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総裁記者会見要旨(12月8日)
2003年12月9日
日本銀行
―平成15年12月8日(月)
午後3時45分から約25分
於 ホテル日航福岡(福岡)
【問】
二つ質問したい。一つは、今日の懇談での各界代表者の発言などを踏まえて、九州経済の現状について総裁はどのような印象をもたれたか。
二つ目は、九州の金融情勢についてである。九州、特に福岡は金融機関の競合が極めて激しいと言われている。一方で、足利銀行の一時国有化の問題によって、改めて地域経済、地域金融機関の厳しい現状が浮き彫りになった。そういったことを踏まえて、九州の金融情勢について総裁はどのように評価されておられるか。
【答】
九州経済の状況については、私どもの支店から詳細な報告を受けているし、九州には財界の知人も多いので普段から承知している。本日の懇談会でも、中小企業を中心に依然として厳しい状況が続いていると伺ったし、公共工事の減少の影響もあって、雇用面も厳しく、情勢が際立って好転しているという状況にはないようである。もっとも、そうしたことを踏まえてみても、やはり、全国の経済の動きとある程度平仄を合わせて、回復の動きがみられ始めているということだと思う。
九州は、特に半導体等の電子部品や鉄鋼など、業種によっては東アジア向けを中心に輸出がかなり増えている先もあるようだし、またデジタル家電関連や食品など、製造業を中心に設備投資もある程度積極的に行われているということである。こうしたことを受けて、生産水準は緩やかな上昇傾向にあり、経済全体の動き、循環的メカニズムという点でみても、全国ベースの動きと平仄の合った動きが始まっていると思う。
それから、将来に向かって新しい芽が出始めているようである。例えば、産官学の連携によって、バイオテクノロジー等の先端技術、あるいは資源リサイクル等の環境対応技術開発を通じた、新たな産業集積の推進がみられる。また、アジアとの経済文化交流——当地ではかなり早くから進められてきたテーマだと思うが——のさらなる活発化、また、アジアを中心とする海外からの観光客の増加を目指した観光振興事業も推進されているようである。
経済分析的にみると、全国と同じような好循環が始まりつつあるし、先行きについて新しい芽を出していこうという努力も少しずつ実を結び始めているということである。将来に向けて、九州は一体となって活力を身に付けていかれるであろうと、大きな可能性を感じるところである。
金融情勢についても、全国的に金融システムの状況が依然厳しいわけで、当地も例外ではないと思われる。もっとも、当地でも個々の金融機関が経営改善に向けた様々な取組みを積極化しておられるし、一部の金融機関では経営統合によって経営基盤の強化を図る動きもみられるなど、それぞれ工夫を凝らしながら、将来の展開を図っていこうとしておられるようである。
当地の動きは、全国の動きと同じような方向性をもっている。すなわち、少しずつであるが改善の方向にある、と私どもも感じているところである。
【問】
地場の金融機関経営者と昼食懇談会を行ったということだが、差し支えない範囲で、その内容についてお聞かせ願いたい。
【答】
まとまった話にはなっていないが、当地における金融機関の経営刷新の努力と、全国的な同様の動きとの間で、平仄がどういうふうにとれているか、ということを中心に話をした。その中で、双方の間に大きなずれがあるわけではなく、大体同じ方向性をもって進んでいるということが確認できた。
【問】
米国経済に関し、日銀は、以前より雇用面から崩れるリスクがあるとみていたと思うが、ここ1か月の米国の経済指標をみる限り、雇用を含めて比較的強いデータが出てきていると思われる。これらを踏まえ、米国経済の回復の持続性についてはどのようにみておられるか。
【答】
米国の経済指標は、GDPにしても、生産性の伸びにしても、相当昔に遡らなければ見出し得ないような、高いレベルの数字が出ている。こうしたことを数か月前に正確に予測した人はいなかったはずで、米国経済が一般の予想より力強く回復していることは間違いない、という気がする。しかし、多くの人々やマーケットが注目していたように、米国経済の回復がなかなか雇用に結び付いてこない状況——一頃は「ジョブ・ロス・リカバリー」ということすら言われた——が長く続いたという点を心配していた。ところが、最近の雇用指標は、経済の回復が雇用改善に少しずつ結び付いている、ということを示しているようである。
マーケットは、先週末の雇用統計をみて、「予想より弱かった」との評価を加えているようだが、他の経済指標の強さとの比較でみて、「雇用指標も改善しているけれども、なお物足りない」という気持ちなのだと思う。
今のところ、米国経済は持続的な回復パスに沿って着実に前進しつつあると思っている。確かに、手放しに楽観はできず、来年以降、減税効果が減衰した後、より活発な企業活動に上手くスイッチされていくか、あるいは雇用情勢がどの程度の力強さで改善していくかなど、注目点はなお残っていると思う。しかし、今のところ米国経済の先行きについて、非常に大きな心配を、私自身抱いているわけではない。
【問】
2点伺いたい。1点は、公的資金注入制度についてのお考えを詳しくお聞きしたい。2点目は、ローカルな話題であるが、日銀北九州支店の統廃合問題についてのお考えを伺いたい。
【答】
まず、新しい公的資金の投入のフレームワークについてであるが、これは7月の金融審議会の報告書が公表された後、金融庁においてさらに検討が進められており、まだ最終的な具体案が出るというところまでには至っていないと思う。現在、与党と金融庁が色々と相談されているところと聞いている。したがって、具体的な中身について、詳細を承知しているわけではないので、その点はコメントできない。いずれにしても、新たな制度については、ペイオフ完全解禁に向けての民間金融機関の更なる努力を後押しする、いわば最後の公的サポートという理念に基づいて、きちんと設計されていくように、各方面の知恵が結集されていくべきだと思っている。
日銀の北九州支店の問題については、私が着任してから具体的な進展はない。この件については、今後とも、当地の関係者の方々と、コミュニケーションをしっかりもたせて頂きたいと思っている。
【問】
今日、為替が3年振りの円高となっている。先週発表された(米国の)雇用統計を受けて円高になった感じもある。先週も一週間で1円以上円相場が上がっている。日本経済の先行きに関して、為替相場はリスクというか、気にかけている要素であるというように、総裁は講演でもおっしゃっていたが、今の為替水準と、それがこれから日本経済に与える影響についてどのようにお考えか、お伺いしたい。
【答】
ある1日の相場の動きや、ある瞬間の相場のレベルを、今後の経済のシナリオに反映させて、それで今後の経済の動きがどうなると申し上げることはできないし、それは却って誤りのもとになると思う。
為替市場にしても、株式市場にしても、債券市場にしても、今は、来年以降の世界経済の動きについて、各々が懸命に探りを入れている段階ではないかと思う。
この夏前頃から、つまりイラクでの戦いが終わって以降、不透明感がすっと薄れた、すなわち実体経済もマーケットもある意味で明るい方向へすっと一斉に動いたわけだが、現段階でマーケットは、来年以降の世界経済、そして日本経済について、より正確に見極めようとしているのではないかと私は思っている。
我々自身も、来年の経済をより正確に予測したいと思っているところである。マーケットも我々も、お互いに現在そういう状況にあるのではないかと思っている。
【問】
総裁が就任されて、早くも年末を迎えるが、今年を振り返ってどんな感想をおもちか、伺いたい。
【答】
早くも年末が来たということで、今申し上げたとおり、来年の経済がどうなるか真剣に考えているところである。あまり振り返って考えている暇はないが、少し振り返ると、イラクでの戦争が始まった日に着任したわけなので、先が全く見えない、誰も先が見えない状況がしばらく続いて、ようやく先が見えるようになったというか、不透明感が晴れて一息つくうちに、年末が来てしまったという感じである。従って、来年以降のことをより冷静な目で、きちんと確認して、分析も深めたいという気持ちでいる。
【問】
イラクでは、なお局地的に戦闘状態が続いており、日本も自衛隊を派兵するという方向になりつつある。イラクの戦闘状態の長期化が、米国経済、ひいては日本経済にどういった影響を与えるとお考えか。
【答】
3月からのイラクでの目に見える戦いは、短期間で終止符が打たれた。しかし、その後のイラク情勢は、スムーズな復興過程を辿れるかどうかという点で、少し不透明になっていると思う。現在の世界経済について言うと、おそらく、米国の「9.11事件」以降の価値観の相克が、厳しくなる地球経済・社会環境という不透明要素と混ざり合ったような感じになっているように思う。
そういう不透明要素が、実体経済にどれくらい悪い影響を及ぼすか判断することは難しいと思うが、やはり、直接、間接に経済と無関係ではあり得ないと考えられる。経済をみていく場合に、そういったリスク、いわゆる地政学的リスクが具体的にどういう影響を及ぼしていくかということは、経済を分析し、予測する場合に、どうしても対象に入れなければならない要素として、純粋に経済的な分析に加わってくると、私は思っている。
【問】
現役の総裁がこういう地方都市で講演を行うのは珍しいと思うが、今後も定期的に開催されるのか。
【答】
私のスケジュール管理が意のままにならないこともあり、定期的にというのは無理だと思う。しかしながら、私は、自分の責任を果たすためには、海外にもできるだけ行かなければならないと思っているし、国内についても、東京だけにとどまっているのではなく、必要なところにはきちんと出向き、説明する責任を果たしたいと思っている。従って、全てのスケジュールを予めきちんと決めるというのはなかなか難しいので、定期的にとは言えないが、色々な機会を捉えて、日本銀行のことをきちんと説明し、また、現地の事情を直接拝聴する機会を多くもちたいと思っている。
【問】
講演の中で、「持続的な回復のためには、中小非製造業を含めた企業部門全体に、構造調整の進展とか回復の動きが出てこないといけない」とおっしゃっている。最近、中小企業関連の指標は、それなりに良いものも出てきていると思うが、そういう動きが今後どうなっていくとご覧になっているのか。特に、バブル崩壊後2回の景気回復は非常に脆弱であったが、それとの比較で、今回の景気回復は、中小非製造業にも拡がるような強さをもつ蓋然性がどの程度あるのかということについて、総裁ご自身の感触で宜しいのでお伺いしたい。
【答】
例えば、ITやデジタル革命に関連する分野、あるいはアジアへのビジネス展開に関連する分野を中心に、中小企業にも、現在動いている好循環の影響が時間の経過とともにある程度伝播してくる可能性があると思う。しかしながら、中小企業の世界というのは非常に幅が広く——特に非製造業の世界まで入れると非常に幅が広いわけで——、それぞれの地域、あるいは個々の企業においてかなりリスクを取って能動的に展開していかないと、好循環の動きに乗れない部分もある。そうした意味では、当地において、好循環のいくつかの新しい「芽」がみられ始めているということを確認できたことは、非常に幸せな経験であった。
おそらく、全国どこでも、多かれ少なかれそのような新しい「芽」が出ていると思う。そういう新しい中小企業、ないしは新規の企業活動の「芽」を摘まないように、いろいろな環境整備が必要だと思う。
金融機関にとっても、不良債権の処理、それから少し陳腐化したビジネスを行っている既存の企業の再生ということだけではなく、全く新しいビジネスを興していく企業を手伝うというところに、金融機関自身の行動が及んでくるということが、大事であると思う。
ただ、そうは言っても、単に使命感に駆られてそこに手を出すということではなくて、従来とは違った新しい「目」と「手法」をもってアプローチして欲しい。すなわち、新しいビジネスのリスク・プロファイルというものをきちんと審査する「目」をもって、金融機関として取れるリスクと取れないリスクを判別し、そして、事業全体の進め方について、金融機関のもてる情報を使って上手くアドバイスしていく体制を構築し、そのためのノウハウを蓄積していく努力が必要なのではないだろうか。そのためには、金融機関の中で、若い人達が自信と勇気、そしてやる気をもって新しいビジネスを興していく必要がある。それによって、製造業の世界で一般的な、「輸出から生産へ、そして所得の増加から支出拡大へ」という、旧来の好循環とは違った新しい好循環を、各地で生んでいかなければいけないと思う。
【問】
総裁の地方講演というのは大変珍しいと伺っているが、敢えて今、数ある地方都市の中で福岡の地を選んだ理由を教えて欲しい。
【答】
私は昔のことしか知らないのだが、昔の総裁は結構全国の支店を回っていたように思っている。従って、そんなに珍しいという感覚はない。先程申し上げたとおり、私の気持ちとしては、できる限り海外にも地方にも行く、東京でじっくり仕事をした上で、余力があれば、できる限り色々なところで仕事を展開したい、ということである。
今回、福岡を選んだことに特別な理由はない。大阪、名古屋に行き、その後、結局副総裁に代行してもらったが、仙台に行ったことにもなっている。先日北に行ったから今回は南に行く、という感覚はあるが、福岡を選んだことについて具体的な理由があったわけではない。この次どこに行くかわからないが、どこであったとしても、具体的な理由があるというわけではないと思う。
以上