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福間審議委員記者会見要旨(6月5日)

2003年6月6日
日本銀行

——―平成15年6月5日(木)
午後2時30分から約40分間
於 城山観光ホテル

【問】

まず、本日の金融経済懇談会で地元の方々からどのような意見が出され、それに対し、どのような感想をお持ちになられたか伺いたい。

【答】

非常に幅広い意見を頂いた。結論的に言うと、こちらに来るまでは当地の経営者の方々は最近の経済情勢の下では元気がないのではと案じていたが、懇談会で意見等を伺ってみると、皆さん地元の特性を活かしながら、あるいは産学で協同しながら、新しい事業に取り組もうとする姿勢が強く感じられた。

昨日は、電子部品メーカーと焼酎メーカーの工場を見学させて頂いたが、このうち電子部品メーカーでは、世界シェアが6割に達している製品もあり、「日本の鉱工業生産を上げるために、工場の稼働率をさらに引き上げてもらいたい」と感じた次第である。一方、老舗の焼酎メーカーでは、大量生産とは正反対の製法で──例えば、芋は有機栽培物のみを利用したり、明治の創業以来同じ製法を続けたりしておられる──、しかも、通信販売のほかは特定の所にしか売らない。これはバリューを上げるために非常に有効なマーケティングである。

昨日この二つの工場を見学したうえで、本日懇談会に出席しお話を伺った訳だが、確かに苦労はされているものの、決して「困った、困った、(お上が)何とかしてくれ」ということではなかった。産学協同とか、バイオとか、循環型社会の構築とか、食と文化を中心とした観光とか、地域の特性を活かしたものに取り組まれているということで──当初は、公共事業の依存度が高い当地ではご苦労されている方が多いのだろうと遠慮しながら出席したのだが──、大変元気があるのには驚いた。新事業を何とか立ち上げようというチャレンジング・スピリットがあるだけではなく、具体的に動かれているということで、大変元気付けられた。もちろん、厳しい環境下にある建設業の方も出席されていたが、東京で聞く「官の需要をもう少し広げろ」といった声ではなく、「我々は我々としてコスト・カッティングしていく」というように、随分前向きであると感じた次第である。

【問】

先程基調講演の中で、手形の話をされたが、手形市場を活性化すれば中小企業金融に利するのではないか、資産担保証券の裏付資産としても使い勝手が良いのではないかとのことであった。その中で手形の発行が減ってきた理由について、手形の印紙税がCPに比べて割高である点を挙げておられたが、これは印紙税をもっと下げるべきだという趣旨と理解して良いか。

【答】

税制の問題はなかなか難しいと思うが、そういう趣旨である。企業というのは、税制に対しセンシティブなもので、手形の印紙税がCPに比べて割高になると、経費節減のために、一生懸命手形の振出を避けようとする。私が民間企業にいた頃も、どんどん手形を減らしていた。基調説明の際にお配りした資料にもあったように、CPの印紙税が軽減された1990年くらいから──もちろん印紙税の要因ばかりではないが──手形交換高が一貫して減少しているのは、シンボリックな動きの1つである。売掛債権を担保に融資を受ける場合には、売掛債権の保有者は民法に基づく登記を行わなければならないが、登記を行うと、「あの会社は資金繰りに困っているのではないか」といった無用の憶測を招きかねない。現に1997~98年の金融危機の時にはそういった風評が流れた。民法を変えることはなかなか難しいが、手形であれば、手形法は改正しなくても、そのような登記なしに譲渡することが可能である。不易流行というか、わが国には既に使い勝手の良い手形というものがちゃんとある訳だから、金融の証券化という新たな手法とともに、双方をうまく使っていく方が金融の流れは良くなるのではないか。

【問】

資産担保証券買取りスキームに関しては、5月の上旬までにパブリック・コメントを求めるということであったが、そろそろ6月に入り一定の方向性が出てきているのではないかと思うが——今月も2回政策決定会合があるが——、検討の進捗状況について伺いたい。

【答】

まだ政策決定会合のテーマが絞り込まれていないので、6月中の会合で検討されるかどうかは申し上げられない。ただ、パブリック・コメントを頂いた訳であるから、個人的には、検討を一歩進めるための会合がいずれかのタイミングで行われると思ってはいるが、現段階では、こういう具合に、こういうスケジュールでというところまでは承知していない。

しかし、4月の第1週の頃から比べると、かなり具体化しているということは言える。使い勝手が良くないとアイデア自体が立ち消えになってしまうが、頂いたコメントを出来るだけ折り込み、あるいは他の政府系金融機関等との折衝も含め、具体化に向かっているとは言えると思う。

【問】

二点伺いたい。一点目は、今日の朝刊にIMFのクルーガー副専務理事が、日銀に対してインフレ・ターゲットの導入と外債の購入を求める旨の記事が掲載されていたことに関するものである。元々、日銀に限らず金融政策の対象として外債を買うことに対しては、例えばIMF協定の4条などに為替を意図的に誘導するようなことはしてはいけないとあることから、IMF協定に違反するため国際的にも許されないのではないか、といった反対意見が日本国内で非常に強い訳である。そのIMFの幹部自らが日銀に対して外債を買ってはどうかと言ってきたことについてどのようにお考えか。

もう一点は、4月、5月と日銀当預残高を連続して引き上げ、福井総裁就任後2か月で10兆円程度増やしてきた訳だが、通常、政策は、それを終わらせることも考えた上で行われていると考えられる以上、量的緩和の出口政策はどのようにイメージされているのか。換言すれば、ここまで日銀当預残高を増やしてきて、量的緩和を止めるという時にスムーズにこれを終わらせることが可能かどうか、ということまで考えた上で日銀当預を増やすといった選択を続けているのかどうか伺いたい。

【答】

  1. まず、第1点目に関しては、為替介入、外債購入というのは、ご指摘のとおりIMF協定の4条に違反するということもあるが、1973年3月の変動為替相場への移行以来、為替のモニタリングとか、いろいろなサーベイランスを通じて、出来るだけマーケットベースで行うという体制が続いているので、一国の都合だけで介入を行うというのは大変難しい。IMFの幹部がそういう議論をされるのは、金融政策として言われるのであれば少し変だと私は思うし、為替政策としてであれば財務省の所管マターであり、金融政策の立場から云々というのは筋違いのように思っている。量的緩和政策を手形オペだけでも出来るという時に外債を購入するということになると、これはやはり為替政策の範疇に入る問題だと思う。従って、これは財務省の所管なので、私がここでこうあるべきだと言うべき立場にはない。金融政策の立場からいえば、まだまだ担保余力は十分にあるし、手形オペだけでも人によってはいわゆる「ブタ積み」じゃないかという批判を受ける程である。

  2. 第2点目に関しては、量的緩和によって、金融機関のトータルの負債に対する市場性資金のウエイトが低下しているとか、余剰預金比率のボラティリティーが上昇していること等を考えると、やはり金融システムに負荷がかかっているのが実情だと思う。手元の資金が余っているから金融がスムーズに回っている、あるいは資金繰りがスムーズに回っているとの判断はしない。昨年の4月1日以降、金融機関の全債務全額保護措置、要するにインターバンクの市場取引に対する政府保証が、昨年の4月以降撤廃された訳だが、これにより、銀行がそれぞれのリスクで市場取引を行うこととなり、株が下がった相手にはちょっと資金を出すのを見合わせようとか、セーブしようかとか、期間を短くしようかとか、多分そうした行動がこれまでにも何回もあった筈である。本年4月の始めにもそうした動きが一部にみられた。そうした中で、プリエンプティブ(予防的)に政策を発動すべきではないと言う人もいるが、金融政策面の対応が後手に回ると大変なエネルギーを必要とし、特に市場取引にはそういうところがあるので、私は、4月上旬の政策決定会合で、日銀当座預金の残高目標を「25兆円~30兆円」に引き上げた方が良いのではないかと提案した。しかし、その時は、既に公表されているとおり、1対8でリジェクトされた。

私は、いわゆるインフレ・ターゲットは、今やるべきではないと思っている。日銀は、量的緩和により消費者物価の前年比上昇率をゼロ以上に持っていくということを既に言っている訳である。それがゼロに到達しないうちにプラスになったときの議論を行うのはおかしい訳で、ゼロを安定的に達成すれば、その段階で金融政策のレビューということは当然行われると思う。そうしたことを踏まえると、今、エグジット・ポリシー(出口政策)を堂々と議論することについては私は反対である。アクセルとブレーキを一緒に踏んで一体どうするのか。前に進むのか、後ろに進むのか。もしインフレ・ターゲットを導入して引き締めまでも考えるような議論に迷い込んだら大変である。だから、粛粛と量的緩和を進めていく。私は、安定的に消費者物価の前年比上昇率をゼロ以上にまで持っていくという今のレジームが決まった後に日銀に入ったので、本当にこれで良いのか、少し甘すぎるのではないかと思うくらいであるが、今敢えて甘いとか辛いとか言うと、今やっていることを自己否定することになり、市場参加者の納得性が得られない。私は、インフレ・ターゲットをやるとか、出口政策を検討し始めたとなると順序立てがおかしくなってしまうと、非常に単純明快に割り切っている。

【問】

量的緩和を続けていくと、日銀のバランスシートの健全性や、自己資本の問題も出てくるかと思うが、どの程度まで日銀はそれらに配慮していくべきと考えているか。

【答】

昨年4月に日銀に入り、資産の構成が相当偏っていると感じた。しかも、その年の10月には株の買い取りを行う方針を決め、国債の買切り限度額も2千億円引き上げた。量的緩和は、先程申し上げたように、今のところ手形オペで十分可能な訳であり、手形の期間をマーケットのニーズに合わせたものにしていけば、マーケット・フレンドリーな形で手形オペが出来る。それを飛び越えて株や国債を買うよりも、中心は手形オペに置いた方が良い。手形オペは、3か月、6か月、あるいは9か月なり1年まで出来ることとなっているが、いろいろな期間で対応出来るため、もう資金供給は十分だとなれば、期日が到来した手形を落とせる訳である。いざとなった時、手形でオペが出来なくなった時に国債を持つのも止むを得ないが、手形で十分に対応出来るのであれば、バランスシート管理上、手形をオペの対象とするのが中央銀行として望ましく、国民に対しても最終的にご心配をかけない方式だと思う。

【問】

福間委員の企業財務への造詣に基づいて、今議論されている資産担保証券市場の活性化以外に有効な手段があれば教えて頂きたい。

【答】

基調説明の中で米銀が失敗にどう学んだかということを申し上げたが、3L(ラ米危機<LDC>、米国不動産危機<LAND>、買収金融危機<LBO>)と呼ばれる過程を経て、彼らはバンカーとしてのビジネスモデルを変えた。デリバティブ、証券化、オフバランス化、あるいはインベストメントバンカー的な動きに変わり、出来るだけバランスシートをユーティライズ(利用)しない金融分野に活躍の場を広げた。私は、今回の資産担保証券の問題も、本来であればニーズがあるのだから自立的にマーケットが出来るのが望ましいと思う。しかし、今はそう言っても出来ていない訳なので、市中銀行と一緒に日銀がそうしたマーケットを作って、知恵を出して行くことが必要だと思う。それ以外に新しい方法があるかと言えば、先程も申し上げた不易流行ではないが、日本の中小企業金融がどう育ってきたかを振り返ると、もう一度手形の活用を考えても決しておかしな発想ではないと思っている。意外と近道がそんな所にあるのではないか。証券化する場合、あるいはノンリコース化する場合の道具立ては既に出来ている訳である。

【問】

先程懇談会の大まかな感想を伺ったが、具体的に今日の懇談会で参考になったこと、今後検討していきたいと感じられたことがあればご紹介頂きたい。

【答】

本日の基調説明の中でも申し上げたが、私は、マクロも重要であるが、ミクロの良い部分を拡大することが経済全体の復調に繋がると思っている。そうした動きを、図らずも鹿児島で感じたことは、私にとって非常に印象的であった。

具体的には、農業、観光、バイオ、循環型環境産業とか、エコビレッジ設立の動き等、自らの特性を活かして新たなビジネス・チャンスに繋げていこうとされており、非常に健全な発想だと思う。単に中央から何かを持ってくるというのではなく、鹿児島の自助自立の精神が活かされたやり方ではないかと思う。企業毎にみると、何百億円儲ける会社とか、何十億円儲ける会社というのは少ないかもしれないが、それが集積すれば──例えば焼酎産業のように──地域経済の活性化に繋がると思う。基調説明の中で「シュリンク・トウ・グロー」と言ったが、縮む時に縮むことは、ダウンサイジングが目的ではなくて、それはグロー、すなわち伸びるために必要なのであり、悪い所を直し、新しい時代に自分のサイズを合わせていくことが大切である。今日のお話を聞いて、出席された皆さんがそうしたやり方を実行されていると感じた。

【問】

先程、量的緩和を粛粛と進めるとか、就任した時から甘すぎると思っていたとか、今は自己否定しても納得してもらえないから割り切っている、と言われたが、講演内容をみると、量的緩和の効果として金融機関の資金繰り面での効果だけを挙げておられる。それ以外には量的緩和を進める上で何を目指そうとしておられるのか。

【答】

一つは物価である。消費者物価指数の前年比上昇率を安定的にゼロ・パーセント以上に持っていくということ。もう一つは、1997~98年の教訓である。あの時なぜあれだけのマイナス成長に落ちたのか、またクレジット・クランチに陥ったのかといえば、その原因ははっきりしており、流動性がなかったからである。流動性の供給を十分やっていれば、違った展開もあったのではないかと思う。過去の事なので、私は批判がましい事を言うつもりはないが、企業金融面からみれば、銀行に資金がない状態では貸出が出来ない。よく新聞等に「ブタ積みだ」、「手元はジャブジャブだ」と書かれるが、手元がジャブジャブなだけでは金は貸せない。なぜならばオーバードラフトがいつドローされるか分からないほか、コミットメントラインがいつ実行されるかも分からないため、そのための流動性が必要だからである。また、3か月、6か月、9か月、1年というものを転がしながらやっているタームローンもある訳である。今、ご承知のとおり、昨年4月1日からの変化をもう少し厳しくみなければいけないのは、市場性資金が非常に少ないということである。以前は企業が何兆円という大口定期をやっていた時期があった訳であるが、今はそういうものがないので銀行はマーケットから資金を取らなければいけない。ところが、マーケットでは信用リスクに加えて、期間リスクを取る人がいない。資金を持っている人は、短い資金しかないため、期間リスクがなかなか取れない。貸出を活発化するための資金ソースが非常に超短期であるということが、金融機関が貸出能力を落とし、企業金融が円滑化しない原因の一つであると思う。何も量的緩和が良い事だとは思わないが——もちろん自己責任で資金を取ってもらうことが一番良いのだが——こうあるべきだと言っても、現実は不良債権問題を抱え、格付が低い先に対して信用リスクを取りなさいと言っても、無理なものは無理であり、その結果、企業金融がシュリンクして景気の足を引っ張ってしまう。これは1997~98年に経験済みで、再び同じ過ちを起こしてはいけない。こうした観点から、今が量的緩和のピークですとは、今なお言わないし、これがピークだからもうやらないという訳ではなく、新しい事態が起これば機動的に対応する。クルーガーさんが何と言おうが、短資会社が何と言おうが、必要な物は必要ということである。それよりも根っこを直さなければいけない。だから、本日は、基調講演の中で、随分不良債権問題に触れさせて頂いた訳である。

以上