金融システムが不安定になる場合には、目標の引上げやそのための調節手段の一層の工夫を検討すべきであるとおっしゃったが、外債の購入というのもこの中の調節手段の一層の工夫の中に入りうると考えてよいか。

【答】

それは、かなり極限的な状況まで事態がいくのかどうかということであり、外債の購入というのは、非伝統的な調節手段だと思うし、当然ながら法律的な問題もきちんと決着をつけた上でなければできない。その場合に言っている調節手段の一層の工夫というのは、私の意識の上では、伝統的な調節手段、今まで採ってきたような調節手段の範囲内でまだ考えられることもありうるのではないか、ということを申し上げているつもりだ。

【問】

今の法律的な問題については、既にお辞めになった中原伸之元審議委員は、法律的には問題ないとおっしゃっていたが、審議委員ご自身は、現段階では、法律的には調節手段としてあくまで流動性供給上必要であれば、調整手段の一環としてオペを行うというのは、日銀法上問題があるとお考えか、それともないとお考えか。

【答】

言葉の上では調節手段ということで限定的に、また結果として現実にマーケットで起きていることも含めて、為替相場に影響を与えない調節手段の一環ということで、現実のオペレーションが可能であれば、私は法律的には可能だと思う。これは現実に内閣法制局の意見を私自身が取った訳でもないし、中原伸之さんがご確認されたのか私には分からないが、現実にオペレーションをやる場合には、その辺をきちんとクリアーした上でないとできないだろうと思う。

以上