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総裁定例記者会見要旨(8月12日)
2003年8月13日
日本銀行
―平成15年8月12日(火)
午後3時から約35分
【総裁】
大変恐縮であるが、ご質問の前に、CP統計の件では、利用者の皆様に大変ご迷惑をおかけしたので、私からも率直にお詫びを申し上げる。既に責任者は厳正に処分したし、再発防止の体制もしっかり整えて、作業も始めているところである。私自身の談話はあの時既に発表したけれども、この機会をお借りして改めてお詫びを申し上げたいと思う。
【問】
景気の現状認識について伺いたい。国内の株価上昇とか海外でも米国経済の回復傾向が見られることを背景に、政府が月例経済報告で景気判断を上方修正したり、あるいは今日発表となった国民所得統計でも4~6月期の実質GDPが前期比0.6%の増加となっている。そういった明るい指標も出ているが、日本銀行として景気の現状をどう見ているのか、改めて見解をお聞きしたい。
【答】
私どもの経済情勢に対する基本的な判断であるが、当月の情勢報告として既にお手許にお届けした通り、現状の経済の動きは引き続き横這い圏内の動きとみている。ただ、今ご指摘の通り、これから先の経済の動きについては、少しずつ明るい兆しが出てきている。先週発表があった機械受注統計とか本日のGDP速報などを見ていても、足許横這いの動きだということを急に修正するようなものではないとしても、先行きの経済を判断する時に少し明るい兆しを汲み取りながら、これを読むということが可能な材料であるように思う。
海外の環境についても、米国経済を中心にして、今年後半の経済成長率が高まる方向にあるという認識が徐々に確かなものになってきているということであり、これと併せて考えると日本経済については、これから次第に前向きの循環が働き始める可能性があると考えている。もっとも日本経済の場合には、過去の調整負担というものが引き続き企業部門、金融機関部門、それぞれに重くのしかかっている状況であるので、経済の歯車が急速度に回転するとかエンジンの音が急に高まるとかいうことではなくて、良い兆しがあると言っても、しばらくの間は内需の自律的な回復力は早急に高まるわけではないといった、慎重なリザベーション(留保)を置きながら見ていく必要があるだろうと思う。しかし、少なくともこれまでの条件に比べると、少し明るい方向への兆しが出てきたというふうに考えている。
【問】
日本銀行が新たに始めた資産担保証券の買入れについて、昨日1回目のオペが行われたわけだが、これまでの進捗状況やそれに対する総裁の評価を伺いたい。
【答】
これまである程度の時間をかけて、昨日のオペの実行に至るまでのプロセスを踏んできた。その間、市場関係者の方々から大変なご協力を頂いたことを非常にありがたく思っているし、こうした協力関係の輪をさらに強く広くすることを通じて、今後の良好な市場の発展につなげていきたいと念願している。
資産担保証券の買入れについては、7月25日までに買入れ対象先の選定手続を終え、7月28日から資産担保証券に関する適格性の審査依頼の受付を開始した。そして昨日買入れの実行ということになったわけである。度々申し上げているが、資産担保証券市場というのは、未だ発展途上にある。そうした中で、7月末までに市場関係者のご協力の賜物として買入れの準備を整えることができ、かつ実際の買入れもかなり早い段階で実施することができたということは、結果的に見ても、市場に相応の潜在的なニーズが存在しているということの表れではないかと思う。こうしたことが確認できたというふうに思っている。今後こうした実績を踏まえながら、自信を持ってさらなる展開を図っていきたいというふうに思っている。
【問】
先程も冒頭で触れた統計ミスの放置に関する件については、CPの発行残高に対する統計ミスを1年以上放置してきたということである。総裁はご就任以来、透明性の向上や、市場との対話を重視されてきたと認識しているが、今回の問題については、日銀の信頼低下につながるといった指摘も出ており、先週7日に関係者の処分も発表された。今回の統計ミスの放置に関する所感を改めて詳しく伺いたい。
【答】
一番感じたのは、なんと言っても統計を実際に利用して下さっている皆様方に大変ご迷惑をかけたということである。その点については改めて陳謝したい。
そして、統計作業がいかに難しくとも、やはりあくまでも完ぺきな統計の作成を目指した最大限の努力が必要であるという、当然のことを改めて強く認識したし、さらにそれにも増して、万一齟齬が生じた場合には早く処理する──これは事務処理の基本原則、特に中央銀行の場合にはそうした事務の基本に一番忠実でなければならない──という点で問題があったということが、私としては最も遺憾な点だと思う。
従って、これから統計──これはCPだけでなく、日本銀行が作っているすべての統計──について、その作業プロセスを再点検していくが──もちろん統計の完ぺき性を期しての再点検であるが──、同時により根底から事務の基本に立ち返るといった基本認識を再確認して、皆でこれをより強くシェアする。その認識を分かち持つという点により力点を置いて、この作業を進めてまいりたいと思っている。
必ずや、皆様方から再度信認を頂戴できるようなところまでやり遂げたい、またやり遂げる自信があるということである。
【問】
今月の初めに、金融庁が15銀行・グループに対して業務改善命令を発動したが、銀行側からは、「当局の方針に沿って不良債権処理を進めた結果」とか、「株安の影響も大きい」といった反発の声も強く出ている。今回の業務改善命令の発動について、総裁はどのように評価されているのか。
【答】
真に活力ある日本経済にこれから到達していくためには、実体経済面の諸条件を整えるだけでなく、金融システムの健全性の回復とその機能の強化ということも、不可分一体としてぜひ実現しなければいけない課題であると思う。その課題について最近までの展開を見ていると、単に膨大な不良債権問題の処理にとどまらず、株価変動リスクを金融機関経営から遮断する努力や、非常に多岐にわたる企業再生のプロセスを確立していこうという努力、そして金融機関自身の収益力の再構築──特に新しいビジネスモデルを模索しながら、金融機関自身の収益力を確立していくというプロセス──が重視され、かつ始まりつつあるという段階にきていると思う。つまり、いわゆる不良債権問題と言われていたものも、こうした新しい展開を遂げつつあり、方向性が見えてきているということであり、今回の金融庁の業務改善命令というものも、大きくとらえればこういった方向性に沿った行政当局の行動であると思う。
私自身は、金融機関の収益力改善というものは、行政による業務改善命令のあるなしに拘わらず、金融機関本来固有の、そして究極的に目指すべき重要テーマであるので、金融機関がこれから本当にここに力こぶを入れて欲しいと強く念願している。日本銀行と個別の金融機関との関係もそうであるが、行政官庁である金融庁と個別の金融機関との間にも、より良きコミュニケーションが行われていくことによって、実効が上がっていくということが大切であると考えている。
【問】
冷夏の日本経済に与える影響について伺いたい。先頃、民間の調査機関が作況指数について、10年振りの低水準と発表した。今日は、ビールの7月出荷量が2桁マイナスと発表されている。冷夏が日本経済に与える影響がかなり深刻ではないかという声もあるが、その点について総裁のお考えを伺いたい。
【答】
日本経済は引き続き厳しい局面をくぐり抜けつつある過程なので、天然・自然現象を含め、すべてが良い方向に動いてくれるに越したことはないと思っている。今年の夏のように、長雨の後に台風が来るという状況は、普通に考えれば個人消費の面で特にプラスの影響があるはずはない、むしろ悪い影響があると率直に思っている。その部分は打ち消しがたいと思う。
ただ一方で、最近の個人消費の中身をみてみると、企業が努力をして新しい製品やサービスを開発する、つまり需要を喚起するような「需要創造型」──最近この言葉も定着してきているが──の商品やサービスの提供があれば、それに対しては非常にしっかりと購買力がついてくるという動きもある。
かつては異常気象の時には、単純にダメージ(被害)のみが表面化したが、それに比べれば、最近はそのような環境のもとでも、企業の新たな努力が需要喚起して成果を上げるという経済の仕組みに段々変わってきている面もある。従って、冷夏は決して良いことだとは思わないが、悲観ばかりもしていない。私自身もつい最近、携帯電話を一番新しいバージョンに替えたが、なんと入手するのに2週間かかった。そのくらい需要が強い。
【問】
CP統計が修正されたが、新しい統計に基づいて見た企業の資金調達の多様化の現状について、どのようにお考えになっているか。また、CPの発行残高をみると、市場規模が言われているほど大きくなかったのではないか、との見方もできるかと思う。このことは、日銀としての政策──日銀が現在実施しているCPの現先オペやABS市場の立ち上げ・育成──にどのような影響を与えるのか、テクニカルな面も含めて何らかの修正が必要だとお考えなのかどうか、伺いたい。
【答】
CPの発行というかたちで企業の資金需要がどのように出てきて、それが経済の変化とともにどのような変動を遂げてきたかは、今回、修正統計として、大手行のベースで数字を過去に少し振り返って連続性を持ってみることができるように材料をお示しした。これから判断しても、確かに絶対的な残高のレベルはかなり違っていたとは言え、過去のフローの変動という点から見れば、幸いにも、これまで我々が持っていたイメージをそんなに大きく修正しなくても済んでいる。企業金融の把握の仕方という点で、実は過去にあの統計によって我々が大きな齟齬を来していた、というところまでは言えないような気がする。
また、我々の金融調節としてのオペレーションについて、現先オペ等を中心にお尋ねがあった。これらについては、マーケットの規模全体ということはもちろん大きな背景として念頭に置きながら実行してきているが、現実の操作としては、どのようなCPが審査に持ち込まれ、オペの時にどのようなオファーがあるか、といったテーブルの上に示される現実を材料に行っているので、その判断、実行ともに狂いはなく推移してきていると思っている。
【問】
先程、「金融機関は収益改善に力こぶを入れて欲しい」というお話をされたが、一方で日本の金融機関はなかなかリスクに応じた金利設定ができない——非常に薄い利ざやでしかこれまでやってこられなかった——というようなお話もされたかと思う。オーバーバンキングなどたくさんの問題があり、金融機関も現実問題として一朝一夕ではこうした状況を変えていくことはできないと思うが、総裁は、その原因がどの辺にあるとお考えか。
【答】
戦後——大雑把に言うと50年近く——続いた高度成長の過程においては、金融機関だけが薄い利ざやでやってきたわけではなく、企業もどちらかというと大量生産・大量販売で収益をあげ、一単位当りの収益という点では必ずしも厚くないという状況で仕事をしてきたことは事実だと思う。その上に乗って金融ビジネスが展開されてきたわけで、金融だけが例外的に厚い利ざやで仕事をしてきたというようなことにはならなかった。つまり、高度成長を成し遂げたこれまでの日本経済の仕組みそのものが、実はそういう構造を内蔵していたという面があったと私自身は判断している。
しかし、これからは、企業も新しい付加価値の創出から収益を引き出すし、金融機関も新しい金融サービス——付加価値の高い金融サービス——を提供することによって、収益を引き出せるということである。ボリュームで収益を稼ぎ出すというよりは、より高い付加価値を持つ、単位当りの収益率の高いビジネスを実現していく方向に大きな局面変化を遂げようとしている。それでは、どの程度の、どのような態様のリスクに対して、どのような判定をし、それに対してどういう金利を適用するかということについては、個々の金融機関の判断であるが、そうしたことを個々の相手企業にすぐに納得してもらえるようなプロセスが確立されるとはなかなか思えない、というのはおっしゃるとおりだと思う。
そこで大事なのは、やはり、市場を通じる金融のパイプというものを幾重にも太く広くしていくことによって、市場がリスクをきちんとアセスメント(評価)し、金利水準を見出してくれるような大きな舞台装置を作ることである。間接金融の金利の付き方についても、直接または間接にそうした市場の価格発見メカニズムの良い影響を受けながら変質を遂げていく、という相互作用が必要になってきているのではないかと思う。
従って、一朝一夕にはいかないというのはおっしゃる通りだが、そうは言っても、なるべく早くそうした新しいメカニズムを確立することが、日本経済の将来のためには避けて通れない至上命題になっていると思う。
【問】
本日発表されたGDP統計の数字の中で、デフレーターは前年比マイナス2.1%と相変わらずかなり大きなマイナスになっているが、これについて感想をお願いしたい。
【答】
本日発表されたデフレーターは引き続きマイナスとなっている。前期に比べると少し縮まっているという感じはあるが、モデレート(緩やか)な経済成長しか当面は期待できない状況のもとで、過去の過剰投資の結果として生じている需給ギャップの大きさを埋めていくスピードというものはそう簡単には上がらない、ということを改めて痛感させられた。そういう意味では、需給ギャップを埋めていく努力——言い換えればデフレを解消していく努力——は相当粘り強く続けていかなければいけない、しっかりやっていかなければいけない、と改めて感じている。
【問】
先日、小泉首相と官邸で会談されたが、どのようなことを話され、どのような点で一致されたのか。
また、CP統計の件については、一部ではより本質的に、日銀の組織、人事などにメスを入れなければいけないのではないかとの指摘もある。こうした指摘についてどのようにお考えか。
【答】
小泉首相の他、塩川大臣、竹中大臣もご一緒で、私どものほうは、私の他に2人の副総裁が出席した。私は、今回で3回目だと思っていたが、2回目だと言われた。確かに1回目は就任直前だったので、これをカウントしなければ正確には今回が2回目である。過去2回──あるいは私流に言えば3回──とも、食事をとりながらフランク(率直)にいろいろな話題について意見交換を行った。あまり堅苦しい性格のものではないし、一方が他方に対して何か凝り固まった問題提起をするとか、注文をつけるとかいうふうな会議ではない。初めから、そういうものではなくて、フランクな意見交換の場にしたいという意図があり、実際その通り、むしろ回を追う毎にそういうフランクな意見交換の場になってきているというのが率直な感じである。今回の場合にも、イラク戦争が終わり、SARSの問題も何とか収まり、海外経済も少し良い方向になったのか、また、国内では長期金利が少し上がるぐらいまで本当に良くなっているのか、というような経済実態についての率直な意見交換が行われた。それから、政治のほうでは、地方でいろいろな対話集会などが行われていて、地方における経済の実感について、総理も塩川大臣も竹中大臣もいろいろなお話を聞いておられた。一方、我々のほうも支店長会議をつい最近やったばかりであったので、中央でマクロ経済の判断をしていることと、それぞれの地方における経済の実感との間にどれほど相違があるのか、といったような話などが中心であった。
これからの政策運営については、多分不透明感が消えた後の、秋以降の展開について政府もいろいろお考えであろうが、我々自身も頭の中でこれから考えていくところだということで、それ以上突っ込んだ話はしなかった。
もう1つのご質問のほうだが、日銀の体質ということをすぐ言われるが、体質というものはなかなか難しいわけで、私自身は日銀をマネージメントしていく立場から、体質という言葉でこうした問題をとらえることはあまりない。実際の問題を率直に分析して、新しい運動法則が引き出されていくように、その都度きちんと問題を解決していくことによって、結果的に日本銀行という組織のコーポレート・カルチャーも変わっていくのだ、という物の考え方で運営したいというふうに思っている。
日本銀行は体質が古いと言われているが、私は民間に5年もいていろいろな会社のことも経験したが、日本銀行と同じぐらい体質が古いところは日本の経済社会には結構多くある。しかし、それぞれに努力をしておられるわけで、日本銀行もこの点についてはもっと努力をしていかなければならないというふうに率直に思っている。新日銀法ができて過去5年間、日本銀行はまったく変わらなかったかと言うと──私がこの3月に着任して総点検したところ──、やはり過去5年間で、日本銀行は相当進歩してきているというふうに私は思っている。しかし、「これで足れり」ということには決してなっていない。まだまだ、望ましい姿に持っていくためには距離が遠いということは事実なので、その距離をいかに早く縮めていくかである。いろいろな問題が起こることを私は覚悟しているが、その度に距離を縮める努力をしていきたいというふうに思っている。組織を支える若い人達に、やはり伸び伸びと活躍してもらいたいというのが、私の思いとして一番強く持っているところであって、問題をきれいごとでは片付けない、若い人が元気になるような解決の仕方をその都度見出していきたい、というふうに思っている。
【問】
日銀は銀行保有株の買取りをしているが、6月以降の買取りは確か毎月せいぜい1千億円ぐらいまで減ってきている。保有株がTier I以内に収まった金融機関があるので、自然に減少するとも言えるのであろうが、まだたくさん株を保有しているところもある。総裁はこうした動きをどう評価されているのか。また、政府の株式取得機構の制度が変更された一方、日銀による銀行保有株の買取りは原則本年9月末で終了の予定となっている。その点どうされるおつもりなのか、お考えをお伺いしたい。
【答】
日本銀行の銀行保有株買取りというものは、あくまで例外的に対処した措置であるので、やはり、ある時点できっぱり終了しなくてはならないというのが基本認識である。9月末をもって一応期限がくるということであるから、その時にやめるというのが大原則だと思っている。
もっとも、日本銀行が目的としたTierIを超える銀行保有株の処理というものが、一応ほぼ完ぺきと言えるところまで終わったかどうか、私どももまだ十分判断できるところまで到達していない。TierIを超えて株を保有する金融機関の数が相当減ってきている、あるいは全体として株の売却が減ってきているということは私どもも認識している。しかし、それをもってこの措置の使命が終わったと言えるのかどうかについては、9月末までまだ時間があるのでもう少し良く判断してみたいというふうに思っている。確か制度上は、必要とあれば延長できるということになっているが、延長することを原則に考えるのではなく、やめるということを原則に、しかし本当にやめて良いのか、ということをもう少し考えさせて欲しいと思っている。
【問】
業務改善命令は、年末から年度末にかけての銀行の融資や投資行動に対してどのような影響を与えるとみておられるか。あるいは、銀行は利ざやを稼がなければならないといった点を踏まえて、銀行にどういうことを期待されるのか。
【答】
これは個々の銀行経営そのものに関わる話なので、あまり日本銀行が具体的にこういう行動を期待するということは言いたくないし、言うべきでないと思う。
最近の銀行行動を見ていると、単にリスクを回避して、「貸し渋り」とか「貸し剥がし」といった批判を受け続けてきたような状況に比べると、銀行自身が将来のあり方についてそれぞれ真剣に模索する過程に次第に入っているという感じを私は受けている。貸出を新たに伸ばすということ、貸出を伸ばした結果としてリスクをどういうふうに分散するかということ、あるいは従来手がけていなかった金融サービスとの組み合わせで、どういう新しいサービスを提供していけるかといったことなどについて、いろいろな工夫が始まっていると思う。それらが、最終的には個々の銀行毎に独特のビジネスモデルとして良い結晶に結びついていけばと思うわけだが、まだ抽象的にビジネスモデルを描くというよりは、そうした個々の努力が始まった段階だと思っている。そういう新しい努力をどんどん進めていってもらいたい。
従来のように、ビジネスを展開した後で、「さてこのリスクは」と考えるのではなくて、ビジネスを展開する都度、そのリスクのマネジメントをどうするのか──自分でリスクを吸収するのか、あるいはリスクは分散してマネジメントしていくのか等々──を考え、ビジネスの開発とリスクのマネジメントを表裏一体として確立していくという、新しいプラクティスが身についていくことが一番望ましい。そうでなければ、それぞれの銀行の本当に能力のある若い人たちが自由に業務展開をできない。リスクのマネジメントは別の人が考えなくてはならないとしたら──時間差を置いて考えるということであれば──、銀行経営に非常に揺れが生じるので、そういうことがないようにすることが一番望ましいと私は思っている。しかし、こうした点についても、それぞれ経営のあり方によって違うかもしれない。一つでも多くの金融機関が独自の道を確立していくことが望ましいと思っている。
以上