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政策委員会議長記者会見要旨(6月11日)

2003年6月12日
日本銀行

―平成15年6月11日(水)
午後2時15分から約50分

【議長】

今日は定例の政策決定会合だった。決定事項は2つある。1つは、次の政策決定会合に至るまでの金融政策運営のスタンス。これは現状維持である。従来と同様に調節をしていくということである。基本的な背景、情勢判断については、明日発表する金融経済月報でバックグラウンドをご確認頂きたい。一言で言えば、日本経済の動きについて、足許輸出の動きにやや弱さがみられるけれども、全体としては横這い圏内の動きを続けている。これが基本的な情勢認識である。従って、現在の当座預金残高目標は最高30兆円となっているが、これを維持しながら引き続き潤沢な流動性を市場に供給していく、という現状の政策スタンスを変えないということを決定した。

もう1つは、資産担保証券の市場をこれから発展させていきたいということで、それを促すための措置についてここ暫く検討を続けてきた。市場参加者の方々からも広くパブリック・コメントを頂き、大変有益な意見をたくさん頂戴した。それも織り込みながら、今日までかなりスピードを上げて具体化の検討を進めてきた。その結果、今日の政策決定会合において、資産担保証券を日銀が買入れるということについて、骨子を取りまとめ、7月末までに買入れを実施する方向で所要の準備を進めるということを決めた次第である。

背景となる考え方は、既に何回か申し上げているが、この先、日本の金融市場の将来の姿を考えると、非常に重要だと思われる資産担保証券の市場は、現在揺籃期にあるというか、まだ発展段階として非常に未熟な段階にある。ただ、潜在的なニーズは非常に強い市場だということが、今回のパブリック・コメントでも十分確認されている。こうした中において、日本銀行が何らかのかたちでこの市場に上手く関与することによって、今後、市場の自己回転的な発展を促していきたいと考えた。

現在、この市場の発展がまだ初期の段階にある最大の理由は、1つは日本の金融市場全体として、リスクに見合った金利を付けるというプラクティスやそのメカニズムが十分確立していないということが非常に大きな背景としてある。また、この市場自身についても様々なインフラが未整備だということもあると思う。今後、この市場の自己回転的な発展を促すための糸口として、日本銀行がどのような関与の仕方をすれば良いか、その点に絞って検討してきたわけである。

日本銀行が関与する場合、最も注意しなければならないのは、市場の価格形成機能を歪めることがあってはならないということである。つまり、市場の健全な発展を促したいということであるから、日本銀行が下手に入ることによって、市場の価格形成機能を歪めるようなことがあれば、逆効果だということになる。その点に最大限の配慮をして今回の骨子をまとめるに至った。

お手許に「資産担保証券の買入れとその考え方について」の本文とともに、別添のかたちで「資産担保証券買入スキームの骨子」を配布している。これをご覧頂くと、骨子は、買入対象資産、買入方式、買入限度額の3つに分けて書かれている。

買入対象資産については、資産担保債券、シンセティック型債券、資産担保CPの3つとなっている。資産担保CPについては、既にある程度市場が発達している。資産担保債券とシンセティック型債券については、市場の発展のかなり初期段階にあるため、この市場における価格形成機能を阻害しないで日本銀行が関与していくという趣旨から、公募債に限って、我々は買入対象にしていくという配慮を加えている。

適格基準については、日本銀行の買入れ措置であり、日本の市場における日本銀行の一種のオペレーションであるので、円建てであること、国内で発行または振り出しが行われること、準拠法が日本法であること、といった条件を付けている。

資産担保証券の裏付資産のところは非常に重要である。骨子の最初のところに書いてある通り、裏付資産の種類は、売掛債権および金融機関の貸付債権を当初想定していたが、パブリック・コメントを頂戴しているうちに、やはりより広く対象にすることが適当だと考えるに至り、中堅・中小企業金融の円滑化に資すると認められるものを幅広く対象としていくこととした。つまり、リース債権等も含めて、範囲を広く取っていくということにしたのが、今回の1つの特徴である。

次に、裏付資産に占める中堅・中小企業関連の資産の割合を、金額ベースで5割以上にするということで、中堅・中小企業の金融の円滑化という趣旨を明確にしている。金融機関の貸付債権については、いわゆる債務者の信用度が正常先に分類されているものにする、といった要件を定めた。

また、資産担保証券の信用度に関する要件は、資産担保債券およびシンセティック型債券については、1つの格付機関ではなく、複数の格付機関から、最低BB格相当以上の格付けを取得していることとしているが、逆に言うと、日本銀行としては、この点かなり思い切って信用度の低いBB格というところまで踏み入れるということである。償還までの期間が3年以内であること。それから、シンセティック型債券というのは、原債権の移転を伴わずにリスクを移転する取引であり、そのリスクに対応する債券を発行して取引対象にしていくということであるから、発行代わり金というものをどこかに置かなければならないわけである。発行代わり金としては、日本銀行が適当と認める資産のかたち──例えば国債等──で置いて欲しい、という条件を付けることにした。

一方、資産担保CPのほうについては、既にマーケットがある程度大きくなってきている状況のもとで、これについては、複数の格付機関からa−1格相当の格付けを得ていること。日本銀行が買入れる場合には、償還までの期間が1年以内──これはCPなので、期間が比較的短い──であること。それから担保について、先般、フルサポート型のものも適格ということにしたが、同様に、取引金融機関のフルサポート型のものについては買入れ対象とするということである。

買入方式については、資産担保債券とシンセティック型債券については、公募債であるので、一般に募集が行われることになるが、募集期間が終了した後で、日本銀行が対象先金融機関からの売却申込みを受けて、公募時の募集価格をベースに売却希望金額を買入れる方式を取ることにしている。これは、価格形成に対して日本銀行が中立的に対処するというやり方を取るという意味である。一方、資産担保CPについては、既にマーケットができているので、金利入札によるオペレーション方式で買入れる。

全体の買入限度額については、当面残高ベースで1兆円とする。市場の発展を促していくという観点と日本銀行の自己資本に及ぼす影響を十分考えて、1兆円という目途を置いた。それに加えて、個別銘柄ごとの買入限度額は、資産担保債券とシンセティック型債券については、個別銘柄のトランシェごとの発行総額の5割を限度に日本銀行が買入れる。つまり、5割を上回って日本銀行が買入れる場合は、健全な市場を作っていくという観点から、公的関与のウエイトが高くなり過ぎるほか、価格形成についても問題が生じかねないということを考慮した。

最後に、「その他」にあるように、このスキーム全体の買入期間は、2005年度末までであり、時限的措置であることを明確にしている。市場は自己回転的に発展してもらいたいということであるので、日本銀行によるこうした特別の関与というものが長くなってはならないということを明確に示している。

【問】

買入限度額はなぜ1兆円になったのか。もう少し詳しく伺いたい。

【答】

機械的に算出できるものではない。本来ならば、格別買入限度額という目途を設けなくても良い性格のものかもしれないと思っている。あくまで市場の健全な発展を着実に促していくということであり──特にBB格のABSということになると、殆ど市場ができていないものからスタートするわけであり──、今後の発展度合いをみながら、自然に日本銀行の買入残高も増えていくだろうと思っている。

繰り返しになるが、1兆円という買入限度額は機械的に計算し得るものではないが、市場関係者からみても、やはりある種の方向性を持っていたほうが市場の発展を促しやすいということがある一方で、日本銀行としても無限に買えるわけではなく、自己資本との関係で明確な限度もあるというわけである。

今後、日本銀行としては、スーパーシニアであれ、信用度の低いBBであれ、バランス良く市場が育って欲しいと思っている。また、日本銀行の買入れも、市場の自然な発展を反映するかたちで、残高が増加していくことを期待するが、何か月先に何千億円になるのかは、今のところ予想できない。市場参加者と協力しながら作っていく過程で段々みえてくると思う。今、お示ししている1兆円というのは、そういった意味で、取りあえず、そういうところに置いてみたということである。

【問】

ABCPについて、ある程度市場が発展しているということであるが、今、ABCPの市場規模はどの程度と総裁は認識しておられるのか。

【答】

6兆円程度だったかと思う。

【白川理事】

今、ABCPは発行枠ベースでは20兆円程度、発行残高では6~7兆円である。

【問】

先程、裏付資産のところで、「売掛債権と貸付債権に限定せずリース債権等も」とおっしゃったが、もう少し幅広くという場合、リース債権以外にどんなものを想定しているのか。

【答】

後程白川理事が詳細についてレクを行うが、かなり広範囲の債権を考えている。

【白川理事】

これから細目を詰めていくが、例えば、リース料債権であるとか、クレジット債権といったものが考えられる。今回概要をお示しするので、その点を含めて、またこれからいろいろなコメントを頂きながら考えていく。

【問】

買入れ期間を約3年間にしたということは、この間に資産担保証券市場が順調に発展して、1兆円くらいの規模になる見込みがあるということなのか。

【答】

市場の残高とか増加額とか、金額的なことはあまり意識して頂かないほうが良いと思う。市場全体が発展していくひとつのリズム感みたいなもの──つまり市場の流動性が増し、市場参加者が増え、取引が増え、従ってまた流動性が増えるという認識——が生まれ、市場の中に好循環が始まれば——たとえ、その段階で市場の規模が非常に小さくても——、日本銀行としてはもう関与しなくて良いという判断もできるわけである。つまり、市場の中でいかにリズム感が生まれるかということが最も大切な点で、とりあえず2005年度末までには好循環を生み出したい、それだけの努力は払いたい。達成可能かどうかは、全くわからないが、そういった努力をしていきたい。従って、市場残高が目途となるということではない。日本銀行がどんどん買うことによって、単純に残高が増えるということは、市場の発展にとって、それだけではあまり意味がないことである。

【問】

今回の施策の元々の発想は、資金の目詰まり解消、すなわち中堅・中小企業まで緩和効果を波及させるというものだったと思う。ただ、これまでの資産担保証券市場のリスク・スプレッドや、中堅・中小企業のローン・スプレッドは、ある意味で、本来のマーケットのスプレッドよりはかなり低いケースも多かったと思う。それがある意味で適正な価格になると、中堅・中小企業向けローン市場で、今までよりスプレッドが上がっていくという面もあるのではないか。そもそも、資金を供給することが第一の目的であるので、あまり利ざやのことについては考えなくて良いのかもしれないが、そういった点についてはどうお考えか。

【答】

金利の水準とかスプレッドが適正でなければ、金融のパイプが太くなったり、市場取引が増えたりといったかたちでの金融の円滑化が進まない。つまり金利水準とかスプレッドというものは、金融が円滑化するというか、金融取引が円滑に進む際の媒介として決まるものである。市場の動きを無視して、単に金利の水準が高いとか低いとか、あるいはスプレッドが厚いとか薄いとかと言うことは、今後の金融市場の姿、企業金融の姿、あるいは金融緩和が浸透する姿ということと無関係に論じていることになる。従って、資産担保証券市場が発達すれば──そのこと自身がいろいろなかたちのリスクの度合いに見合った企業金融を円滑化させるという効果があるほかに──、より広くリスクを反映した貸出金利、債券利回りの決まり方というものが、一般的に促される可能性がある。ということになると、将来の日本では、それだけ金融が円滑に進む度合いがより広く、より深くなるということにつながる。さらに、将来の全体像として捉えた場合には、単に銀行貸出というルートだけでなく、いわゆる企業や投資家の金融ニーズに適応した市場型間接金融の広がりを持った姿に通じていくということで、パースペクティブ(展望)としてはかなり広いものを持っているということである。従って、スプレッドが小さいとか、金利が低いと言っても、それで金融が動かないと企業にとっては何の役にも立たない。その点をご理解頂きたいと思う。

【問】

買入れ限度額は1兆円ということであるが、格付けの低いものも対象にするということで、財務の健全性の観点から、特別な引当金の計上など、引当に関して何か特別なお考えはあるのか。

【答】

当面1兆円ということであり、無理やり買入れ額を低く抑えるという気持ちは全くない。ほとんどゼロに近い市場をこれから伸ばしていこうということだから、とりあえず総体で1兆円という目途により、今後の市場の発展の中で、我々はたっぷり余裕を持って、必要なだけ買入れ額を増やしていけるのではないかと、そういう感じがしている。そうかといって無制限にどんどん買うわけではない。そういう意味で、現在の自己資本の厚みとの関係は、ある距離感を持って意識している。

大事なことは、具体的に買入れるABCPなりABSについて、そのリスク評価をきちんとすること、そしてリスク管理をきちんとすること、そして買入れ価格の決定であり、そのプライス、レートの中にリスク度がきちんと反映されれば、ご指摘のような問題は、本来、それで解消できるものだと思う。

しかし今申し上げた通り、日本の市場ではリスクに見合った金利がきちんと設定されている状況からスタートするのではないわけだから、今後我々が買入れる価格が、買入れるもののリスク度にきちんと見合った、つまりリスク・プレミアムがきちんと織り込まれた金利とか価格になっているかどうかについては、疑問がある。リスクが現実化した時に、補填措置という意味で、おっしゃったような引当という措置が必要であるかどうかは、非常に具体的な今後の詰めの問題として残っている。ただ、原則としては、市場価格に反映されるはずだと思う。

【問】

裏付資産の要件に関して伺いたいが、例えば中堅・中小企業で資金需要の大きいところは、例えば本業では儲かってはいるけれども、過去の財テクの失敗であるとか、それによる過剰債務といったことを背景に、資金繰りが回っていない先が多いのではないかと思う。そういうところは、おそらく金融検査マニュアルに定めるところの分類でいくと、正常先にはなり得ないのではないかと思う。そうであるとすると、一番お金を必要としているところにお金が回っていかないということが危惧されると思う。この点については、どのようにお考えか。

【答】

一件一件の銀行貸出をどのように円滑化するかということと、こういった資産担保証券を使って金融を円滑化するということとは、二重写しになっている部分と、完全には二重写しになりきれない部分とがある。完全に二重写しになりきれない部分というのは、やはり取引先金融機関と当該企業とが──中小企業といえども──、将来に向かってビジネスの姿をある程度は再構成しながら──つまり過去の過剰投資については、ある程度整理をしながら、そして収益性のある部分のビジネスによりウエイトをかけながらという、ビジネスの再編成を伴いながら──、借入れをより容易に受けられるようにする必要があるということだ。また、場合によっては、その企業について、こういった流動化債権の対象に、適格性を得られるところまで、ビジネスの姿を変えていくという努力が必要になってくるということだと思う。つまり自分の身を調整していって、どういうかたちで適応していけば良いかという対象の範囲が広がり、より正確にリスクのアセスメントを受けられることができるようになると、こうした措置は、十分に役立っていくのではないかと思う。

【問】

今回の骨子決定の賛否を教えて欲しい。もし反対があれば主な理由も教えて欲しい。

【答】

全員一致である。

【問】

この買入れはおそらく普通のオペのように定例的にやるものではないのだろうが、大体どのくらいの頻度で買入れを行うことを想定しているのか。

【答】

頻度については予測がつかない。この買入れは、おっしゃる通り、日々の金融市場の資金過不足の調整のために、従来から行っている通常のオペレーションの概念からは少しずれている。特にABSについては、個々に組成されていくわけで、組成され、公募され、公募が終わって公募価格をベースに日本銀行が買入れていくということなので、市場の動きに応じて買っていくということである。だから資金過不足に合わせて能動的にこちらが買うというよりは、かなり受動的な対応になっていくという違いはある。

【問】

今回日銀がこういう取り組みをすることについては、市場価格形成機能を歪めるのではないかという観点から、パブリック・コメントの中で、こういったことに対しては反対というか、止めたほうが良いといった意見はなかったのか。

【答】

もちろん、そこを十分注意して欲しいという点では、皆さん共通だと思う。現在でも投資家がある程度市場に入っている部分がある。そういった部分については、日本銀行が余計な入り方をすると、かえって市場価格の形成を歪めるかもしれない。でも投資家層が非常に薄いとか、投資家の参入がほとんど見られないような領域については、やはり口火をつけるということの意味があるとおっしゃって下さる方が非常に多い。そういう意味では、その両者を併せてみると、市場がきちんと動いているところに余計な邪魔をするな、しかし、市場がまだきちんと動いていないところには良い口火をつけて欲しいと、多くの方の意見はそういうふうにまとめられるのではないかと我々は理解している。

【問】

今お話を伺う限り、今回の措置は、中小企業金融の円滑化に資するのにやや時間がかかるのではないか、即効薬ではないのではないかという感じがする。その一方で、多くの中小企業には、まさに足下、日々の経営の中で、金融の目詰まりを一日でも早く解消して欲しいというニーズが強いと思う。そういう意味で、今回は新たな道具立てとしての意味があるかとは思うが、これ以外に金融の目詰まりを解消する手立てというのは今後いろいろ考えていかれるのか。

【答】

我々は今後とも企業金融円滑化のために有効だと思える措置を見出して、できるだけ具体化していきたいと考えており、これで終わりと考えているわけではない。一方、我々は、この買入れは即効性がないとか、小さなものにとどまるとも考えていない。将来につながる非常に大きな措置であると考えており、またそうしなければならない。

市場型の金融のパイプを太くしていくということを通じて、本当にリスクに見合った金利がきちんと付く市場というものになっていく。日本の全ての企業──大企業、中小企業を問わず──も将来、──従来のような商売でなくて──本当にリスクをとって仕事をしていく世界に入っていくわけなので、リスクに見合った水準以下の金利でファイナンスを受けたいという先は、時間の経過とともにどんどん減っていくと思う。本当に自分の背負っているリスクを正しく評価して金利を付けて欲しい、という世界に急速に変わっていくと思うので、その姿に合致したものを今から用意したいということである。

従って、パースペクティブは非常に大きい。出発点はゼロからスタートしているわけであるから、そこだけ見ていると、おっしゃる通り、なんだこんなことかということになるかもしれないが、将来へのつながりという点では、我々はこん身の力を込めてこれに取り組んでいきたいと思っている。

【問】

ABS市場の3年間という時限措置についてであるが、3年後にはどのくらいのマーケット規模になっていると想定しているのか。また、とりあえず1兆円の買入れということであるが、これを増やすとなれば、自己資本の水準や財務の健全性も問題になってくると思うが、どういうかたちで自己資本の見直しを行っていくのか。

【答】

繰り返し、かつ強調して申し上げるが、1兆円という数字にこだわらないで頂きたい。買入れ残高の大きさにもこだわらないで頂きたい。これはもう10回くらい繰り返しても良いくらいである。

要するに、市場の機能というものを上手く引き出していくというところに眼目があり、その機能が活きていないのに、無理に残高だけを積み上げるというのは我々の仕事ではない。ここを是非明確に理解しておいて頂きたいと思う。今後我々が市場参加者と良いマーケットを作っていくという場合に、単に数字に引きずられるといった意識の人は、その協力作業の中に1人も入って頂きたくない。そこが非常に重要な点である。だから残高は意識しないということである。

【問】

政府系金融機関、特に政策投資銀行との信用補完面での協力という場合、どういった関係を想定しているのか。例えば日銀がメザニン債以上を買って、政策投資銀行のほうでエクイティを買うというような関係なのか。

【答】

ある一定のパターン化した役割分担というものは、今のところ想定していない。強いて言えば、政策投資銀行を含めた政府系金融機関も日本銀行も、ある意味で公的機関であるので、公的機関という共通項でくくれば、先程申し上げた通り、市場の自己回転的な発展を助ける立場にはあるが主役ではない、というアプローチがどうしても必要だ。従って、政府系金融機関も日本銀行も価格機能を阻害しないかたちで市場に入るという点では共通なのではないか。

では、公的機関の中で、日本銀行と政府系金融機関との役割分担はと言うと、そこはまだ十分詰めていないし、これから詰めていかなければならない点だと思う。強いて言えば、その中ではより早期に市場から身を引くのは日本銀行ではないかと思っている。つまり、政府系金融機関も、ある段階で役割を終えるかもしれないが、日本銀行よりは長い間、民間では無理な部分のリスクを取り続けるという役割があっても良いかもしれない。このような時間の長さの違いが出てくるかもしれないとは思うが、何せゼロからのスタートみたいなところがあるので、今のところはわからない。

むしろ、今おっしゃった政策投資銀行などは、現段階では、民間に先駆けてノウハウを築いている面もある。政策投資銀行がやや先行して動いておられるような部分については、民間の市場参加者とノウハウの交換などを行えば、初期の段階では非常に意味のある動きになるかもしれないと思う。

やはり、それぞれの持っている機能と制約とを一回きちんと照らし合わせてみないと、役割分担が明確に決まってこない気はするが、大別すれば公的機関は主役ではない──あくまで市場発展のための補完機能を持つに過ぎない──。その中でも、日本銀行は例外的に入っていくわけであるから、市場が上手く発展していく目途がつけば、最初に身を引くのは日本銀行ではないかと思う。

【問】

4月7、8日の決定会合で本件が提案された時に、政策委員からいくつか慎重意見も出たということが議事要旨に書いてあったが、その中でもリスク資産を買うことについては結構慎重な意見も出ていたようである。4月の決定会合の流れだと、本日も慎重意見がある程度出たとしても不思議ではないと思うが、そこをどういう議論で皆を納得させて、全会一致の決定となったのか教えて頂きたい。

【答】

議事の中身は議事要旨公表というかたちでいずれ明らかになるので、その前に私があまり立ち入って本日の議論の中身を申し上げることはできない。しかし、確かに4月の会合では反対意見があり、今回は満場一致だったわけで、そのつながりはどうかということは重要な点だと思う。もちろん、本日も、日本銀行がBB格という信用度合いのところまで買入れ対象にするということについては、4月の会合と同様に慎重意見があったと思う。

しかし、4月の会合以降今日に至るまでの骨子作成過程において、その問題に対して慎重な配慮を加えながら、1つの具体策を作り上げてきたということが1つある。それから、マーケットをこういうかたちで作っていくことの重要性についての認識が──前回反対された方について言っているわけではなくて、すべての政策決定会合参加者が──、最初に決定会合で議論した段階よりも一段と──あるいは格段と──強まった。おそらくこの2つの理由から、4月の会合で反対された方も今回は賛成に転じたということではないかと、私は議長をしながら感じた。

【問】

市場の芽を育てるというご趣旨——配布資料にも書いてあるように、債権譲渡に関するインフラの未整備とか、政府の対応の遅れとか、そういうものが念頭にあるのだと思うが——は良くわかるのだが、日銀が自ら関与されることに合わせて、政府に対しての要望——例えばインフラ整備に向けた取り組みとか——があれば教えて頂きたい。

【答】

インフラ整備という点については、政府に対して何か言うというよりも、市場が動き出せば自然に進んでいく場合が多い。我々が何としても市場をまず動かしたいという発想をもっている理由もそこにある。

こうしたマーケットの中に必要なインフラとして重要なものはいろいろある。例えば、我々はBB格のものも含まれたメザニン部分を買おうとしているが、そこには一般の投資家は十分入ってきていない。その理由は、投資のパフォーマンスを評価するデータが市場に十分蓄積されていない——マーケットが動いていないのだから蓄積もされない——ことである。しかし、市場が動いていけば、そうしたパフォーマンスを評価するデータは自然に蓄積されていく。マーケットが動き、次第に大きくなる中で——非常に多くの投資家が集まりコアを形成してくると——、プール化した関連資産のリスク分析の手法が確立され、発展する。こうした動き自体が非常に重要な市場のインフラである。

また、情報開示のベンチマークの確立も重要である。投資家が自分のポートフォリオを組もうとする時に、こうしたものがベンチマーク指標の中に入ってきているか否かでは随分違ってくる。こうした一番大事な市場インフラ——市場の中から自然にでき上がってくるインフラ——というものは、マーケットを動かしながらでなければできない。

このほかにも、政府もマーケット関連の税制——例えば手形債権というようなことを意識するのであれば印紙税の扱いなど——については、一段と注目して頂けるようになるのではないか。ある時期からは是非税制に注目して、マーケットの発展をより促すような方向で一通り整備して欲しいと思う。

政府系金融機関と私どもとの間では、今後具体的に話し合えば共通意見を見出しうる範囲は広いと思う。両者の間で意見対立を起こしそうな要素はあまり予見できないと思っている。

【問】

パブリック・コメントをみると、投資家からの要望としては、BBクラスなどの下位のメザニンについての買取りの要望が強いということだが、先程おっしゃったように、このオペはかなり受動的な性格を持つものだとすれば、実際には下位のメザニン、つまりBBクラスを中心に買取っていくことになるのか。

【答】

それは実際に動いてみないと何とも言えないと思う。シンセティックのスーパーシニアといったところについても、常時組成されているものではない──非常に大きく組成されたり、途切れたりするかもしれない──。やはり、組成されるABSのその時々の性格によって、日本銀行の買取りに対して違った期待が出てくるのだろうと思う。従って、ある期間実績を作ってみないと、最終的に我々自身のポートフォリオの中身がどのように構成されていくのか、今のところはわからない。

我々は、投資家の参入度合いが現在は一番低いBB格のところを、ある程度意図的にピック・アップしていくのが良いのではないかと思ってはいるが、そこに非常に大きなウエイトがかかるかどうかは、今後の市場の動き次第だと思う。市場というものは、動き出したら自己回転的に動いていくので、流動性が出てくれば、投資家というものは、すべての信用度合いのところを取るものだ──あるところだけを取り、あるところだけを見捨てるということは、投資家全体でみた場合のポートフォリオのバランスに歪みを生じさせることになるので、普通はない──。従って、いつまでも日本銀行だけが買い続けるということは多分ない。もしそういうことになれば、市場作りに成功していないということになるので、根本的に考え直さなければならないかもしれない。

【問】

我々は、投資家の参入度合いが現在は一番低いBB格のところを、ある程度意図的にピック・アップしていくのが良いのではないかと思ってはいるが、そこに非常に大きなウエイトがかかるかどうかは、今後の市場の動き次第だと思う。市場というものは、動き出したら自己回転的に動いていくので、流動性が出てくれば、投資家というものは、すべての信用度合いのところを取るものだ──あるところだけを取り、あるところだけを見捨てるということは、投資家全体でみた場合のポートフォリオのバランスに歪みを生じさせることになるので、普通はない──。従って、いつまでも日本銀行だけが買い続けるということは多分ない。もしそういうことになれば、市場作りに成功していないということになるので、根本的に考え直さなければならないかもしれない。

【答】

そこまでいくと本物だと思う。セカンダリー市場が発展するくらいまでいけば、日本銀行があえてこの市場に入らなくても良いのではないかと思う。 パブリック・コメントの中に、「買うことばかり考えずに、売ることも考えたらどうか」との大変貴重な意見も含まれていたが、売るということは、セカンダリー市場ができ始めているということだ。だから、日本銀行はまずプライマリーで買う、そしてセカンダリーで売るチャンスをいずれ将来に考える。さらにセカンダリーで買う必要があるのか、ということについては、少しクエスチョナブル(疑問)だが──将来に、どういう目的で買うのかということが問題になってくるが──、少なくともそこまでいけば、我々としては大成功だと思っている。

【問】

裏付資産としては、売掛債権や貸付債権のほかにも、今後ラインナップが出てきそうだということだが、配布資料では、売掛債権についてはまだいろいろな障害やクリアしなければならない部分があるとしている。従って、7月末目途のスタート段階では、基本的に貸付債権を裏付けとした資産担保証券を中心にこの制度が始まるという理解で良いか。

【答】

我々としては、範囲を広げて行う以上は、なるべくいろいろなものを現実に買入れ対象にしたいと思っているが、最初の段階でそのようにバラエティーに富んだかたちで始められるかどうかはよくわからない。売掛債権については、おっしゃる通り、債権の移転そのものについていろいろ慣行的にも制約がある──あるいは制約する意識のようなものが残っている──ので、ここが非常に大きな障害となって、大型の買入れから始まるということにはならないかもしれない。

しかし、我々が対象とするものについては、できればすべて、時の経過とともに、そのバリアが一つずつなくなっていくようなかたちに是非していきたい。従って、何回も申し上げている通り、買入れ残高を増やすことが目的ではない。このように市場作りを始めて、ネックのあるところを全部潰していくということが我々の仕事であり、ネックを避けて買いやすいところだけを買い続けるということを、我々は決して狙っていない。

これから、目詰まりになっているところを解きほぐしていくために、かなり厳しいところまであえて足を踏み入れていこうということなので、残高を増やしても意味はない。そうではなくて、市場の発展の妨げになっているところを全部発見して、我々が──あるいは市場参加者とも協力して──、解消できるところは解消していく。税金のように政府の力を借りなければならないところは、政府の力を借りる。日本銀行がもうそろそろ手を引いて良い段階になっても、政府系金融機関にはもう少しとどまって頂かなければならない場合には、とどまって頂くとか、いろいろなかたちで市場が上手くテイク・オフしていくような条件を作っていきたい──邪魔になっている要因を除いていきたい──、というところに主たる狙いがある。

以上