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総裁記者会見要旨(8月13日)
2002年8月14日
日本銀行
―平成14年8月13日(火)
午後3時から約50分
【問】
米国の景気と株価の動向は依然不透明な状況が続いているが、こうした状況の中、日本の景気が下期に回復するというシナリオは修正する必要はないのか。現時点での、総裁の景気認識を伺いたい。
【答】
まだ先行きが見えないし、今日のFRBのFOMCの決定等も非常に関心の深いところであるが、ここへ来て、確かに株が下がったりドルが安くなったりしている。米国の実体経済の方がどれくらいになっているのかは、今のところまだはっきりわかっていないが、それほど悪い数字が出ているわけでもない。
日本の経済情勢について申せば、「国内需要が依然弱く、世界経済を巡る不透明感は増しているものの、輸出や生産は増加を続けており、全体としてほぼ下げ止まっている」とみている。
今後、輸出や生産の増加が企業収益の増加を通じて国内需要を下支えしていくことにより、景気は下げ止まりが明確になっていくものと考えられる。ただし、構造調整圧力の根強さなどを踏まえると、暫くの間は、自律的な回復力に乏しい展開となる可能性が高いと思う。
米欧の株価が不安定である。米国は随分下がっており、ご承知のように、日本はまだ下がり方が小さい方で、前年末比でみると、日本は日経平均で-6.7%、TOPIXで-6.8%。米国は、ニューヨークのダウ30種では、-15.6%、IT等の多いナスダックで-34.3%──これが大きい。ドイツは-32.8%、フランスも-29.3%、イギリスも-21.5%と、このように世界的に株が下がっている。日本の下がり方は前年末比で比較すれば、比較的小さいと今のところは言える。
これが今後どのようになっていくかまだわからない。輸出環境に関する不透明感や、情報関連需要がどれくらい変わっていくのか、といったようなこともはっきりわからないので非常に難しいけれど、今後、これらの動きが日本経済に及ぼす影響について、十分注意してみてまいりたい。
ただ、ひとつはっきり申し上げられることは、今、日本にとって一番大切なことは、民間需要の引き出しということである。民間主導で動き出すということである。小泉内閣が色々やられて漸く少しずつ動き出している規制緩和撤廃、それから税制面でも企業の活性化とか企業の設備投資等を増やしていけるような動き──構造改革の効果──が出始めれば、私どもが予てから出している溢れるばかりの流動性が、市場から金融機関等を通じて企業に浸透していって、景気を持ち上げていくということを期待している次第である。
【問】
日本の株の下がり方がそれほどひどくないということであるが、日経平均をみると、ずっと1万円割れの水準で推移している。これらが、肝心の民間需要の引き出しが大切な時に金融システム不安を再燃させるのではないかという声もあるが、総裁はどうお考えか。
【答】
そこはこれからの株の動きをどうみていくかである。日本の企業はかなり明るくなりつつあると思う。特に大企業の製造業は。こういう動きが株価に響いてくれば良いのであるが、米国や先程も申した欧州、その他、アジア等も下がってきているが、そういう世界的な株価の下落が、更に続いていくということになると、なかなか、情勢が良くなっていかないということは言えると思う。
ただ、先程おっしゃっていた米国の経済について、少し言わせて頂くと、景気自体は引き続き回復基調にあるわけで、そのテンポもこのところ少し緩やかにはなっているが、それほど悪いというわけではないと思う。
個人消費や特に住宅投資が家計支出の中心となって、これが引き続き非常に底固く動いている。企業部門の方でも、生産はかなり回復を続けていると思う。
ただ、受注に一服感が出ている。それから、雇用環境の改善に緩やかさがみられる。また、株安の影響から、家計や企業のマインドの悪化がみられている。金融市場でも、信用スプレッドの拡大などで、リスク回避指向が強まっている様子が窺われる。
こういったことで、先行きの米国経済を展望する上では、これまでの景気回復を支えてきた家計支出が、今後も底固く推移していくかどうか、企業の設備投資が、いつ頃、どの程度回復してくるか、といったような重要なチェックポイントをみてまいりたいと思う。
これらの点も含めて、米国経済の動向については引き続き注意深くみてまいりたいと思っている。
【問】
もし世界の株価が下落を続けて、仮に、金融システム不安が高まった場合、追加的な緩和策が採られる可能性はあるのか。また、その効果についてどう考えておられるのか伺いたい。
【答】
これまでの日本銀行による思い切った金融緩和措置というのは、金融システム不安の高まりなどで、わが国経済に大きなストレスがかかる中で、金融市場の安定を確保することを通じて、景気の底割れ回避に寄与してきたことは間違いないと思う。
そうした金融緩和のもとで、短期金融市場は、現状、1年物の短期国債金利もほぼゼロに低下するなど、極めて緩和感の強い状態となって、市場は余剰感がかなり強くなってきている。
先々の金融政策運営について、具体的なコメントを行うことはできないが、今後とも、潤沢な資金供給を通じて、市場の安定と緩和効果の浸透に全力を挙げていきたいと思う。
ここまできて、環境が整ってきつつあるわけだが、先程申し上げたように、何よりも必要なことは、起業家のイノベーションである。革新的な企業、起業家が、その時々の技術と資源を上手く結合して新しい事業を立ち上げて、事業を創出していくことで、経済全体が豊かになってきたことを、これまでの歴史は物語っている。
よくシュンペーターの言葉を引き合いに出すが、シュンペーターは成長というのは、循環の結果生ずるものであるということ──この前も90年代でも循環があったと申し上げたが──、資本主義のダイナミズムというものは、旺盛なイノベーションがあって初めて動き出すものであって、投資活動のうねりを生み出し、成長はそのうねりの波を貫く、result trendに過ぎない、ということを言っている。よくcreative destruction(創造的破壊)という言葉が使われている。
こういう金融経済構造の変化に応じたビジネスチャンスというのは、必ず起こってくるはずだと思う。個々の企業あるいは個々人のイノベーティブな取り組みが、経済を前向きに動かしていくのではないか。こうなってくれば、必ず成功すると私は思っている。
【問】
次はペイオフについてお聞きしたいのだが、政府は決済機能を保護する策を今検討しているが、これによって金融システムの安定性が高まるのか、銀行などの健全性向上を後退させるのではないか、決済機能の保護が金融システムに与える影響についてどうお考えなのか伺いたい。
【答】
これはまだ流動性預金がどういうものになるのか、ちょっと予想はできないのだが、今年の3月にかけて、定期性預金から流動性預金への大きなシフトが起きたという事実があったために、ペイオフの全面解禁について、各方面から懸念や意見が出てきたことはご承知のとおりである。小泉総理もペイオフの解禁は予定通り4月にやるんだと言われた上で、決済機能の安定が危うくなるようなことがないようにということを付け加えられたわけである。そうした総理のご指示を受けて、先週末(8月9日)から金融審議会で具体的な措置について検討が開始されたばかりであり、現段階でコメントすることはまだ時機尚早だというふうに言わざるを得ない。もとより金融システムの安定を確保するためには、各金融機関が不良債権問題の克服等をはじめとして幅広い課題に一層前向きに取り組んで、内外からの信認を早期に回復していくことの方が私は重要であると思っている。
どういう結論が出るかは、私どもも想像できないし、今やるべきことはやはり、各金融機関が不良債権問題の克服等、幅広い課題に前向きに取り組んでいくことであり、預金者を含めた内外からの信認を回復していくことが重要なことではないかと思う。
日本銀行としては、日銀法にもはっきり書いてあるが、決済システムの安定確保を保つことが、私どもの責務の一つである。そういう立場からも引き続き中央銀行としてなし得る貢献を行ってまいりたいと思っている。
【問】
日本銀行券の改刷が発表されたが、ATM等の更新需要や銀行にとってのコスト等を踏まえた、改刷の経済効果についてどうお考えか。
【答】
経済効果というと、どういうことになってくるのかわからないが、今回の改刷は、最近における偽造券の増加に対応したものである。
今年の1~6月だけで、偽造券は9,800枚くらい出ている。4年前は年間わずか800枚だったので、20倍近い増え方をしていることになる。
日本銀行としては、パソコン機器を利用した偽造券が増加し始めた昨年の秋以降、現行券のクリーン度アップ等を図るとともに、最新の偽造防止技術を日本銀行券に搭載すべく、財務省に対し、改刷の早期実施を申し入れてきた。
改刷というと、肖像の変更に関心が向きがちであるが、改刷の成否は、当然のことながら、いかに偽造防止に有効な技術を新券に載せ得るかにかかっている。
その点では、一つ目には、パソコン機器による偽造を困難とするもの、二つ目には、現金取扱機器の検知能力強化に資するもの、三つ目は、目視による偽造券の発見が容易にできるもの、といった観点から、現時点で最高の偽造防止技術が今度の新券に搭載される予定である。
私ども中央銀行の集まりであるBISの各国とも、皆同じような問題意識を持っているわけであり、この中には、BISの下で、中央銀行が共同で開発したパソコン機器による偽造を困難とする技術も含まれている。私どもとしては、こうした最新の技術が偽造防止に極めて大きな効果を発揮するものと期待している。
ご承知のように、今使用している銀行券は20年程度経っている。その間に色々な技術が進んできており、これまでは大体10年単位で替えていたのが、肖像その他が非常に良かったからというのもあるのかもしれないが、そろそろここで替えないと偽造券がますます増えていく可能性があるということを、私は特に昨年秋頃から非常に気にしていた。いつかここでお話したが、フローレンスの金貨の品質を落した男が、地獄の最も奥へ押し込まれた絵を、ヨーロッパの美術館で見たことがある。通貨の偽造・贋造は最悪の罪であるとみられている。それと同時に、中央銀行の責任という点では、私が尊敬するザイルストラ総裁が良く言っておられたが、第一の任務は通貨の番人(guardian of the integrity of money)である。通貨が高潔であることを守ることが、中央銀行の役割である。
昔から色々な世界で、偽札・贋造が世にはびこり、政治や社会をめちゃくちゃにしたという話は沢山ある。こういった新しい技術で新札を造っていくのは、今が良い時期ではないかと判断した。財務省は立派で高度な技術を使い、しかも肖像画その他も非常に立派なお札を造ってくれた。
日本銀行はご承知のように、財務省印刷局からお札を買い、それを発行するのだが、どのお札にも日本銀行総裁の印というものが押されている。これが偽札になるということは、私の恥ということになる。そういったことを考えると、できるだけ早い時期に、高い技術のお札を造ってもらいたいということを申し上げてきた。これが認められて明後年度から開始される。
日本銀行は印刷局が造ったお札を買って、窓口から発行する。そのお札に対する責任は、私どもが持つもので、私どもが持たなければいけないものである。そういう意味でも、少しでも偽札が出回らないように、通貨を皆が信頼して使っていくことができるような世界にしていかないといけない。よく言われるように、通貨が信認を失ったら社会は崩れるということを、ケインズが『平和の経済的帰結』という第一次大戦後の本にそういった意味のことを書いている。どこの歴史の中でも、世界中のどこの国でも、偽札・贋造で色々苦労してきたことは事実だが、日本の場合は比較的今まで少なくて済んでいた。しかし、こういう新しい技術が発達してくると、偽造も巧みになってくる。それを飛び越えて、もっと偽造のできないようなものを造っていかないと、流通する高潔な銀行券としての地位が保てない。私どもはその番人として、新しいお札が2年後に出てくることを大いに期待して、準備を整えてまいりたいと思っている。
【問】
先程のペイオフに関する質問で、総裁は慎重な言い回しで評価を避けていたような印象を受けたが、私は決済性預金も含めて解禁することが全面解禁を意味すると思っていた。決済性機能を横にどけるということは、政策転換だという評価には現時点ではつながらないのか。
【答】
私はそうは思っていないが、企業を中心にした当座預金だけを別扱いするということができるかどうか、その辺は今金融審議会の別働隊で色々検討が始まったところなので、先行きのことは見通しがつかない。はっきり申せることは、通常の銀行が預金者から預かった預金に政府の保証を求める、政府が保証しないと銀行は信用されないということは、極めて異例な事態だということである。
銀行というのは、預金者に信頼されてお金を預かる機関であり、それでお互いに競争もするし、資本主義経済の下での金融の取扱機関になるわけである。これを──極めて異例的と申したが──政府が保証していくということは、やはりモラル・ハザードそのものだと申しても良いわけで、こういうものはできるだけ最小限にとどめるべきではないかと、私は思っている。金融機関の信認とか健全性というものは、自ら打ち出していくべきものだと思う。
ただ、戦後地方の金融機関が増加していき、随分多くの金融機関ができているということ、あるいは今起こりつつある民間の構造改革の煽りが痛みとして予想され、中小企業の経営がしにくくなっているといったようなことへの配慮も加わったのではないかと想像する。ただ、セーフティー・ネットのあり方については、これから具体的な検討が行なわれる段階であり、コメントは差し控えるが、これまで私が繰り返し強調してまいったことは、金融システムの安定確保のためには、各金融機関が不良債権問題の克服等をはじめとする課題に取り組んで、内外からの信認を早期に回復していくことが最も重要であるということである。こういった考え方自体は、全く変わっていない。総理の今回の指示も、金融機関の経営基盤の強化を前提としたうえで、さらに決済機能の安定を確保するための工夫を求めたものであるというように理解している。
【問】
今の質問にも関連して、日本銀行は量的緩和を長らく続けているが、さらにペイオフの決済性預金の保護という問題がそこに加わってきた。そうすると、構造調整の問題として、たしかに目先で倒産など起きてはいるが、今やっている政策というのはむしろ構造調整、産業調整をしないようにするというようにみえて仕方がない。金利はゼロであり、市場では死なない構造になっている。たしかに金の流れは非常に安全な方向に流れているが、それを保護しようとすると、一体いつまでこれが続くのかという問題に次に直面せざるを得ない。ずっと構造調整と言いながら、こういう状況を続けてきたときに、一体どういう世界になるのか、もう経済的におかしな状況がいくつも──金融政策、市場だけではないと思うが──起きてきていると思う。その辺について、総裁は時間軸をどうお考えになっているのか。それぞれは有意義にやっておられると思うが、大きな意味での構造改革というか、産業調整という観点からみたときに、それはマイナスに今働いているのではないかとも思われるが、ご所見を承りたい。
【答】
私は今やはり小泉内閣の構造改革政策というのは──この前、第二の骨太の方針が出てきたが──、相当思い切った改革を打ち始めておられると思う。これは、実っていくのには、やはり1年、2年はどうしてもかかっていくのだろうと思う。「企業の当座預金を例外として認めるということは甘いのではないか」というご質問かと思うが、これは、特に地方の中小金融機関については、やはり地元であるだけに取引先が限られているし、弱い面もたしかにあるのだろうと思う。これを強くおっしゃるのは、やはり、地方から帰ってこられた政治家の方々で──皆口を揃えてそのことをおっしゃるわけで──、私は、大企業についてはこの点はあまり問題になってこないと思っている。地方の中小企業相手の中小金融機関というものは、数が多いということもあるし、取引先を広げていくということも難しいであろうし、そういうところがバタバタと破綻するようなことがあっては、金融システムの不安につながる可能性もあるということを懸念されて、決済の安定性を維持することを考えて下さいということをおっしゃったに違いないと思っている。どういう結論が出るかはわからないが、私は基本的な考え方は変わっていないと思う。
【問】
為替状況についてであるが、7月から急激なドル安がずっと続いていたのが、最近少しドル高の方にいったり、また戻ったりしている。本日のFRBの決定如何によっては大きく変わる可能性もあるが、基調としては、ドル安の基調というのは変わっていないとみているのか。
【答】
前回のこの場所だったと記憶しているが、「ドル安なんですよ」ということをずっと言い続けてきた。しかし、ドル安と言ってもかつてのドル安と違うのは、海外でドルを持っている非居住者というか、米国にとってはドル債務、海外ではドル債権を持っている人達が、ドルが値下がりするから他の通貨に切り替えると言って切り替えて、その結果としてユーロとドルが1対1になるところまでいった。対円についても、116円ぐらいのところまでいった。1960、70、あるいは80年代と違うのは、やはりドルが最大の基軸通貨であって、ドルを使いたい、あるいはドルを持っている、という人達が多いわけであるから、一定のところまでドルが安くなれば、それはその辺が限度となって、また上がって多少は戻すのではないか、ということをここで前回申し上げたことは皆さんご記憶だと思う。そういう方向で今進んでいるのではないか。だいたい私が申し上げたような動きであるし、私もこれぐらいで、──これ以上またドルに何か起これば別であるが──ずるずるといくようなことは起こり得ないのではないかという感じは1か月前からしている。そのことをこの前も申し上げたつもりである。
【問】
ペイオフの関係で一つ確認したい。先程のお話だと、中小金融機関とか中小企業のことをある意味で配慮した対応だというようなご認識だと理解したが、やはりそういう配慮で全体の政策を変えてしまうというのは、悪く言えば昔の護送船団方式の政策に逆戻りしてしまうのではないかという不安もあると思う。また、マーケットで生き残れないところがこういう形で制度を変更して生き残れるようにすると、どうしても構造改革の遅れにつながると思ってしまうが、そういう認識は間違いであるか。
【答】
しかし、決定されるのは政府であるし、それは全国のことを考えてやっておられることであるから。ただ、私も繰り返し申しているように、今、金融機関にとって大事なことは内外の信認を繋ぎ止めることなのである。そういう意味では、ペイオフ解禁が起こるのはあと8か月先なのであるから、その間に──まだ9月決算もあるし、株価がどうなっていくかもわからないし──自己資本を充実化し、そしてまたセルフ・ガイドラインというものをしっかり持って、多少のことでは驚かないというだけの基本を整えていくことの方が先だと思う。そのことによって信認は得られていくのだと思う。そういう意味では、まだ来年の3月、4月まで待たなくてもやることをどんどんやっていくということが必要だと思う。取り急ぎ、日々の業務でいけば、やはり採算を良くしていくことだと思う。日本の金融機関は利益率、利鞘が非常に低いわけで、これは長い慣習の後で、仕方がないことであったかもしれないが、やはりリスクの高いところには金利を上げて、利鞘を大きくしていくということが必要だと思う。数字はご承知であろうが、日本の銀行の貸出残高というのは、まだ前年比-2.5%ぐらいのところで増えていないし、貸出の利率も1.6%といったようなところで非常に低い水準である。こういうものを上げるなり、あるいはもっと新しい他の業務を始めて手数料稼ぎをするなり、採算を増やしていくことを一刻も早く進めていくことが、経営を健全化していく道ではなかろうか、と思っている。大銀行の方は、一応、再編が済んだわけであるから、いかにして利益を増やしていくかということに全力を投入していくべきではないかと思っている。
【問】
総裁の任期もあと7か月程となり、市場や一部のマスコミでは次期総裁を巡る憶測も出てきている。ここまでやられて、日銀総裁の資質というものはどういうものか、また、次の総裁にはどのような人が相応しいか、お考えがあれば聞かせて欲しい。
【答】
それはちょっと早すぎて何とも…。いい知恵があったら教えて下さい。
とにかく、まだ7~8か月あるが、今のような情勢では明日何が起こるかもわからない。ここまで4年半やってきたが、これほど緊張した夏はないと思う。
私は昭和の34年間を日銀で国際関係を中心にいろいろやらせて頂き、それから17年間、商社にいてその責任者になり、そのうちの後の5年間は経済同友会代表幹事ということで財界のリーダーとして色々な国を飛び回ってきた。しかし、中央銀行は──特にこの数年だが──、何が起こるかわからないという恐さがあり、しかも先を見ながら手を打っていくということが非常に難しい仕事だと思っている。
私自身も思うようにはできていないが、これぐらい緊張が続いた年月はなかったような感じがする。
以上