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総裁記者会見要旨(9月5日)
平成14年9月5日・大阪経済4団体共催懇談会終了後の記者会見要旨
2002年9月6日
日本銀行
―平成14年9月5日(木)
午後5時30分から約30分
於 帝国ホテル(大阪)
【問】
本日の関西財界との懇談を通じて、関西の経済あるいは関西の金融が置かれている状況について、どのようなご感想を持たれたのか改めてお聞かせ願いたい。
【答】
ちょうど1年振りというか、去年も8月の終わりに来て、ちょうどその頃からアメリカのIT産業等の供給超過、在庫過剰がはっきりし始め、間もなくして例のテロ事件が起こったりして、あれから1年経ったのかと思うくらいいろんなことが起こったわけだが、久方振りに大阪の財界の方々のお話を聞かせてもらい、またこちらからも色々感ずるところを申し上げさせて頂いて、特に地域経済について貴重な話をお聞きすることができて、私にとっては極めて得るところが多かったと感謝している。
まず、関西経済の現状についてだが、1年前に当地を訪問した際も、今申し上げたように、IT分野の急激な落込みなどがあって、景気調整が一段と深まっていったわけだが、最近では、輸出や生産の持ち直しが起こってきて、調整期は何とか脱したというような感じがしている。
しかし、国内需要が引き続き弱めの動きとなっている中で、失業率が全国平均を上回る水準で推移しているといった当地の経済は、そういう意味で依然として厳しい状況にあるかなという感じがした。
それと同時に厳しい状況の中にあっても、当地の経営者の方々が自ら様々な創意工夫を凝らし、構造改革に立ち向かって前向きな姿を貫いておられるようで、この点は非常に強い印象を受けた。これは昔から関西の経済界というのは新しいことをどんどんやり、競争をしながら進めていくという体質というか、そういった力を持っておられる地域だったと思うが、こういった時に、やはり需要を自らイノベートするというか、新しいことを考え出して需要を生み出していく、あるいは、需要にミートしていくような産業を興していく、といったような意欲を持っておられるリーダーの方々が多いことに、私は非常に感銘を受けている。日本銀行としても、そういった前向きの企業努力に対して、金融面から、精一杯サポートしていきたい。
金融界についてみると、金融機関経営という点では依然として非常に厳しい状況が続いていると思う。また、金融機関経営者の方々も含めて、各方面からペイオフ解禁についての懸念や意見を改めて聞かせて頂いた。もとより金融機関が内外市場や預金者からの信認を十分確保するためには、不良債権問題の克服をはじめとする幅広い課題に一層前向きに取り組むことが重要であると強く感じた。日本銀行としても、金融システムの安定を確保するため、引き続き中央銀行として成し得る貢献を行っていきたい。
【問】
そのペイオフのことであるが、決済性預金については全額保護の方向で見直される見通しになったが、ここにきて株価の急落もあって、ペイオフの延期論が改めて持ち出されるなど若干議論が錯綜している感があって、今後も予断を許さないといった感想を持っているが、一連の論議について総裁はどのようなご感想を持たれているのか、あるいは決済性預金の全額保護によって金融の安定化にどれほどの効果があるのか、お考えがあればお聞かせ願いたい。
【答】
ペイオフの問題に関して今日公表されたものについて、どのように皆さんが受け止めておられるのか、また具体的にどこまで発表されたのか、私もよく存じないが、金融審議会から決済機能の安定確保のための方策について答申が出されたはずである。この答申に則って必要な制度改正とか、金融機関における具体的な対応がなされていく──決済機能の安定確保のために適切な措置が取られることになる──ことを期待している。ただ、金融システムの安定を確保すべく、こういった措置と合わせて、各金融機関が不良債権問題をどう克服していくか、この課題に一層前向きに取り組んでいくか、ということのほうが私は大切だと思う。これによって、内外からの信認を早期に回復していくこととなる。そういう意味でこれをぜひ一つ早く実施していく必要があると考えている。日本銀行としても、決済システムの安定確保を責務とする立場から、引き続き成し得る貢献を行っていきたいと思っている。システム面での対応等から、ペイオフ解禁の時期を後ずらしさせてはどうか、といった新聞記事が出ていたが、具体的にそういった考え方が打ち出されているということは直接には承知していない。本日出された答申を踏まえてこれから考えていくということではないか。答申では、システム対応等に十分配慮すると書かれていたと思う。現時点で私どもとして具体的な意見を持っているわけではないが、関係者で議論を深めて適切な結論を出していけばよいのではないかというふうに考えている。
【問】
株価の下落が金融システムに与える影響についてであるが、引き続き保有株の損失が膨らんで、このままの水準だと金融機関の健全化の目安として努力している10%という自己資本比率を下回る可能性も出てきている。あるいは下回らないようにするとすれば、資産を圧縮したりすることなども考えられると思うが、株価の下落が金融システムにどのような影響を与えるのかについてお考えを伺いたい。
【答】
株価下落がどこまで進むかということは、これは私が言うべきことでもないし、今の水準が高いか安いかという判断は難しいところだと思うが、去年の今頃と違うことは、やはり決算期の金融機関は保有株の時価評価をしなければならないわけだから、これまでのように株の含み益が不良貸出の償却の原資になるということは今の状態ではあり得ないと思う。そういう意味では、おっしゃるように、株価が上がっていかない限り、含み益というよりも含み損になる可能性が高いということは言えると思う。これから先、まだ9月末まではしばらくあるのでわからないが、株価が引き続き下がっていくと、金融機関にとっては保有株の減価から含み損が出て、自己資本を減らしていくことになる可能性があるというふうに思う。そういう点からは、借りている側は早く借入のうちの不良分を消していくようにして新しい仕事を始めていく必要があるし、金融機関としては不良貸出を減らして信用仲介という本来の任務を増やしていくべきである。それによって収益が増えていき、自己資本、あるいは不良貸出の償却に必要な資金が生み出せるわけで、そういうことをどれくらいのスピードでやっていけるのか、これが今後の課題だと思う。
【問】
今のことと関連するが、例えば経済同友会などから「抜本的に金融システムを安定させるためには、抜本的に不良債権を処理すべきであり、そのためには多額の公的資金を使うこともあり得べし」というような議論が出ている。こういう議論は前々から金融界では言われていることかと思うが、今、金融システム安定のために何らかの新しい枠組みが必要かどうかについて伺いたい。
【答】
経済同友会が出した提言について、かねてから同友会ではそういう意見を持っておられたと思う。日本の金融機関にとっては、不良債権の処理を迅速かつ適切に行うと同時に収益力を強化することで、内外からの信認を早期に回復していく必要があり、私自身これを非常に強調しているわけである。今般の経済同友会の提言については、基本的には以上のような私がかねてから申し上げていることと同じ認識を持った上で、より幅広く、かつ少し中・長期的な観点も加えて、具体的な発言をされているように思われる。経営者の問題なども含めて、新しい考え方を持って金融機関に経営を始めて欲しいということを書いておられる点、これはなかなか言うべくして実行が非常に難しい問題だと思う。同友会の独立した会員一人一人が集まり、議論して発表された提言については、私は「おっしゃるとおり」だと思う。ただ、それが直ちに実行できるかどうかということになると、これはまた少し別の問題かと思うが、方向としては早く不良貸出の償却を進めていくべきだという意見については私は同感である。
【問】
公的資金の導入は現段階で必要か。
【答】
かねてから申し上げているとおり、金融機関にとっては不良債権問題の克服が最大の課題である。主要行の経営体力面の備えというのは、不良債権処理の進捗や株価の下落等から弱まりつつあることは事実だと思う。今後さらに不良債権処理を進めていけば、その過程で自己資本が十分とはいえなくなる事態もないとはいえないと思う。こうした状況の下で、金融システム全体の安定について疑問が呈される事態に陥った場合には、公的資本の注入も含めてタイミングを逸せずに早目に対応していくことが必要であると考えている。現時点においても、こうした考え方は基本的には変わっていない。
【問】
本会見に先立つ懇談会において、総裁は、金融政策の実効性を確保していく観点から、調節手段のあり方を不断に見直しているといった趣旨の発言をされたが、それは新しい調節手段をお考えになるということなのか。
【答】
あくまでも日本銀行がこれまで行ってきた調節手段見直しについて、お話ししたということだ。日本は圧倒的に間接金融の多い国である。1,400兆円の家計の金融資産のうち55%ぐらいは預貯金になっているわけで、直接金融というのは10%程度である。米国等では逆で、直接金融が確か50%ぐらいだったと思うが、預貯金のほうは10%強だったと思う。そういう意味では、家計の方もリスクテイクをして、一部の有利な金融資産に直接投資していくとか、あるいは債券を買うとか、そういったような方向に進んでいく──借りる側にとってもそういった資金が回ってくることは良いことだし、貸す側、すなわち家計にとってもそういった多角的な資産の運用が進んでいく──ということは、今後の方向として私は健全な方向であり、今後進んでいくべき方向ではないかと思う。これはかねてから申し上げていることであるが、税制その他の問題もあるし、構造改革という問題もあり、一つ一つ解決をしていくことによって、家計の金融資産の運用の方法についても変わっていく可能性は十分あると思う。
【問】
金融政策の大きな枠組みを変えるということはない、ということでよろしいか。例えば日銀としてETF(株価指数連動型投資信託)の購入などは視野に入れていないのか。
【答】
金融政策の大きな枠組みを変えるということはない、ということでよろしいか。例えば日銀としてETF(株価指数連動型投資信託)の購入などは視野に入れていないのか。
【問】
株価は今日は少し戻したようだが、依然としてかなり低い水準にある。9月も金融政策決定会合があるかと思うが、期末に向けて、株価の下落等によって金融資本市場が不安定となった場合には、追加緩和、すなわち当座預金残高の目標引上げや国債買切りの増額等が必要になるとお考えか。
【答】
金融市場には潤沢な資金が供給されており、我々は今までやってきた思い切った金融緩和を継続していくが、問題は民間の需要がどれくらい目を覚まして起き上がるか、多少リスクを取っても競争力のあるものを作り、新しいものを売り出して行くといった方向に動き出せるかどうか──製造業もそうだし、サービス産業もそうだが──といったことが決め手である。流動性の供給は十分に行われているわけだから、そこで更に量的な緩和をすることによって、株が値を上げたり、新しい需要が起こることにはならないのではないか。私は、やはり、小泉総理が言っておられる「構造改革なくして成長なし」ということはそのとおりだと思う。資金だけをいくら出しても、民間の需要が盛り上がらない限り経済は成長しないし、物価が上がらないと、金利も正常化していかないだろう。更に量的な緩和をやれば需要が出てくるというものではないのではないか、と私は思っている。
【問】
確認だが、総裁ご自身の認識としては、金融市場の流動性に対して懸念が生じていない現状では、従来の思い切った量的緩和を続けていくということか。
【答】
日本銀行はこれまで思い切った金融緩和を進めてきたが、金融システム不安への懸念が高まり、日本経済に大きなストレスがかかっている中で、金融市場の安定確保を通じて景気の底割れ回避には十分寄与してきていると思う。何も効果が出ていないということではないと思う。そうした金融緩和の下で、短期金融市場では1年物の短期国債金利もほぼゼロに低下するところまでいっているし、きわめて緩和感の強い状態になっている。先々の金融政策運営については具体的なコメントを行うことは差し控えたいと思うが、今後とも潤沢な資金供給を通じて市場の安定と緩和効果の浸透に力を注いでいきたいという気持ちは変わっていない。
以上