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政策委員会議長記者会見要旨(4月8日)
2003年4月9日
日本銀行
―平成15年4月8日(火)
午後2時15分から約40分
【議長】
本日は、「資産担保証券市場を通じる企業金融活性化のための新たなスキームの提案」について金融政策決定会合で承認を頂いた。今日から市中に新しいフレームワークを提案して、コメントを求めて良いものを作っていくということを始めることになったので、会見を開いた。事前に資料をお配りしており、またスキームの細かいことについては、この後、担当の者から、きちんとしたレク(説明)をさせて頂くが、ご質問があれば伺いたい。
【問】
今回の決定に至った狙いと背景について、配布資料にも書いてあると思うが、改めてご見解を伺いたい。
【答】
今日は、次回の決定会合までの金融調節の方針と、金融政策手段の拡充という新たなスキームの提案、この2つを決定した。
次回の決定会合までの金融調節の基本方針については、前回と変わりはない──ノーチェンジ──ということである。いわゆる「なお書き」部分も含めて変わりがない。国内景気は設備投資等、一部持ち直しの動きもみられるが、一方で、イラク情勢、さらにはアジアでの新型の肺炎の影響等、見極めがたい不透明感が続いている。こうした中、企業マインドは全体として、この前の短観でみてもおわかりの通り、「横ばい」である。従って、当面の基本的な情勢判断には修正を加えていない。その結果、調節方針についても、差し当たりそのまま維持したいというのが、基本的な決定である。
それから、この「資産担保証券市場を通じる企業金融活性化のための新たなスキームの提案」については、この前からも申し上げている通り、日本銀行が流動性を十分市場に供給した場合に、その金融緩和効果が末端に十分浸透するように、つまり、波及径路の目詰まりを少しでも解消していく工夫のひとつとして、今回提案させてもらった。
これから先の、日本の金融の姿を考えた場合に、従来のように、信用供与のメカニズムについて、銀行貸出── 一本槍という言葉は少し行き過ぎであるが──を非常に太いパイプとして金融仲介が行われていくよりは、より広く、いわゆる市場を通ずる金融という姿が展開していくであろうし、銀行貸出と市場金融との相互乗り入れといったかたちで発展する部分も非常に大きいのではないかと思う。このような将来展望を踏まえた時、今日提案したような企業関連の資産を市場において流動化していくというスキームを上手く作り上げれば、将来の可能性が非常に大きい。そのことを日本銀行が何らかのかたちで初期の段階でサポートすることができれば、この市場の将来性を現実のものに引き上げていくことが可能ではないか、といった基本的な判断に立っている。
日本における資産流動化市場というものは、発展の全く初期の段階にある。揺籃期といっても良いと思う。従って、本来ならば、市場の中で、自己回転的に発展していくことが望ましいわけであるが、現在はまだあまりにも初期の段階にあるということであれば、日本銀行が何らかのかたちで口火をつけるという役割を果たすことが、有益である可能性が強い。場合によっては、こうした資産を日本銀行がアウトライトで買取る──つまり、クレジット・リスクの世界に、日本銀行が一歩踏み入れる──ことによって、市場の発展の口火の役割を果たすことができる可能性が強いと判断して、提案申し上げるということである。
実際、市場作りということと、日本銀行の政策の効果に関する伝達径路──波及径路──の充実ということとは、並行して進む話であるので、その市場作りという面からしても、市場関係者の将来に向かっての新しい知恵というものを十分糾合しながら、言わばクリエイティブに協力し合って市場を作っていくということが非常に大事だ、という考え方が含まれている。 従って、提案して、有益なコメントを頂戴して、本当に良い市場を作りながら、日本銀行として、この市場への関与の仕方というものを最終的にきちんと決めていきたい、という考え方に立っている。
かつて、決済システムでRTGSを築く時に、日本銀行がパブリック・コメントを求めて、市中から非常に有益な意見を頂戴して、RTGSはその後円滑に動いているという、良い経験を我々は持っている。今回も、過去の良い経験を活かしたいということであるし、将来を考えると、これからのマーケット作りについては、市場関係者と日本銀行との協力が様々なかたちで行われて良い市場ができていくという可能性が強い。
今回のスキームについて、良い知恵を市中から拝借したいということであり、日本銀行としては、少し欲張っているが、これに限らず、将来いろいろなマーケットを作っていくために、今回は我々から提案し、市中からも様々なかたちの提案が出てくることを期待している。そうなると、やはり、日本の将来の金融の姿を築いていく時に、皆がデスクワークの上で、こうだこうだと絵を描いている段階を越えて行く、という世界に入れるのではないかと考えている。
もちろん、クレジット・リスクの世界に足を踏み込むということであるから、あくまで我々は口火の役割であり、あまり深入りすることには限界があると初めから思っている。従って、「時限的措置」というのは、そういう意味である。前々から申し上げている通り、日本銀行の自己資本との関係でも限界があるということは、十分意識している。また、ある側面では、政府系金融機関の協力が得られる可能性もあるのではないか。もし、そのような協力を得られる側面というものが発見できれば、是非そこは協力をお願いしたい、ということも考えている。
【問】
今おっしゃった政府系金融機関の問題──具体的には、保証とかそのような問題──に絡むのであろうが、「資産担保証券の買入れの検討」は、具体的にいつ頃までに決定するおつもりか。
【答】
やはり、今日、提案申し上げて、明日にも返事をくれ、ということにはならない。これは、頭の中の体操ではなく、実際に市場を作っていくという動作につながらなければならないので、やはりある程度の期間はいる。一方で、我々としては、当面の金融情勢を眺めて、急いでいるということもある。5月の上旬中にはきちんとコメントを頂戴して、その後急いで検討して、最終的なスキームを詰めたいと思っている。
【問】
3月25日の臨時金融政策決定会合で、企業金融の円滑化とオペ手段の多様化を検討する方針を決められた。今回、資産担保証券の買入れ検討というものが具体的に出てきたわけであるが、例えば今回の措置以外に、今後CP、社債等の買切りといった措置を検討されるような可能性はあるのか。
【答】
本日、金融政策決定会合で具体的な措置として検討したのは、発表申し上げたこの措置だけである。しかし、その前提として、日本銀行が金融政策の手段を多様化していく場合の基本的なものの考え方についても議論した。その場合の基準は、金融政策──今は金融緩和政策──の効果浸透の上でどれほど有効かという基準と、金融市場の機能を少なくとも害しない、できれば市場の発展に資する──役に立つ──といった基準である。そして、日本銀行が市場に何らかのかたちで関与して市場の発展を促し、かつまた政策効果を上げるという観点から、ある程度の市場規模を持った舞台の上で、今申し上げたおおまかな判断基準に照らして、これから議論していこうということになった。さらに、日本銀行の資本基盤との関係。そういう尺度を持ちながら、今後ともいろいろ考えていきたい。今日は具体的にそのスクリーンにかけて1つ浮かび上がった、ということであって、それ以外の具体的な項目については、今日は議論していない。これから、またいろいろ勉強したいということである。
【問】
今回の資産担保証券の買取りについては、最終的には中小企業にお金を回していくということが最大の狙いだと思うが、日銀が買取ることによって、中小企業まで本当にお金が回るのかということに関して、懐疑的な見方をしている人もいるようである。その道筋については、これから詰められるということであるが、どういったイメージというものをお持ちか。
【答】
私どもの持っているイメージというものは、今回のスキームについて言えば、中小企業関係の融資関連の手形とか、あるいは売掛金債権、これを市場で流動化しようということである。先程も、今後の日本の金融の姿を考えると、銀行貸出と市場金融との相乗りだと申し上げた。従来、銀行貸出というものが、ものすごく太いパイプであり、この太いパイプの中で、日本の場合には、中小企業金融のウエイトが非常に高いということがある。従って、相互乗り入れをすると、必然的に中小企業関連のものが、限界的にはどんどん間接型市場金融という舞台の上に乗り移っていくということになる。それだけでも相当、中小企業金融に対する新しい円滑化効果があるのではないか。同時に、各金融機関からみれば、いったん融資をして、その貸出債権というものを市場で流動化すると、銀行の持っている自己資本との関係では、一回負担がかかったけれども、流動化により自己資本との関係では荷物が軽くなっているわけで、自己資本制約から解放されながら、新しい融資に手をつけられる──キャパシティがそれだけ大きくなる──ということである。つまり、相乗りによって銀行としては、自己資本制約から解放されながら、新しい融資を開拓していくことができる。その面からも、中堅・中小企業に対する金融のパイプは太くなる可能性が強いのではないか。従って、大事なことはこの市場を大きくしていくことであり、日本銀行は口火をつけるけれども、ただオペだけが目的ではなく、市場を大きくするという目的を絶対見失わないでやらなければならない。こうした観点から、パブリック・コメントを求めて、市場の発展を願う人達の意見をその中にしっかり取り入れていきたいと、こういうふうに考えている。
【問】
「時限的措置」とおっしゃっているが、大体どのくらいの期間の時限措置というイメージをされているのか。
【答】
数か月というほど短くはないので、数年と思って頂いて良いと思う。
【問】
今回、市場参加者へのスキームの提案というかたちを取られたが、今後いろいろな場面において、例えば日銀から政府に提案するといったことを積極的にやっていくお考えがあるということなのか。
【答】
日本銀行固有の政策手段を日本銀行が拡充する場合に、すべてパブリック・コメントにかけるのが良いかというと、必ずしもそうではない。やはり日本銀行が自己完結的にものを考えられる部分については、その必要はないし、むしろ日本銀行が責任を持ってそこは判断すべきである。この基本は変わらないが、新しいマーケットを作っていく場合には、日本銀行だけの知恵で作るよりも、市場関係者の知恵を借りて一緒に作ったほうが、はるかに良いものができる。これは日本だけでなく、海外でも先進的なマーケットを作っていく最初の段階では、やはりそういった知恵の寄せ集めが非常に有効だと証明されている。従って、今後とも新しい市場を作っていく場合には、おそらくこの方法が有効であり、可能ならばそういった方法を多く採っていきたいと思う。
政府との関係でも、マーケットを作る際に、フレームワークが市中に提案されて、市中がそのフレームワークをいろいろな角度から眺めながら、いろいろな提案を出してくる時に、政府もそれをご覧になって、政府としてはどこをサポートすればこのマーケットが良くなるのかということを、ご判断頂けるケースや側面はあると思う。もし、政府がお気づきにならなければ、こういった側面ではどうかと日本銀行から申し上げても良いわけである。世の中でこういった物事の作り方というものが認知されていくと、政府のほうでも、自然と政府が支援すれば有効だというものを、見出していけるようになるのではないかと思う。それが一番良いと思うし、いちいちバイラテラルに協議するよりは、客観的に市場を眺めながら自分のすべき役割、あるいはできる役割を見出していくことが建設的であると思っている。
【問】
三点伺いたい。まず、今おっしゃった政府系金融機関の協力ということであるが、具体的にはどのような協力が得られそうなのか。
それから、今日の発表資料に「異例の措置である」とあるが、民間債務の買切りというものはいつ以来なのか、また、なぜ今まで行わなかったと理解したら良いのか。最後に、今日の会合での反対者の数と反対理由を教えて頂きたい。
【答】
政府系金融機関から、どういった側面でご協力頂けるのかということについては、後程レクを申し上げる時に詳細はご説明するが、私が承知している限りでは、保証と、政府系金融機関自身も何らかのかたちで資金提供できる余地があるかどうか、この両面からご検討頂けるのではないかということである。
「異例の措置」と書いてあるのは、ご指摘のとおりであるが、それは、クレジット・リスクをあえて取るところに踏み込むということである。中央銀行信用の本来のあり方は、リスクの最も少ないところで金融調節を行うことである。リスクを極力ミニマイズするために、リスクがあると思えば必要な担保を取って貸すというのが原則であるが、今回の場合には、ある程度リスクに踏み込むという面がある。そこが基本的に違うので、従来の例というものは、多分あまりないのではないかと思う。
議決に関しては、今日は2つ議決をしたと申し上げたが、当面の金融調節方針は8対1である。それから、流動化スキームについても8対1である。
【問】
先程お話頂いた民間債務の買取りについて、その延長線上でお伺いしたい。今回のスキームについては、市場を育成するために日銀がリスクを取る点が重要だというお話を頂いたと思うが、例えば、今後その他のリスクのある資産——REITも市場の育成が課題になっていると思うが──についても、市場を育成する目的で日銀が買取る——あるいは買取ることを検討する——可能性があるのか。総裁個人のお考えをお聞かせ頂ければと思う。
【答】
REITについては具体的に検討していないため、今はお答えできる段階にない。しかし、一般論を申し上げると、日本銀行が市場に介入する場合——口火を切ることを目的として市場に介入する場合——の利害得失はいろいろな側面があると思うが、一番重要なのは市場の価格決定メカニズムに対して害がないかどうかというところである。
これから多数の個人投資家に市場に参入してもらうために、市場の安定的な発展というものを考える必要がある。例えば、投資家にいろいろな資産を組み合わせて提供していく上で、配当利回りやキャピタル・ゲインがどれくらいになるかが重要な目安になるが、これらも安定的な市場の中で常時プライシングが行われていくことになる。
そうしたことを考えながら、市場作りをしていくというような場合には——市場規模がある程度大きくなり、プライシング・プラクティスというものが確立して、投資家がそれを信認するまでは——、市場の自立のための助走期間というものを相当長く置く必要がある。このような場合に、早い段階で日本銀行がプライシングに関与するようなかたちで介入することには、プラスの場合とマイナスの場合とがあると思う。日本銀行が市場に介入して価格を吊り上げるような場合──個人投資家のイメージに必ずしも一致しないプライシングが行われるような場合──がもしあるとすれば、そういう入り方は適当でないということになると思う。
従って、市場作りをしていこうという場合には、これから育っていく市場の性格や特性など——既にどれくらいのリード・タイムを経験した市場であるかなど——をすべて勘案し、また、これから自分の力で市場を築いていこうと熱心に頑張っておられる方々の判断というものを十分聞かないといけない、ということであると思う。
【問】
今回リスクの高い資産を買取られるということで、日銀の財務の健全性についてどういう手当て——例えば、引当金の計上等——を考えているのかという点、また、口火を切るということであるが、一体どれくらいの額を想定されているのかという点について教えて頂きたい。
【答】
クレジット・リスクをある程度取ると申し上げたが、無闇に取るというわけにもいかないし、ここの判断が大変難しい。将来のことを考えると日本銀行はいろいろなかたちでリスクを取っていかなければならないが、現状の経済・金融情勢を考慮すると、ある程度余力を残しながらリスクを追加的に取っていくという判断になると思う。
このスキームの場合には、中小企業関連を中心とした資産を一つにプールすることによって"プール効果"——これによってリスクを軽減する——という大きなメカニズムを持つ。中小企業においてもある程度財務データの蓄積が進んでおり、リスクを客観的に評価できるようになっているため、こうしたメカニズムを使いながら——リスクを完全に予測することは難しいが——時限的に——自らいろいろ限界を課しながら——市場に介入していくということである。
数字的には今の段階では申し上げられない。パブリック・コメントを全部頂戴し、全部スキームを固めたら計数的な予測ができるかといえば、それも不可能だと思う。しかし、あるイメージを持ちながらやっていくことにはなるだろうと思っている。
【問】
今回の措置は、中小企業の資金繰りの改善にはつながると思うが、本質的、根本的に中小企業の問題というのは、一方でバランス・シートの問題を相当含んでいると思う。バランス・シート問題についてのご見解を伺いたい。
【答】
おっしゃる意味は、中小企業も過去に過剰投資をしており、従って過剰負債を負っている。その問題をどう処理するかという話であるか。
【問】
大企業は、十分か不十分かは別にして、いろいろなかたちで整理が進んできているが、中小企業についてはほとんど進んでいない。それから、今回の資産担保証券の買入れ対象を、銀行の自己査定による正常先としているが、本質的には要注意以下で、例えばバブル期に多額の債務を背負った──債務超過にはなっていないが、保証料は上がっている──企業が一番問題であると思いお尋ねした。
【答】
金融政策の効果浸透を図る、緩和政策の伝達径路をクリアにしていく場合の大前提は、いわゆる不良債権問題、金融機関の保有する不良債権、それから中小企業を含め企業部門の背負っている過剰債務──あるいは過剰投資──の調整を進めることであり、それに加えて日本銀行の金融調節手段について様々な工夫を凝らしていくという、二階建ての構造になっていると思う。
今日ご説明したのは、その構造の二階の話の1つである。従って、ご指摘のとおり、構造の一階部分、企業部門の抱えている過剰債務や過剰投資の調整の問題は、引き続き非常に大きいということである。これはやはり、様々な工夫を凝らしながら今後とも問題解決を促進していく必要がある。大企業と中小企業との場合では、問題の処理の仕方、ニュアンスが違うのではないかということで、政府のほうでもリレーションシップ・バンキングの考え方を最近出された。この考え方のエッセンスは、日本銀行においても、これからの考査において取り入れながら対処していきたいと思っている。
【問】
本日の金融政策運営に関する議論の中で、現在の当座預金残高目標17~22兆円を引き上げるという議論はあったのか。また、先程8対1で反対者が1名であったと伺ったが、その反対された方の意見はどういうものであったのか。
【答】
一人反対者があったということを申し上げるのが、今日の限界かなと思っている。というのは、金融政策決定会合の情報開示については、いずれ議事要旨の公表でもって、どなたが反対で、どういう趣旨で反対か、その方の提案はどうであったか、ということを明らかにするルールになっているので、それを今私が申し上げると、多分ルール違反となり、金融政策決定会合から締め出されるリスクもあるかなと思う。従って、大変申し訳ないがそこは遠慮させて頂きたい。
【問】
最初の質問についてはどうか。17~22兆円を引き上げる議論はあったか。
【答】
そういう議論は確かにあった。
【問】
本日、中小企業の資金繰りが対象になったスキームが出たが、これは総裁のおっしゃる「波及径路の目詰まりを解消しなければならない」という問題に対して、一体どのくらいのインパクトを持つものなのか。つまり、この問題の中で、今回のスキームが対象としている部分のウエイトというのは、どのくらいのものなのかという辺りを少し伺いたい。
【答】
一夜明けたら目詰まり解消というほど即効性のあるものではないということは率直に認める。しかし、日本の場合、中小企業のビジネスの状況を見てみると、売掛金債権のウエイトが非常に高い。こうした売掛金債権に対して、ダイレクトにファイナンスを受けられる仕組みが確立していない。従って、この固まりに対して挑戦していくということだから──市場が上手く発展できれば、この大きな固まりを円滑にファイナンスの対象にしていけるということで──、やや長い目で見ると、非常に可能性の高い領域だと思う。
日本銀行としては、一夜明けたら急に晴れたということが期待できるほど、今は生易しい状況ではないというふうに基本的に認識しており、難しくても将来の可能性のあるところにはきちんと挑戦していきたいと思う。しかも市中の努力を巻き込み──巻き込みというのは少し失礼だが──、市中の知恵を拝借しながらやっていくというところに非常に意味があるのではないかと思う。いろいろと違った知恵が出てくることを大いに期待している、というのもそういう意味である。
【問】
先程の質問と若干重複するかもしれないが、今回の対象となる資産について、銀行等の自己査定による正常先の債権に相当するとあるが、企業金融の目詰まりを解消するという狙いとの兼ね合いでは、正常先ということで固定してしまうのか、場合によっては、パブリック・コメントの内容も勘案して、要注意先等も考慮に入れようとお考えなのかについて伺いたい。
【答】
まず市場作りの常道として、一番市場取引に馴染み易い部分から始めることにより市場が発展する、という原則をスムーズにフォローしていきたいと思う。本当に市場が円滑に進めば、その市場の外枠に信用度の低い資産の市場というものが関連してできてくる可能性がある。それからこういった流動化市場が大きく発展していけば、銀行としては、やはりリスクの高い金融の世界にビジネスを求めていく機会とか、その必要性も高まってくると思うので、要注意先以下のところに対しては、ダイレクトな効果はないけれども、その波及効果というものは、視野の中に入れていきたいというふうに思っている。
【問】
現状のABSは、例えば業種であるとか、ある程度偏った性格を裏付けとして発行されているものが殆どであるため、あまり糸目をつけずに幅広い業種で組成しなければいけないとしても、それは現実的にはなかなか難しいと思う。従って、偏りのあるABSを日銀が買うとなると、いわゆる中立性という観点からかなり問題が出てくるのではないかと懸念されるが、この点どうお考えか。
【答】
非常に大事な点のご指摘だと我々は感じる。最初にマーケットで自立的に出てくる道具立ての組み立てというものは、当然のことながら組み立て易いところから着手される。従って、業種的偏り等があるところから出発するのは、どこのマーケットの場合でも最初は普通の姿だと思う。
先程ご説明したとおり、いろいろな資産をプールすることによって、リスクを削減していきたいというのが目玉である。しかし、プールをしてリスクを削減すると言っても、偏りがあるものだけをいくらプールしたとしても、削減効果はないわけである。業種がいろいろ違う、あるいはビジネスの性格がいろいろ違う、つまりリスク・プロファイル──リスクの態様──がいろいろと異なるものをプールの中に入れていかないと、リスク削減効果はないわけである。従って、まさにこの点こそが、市場が今後発展するという意味で成功するかどうかの鍵になると思う。
非常に重要な点のお尋ねで、多分これから市中と共同作業を行っていく場合にも、そこのところは非常に大事なポイントだと、初めから認識し合えるのではないかというふうに思う。
【問】
今回の買入れというのは──買切りということだと思うが──、現先オペから一歩踏み出すということだと思うが、せめて売りオペができるような、もっとダイナミックなオペのやり方というものを考えなかったのかどうかについて伺いたい。なぜ買切りなのか。
【答】
現先からとりあえず買うというところへジャンプしようということだが、売りを否定しているわけではもちろんない。これは、これからの市場作り、そして日本銀行の関与の仕方ということで決まってくる話だと思う。特に、マーケットの中のプライシング機能を害さないということを考えた場合の一つのやり方としては、日本銀行は買うだけではなく、買いもあれば売りもあるというほうが、プライシングが自然に市場メカニズムの中に入り、日本銀行の行為もこなれやすいという面があるかもしれない。しかし、とりあえず何も持っていないわけであるから、買いから入らざるを得ないということだと思う。
【問】
将来は売りオペなども含めて検討されるのか。
【答】
まだそこまで断言はできない。少し市場が始まって様子を見たいということである。
以上