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政策委員会議長記者会見要旨(10月11日)

2002年10月15日
日本銀行

―平成14年10月11日(金)
午後4時から約70分

【議長】

本日、金融政策決定会合があり、その後に政策委員会を開催し、先般来、公表を約束していた不良債権問題の基本的な考え方と、銀行保有の株式買入に係わる具体的なスキームを決定した。

まず、それぞれの内容について、お配りした資料に則って、三谷理事から説明する。

【三谷理事】

簡単に説明させて頂く。お配りした資料の、まず「『不良債権問題の基本的な考え方』の要点」について、多少言葉を加えながら、読み上げたい(全文は公表文をご参照下さい)。

基本認識としては、第一に、私どもは、わが国の不良債権問題は、「バブルの負の遺産の処理」だけでなく、「産業構造や企業経営の転換、そういったものへの対処」という調整・性格も加わりつつあり、金融と産業双方にわたる日本経済の構造調整と密接不可分の問題として捉える必要がある、と考えている。

第二に、これまで金融機関は過去約10年にわたり、90兆円にのぼる巨額の不良債権処理を実施してきたわけで、その意味では、問題克服に向けて相応の進捗をみている。しかし、金融機関の経営体力や収益力──含み益も払底しているし、収益水準は低い──、ということとの対比では、客観的にはむしろこれまで以上に厳しい状況に金融機関は置かれている、ということではないかと思っている。

こうした事態への対応に関する基本的な考え方としては、第一に、不良債権の経済価値の適切な把握と早期処理の促進ということを挙げている。こうした観点から、私どもとしては、特に、大手行について、経済構造の変化や信用リスク管理手法の高度化を踏まえた、引当方法の改善という問題提起をしてまいりたいと思っている。

その面で、日本銀行は、考査を通じて、そういった新しい、進歩しつつある信用リスク管理手法を金融機関の自主的な努力の下で、採用していくということを促してまいりたいと思っている。

また、これだけではなくて──これは日本銀行が直接行うことではないが──、RCCの活用等を通じて、貸出債権流動化市場の整備によって、不良債権の市場価格の適切な形成とか、オフ・バランス化を促すことも重要なことと考えている。

第二に、企業、金融機関双方の収益力の強化ということであるが、まずもって、金融機関においては、自主的な収益力向上のための努力を更に強めて頂く必要があると考えている。ただ、そうした中で、金融機関の収益力向上というのは、一面では、やはり貸出金利の引上げ、利鞘の拡大という面も当然伴わざるを得ない。他方で、金利を支払う企業の収益力の強化や、また、企業再生に向けた総合的な取組み、これは金融機関一人だけではなく、産業政策ないしは地域経済対策といった観点から、政府なり公的金融機関の取組みを含めたものということで、総合的な取組みが必要であろうという提言をしている。

また、短期的には、不良債権処理を進めていくと、どうしても企業金融にそれなりの影響が出てくる可能性はある。そういったものに対処するため、既にいろいろ努力はなされているが、証券化技術等を応用した企業金融円滑化のためのいろいろなかたちでの枠組みの整備活性化が必要なのではないか、と考えている。

本文(「不良債権問題の基本的な考え方」)の7~8ページに触れているところであるが、当然、こうした不良債権の処理促進ということは、よく最近新聞等でも報道されているように、デフレ圧力の増大に繋がっているということが、どうしても避けられない面もある。そういった点に関しては、税制なり産業政策の活用を通じた企業の活性化を図っていくとか、もしくは、マクロ経済政策や、雇用政策運営面で、できるだけ安定的な経済環境を確保するよう努めることが重要であると考えている。

第三に、そうした上での金融システムの安定性確保ということであるが、ご承知の通り、金融機関は、今、二つの大きなリスクを持っている。一つが保有株式の問題、もう一つが不良債権問題である。金融機関が、過剰に保有している株式の削減促進という意味では、後でご説明する、先般、発表した日本銀行による新たな措置というものの活用ということを、一つの選択肢として提供したいと思っている。

また、不良債権早期処理の過程で、資本が不十分となるような金融機関は、本来は、自ら市場で資本調達をすることが求められるわけであるが、それが困難な先については、自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すようなかたちでの公的資本の注入が、ひとつの選択肢として検討されるべきであろうと思っている。

勿論、仮に、金融危機のおそれがある場合には、預金保険法第102条の発動による政府の措置と併せて、日本銀行も「最後の貸し手」機能を、適切かつ機動的に発揮して対応していく所存である。

また、株式等の買入であるが、こちらは、非常に分厚い資料があるが、エッセンスは最後の3枚、参考というところに、箇条書きで、買入スキーム、買入対象金融機関、買入対象銘柄、買入方法、買入価格、買入を行う期間、買入総額、買入対象金融機関毎の買入上限、銘柄毎の買入上限、更には、買入後の扱いとして、据置期間、最終的な処分期間、議決権の行使の方針、株式取引損失引当金の設置、等が書いてあるが、これについては、説明するまでもないかと思うので、これで私の説明は終わらせて頂く。

【議長】

私も今日諮問会議があり、途中で失礼しますので、今の三谷理事の説明を若干補足して、簡単に経緯等を説明する。

不良債権問題への取り組みについては、金融機関が過去10年で、約90兆に上る不良債権処理を実施して問題克服に向けて相当の進捗がみられている。それにも拘わらず新規の不良債権発生が続いているというところが問題である。

また株価の下落もあり、金融機関の対応余力というのは、相当に限られたものとなっている。市場からの金融機関に対する信認の回復もはかばかしくはない状況にあるように思う。こうした状況を踏まえて、日本銀行では不良債権問題の捉え方や対応のあり方について、改めて総括的な検討を加える必要があると判断して、精力的な検討を進めてきた次第である。その結果が本日の公表となったものである。

現在、政府において、金融庁を中心に不良債権処理の加速化に向けた検討が進められているところである。本日公表した日本銀行としての基本的な考え方が、金融庁を含めた各般の今後の取り組みに資することを期待している。

最後に、株式の買入れについてであるが、三谷理事が説明したとおり、原則15年9月(来年の9月)までの間に2兆円を上限として買い入れを行うこととした。具体的な枠組み作りに際しては、金融機関の株価変動リスクの軽減といった政策目的はもちろんのこと、客観的なルールを設けることによって、透明性を確保していきたいと思っている。

また、日本銀行の財務の健全性に配慮することを心がけたつもりである。なお、株式買入れについては、本日財務大臣および金融庁長官に、日本銀行法第43条に基づく認可申請を出した。速やかに認可を頂くことを期待している。私からは以上である。皆さんのご質問をお受けしたいと思う。

【問】

今日の金融政策決定会合で現状維持を決めたわけだが、現状の株安および景気に対する総裁の認識を伺いたい。

【答】

景気については、経済情勢は全体として下げ止まっている。これは前月と変わらないが、世界経済を巡る不透明感がかなり強いということもあり、回復へのはっきりとした動きはまだみられていない。

金融資本市場については、株価が下落傾向を辿っているが、日本銀行の潤沢な資金供給の下で短期金融市場は全体として落ち着いた動きとなっている。流動性に関する不安感は払拭された状況が続いていると言える。

こうした情勢を踏まえて、本日の会合では現在の思い切った金融緩和を継続することを決定した。今後仮に金融市場において株価下落等を受けた流動性需要の高まりといった動きが生じるような場合には、ご承知のように、今の現状維持の政策にはなお書きがついており、一層潤沢な資金供給を行う万全の態勢ができている。この点、既に金融機関は日本銀行に十分な担保を差し入れている。

日本銀行としては、今後とも物価の継続的下落を防止し、日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するために、潤沢な資金供給を行うとともに、金融システム安定の面でも中央銀行として最大限の努力を続けていく方針である。

株価の動向については、先週初めから再び下落傾向を辿っている。その背景として、欧米株価の下落に加えて、世界経済を巡る不透明感、それを映じたわが国景気の先行きについての懸念、更には不良債権処理を巡る思惑などが挙げられるように思う。株価の下落は、様々なルートを通じて企業や家計の支出行動に影響を及ぼしているだけでなく、現在の金融経済情勢の下では、金融市場や金融システムを不安定化させる可能性があるために、引き続き注意深く見守っていきたい。

ご承知のように、米国でも随分下がっているし、特に欧州では日本よりもはるかに大きく、年初来で言えば3~4割も下がっている。そういった世界的な株安の流れの中で、今後どのように動いていくか、私どもとしては注意深く見守っていく必要があるし、こういったことが金融機関の資本あるいは経営にも影響を与えてくるということを心配して、今回の銀行保有株買入制度を決定した次第である。

【問】

竹中金融相から日銀に対して、インフレ目標の導入、およびそれを前提にしたと思われるアコード(政策協定)の締結の話が出ているが、これについて総裁の考えを伺いたい。

【答】

インフレ・ターゲットの話はまだ聞いていない。ましてアコードの話などは全然聞いていない。アコードと言ったら、逆の話である。1951年、中央銀行であるFRBが財務省から独立して、財政は財務省、金融はFRBと決めたのがアコードであると私は理解している。何故そんなところでアコードの話が出てくるか。彼からは、私は直接聞いていない。そういうことも、新聞には書いてあったかと思うが。

【問】

不良債権の基本的な考え方というのは、これまでの考え方とは非常に違うので、日本経済にとっては重いメッセージであると思う。こういうものを本当に実施すると、先程も総裁が触れられたような、いろいろなかたちでの実体経済への影響が出て、デフレ・インパクトが強烈に強まる惧れがあると思う。いろいろなかたちで対応すべきだと書かれているが、今後、デフレ・インパクトを和らげるために──こういうものをもし金融機関が実施して、企業もそれなりの対応をしていくならば──、中央銀行として、更に金融政策の面でできることはあるのか。

【答】

金融政策については、先程私どもの考え方、方針を説明したが、今お尋ねの、仮に、不良債権問題が原因になってデフレがどうなるのかというご質問であれば、答えたいと思う。

経済の低成長と、その下で生じている物価の下落傾向が、不良債権の発生に影響を与えている可能性については、否定しがたいと思う。他方、構造調整圧力の強まりとか、需給バランスの悪化といったようなことを通じて、物価の下落圧力をもたらしている面も大きいと思う。このように、構造調整と物価の下落は、相互に関連するもので、どちらか一方を不良債権発生の原因として取り出すことは、適切ではないと思う。

【問】

「不良債権問題の基本的な考え方」の公的資金注入のくだりで、「金融機関の自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すようなかたちでの公的資本の注入が、ひとつの選択肢として検討されるべき」とあるが、ここで言う「金融機関の自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すようなかたち」とは、どのように考えているのか。

【答】

公的資本の注入についての見解は、いろいろな議論がある。私どものペーパーの考え方を整理すると、次のように言えると思う。

このペーパーでは、不良債権の経済価値の的確な把握に基づく適切な引当で、不良債権の早期処理を促していくという考え方を強調している。金融機関が、今後積極的に不良債権を処理していく過程で、資本が毀損される可能性があることも否定できない。その場合でも、その時点において財務内容の透明性や、収益力強化という経営方針について、市場の信認が得られるならば、市場での資本調達が可能となるはずである。

しかし、何らかの事情で、市場調達が困難になったり、かつ金融システムの安定確保に問題が生じるようなことになれば、政策対応が必要となるケースも起り得ると思う。

公的資本の注入というのは、今申し上げたような、一連のプロセスの結果として、政策対応の一つの選択肢として検討されるべきものであると考えている。ただし、その際に、そうした公的資本の注入によって、金融機関の自主的かつ責任ある収益努力向上を促すものとすることが重要ではないかと考えている。大体の考え方は以上である。

【問】

実際の買い取りの限度の日付は分かったが、いつ頃から買い取りを始める予定か。

【三谷理事】

できるだけ早くと考えている。ただ、先程のペーパーにも書いてあるとおり、事務の効率化のために信託銀行を使うことを考えている。これから信託銀行の選定を始め、また、その信託銀行における事務対応がどの程度の時間でできるのかという問題もあるので、現在ではいつ頃と申し上げるわけにはいかない。なるべく早くということである。年内にはなんとかなると思っている。

【問】

「不良債権問題の基本的な考え方」の6ページに、「現在の引当額は不良債権の経済価値の減価を十分にはカバーしていない可能性が高い」とあり、日銀の考え方で言えば、引当不足であると書いてあると思うが、幾らぐらいの引当不足なのか。つまり、自己資本の毀損まで触れている以上、相当の引当不足かと想定するが、数兆円なのか、10兆を上回るのか、20兆、30兆という話なのか、その辺のイメージを教えて頂きたい。

また、本来「不良債権問題の基本的な考え方」は昨日公表すると政府や与党には伝わっていたかと思うが、1日遅らせた理由は何なのか。マーケットでは、株式市場への配慮ではないかという見方もある。その2点について伺いたい。

【答】

昨日発表すると言ったか?一両日中と言ったつもりで、今日も入っている。信託との話し合いや、その他ディーテール(詳細)は大体決めているので、なるべく早く認可を頂いて、早く進めたいと思っている。

初めのご質問は三谷理事から申し上げる。申しわけないがこれで失礼する。

【三谷理事】

不良債権の要処理額がどれくらいかというのは、我々もいろいろなかたちで、いろいろなデータを見ながら検討しているが、正直言って、どういう時点で取るのかとか、データはどういったものを使えば最終的に一番望ましいのかとか、データの内容もいろいろ吟味しなければいけないということで、試算結果はあるが、申しわけないが具体的な計数を述べることは差し控えさせて頂きたい。

【問】

公的資金を注入した場合の「自主的かつ責任ある収益力向上努力を促すようなかたち」とあるが、現在の経営健全化計画も収益目標を掲げており、現在のやり方をどう改善したら良いかという考えが盛り込まれているのか。

【三谷理事】

今の健全化計画でも、いろいろな努力目標というかたちで出しているが、例えば、自主的にという話でいくと、先程の質問にも関連するが、誰が経営するかということもあるが、まず経営者がいろいろな創意工夫を十分に発揮しながら、経営を自由にしながらここまでやっていくことが必要である。それから、責任の方は、ただそういう自由を与える代りに、経営責任はきっちり取ってもらう。いろいろなかたちでの数値目標があっても良いが、経営者の方にある程度は自由に経営して頂かないといろいろなことができないし、日本の金融機関の特殊性を出しにくいから、自由度は十分確保する一方で、収益に対する責任はある程度明確にして、それを石にかじりついてもやって頂くといった方法が必要であるということである。

【問】

それは、中小企業向け貸出の増加目標は撤廃したほうが良いということか。

【三谷理事】

いろいろな議論があった上で、国会で決定されたわけだから、それは当時必要性があったと国会が判断されたのだろうが、やはりいろいろなかたちで経営者の手足を縛るようなかたちで行くと、思った通りの経営ができない。もちろん、だからといって中小企業貸出を減らすということではないのかもしれないが、経営のやり方という面ではできるだけ自由度を確保した方が、より個性のある、良い金融機関ができるのではないかと私は思う。

【問】

注入時の経営責任はどうあるべきだというのが、日銀の考え方か。

【三谷理事】

それは、非常に重たい重要な問題と思っている。ただ、現時点ではどういった状況の下で、どういったかたちで、資本注入が行われるかというのが、別に明確でもなんでもないので、現段階でどういった範囲で、どう責任を取るのかというのはお答えできない。

【問】

株の買取について、2点ほど、テクニカルなところだが伺いたい。まず、1点目に、買入れる株式のトリプルB格相当以上ということだが、これは外国の格付け機関と日本の格付け機関と、この辺のところが非常にグレーな部分があるかと思うが、どこかの格付け機関がトリプルBをつけていれば必ず買入の対象になるのか。また、VWAP(売買高加重平均価格)か終値取引ということだが、これは、いわゆる証券取引所の立会外での取引を意味しているのか、もしくは相対の取引も可能性としてあるのか、この2点について伺いたい。

【三谷理事】

最初のご質問だが、いくつか格付け機関があるので、私どももこの買取の時に参照する格付け機関をいくつか指定しようと思っている。その中で、トリプルBマイナスよりも下の格付けがある場合には、それは買取から除外するということであり、こちらがトリプルBマイナスだけど、こちらはダブルBプラスということであれば、これは除外すると考えている。

後者の方は、私どもは取引上の加重平均価格と終値といった二つを比べて、どちらか低いほうをと考えている。従って、場外の取引は入れていない。

【問】

一点確認だが、公的資本の注入をひとつの選択肢とするとのことだが、これは予防的注入を念頭に置いているという理解で良いか。

【三谷理事】

これは、これまでもいろいろと議論のあったところで、今の預金保険法102条の解釈によって対応する余地もあるのではないかという議論もあるし、新法によらないと予防的なことはできないのではないかという議論と両方ある。われわれとしては別に法律解釈を──言わば公的解釈──する立場にはないので、その辺については、今、金融庁でもいろいろと議論されておられるのではないかと思う。そちらの検討をまず待ちたいと考えている。102条の解釈ではいけないということになると、新法の制定ということになるかもしれないが、102条の解釈がどこまでできるのかというのは、私の立場から「ここまでです」というのは申し上げられない。

【問】

銀行の自己資本が毀損して自ら資本調達できない場合には、資本注入を検討すべきとのことであるが、どこまで自己資本が毀損した場合、そうしたことが考えられるのか。

【三谷理事】

それもこれからの検討課題なのだろうと思うが、実際の資本注入は政府によって行うわけであろうから、仮に預金保険法102条の解釈でいくのであれば、金融危機対応会議にて総理が必要性を判断するということであり、予めどこ(の水準)であれば資本注入を行なうべきだということを明確にわれわれが申し上げるという性格ではないと思う。

【問】

金融危機対応会議というものは、そう簡単に開けるものなのか。例えば、どこか大きいところが倒れて影響が出てきて開くというのは理解できるが、その前に開いて判断できるものなのか。

【三谷理事】

法律上は、金融危機のおそれがある場合には開催するということになっているのだから、その辺をどう解釈するのかということになるのだろうと思う。実際にどこかの金融機関が取り付け騒ぎに遭わないとできないという性格のものだとは私は必ずしも思っていない。

【問】

以前、総裁が日本の銀行の資本の質について、繰延税金資産が多く含まれていることなどを挙げ、極めて弱いという問題意識を示していたと思うが、このペーパーでは、銀行の資本の質については触れていない。その考えは何故入っていないのか。また、自己資本規制を見直したほうが良いと思うか。

【三谷理事】

このペーパーそのものは、不良債権問題を中心に考えているので、その不良債権問題との絡みで、不良債権処理が進展した場合に資本がどうなるのかといったことには触れているが、逆に言うと資本の在り方そのものについては、このペーパーで議論しているわけではないので触れていない。

特に、深い意図があって書かなかったというわけでもない。このペーパーのテーマそのものが不良債権問題ということであるので、資本の質については取り上げていない。

【問】

今の自己資本基準を見直すことについて、日銀の考えはあるのか。

【三谷理事】

それは、いろいろな考え方があろうかと思う。以前総裁がお話しされていたような、本当に税効果がこれほど入っていて良いのかなどの問題はあるかと思うが、それについて、今回政策委員会で何か考え方を決めたということはない。それは、人によっていろいろな意見があるのかもしれないが。

【問】

株式買い取りについてだが、日銀が買ったということのディスクローズについては、どのようなタイミングで、どのように行うのか。

【三谷理事】

私どもでは、10日に一度、営業毎旬報告を出しているので、その中で、その時点で買い入れの終わった株式の残高が、金銭信託の残高として掲載されると考えている。なお、それ以外の、個別の取引に係る事項であるとか、そういったことについて公表することは考えていない。

日本銀行が、個別の銘柄等について、幾ら持っているかということをディスクローズすると、それは、何年かの間に必ず(市場に)出てくるものだ、売られるものだということで、いろいろな思惑を招きかねないということもあるので、個別情報については一切公表しないと考えている。

なお、各期末においては、財務諸表の中に、その期末における買い入れの終わった総額、およびその含み損の額などが当然ディスクローズされる。もちろん含み益の場合もあるかと思うが。

【問】

株の買い取りの対象となる銀行の数は何行か。地銀もあれば併せて教えて欲しい。

【三谷理事】

3月末時点での数字については、以前この席でお話したと思うが、9月末の今の時点では、まだ明確な数字が出ていない。やはり10数行位ではあろうと思うが。

【問】

それは地銀も含むのか。

【三谷理事】

それは皆様方でお調べ頂ければと思う。

【問】

発表の手続きの件だが、前回買い取りを決定した際は、決定会合の結果発表と同時に通常会合で金融安定化策を検討すると発表しているが、今回は、株式市場の終わった15時以降に会見を行うとアナウンスした時差の問題には何か理由があるのか。

【三谷理事】

これは、会合を行った時間との関係もあるし、併せて、既にこういう措置を検討するという考え方そのものは既に発表しているわけであるので、今回は、いわばそのフォローというか明細みたいなものであるから、そこまで配慮する必要はないと考えた次第である。

【問】

「考え方」の本文の7ページに不良債権問題に対する対応の基本原則が書いてあり、そこでは、不良債権処理に伴って発生してくるデフレ圧力に対して、どういうもので対応すべきかが書かれていると思う。その中で、マクロ経済政策が挙げられているが、これは当然金融政策を含むと理解して良いのか。

【三谷理事】

もちろん、マクロ経済政策というのは、通常は財政政策、金融政策を指すと思う。私どもは、先程総裁が言われたように、現時点で思い切った金融緩和を継続しており、十分な措置は講じているとの判断だと考えているが、本日の金融政策決定会合──私は出ていないが──に関する先程の総裁の説明ではそういうことであったと理解している。

【問】

株式の買い入れについてだが、当初発表した際は、日銀の財務の健全性を保つとの観点から、引当金を十分に積むと思っていたが、今日は少し違った内容になっている。その理由を教えて欲しい。

【三谷理事】

どこまでが十分かどうかということは、いろいろな議論のあるところだが、これを発表して以来、どの程度の、どういう措置を講ずれば、健全性が必要にして十分な程度か──過剰に対応することは、やりすぎであろうから──、いろいろと議論してきた。まず、一つは買い方であり、買い入れる株式はもちろん時価で買うわけだが、その対象銘柄をどうするのか、また銘柄の分散をどうするのかとか、また売却時において、どのような対応を採るのか。そこでは、株式市場の情勢を十分勘案しながら相当な期間をかけてやっていこうということで、当然、まずその根本には、できる限り売却損を回避するというのが、まず第一にあるのだろうと思う。第二に決算期において、期末時点で、一応取得原価法を採ろうと思っている。これは株式を商品勘定のようなもので頻繁に売買している場合を除いては、その他有価証券というかたちになり(税効果会計の採用を前提に資本直入法を適用することが普通であるが、税効果会計を採用していない場合)、原価法が適用されるのが一般的であるということなので、私どももそれを採用して、取得原価法を採るわけであるが、そこで当然、減損処理は行うし、仮に含み損が出た場合には、それに対して同額の引当金を積むということにしたわけである。更にそれ以上にリスクに備えるかということもいろいろと検討したわけだが、日本銀行には法定準備金というかたちで── 一般の企業等において資本勘定に該当するものであるが──、相当程度カバーするというのが、一般的な考え方であろうということであり、これで必要なところはきちんとカバーされるという判断でこういう措置になったということである。

【問】

国債に関しては、2兆、3兆円程引当金を積んでいるわけであるが、日銀のバランスシートからみると、日銀としては、株よりも国債の方がリスクが高いとみていると受け取られかねないのではないか。

【三谷理事】

リスクが高いというか、株は最大2兆円であり、国債の方は、ご承知の通り、長期国債だけで50兆円くらいある。そのリスクの大きさが、どちらがトータルとして大きいかというのは、なんとも言えないところだと思う。むしろ、株の方が2兆円にとどまるということを考えた場合には、リスクが少ないのかもしれないということもある。

株式についても、期末の時点で、少なくとも、含み損が発生した場合には、全額対処するということで、必要な措置はきちんと講じている、と私どもは考えている次第である。

【問】

RCCによる不良債権の買入のための工夫について、実質簿価買取ということも想定しているのか。

【三谷理事】

実質簿価買取という議論もあるのだろうが、このペーパー(「不良債権問題の基本的考え方」)の筋からいくと、まず、私どもが、不良債権の経済価値を適切に反映したかたちで引当をしていくべきだ、と言っているわけで、そういう引当が進んでいけば、RCCが買い取る時価というのも、殆ど同じところに収斂するはずである。

私どもがここで言っているのは、不良債権の実質的な経済価値に即した引当を行うべきだという延長線上からいけば、「実質簿価買取」=「時価買取」になってしまうということだろうと思う。もし、そういう引当を、そこまでやる必要はないのではないか、となった時に、実質簿価買取という議論が出てくるのであろうが、このペーパーの趣旨は、それとはちょっとずれているということになる。

【問】

不良債権の考え方の公表ペーパーは、全体を通して非常に噛み砕いて解り易く書こうという努力が伺えるのであるが、先程の三谷理事の口頭の説明では、「不良債権処理を進めるとデフレ圧力が増大する」とおっしゃったが、不良債権のペーパーの7ページ目には、「デフレ」なり「デフレ圧力」という言葉は書いていない。だけれども、先程「マクロ政策には一応金融政策も含む」とおっしゃったが、この点は何か「デフレ」という言葉を敢えて避けたのか。また、金融政策に跳ね返ってくるものであるからして、金融政策決定会合で、記録の残るかたちで議論をしなくて良いのか。通常会合で良いのか。

【三谷理事】

そこまで深く考えて頂く必要はないと思って、私は発言したのであるが、最近のマスコミのいろいろな報道を見ていると、「不良債権の処理促進=デフレ圧力の高まり」というような表現の仕方が多かったので、最初の説明の時には、そういう発言をしたということである。

2点目は、マクロ政策は、一般論としては、財政も、金融政策も入るということであるが、それについて、では具体的にどういうことが起きたら、どういう話をしようかというところまで、このペーパーを議論した時には出ているわけではない。ここで書いてあるのは、一般的な考え方として、当然、マクロ政策も必要であろうということである。今の日本銀行がやっているものが、十分なのか、更に追加的なものを要するのかということは、全く議論していない。そういった議論こそ、金融政策決定会合で行われるべきものであると思っている。

【問】

要するに、銀行の引当不足がまだ残っている、との話であるが、例えば6ページ(「不良債権問題の基本的な考え方」)には、銀行は検査マニュアルに則って、厳格に引当をやってきたとあり、金融庁も日銀もちゃんとチェックしてきたのだとある。これは、世には銀行の引当が甘いとか、金融庁の検査が甘いとか言われているが、日銀の考査も要するに甘かったという話なのか。そうではなくて、みんな厳しくやってきたけれど、突然事情が変わったということなのか。素朴な疑問であるが、その辺の見解を伺いたい。

【三谷理事】

金融庁の検査は、検査マニュアルというものを作ってやっているわけであるし、私どもは、それを基本にしながら考査をやっている。今の検査、考査のやり方というものは、不良資産の問題に関してであるが、まず、金融機関が自己査定をする。その自己査定というのは、金融機関が検査マニュアルを参照しながら作った金融機関の自己査定要領(いろいろな名前があるだろうが)に基づいてやっていく。その検査なり、考査なりというものは、自己査定要領が検査マニュアルから逸脱していないか、不十分なものとなっていないか、かつ、それが十分なものであるとして、それにきちんと則って自己査定が行われているか、といういわゆる自己査定のチェックを中心にやっている。

そうすると、ここで言っているのは、今の検査マニュアルで、「ここまではやりなさい」、「これよりも不足があれば、これは問題ですよ」といったレベルとは違う話をしているわけである。検査マニュアルでは、「ここまでやっておれば十分とみなす」というものがあるが、私どもが言っているのは、一つ一つの不良債権、ないしは集合としての不良債権について、やはりきちんと経済的価値を測定しましょうということであるから、ちょっとそれとは離れているものになっている。

ということで、検査、考査の中で、そこまで要求できるのかということになると、今の段階では法的に要求はできない、と考えている。自己査定がきちんとなされているかという観点から、検査、考査を厳格にやっても、それがイコール不良債権の実質的な経済価値を十分反映した引当になっているか、ということには繋がっていない、というのが今の状況だと思っている。

【問】

非常に難しいおっしゃり方であるが、これは、ちゃんとバランスシートに反映させるべき、とのお考えか。

【三谷理事】

それはやはりバランスシートに反映させられるように、言わばこれまでの手法から更に一歩二歩進んだ手法で、不良債権の引当をやっていくべきではないか、というのがこの主張のエッセンスである。

【問】

下衆な質問だが、そういう考え方で、新たに引当を積み増して、仮にもし、資本不足になっても、今のおっしゃり方では経営責任を問えないのではないか。

【三谷理事】

そういうことも含めて、経営責任の問題をどう考えるかということは、今の段階で申し上げられないと言っている。

【問】

それは同時に金融庁の検査、日銀の考査の責任というものとほぼ同義になるわけか。

【三谷理事】

それはちょっと違うと思う。ここで考えている一つの先進的な方法として、例えば、割引現在価値による評価というのもあり得るが、そういったものを別に排除しているわけではない。ただ、そこまで検査マニュアルを作った時には、十分な適用ができないという状況にあったこともあって、そういう手法が採れなかったこともある。

【稲葉考査局長】

技術的な話なので、考査局長として補足する。今説明があったように、今の引当のルールというのは、企業会計原則、あるいは、金融庁マニュアルに則って、金融機関は厳格に引当を行っていると我々は認識している。この金融庁のマニュアルにしても、企業会計原則の一般的な考え方と整合的に作られているわけである。引当というのは、それなりにいろいろな意味合いを持っているが、そうした現在の企業会計原則なり、金融検査マニュアルは、それぞれ根拠を持って整合的に作られている。

しかし、ここで指摘したいのは、不良債権の経済価値をきちんと把握するという見地からみた時、現在の引当の方法では、その経済価値の減価を十分にはカバーしきれていないのでないか、ということである。

そういうことであれば、これはルール違反であるとか、検査や考査が厳しくないとか、ということではなくて、不良債権の早期処理の見地から、経済価値の減価を正確に把握し、それに対して十分に引当を積むことが、不良債権早期処理に繋がるとすれば、そうした面での、引当の工夫をしてみる余地があるのではないか。

これには、種々、技術的な困難さもあるので、日本銀行としては、考査の機会を通じて、こうした工夫が採れないか、大手行を中心に問題提起をし、議論をしていきたい、ということである。実際、大手行では、いろんなデータの集積とか進んでいるので、この辺の議論が出来るのではないか、と思っている。であるから、ここには、責任の問題であるとか、そういうものは一切出てこない。

【問】

今の話を敷衍すると、要するに今の検査マニュアル、企業会計原則が、現状に追いついていない、という話になるが。

【稲葉考査局長】

現在のマニュアルは、現在のマニュアルで、それなりに正当な根拠を持って使うべきものであると考えている。

しかし、いろいろその時代、その時代の要請から、その時々で見直していくという姿勢は、重要なことではないかと考えている。現に、新しい手法の見直しについては、例えば、金融機関の実績等も見ながら、議論を深めていこうというかたちで、現在も運営がなされていると理解すべきと思う。

【問】

そうすると、こういうかたちで適切に運営するためには、検査マニュアルというのは見直した方が良い、というのが、日本銀行の立場なのか。

【三谷理事】

それも一つの方法かもしれないが、ただ、こういうやや進んだ信用コストの管理という話になってくると、全ての金融機関に適用できるのかというと、私どもは、必ずしも現状そこまで全ての金融機関がデータの蓄積も含めて出来ているとは思っていない。

金融検査マニュアルが、全ての金融機関に一律に適用されるという前提の下で考えると、金融検査マニュアルそのものを大きく改訂することは、私は難しいのかもしれないと思っている。

ただ、8ページ(「不良債権問題の基本的な考え方」)の注に書いてあるが、現行の検査マニュアルにおいても、「割引現在価値による債権の評価については、企業会計審議会等による議論及び金融機関における導入の実態等を踏まえ、今後、所要の見直しを行うこととする」とされており、金融機関がそういうものを導入してはいけないとは何も書いていない。むしろ、導入が進んでいけば、金融検査マニュアルにも反映されてくるというものであり──金融検査マニュアルは、今のところは、全ての金融機関に適用しているということであるが──、そういう体制ができたところは、こういう方式を採っていくことについて、マニュアル上どう書き込むのか、そこについては、いろいろな方法があるのだろうと思っている。直ちに改訂ということにはならないのかもしれない。

【問】

資産査定について、特に大手行というふうに限定した理由はなぜか。

【三谷理事】

それも先程申し上げたように、今私どもが提唱している新しい信用リスク管理法のやり方というのは、従来のものに比べるとやはりいろいろなデータの蓄積なり、内部体制の整備みたいなものが必要なわけである。

そういうことを考えた時に、全ての金融機関と直ちに議論できるのかと言うと、なかなかそうもいかない。

【問】

基本原則ができるかできないかというところで分けているのか。大手行ならできるだろうと・・・。

【三谷理事】

まあ大手行ならできるであろうし、また日本の金融システム全体を見ても──例えば国際的に活動していたり──市場プレゼンスの大きな大手行の信認というのは、やはり一番ポイントであろうという観点からも大手行が適当であろうというふうに我々は考えている。

【問】

6ページ(「不良債権問題の基本的な考え方」)に「1%近い信用コストが発生する蓋然性が高い」という表現があるが、これは、自然体でもこの程度の信用コストが発生するという意味なのか、あるいは引当を強化してとか、不良債権処理を加速して、この程度なのか、あるいはそうした場合はもっと大きい数字になるのか、この1%という数字の根拠は何か。

【三谷理事】

結果的に出てくるものは、実際に引当をした数字であるので、適切な引当をしてということが前提であるし、それがどれ位続くかというのは、ここでは当面と書いているわけで、これは企業の動向がどうなっていくのか、経済全体の動向がどうなっていくのか、構造改革がどういうふうにできていくのか、そういうところにかかってくるわけである。何年間ということではないけれども、しばらくの間はかなり高い信用コストが発生する蓋然性が高いのだろうと思う。

因みにということで、この下にちょっと書いてある図表4というのを見て頂くとアメリカの場合、80年代後半から90年代前半にかけては信用コストがかなり上がったわけだが、最近の比較的景気が良いと言われた時期でも0.6とか0.7位の信用コストが出ているわけである。日本の金融機関はこのバブルの崩壊まではほとんど信用コストというのが限りなくゼロに近いというか、10ベーシスとかそれ位の話であったのが、ここまで増えているわけである。これは今の状態と比べて極めて異常だろうとは思うけれども、これが収斂していってもさっきのような構造調整のいろいろなインパクトなどを考えると、これがかつてのように0.1とか0.2というところまで落ちていくというのは期待できないし、相当しばらくの間は1%に近い所位から下がってもそこから下げる余地というのはそう大きくないのではないかなというのが、今我々の考えとして持っているものである。

【問】

もう少し具体的なイメージを教えてもらえると有り難いのだが、査定の厳格化については、その他要注意先も全部ディスカウント・キャッシュ・フロー方式で洗い直すということを、今後モニタリング等で求めていかれるのか、それはどういうイメージを持っているのか。

【三谷理事】

キャッシュ・フローを使った割引現在価値を求める方法として、これは国際的にもまだいろいろな議論もあるわけだが、個別企業ベースでやっていくのか、集合体としていくのかというふうな流れも一つある。今のコンセンサスというのは、ある程度将来のキャッシュ・フローが見込めるような、いわばそれなりの規模のある企業、こういうものは当然個別にやっていくのであろう。集合体でやっていく時にどういう手法が良いのかどうかということについて、既に導入している国もあるけれども、国際的な議論全体としては、それはまだ議論が完全に終わっているわけでもない。だから、そういうことも含めて、どういう適応をしていくかというのは、金融機関とも議論していく必要があるんだろうというふうに思っている。

いわゆる「その他要注意」といっても、大きなところ──大企業といったところは──はやはりやるべきなのだろう。中小企業のところまで全部どういうかたちでやっていくかとなると、なかなかそこまで個別企業のキャッシュ・フローは予測しにくい。そういうものを集合体としてやっていく手法もある。ただそれは必ずしも十分成熟しているのかどうかというと、まだ議論の余地も残されている。そういったものをどう活用していこうかというのもこれからの検討課題だと思う。

【問】

確認したいのだが、現在の検査マニュアルは、なぜ最近の経済価値を正確に反映していないという認識か。それは大雑把すぎるということか、それとも将来の経済動向を反映していないとか、どういう考えか。

【稲葉局長】

引当の考え方というのは、いくつかの考え方がある。例えば、ある債権を保有していて、翌年損失がどの位あるかという分を積めば良いというような考え方もある。あるいは翌年だけではなくて、平均残存期間で損失が年々どの位起こるかという分を積んだ方が良いとか、いろいろな考え方がある。従って、どれが正しくてどれが正しくないかという問題ではない。

ここで申し上げているのは、不良資産を早期に処理するためにどういう工夫があるかという観点から考えると、その引当をする場合、不良債権の経済価値の減価に見合って、引当をしておけば、その後の処理がスムースなのではないかという方法論を提示しているわけである。そうした考え方に立脚した時に、今の引当の状況だと引当不足が生じているのではないか。従って、そうした考え方でやっていくこととした場合、今のマニュアルを変えた方が良いのか、変えない方が良いのか、見直しをした方が良いのか、しない方が良いのかという議論が必要になり、それは金融庁との間でもやっていきたいということである。

【問】

不良債権の経済価値の適切な把握というのはいつまでを目処に実施するというふうに考えているか。

【三谷理事】

我々はもうこれまでも大手行の考査に行った場合には、議論をしているし、これからももちろん議論を深めていきたいと思っている。ただ強制的に適用というのは、日本銀行の考査というのは行政検査と違って、「こういうことが良いですよ」と言っても、向こうが「いやいや、そこまでは私どもはまだ踏み込むわけにはいきません」と言った時に、「これでやれよ」ということは残念ながら出来ないわけである。そういう意味では、今金融庁の方で不良債権の厳正な査定というのを検討項目の大きな柱としてやっておられるので、対応については──正式に導入するとかについては──我々もちょっと何とも言えない。

【問】

先程「その他要注意」の話が出たが、もっと下の方の「破綻懸念先」についてはどうか。つまり今の引当でほぼ十分だということなのか、倒産確率をもっと厳しく見た方が良いのか、あるいはディスカウント・キャッシュ・フローみたいな考え方をここにも導入できるのか、その辺のイメージはどうか。

【三谷理事】

そういったところにも当然ディスカウント・キャッシュ・フロー法みたいなものは採用できると思う。

【問】

(この前差額で大体何兆円と言ったうち)トリプルB格以上でどの位のボリュームがあるのか。

【三谷理事】

私どもの調べた限りでは、金融機関の保有株式の相当部分、当然過半であるが、9割、10割全部というわけではないが、相当部分を占めているということであるので、特段この措置の運営に支障が出るとは思っていない。

【問】

正確には分からないかもしれないが、ディスカウント・キャッシュ・フローを導入した場合、引当率というのは、どれ位の幅で考えているのか、大体の数字はあるか。

【三谷理事】

それはまさに個別の企業によって──本来は個別の企業のキャッシュ・フロー・ベースでやっていくわけだから──いろいろ出てくるのだろう。だから今のように、「要管理」だと平均15%とか、そういう数字ではなくて、相当広がった数字になってくるのではないかと思う。それは下限がどの位で上限がどれ位というのは何とも申し上げられない。

以上