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総裁定例記者会見要旨(6月13日)

2003年6月16日
日本銀行

―平成15年6月13日(金)
午後3時から約40分

【問】

景気の見通しについて伺いたい。昨日発表された金融経済月報において、総合判断は横這いとされたが、「輸出にやや弱さがみられる」とか、一部気になる動きもある。総裁ご自身の今後の景気見通し如何。

【答】

今のところあまり大きな変化はないというのが率直な感じである。

一昨日の記者会見でも、「輸出にやや弱さがみられるけれども、全体として今のところ横這い圏内の動きが続いている」と申し上げた。前月の金融経済月報で、「先行きの不透明感の強まり」ということを指摘して、景気判断を心持ち下方修正したわけだが、今月の「輸出にやや弱さがみられる」といった動きは、前月指摘したリスク要因というか不確定要因のごく一部が顕現化したという受け止め方である。そういう意味では、前月から予想されていた範囲内で、状況が推移しているので、今月は情勢判断を変えていないということである。

そして、先行きに関しても、我々の標準的な見通し、つまり下期以降は海外の景気が緩やかに立ち上がるということを前提に、国内においても輸出・生産が再び持ち上がり、前向きの循環が働き始めるであろうという基本シナリオを、今のところは変えていないということである。その好循環に持っていくための前段階として、金融市場の安定確保ということは、我々にとって大変重要な任務であるので、そこには十分手を打って対応してきている。

りそなの問題等もあったが、金融面では不安感を増幅させることなく推移してきていると我々は考えている。決して今後について楽観しているわけでも、何かを決め込んでいるわけでもない。不透明要因も非常に多いわけであるから、引き続きいろいろな動きに十分注意をしながら見ていくという姿勢に変わりはないが、今のところ我々の基本シナリオは変えていない。

【問】

先日の総裁の講演で、「今の量的緩和にジレンマを感じている」というようなくだりがあったが、改めて当座預金残高目標の引上げ──特に予防的引上げに対しては、一部に批判的な声もあるようだが──、量的緩和の効果について説明して頂きたい。

【答】

予防的引上げとおっしゃったが、金融政策の基本姿勢以上にことさら前のめりに何かをやっているというつもりは全くない。金融政策は、物価が上がる時も下がる時も基本的には先々の状況判断をしっかり行って、いわば自分たちの先行きに対する情勢判断に自信が持てる範囲内において、それにきちんと対応していくという意味で、前取り的な姿勢が常に必要である。私の就任以来の金融政策についても、そういった非常にオーソドックスな姿勢を変えているつもりはない。

私の就任以前の段階でも、量的緩和措置が広く深くとられてきたうえ、さらにそれを引き継いで、そうしたステップを前に進めたということであるので、量的緩和の度合いが相当深まっているとは思う。金融の現象というのは、常に表と裏の両方があるというとおかしいが、必ず何がしかの副作用を伴う。特に量的緩和の著しい進展のもとでは、短期の金融市場の機能が低下するという副作用を伴うわけであるし、長めの金利についても下がり過ぎではないかという議論が出るくらいになっている。従って、狙っている効果とそれに対する副作用──副作用という言葉は少し適当ではないかもしれないけれども──の両方を常に考えていかなければならない。我々は今のところ、狙っている効果との比較考量において、やはり効果のほうが勝っていると確信を持って政策を進めている。しかしこの点についても、副作用についてタカをくくっているわけでは決してない。そこはそこで手を打つ余地があるのであれば、十分打っていきたいということであるが、そこは大変難しくて重要な課題でもある。1つは何と言っても、金融システムの早期健全化ということが最も要になる対応であり──従来から取り組んできている難しい課題であるが──、引き続き取り組んでいかなければならない。それに加えて、毎回申し上げている通り、我々自身としては、金融緩和効果の波及メカニズム強化という点についても、しっかり努力していきたい。現に、一昨日ご報告申し上げた通り、資産担保証券の買入れ措置に踏み切ろうとしており、今後とも適当な対応策があればさらに検討していきたいと思っている。

【問】

りそな銀行に対する公的資金の注入を機に、改めて大手行の資本構造に疑いの目──繰り延べ税金資産の過大計上があるのではないかなど──が向けられており、次の決算期末に向けて金融システム不安が高まるのではないかとの懸念もある。こうした点を踏まえて、現状の金融システムの安定性に対する総裁の評価を伺いたい。

【答】

先程、金融システムの健全化をさらに進めていかなければならないと申し上げたが、裏返してみれば引き続き課題が多いということを申し上げたに等しい。課題が多いということは、金融システムの基盤のところで引き続き厳しい状況が続いている、ということを申し上げていることになると思う。

実際のところ、不良債権問題の処理を進めれば進めるほど──不良債権問題の処理はできる限り早く進めてもらいたいが──、自己資本との関係が問題になる。また、かねてから申し上げている通り、日本の金融機関の場合には、株価変動リスクが経営に大きな影響を及ぼすので──現に、株価下落に伴う影響が銀行決算にも強く出ている状況である──、そこも早く改善してもらいたい。おっしゃられた通り、将来に向かって、金融機関が財務面や経営面で健全性と競争力をしっかり築いていくためには、まず何よりもディスクロージャーを進めるとともに、資産、負債、資本すべての勘定について市場から過不足なくきちんと評価される必要がある。繰り延べ税金資産の問題についても、人々がこうした目で見るからこそ、評価の問題が厳正に行われる方向に変わってきているのであり、これまでの動向は厳しいけれども、それぞれ良い方向に向かっていることも間違いないと思う。

現在の状況は大変厳しいが、こうした努力を皆で力を合わせてやっている段階であり、ギブアップして動きが止まっている状況ではない。こうした努力が続けられている限り、金融システム全体の安定性が目の前でほころびを見せるという状況ではないと考えている。

【問】

りそな銀行に対する1兆9,600億円の公的資金注入が決まったが、実は債務超過だったのではないか、との疑いも度々指摘されている。総裁は、今回の注入についてどのように評価されているのか。

【答】

先程、日本の金融機関全体が抱える問題の内容について申し上げたが、りそな銀行については、より厳しい現状を抱えていたということではないかと思う。

りそな銀行の場合、不良債権処理に伴う信用コストが非常に大きくなったほか、保有株式の含み損についてもかなり踏み込んだ処理をした。加えて、繰り延べ税金資産の厳正な評価に伴い、繰り延べ税金資産をかなり大幅に取り崩すことになった。私は、これらはいずれも前向きな措置だと思っているが、それを実行した結果、当初想定されていた自己資本の水準がかなり下方修正されて、2%台前半まで低下する状況に至った。自己資本の水準が2%を少し超える程度にまで下がった状況をそのまま放置した場合、個別行の問題にとどまらずに、金融市場において予期せざる不安感が生じ、かつそれが一挙に増幅するリスクもあり得ると考えられ、それを未然に防止する観点から、今回のような措置──特に十分な額の公的資本の注入──がとられた。我々のほうでも、金融市場に対して万全の対応をとり、また、りそな銀行に対してはいつでも特別融資を行うという備えまでした。その結果として、これらの措置をマーケットに正しく評価して頂いたと思っている。金融市場は非常に落ち着いた状況で推移しているし、今のところ、りそな銀行に対して特別融資を実行する必要も感じないままに推移しており、今回の措置はマーケットからは正当な評価を得られているのではないかと考えている。

【問】

昨日、生保の予定利率引下げを認める保険業法の改正案が衆議院を通過したが、国民の理解が十分得られていないのではないかとの指摘もある。総裁は就任前に金融審議会でこの問題に深く関わっておられたが、国民の理解が現状得られているとお考えなのかどうかという判断も踏まえて、この法案に対する評価についてご説明頂きたい。

【答】

かつて金融審議会の第2部会の部会長を務めていた。その時に、予定利率の引下げの問題について、中間答申というかたちでレポートを提出させて頂いた。少し古い話をさせて頂くと、当時、第2部会のメンバーで真剣に議論した際の大前提として、すべての生命保険会社に対して一律に予定利率を引下げるということを政府が命ずる根拠を、法律上に与えるといったフレームワークを作ることは、憲法を始めとする今の日本の法律体系のもとではできないということがあった。そういう前提で、審議会で議論して欲しいということであった。

そのような前提のもとで、審議会で議論を行うということになると、当然、保険契約者の同意を得ることなく、一方的に予定利率の引下げをすることはできないので、如何にして保険契約者の同意を得ながら、必要な場合に予定利率の引下げを行えるような道を開き得るのか。開き得るとしても、開いておくことが適当なのかどうか。そういう非常にナローパスというか狭い道を探しあぐねての審議会であったと思う。

当時の審議会のメンバーの方々が持っておられる知恵をほとんどフルに絞って頂いて、漸く出した1つの結論が、あのような保険契約者の同意ということを大前提として、必要がある場合に──レアケースにはなるかもしれないが──、そういう道を用意し得るのではないか、というものであった。ある意味で、なかなか使い勝手が難しい道であるかもしれないが、それでもそういう道を用意しないよりは、用意しておいたほうが将来のことを考えると良いかもしれないということで、あのような答申を出させて頂いた経緯がある。

その時に、もう1つ重要なことは、ある特定の保険会社について、そうした狭い道を辿って、予定利率引下げという結論に到達するためには、保険契約者の納得を得なければいけないのであるから、保険会社それ自身が相当経営刷新の努力を行う必要がある。そして、その努力の姿について、きちんと保険契約者、あるいはより広くマーケットの信認が得られなければならない。つまり、自ら信認を得られるバックグラウンドを相当大きく形成しなければ、この法律というものはそう安易には使えない、という感じの答申の作り方にしたつもりである。

今回の法案は、あの時の答申に盛られたものの考え方の延長線上で、おそらく金融庁としても新たにいろいろ苦心をされながら、作り出された法案なのではないかと思う。私自身も、法案の中身に目を通して、やはりあの答申の延長線上で、さらにいろいろな苦心を重ねながら法案を出されたのだろうと思っている。

従って、この法律の条文が今後最終的に信認を得られる、あるいは実際にこの条文を使って何がしか物事が行われていくとすれば、先程も申し上げた通り、それを使っていく保険会社が自助努力で、自らの将来の経営に対する契約者やマーケットからの信認を確立していくという努力が前提となる。その段階で初めて、この措置も実際に有効に活用できる道が開け、最終的に法律があって良かった、というような信認を得られる。法律論として今議論されていることと、最終的に信認が得られるということとの間には、時間的な距離があり、その時間的な距離の間に、十分な努力が盛り込まれるということが前提となっている。そういった意味で、他の法律とは、信認をビルドアップする道が異なっているのではないかという気がする。

【問】

今、金融審議会でも予防的な公的資金注入についてかなり議論が詰まってきていると思う。一方では、予防的な公的資金注入について、今回りそなで行ったようなかたちでやれば良いのではないか、新しい法律は不要なのではないかという意見もあるかと思う。総裁のお考えはかねがね伺っているが、もう一度改めて予防的な公的資金注入についてのお考えをお聞かせ頂きたい。

【答】

金融システムに対する公的資金の注入について、私自身、そう軽軽に考えているわけでは決してない。繰り返し申し上げている通り、日本経済の将来に向かっての前向きの動き、人々の前向きの気持ち、そして経済の前向きの循環といった、良い心臓の鼓動を早く聞きたいのであれば、やはり、金融セクターもビジネス・セクターも、今、困難な問題に取組むばかりでなく、先行きの新しいビジネス・モデルの構築にも取組んでいかなければいけない。それぞれすべてが難しい問題ではあるけれども、そうした努力が早く行われ、その成果が早く上がれば上がるほど良いに決まっている。どんなに苦しくても、問題への取組みのスピードをさらに加速していくということが一番重要な点ではないかと思う。そのことと、公的資金を注入することとのコストというものを、やや動態的な視点から、我々日本国民の一人ひとりが考えていくべきではないか。

特定の銀行が問題含みとなり、しかも「信用秩序の維持に極めて重大な支障が生じるおそれがある」と認定されるに至った場合には、今の預金保険法が十分活用できる。りそなのケースが、活用できることを立証したということになるかと思う。

しかし、個々の銀行の状況が、破綻とまではいかなくても、破綻に近い距離感にあるところに至り、信用秩序の維持に極めて重大な支障が生じると皆が感じるところに至るまで、問題を処理しないでおくということが、本当に今後とも良いのか。もっと早い段階で、世の中の流れを切り返していくリズムを皆で作っていったほうが良いのか。この比較判断の問題である。

人によって、非常にご意見の差があるだろうと思うが、私はどちらかというと、将来の成長期待が、新しい経済社会の建設への希望に火を灯していくという意味では、やはり努力を前向きにどんどん加速していくことが生命線だと思っている人間の一人である。

何かの受け皿があって、そこに至れば大丈夫ではないかということだけで、本当に足りるのか。そういう道具はもちろん捨て去るわけにはいかないが、もっと人々の努力を前向きに加速するような道具を持ちながら前進するほうが、良い結果を生み、コストも小さくなるのではないか。

今回のりそなのケースについて、2兆円近い公的資金の投入が大き過ぎるのではないかと言う方もおられるが、大き過ぎるか小さ過ぎるかという議論がどれだけ生産的か。それよりも、もっと早い段階で処理して、投入額も小さくして、前進して、成果が上がる時間的距離を短くするほうが結果的にコストが小さいのではないか。私が、もう動態的にコストを計算する段階に入っているのではないか、と申し上げているのはそういう意味である。

バブルが崩壊して不良債権が一挙に目の前に現れて、いわば、コーナーに皆が追い詰められてなんとかこれを処理しなければならないという段階とは少し違って、もう前向きのリズム感を出せる状況になってきた──人によってはまだなっていないとおっしゃるかもしれないが──と私は思っている。それならば、その動きを加速する方向で処理をしたほうが、結果的にはコストが少なくて済むのではないか、という判断を持っている。そこは皆さんで大いに議論して頂きたい点である。

【問】

最近の長期金利の急低下について、総裁のお考えを伺いたい。

【答】

長期金利についても、先程申し上げた、量的緩和を広く深く進めていった時の1つの問題点としての側面を持っている。先程は、短期金融市場の機能が後退する——損なわれる——というような話をしたわけであるが、長期金利についても突っ込み過ぎではないかとの声がある。長期金利があまり突っ込み過ぎると、金融活動をして利ざやをあげていこうという人たちに対して、その道を封ずることになるのではないかとか、長期金利の下落にバブル的な要素を感じれば、そこでさらにいろいろな金融取引についても、バブルを加速する要因が予期せざるかたちで入ってくるのではないか、といった心配が出てくることは、私も理解できるところである。

しかし、現状がバブルだと申し上げているわけではない。現状は、やや長い目でみた日本経済の先行きに対する期待がまだ高まらずに——低い状況のままで——推移しているのだと私は思う。つまり、金融緩和状況がまだしばらく続きそうだという前提のもとで、マーケットの中において長期金利が形成され、それが時の経過とともに低い方向に向かってきている。特に、長期国債の金利水準が下がるだけではなくて、他の債券との信用利回りの格差であるスプレッドが縮まってきている現象などは、そういうことなのではないだろうか。

金融機関や機関投資家の一部では、こうした流れの中で期間収益を確保しようとの観点からも、長めの債券に対する投資を追加的に行おうとする動きが少し加速している。これが行き過ぎるとバブル的になるのかならないのか、ということなのだが、現在までのところ、私は日本経済の先行きに対する長期的な見方がまだ非常に慎重だということと、金利が下がってスプレッドが小さくなると、期間収益を上げるために投資行動が一段と急がれるという、この二重の現象が出ているのではないかと思っている。

【問】

長期国債の利回りが0.5%を下回る状況にあり、保有者の価格変動リスクが高まっていると思う。日銀、財務省には、できる限り価格変動を小さくする、あるいは、価格変動に伴うリスクをできるだけ小さくすることが期待されていると思うが、その点について、今何かお考えになっていることはあるのか。

【答】

まず、価格変動リスクに対して一番敏感なのは、実際そこに資金を投じておられる金融機関とか機関投資家、その他の長期債保有者だと思う。長期金利が継続的に下がっていて、スプレッドまで小さくなっていて、表面的には、マーケットの中で、皆先行きの金利変動リスクをまったく感じていないかのごとく見えるが、やはり実際には、市場参加者は、先行きの金利変動リスクというものを相当認識されながら行動しているのではないか、と私自身は感じている。

個々の投資家、特に金融機関の、長期国債その他長めの債券のポートフォリオへの組み込み方などを見ていると、非常に慎重な面がある。ポートフォリオの平均期間をなるべく短くしようとしている。持っている債券の平均期間が短ければ短いほど、先行きの金利変動リスクに対しては削減効果があるわけである。懸命にそうした努力をされながら、長期国債その他長めの債券の買入れをされていることからしても、金利変動リスクにまったく無感覚で、後は政府・日銀任せだという感じで投資をしているわけではないと思う。

しかし、特に国債について言えば、我々が今金融緩和を続けているのは、先行き経済を良くしようとしてのことであるし、経済が良くなってくれば当然、多かれ少なかれ金利は上がってくる。いわばそういう状況を早く実現するために、金融緩和を続けているようなものなので、金融緩和政策の仕上がりの過程では、金利の上昇に対して、金融政策としていかに上手く立ち向かっていくかが課題として残っているということは、おっしゃる通りだと思う。政府における国債のマネージメントの問題と、私どもの将来における金融政策の運営の問題とが表裏一体となっており、そうした大きな問題に対応していかなければならないということは、ご指摘の通りだと思っている。この点については、我々も早くから勉強していかなければならないと思っている。

先般の経済財政諮問会議でも、私はそういう見解を少し述べておいた。

【問】

日銀の資産担保証券買入れに対するパブリック・コメントには、保険会社も含めて金融機関が名を連ねていたが、今回決定されるに当たって、本件の狙いの中心対象とも言える中小企業サイドからは、日銀はどういう話を聞かれたのか。あるいは、今回特にそうした話を聞いていないとすれば、今後どのようにされるお考えか。

【答】

まず金融市場を作っていくという話であるので、金融市場の参加者を中心にパブリック・コメントを頂いた。中小企業からまったくご意見を頂戴しなかったわけではなく、ある程度間接的にご意見は吸収していると思うが、中小企業にとって市場の使い勝手が良いか悪いかは、これから実際に市場を動かしながら、その運営の中で見定めていかなければならない点だと思っている。我々にとっては、とりあえず市場を動かし始めるということが、当面の一番大事な仕事である。中小企業に本当に役立つ部分と、十分に役立たない部分とは、これから発見し、改善しながらやっていく。普通、マーケットを作る場合には、大体そういうプロセスを経るものだというふうに思って頂きたい。

昔の制度金融みたいに、マーケット抜きで、初めから枠組みだけで動かすようなものを設計する場合と、マーケット作りの場合とは、そこが非常に違っていると思って頂きたい。

【問】

今の資産担保証券の話に関連して、マーケットやメディアの評価はいろいろ分かれているように思う。私自身は、日銀がババ抜きのババを引かされるリスクがまだ大きいのではないかと思っているが、その辺について、総裁ご自身はどのように考えておられるのか。また、日銀自身がマーケットを作るというのは、理念としてはわかるが、本当に作れるのかどうか。

2点目の質問として、米国経済のデフレ・リスク──今はまだディスインフレとデフレとを使い分けているようだが──について──デフレに陥るリスクがあるように思われるが──、どのように考えておられるのか伺いたい。

【答】

マーケットを作っていくのは、あくまで市場それ自身──市場参加者それ自身──であって、日銀がマーケットを作るということは一言も申し上げたことはない。マーケットを作ることをお手伝いする、あるいは口火をつけるということであって、日銀が作ると思った途端にマーケットはできなくなると、我々は強く認識している。我々は、マーケットの機能を如何に歪めないで口火をつけることができるか、ということにポイントを絞って努力している。従って、日銀がマーケット作りをできる、というような思い上がった考えは、我々には全くない。我々がお手伝いすることによって、市場参加者による努力が前進しなければ、このプロジェクトは成功しないものだと我々は初めから思っている。

一方、さはさりながら、こうしたお手伝いをすることによって、我々がある程度のリスクを被る──現実に被る可能性がある──ということについては覚悟している。ただ、リスクを大きく被り過ぎて、我々自身がバランスシートに大きく穴を開けるようなことになってはならない。ここに、もう1つ大きな自己制約がある。そうした自己制約を意識しながら──つまり、リスクを通常よりも強めに取るが、リスクのアセスメントはできる限り厳密に行って、我々のバランスシートに基本的に穴を開けるということがない範囲内で──、やっていきたい。

我々は市場作りのお手伝いをするのであって、我々が市場を作るのだと思った途端に市場メカニズムを壊すから、これはしない。もう1つは、リスクは取るが、リスク・テイクの度合いについては、我々は非常に慎重に考えている。こうした2つの閂(かんぬき)をかけているということである。

2点目の米国経済については、米国の今の株式市場の動きにもある程度反映されていると思うが、イラク戦争が短期間で終わって、その限りでの不確定要因がかなり急速に後退した。後は、今年の後半以降、米国の政策当局者等が前もって期待しておられた通りのシナリオで、すなわち、仮にスローであっても着実な回復過程にこの下期から入っていくかどうかである。そこに多少のクエスチョン──予定通りのタイミングで始まるのか、多少後ずれするのか──を残しながらも、今のところ大枠のシナリオは崩さないでみている──そのことは株式市場にも現れている──のだと思う。

もう1つは、物価の動きであるが、ディスインフレーションが進行している。景気が回復してきているということと、ディスインフレーションの進行ということとは、一体どこでどのようにつじつまが合うのかという問題が出てきていることは確かだと思う。おそらく米国の政策当局者──特に金融政策の当局であるFRB(米国連邦準備制度理事会)──は、この問題がどこでつじつまが合うのかということを頭の中で懸命に考えておられるのではないかと思う。米国経済がデフレに陥るというようなところまで本当に心配しておられるかどうか、我々にはわからない。しかし、おそらくそこまで心配はしないまでも、ディスインフレーションがさらに進行するということと、下期から景気が立ち上がっていくということとの接点が、一体どこにどういうかたちでできるのかということについては、今までにない経験として非常に目を凝らしながら、今後の金融政策をデザインされようとしているのではないかと思う。

私自身は、この問題について、グローバル化とIT革命の進行の中で、世界共通の現象として随分前からベースが敷かれていたものが、最近になって現実に世界経済の中の大きな動きとして表出してきたものだと思っている。この点については、金融政策当局者にとって共通の新しい課題として──我々のように、経済が現実にデフレになっている場合でも、あるいはデフレではなくてディスインフレーションが進行している過程の国の場合でも──、いよいよ現実のものになってきていると思う。この問題については、我々は10年先輩なので、何か良いテキスト・ブックを作っていかなければならないと思っている。

【問】

先程おっしゃった政府の国債管理政策と表裏一体となった金融政策ということについて、総裁は具体的にどういうイメージをお持ちなのか──今までの方法と何か違うようなところがあるのか、これについて政府と今後どのような議論を進めていかれるのか──、ということについてお伺いしたい。また、諮問会議の中で、何か具体的な提言のようなことをされたのかについてもお聞かせ頂きたい。

【答】

この問題については、これからなるべく早い段階で真剣に検討しなければいけないということを申し上げたわけで、まだ今の段階で具体的なイメージは持っていない。経済財政諮問会議においても、それ以上具体的なことは申し上げていない。これから勉強が進めば、また記者会見の場でも申し上げたいと思っている。

以上