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政策委員会議長記者会見要旨(9月18日)
2002年9月19日
日本銀行
―平成14年9月18日(火)
午後2時30分から約55分
【議長】
今日は突然私の出る幕になったが、決定会合の公表文はお読み頂いたと思う。ご承知のように、日本経済はここのところ特に輸出が良いし、生産も伸びており、経済も少しずつ底を打って良くなりつつある感じがする。ただ株価だけが問題である。
金融市場も落ち着いて、十分な流動性が供給されている。何か起こっても、それに対応するだけの余裕は十分ある。そういった状況の中で、今日の公表文3番目の株価のところをお読み頂きたい(公表文3.を読み上げ)。
日本は特に民間銀行が非常にたくさん株を持っている──ドイツを除いては他の国には例がない──。世界全体の株は下がっているが、日本の下がり方はむしろ少ない。しかし、経済全体が株の下落に非常にナーバスになっているのは、日本ほど厳しい所はないように思う。それはやはり、銀行の保有株が多くて、それが決算にも響くし、自己資本にも響く。そういった問題を抱えて、今まさに不良債権の償却をどのようにやるのかということが問題になっている時だけに、この問題については、私どもも日本銀行としてできるだけのことを考え、やれることはやっていくということで、特に先程の3番目にこの文言を入れたステートメントを出したわけである。
それで、決定会合をやってから、「金融システムの安定に向けた日本銀行の新たな取り組みについて」という、もう一枚のステートメントを出した。前々から、何ができるか、何をすべきかという議論をしてきたが、これは決定会合でなく政策委員会として、先程のステートメントの3番目を受けた私どもの今やれる一つの政策として具体化を考えていくということである。まだゆっくりお読みになっていないかもしれないので、一度読ませて頂く(公表文を読み上げ)。
この4番目は、不良債権問題全体について、私どもが今やらなければならない決意を表したものだが、3番目については、これを可及的速やかに具体化すべく政策を決めていきたいと思っている。これは決して株価対策ではない。また、流動性を供給する方法でもない。既に戦後一貫して日本の銀行は株をたくさん持っているわけだから、それが減価することがもたらす銀行へのリスクを恐れるがゆえに、何か中央銀行として銀行の保有株のリスクを防いでいく、保有高をできることなら減らしていく、しばらく日本銀行が保有株式の削減に努力するということを含めて、具体案を考えているところである。
そういったことを今日申し上げて、皆様にもこれからの動きについて関心を持って頂きたいということで、決定会合の日に同時に政策委員会を開いて、大体の方向を決めた。まだ方向だけであって具体的なことは発表できる段階ではないが、これは決定会合の方針に則って決めた方向である。細かい問題点等は三谷理事から説明があると思うが、なぜこのタイミングにこういったものを打ち出したのかということと、それから保有株式の削減努力を促すための新しい施策とは具体的には何かということ、この2点を簡単に、今申し上げたことと重なるかもしれないが、説明させて頂く。
なぜこのタイミングで打ち出したのかということだが、不良債権問題の早期克服が極めて重要な課題となっている一方、金融機関のストックとしての体力は、これまでの不良債権処理の過程で相当低下してきている。
また、最近の株価は大きな変動を示しており、個別の金融機関経営や金融システム全体への信認改善を大きく妨げている。
さらに、政府においても、金融システム問題への新たな対応方針を策定する方向とされている。
日本銀行としても、こうしたタイミングをとらえ、不良債権問題の克服と金融システムの安定に向けた方針を公表することが適当と判断したものである。先程も申し上げたように、株価対策や流動性の供給ということではない。
そして、金融機関の保有株式削減努力を促すための施策とは具体的に何かということをお聞きになりたいと思うが、具体的な内容については、これから早急に検討し、所要の調整を含めできるだけ早期に成案を得るよう努める方針である。
金融機関の保有株式の価格変動リスクの削減をさらに促すための方策はいくつか考えられるが、株式の買取りを基本に考えていくことになると思う。私どもが買取る。これは市場から買うのではなく、銀行から直接に話し合って買うことになる。いずれにしても、財務面の健全性を確保するための措置を十分講じたうえで、何らかの形で日本銀行が自らの資金と一定のリスク・テイクによって、金融機関が株式を保有することに伴うリスクを軽減していく策を考えていくことになろうかと思っている。
大体これが考え方であるが、ご質問があったらお答えできることは答えるし、具体的なことは三谷理事から答えてもらいたいと思う。
【問】
今、総裁がおっしゃった具体策について、成案はこれからにしても、考え方を確認したい。金融機関が持っている株を日本銀行が購入する形になるということなのか。
【三谷理事】
株式の買取りを基本線に考えているが、まだ他にもいろいろな方法があるかもしれない。その辺はこれから関係方面といろいろ話し合いながら詰めてまいりたいと考えている。
【問】
株式の買取りというのは、銀行が保有する株ということか。
【三谷理事】
そういうことだ。
【問】
ということは、つまりそれはメーカーであったり、いろいろな株があるが。
【三谷理事】
今回の目的は、あくまでも金融機関が大量に保有している株式のもたらす価格変動リスクというものを、多少なりとも軽減するために、日本銀行として何らかの措置を講じたいということだ。
【問】
まだ成案はないということだが、規模とか、ある程度の想定がないと、不良債権処理問題とか、金融システム安定化策とか、相当大きなことを考えていると思うが、そうした想定はあるのか。
【三谷理事】
まだ、規模についても、何とも申し上げられない。健全性維持のために十分な措置を講じるということであるので、その辺りとのバランス、日本銀行の体力とのバランス、ということになると思う。一定程度の規模がないと意味がないということではあるが、その辺はこれからいろいろ詰めてまいりたい。
【問】
それは銀行の体力、つまり自己資本の問題だとか、そういうものが指標になると考えてよいのか。
【三谷理事】
ご承知の通り、今、金融機関はTierIを上回る分の株式を平成16年9月までに処分していこうとしているが、その辺がまだ進んでいない。TierIまでの部分をどう考えるかという問題はあるが、TierIを超える部分というのは、明らかに過剰な株式の保有と考えられるわけであるので、基本的には、その辺に焦点を当てて物事を考えていきたいと思っている。
【問】
今、どの位あると想定されるのか。
【三谷理事】
それは、なかなか難しいが、3月末時点の数字は各行が決算発表で出しているが、その後、ご承知の通り、株価の低下によって、時価ベースではかなり低下してきている。したがって、現時点で、何兆円であるというように明確には答えられない。
【答】
TierIを超えている銀行は、十数行である。大手11行に地銀が何行か入っている。それらの銀行が対象になると思う。
【問】
今回、金融システム安定化という名前ではあるが、日本銀行が株を買う、しかもかなり大規模に買う、ということは、従来はなかなか想定し難いことであったと思うし、やはりかなり政策──金融政策ではないということは理解しつつも、日本銀行の資産の劣化の問題も含めて──の相当思い切った転換であるかと思うが、その辺の認識は如何か。
【答】
おっしゃる通りだ。世界の中央銀行で民間の株を持っている中央銀行はないと思う。日本は、特に、民間銀行が株をたくさん持っており、民間銀行が株を持っているのも、日本の他にはドイツがあるくらいだ。日本は戦後ずっとオーバーローンということがあって、銀行が株の持ち合いをやって、金を貸してもらう──企業も自己資本を出して、借入を返したけれども──メインバンク制というものがあって、株を持ち合うことによって信頼関係を保ち合う、といったような長年の伝統がある。そういうものが、ひとつの日本の特異な現実になってしまっている。
そういうことを考えると、銀行の保有する株式の価格が自己資本にも非常に響いてくるとか、リスクを持ってくるということになってきた時、その不安をなくすためには、やはり日本銀行もその位の危機対策というか、安定化対策というか、不安をなくすための手を準備しておくことが良いのではないかと考えている。
そういうことで、日本銀行法では株を持てないことになっているので、日銀法第43条の認可を取らなければならない。その辺の認可はもらえると思っている。
【問】
この政策は「早急に」ということであるが、時期について考えはあるか。
【三谷理事】
まだ具体案等について、全くこれまで各方面と調整していないので、これから調整を始めるということになる。今のところは「可及的速やかに」としか申し上げられない。
【答】
それと、いつまでもこれを買い続けるというものではない。
【問】
金融機関の保有株の中には、いろいろなものがあると思うが、金融機関が持っている金融機関関連の株も、場合によっては買うということか。
【三谷理事】
それもこれからの検討テーマのひとつであるが、日本銀行の取引先の株という意味では、なかなか買いにくい面もあるのではないか、という感じはしている。
【答】
先程も申し上げたかもしれないが、取引先の株をたくさん持っている銀行と、相対の話し合いで売買が決まるので、向こうが何を売りたい、こちらが何を買いたいということは、これからの話し合いでそれぞれ決まっていくものだとご理解頂きたい。
【問】
買う場合の価格の設定はどうなるのか。
【三谷理事】
基本的には、時価をベースにするということで考えざるを得ないと思っている。したがって、これまでに出た何らかの含み損のようなものは、甘受してもらわざるを得ない。基本的にはそういう考え方をしている。
【問】
今までこういう議論が起こると、日本銀行は、例えば、金融政策と財政政策の境目が非常に曖昧ではないか、とか、そもそも、こういうことは財政政策として行うべきではないか、とか、いろいろ反論を展開してきた。その最大の理由というのは、通貨価値の信認が下落する恐れがあるのではないか、ということだったかと思うが、そのリスクというのを、今、どの位に考えているのか。つまり、そのリスクを冒してもやらねばならないほど、事態は悪化しているということなのか。
【答】
事態が今悪化しているというよりは、保有株の減価に対する危機感、不安感というものが非常に強いということである。これは、昨年9月から銀行の決算が時価評価になったとか、いろいろ理由はあると思うし、銀行の再編が行われて、従来とは大分変わった形になってきているし、そういうことを全部含めて考えて、私どもで出来ることをやってみようということである。別に財政に遠慮するという話ではない。
【問】
そもそも論みたいな話で恐縮だが、総裁はこの間不良債権問題、銀行の体力低下問題について相当随分長い期間に亘って言及され、例えば今年では公的資金の問題まで言及されたと思うし、今でも折に触れて、そういうことをおっしゃっていると思う。それを今までおっしゃってきて、日本銀行としても、銀行が自ら不良債権を処理していくうえで、金融政策としては量的緩和を拡大してきて、それをサポートするという政策であったと思う。一方で今回は金融政策ではない訳だが、そこに、言ってみればそれ以外のサポートをする訳だが、これはどういうふうに整合的に考えれば良いのか。つまり株価が下がって非常にリスクが高くなってくる、不良債権を処理する、そうした場合に欠損した銀行に対しては、いろいろなケースがあるかと思うが、例えば公的資金を注入して処理をしていくということが考えられると思うが、これは、要するに「そうではない」ということか。
【答】
私は前からそういうことは言っている。先程4番目で言ったように、「上記の新たな施策の検討と合わせて、不良債権問題についての基本的な考え方を改めて整理して、公表するとともに、今後とも、金融システムの安定に向けて、中央銀行として最大限の貢献を果たしていきたい」という考え方は一貫して持っている。不良債権処理と全く無関係というわけではない。
【問】
株を買い続けるのは「いつまで」というわけではないのか。
【答】
これはもう極めて限定的にである。
【問】
例えばどの程度の期間、どの程度の金額までというのは決まっていないのか。
【答】
それはまだ決めていない。
【三谷理事】
それはこれから関係方面と調整しながら最終的に決断していく。
【問】
関係方面というのはどういう所か。
【三谷理事】
具体的には認可の問題もあるから、当然財務省や金融庁も関係するし、金融機関の状況も、改めてヒアリング等を行うということも当然考えているし、そういった諸々の事を考えながら、ずるずるやるという話ではないと思うので、一定の限られた期間の中で対応していくということで、最終的な期間については確定はしていない。
【答】
新規の買入れは早く始めて、買入れはいつまでということは決めてないけれども、どんなに長くても1~2年だと思う。ただ、買った株は、やはりすぐ売ってしまうというわけにもいかないかもしれないし、10年位は残ることも十分あり得ると思う。
【問】
10年位は持ち続けるということか。
【答】
そういうことも十分あり得ると思うが、まだ決まっていない。
【三谷理事】
そこもまだ最終的に決めているわけではないけれども、もちろん期間の問題もあるし、全体的な株価環境、そういったものも睨みながら行っていこうと思っている。
【問】
つまり企業側のガバナンスの問題、つまり日本銀行が大株主になるということもあり得るわけか。
【三谷理事】
大株主の程度によるが、結果的に日本銀行の子会社になるというところまでは考えていない。やはり1つの銘柄についての上限というものは、いろいろなことを考えながら、然るべく定めていく必要はあると考えている。株を日本銀行が持ったから、それを梃子に個別の企業に対して、いろいろ株主として注文していくとか、そういうことは考えていない。
【問】
銀行等保有株式取得機構というものがあるが、それを活用する案とか、今与党内でもいろいろ言われているが、そういう考えはあったのか。
【三谷理事】
それも1つのバリエーションとしてはあり得ると思っている。ただ、まだその辺についても全く調整はしていないので、私どもとしては私どものできることということで、先程総裁から申し上げたように、買取りを基本として考えているということであるが、これは今後の調整にかかっているということもあると思う。
【問】
日銀にとっては苦汁の決断のように思えるが、今回も政府、与党サイドでの追加緩和の要請があったが、そういう政府とか与党の発言等が今回の決定に関係しているのか。
【答】
別にないけれども、今、金融市場をご覧になって、追加が必要だと皆さん思われますか。これだけ資金が十分に供給されている訳だから・・・。
【問】
生命保険会社はこの買取りの対象に含まれるのか。
【三谷理事】
今は私どもは金融システムの安定という範疇で考えているから、全く念頭にない。
【問】
生命保険会社は金融システムに不安を与えていないのか。
【三谷理事】
直接的には金融システムの外に所在する金融機関類似のものだというふうに思っているが。
【問】
十何行かの株を短期的に買うと、何兆円単位の資金が当座預金に振り込まれるのではないかと察するが、これはオペレーションではないから金融政策とは無関係とはいえ、金融市場にもそこそこの影響を与えるのではないか、その辺はどう見ているか。
【答】
それは先程から申し上げているように、追加信用を出すとかいうこととは全く関係ない。それから株価をどうするという、上げるとか下げるとかいう話とも全く関係ない。
【問】
事実上の株式買切りオペみたいなことにはならないか。
【三谷理事】
オペレーションのように反復継続して行うということは毛頭考えていないし、これを金融調節の手段として位置付けていくということも全く考えていない。本当に期間を限定して、当座の緊急措置ということで行うということである。
【問】
基本的な印象をお伺いしたいが、先程から当座の緊急措置であるとかというような言い方が出ているが、金融庁は今金融システムについて「危機ではない」という言い方をしている。日銀としてはこの思い切った政策に踏み出すに当っての考え方は、今の金融システムは「危機である」というように考えているのか。
【三谷理事】
危機とか危機でないという以前に、現実に一部の金融機関が大量の株式を保有していて、その事により大きな価格変動リスクにさらされていて、かつ最近の状況の下では、それが1つの大きな問題となっているということを踏まえての措置ということである。
【問】
買取りをする対象の銀行について、十数行とおっしゃったが、その銀行に限ると考えておられるのか、場合によってはTierIを超えていない部分も銀行から買うことがあり得るのか。
【三谷理事】
今、基本的にはTierIを超えている銀行に限定することがいいのかな、というふうに考えている。
【問】
日銀の財務上の健全性を担保する手段として、今のところ、どういったことを要望されていくというか、調整されていくのか。
【三谷理事】
基本的には、株式の取得保有量に応じた適切な価格変動準備金のようなものを積み立てるというのが、最も考えやすい方法だというふうに思っている。
【答】
日銀としても、日銀の資産の健全性を確保するということは、まず第一に大事なことであるから、そんな無茶苦茶に株を買うということではないので、そこはよく理解しておいて頂きたい。
【問】
価格変動準備金の積み立てというのは、国庫納入金を減らすとか、そういう手法でやるのか。
【三谷理事】
結果的には、これを費用として計上する以上は、納付金に影響が出てくる可能性はある。
【問】
資料の4番目、「不良債権問題の基本的な考え方」について、今のところお話できる範囲で結構だが、どのような考え方で、いつ頃を目途に出されるのか。
【三谷理事】
まず、時期については今の時点では出来るだけ早く、ということでしかお答えできない。基本的には、不良債権問題の内容について、かつてはバブルの後遺症というのが本当にメインだったわけだが、それが産業構造の転換とか、いろいろな経済の変化に伴う軋みのようなもののウェイトも段々増えつつある。そういった中で、不良債権問題を処理していくためには、不良債権の価値というものを、どういうふうに適切に把握していくのか、そういったところがまず出発点になるのだろうと思う。
そのあたりについては、我々、考査等を通じて培った考え方等もあるので、そういうものをベースにしながら、不良債権の価値というものをどういうふうに把握していけばよいのか、マーケットがあれば非常に分かりやすいが、そういうマーケットは現実にないという中で、どういうふうに把握していくのか、ということなどをベースにしながら、いろいろ考えて、これまでも議論してきた。その議論もさらに加速して、早く公表したい、まとまったら公表したいというふうに考えている。
【問】
今年の3月末時点で、TierI超の株式はどれくらいの額になるのか。
【答】
大手銀行で24~25兆円だ。
【三谷理事】
それは保有総額だ。
【答】
保有総額だ。TierIは17兆円だ。
【問】
先ほど、買取った株を相当長期間保有するということであったが、株の毀損リスクに対して、個別の銀行に対して経営計画を求めたり、経営が向上するような対策を求めていくということは一切されないのか。
【三谷理事】
それは別途、金融庁のほうで、公的資金注入をやっているわけであるし、日本銀行としては、基本的に金融機関が過大に保有している株式のリスクを早く軽減するんだということを中心に考えているので、そこまでのものは要求するつもりはない。
【問】
金融機関の保有株式に関して、リスクは減ると思うが、その反面、経営の緊張感が緩むような気がしないでもないが、その辺を総裁はどのようにお考えか。
【答】
そんなモラル・ハザードにつながるようなことをするつもりは全くない。それよりもやはり、金融機関に対する皆さんが持っている不信感とか不安感とか、そういったものを持たれないようにお互いに努力すべきだと思っている。
これはまだ銀行と話しているわけではないので、銀行がどういう態度をとるか、その点は分からない。けれども、こういったことをやることによって、言ってみれば新陳代謝のメカニズムを起こすんだということにはなるかもしれない。そういうきっかけになることを、私どももできるだけのことはやってみたいというふうに思っている。
【問】
日銀は企業の株主──当然、大株主になることが予想されるわけだから──として、収益強化策とか、当然株主総会に出席するなどして、リストラを迫ったり、経営者に交代を迫ったり、そういうことはあり得るのか。
【三谷理事】
そういうことは基本的には考えていない。
【問】
それは何故か。
【三谷理事】
株式を取得する以上は、株主権というものは発生するわけだが、それを梃子に、企業にリストラを迫るとかそういったことは全く考えていない。
【問】
その理由を。
【三谷理事】
企業のリストラを加速するといったような目的で、日本銀行が企業の株を買うということでは全くない。
【問】
そうすると、逆に企業の株価がどんどん下がっていっても、株主であるにもかかわらず、それは放置するということになるわけか。
【三谷理事】
それは状況にもよるが、基本的に適正な経営をしている以上は、私どもが口をはさむ必要は全くないと思っている。
【問】
今日配られた資料の2番目、「企業、金融機関双方の収益力強化などを軸とした総合的かつ粘り強い対応が必要である」という部分と矛盾しないか。
【三谷理事】
私は矛盾しないと思っている。私は、日本銀行が、収益力強化の余地がある企業の株を特定して買うということは全く考えていない。そういった意味では、こうした目的のために今回の措置をとるということでは全くない。
【問】
対象となる株には、格付けなどの何らかの一定の基準があるのか。
【三谷理事】
何らかの基準は必要だと思っている。それについてもこれから検討してまいりたいと思っている。
【問】
信用リスクが高いような企業はちょっと難しいということか。
【三谷理事】
基本的にはそういうことだと思うが、そのバーをどういうところで、ないし判断基準をどういうところから持ってくるかということも、これからの検討課題というふうに考えている。
【問】
日本の株式市場の弱さの背景に、株の持合い解消圧力というものがずっとあると思うが、日本銀行は、こういう策をとることで、結果的に持合い解消圧力が和らぐという認識か。
【三谷理事】
持合い解消というか、金融機関が過剰に保有している株式を処分しなければいけないということが、一定のルールの下、今、求められている。ただ、それが進んでいないという状況の下で、日本銀行としてやはり、そういうところのリスクを多少なりとも軽減するために何かできないか、ということで考えたわけである。
【問】
目的はそうであると思うが、結果としては、やはり持合い解消圧力の緩和につながって、株価対策でないとはおっしゃっているが、やはり半分以上は株価対策ではないかという気がするが。
【三谷理事】
私どもは、株価対策ということは全く念頭においていない。確かにおっしゃるように、ごく一定期間、非常に期間を短くとれば、金融機関が市場に売却しようとする圧力が減ることは、事実としては、多分それは間違いないと思う。ただ、現実問題としては、金融機関は今、売るに売れないというふうな状況でもあるので、具体的にそれがどの程度のインパクトを持つかということは、全く何とも言えないところだと思う。
【問】
ごく短期間ということであるが、今年度中というようなことを念頭においているのか。
【三谷理事】
それもこれから詰めてまいりたいと思っている。この半年だけがいいのか、来年度に多少入ったほうがいいのか、どの程度の期間を考えるかということになるわけであるが。
【問】
今、総裁がおっしゃったように、24~25兆円の株を持っていて、17兆円がTierIだとすると、7~8兆円の株を、仮に日本銀行が全部買った場合、変動リスクなどで、数兆円規模の責任準備金が必要になるのではないかと推察されるが、それはすぐに工面できるのか。
【三谷理事】
TierIを飛び出ている部分を全部買うというところまでは、多分いかないと思う。やはり日本銀行の財務の健全性ということも非常に重要なテーマであるし、それを横に置いといて、というわけにはいかない。それとのバランスで、最終的な買取り金額を固めていきたいというふうに思っている。
【問】
目安としては、上限、限界はどれくらいか。
【三谷理事】
それは何とも言えない。どの程度の準備をしておけば、十分な備えと考えられるのかという点について、まだ十分な詰めはできていない。
【問】
総裁にお伺いしたい。銀行が持っている保有株というのは、優良株から先に売っているため、基本的に少し問題のある企業の株が多い可能性があると言われている。そういう株式を日本銀行が引き取っていくということ──もちろん今までそういうことはやらないと言ってきたわけであるが──不採算の企業、収益がとれない企業の株式を引き取っていくということであれば、不良債権にしても同じわけであって、逆に不良債権を買わない理由が日本銀行にとってなくなるのではないかと思うが。また、こういう株式を買っていくということは、ある意味では何でもありということで、不良債権を買わない理由、名目というのはどこにあるのか。逆に不良債権を買っていくということも今後あり得るのではないか。
【答】
どの株を買うかということは、相対で話し合って決めることで、向こうはどの株を売る、こっちはどの株なら買うということになるのであるから、そんなに無茶苦茶に買うわけではない。
【問】
上場公開していない企業の株式も対象となるのか。
【三谷理事】
それは少し難しいと考えている。
【問】
理由は。
【三谷理事】
結局、最終的に日本銀行が未来永劫持ち続けるわけではないということを前提にすると、ある程度流動性は確保されていないといけない。その場合には、市場への上場というのは1つの基準になるだろうと今は考えている。
【問】
仮に価格変動準備金というものを積んだとして、価格が下落して損が出た場合、その準備金を充てるのだと思うが、政府の税収に本来入るべきだったものが入らなくなるという意味では実質的には公的資金にはならないのか。
【三谷理事】
トータルとしてロスが発生すれば── 一時的なものはともかくとして、買取ったものを最終的に全部処分した時に利益が出るのかどうかということで、そこで損失が出れば──、最終的には日本銀行の資金で穴埋めをすることになるわけだから、結果的に日本銀行の資金も公的な性格を持つという前提の下では、その公的な部分に傷が付くということになる。おっしゃるとおりである。
われわれとしては、そうならないように売り方についてもしっかり考えたいし、買い方についても、変な価格ではこちらは買えないということになる。
【問】
株式取得機構は8%を拠出しなければならないなど、いろいろ制限があって使いにくいという話があるが、日銀が株式を買う場合には、市場に売るのとは違う条件を付けることを考えているのか。
【三谷理事】
私どもとしては、日本銀行がこういう仕組みを打ち出す以上は──もちろん買取りと最終的に決めたわけではなく、それを今基本に考えているということではあるが──、できるだけ活用してもらうことが望ましいと思っているし、そういった意味では、最低限の制約は付けざるを得ないかもしれないが、あまり制約は付けたくない。
【問】
9日の経済財政諮問会議で、不良債権処理の問題について、RCCにも預金保険機構を通じて資金を出せるとの総裁の発言があったが、今後、不良債権処理関連についていろいろと話を詰めていくことがあるのか。
【答】
不良債権処理は、随分金融庁もやっておられるし、財務省もいろいろとやっておられると思うが、まだ内外で言われているように先が見えてきたというものではない。やはり、まだバブル時代の資産も残っているし、構造改革によって止めていった設備に対する貸出など、今後増えていく可能性も十分ある。
そういう状態の中で、これからどうやって不良債権を処理していくのかということを考えざるを得ない。そういう意味では、いろいろな手が打たれていくと思うが、特に非効率になっている企業あるいは事業への貸出金というものが残っていたりすると、そういうものを検査も行なって償却し、バランスシートから落としていかないと、不良債権は減っていかない。そういうことをこれから思い切ってやっていく必要があると私は思っている。
それは、今まで全然やってこなかったなどとは思わないし、金融庁も随分いろいろなことをやっているわけだが、ここで終わったというものではないと思うし、これから場合によっては残高が増えていくかもしれない。その辺りはよく見ていかなくてはならないが、そういう非効率部門にまで銀行が資金を出していて、経済のプラスになっていないという部分が、やはりまだまだあるのだと思う。そういうものを早く落としていかないと駄目だと思う。そういったことをこれからも協力してやっていきたいと思っているし、柳沢大臣にもそういうお話をしている。
【問】
可及的速やかにということだが、仮に中間期末ということを睨んでいるのであれば、9月以内に行なうということになるのか。
また、資料の上では検討するということにとどまっているが、お聞きする限りかなりの程度固まっているように感じる。これは、9人の政策委員の総意と考えてよいのか。反対、慎重意見などはなかったのか。
【答】
今日の公式なステートメントについては、皆さん(政策委員)の同意を得て公表したわけで、内容についてはまだこれから議論を詰めていかなくてはならないと思っている。
【三谷理事】
実施時期については、別にこの中間期末を焦点に当てているわけではない。
【問】
金融政策の上では、不健全な資産を買わないことによって日銀資産の劣化を防ぐというように言っていたと思うが、プルーデンス面では劣化するリスクがあるものを買うというのは、どちらで行なっても日銀の健全性について不安が起こるように感じる。そこに区別はあるのか。
【三谷理事】
金融政策の場合は、継続的、持続的に行なうことを前提としているが、本件は確かにリスクを取ると言っているから、リスクはあるわけだが、あくまでも限定的、一時的なものという切り分けと考えて頂ければと思う。
【問】
その関連だが、日銀のバランスシートに、このプロジェクトのために特別勘定を作るのか。
【三谷理事】
特別勘定というか、当然、買取りという形で最終的な成案が得られるのであれば、当然バランスシートに乗らざるを得ない。もちろん、買取り以外の方法が全くあり得ないと申し上げているわけではない。また、いくつか考え得る中では、買取りということをベースに考えていくことが、一番分かり易いというわけで申し上げている。
【問】
仮に買取りといったことになった場合には、買取機構と日銀という2つの受け皿が成立し、別々に仕事をするという姿になるということか。
【三谷理事】
それは、否定できない。その辺もこれから議論しなくてはならない一つのテーマだと考えているし、理屈としては、それぞれがそれぞれの特徴を活かしてやっていくということもあり得ると思う。買取機構についても、一部にいろいろなことを見直したらどうかという議論もあるが、私どもではその辺の議論を承知していないので、それについては何ともお答えしかねる状況だが、仮に日本銀行が買取るという形での対応を最終的に決めた場合には、並立する可能性が高いのではないかと思う。
【問】
政府から「一段の金融緩和を」という声があったが、今回の決定では一段の緩和は当面必要ないという結論に達したということでよいのか。
【答】
結論は現状維持である。流動性は十分だ。
以上