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藤原副総裁記者会見(11月13日)要旨
香川県金融経済懇談会、講演会終了後
2002年11月14日
日本銀行
―平成14年11月13日(水)
午後4時15分から約25分間
於 高松国際ホテル
【問】
本日の金融経済懇談会では、どのような意見が出て、どういったやりとりがあったのか。また、それらを通じて、香川の金融経済情勢についてどのような認識を持たれたか。
【答】
本日の金融経済懇談会に出席されたのは、地元経済界や経済団体、金融界のトップの方々で、当地の情勢についてご説明を受け、かつご意見を拝聴した。
出席者の関心事項、質問事項を要約すると、景気の現状および先行きの見方、金融緩和政策の効果、構造改革の進め方と地元経済への影響、それから最近の物価の動向、であった。また、要望事項としては、現在の金融緩和政策を続けて欲しい、金融システムの安定に日本銀行としてやれることをやって欲しい、──これは政府・日銀全体についての要望であるが——地方経済に配慮した経済政策を行って欲しい、ということであった。
香川県の景気情勢については、大きな方向として、全国の景気情勢と同じように「景気は下げ止まっている」ということで一致をみた。ただ、当地では年初来、企業の撤退や大型工場の閉鎖などが相次いだそうで、そういうこともあって、全国に比べると回復のテンポが2、3ヵ月遅れているのではないか、というような見方もあった。
もっとも、当地には、独自の優れた技術を有し、国内外においてもトップシェアを誇っている企業が少なくないこともあって——例えば、そういったアイデアを凝らしている企業が80社以上はある、という話もあって——、全部が暗い訳ではなかった。また、全国に先駆けて海外進出を果たし、現在も活躍している食料品、繊維メーカーなど、先見性のある企業の取組みについてのお話を伺うことができ、心強く思った次第である。
当地経済の先行きを展望するうえでは——全国経済全体としてもそうだが——、海外景気の動向とか、国内要因では構造改革の影響とかが鍵になってくるように思われる。こうした留意点については、「他地域でもそうであろうが」という断りがつくけれども、特に当地では、企業の撤退や大型工場の閉鎖が相次いだこともあって、そういったことがどういう影響を及ぼしているか心配だ、注目している、という声が多く聞かれた。
それから、政府・日本銀行に対する、いわゆる経済政策に対する注文であるが、多かったのはやはり税制に関する注文であった。それは贈与税、相続税から、証券税制に至るまで広範囲なご指摘であった。それから東京、中央と地方には温度差があるとの指摘もあった。また、経済の在り方について、構造改革という面でいろいろと議論がなされているけれども、地方切捨てのようなことがあっては困る、という声も聞かれ、広い意味で、やはり構造改革、構造調整といった点について関心が強いということを感じた次第である。それに対して、日本銀行としては、これまでどおりの金融緩和政策を続けて、景気を下支えしていくとか、日本銀行なりに工夫を凝らして、今後とも政策運営を続けていくというようにお答えした。総じて、マクロの問題が多かったように思う。
【問】
前回の政策決定会合で示された「企業金融の円滑化」に関する現在の検討内容について、可能な範囲でご説明願いたい。
【答】
日本銀行の現在の潤沢な資金供給は、金融市場で強力な緩和効果を発揮していると私どもは思っているが、金融システムの外側にある企業には波及しにくい状況にあるということはご承知のとおりである。ジャブジャブにお金を出しても金融仲介機能が不全なために、なかなか外にまで回りにくい状況にある。一方で、政府は不良債権処理を加速するという方針を打ち出しており、その内容にもよるが、短期的には、企業金融が一層厳しさを増す可能性もある。そういう議論もこの間に行っている。こうした状況を踏まえて、日本銀行としても、企業金融の円滑確保のために何ができるか、一段の工夫を講じる余地がないか、検討しているところである。従って、現在何を検討しているか、いつ頃出来上がるかということは、まだ私にも分からない。現在進行形である。
【問】
金融経済懇談会の地元参加者の人数を教えて欲しい。
【答】
冒頭に申し上げたとおり、四国経済連合会とか、いわゆる経済団体や企業、金融界のトップを中心とした方々で、合計23名だったと思う。
【問】
本日の講演の中にもあったが、金融機関への公的資本注入について伺いたい。これは言葉がニュース等を通じて独り歩きしている感がある。講演の中でも、まず資本注入ありきといった考え方ではない、ということを強調されていたが、やはりずっとこの点を強調していきたい、というお考えなのか。
【答】
その通りである。考え方として、最初に公的資本注入ありきではなくて、私どもはいろいろ検討し、公的資本注入も一つの選択肢であるという結論を得て、レポートにもそう記述した次第である。金融機関が今後積極的に不良債権を処理していくという過程で、資本が毀損される可能性があるということは否定できない。その場合でも、その時点において財務内容の透明性や収益強化という経営方針について、市場の信認が得られれば、市場で資本調達が可能になる。
しかし、何らかの事情で市場調達が困難となって、一方で金融システムの安定に問題が生じるということがあれば、何がしかの政策対応が必要になる。そうした場合に、公的資本注入は、今述べたような一連のプロセスを通じて、その結果として、政策対応の一つの選択肢として検討されるべきではないかと思う。ただ、その場合、そうした公的資本注入を通じて、金融機関の自主性や、責任ある収益力向上努力を促していくことが、最も重要だと思う。
【問】
当地特有の問題として、現在「道路四公団民営化推進委員会」で議論になっている本州四国連絡橋公団の民営化問題についてであるが、四国の金融機関は、本四公団の縁故債を多量に保有しており、その行方が懸念されている。本日の金融経済懇談会で、金融機関のトップから、この縁故債について、何か要望とか、意見はあったのか。
【答】
全くなかった。
【問】
今般の追加緩和については、マーケットの状況をみて追加緩和に踏み切ったということかと思う。ただ、量的緩和に移って以降、当預残高の目標は5兆円から段階的に引き上げられてきて、現在は15~20兆円程度になっている。このため、量的緩和に踏み切って以降、当預残高の目標は、実際上、いわゆる「青天井」になっているのではないかという見方が一部にある。この点についてどうお考えか。
【答】
「青天井」ということはないと思う。現在は量的緩和というフレームワークで金融政策を決めている訳だが、当預残高の目標は、様々なニーズ——例えばマーケット・ニーズ——や、経済情勢に対する私たちの検討の結果に従って決めていて、現在の水準に至っているものであり、決して「青天井」ということはない。
【問】
「青天井」という言い方がわかりにくいのであれば、景気の回復が──先程スピーチの中にもあったけれども──、明確なかたちで、早急には展望しづらいという状況の中で、当預残高の目標は、いわば「片道切符」というか、それに近い状況になっているのではないか、という気がするのだが。
【答】
「片道切符」であれば、帰りの切符もあるということではないのか。
【問】
言い方を変えれば、仮に景気が展望レポートにあるように、来年度上期から回復する場合——これまでずっと量的緩和を続けてきた訳であるから、景気がよくなった時点で、いきなり引き締めとは言わないまでも——、何をもって政策転換を行うのか、何をもってメルクマールと考えたら良いのか、という問題である。
【答】
いわば「撃ち方止めい」という時のことか。そのときは何をもって判断するかという点については、その時その時の経済情勢の推移をみて、そうした情勢に対応するにはどういう政策を採れば良いのか、といった点に関する検討結果次第である。
【問】
政府の総合デフレ政策に関して、特に地方の経済界から、銀行の貸し渋りに繋がるのではないか、また、地方の中小企業は対応が難しくなるのではないか、という声があるが、その点について、本日の地元経済界との懇談会の中で質問や話題は出たのか。また、それに対し、日銀の方から何か話をされたのか。
【答】
政府のデフレ対策という点については、何人かの方がご意見を開陳されたが、現在出ているデフレ対策の一つ一つの項目について、あれでは困るとか、こうすべきだという個別具体的なご意見はなかったと思う。デフレ対策をしっかりやって欲しい、というような意味合いのご意見はあった。
それに対し、私の方からは一つ一つお答えした訳ではないが、総括的に、現在、日本銀行は、CPIが安定的にゼロ%を上回って推移するまで、金融緩和を続けるという方針を採っており、今後もこうした方針を継続していきたい、というような意味合いのお返事をした。
【問】
このところの経済論議をみていると、不良債権の処理や、サプライサイドの構造改革を通じて生産性を上げていけば、まだまだ日本の経済成長も見込めるという議論が先行していると思う。藤原副総裁は、結局、どの辺に更なる投資機会や需要の見込みがあるとお考えか。あるいは、その辺のビジョンがなかなか見えてこないとお考えか。実感として何か不良債権を片づければなんとかなるという議論はわかりにくいのだが、この点はどのように考えておられるのか。裏返すと、成熟社会では、なかなか投資機会というものは生まれてこない、と昔からよく言われているが、この辺のビジョンというものについて、どのようにご覧になっているのか。
【答】
随分難しい質問である。一晩考えて論文を書かなければならないような問題だ。現在行われている議論は、景気対策か構造対策か、とりわけ、まず不良債権を処理すべきか、それよりも景気対策に重点を置くべきかという、あれかこれかの議論であり——そういう対立軸としての議論が為されているように思うけれども——、私個人は、あれもこれも程度問題であると思う。しかも、あれもこれも、対策という意味での政策手段が限られている。そういうジレンマの中で、現在、政府も日本銀行も工夫を凝らしながら、知恵を絞っている。いずれにせよ、財政政策も昔に比べれば手詰まり、金融政策も然りである。昔は財政と金融が、車の両輪と言われたけれども、現在はそう単純ではなく、もっと複雑な経済構造になっているので、やはり、いわゆる構造改革を通じて、民間の需要を喚起する——そして、政府および日本銀行の政策が呼び水としての役割を果たしていくことによって、民間の活力を引き出し、投資機会を生み出していく——、という道筋になるのではないか、と個人的には考えている。
【問】
しばらく前まで、その投資機会というものが、IT化や米国化の中にあるという具体的なビジョンがあったのだが、米国が現在のような状態になると、今度は何が成長を引っ張る需要や投資機会なのか、というのが私の質問である。その点ぜひお聞きできればと思う。
【答】
それは、私にとっては少し難しすぎて答えられない。いずれにしても、答えになっていないと思うけれども、例えば、ITバブルというものが、いわゆるマネーバブルの後に来て、期待の星であったIT産業が現在のような状況に陥っている。今後、どのような牽引力に着目すれば良いか、その点が不透明に、また不確実になっている。そこに全世界が悩んでいる。最も牽引力があるとみられていた米国が、ITバブルの崩壊と地政学的な新たな要因等から、現在のような状況にある。そのため、特に先進国が少し縁(よすが)を失って、今、ワンポーズ置いて悩んでいる、というのが現状ではないか、というふうに考えている。
【問】
講演の中で不良債権の処理に向けて、日銀と政府の方向性が概ね一致しているというお話があったと思う。先般、不良債権、企業再生の新しい仕組みができて、昨日、新しい組織が立ち上がったけれども、日銀としては政府に対して——方向性が同じであるということであれば——、どういう関わり方が考えられると、副総裁はお考えか。
【答】
以前から皆が気付いていたことで、努力してきたことではあるけれども、ここに来て改めて、不良債権問題と企業の再生とは裏腹の関係にある、ということが強く認識されて、その企業の再生機能強化のために総合対策が必要だということになったのだと思う。そうした必要性は日本銀行も認めていたので、方向性が一致していると申し上げた。一つ一つの具体的な内容については、これから工程表等が作成されるが、その方向感が一致するなら、日本銀行としてどういった施策を打ち出せるのかということは、これからの問題だと思う。
【問】
先頃決まった銀行の保有株買い入れについてであるが、地銀も何行か買い入れ先になるという話があったと思う。四国の地銀、第2地銀の計8行は、買い入れ先にはならないということを確認しておきたい。
【答】
個別の銀行の事情については、私どもの立場としてはお答えできない。
以上