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総裁記者会見要旨(12月20日)

2002年12月24日
日本銀行

図表 [PDF 37KB]

―平成14年12月20日(金)
午後5時から約55分

【問】

今回の短観をみると、景気が足踏みというか踊り場といった局面にきていることを窺わせる内容となっている。こういったデータを踏まえて、総裁は現在どのような景気認識をお持ちか、あるいは今後の景気の見通しについて伺いたい。

【答】

経済情勢については、「全体として下げ止まっているが、回復へ向けての不透明感が強い状態が続いている」と思う。

12月の短観でも、業況判断は、緩やかな改善が続いているが、先行きについては慎重な見方が増加しているという面が気になる。それから、今年度の企業収益は、足許まで非常に大幅な増益であるが、設備投資については、依然として慎重である。こういったことが、今申し上げた景気認識を概ね裏付けているのではないかと思う。

今後、米国など海外経済の緩やかな回復を前提とすれば、いずれは輸出・生産が再び増加に転じて、底固さを増していく姿が一応展望できると思うが、先行きの見通しは非常に難しいし、不透明だと言って良いかと思う。

こうした基本的なシナリオは変わっていないが、海外経済の回復テンポや不良債権処理の加速の影響、不安定な株価動向など、不確実要因が依然として大きいと言わざるを得ないと思う。先行きは、引き続き注意してみていく必要があると思っている。

【問】

今のお話では、先行きはかなり不透明感が強いということだが、財務省も、今日、予算の原案をまとめた。国債の発行枠を拡げて、少しではあるが景気刺激的な姿勢もみせている。こういった中で、日銀が、一段の国債買入れの増額であるとか、あるいは、保有上限の撤廃、さらに言えば、インフレ・ターゲット、等々、「非伝統的」と言われる政策手段にまで、今後踏み出していく、その辺の可能性について、どのような見解をお持ちか。

【答】

日本銀行は、時々の金融経済情勢を踏まえながら、きわめて潤沢な資金供給を続けてきている。このような思いきった金融緩和は、わが国経済に様々なショックが加わる中で、金融市場──特に短期金融市場──を比較的安定化させていると思うし、景気の下支えにも大きく貢献していると思っている。

ただ金融緩和が一段と強力な効果を発揮するためには、構造改革を通じた経済活性化と、不良債権処理を通じた金融システムの機能強化が必要になってくると思う。日本銀行としても、経済の持続的な成長の基盤を整備するために、今後とも、中央銀行として最大限の努力を続けていきたいと思っている。

国債の話をされたが、量的緩和政策の枠組みの下で、資金を円滑に供給するために必要と判断される場合には、長期国債の買入れを増額することとしているわけである。現在は、月に1兆2千億円買入れることになっている。

現時点では、潤沢な資金供給のために、長期国債の保有上限を撤廃したり、買入れ対象資産を拡充したりする必要性はないのではないかと思っている。

本日は、本年最後の会見でもあるので、現在の状況について、チャートを使って若干の説明をさせて頂きたい。図表1から簡単に説明していく。

まず、中央銀行のバランスシートであるが、これは、皆さん、あまり気にされていないかと思う。この表に出ているように、私どもの資産・負債総額というのは、現在、約130兆円ある。130兆円をちょっと欠けてはいるが。これは、世界一大きな中央銀行であることを表しており、資産・負債総額で比べると、ご覧のように、現在のレートで円に換算して、欧州中央銀行は約95兆円、米国では約86兆円、英国、カナダなどでは非常に小さいわけである。1998年度末では、日本は約80兆円だった。それが今では、資産・負債が増えていって、130兆円をちょっと欠けるところまできている。期末には約140兆円になっていた。

この直近の資産・負債総額──130兆円──のGDPに対する比率をみると、図表1の下の表でご覧になれるように約25%となっており──1998年度末では16、17%だった──、非常に大きな世界第一の中央銀行であることがわかる。

次に、最近の本行のバランスシートの主な内訳を、図表2(日本銀行営業毎旬報告)でご覧頂きたい。

負債サイドの方は、先程、130兆円と申し上げたが、12月10日現在で127兆円である。「発行銀行券」が68兆8,472億円、約68兆円。これは前年比約10%程度増えている。「当座預金」──取引先民間金融機関が日銀に預け入れている残高であり、今の量的緩和の基準になっているものである──が、約20兆円(19兆7千億円)。それから大きなものは「政府預金」で、これはかなり大きく動くものであるが、約10兆円。次の「売現先勘定」──政府の資金の一時的な運用のために、条件付きで国債を売っている例が多い──が約20兆円。この辺が大きな金額である。

「資本金」はわずか1億円である。よく日銀株が5万円を割ったとか書かれているが、この点は私どもはあまり気にかけていない。「引当勘定」と「資本金」と「準備金」、これらの合計の「発行銀行券」に対する比率が8%を割ったと、これまた大きくお書きになっておられるが、今までも2%位になったこともあったし、なにも8%以上なければならないというものでもない。為替の影響でも変わるものである。70年代のオイル・ショックの時などは、2%とか3%、あるいは6%とかいう水準の時も随分あったわけで、そんなに大きく問題にされるようなものではないと思って頂きたい。

資産の方が問題である。資産127兆円のうち、一番大きいのは「国債」の84兆6千億円。その内訳をみると、「長期国債」が55兆9千億円、「短期国債」が28兆6千億円。今、毎月1兆2千億円買っているのは、この長期国債の方である。銀行券と比較すると、まだ10兆円以上の余裕がある。しかし、毎月1兆2千億円ずつ買っていくということは、1年間で14兆4千億円となる。14年度の国債新規発行は、今度の補正予算で34、35兆円になるであろうから、国債の半分を中央銀行が市場から買っているということになる。外から見ると非常にたくさん中央銀行が買わないとやっていけないのかな、という感じを与えるので、こうしたことには限界があるのだということも、ご承知おき頂きたいと思う。

「買入手形」は昔の貸出に代わるものであるが、銀行から手形を買い入れる、そのために担保を取るということになる。その担保について、今回の決定会合で──企業金融を円滑化させていくために──取りやすくするということをやったわけである。

「外国為替」が4兆2千億円。それから新しくできたのが「金銭の信託」で711億円。これは12月5日までに約定した金額だったかと思うが──今日は20日であるが、20日時点の数字はおそらく来週の水曜か木曜あたりに出るのだと思う──、まあまあ順調なスタートを切ったと私はみている。TierIを上回る株式を持っている銀行から、申し出を受けて、信託銀行を使って、金銭の信託というかたちで買い取っている。

こういったことをまとめて、説明しておいた方が良いかと思って、今のご質問にお答えする中で、参考資料として2つの図表を用いて説明させて頂いた。

【問】

企業金融の円滑化策については、先日の金融政策決定会合で決定されて、新しい施策を行うわけだが、こうした施策の実効性というか効果を総裁はどのようにご覧になっているか。

【答】

日本銀行による潤沢な資金供給は、金融機関の流動性調達面での不安をできる限り取り除くことを通じて、貸出を行いやすい環境を整備するという効果を持っているわけである。

今回の措置は、日本銀行のオペなどを通じて、金融機関が証書貸付債権とかABCPのリファイナンスといったようなものを行いやすくするためにやったことである。こういった措置が、企業金融の円滑化とかABCP市場の発展に寄与することを期待している。

今回の証書貸付債権に関する措置については、担保の掛け目の引上げにより、既存受入担保の担保価格が約3兆円位増えると思う。また、こういった担保効率の改善によって受入の増加が見込めること、あるいは、貸付期間が5年超10年以下の債権にまで対象が拡大することもあって、相当金額としては大きくなって、担保拡大効果が期待できると思う。こういう企業向けの証書貸付──金融機関の資産の中で大きなウエイトを占めている──は、潜在的な担保拡大効果が大きい。

また、ABCPの要件緩和措置については、現時点で存在するABCPに限ってみても、発行枠ベースで14兆円程度の新しい適格資産が出てくるわけで、市場全体の9割近くが適格化することになる。このような措置が呼び水になって市場が拡大する効果を加味すると、さらに担保・現先オペ対象玉は増加していくことになろうかというふうに思う。

このことについて、私どもがなぜここで、企業金融について力を入れていかなくてはならないかということを、少しまた図表で説明させて頂きたいと思う。

図表3をご覧下さい。米国も兆円単位にしたので分かりやすいと思うのだが、日本の方でご覧になると、一番下の青色の「国債」であるが──国債についてはいろいろご説明をもう少ししなければならないのだが──、ご覧のように少しずつ増えて発行残高が500兆円程度になっている。しかし利回りでみると1%を若干下回る10年物というのは、やはり需要がかなりあって、よく売れているということだと思う。

薄い水色の「株式」は、約300兆円あるのだが、株式と国債については──株式は米国の方がずっと多いけれども──、比較的市場が大きくなってきているし、一般の投資家もこれらに資金を回しているということが言えると思う。

日本と米国が非常に違うのは、青色と水色の中間にある「社債・CP」、米国では「エージェンシー債」──その多くはいわゆるモーゲージ債であるが──といったものであり、日本は非常に少ないのである。85年からの推移をご覧になっても、米国は95、96年から増えてきている。日本の方は少しずつ増えてきているけれども、まだとても市場というところまでは至っていないというのが現状だと思う。

図表4は、日本と米国における債務者としての企業に関するものであるが、民間部門の有利子負債の構成内容みると──日本は日本銀行で作っているマネーフロー(資金循環統計)から取ったのである──、有利子負債の合計が491兆円、米国は有利子負債が583兆円である。そんなに違わないのである。青色が銀行借入(民間金融機関貸出)であるが、約500兆円のうち312兆円。米国の方は157兆円である。問題は、米国の場合、「社債」、「CP」、「その他」、それに「モーゲージ」──その多くは不動産関連の証券だが──が非常に大きくて、全部で約400兆円位あると思う。583兆円のうち約7割位がそういうもので、銀行の借入れは157兆円である。日本の場合、「社債」が62兆円、「CP」が19兆円、「その他」が2兆円であり、わずかに80兆円位しかないのである。

企業が資金を銀行から借りる──投資家が資金を銀行に預金をする──のではなくて、いわゆる直接金融で調達するといったような取引が、日本では非常に遅れている。そういう市場をうまく作って大きくしていくのが、これからの非常に大事な課題だと思う。今回、企業金融に対して2つのことを決めたのも、全くその「足掛り」と言って良いのだが、そういう市場を作っていかないと、今までのように間接金融オンリーで、資産価格が下がる──株価が下がったり、あるいは不動産価格が下がったりする──と、担保価値が下がって、銀行に不良債権が発生することになってしまう。もう少し直接金融を増やせれば、うまく投資すると、運用益も増えるし、企業はそこで、銀行を通じない資金の調達が可能になる。こういった市場を大きくし──よく「間接金融から直接金融へ」という表現で使われているけれども──、地道に一つ一つ市場の拡大をやっていかなくてはならないということが、これからの一つの課題だと思う。そういうことを申し上げたかったので、こういう表を作ったわけである。

【問】

今年も押し迫ったが、株価が大きく下げたり、いろいろなことが起きた1年だった。総裁はこの1年を振り返ってどのような感想をお持ちか、手短にお聞かせ下さい。

【答】

本年を振り返ってみると、景気の厳しさは幾分和らいだが、一方で持続的成長の実現のためには、不良債権問題など、様々な構造問題への取組みを強化しなければならないことが、改めて認識された1年であった。

小泉内閣も、「改革なくして成長なし」と強く言われて、いろいろ案を作り、一つ一つ、少しずつ動き始めているのが現状ではなかろうかと思う。

日本の景気は、輸出と生産の増加に牽引されて、春先から持ち直しに転じ、7月頃には全体としてほぼ下げ止まるに至った。

しかし、その後、半年近くを経ても、「下げ止まり」から「回復」に転じる明確な展望は得られていない。金融資本市場も、年末にかけ株価がバブル崩壊後の最安値に近づくなど、神経質な展開を続けている。

この1年の経験に照らしても、内需主導の持続的な成長の実現には、やはり規制の緩和・撤廃──もっと撤廃していかなければならない──や、税制改革──もう少し効率的と言うか、経済の生産性を伸ばしていくような税制改革──をやって行かなければいけない。そういった政策は、政府が決めるべきことであるが、民間もそれに応えて、経済の活性化と金融システムの信認向上とを図っていくことが不可欠という点が、かなり問題意識としてはっきり出てきたように思う。

こうした情勢のもとで、日本銀行は、金融政策、金融システム安定化の両面で、思い切った政策を展開してきたと思っている。

金融政策運営面では、昨年の3月に、金利がほとんどゼロまで下がっていたため、量的緩和に移行した。当座預金を5兆円にするところからスタートして、「前人未踏」の量的緩和という領域で、潤沢な資金供給を続けた。

そうした資金供給が企業金融の円滑化にも繋がるよう、オペ・担保などの面で様々な工夫を講じた。日本銀行のこのような粘り強い金融緩和は、金融市場の安定確保や、景気の下支えに大きく貢献してきたと、私どもは信じている。

量的緩和の過程で、昨年8月に国債の買入れ額を月4千億円から6千億円に、また、12月には6千億円から8千億円に増やし、併せて当座預金残高目標も10兆円~15兆円に増やした。さらに、今年2月には国債買入れ額を8千億円から1兆円に増額し、その後、10月には当座預金残高目標を15兆円~20兆円までに増やすと同時に、国債買い切り額も1兆円から1兆2千億円に増額することを通じて、潤沢に流動性を供給するなど、かなり大胆な政策をとってきたと思っている。

「ああ、またか」と、あまり注目なさらなかったかもしれないが、こういった政策は初めてのことでもあるし、じりじり増やしていっても、やはりどこかには限界があるので、その辺のところをよく見極めて、政策を考えていく必要があると思う。

金融システム安定化の面でも、一つは不良債権問題の克服に向けた考え方の提示、もう一つは銀行保有株式の買い取りなど、思い切った対応を実施したつもりである。こうしたこともあって、不良債権問題を巡る議論がかなり活発化してきたのではないかと思っている。

この間、政府においても、不良債権処理や構造改革の加速の必要性に加えて、「金融機関だけでなく、借り手サイドの企業の再生ができていかないと、構造改革が進まない」ということも明確化されてきた。その結果、産業・企業再生に向けて、政策対応の強化が図られてきたことも、ひとつの大きな進歩だと思う。

今のところ、このような政府・日銀の取組みが、経済の閉塞感を取り払うには至っていないが、日本経済は、望ましい方向に動き出していると私は思う。日本銀行としては、今後とも、中央銀行としてなし得る最大限の努力を継続していきたいと思っている。

ここで、最後の図表5をご覧頂きたい。現在、デフレにどう対応するか、どうやって脱却するかが非常に大きな問題とされているが、見逃せない動きは、米国もそうだが、世界全体がデフレ的になりつつあるということだ。この点は、これらの図表をご覧になるとある程度おわかりかと思う。(1)が、消費者物価すなわちCPIである。日本は前年比−0.8%だが、中国も−0.9%、香港に至っては−3.3%である。上の方にある欧州の国は、この6~7月時点の数字は高目だが、それ以降はずっと下がってきている。

(2)の生産者物価をご覧頂くと、日本は前年比−1.2%という数字が出ているが、現在、卸売物価は概ね横這いになってきている。他の国でも、米国、ドイツ、カナダは、日本と大体同じくらいの−1.1%、−1.2%である一方、台湾、中国、香港は日本よりもマイナスの度合いが大きい。

こういった状況であるので、世界全体がデフレ的であると言える。私どもがこれまで特に注意してきたのは、「デフレスパイラルになってはいけない」、「デフレ圧力がもう少し強まり始めると大変だ」ということであり、そういったことにならないように、随分気を使ってきたつもりである。

それと同時に、もう一つ申し上げたいことは、「改革なくして成長なし」という、小泉政権の掲げている構造改革についてである。これについては、私は今の日本にとって非常に大事なことだと思う。物価については、これまでの経験からみて、とにかく成長が起こって、需要が高まり、物価が上がっていくというのが順序である。物価の方が先に上がるということはないと思う。

(3)をご覧頂くと、今までの日本の経験でもそうであるし、米国でもそうだが、実質成長率が先に動いている。1973年、1979年、1980年のところはオイルショックであるが、青い太い線の成長率が少し高まっていくと、黒い細い線の物価は上がっていく。これは1~2年遅れて上がるのが普通である。

2000年は成長率が少し高まったが、物価の方はほとんど動かなかった。この背景には、金融機関の破綻の影響もあったと思う。また、成長率が上がったと言っても、公共投資や、ゼロ金利といった金融緩和の効果も大きかったのだと思う。

2000年の終わりになって、ご承知のように、IT産業での生産過剰等により在庫が増え、米国をはじめとしてIT産業での供給超過が明確になった。それが世界的に輸出を減らし、設備投資を減らし、輸出の伸びが鈍化した。それに対応して構造改革をやり、古い設備を潰して、新しい設備を増やしていくといった動きが少しずつ出始めているのが現状だと思う。

「改革なくして成長なし」に加えて、私がいつも申し上げているのは、「成長なくしてデフレの解消・物価の上昇はない」ということである。そういった意味でも、政府の改革・政策が、いろいろな面で芽を吹いて、成果を上げてくることを首を長くして期待している。その過程で、初めはやはり、出血が起こり、傷や痛みが増えることは間違いないところであるから、そういったものをなるべく少なくするように、金融面からも流動性を随分思い切って出している。そういう芽が吹き始めて成長率が高まり始めれば、私どもがかなり大胆に供給している流動性が、そういう動きを支えていく機能を果たしていくのではないかと思う。それがいつ頃から始まっていくのかということが、来年にかけての私の期待である。お答えになったかどうか分からないが、ご質問に対してこれだけのことを、年末でもあるので、説明させて頂いた。

【問】

財政について改めてお伺いしたい。来年度予算の財務省原案で、前年度並みの予算規模を過去最大規模の国債発行で賄うという姿になっている。厳しい現在の経済情勢下で、財政政策と金融政策を全く分けて考えるべきではなくなっていると思うが、これからのあるべき税制の姿、もしくはどういう財政政策であれば金融政策として協力して良いと考えているのか、ご所見を伺いたい。

【答】

補正予算ではなくて来年度予算のことであれば、先程も諮問会議で塩川大臣から閣議に通す案の報告を聞いたが、歳入欠陥と新しい改革に向けた歳出の増加といったようなことで、36、37兆円とかなりの国債を発行していかなくてはならないということだ。したがって、先程から申し上げている国債をどうやって消化させていくかが、私どもにとっても大事な仕事になってくると思う。国債をあまり急に増やしてみても、それを日本銀行が全部市場から買う──引き受けは現在止めているから──というわけにもいかない。国債の金利は1%前後──現在1%割れ──で比較的安定しており、今年の初めから終わりまでみても1.2~1.3%から1%近辺というところで動いている。私どもも国債の需給には、随分気を使っているつもりだが、今後供給がさらに少し多くなっていくということだ。銀行とか保険、年金といったようなところがかなり国債を買ってくれるわけだが、今後どういうふうに動いていくか。日銀は、現在、月間1兆2千億円、年間14兆4千億円買っているから、発行額が30兆円であれば、その約半分を日銀が市場から買っていることになる。その他を銀行や保険が買っているが、これからは家計にも随分買ってもらわなければならないのだろうと思う。株がこういう動きなので、国債のほうが安心だという動きも出始めているのではないかと思う。その結果として、上手く消化されていけば良いと思うが、今後情勢をみながら国債の消化、国債市場の安定が続くように、かなりの努力をして参らなければならないと思っている。

【問】

先般の金融政策決定会合で、伝えられるところによると、財務省から参加した方が日銀に対して、中小企業金融公庫等の発行する財投機関債の引き受けないし購入によって、中小企業に間接的に資金が流れるようにするために貢献してはどうか、というアイデアを示したと言われている。こうしたアイデアについて、総裁としてどうお考えになっているのか、お聞かせ頂きたい。

【答】

まず、金融政策決定会合の議論の内容は、政府の出席者の意見も含めて、議事要旨でみてもらわなければならない。どこからそうした話が伝わったのか私は知らないが、今ここで私がそうした話が決定会合で出たというようなことをコメントすることはできない。

一般論として申し上げれば、財投機関債の引き受けとか買入れという点については、今のところ、市場で十分な資金調達ができているので、日本銀行が出ていく必要もないし、出ていく筋合いでもないと思う。財投機関債というのは、たしか政府保証がないのだと思うが、これについて、どういう議論があったか特に私どもは何とも申し上げられないし、そういう要請があったということも申し上げるわけにはいかない。「どうされるか」というご質問であれば、一般論でしかお話しできない。

【問】

産業再生機構に日銀が出資するのではないかという話があるが、これについての総裁のお考えをお聞きしたい。

【答】

日銀が出資するということはないと思う。それは日銀法の建前から言ってもできないことだと思う。ただ、産業再生機構の資金が不足した時に、何らかの形で資金の調達を助けるというか、貸出をするようなことは起こり得るかもしれない。もっとも、その点は、そうした状況になってからでないとわからない。今、ここでは何とも申しかねる。

【問】

日銀総裁人事の話であるが、総裁の今のお考えからみて、あるべき次期総裁の要件とは何か。その辺をお聞かせ頂きたい。

【答】

後任人事について、随分新聞や雑誌が書いていらっしゃるが、私の立場であれこれ言うのは今は差し控えたい。まだ3か月あるし、やるべきことをやるだけで、何が起きるか分からない状況の中で、それまでは、どういう人が良いのか、ということまでは何とも申しかねると思う。

日本銀行は、今、デフレ克服に向けて思い切った金融緩和措置を講じているところで、この問題についても先程申し上げなかったが、CPIの上昇率がゼロを超えて安定的なところに達するまで、私どもは今の量的緩和を続けるのだということを、始めた時──去年3月──に公約している。その点を、一生懸命フォローして、調整を続けていくというのが当面の最大の仕事ではないかと思っている。政府と日銀でしっかり、共有した基本方針である「デフレ克服に向けて力を合わせてやるべきことをやっていく」ということを、十分大切に心に刻んで、その日その日を過ごしていきたいというふうに思っている。

【問】

今、「政府と協力してデフレ克服に向けて」とおっしゃったが、後任になる方についてもそういう考えの方が望ましいというふうに受け止めて良いか。

【答】

それはちょっと私には。後任の話は、まだ誰が何を考えているのかも知らないので、何ともお答えすることはできない。勘弁して頂きたい。

年末に向け比較的──今日は、株も少し戻しているし──市場の方は安定している。私はこの暮れに何か起こるかなという感じをもっていたけれども、年末は何とか越せそうな感じがしてきた。株だけは米国も動いているから何とも言えないが、為替の動きもまあまあこれなら良いのではないかと思う。むしろ、年度末──私の任期もその頃くる──が次の課題になると思う。

以上