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政策委員会議長記者会見要旨(4月30日)

2003年5月1日
日本銀行

―平成15年4月30日(水)
午後3時から約45分

【問】

まず本日の政策変更の趣旨について伺いたい。前回、日本郵政公社の預け金の関係で2兆円ほど増額をした時には、政策変更ではなく技術的なものであるとの説明があったが、それに対して今回は明確な政策変更と理解して良いのか。

【答】

今日は、技術的な措置ではなく、明確に政策変更であるとご理解頂きたい。今日は朝から金融政策決定会合で随分経済の動きや金融の動きについて議論し、経済の現時点での動きに関する限りは、前回の金融政策決定会合以降、そんなに大きな変化はない、概ね横這いであるという感じで認識の一致をみたわけである。しかし、子細にみると、やはり輸出の動きにしても生産の動きにしても、あるいは個人消費の動きにしても、少し勢いが弱まる雰囲気がないでもないといったことがまず言えると思う。また、より広く見渡すと、世界全体の動きについて、例えば欧米諸国の景気回復力は依然不確実性が高いという認識であったし、今堅調を維持しているアジアの経済についても新型肺炎の影響が少し広がってきており、今後どうなるか不透明な中で懸念が強まっていることが確認された。

金融面の状況についても、いろいろ点検して、また議論もしたが、日本銀行がかなり大量の流動性を供給し続けているので、市場の動きそのものは平穏であり、金融機関の流動性の調達を巡る懸念もあまりない、むしろ払拭されている状況である。しかし、株式市場の動きは非常に不安定で、銀行株を中心に株価が相当不安定な動きを続けていることもあり、ここを出発点として先行きの金融市場、ひいては実体経済活動に悪い影響が及んでくるリスクがあり、これにはやはり相当注意が必要であるという点で、認識の一致をみた。従って、今日当座預金残高の目標を引き上げたのは、このような経済、それから金融情勢に関する不確実性を踏まえたものであり、今後とも金融市場の安定確保に万全を期する、そして景気回復を支援する効果をより確実なものにすることが適当であるという判断に至ったということである。

つまり、足許までの動きはそんなに大きな変化はないが、先行きに目を転じた場合のリスク要因に我々は大きく注意を傾けた。そういった意味では、今市場が示している危機意識というものを、我々も共有したということだと思う。

【問】

今のお答えは、危機意識に基づいた不確実性への対応であるということかと思うが、総裁はこれまで量的緩和の効果を検証していきたいとおっしゃっており、金融の目詰まりについても指摘されてきた。その辺の見方について何か変化があったのか、また、今回の政策変更が量的緩和の効果をどれだけ高めることになるのか伺いたい。

【答】

我々は、量的緩和という枠組みの中で、基本的に流動性を多めに供給しながら、その緩和効果を末端に十分及ぼしていく、そのために、効果の波及径路というものをしっかりさせていきたいと考えており、こうした考え方は、いささかも変わらない。従って、効果波及径路の強化という点については、引き続きいろいろなことを検討していく。少なくとも、これまでに方向性を決めたABCP市場の育成については、早く結論を得たいと思っている。

【問】

当座預金残高の現状をみると、25~26兆円まで積み上がっているが、こうした中で、今回目標を5兆円引き上げて22~27兆円にしたことは、現状を後追いしたという印象を受けるが如何か。

【答】

これも良くご理解頂いていると思うが、我々の流動性供給の目標額は従来17~22兆円がコアであった。これを5兆円かさ上げした、つまり基本部分を5兆円引き上げているので、この部分はやはり大きな政策的意味を持っていると思う。

今までのところは、「なお書き」を適用して当面の緊急事態に対応する意味で上限を超えて供給してきたが、そういった不確実要因を除いて、基本的な情勢判断として目標を5兆円引き上げた。そこに政策的な意味合いを受け取って欲しいと思う。

【問】

今日公表された展望レポート(「経済・物価の将来展望とリスク評価」)の中で、新たに「金融政策運営と金融環境」等に関するパートが新設されたが、この背景にある考え方を伺いたい。

【答】

前々から申し上げているが、我々が金融政策全体の枠組みをさらに磨き上げていく上で2つの柱──1つは透明性の向上、もう1つは波及径路の強化──があるが、今回の措置は幅広い観点から検討を進める中で、具体的に透明性向上を図るための手を打っていく1つのステップである。そうした狙いから、従来の展望レポートには含まれていない、我々が行っている金融政策そのものの評価に関わる部分を加えたということである。こうした措置は今回が出発点であり、これから展望レポートの内容は回を経る度に、良いものにしていきたいと思っている。今回のものがどれだけの出来栄えかわからないが、最初のプレゼンテーションということである。

【問】

今回は、株価が不安定ということで当座預金残高引き上げを決定されたわけだが、結局、株価の不安定性により、先行き金融市場にどういった悪影響が出るとみているのか。また、当座預金残高を引き上げたことがどういった対策になるということなのか、もう一度具体的に説明して頂きたい。

【答】

株価が先行きどういった径路を通じて、どういった具体的悪影響を及ぼすかということは、なかなか明確には読めないが、やはり株価が弱い背景には、日本の金融システムの脆弱性について、市場がまだ強く意識し続けているということと、日本経済の先行きの展望についても、そんなに強い見通しを持っていないといった要因があると思う。実際、企業の経営者、金融機関の経営者、あるいは一般の消費者も、こういった雰囲気の下で、先行きの経済について十分確信を持てずに日々の経済活動を行い、あるいは生活しているということだと思う。従って、株価がさらに突っ込んでいくといったような場合に、まずは心理的な不安感の増幅を通じて──金融市場においてはこれだけ潤沢に流動性を供給しているといっても──、やはり個々の金融機関の立場からすると、資金繰りについて心配の度合いが強まるということが出てくる可能性があると思う。我々は、必ずそうなると思っているわけではもちろんない。そうならないことを強く願っているが、そういった心配が少しでもある限りは、必要な範囲で先手を打っていくという趣旨である。

【問】

産業再生機構に対する証書貸付債権を担保にするということだが、これはいわゆる資金供給手段を多様化することと、産業再生機構を上手く機能させて、不良債権処理を加速させることの両方に狙いがあるのか。

【答】

おっしゃる通り、我々の金融政策の道具である担保のリストを、こういったかたちで1つ追加することは、金融政策手段の強化ということになる。と同時に、この前も申し上げたかもしれないが、不良債権問題の処理について金融と産業との一体的処理、その具体的な仕組みとしての産業再生機構がスタートする時に、その資金繰り円滑化に資する何がしかのサポートを我々ができるとすれば、それは結局のところ、日本の金融システムの安定化にもお役に立てるのではないかと判断した。従って、金融政策の効果を上げるためにも、そして金融システム安定化促進のためにも、いささかお役に立つ可能性があるだろうということである。

【問】

今回の措置の背景として、公表文の中に、「銀行株を中心に株価が不安定な動きを続けており」という一文が含まれているが、今回の措置は、銀行株あるいは株式市場の実体経済に与える影響──特に金融機関に与える影響──への対応という意味では、日銀の量的緩和を通じたいわゆる受動的な対応に過ぎないようにも感じられる。より本質的な問題である金融機関の株価が下落しているということの根本的な要因に対して、もう少し中央銀行としてアクティブに行動を起こされるというお考えはあるか。

【答】

先般別途レポートを出していると思う。また、考査の新しい方針ということも、あるいは既にご説明したかと思う。我々が非常に重要に思っていることは、もうこの段階では、金融機関に、不良債権の処理というプロセスを急ぐと同時に、収益性確保の道をしっかりビジネスモデルの上で築いていってもらいたいということである。ああいうかたちで民間増資をした以上、お金を提供した投資家の強い期待の対象になっているはずである。この期待を裏切らないということが、銀行株の今後の運命を大きく左右すると思う。

従って、日本銀行としては、一般的な金融政策の遂行、それから一般的な金融システム対策ということに加えて、やはり個々の金融機関について、新しいビジネスモデルを確立する上で我々ができるアドバイスがあれば、協力していきたい。しかし、経営は本来経営者の考えるべき話であって、個々の経営を我々がガイドするというところまでは、到底行けないと思う。しかし、我々が持っている一般的知識でお役に立つものがあれば提供しながら、金融機関が早く新しいビジネスモデルに到達するように、考査機能等をさらに磨いていきたいというふうに思っている。

【問】

引き上げ額の5兆円だが、どうして5兆円なのか。郵政公社は2兆円を上回る資金を当座預金に積んでいると言われている一方、先程のご説明では明確な政策の変更であるとおっしゃった。こうした点も踏まえて、なぜ5兆円という金額になったのか、説明して欲しい。

【答】

今必要な最高の引き上げ幅ということで認定したのが5兆円ということである。17~22兆円というコア部分を引き上げるに当たって、現在の金融機関の資金繰りの状況というものを出発点にしながら、今後の不確定要因を織り込んだ時に、最大限いくらぐらい引き上げれば、差し当たり予想される金融経済情勢の中で、市場の安定性を確保できるか計算したわけである。

郵政公社からの預かり金というもう1つの技術的なファクターについて、これだけ枠を引き上げておけば、この枠内で十分処理できる、かつまた、今後の実体的な金融不安定要因に対しても対処できる、という両方の要因を計算に入れた結果、こういう数字になっているということである。郵政公社からの預かり金はピークに比べると、相当減ってきている。そういうこともカウントしている。

【問】

株価を非常に意識した今回の政策変更だということはわかるが、株価対策というものは、そもそも政府の非常に大きな役割であると思う。現在の株価低迷は年明け以降ずっと続いているわけであるが、これまで政府が抜本的な株価対策を打ち出したとはとても言えないと思う。政府の株価対策への取り組みの評価と、より本質的な株価対策として望まれることは何か。

【答】

今のご質問については、「株価対策として何を意識しているか」ということによって答えはかなり異なると思う。例えば、私どもが今日の措置で意識していることは、株価の下落を出発点として出てくる経済及び金融面での様々なリスクに対応しようということである。そういう意味では、我々が採った措置は、本質的に我々がなすべき措置であったというふうに考えている。

ただ、株価そのものを直接押し上げるという対策はまた別のカテゴリーの話であり、それは最終的に誰がリスクを取りうるかという話になってくる。現在のこういう経済の状況の下では、最終的に大きくリスクを取れる人が少なくなっているが故に、株価が下がっていると多くの人が考えた場合、最終的に大きなリスクを取りうる政府に対して期待が集まるという構図になっていると思うが、おそらく政府のほうでも取りうるリスクの限度というものがあるとお考えになっているのかもしれない。

従って、今日の措置は、直接株価を押し上げるというよりは、もう少し広く株価が下落し、様々なリスク・ファクターが浮かび上がった場合に、金融政策でどこまで対応しうるか、今予見しうる最大限のものを我々としては用意しておこうという備えである。

【問】

今なぜ5兆円引き上げたかについては、現状とこれからの不安定感を計算した結果だというご説明であったかと思う。その一方、これまで17~22兆円にまで積み上げてきた過程の金融政策の検証が必要である、つまりこれがどれだけの効果をもったのか、不明確だから検証が必要であるともおっしゃっていたと記憶している。今回、不安定感を計算できたということは、過去の金融政策の効果について、既に何らかの検証が済んだということで理解して良いか。

【答】

本日の展望レポートにも少し書いてあると思うし、これまでも明確に申し上げてきたように、これまでの量的緩和には、金融市場における不安感の吸収、それから経済の下支え効果──特にデフレ・スパイラルに経済が落ち込むことを防ぐという意味での下支え効果──が明確に存在したと我々は考えている。

我々はさらに経済を前進させるとか、その前提としてマネーサプライをもっと増やすとか、よりポジティブな影響を強く出したいということで、波及径路の強化を今検討しているところである。しかし、本日の措置についても、少なくともこれから予想しうる──予想したくはないが──リスクの顕現、つまり金融市場での不安感の増幅というようなことを防ぐという意味での効果に限ってみれば、我々は確信を持って計測できると考えている。

【問】

少し聞き方が悪かったかもしれない。例えば銀行保有株の買取り額の2兆円とか、3兆円とかいう額については、TierIを超える分の株の保有額などがわかっているので、定量的な説明もできると思うが、5兆円という引き上げ幅については、いわゆる定性的に下支え効果があったということではなく、何か定量的な検証みたいなもの──先程計算とおっしゃったが──ができるのかということをお聞きしたかったのであるが。

【答】

そういう意味では、機械的な計算には馴染まないと思う。リスクの計算ではあるが、例えば債券売買に伴って予想されるリスクをバリュー・アット・リスクで計算するとか、そういう手法とは少し別だと思う。

よりマクロのリスクであるので、それは政策当局者である我々として、今までの経験則とか現実の市場の動きとか、あるいは市場が今後いろいろ予測しているというようなことを全部読み取った上で、──ある意味で計算式を持つことは不可能であるが、我々の頭の中の構造としては──単に定性的というよりは量をつかむという意識で、頭を働かせた結果そういう数字になったわけである。ただし、計算式は存在しないということはおっしゃる通りである。

【問】

先程5兆円の根拠について、現在考えうるリスクに対して、5兆円という金額が必要と判断したとおっしゃったが、本日の時点で26兆円も既に積んでいる。そういう意味では、これ以上さらに大幅に積み増すようなリスクというものは今は想定されていないという解釈で良いか。

【答】

26兆円というのは、「なお書き」ではみ出している部分を含めてであり、「なお書き」要因に該当している部分が収縮した場合には22兆円まで減るわけである。その差額はこれからいつでも積み増し可能であり、むしろ恒常的にその分は資金を出していこうということである。

【問】

郵政公社の預金額が今後減っていくので、なかなか判断が難しいのかもしれないが、現時点で、目標引き上げ額の「真水」の部分というのは、およそどのくらいと想定したのか。また、今回、国債の買切りオペ増額はなかったが、これはそれを伴わなくても資金供給可能だという判断かと思う。国債市場が過熱したりしていることについて、何らかの配慮があったのか。

【答】

第一点目の「真水」は5兆円である。これは疑う余地もなくベースの部分を5兆円引き上げているので、「真水」は5兆円とご理解頂きたい。

後者の点については、マーケット・オペレーションの状況からみて、今、国債のオペレーションについて追加的なことを考えなくても、十分流動性の供給はやっていけると判断している。特に、ご質問のような意味のことを強く考えたわけではない。

【問】

先程総裁は「個々の金融機関の資金繰りについて心配の度合いが強まっている」というような発言をなさったかと思う。現時点で、金融機関の資金繰りについて何かしらの問題が現れているのか。また、今日は銀行株は値を上げているが、みずほを筆頭に大手銀行の株価がかなり下落しているという現状に対する総裁の認識を伺いたい。さらに、今回の決定について、「株安が及ぼす悪影響に対して」という説明がなされたが、実際には、かなり個別の銀行株ということを意識していると思う。金融政策が個別の業種の株安を踏まえるということに関して、今回の会合の議論で、異論があったのかどうかについても伺いたい。

【答】

まず最初の質問について、誤解のないように申し上げておくが、現在、個別の金融機関で資金繰りに心配があるというように申し上げたつもりは全くない。全くそういう状況ではない。

それから、今後についても、私は特定の金融機関を意識しながら、その銀行の資金繰りに問題が出る可能性というものを、頭に置いているわけでは全くない。

申し上げた意味は、金融市場に総量として流動性を十分供給している、あるいは今後とも供給し続けるという状況の中にあっても、個々の金融機関というものは──その金融機関が客観的にみて経営上問題があるとかないとかに関係なく──、先を読みながら、自分の資金繰りを手当てしているということだ。つまり、非常にオーソドックスにあまり変化をさせない金融機関もあれば、早めに先を読んでどんどん資金繰りを手当てする金融機関も出てくる。そういった場合に、マーケットの地合いというのが微妙に変わるときがある。マーケットの地合いを微妙に変える金融機関が必ずしも経営に問題がある金融機関とは限らないわけである。

しかし、外からマーケットに非常に大きいショックがかかっている時に、マーケットの地合いが少しでも変わり始めると、やはりそのこと自身がマーケットの中でさらに不安感を呼ぶリスクはある。従って、それを打ち消すぐらいの流動性の供給というものが必要な場合もある。そうした状況に至ってから供給すれば済むというのが大部分のケースであるだろうが、やはりここまで株価が下がり、株価だけではなくて、今、申し上げたような様々な不確定要因がいまだ残っている下では、我々が幾ばくか早めに手を打っていく価値があると判断したわけである。

発表文にも「全員一致」と書いてある通り、こういった点について、今日は異論は出なかった。

【問】

コアの部分を5兆円増やしたが、情勢によっては当座預金残高が一時的に30兆円を超えるということもありえるのか。また、そういう場合でも、長期国債の買切り増額によらずに済むのか。

【答】

まず、最初のお尋ねの部分については、「なお書き」のところをご覧頂いたと思うが、「なお、当面、不確実性が高い状況が続くとみられることを踏まえ……」ということである。従って、今後、予見せざるショックが起こって、上限を超えて流動性を供給しなければいけないという場合には、極めて機動的に流動性の供給ができるような仕組みになっている。

「なお書き」については、国際政治情勢の不安定というイラクの問題を特に意識したような表現の部分を、今回はカットしている。不確実性が非常に広範囲に予見できるということであるので、表現としてはむしろ広くなっている可能性もある。

二点目は、長期国債の買切りのことであるが、金融政策の運営については、当面、次回の金融政策決定会合までの基本方針を決めているわけで、その範囲でみる限り、国債について特別な措置を講ずる必要はないと判断した。

【問】

先程、量的緩和の効果として、金融市場の不安感を吸収する、もしくは、景気の下支え効果があるということが明確になったというお話があった。総裁がこれまで就任以来おっしゃっていた量的緩和の検証というものは、こうした認識が明らかになったことでほぼやり終えたということなのか。

【答】

先程から申し上げている通り、効果波及径路の強化という課題に対する我々の取組みは、まだ始まったばかりである。金融市場での不安感増幅を抑制するとか、経済の下支え効果があるということは、これまでも確認されていたことであり、私の就任後も、引き続き確認されている。さらにそれ以上のことを我々は、今、追及しているわけである。

【問】

今回、「経済・物価の将来展望とリスク評価」の中で新設された「金融政策運営と金融環境」に関するパートについて、新設した具体的な意味について伺いたい。

【答】

今回新しく加えた部分については、日本銀行が行っている金融政策、特に緩和政策が、どのような点で効果をあげているのか、あるいは、どのような要因が経済・物価に対する効果を逆に制約しているのか、ということを極力わかりやすく説明したいということが、採用に至った考え方の出発点である。

今回、第一回目であるので、果たして十分そこまで書き込めたかどうかについてはわからない。これから、我々の政策手段の強化とこの展望レポートの充実ということの双方が、お互いに姿を映し合うことによって、鏡となってより良い姿にもっていきたい──これは我々の希望であるが──、できる限りそういう努力をしたいということである。従って、1つ「手鏡」を持ったという感じである。

【問】

展望レポートの中の「消費者物価の前年比上昇率がゼロ%以上となるまで続けることを宣言した」という点について、さらに一歩進んだ議論が本日の決定会合の中であったのか。

【答】

今回に限らず、前回も、より明確な物価目標とか定義とか、特に上限を示すようなものがあったほうが良いのではないかという議論は少し出ている。しかし、これは、我々が幅広く進めている透明性向上の議論の過程の1つとして出てきている段階である。今後、そうしたものが「結晶」として出てくるかどうかは、これからの議論の成り行き次第であると思う。その「結晶」をまず取り上げてどうするか、というような議論の仕方にはなっていない。

【問】

今回、日銀当座預金残高の目標を5兆円引き上げたわけであるが、目標の幅が5兆円とかなり広い。その幅の大体どの辺を目指して金融調節をやっていかれるのか。また、今想定されている不確実性への対応は今回の5兆円の引き上げで大体吸収して、さらに何かあった場合には、今回の目標上限の27兆円を超えて資金を供給するスタンスだ、という理解で良いのか。

【答】

5兆円引き上げたが、幅も5兆円である。その幅のことを多分おっしゃったのだと思う。22~27兆円というのが新しい幅である。この新しい5兆円の幅の中で、どこで運営するのかというお話であれば、大体その上半分、すなわち25~27兆円ぐらいの幅のところを実際の運営の土俵として、おそらくやっていくことになるのであろうと意識している。当面我々が予見しうるファクターというのは織り込んでいるので、この上限をさらに上げるということは、今全く想定していない。

【問】

今回5兆円引き上げた部分に、今後想定される不確実な部分を織り込んでいるということだが、逆の方向に実態が乖離した場合に──そうした不確実性が払拭された場合、あるいは現在かなり想定を上回っている郵政公社からの預け金が落ちてきた場合に──、日銀の金融政策の手を縛るようなおそれはないのか。

【答】

郵政公社の要因は技術的なものであって、その預かり金の額が減ったとしても、今回の目標に変わりはない、それによって下方修正する必要は全くないということを今日は明確に判断した。次回の金融政策決定会合までに、「これは過大な流動性供給枠を決めたな」と反省しなければならないような事態が生ずるということは、全く想定できないと思う。そういうことはないと思っている。

【問】

確認だが、郵政公社の分が仮に減った場合でも、先程おっしゃった22~27兆円の上の半分を目指すという方針を変えないのか。

【答】

おっしゃる通りである。

【問】

最初にもご説明があったが、なぜオペ多様化の手段の1つとして産業再生機構に対する貸付債権を利用するのかということと、その狙いについて、もう少し説明して頂きたい。

【答】

産業再生機構の必要資金については、多分、産業再生機構が入札にかけながら民間から調達するが、これは不良債権処理、産業再生という国の非常に大きな目的に沿う措置であるので、政府保証がつくということである。従って、日本銀行からみると、これは政府保証のついた優良な担保物件である。我々が優良な担保物件を担保のリストに加えていくということは、日本銀行が金融政策を行っていく場合に、優位に立つ担保物件を在庫として持てるということで、金融政策の有効性が強まる。と同時に、そういうかたちで円滑な資金調達が行われて、産業再生機構が目的通りに運営されていけば、不良債権の処理が促進され、金融システムの健全化が進み、我々の金融政策の土俵もよく整備されていくということになる。従って、我々の立場からするといろいろな点で意外に意味の大きいものだと思っている。

【問】

今回、福井総裁をはじめ政策委員の方々は、かなりフォワード・ルッキングな──先のリスクを読んだ──対応をされたわけであるが、このことが今後、日銀に追加的な措置を求める1つの口実になるのではないか──リスクを先取りしたかたちでの圧力が高まるのではないか──といった懸念は議論の中で示されなかったのか。

【答】

物事を先取りしながら仕事をしていくことは、我々の責任ある仕事振りだと強く自覚しているところである。他人のプレッシャーというものは一切意識しないで、我々は責任を持って判断していきたいということに尽きると思う。

【問】

株安に関してもう一度確認したい。今の金融市場は安定しており、金融機関の流動性調達に関する懸念もないと先程おっしゃられた。しかし、それにも拘わらず、今後資金繰りの心配が高まるかもしれないというのは、何らかの予兆なりのインフォメーションがあるからそういう判断をされるのか、それともイマジネーションということでこういう対策をとるということなのか。

【答】

イマジネーションというのでは、我々としては、責任ある判断にはならないと思う。しかし、リスク・ファクターがたくさんあるということは、先程も申し上げた。その中で、我々が「全く心配していない」と言ったら、皆様方は「何でそんなにのんきなのだ」と多分おっしゃるだろうと思う。我々は基本的にのんきではない。経済の基盤は極めてフラジャイル(脆弱)だと思っている。個々の金融機関の資金繰りを、今、具体的に心配しているということではないにしても、経済全体の基盤が脆弱であり、金融システムの健全性回復もまだ極めて満足できない状況にあるという前提に立って、様々なリスク・ファクターが顕現化したときのことを、我々は十分頭の中に置きながら早めに対応していくということである。心配し過ぎではないかと思われるぐらいであれば、むしろ我々が十分先を読んでいるということに一層確証を持てるなという気がしている。

【問】

逆にそういった心配をしなければならない予兆か何かがあるからこういう対応をされたのか。

【答】

我々は予兆を感じる前に先手を打っている、ということである。

以上