ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2003年 > 総裁記者会見要旨 (11月21日)
総裁記者会見要旨(11月21日)
2003年11月25日
日本銀行
―平成15年11月21日(金)
午後3時35分から約35分
【問】
本日の金融政策決定会合で、11月の金融経済情勢に関する基本的見解が決定されたが、その中で、景気については「緩やかに回復しつつある」と要約されている。「緩やかな回復」という文言が盛り込まれたのは、2001年2月以来のことだと聞いたが、その表現だけをとれば、量的緩和導入前に戻ったかたちになる。こうした判断に至った背景、理由について、今回の判断が10月に示された標準シナリオとどういう関係にあるのかということも含めて、ご説明頂きたい。
【答】
本日、私どもからご報告申し上げる内容の1つは、これから申し上げる情勢判断──今まさにおっしゃったが──を踏まえて、次回決定会合までの金融調節の方針を現状維持としたことである。もう1つは、シンジケート・ローン債権について、執行部から政策委員会に報告があった。シンジケート・ローン債権の担保受入れの実務的な検討が終了したので、今日から受入れの体制を整えた──つまり、担保受入れを今日から開始することとした──ということである。この2点が、私どもからの報告事項である。
情勢判断については、前回の決定会合以降というよりは、むしろ10月と現在時点との比較ということになるが、一番明確な変化は、生産の増加が明確に確認されたということだと思う。10月の時点までは、輸出は夏頃から立ち上がったので、いずれそれは生産の増加を誘発し、好循環に結びついていく可能性が強い、ということを申し上げてきた。また、10月末の「展望レポート」(経済・物価の将来展望とリスク評価)での標準シナリオも、生産が立ち上がってくることを予想し、これを前提としながらあのような展望を出していた。本日の政策決定会合における現時点での判断では、生産の増加が明確に確認された。そういう意味では、前向きの循環が働き始めている──「働き始めるであろう」というのではなくて──と判断できた点が最大の違いである。そのことが、冒頭にご質問されたような表現につながっている、ということだと思う。
私どもは、この先の経済の見方について、来年にかけて、標準シナリオで描いた線に沿ってこれから動いていくだろう、という確信を少し深めた。但し、一方的に楽観的な見通しを持っているということでは必ずしもない。今後とも様々な不確定要因があるし、日本経済の中を見ると、構造問題をさらに克服しながら前進しなければならないという状況なので、今後の景気回復のテンポは緩やかなものにとどまる可能性がなお強い。その点に1つのリザベーション(留保)を付けている。また、現時点──本日の政策決定会合の時点──で、「展望レポート」に書いた4つのリスク要因のうち、どれか1つが具体的に顕現化しつつあるとは判断していないが、そうしたリスク要因の中で金融市場絡みのもの──為替、株式の動き──については、やはり注意深く見ていかなければいけないということはある。とは言え、お尋ねに答えるならば、全体としては標準シナリオに概ね沿って経済は動き始めた、と私どもは判断している。
【問】
足許、株価や為替の不安定な動きもみられる中で、金融政策の現状維持を決定した理由を聞かせて欲しい。併せて、シンジケート・ローン債権の担保化の準備が整ったので受入れを開始するという話であったが、シンジケート・ローン債権を担保として受入れることの意義——総裁は、先般のシンポジウムにおいて、シンジケート・ローンの重要性を強調されていたかと思うが——について、改めてご説明を頂きたい。
【答】
今申し上げた通り、為替の動きあるいは株価の動き、さらに言えば長期金利の動きを含めて、マーケットが、先行きを読みながら、かなり不安定な要素を抱えながら動いているということは事実である。私どもは、常にそうしたマーケットの動きが、それぞれ経済の先行きをどういうかたちで織り込んでいるのか、また、そういうマーケット指標相互間の関連が整合的に動いているのかについて、引き続き注視をしていく。それとともに、結局は、それらが、実体経済の先行きにどういう良い影響を及ぼすか、あるいは逆に、どういう悪い影響を及ぼすかという点に立ち戻って、情勢を判断していきたい。そういう見方から言えば、現在、そうしたマーケット指標の中では、株価の動きが一番不安定になっているようにみえるが、直ちに経済の先行きの足取りに対して悪い影響を及ぼすことが、かなりの可能性を持って予見されるというところまでは、リスクが顕現化しているとはみていない。むしろ実体経済を見る限りは、先行きへの好循環のリズムというものが、更に少しずつ整っていく方向にあると判断できる状況である。それでもなお、リスク要因というものはいつ顕現化するかわからないということはあるので、引き続きその点は注意深くみていくという姿勢である。
シンジケート・ローン債権については、担保としての受入れの準備が整った。現状、金融機関は様々なかたちの担保を十分持っているし、日本銀行への差し入れ状況も十分であるので、シンジケート・ローン債権の担保化というものが、目先どの程度具体的に活用されるかについてはよくわからない。具体的には、個々の金融機関の事情に応じて利用されていくことになるだろうと思う。新しいクレジット市場における民間の努力というものを、我々はできるだけ広範囲にサポートしていきたいと、先日のシンポジウムでも申し上げたが、こうした動きが、次の時代の新しい日本の金融市場、あるいは資本市場の機能の整備に明確につながっていくものと確信している。証券化市場フォーラムも既に立ち上がっており、具体的な意見も出始めているので、今後は、それらをフルに活用していきたい。新しい将来につながるアイデアについては、本当に活かす方向で実現していきたい。我々は、こうした努力をサポートしていきたいと思っている。
【問】
先日、証券化市場フォーラムが初会合を開き、動き出した。その中で、日銀が実施している資産担保証券の買取りのスキームについて、いくつか見直しの要望が寄せられている。その背景には、資産担保証券の買取りが必ずしも思ったほどには進んでいない──一部には札割れなども出ている──ということがあるのかもしれないし、一部の市場参加者にとっては若干使い勝手が悪いという思いがあるのかもしれない。そうした要望を受けて、今後このスキームについて見直しを行うことなどはお考えか。
【答】
日本銀行が資産担保証券の買入れ措置の実施を始めて以降、マーケットの状況をみていると、2つのことが言えると思う。
1つは、日本銀行自身が買入れ措置を採ったということで、その適格の資産担保証券については、市中での消化が非常にスムーズになっていて、日本銀行が買入れる前に市中での消化が先行して進んでいる、という面が1つある。これは非常にポジティブな面だと思う。
それと同時に、日本銀行の買入れのフレームワークがいろいろな事情を考慮して非常に慎重に設計されているので、もう少しマーケットの参加者からみて使い勝手が良いようにできないか、という側面が残っていることも事実である。
その点について、証券化市場フォーラム第1回の全体会合で既にいくつか意見が出てきている。例えば、裏付資産に占める中堅・中小企業関連資産の割合をもう少し変更できないかとか、あるいは、裏付資産が貸付債権である場合に債務者を正常先に限定しているが、そんなにリジッド(厳格)に限定しなければならないのか、といった点についての意見が出てきている。
これからさらにいろいろな意見が出てくると思う。我々は、これから出てくる意見を集めて良く検討し、活かしていける意見については積極的に取り入れていきたい。ただ、我々が資産担保証券の買入れを行うことによって、却って市場を歪めてしまうということは避けねばならない。その点はやはり慎重な歯止めを置きながらも、しかしその枠内で、市場参加者にとってなお不便だという部分については、改善できうるものは積極的に改善していきたい。もう少し時間を頂戴したいと思っている。
【問】
最近、福井総裁あるいは武藤副総裁がペイオフの全面解禁の問題について、予定通りの実施の重要性を盛んに強調されている。この時期にその点を強調されていることの趣旨、背景、理由などについてご説明願いたい。
【答】
まず非常に長い目でみて、これから先、我々は──民間部門挙げてそうであるし、我々政策当局者もそうであるが──真に望ましい日本経済を作っていこうとしている。それに向かって既に経済も良い方向に動き始めた。民間の産業界は、過去10年以上も苦労してリストラ努力を進め、新しいイノベーションの芽というものをつかみながら、ビジネス・モデルを変換しつつ、新しい付加価値創出のメカニズムを作っていく、というプロセスに入り、そうしたプロセスを前進させ始めていると思う。
このプロセスを今後──長期的な課題であるが──完成させていこうと思うと、産業と金融が表裏一体となっていなければならない。つまり、そこに大きなミス・マッチを抱えながらであると、なかなかこのストーリーは完成しない。
従って、金融の面でも不良債権処理の克服だけではなくて、金融サービスが新しい価値創出を伴うかたちで提供される、あるいは、産業の新しいニーズと金融の新しいサービスがマッチする、という姿までこぎ着けなくては、この仕事は完成しない。
我々は、金融の面で、1年半後にペイオフ完全解禁というひとつのスケジュールを持っている。スケジュール通りこなすということが、金融サイドで、長い目で望ましい姿に向け努力する強いインセンティブを与える材料になりうる。金融界としては、ここまで来たら、そういうインセンティブを自ら受入れ、あえてこれを使いながら、飛び越えていくということが大事ではないか。
実際、もっと短期的にみても、金融機関自身の努力も、ようやく不良債権処理という意味ではかなり前進してきているし、企業再生というプロセスにもかなり足を踏み入れておられて、成功例も出てきている。
また、金融機関自身の新しいビジネスの設計、新しい収益性確保への道というところに視点が移りつつあるということもあるので、この面からみても、ペイオフ完全解禁を延ばすことによって、徒らに時間的余裕を持たないほうが、せっかく動き始めた良い動きにむしろ弾みを付けることになるのではないか、という意味もある。
さらにもう1つ、私がいつも申し上げているように、不良債権を処理し、企業再生をサポートし、そして自らの新しい金融サービス業としての設計をしていくということは、民間金融機関が自らの手でそれをこなすという部分が増えてこなければ実現できない。つまり最終的には、個々の金融機関の競争力を築き上げるという仕事であるから、政府主導型、当局主導型の動きという色彩から、自ら動くという色彩へと、時の経過とともに急速に変わっていく必要がある。
ペイオフ完全解禁というものは、相当程度自力でこれを越えなければ本物ではない。越えた途端にまた走れなくなるといったことは許されない。そうした意味合いも、ここには含まれている。
【問】
最近、個別の地域金融機関の経営問題が、様々なメディアで取り上げられているが、総裁は地域金融機関の現状について——地価の下落が激しいといったこともあり、大手行よりも弱っているのではないかなど、いろいろな指摘があるが——どのような認識をお持ちか。
また、検査や考査に当たって、地域金融機関とメガバンク等について、何らかの違いを持たせていくべきなのか、といった点についてのお考えを伺いたい。
【答】
不良債権処理、金融機関のビジネスモデルの再構築などの考え方について、大手行と地域金融機関等の間で区別をしながら対応しているという感じは、私どもは持っていない。
統計的にみると、最近時点で、例えば不良債権処理の進捗状況は、大手行のほうがやや先行しているという感じはあるが、それはあくまで全体の動きを集計した結果として、今のところそうした動きが出ているということである。事前的なアプローチにおいて、金融機関のカテゴリーにより予め差を設けているということはない。
地域金融機関をひとまとめにしてみた場合、大手行より問題への対応が遅れているという感じがあると申し上げたが、地域金融機関も個別行ごとに見ると随分と差がある。中には、問題処理や新しい金融サービスの提供に向けて、相当程度取り組みが進んでいる先もある。
全体として言えることは、問題への対応のアプローチの仕方に特に差があるわけではないということである。やはり、不良債権の経済的価値を適切に把握してきちんと引当を積む、償却すべきものは早く償却する、企業再生に向けていろいろな専門的ノウハウも取り入れながらサポートしていく、それから将来のビジネスについても、預金・貸出業務中心に非常に固定的になっていた構造をもう少し幅広くしていく——例えばフィービジネスの拡充等を図っていく——などの課題は、概ね共通のことである。こうした共通の課題に早く取り組むことができるかどうかの違いは、個々の金融機関が感じる制約要因──個々の金融機関が従来から抱えている顧客との関係や、地域経済全体との関係──の違いから出ているということだと思う。しかし、道具立てや狙う方向性等については、金融機関のカテゴリーによって事前的に差があるわけではないと思っている。
【問】
米国経済について伺いたい。対イラク戦が終結し、地政学リスクが一応解消されたというのがこの夏ぐらいの情勢だったかと思うが、ここのところ、イラク情勢が再び不安定で、周辺諸国でもテロなどが起きている。これからクリスマス商戦などを控えて、米国の株式市況、またそこから出てくる米国の消費への影響について、総裁はどのように観察しておられるのか。
【答】
このところ、私が参加したBIS総裁会議——今回の11月はバンコク、前回の9月はスイス・バーゼル——における米国経済を見る各国中央銀行総裁方の目は、2か月の間に、印象論ではあるが、相当明るくなったと思う。その理由は、やはり米国経済はかなり力強く回復しつつあるとの印象を共有したということである。7.2%という非常に高い実質GDP成長率を、額面通り受け取っているわけではないにしても、実勢としての米国経済の回復振りは、予想に比べやや強めに推移しているという感じで受け止められていた。ただ、これも手放しの楽観ではなく、当面は、来年以降引き続き順調な回復を辿りそうだという点では共通しているが、来春以降減税の効果が多少とも弱まっていく時に、現在の回復を主導している個人消費の力が少しでも衰えるとすれば、それに代わって企業の投資活動が、経済を引っ張り続けることができるのか、という問題がある。そういった意味での持続性、そして——個人消費がいつまでも減税にばかり頼ってはいられないというのは当たり前の話である——、企業活動がより活発になり、それがより強く労働市場の改善、雇用の改善に結びついて、実態的に個人消費を支え続けるというメカニズムが働くかどうかという点について、不確定要因が残ることを念頭に置きながらみていこうというのが、基本的な判断の姿勢である。
それに加えて、地政学的リスクが再び現れ始めているのではないか、それが経済にどの程度悪影響を及ぼすか、という点については、当然、共通の懸念材料になっていると言えると思う。いわゆる9.11のテロ事件後の経験や、今春以降のイラクとの戦闘下における経験等からみて、米国の消費者は、比較的こうした事態に対しては動じないという感じがあることは事実であると思う。しかし、今の米国の株式市場などの動きを見ていると、具体的な戦争というよりは、テロの再燃——見えざる敵に対する、また、明確な終結がなかなか確定しにくいような、言い換えれば、よりつかみどころのない不確定要因——について、マーケット自身が少し消化しあぐねている面があると思う。従って、当面はマーケットを通じて、心理的あるいは実態的に悪い影響がどの程度及ぶか、という点をよく見るべきではないかと思う。消費者がいきなり強いダメージを受けて、消費がシュリンク(収縮)するという径路は、これまでの米国経済の経験からすると、差し当たりは比較的弱いのではないかという気がする。
【問】
テロの影響とか株価の動揺を背景に、ドルがかなり不安定な動きを示している。市場では介入資金が足りるのかという声もある。以前の会見で、総裁は「まだそちらのほうには顔は向いていない」とおっしゃっていたが、その後、財務省のほうから外債を引き取って、資金を一時的に工面してくれといった要請があったのか。また要請を受けて検討を行う場合、国会軽視といった批判や日銀のバランスシートに対する悪影響などの副作用については、どう織り込むおつもりか。
【答】
前回の会見でそうお答えしたし、現時点でも政府のほうからというか、財務省のほうからというか、具体的な検討の要請をまだ受けていない状況である。従って、私どものほうでは、まだ、介入資金の手当てについて、詳細には検討していないので、現時点では、具体的にコメントする用意はない。
【問】
景気判断で、回復を謳うのは随分久しぶりである。しかも、景気が下げ止まってから、横這い圏内の動きという期間が非常に長かったと思う。回復を謳うに至るまでの道のり──これだけ横這い圏内の動きが長く続いた要因など──について解説して頂きたい。またそれを踏まえて、今回回復を謳うことができたことの意義などについてお話し頂ければと思う。
【答】
1つは、──言葉が適当ではないかもしれないが──ITバブル崩壊の後遺症を調整するのに、それだけの時間が必要だったということが言えるのではないかと思う。これは世界共通の問題であるとも言えると思う。それに加えて、イラクでの戦争やSARSの問題も起こった。不確定要因が非常に濃くなった結果、経済実態をきちんと見抜くということがなかなか難しい時期が続いた、ということが1つあると思う。中国経済を例にとっても、第1四半期に9.9%の成長を記録した後、どこまで落ちるかわからない状況であったが、再び9.1%の成長に戻っている。こういったことを事前にきちんと予測できない状況が続いた、ということが言えると思う。
それから、日本経済については、製造業を中心にリストラの成果がこのところ出てきているということもある。これは急に出てきたというよりは、過去10年以上もの長い努力の結果として少しずつ出てきている。これは、趨勢線を引いてみるとほとんど判別できないぐらいの緩やかな角度で、10数年かけて少しずつ上がってきたということだろうと思う。こういったことを全部勘案して、達観して言えば、経済そのものが、底まで落ちて、底を這っている期間が結果として非常に長くなり、そしてようやく這い上がってきたという姿になっているのだと思う。底に達したのは去年の春頃かとも言われているので、鍋底という状態がそんなに長く続くものだろうかとも思う。普通の経済ではなかなかあり得ないのかもしれない。経済というものは、上がるか下がるかのどちらかだと私も思っているので、横這い圏内が長く続くというのはある意味で不思議なことではあるが、現実にほぼそういう状況が続いてきて、ようやく這い上がってきたということではないかと思っている。
【問】
先程、総裁は「景気は緩やかに回復しているが、不確定要因は残っており、構造問題も克服しながら前進していかなければならない」とおっしゃった。そうした問題の中には、不良債権の問題——企業の側から見れば過剰債務の問題——もあると思うが、その問題克服の1つの象徴としておっしゃっているペイオフ完全解禁が実現できるような状況にならなければ、持続的な成長の実現、ひいては量的緩和の解除は難しいと考えるべきか。
【答】
ペイオフ完全解禁が必要だと多少力を込めて申し上げているのは、あくまでも長い目で見て、将来の日本経済を本当に望ましいものにしていくために、できるだけ早くペイオフという最後のハードルを越えたほうが良いという意味である。その時には、当然、市場メカニズムによる資源再配分機能——その最大の担い手となるのはやはり金融資本市場、あるいは金融システム全体である——というものがより確かに働く経済になっているはずであるから、ほぼ同じタイミングでペイオフ完全解禁を実現していかなければ、ミス・マッチが起こるという意味で申し上げている。
もう少し短い目で見て、日本銀行が言っているような消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にプラスになるような局面——今の量的緩和の体制から転換しうるような局面——を、ペイオフ完全解禁ということと具体的に結び付けて論じているわけではない。もっと短い目で見れば、景気というものはいろいろな循環的な要因にも左右されるし、今はグローバル経済のもとで、海外経済との連関によって良いようにも悪いようにも動く部分がある。このように短期的な経済の転換点——デフレ的な状況からの脱却という判断のポイント——というものは、非常に多くの要素から判断されることであり、ペイオフ完全解禁とは一応切り離して私は考えている。
日本銀行が量的緩和の継続という体制からどのタイミングで脱却しようと、ペイオフ完全解禁がいつまでも先延ばしされている場合と、そうでない場合とでは、その先につながっていく経済の姿が、より望ましいか望ましくないかという点で、非常に大きく分かれてくる可能性があるという意味で申し上げている。従って、念のために申し上げるが、量的緩和体制を切り替えるタイミングとペイオフ完全解禁のタイミングとを結び付けて考えているわけではない、ということを強調させて頂きたいと思う。
【問】
仮に、りそな銀行に公的資金を注入した際の枠組みである預金保険法102条1号措置が、経営不安を抱える他の金融機関にも適用されることになれば、それは事実上、ペイオフ完全解禁の姿とは異なるかたちになってしまうのではないか、という懸念を持っている。ペイオフと公的資金のあり方について、総裁のご見解を改めて伺いたい。
【答】
ご質問の趣旨が正確に受け取れたかどうかわからないが、ペイオフ完全解禁ということと、個別銀行の処理の仕方ということとは、一応切り離して考えられるのではないかと私は思う。ペイオフを完全解禁するかどうかということは、金融システム全体として、混乱なく最後のハードルを越えていくだけの条件が整ったかどうかということである。ペイオフ解禁を実行する以前の段階では、主として個々の銀行が自らの努力でさらに改善努力を加速して欲しい、ということを私は強調して申し上げている。すべて政府の手助けで条件を整えるということでは、かたちは綺麗に見えても、条件が本当に整ったとは言えないのではないか、という気持ちを私は持っている。
以上