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総裁記者会見要旨(10月16日)

2002年10月17日
日本銀行

―平成14年10月16日(水)
午後3時から約45分

【問】

先日、銀行保有株の買取りと不良債権についての基本的な考え方を発表されたが、改めて、一連のものを発表された背景にある金融システム不安に対する総裁の今のお考えを伺いたい。

【答】

「金融システム不安」という言葉は、どのような事態を想定しておられるのか、わからないが、今が危機状況かとのお尋ねであれば、そうではないと考えている。

もちろん、先週発表した「不良債権問題の基本的な考え方」においても述べたように、わが国の不良債権問題はこれまで以上に厳しい状況に直面していることは事実だと思う。

不良債権問題というのは、構造調整の進展に伴って産業再編のプロセスと表裏の側面を強めつつあるように思う。

それだけに、不良債権問題の克服ということは、相当容易ならざる課題であると思うし、民間金融機関の自助努力、企業サイドの経営改善努力、当局による対応——この中には、日本銀行による株式の買入れも含まれる——など、関係者の努力を結集していく必要があると思う。

不良債権処理を加速しようという小泉総理のご判断は、私は間違っていないと思う。今、ここで、本格的に動き出さなかったならば──不良債権問題が残っている限り──、構造改革によって、民間需要を引き出していく効果がなかなか出てこないと思う。私どもの銀行保有株買取りの決断というのも、私どもができる範囲で動き出した決断である。

私どもの目から見て、今、大銀行に共通している問題として──他にもいろいろ各行問題をお持ちであると思うが──、2つの暗い影というか痛みがある。その一つは、やはり不良債権がなかなか減らないということと、もう一つは、銀行保有株の下落、しかも海外の事情が主因になって、日本の株も下がり、保有株が下がって、それが決算ないし自己資本への圧迫となっていることである。この2つのことが、大銀行の共通の暗い影であると同時に、このことが取り除かれていかないと、なかなか民間需要が引き出されていくという環境になっていかないのではないか。

ご存知のように、銀行貸出というのは、まだ、前年比でマイナスになっている。私どもが(前年比で)20%以上もマネータリーベースでカネを出し、M2+CD(マネーサプライ)も3~4%は伸びているが、銀行の貸出が伸びていくようにはなっていない。銀行が本来果たすべき信用仲介機能が、まだ本格的に働いていないために、いくら待っても、なかなか民間の需要──需要というのは、典型的には、企業サイドでは設備投資であり、家計サイドでは新しい消費需要であるが──というものが動き出していかないといったことが、経済全体を暗くしているということではないかと思う。

【問】

日銀の一連の発表に対する政府や市場からの反応について、総裁の耳元にはどのような声が届いているのか。

【答】

「不良債権問題の基本的な考え方」は11日に発表したが、3連休もあったので、発表からわずかな期間しか経過しておらず、この段階では何とも申上げられない。私どもとしては、問題を整理して、読んで下さる方に分かり易いように現状を示したつもりである。

一方、株式の買取り措置については、9月18日に発表し、既に1か月近く経っているわけで、内外の理解を得られたと思っている。

はじめは、特に海外では、説明がなかったために、いろいろご心配を頂いた。もともと銀行が株を持っているのは、ご承知のように、大国では日本とドイツだけであって、日本では、株数で言うと、銀行の持っている株というのは──個人が3割弱であるのに対して──、4割弱を占める。それが増えも減りもせず、ずっと横這いで動いているわけで、銀行がそれだけ持っていれば──国内だけでなく、グローバリゼーションで海外の市場が同一方向に動く慣習があるので──、先程申し上げたように、銀行の収益や自己資本を圧迫し得るということになる。

そのような説明をいろいろな指数を出して、海外向けにも、ワシントンでも説明をしてきたが、そういう話をすれば、「これはなかなか難しい課題だ」というように、皆理解して下さって、私どもの決断に対しても、この前も申し上げたが、「ambitious and creativeだ」とある中央銀行総裁がおっしゃっておられた。そういうところに表わされているように、よく説明をすれば、「大きな決断をした」と言って下さるので、注目して見ていて下さっているものと思っている。

【問】

今後の不良債権処理の加速に伴い、デフレ圧力が高まるのは避けられないと思うが、日銀として追加緩和に踏み切る可能性について、総裁はどうお考えか。

【答】

日本の経済情勢については、全体として下げ止まっており、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、流動性に関する不安感は払拭された状況が続いている。

こうした情勢のもとで、今般の金融政策決定会合では、当座預金残高を10~15兆円程度とする、思い切った金融緩和を継続することとした。また、金融機関は日本銀行に対して十分な担保を差し入れており、万が一、金融市場が不安定な動きとなるおそれがある場合には、一層潤沢な資金を、「なお書き」等を使って供給する万全の体制ができている。

日本銀行としては、今後とも、物価の継続的な下落を防止し、日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するため、粘り強く潤沢な資金供給を続け、金融市場の安定と緩和効果の浸透に努めていく方針である。

【問】

政府がペイオフの2年延期を決めたが、これについて総裁はどう評価されるか。

【答】

ペイオフ全面解禁が延期されたとしても、より大事なことは、金融機関が不良債権問題の解決への道筋をつけ、金融システムの信頼回復を実現していくことだと思う。

今般公表した私どもの考え方が、こうした金融機関の努力を後押しするものとなれば幸いである。

ペイオフについて、改めて私どもの考え方を申し述べると、金融機関にとっては、不良債権問題の克服が依然として最大かつ喫緊の課題である。そして、不良債権の整理をスピードアップしていくためには、こういったペイオフの2年延長ということもやむを得ないと思っている。

いずれにせよ、本件については、不良債権処理の加速のための具体案と併せて、捉えるべきものと思う。

【問】

先程の金融緩和の部分で、「粘り強く緩和効果の浸透に努める」という話があったが、確か先日の経済財政諮問会議の中で、「一層の金融緩和を検討する」とあり、7項目の検討課題の中に金融緩和が入っていたが、その「検討する」ということに、日銀はどの程度縛られるのか、ということと、月末のデフレ対策策定に向けて、今総裁がおっしゃったような金融緩和の基本的な考え方と、経済財政諮問会議における金融緩和を検討するということとは、どう関連づけられるのか、という2点について伺いたい。

【答】

先程もご説明したように、私どもはかなり思い切った流動性の供給を続けており、経済のほうは底打ちをして少し明るい感じが出てきているし、市場のほうは資金がかなり緩んでいることも事実である。そういったことで、十分に資金の供給は行われていると考えている。

ここで、今何をやるのかということについては、全体が動き出して、何か必要性が出れば、また考える必要があるかと思うが、日本銀行のほうから政策をこうするんだという状態ではないと思っている。

【問】

経済財政諮問会議というのは、やはり内閣というか、行政府の中の一組織で、そこで金融緩和の議論あるいは(緩和を)検討してくれというような議論をするというのは、中央銀行の独立性からしてどう考えれば良いのか。そこに総裁がメンバーとして入っているということについて、見直す考えはないのかという点を含めて如何か。

【答】

政策については、金融政策を決める時は、これは政策委員会で決めるんですよということは、メンバーになる内示を受けた時に強く申し上げてあるから、それは皆さんご存知である。

日銀法の中の第3条、第4条でこういうふうに書いてあるのはご存知だと思う。第3条「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない。 日本銀行は、通貨及び金融の調節に関する意思決定の内容及び過程を国民に明らかにするよう努めなければならない」。これが独立性と透明性で、新しくはっきり書かれた二つのものである。政府の政策との関係については、第4条に「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」というように、「整合的なものとなるよう」定められており、何も政策を言われるままにやれというようなことは書いてない。整合的なものとなるよう、政府の今やろうとしていることを知るためには、経済財政諮問会議などに出て、議論に参加することが、私にとって有益であり、これ程参考になる場所はないというように思っている。

【問】

常に総裁は経済の情勢を注視されていると思うが、次に政策変更があるとすれば、どこに一番注目されるのか。

【答】

政府は政策をまさにこれから出すのであるから、政策変更をここで決めることはない。ここでは今までやってきたことの結果を、しばらくじっと見ているしかないのではないか。先程申し上げたように、流動性は十分供給してあるわけだから。

【問】

従来10~15兆円の資金を十分な流動性として供給されているということであるが、そうすると、今こういうデフレ状況だけれども、これ以上の流動性を供給しても、今後実体経済を含めた影響ということでは、効果は相当薄いということを考えているのか。

【答】

今の情勢は先程もご説明したように、金融市場は十分な資金が供給されているわけだから、今ここで何かをする必要はない。先般の金融政策決定会合の後でも申し上げたように、今の経済・市場情勢の下では、10~15兆円という目標のもとで、15兆円という一番上のところでずっと安定して資金が出ていて当座預金に置かれているわけだから、あまり市場が変わっているとは思わない。非常に安定しているというように思っている。

【問】

昨日放送されたテレビ局とのインタビューの中で、総裁は、金利(面での対応)は限られているけれども、まだ手はあるとの趣旨のご発言をされていたかと思う。一部編集されていたところもあると思うので、その趣旨をもう一度改めてお伺いしたい。また、具体的に「まだ手はある」という「手」というものを、もしお話頂けるのであればお伺いしたい。

【答】

このところ株価がやや不安定な動きとなっているが、金融市場のほうは、今申し上げたように、日本銀行の潤沢な資金供給のもとで、総じて落ち着いている。このように、金融市場の安定を確保していくということは、日本経済を安定的かつ持続的な成長軌道に復帰させていくうえで重要な課題、前提だと思う。日本銀行としては、今後とも、市場等の状況を十分注視しながら、金融市場の安定と緩和効果の浸透に向けて、中央銀行としてなし得る最大限の努力を傾けてまいりたいと考えている。NHKのインタビューは、そうした基本的な政策スタンスを説明したものである。

それから──NHKの方もおられるが──、「おはよう日本」という番組は、国民全体に、国内に広々と、朝7時から──昨日私が出たのは7時半ぐらいであったと思うが──同時に流れ、かなり視聴率が高い。国内からも、いろいろ友達などからも「見たぞ」ということを言ってきてくれているだけあって、やはり皆見てくれているのだと思う。国民一般に、日本銀行が今何をしているのかということを知ってもらうには、いいチャンスだったかと思う。金利が行き過ぎたということで、金利が行き着くところまで行って、ゼロ金利だということは申し上げた。金利については、もうこれ以上下げられないかもしれないけれども、金融政策については、日本銀行が必要と認めるときには、いろいろ考えてやらなければならないのだというようなことを言ったつもりである。

驚いたことには、今朝来てみたら、マニラにいる友達──大学の先生をしているエコノミストだが──から、「日銀による銀行保有株の買取りについての決断とその意義、ゼロ金利だからといって金融政策には打つ手がないと考えるのは短絡的であるということ、日本経済には強い潜在能力が秘められているということ、いずれも極めて明快なご発言で、かつ時宜に適したものだと思いました」とのFAXが入っていた。日本だけでなくて、海外にも、ああいうものが同時に流れているのだということを知ってびっくりしたわけだが、この人がマニラで感じてくれたように、ゼロ金利だからといって金融政策には打つ手がないと考えるのは、短絡的であるというふうにとって下さっている方もいるので、これはやはり言って良かったなと思っている。これから、中央銀行はもうやることがないのだなと思われたら、円をお使いになっている方は、これで良いのだろうかと思われるだろうから。通貨の調節というのは私どもに課された課題であり、義務である。

【問】

為替のことをお聞きしたいが、今日は一時125円台になり、今124円台だが、かなり急ピッチで円安が進んでいる。この状況についてはどういうふうにみておられるか。

【答】

これは、私もあまりよくみているわけではないが、やはり米国の株が一時下がったのが、上がってきたわけで、特に外国人が、円売りドル買いをして米国に持ち帰ったという動きがかなりはっきり出たのではないかと思う。それで、円安ドル高になったということだ。昨日は、ニューヨークは7−9月の決算で、シティコープ、GMなどの決算が比較的良かったということを材料に株価が上がったわけだが、後になって、またインテルなどが予想よりも良くなかったといったようなことがあり、それが、ちょうど日本のオープニングの頃に起こったということで、123~4円のあたりのところを行ったり来たりしているが、このままずるずる円が安くなるとは思っていない。

【問】

総裁としては、自然な流れであれば、円安がこのまま続いても良いだろうということか。

【答】

今の程度の動きであれば──世界中、自由な市場経済、金融市場であるから──、いろいろな情報で動くのは当然のことだと思う。行き過ぎれば、やはり反対取引が出て、調整していくというのが市場の動きであるから、それをあまり心配したり、いじったりするようなことは、しないほうが良いと思っている。

【問】

前回の議長会見の時に、竹中大臣がアコードというものを持ち出されたことに対して、「アコードというものは1951年に米国のFEDと政府が結んだものだ」という話で切り返されたが、問題の本質は「アコード」という言葉ではなく、デフレ阻止に向けて政府と日銀が改めて政策的な合意というか、一致団結してやっていくということを取り交わす意味があるのかどうかということだと思う。総裁は、そういったものは取り立てて必要ないとのご認識か。それとも瀬戸際の日本経済ということで、政府がそこまでやるのだったら日銀としても政策的な合意形成に向けて一歩踏み込む意味はあると考えているのか、基本的な認識を伺いたい。

【答】

「アコード」というのは、金融界では、1951年に米国で行われたことであり、「アコード」といえば皆このことを言っているのだと思う。それは、おっしゃるように、1951年に今まで国債の売買その他をFEDが財務省と一体になるかたちで行っていたものを、財政のほうは財務省、金融市場のほうはFEDというように独立性をはっきりさせるため、4行か5行程度の短い声明書を出したものであり、「アコード」と呼ばれている。今言ったようなことだから、「アコード」と言われれば、私どもはそのことを思い出す。

そうかといって、「アコード」という言葉を使っていけないとは言わないが、関係省庁と、それぞれの段階で、よく話し合いをしながらやっていこうということは当然のことだし、そういうように動いていると思う。

ただ、基本的には、先程日銀法を読み上げたように、政策は審議委員と金融政策決定会合で決めることになっているわけだから──政府の動きとよく整合性を保ちながらやっていくことは、先程申し上げたとおりだが──、いつ、何を、どうやってやるかということは、日本銀行の政策決定会合で決めることになる。

現在の政策運営姿勢について申せば、日本銀行では既にCPIの上昇率が安定的にゼロ%以上となるまでは現在の思い切った金融緩和の枠組みを続けるということを言っており、決定の中にも書いてある。デフレ克服に向けた決意というものは、政府と日本銀行でしっかり共有されていると思っている。日本銀行としては今後とも、日銀法の規定を踏まえて、政府との十分な意思疎通を図りつつ、政策運営に誤りなきを期していきたいと思っている。

【問】

その関連だが、「今のデフレの状況では、インフレ目標、インフレ・ターゲティングは選択肢にない」という総裁発言がこれまであったが、将来的に──デフレ下ではない時かもしれないが──、インフレ・ターゲティングの導入を検討するにしても──イギリスやオーストラリアなど各国でもアグリーメントなり政府、中銀で政策を共有する部分があるのだが──、今の日銀の政策決定の枠組みでは、導入は不可能だということか。

【答】

情勢が変わってくれば、インフレ・ターゲットというものも──インフレを抑えるために使っているので、デフレを抑えるために使っているという例はあまり聞いたことがないが──、必要となってくる可能性はあると思うから、事務方ではそのことは十分検討の対象として討議に入れていると思う。

【問】

インフレを抑えるためであれば、政府と日銀の、例えばアグリーメントといったものがあり得るということか。

【答】

それはないと思う。しかし、インフレ・ターゲットを採用するかしないかということは、情勢が変わった際には対応策の一つにはなり得るものだというように私は思う。

【問】

地価を含めた資産デフレ──消費者物価指数は前年比マイナス1%いくかいかないかのレベルであるが──が進んでおり、これではいつまでたっても不良債権がなくならないのではないか、という声が金融界を含めて聞かれている。先程総裁がデフレ──これは一般物価でみたデフレであるが──を未然に防止するとおっしゃられたが、未然には防止はできていない、歯止めを何とかかけようと思って、かけきれていない状況であると思うが、やはり今の政策を続けるしかないのか。

【答】

デフレ・スパイラルにならないように、ということで随分私どもは心配していろいろ議論してきたつもりである。結果としては、年間で1%あるかないかという下がり方である。しかも、大部分は輸入関係品の値下がりが大きい。国内の需給ギャップという要因も確かにあったには違いないし、まだ続いているということもあるかもしれない。しかし、そういう状態に対しては、デフレ・スパイラルにならないように、一生懸命ウォッチして手を打ってきたつもりである。金利をゼロ金利までもっていって、量的緩和をここまで続けているということで、資金の供給という面では、十分にやってきたつもりである。やはり構造改革をやって──不良債権の整理もそうであるが、その他にも規制の緩和・撤廃とか、市場主義に合った証券税制をはじめとして、税制を緩和して──民間の需要が盛り上がってくるようにする必要があり、これは、金融だけではできないことである。もちろん日本銀行だけではできないことである。経済の成長をもたらすためには、こういった経済政策全般が動き出さないとだめなのに、むしろ日本銀行のほうが先行して資金を出してきたというのが今までの実情ではなかったかと思う。ここで、小泉内閣が不良債権の解消を加速するということをおっしゃっていることは、私が先程申し上げたように非常に正しいことだと思う。それに加えて、税制改正をなさろうとしているし、それから規制の緩和・撤廃については、かなり進んできたのではないかと思う。その他にも、構造改革を議論してきた──これは諮問会議の中でやってきことであるが──ことが実って、そういった面からの効果が現われてくれば、需要は伸びていくのではないか。その間に、痛みが伴うのはある程度やむを得ないと思う。しかし、その痛みがあまり大きくならないようにしながら、構造改革を実らせていかないと経済の連続的な成長というものがもたらされないと思う。そこは小泉首相も、「改革なくして成長はない」と初めから言っておられるわけで、それをずっと守ろうとしながら少し時間がかかったということではないか。ここへきて、来週から国会も始まるし、いろいろな法案が通るであろうし、本年度予算をどうするか、また来年度予算をどうするか、ということがこれから議論されていくのであろうから、その辺は楽しみにしている。

そういうことになってくれば、私どもがしきりに流動性の供給、資金の供給をかなり思い切ってやっているわけだから、そういうものが活きてくるのではないか、効果が出てくるのではないか。こうしたことも、私どもは楽しみにしてみていきたいと思っている。

【問】

総裁は、今お話しされた中で、いわゆる「痛みの部分はあまり大きくしないようにしなければならない」とおっしゃったが、今度政府はデフレ対策をまとめるようである。日銀がその中で、不良債権処理を加速させることに伴う痛みを和らげるために、また別の一肌を脱ぐタイミングなのかどうか、その辺のご見解を伺いたい。

【答】

私は、構造改革は痛みを伴うということを申し上げた。それは、何がなんでも、どんなに出血があってもやるものはやれということではない。生き物であるから、痛みがあまり大きい時には長続きしないということは、今までもみてきたところだと思う。日本は、これまでの経験を活かしながら、サッチャリズムやレーガノミクスのように思い切った改革を行うことがなかなかできない国かもしれない。民族的に──しかも島国であるし──そういう国民性を伝統的に持っている。例えば地方の中小企業の問題については、「中小企業は困っているぞ」という声を、ご自分の郷里へ週末帰られて聞いてきては、月曜日に上京して来られておっしゃるという政治家の方々もたくさんおられるわけである。そういったことは、自然な動きだとは思う。しかし、私どもは私どもの立場で、どこまでならできるけれども、ここから先はできないということをはっきり言っていかないといけない。ずるずる言われるままに資金を出していくようではいけないと思う。痛みを伴うものであることを十分承知しながら、構造改革のほうの効果を出していくということを、政府と一緒に議論をしながら進めていきたい、ということである。

以上