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総裁記者会見要旨(7月19日)

2002年7月22日
日本銀行

―平成14年7月19日(金)
午後5時30分から約30分

【問】

まず、6月の日銀短観、その他景気指標、あるいは内外市場の環境等を踏まえて、総裁の景気判断を改めて伺いたい。

【答】

一昨日公表した金融経済月報で示したように、経済情勢については、「国内需要は依然弱いものの、輸出や生産面の明るさが増し、企業の収益や業況感も改善するなど、全体としてほぼ下げ止まっている」とみている。

輸出は大幅に増加し、生産もはっきりと持ち直すもとで、企業収益も回復に転じつつあるとみられる。先日公表した短観でも、企業の業況感の改善もかなり目立った数字で確認された。

家計部門をみると、所定外労働時間や新規求人など、限界的な部分で雇用改善の動きが続いている。ただし、企業の人件費削減姿勢は根強く、雇用者所得は明確な減少が続いている。

このように、輸出・生産面などで明るい動きがみられる一方、国内需要は依然弱く、家計の雇用・所得環境も引き続き厳しい、という基本的な認識については、政府と日銀とで大きく異なっていないと思う。

【問】

米国の企業の会計に対する不信などを背景に、米国株価が非常に下落しており、内外の関係者も懸念しているが、こうした米国株価下落が、米国経済や日本経済に与える影響について、総裁はどう見ているか。

【答】

米国株価については、私どももよく分からない面もあるが、今春以降下落傾向を辿っている。その背景としては、相次ぐ不正会計事件を受けた企業会計への不信、中東情勢やテロ再発への懸念、などが指摘されている。加えて、先行きの企業収益や設備投資の回復について、慎重な見方があることも、影響しているように思う。

しかしながら、現在のところ、米国の実体経済指標は、総じて景気回復を裏付けるものとなっており、景気回復のシナリオ自体は維持されているように思う。

米国の株価下落が企業や家計の支出や金融面への影響等を通じて、米国経済や、ひいては日本の輸出動向などに影響を及ぼすことがないかどうか、引き続き、注意深くみて参りたい。

【問】

次に為替相場だが、総裁は確か先週国会で世界的にドル売りが進むことは十分考えられるというような趣旨のご発言をされた。また一方、今日の国会ではドルがいつまでも売られることはないというような趣旨の発言もされていて、一連の総裁の発言の真意を市場参加者等も非常に気にしていると思うが、その辺を改めてお聞きしたいのと、最近の円高・ドル安が日本経済に与える影響について改めて伺いたい。

【答】

ドル安ということを私は初めから言っている。円高じゃないですよと、ドルが安いんですよと。市場では、米国の株価が軟調に推移しているというようなことが材料になっているとか、国会でもこの前申し上げたが、米国の「双子の赤字」が背景とか言われている。経常収支がGDPの4%を超える赤字──ずっと赤字だけれども──というのはかなり大きい。それと、財政が98年に黒字になったけれども、また本年には赤字になる。円で10何兆とか言っていたので、かなりのスピードで赤字化している。「双子の赤字」と70年代、80年代に言っていたのは、この二つである。国会でも言い、以前に皆さんにもお示ししたと思うが、米国の対外ネット・エクスターナル・ライアビリティ──ネット対外債務超過──が2兆3千億ドル位である。逆に日本はその半分位(1兆2~3千億ドル)の黒字になっている。こういう海外でドルを持っている人たちは、やはりドルが下がるという感じがすれば、ドルを売って他の通貨を買おうとするのは自然の動きだと思う。そういうことを以前言った記憶がある。これはそのとおりで、やはりユーロに対してもドルは弱いし、円に対しても弱いし、アジアの通貨などに対しても弱い。ここまでドルは下がってきて、今はユーロとだいたい1対1である。対円でも116~7円位のところまできている。

今日も国会で少し言ったけれども、70年代、80年代に米国がドルの垂れ流しをやって、経常収支の赤字をばらまいて、その結果海外でドルがたくさん持たれて、それがドルの弱さにつながっていったという時と比べて、現在が少し違うのは、あの頃は円を買ったり、ドイツ・マルクを買ったり、スイス・フランを買ったり、そういう色々な通貨が他にあって、ドルの保有者は、選ぶ通貨が──金もそうだが──かなりあったわけであるが、今はやはりここまで来てしまえばドルということになる可能性が高いのではないかなと思う。これは私の個人の感じだから、違っているかもしれないが。そういうことであれば、これ以上またずるずるドルが下がっていく理由はあまりないのではないかなという感じもする。これ以上はコメントしない。

こういうことを、見出しなんかで、ジャンプして書くからいけない、日本の新聞は。この間のアジアン・ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、速水がこう言ったということをきちんと書いていた、標題にも。ああいうふうに言ったとおり書いて下されば良いのだが。私はドルが安くなるなんて言っていない。海外に出るドルを持っている人たちがどういう動きを示すかその辺が問題だというようなことを言ったことは覚えているけれども。その辺を早とちりではないにしても、あまり、やったやったといわんばかりに、「売らんかな」の記事は書かないで下さい。

いずれにしても、今後とも、為替の動向は注意深く見ていくつもりである。

【問】

今お聞きしたような景気認識あるいは内外の市場環境に対する認識を踏まえて、当面の金融政策についてどのような姿勢で臨まれるのかということと、仮に追加的な金融緩和というものが必要になるとしたらどのような環境の時なのか伺いたい。

【答】

現在かなり思いきった金融緩和を続けており、景気回復もようやく見え始めたということで、この動きをしっかり支えていくことが重要だと思うのだが、金融面では、16日の金融政策決定会合でも全員一致で金融市場調節方針の現状維持を決定した。

日本銀行としては、今後ともこの潤沢な資金供給を続け、金融市場の安定と緩和効果の浸透に努めていく方針である。先行きの政策運営について、これ以上の具体的なコメントはちょっと出来ない。

【問】

来年4月に予定されているペイオフ全面解禁について、かねて総裁は、予定通りの実施が望ましいとの認識を示されてきたが、最近改めて、与党や金融界で全面的な解禁を延期すべきではないかという声も出始めている。改めて、総裁の見解を伺いたい。

【答】

各方面から、色々な意見が出されていることは承知しているが、日本の金融機関には、やはり不良債権問題の克服といった課題が未だ残っているわけであり、これに寧ろ全力で取組み、内外──特に預金者──からの信認を早く回復する必要があると思う。

まだ8か月先のことであるから、8か月の間には色々なことができると思う。延ばすことを議論する前に、今、やらなければならない健全化・安定化、あるいはそのための地方の金融機関の合併ということもあるだろうし、不良債権をどうやって上手くさばいていくか、あるいは、まだ持っている株式の含み損が出ないように、前もって色々手を打っていくといったようなこと等、やることは随分沢山あると思う。

そういうことを、この8か月の間に早くやってしまうことができれば、おそらく信認は取り返せると思う。そうなってくれば、別に引き延ばさなくても良いのではないか。

この前の時もお話したが、金融機関が預かっている預金を預金者が国から全額保証してもらうという、こんなことをやっている国は──システムとしてはあるが、実際に保証を受けている国は──ないのではないか。これはやはり極めて異常である。

これだけ日本の金融機関が発達して、かつては世界のトップ10行のうち6~7行は日本が占めていたのである。こういう金融機関が育った国で未だそのようなことをやっているというのは、私はやはり内外からの信認を失う可能性が強いと思う。

今やるべきことを早くやる、ということが重要であって、8か月先のことを色々言って騒ぐ前に、自分の足元をまず固めることをやるべきではないかと申し上げたい。

【問】

先般、金融庁が地域金融機関の再編促進に向けた対応策を公表した。その対策に対する総裁としての評価、そういった対策が十分な効果を発揮しそうなのかどうかといった点を中心に伺いたい。

【答】

金融庁の対応策は未だあまり詳しく読んでいないが、合併促進についての提言を出しているわけで、いずれにしても、合併というのは、政府に言われてやるものではなくて、金融機関自身の判断で決めるべきことだというのが大事な点だと思う。

促進策として、そうした立場に立って合併をし易い環境を作っていくということは、私は良いことだと思う。金融機関が今やりたいことは、何とか収益力を上げるということだと思う。収益力の向上や経営基盤の強化に繋がるものであるならば、これはやはり重要な課題だと思う。

そうした課題の達成を目的として行われる合併については、私どももサポートしていくことにやぶさかではない。金融システム自体をより強固にしていく観点からしても、有用なことだと思う。

今後、政府が、どのようなかたちで促進策を具体化していくのかについて、私どもは注目して参りたいと思っている。

【問】

質問に入る前に一言だけ申し上げたい。先程「売らんかな」の記事は書かないでほしいということを言われたが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は非常に長い記事が書け、速水総裁のクオート(発言引用)も長く取れるが、日本の新聞・通信社は行数や字数など様々な制約の中で、総裁の考えがどういうことであるか、なるべく正確に伝えようとしているので、ご理解頂いて発言を頂ければ有り難い。

質問は郵政法案についてだが、今月末に郵政公社の民営化法案が通るようである。郵政の民営化については、郵貯が金融の撹乱要因になっているのではないかと昔から言われていた。今回、民営化に向かうとはいえ、2百数十兆円という膨大な資金はそのまま残る。この改革自体を総裁はどう評価するか。

また、事務方を中心に、当座預金口座をどうするか、などの色々な取り決めが行なわれるようだが、市場参加者としての郵政公社は、どのような役割を果たすべきだと思っているか。

【答】

最初におっしゃったことについては、私の言っていないことを見出しに書かれては困るということである。「『ドルが安くなる』と速水総裁がしゃべった」というようなことが見出しに出るが、そのようなことは言っていない。そこは飛ばさないでくれ、ということを言ったのである。そこは取り違えないで頂きたい。短くてもきちんと言ったことを伝えて頂ければそれで良い。

郵政公社については、満足すべきスタートだったのかどうか、私も、もう少し民営化が進むのかなという感じがしなかったわけでもない。かなり時間がかかったことも確かであるが、総理が自分の信念を全うされたという意味ではご立派だったと思う。

郵政公社の取引は、皆さんもご存知のように金額が物凄く大きい。貯金だけで250兆円といえば、日本の大銀行4グループの合計位であるし、簡易保険の120兆円といえば、日本生命の3倍位の金額である。この資金が民営化の方向でこれから動き出すわけだから、これは非常に大きな動きだと思うし、スタートが大切だと思っている。

郵政公社との取引については、現在、公社化研究会にて中間報告が出ているので、当座預金口座の開設も含めて、これを踏まえて総務省と相談を行なっているところである。具体的な取引形態については、実務的な対応も含めてこれからの話し合いの中で検討されていくことになる。日本銀行に当座預金勘定を持ってもらい、当然のことながら準備預金も積んで頂くことになると思うし、考査についても、取引先である以上──私どもは検査ではなく、日本銀行の取引先には考査を行なっているから──そうしたかたちで行なうことになると思う。

【問】

ペイオフに関連して、2点質問したい。まず、現在、地域金融機関の間で、ペイオフ全面解禁が預金流出に与える影響が読めないことから設備資金などの長期貸出が行いにくいという話を聞くが、こうした動きが信用収縮につながる懸念はないか。また、ペイオフ解禁か延期かの議論だけではなく、その影響を緩和する様々な措置──公金預金や当座預金を解禁対象から除外するなど、案としては出ているようだが──は考えられないか。

【答】

来年やるということを公表していることについては、最小限やったら良いと思うが、あとどういう副作用が起こり、それに対してどういう手を打つかというようなことは、まだちょっと今の段階では決めかねるのではないかと思う。むしろ、各自がどう対応していくかということ、金融機関自らが手を打っていくということ、が先であると私は思う。

【問】

最初の質問の、信用収縮の懸念があるかどうかについては如何お考えか。

【答】

さあ、そういうことになるだろうか。私は今、どこの金融機関でも何とか採算を良くしようということで、信用を、貸出を増やそうとしているのではないかと思うが、問題はやはり、不良債権がどの程度存在しているか、どれぐらい持っているかということが非常に大きなポイントなのではないか。そういうところは、どうやってこれを減らしていくのか、あるいは合併といったようなかたちで、その場合に何らかの支援を、あるいは資金を入れてもらうというようなことも含めて、考えなくてはいけないのではないかというふうに思っている。

700行というのが多過ぎるか、多過ぎないかというのは、議論が分かれるかもしれないが、私はまだもう少し数は減らして一緒になっていっても良いのではないかと、これだけ交通も便利になっているし、地方でもお互いに取引関係があるだろうから、 700がもう少し減っても良いと、私は思っている。

【問】

今おっしゃった何らかの資金という話は、公的資金を含む話か。

【答】

公的資金も必要な時には、入れなければならないかもしれないと私は思う。下手なことをすると、やはりシステム不安につながっていく可能性もあるので。

【問】

先程、金融庁の地域金融機関の合併促進策について、日銀としても前向きな再編であれば、サポートにやぶさかではないとおっしゃったが、具体的には、そうした場合、日銀としてどのようなサポートができるのか。

【答】

それは、それぞれ支店の管内の話であろうから、色々な実情は、各支店がよく調べて知っていると思うので、そういう話を聞いてどういうサポートができるのかということを考えていったら良いのだろうと思う。考査局が中心になって。

【問】

もう一点であるが、ペイオフの問題でよく国際的な公約とか信認などの話があるが、今、金融庁等が議論しているのは、国内基準の中小金融機関、あるいは信金、信組といった非常にローカルな金融機関の話だと思う。ペイオフの影響もそちらに一番大きいと言われているが、ただ国際的に注目されているのはやはり大手行の方ではないかと思う。その点の議論が若干噛み合っていないような気もするが、如何か。

【答】

大手行の動向は、海外も非常に気にしている。それに対し、地方の信金、信組あるいは、地銀の一部、そういうところが心配しているのは、やはり預金者からの信認である。預金者がこの金融機関は大丈夫だと言って、預けてくれる、そういった信用が崩れてくると金融業務というのは成り立たない。大銀行の場合も、やはり預金者が信用して預けてくるかどうかということが重要であるから、そういう意味での信認というか、信用というか、これには共通のものがあると思う。ただし、大手行の場合は、それに加えて、海外からも見られている。大きいから。

以上