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総裁記者会見要旨(7月7日)
2003年7月8日
日本銀行
── 平成15年7月7日(月)
午後5時45分から約30分
於 リーガロイヤルホテル(大阪)
【問】
景気全般の認識について、6月短観での業況判断の改善、最近の株価の上昇、長期金利の不安定な動きを踏まえ、先行きの見方を含めたご意見をお聞かせ願いたい。
【答】
日本経済は、足許の輸出にやや弱い動きがみられることは事実だが、全体として横這い圏内での動きを続けているという点に変わりはないと思っている。先行きについては——多少我々の希望も入っているが——輸出・生産が再び増加基調に戻るのではないか、さらには、企業収益の改善、設備投資の回復といったかたちで、日本経済の中で前向きの循環が働き始めるのではないか、とみている。これは、海外経済の成長率が本年後半に高まってくることを前提にしているが、この条件さえ満たされれば、いずれ前向きの循環が動き始めるとみている。
先般発表された短観でも、今ご指摘の通り、業況判断は、大企業・製造業を中心に少し改善している。その理由は、イラクとの戦争が短期終結のシナリオ通りとなったことに加え、SARSも終息に向かいつつあり、不確定要因が消えてきていることが大きい。また、株価の上昇に示されている通り、マーケットが、先行きについて少しずつ良い方向に向き始めているということも反映していると思う。
短観の特徴点は、企業収益の増加基調を背景に、今年度の設備投資計画が前年対比で良い姿になっていることである。大企業・製造業では、設備投資計画が前年比+11.5%増という計画になっている。昨年度は全ての業種・規模で、設備投資が前年割れであったことと比較すると、かなり良い方向に変わってきたと思う。製造業では、大企業だけでなく全産業でも設備投資計画がプラスとなっており、さらに、調整が遅れている非製造業を合わせても、ほぼ前年並みの投資計画となっている。
関西経済については、全体的な空気としては東京対比で思わしくないという声が聞かれるが、企業収益の最近の動きは、むしろ全国を上回って急回復をしているように見受けられる。当地との貿易関係が強いアジア向け輸出が好調であるほか、デジタルカメラに代表されるような最先端技術を用いた家電の伸びが良いこと等から、収益の回復力が非常に速いというお話を伺った。関西経済の動きも、全国短観の示す方向性が当てはまっている。
株価については、非常に力強く回復しており、今日も日経平均は約9,800円まで上昇している。株価回復のスタートは欧米対比で少し遅れ気味だったが、最近では欧米より回復幅が大きい。こうした下で、長期金利は、——皆様からもよく質問を受けてきたところだが——低い方向にオーバーシュートしていたのではないかと市場が判断し、その行き過ぎを修正しようとする動きから、今のところ動きが少し不安定になっている。しかし、金融市場全体を達観すれば、株価が回復するなど、引き続き落ち着いた基調を維持している、というのが私どもの基本認識である。今後についても、シナリオ通りに景気が好循環のパスに入っていくうえで、それを支えるための金融面でのバックグラウンドは今のところ十分整っていると思う。
【問】
会見に先立って行われた関西財界関係者との意見交換でも話題となっていたりそな問題について、金融危機対応会議以降の動きなどを踏まえた現状認識と将来展望をお聞かせ願いたい。
【答】
りそな銀行について、関西の財界の方々からは、りそな銀行は関西にとって非常に重要な銀行なので、資本注入を受けて、債権の回収ばかりに精を出すのではなく、引き続き地元経済の発展のために力を尽くして欲しい、という念押しをされた。関西経済を支えている関西の有力な企業、中堅・中小企業の方々が、それぞれ将来を見越して自らのビジネスを変革させようとする中で、りそな銀行も経営改革を強く意識して新銀行を経営していくものと思う。りそな銀行とりそなホールディングスの新経営者の方々には、私からも率直にそういうお話を申し上げた。日本銀行大阪支店長も記者会見において、「りそな銀行にはより質の高い金融サービスを提供していって欲しい」と話しているが、私も同感である。
りそな銀行は、繰延税金資産の厳格な評価等により、自己資本比率が非常に厳しい状況、いわゆる資本不足が目に見える状況になった。日本の金融システムの基盤はまだ脆弱であるため、金融システム全体の安定のためには、りそなの問題をそのまま放置すべきでないということで、政府と日銀の判断が一致した。危機を未然に防止する観点から、十分な額の公的資本注入が必要ということについて、政府と日銀との間に意見の相違はなかった。日本銀行では、金融市場に追加的な流動性供給が可能となるよう日銀当座預金残高目標を拡大したのと同時に、りそな銀行に対して特別融資を行う態勢も整えたということで、我々の金融システムの安定化に対する姿勢はご理解頂いていると思う。幸い、政府と日銀の措置により、金融市場の平穏を保つことができ、りそな銀行についても、預金者が慌ててお金を引き出すということもなく、特融を発動する必要もないまま、資金繰りは安定的に推移してきている。りそな銀行はこれから経営改革に乗り出していく段階にあるが、私どもとしては、地元の顧客、すなわち関西経済を担っていく企業経営者の方々と、まずは現状および将来にわたる認識を十分共有し、ともに変革を遂げながら、新しい経済と金融の仕組みを関西においてしっかりと築きあげていって欲しいと思っている。今日の財界との懇談の締め括りで、私からは、昔から「景気は西から」と言われており、今回も是非「景気は西から」という言葉を実現すべく頑張って下さいと申し上げた。りそな銀行が当地の有力な経営者および中堅・中小企業の経営者と、現状と将来に関する認識の擦り合わせをしながら、ともに経営刷新を図っていけば、「景気は西から」のコアの部分を作りあげていくことにもなると確信している。私は関西出身なので、多少関西を盛り上げるつもりで言っているのも事実だが、客観的にみてもそう考えている。
【問】
阪神タイガースは、明日にもマジックが灯る快進撃を続けており、これによって関西の雰囲気が明るくなったと言われる。阪神が優勝した場合、関西経済および日本経済にどのような影響があるとお考えか。また、阪神の快進撃の理由は、球団の改革によるところが大きいと思うが、同じく日本の金融にも改革が求められている。阪神の改革の成功を踏まえて、日本の金融をどのように改革していくべきかについてもお聞かせ願いたい。
【答】
かなり個人的な意見になると思うが、私は子どもの頃からの阪神ファンであるため、阪神のことを客観的に話す能力を持ち合わせていない。初めから気持ちがのめり込んでいるため、記者会見の場で申し上げるには全く不適当な心境にある。阪神がいくら勝っても、阪神ファンというものは、本当に優勝するまでは心配で心配で仕様がない、勝てば勝つほど心配が募ってくる、ということで、とてもマジックが点灯して云々という心境にはなっていないというのが実感である。しかし、やはり阪神に優勝して欲しいと本当に心の底から思っている。
少し客観的に言えば、先程「景気は西から」と申し上げたが、もちろん、経済や金融の面で諸条件が整わなければ景気は立ち上がらない。従って、本来の地道な努力は必要だが、「景気は気から」とも言うように、純粋に経済・金融の仕組みの中から芽が出るということに加え、気分的に盛り上がるものがもう一枚加わると、心理的に弾みがついて、本当に景気回復が実現していく可能性がある。そういう意味では、金融緩和政策を強力に推し進め、効果浸透に躍起になっている我々の立場からみても、そういうプラスアルファの効果があって、景気の良い風が西から吹く、ということは大変嬉しいことだと心から思っている。
この頃よく、今年はなぜ阪神が強いのかという、なかなか客観的な答えを出せない質問を受けるが、個人的には、阪神タイガースはビジネスモデルの転換を遂げた、と思っている。星野監督という素晴らしいリーダーを迎えたことが大きな要因であることは間違いないが、それ以前からウェスタンリーグで2年連続優勝するなど、実力をつけた阪神生え抜きの選手が、一軍にあがってきていることが大きく寄与していると思う。すなわち、苦労して新しい阪神のビジネスモデルを創るために育て上げられた選手が、自覚を持って一軍のチームを構成していることが大きい。従って、単純にホームランバッターを揃えれば勝つというようなものではなく、地道な努力の上にビジネスモデルの転換が行われ、そこに優れたリーダーが来た、ということが阪神の強い理由であると考える。こうした点は、企業再生の要諦でもあると思う。
【問】
長期金利は今後どのように推移すると予想しているか。
【答】
世界的な株価上昇につれて、海外主要国の長期金利もある程度反転しており、こうした動きにわが国の長期金利も触発されたということがあるのだろう。また、これまでの超金融緩和の下で、金利がかなり急速に低下し、──国債バブルではないかという質問を東京での記者会見でも頂戴したが ──少し行き過ぎではないかという心理が市場に累積していたことの反動といったことも、やはり出ているのではないかと思う。
このところの長期金利の動きは少し不安定であるが、先週末あるいは今日あたりをみていると、多少落ち着いてきているように思う。市場というものは、本来、次の均衡点を見出そうとする運動法則を持っている。おそらく、短期的にはそういう動きの中から、新しい均衡点に落ち着いていくのだろう。
他方、かなり長期的にみて、日本経済が活発化する動き──我々はそうした動きを引き出すために超金融緩和をやっているわけだが──が本当に出始めたときには、長期金利が本格的に上昇していく局面も来るだろう。その場合、日本経済に分厚い国債発行残高が組み込まれているとすると、金利が本格的に反転上昇し始めた際には、地雷のように埋もれている国債発行残高が、人々に様々な期待を与えたり、強く刺激したりする可能性がある。景気が良くなること自体は望ましいが、長期金利がスムーズに形成されるか、人々の期待が入り乱れて不安定に形成されるのか──リスクプレミアムが拡大して長期金利が大きな揺れを示すのか──という点が、一つの心配の種として、頭の中に思い浮かぶということである。
以前、東京での記者会見で、国債管理政策について、将来のマーケットの期待の安定化を念頭に置いて、今から政府と中央銀行とがいろいろな新しい智恵を絞っていくべきと申し上げたのは、こうした観点からである。
【問】
塩川財務大臣が、総裁に会って国債管理政策について意見交換したいと発言しているが、いつ、どのような話をする準備があるのか。
【答】
BISに海外出張している間に、塩川財務大臣が私に会いたいとおっしゃっているという報道を聞いたのだが、私が帰って来ると、今度は塩川財務大臣がASEMで海外出張しており、現時点では具体的な予定は持ち合わせていない。この件に関して大臣とコミュニケーションしたことはないが、普段からいろいろなところでお会いしているので、改めて会う必要があるのか、という気はしなくもない。
【問】
長期金利の上昇を受けて、来週の金融政策決定会合で、議長である総裁から国債の買入額の拡大を提案する可能性はあるか。
【答】
申しわけないが、金融政策決定会合で何を提案するかについては、前もって申し上げられない。
【問】
政府が地域金融の機能強化の検討を進める中、関西ではここ数年地元金融機関の再編や破綻がかなり多かった。地方銀行を含めて、信用金庫・信用組合など地域金融機関の機能強化の必要性やその問題点について、どのように考えているか。
【答】
銀行、信用金庫あるいは信用組合は、それぞれの特性があるとは思うが、現在やこれから先の日本の状況を考えると、いずれの業態についても仕事のやり方を、企業が本当に求めている金融サービスは何かをしっかり捉え、そのために取引先企業のビジネスの現状と将来の姿について十分話し合って共通認識を持ち、そして必要な金融サービスをデザインしていくというかたちに転換できるかどうかが、従来にも増して非常に大きな鍵となっていくのではないか。
伝統的な日本の銀行業、あるいは金融業というものは、じっと待っていて、資金需要の方が飛び込んできてから、急いで金を貸すために、心配な部分を担保で埋めてきたのだと思う。十分に信用判定はしているのだろうが、時間との関係でそうせざるを得なかったのかもしれない。これからは、もっと早い段階から企業との対話を始め、企業の金融ニーズを確認し、金融サービスをデザインして、実行するというプロセスへと変えていかなければならない。「金融サービス業への転換」と私が申し上げているのは、そういう意味である。
銀行と信用金庫・信用組合との差について言えば、従来から、地域密着・企業密着という点では、どちらかというと信用金庫・信用組合の方が優れている部分があったのではないかと思う。それをこれからの時代に相応しいかたちにブラッシュアップして、ビジネスモデルを築いていって欲しい。
いずれの業態にしても、金融機関の数が多過ぎるのではないかという質問をよく受けるが、頭数の問題ではなく、そういうファンクション(機能)を整える金融機関がどのように揃っていくか、あるいは、合併・提携というものが新しいファンクションを整備するために行われているか、ということが非常に大事である。私は伝統的なバンキング(金融業)はオーバーバンキングだと思っているが、新しい金融サービス業は非常に過少な状況にあると思っている。その転換が非常に重要だと思っている。
【問】
先ほど「不確実性が後退して株価が上がっている」とおっしゃったが、足許の景気認識について、展望レポート(「経済・物価の将来展望とリスク評価」)の中の標準シナリオに沿っていると思うか。また、現在の景気認識を「横這い」としているのはなぜか。
【答】
率直に言って、今のところ、展望レポートの標準シナリオからの乖離はあまりみられていないと思っている。つまり、足許はほぼ横這いの動きだが、いずれ──仮に緩やかであっても──上昇に向かい、輸出や生産が先頭バッターとなって好循環のきっかけを作っていくのでないかということである。
ただ、厳密に、このシナリオのパスと比較すると、足許の動きは輸出、生産ともに少し鈍いという感じがある。また、企業の設備投資の立ち上がりについても、短観でみる計画はシナリオ通りであるが、実際にみる足許の動きは、まだあまり目立ってはいない。
もっとも、年度が終わって締めてみれば、実質1%絡みの成長、ただし消費者物価はなおわずかのマイナス、というシナリオの姿に行き着くのではないかとみており、シナリオが崩れ始めているとは思っていない。
【問】
将来、長期金利が本格的に上昇するような局面において、長期金利の安定化策のために、国債を定額で買入れるのではなく、機動的ないし柔軟に国債を買入れるような仕組みを検討していく可能性はあるか。
【答】
長期金利と日本銀行の国債買入との関係であるが、日本銀行の国債買入はあくまでも量の概念を意識している。つまり、今で言えば、最大30兆円の当座預金残高目標を実現していくために、いろいろなオペレーションをやるわけであるが、国債買入についてはこの手段の中の一つであって、金利形成について、日本銀行が特段の影響を与えるという意識を持ってオペレーションをやっているわけではない。この点で考え方は分断されている。
【問】
先ほど長期金利について「オーバーシュート」という表現を使ったが、「オーバーシュート」という表現を使うときには、何かある程度の基準を持ってこの基準を超えた部分を「オーバーシュート」と言うと思うが、何らかの基準は持っているのか。
【答】
誤解があったとすれば申しわけないが、私どもが「オーバーシュートしている」と判断していると申し上げたわけではなく、市場の中で、長期金利が急速に低下した際に、オーバーシュート気味ではないかという感触を持っておられる方がいたのではないかと申し上げた。そして、皆様方からも国債バブルではないかという質問を受ける状況だったので、今はその反動みたいなものが少し出ているのではないかと推察されると申し上げた。
我々は市場の動きをオーバーシュートであるとか、正常な動きであるとか、といった判断を下しているわけではない。我々としては、市場の動きはそのまま受け止めながら対応していくという立場であって、ここにあまり色合いを交えながら判断していくものではないという姿勢を取り続けている。つまり、極力、市場自身の運動法則の中から均衡点を探して欲しいというのが基本的な立場である。
以上