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総裁記者会見要旨(12月16日)
2003年12月17日
日本銀行
―平成15年12月16日(火)
午後3時半から約45分
【問】
本日の政策決定会合の結果に至った背景について、ご説明して頂きたい。また、先週末に公表された12月短観および本日公表された金融経済月報(基本的見解)を踏まえて、景気の先行き見通しについてどのようなお考えをお持ちか伺いたい。
【答】
本日の政策決定会合だが、次回の会合までの金融調節の方針については現状維持ということで決定した。具体的には、現在の当座預金残高目標27~32兆円のレンジで機動的に金融調節を行っていくことを決定した。経済、金融、物価の情勢についていろいろと議論したが、私どもの認識としては、基本的には10月の展望レポートで示した標準シナリオに概ね沿って経済・物価の情勢が動いていると判断した。
米国、アジアをみても、世界経済の回復という点では力強さが増してきていると判断した。そうした背景のもと、日本経済についても、輸出、生産の増加が明確になってきている。また、内需面でも、短観等からも判断できるわけだが、企業の業況感が改善してきており、収益の改善を裏打ちとして設備投資の増加傾向が明確に確認された。私どもは、雇用者所得が徐々に下げ止まってきているとみているが、個人消費についても、一頃の弱さを少しずつ消しながら、概ね横ばい圏内の動きにあると判断した。従って、全体として、日本経済は概ね順調に回復傾向を辿り始めたということである。先行き、つまり年明け後も、この回復傾向は続くと私どもはみている。若干の留保としては、前回も申し上げた通り、過剰債務等の構造的な要因がなお根強いという点を踏まえると、回復のテンポが俄かに高まることはなく、引き続き緩やかな回復を続けるだろうということである。従って、消費者物価も、基調的には小幅な下落が続くだろうというのが目下の予想である。
【問】
先月末に公表した日銀の上半期財務諸表では、当期剰余金が史上2度目、31年半振りに損失を計上したほか、9月末の自己資本比率も若干低下しており、下限目標である8%を割る状態が続いている。こうした数値をみると日銀の財務状況は悪化の方向にあると言えるが、中央銀行における自己資本および財務健全性について、総裁のご意見を改めて伺いたい。
【答】
ご指摘の通り、15年度上半期の日本銀行の決算は、長期金利の上昇に伴う保有国債の評価損が原因で、当期損益は1,126億円の赤字決算——昭和46年下半期以来の赤字決算——となった。また、15年度上半期末の自己資本比率は、銀行券の平均発行残高が増えたことを主因に、平成14年度末の7.62%から7.38%へと低下した。このように、長期金利や銀行券発行残高の変動により、今期は日本銀行のバランスシートは悪い方向に振れたが、赤字の規模やバランスシートの状況——自己資本額は全体として5兆円を上回っている——からみて、日本銀行の財務の健全性に直ちに問題が生じるとは考えていない。いずれにせよ、今後とも、資産保有に伴う様々なリスクの適切な把握を行い、財務の健全性確保に努めていくという方針には変わりないとご承知おき頂きたい。
【問】
総裁は以前、経済財政諮問会議や記者会見等で、国債管理政策について「金融政策と表裏一体である」、ないしは「政府と中央銀行がいろいろ新たな知恵を絞っていくべきだ」などと述べられている。来年度も借換債などで高水準の国債発行が続く見通しの中、先日、財務省は非市場性国債の導入などの報告書を公表した。こうした動向を踏まえて、国債管理政策検討の進捗状況やそのあり方について、総裁のご見解を伺いたい。
【答】
国債市場というものは、政府の立場からみても、中央銀行である日本銀行の立場からみても、ともに非常に重要な存在であると考えている。
政府の立場からみると、国の債務の主たる資金調達の場である。長期的にみて最も低いコストで、政府が円滑に資金調達をする、という目標をきちんと実現していくに足りるだけ、市場が十分機能していなければならない。つまり、透明で流動性の高い市場でなければならない。こうした観点から、政府は単に発行者というだけでなく、市場全体のより良き姿の実現のためにいろいろな工夫をしていく責務があるということだと思う。
中央銀行である日本銀行の立場からみると、信用リスクがゼロであるリスク・フリーな金利が円滑に形成されるという意味では、金融政策を円滑に行っていく上での1つの非常に重要な市場であり、文字通り、本来の機能をきちんと発揮してくれるということが重要である。従って、中央銀行の立場からみても、国債市場は透明で流動性が高く、機能度の高いものになっていく必要がある。こうしたことから、政府も中央銀行も、持てる知恵を出し尽くしてでも国債市場の円滑な発展を期していかなければならない、ということを常々申し上げているわけである。
ご承知の通り、財務省では、理財局長の私的研究会である「公的債務管理政策に関する研究会」のレポートを踏まえて、今月初めに「国債管理政策の新たな展開」という方針を公表した。その中では、国債の大量発行のもとにおける安定消化の確保や、先程申し上げた国債市場の流動性の維持・向上を図る観点から、例えばプライマリー・ディーラー制度の導入や新たな商品性の個人向け国債の導入等、いくつかの具体策が示された。私どもとしては、これは望ましい方向の政策であると理解しているし、是非そういった政策が円滑に実施されて、より良き国債市場の発展に向けて具体的な成果が出てくることを期待している。
日本銀行も、かねてより国債の決済システムの運営主体として、国債決済のRTGS化や国債市場に関する様々な情報整備といった面で積極的な取り組みを展開してきている。今後とも、発行当局である国や様々な市場参加者と緊密にコミュニケーションを図りながら、より良き市場のパフォーマンスの実現に向けて努力をしていきたいと考えている。
【問】
金融庁は現在、健全な金融機関のみならず、自己資本比率が8%ないしは4%を下回る金融機関も対象とした、予防的・時限的な公的資金注入に関する新制度を準備している。総裁は、予防的な公的資金制度の必要性を繰り返し強調されているが、現時点で判明している枠組みについて、総裁のご見解を伺いたい。
【答】
新たな公的資金制度については、去る7月の金融審議会の報告書の公表後、金融庁において検討が進められ、今般、与党の部会において制度の大枠が了承されたと聞いている。
従って、これから法案化に向けた具体的な検討が進められていく段階なので、今のフレームワークそのものについて具体的にコメントすることは差し控えたい。いずれにせよ、新たな制度については、これからペイオフの完全実施という非常に大きなハードルが控えている中で、民間金融機関が極力自らの力でそれを乗り越えていくための努力を後押しする、いわば最後の公的サポートとして、適切に設計してほしいと思っている。上手く設計された制度が成立すれば、適切に運用していくように、皆で知恵を絞っていかなければいけないと考えている。
【問】
先般の経済財政諮問会議の中でも、日本銀行に対して、マネーサプライの増加を実現するような政策や、GDPデフレーター等も政策の目標に掲げてはどうかといった趣旨の、注文というか、意見があったと思う。総裁は、その場でもいろいろご意見を述べておられたが、そうした政府からの注文についてどうお考えか、改めて伺いたい。
【答】
経済財政諮問会議はお互いに注文をつける会議ではない。従って、そうしたご質問には、「注文はなかった」としか答えようがない。それよりも、経済財政諮問会議は、もっとフランクに(率直に)、実効性ある金融政策とは何か、政府の経済政策と整合性のとれる金融政策とはどういうものか、ということを忌憚なく意見交換する場である。この前の議論でも、来年度の経済運営について、政府のほうでいろいろな見通しの立て方を前提に経済政策のフレームワークが組み立てられている中で、日本銀行が推進している金融政策についても、改めていろいろな角度からどういう評価を加えるべきかという議論が行なわれたということだ。そのうちの1つとして、マネーサプライの動きを軸に金融政策というものを現在正確に評価できるのかどうかということが議論された。この点については、今のように構造改革が好ましいペースで進み始めている状況のもとでは、最終的なマネーサプライの伸び率だけでは正確に判断できない。それは、金融緩和政策が直接にマネーサプライに対してプラスに働く要因と、企業および金融機関のバランスシート調整が進む──つまり構造調整が進む──中で、非常に歓迎すべきマネーサプライの縮小が起こる、その両方の要因を──つまり中身を──良く分解しながら理解しないと、正確な判断ができない。この点について、経済財政諮問会議のメンバーの間で議論の結果、意見の不一致はなかったと私は思っている。
それから、デフレーターの議論については、実質経済成長率を見る場合、このようにイノベーションのスピードが非常に速く、物価が全体として下がっている状況下では、GDPを見る場合のデフレーターに、パーシェ指数に伴う下方バイアスが出てくる。デフレーターに下方バイアスが出れば、それを使って実質GDPを計算すると、実質GDPには逆に上方バイアスがかかる。この要素をきちんと考慮に入れながら、景気の回復度合いとデフレの解消度合いを正確に判断していく必要がある。この辺のところの認識をすり合わせたというのが正直なところだ。日本銀行は、消費者物価指数の前年比変化率を軸に金融政策運営のコミットメントをしているが、消費者物価指数はGDPデフレーターとは指数の計算の仕方が随分違っており、経済・物価を分析する上では、その違いを良く念頭に置きながら、より正確にデフレの実態を分析しなければならない。しかし、日本銀行の金融政策そのものを、市場および一般の方々にコミットメントしていく場合について言うと、日本の経済社会の中で、あるいは市場の中で、実際に経済活動をしている人たちは、デフレーターに基づいて行動しているというよりは、やはりより馴染みの深い消費者物価指数の動きというものを基準に行動しておられるのではないかと思う。そうであるとすれば、一般に行動の基準となっている物価指数を軸に日本銀行がコミットメントをしていくほうが、日本銀行の政策行動が理解されやすい、ひいては政策効果も発揮しやすい、こういうようなご説明をした。私は、この点についても特に違和感を持って受け止められたとは考えていない。
【問】
そうすると、マネーサプライについては、構造改革が進んでいる今の状況において、伸び率が低いことも一概にマイナスではないということか。
【答】
金融緩和が不十分だからマネーサプライが縮小しているとか、あるいは、経済の実態や金融システム不安等の実態に対して、間尺に合わない金融政策を行なっている結果としてマネーサプライがシュリンク(縮小)しているのであれば、それは好ましからざるシュリンクだと思う。そこは良く点検していかなければいけないと思う。
現在の状況で我々が点検する限りでは、金融緩和効果が一応浸透していることによって、金融市場は全般的に非常に落ち着いており、金融機関の資金繰りに問題があるが故にマネーサプライに不当なブレーキがかかっているということはないのではないかと考えている。むしろ、そういう不安が少しずつ解消し、資金繰りも円滑につくという環境のもとで、不良債権問題の処理が先行している金融機関については、貸出姿勢が次第に前向きになってきている。企業の側の資金需要と接点を合わせようという方向に変わってきているわけだから、それはポジティブに受け止めている。一方で、金融機関が不良債権問題の処理を進めるということは、借金を返してくれない企業に対して償却していく──貸出を償却していくから、当然預金は減っていく──ということだ。企業の側も、過去の過剰借入を返しながら、次第に前向きの経営体制を整えていく。過去の過剰借入を早く返すということは構造改革そのものである。過去の過剰借入を返せば、マネーサプライは減るわけで、これはまさにウェルカム・フォール・イン・マネーサプライ、歓迎すべきマネーサプライの圧縮要因が作動しているわけだ。従って、マネーサプライの歓迎すべき増加と歓迎すべき減少とをネット・アウトして、正しい評価をしなければならない。そのうえで、マネーサプライの歓迎すべからざる減少があるのだとすれば、それは我々の政策対応をきちんとやっていかなければならないということだと思う。
【問】
経済財政諮問会議では、いわゆる「改革と展望」というものを取りまとめる方向で議論しており、そこに2006年度に名目成長率2%という一種の公約を盛り込む方向で議論されている。一方で、日銀は量的緩和の解除の条件として、足許の消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるということ、多くの政策委員の期待インフレ率がゼロを超えるということ、さらに、それらの必要条件が満たされても、総合判断の上で決めるというふうに公約されている。その総合判断をされる際に、名目成長率2%が達成されているか否かということも重視されることはあり得るのか。
【答】
2006年度──まだ、だいぶ先だが──に向けて政府がそうした目標を掲げ、国民の皆さんが今後ともこれを支持し続けていくということであれば、日本銀行の金融政策の成果もできる限りそれに整合性のとれたものになっていくように努力していくことは、当然のことだと思っている。しかし、計画経済とは違って経済は生き物であるので、実体経済の動きと物価の動きが機械で計算したようにともに同じペースでその目標に収斂していくかどうかは、今後与えられる様々な条件によってダイナミックな変化を遂げるだろう。その点は、我々にとって非常にチャレンジングな課題であり、コンピューターで計算するように予め何かをセットすればそこにすっと行くものではないと思う。
取りあえず、我々は消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるという目標を、できるだけ早く達成する。そして、2006年度に名目成長率2%ということを国民が支持し続けるのであれば、そこに向かう道に物価安定という道筋も平仄が合い得るのではないか。つまり、我々自身の掲げている目標をなるべく早く実現することが、名目成長率と物価という2つの路線が沿っていくという方向になる可能性が強いと思っている。我々もこれからの政策をより適切に実行していかなくてはならないと思うが、本当に実行していけるかどうか──これからどういう条件の変化があるかどうか──にかかっていると思う。
【問】
一時国有化された足利銀行の新しい経営陣が近く決まり、今後、その経営陣のもとで処理と再生が行われることになるが、最初の段階では、不良債権処理の促進とそれに伴う地域経済への影響が、ある意味で利益相反する非常に難しい作業になるかと思う。地域に与える影響が非常に大きい金融機関の再生について、どうあるべきとお考えか。
【答】
経営そのものの問題であるので、いずれにせよこれから組成される新しい経営陣が、責任を持って判断していくべき課題であると思う。
(1)銀行そのものを立て直す、(2)地域経済と両立するかたちで立て直す、(3)ペイオフ完全解禁のハードルを自力で越える──こうしたターゲットが非常に明確なので、いかに課題が難しくとも、合理的な経営により、これら3つの課題を同時に達成していかなくてはならないということは明らかである。
そうしたことに知恵の出せる経営陣が、おそらく新しい足利銀行の方向性を決めていかれると思っているし、我々としては、それを期待しているということである。
【問】
本日決定会合で出た資産担保証券の見直しの背景と、同スキームのこれまでの実績評価——導入してからまだ日が浅いが——をお聞かせ頂きたい。
【答】
資産担保証券の買入れについては、中央銀行としては異例の措置として踏み切ったということを何回か申し上げている。しかし、異例の措置ではあるとしても、日本において、市場を通じた金融仲介ルートを時の経過とともに良いものにしていきたい、長期的な展望をしっかり持ってやっていきたいという意図が導入当初からあった。そのためには、マーケットの中で新しい経験をいろいろ蓄積しながら、我々自身も、そして市場参加者も、新しい知恵を付け加えながらやっていきたいと思っている。資産担保証券の買入れスキームについては、必要なモディファイ(修正)を加えながらやっていきたいということは、既に申し上げていたことである。
実際、我々自身も市場参加者も、日本銀行の買入れ措置を1つの口火にして、マーケットがある発展のリズムというものを身に付けていく可能性があると感じ始めているところである。
日本銀行自身の買入れ額は比較的少額にとどまっている。しかし、日本銀行が買入れ適格だと判定した資産担保証券の市場での消化が非常に円滑だということからみてもお判りの通り、やはり市場の見る目と我々の判断の双方が収斂した場合には、市場発展の良いモメンタムが与えられるということが事実として確認されてきたと思う。
我々自身が最初に設定したスキームは、随分細かい条件を付けているが、この際、市場参加者の目もお借りしながら、一度レビューしてみるということである。我々のスキームについて、日本銀行の財務の健全性を基本的に害するわけにはいかないとか、市場の価格形成メカニズムを歪めることがあってはいけないといった条件は決して譲れないが、その条件を守りながら、おそらく修正を施すことがより望ましい点を発見しうる可能性が現時点では強まってきていると思っている。そうした点を正確に突き止めて、本当に必要な改善策を実施していきたい。ちょうどその時期に来たということである。
【問】
制度問題について伺いたい。現在、銀行に証券仲介業務を認めようという動きが議論されているかと思う。証取法65条の問題は昔から議論されていると思うが、市場型間接金融というものが揺籃期を経て、これから発展段階に入る中にあって、どのような銀行と証券の障壁のあり方が望ましいとお考えか。
【答】
審議会での議論はこれからさらに詰められていくということなので、今、私が結論を先取りして私見を述べ過ぎるのは適当ではないと思う。
しかし、銀行にしても証券会社にしても、これから新しい展開を遂げる日本経済の中で、過不足なく、ミスマッチのないサービスをきちんと提供していけるようなマーケットや金融機能を築き上げていくという観点から議論すべきである。従来から引きずっている垣根意識や業態毎の利害の衝突を、単に調整するというかたちで議論を進めないほうが良いと思う。
将来必要なマーケットのファンクション(機能)をいかに整えていくか、そしてそうしたファンクションを担っていく金融機関は──既成の銀行、証券という区分に捕らわれずに──、どのような要件を備えるべきか。また、コーポレート・ガバナンスについても、いろいろな角度からきちんと議論したほうが良いという気がしている。
既存の枠組みからちょっと顔を出すというかたちの議論でいくと、どうしても垣根論争の延長線上、利害の調整というかたちで議論が進んでしまう。これではあまり大きな前進が期待できないような気がする。
金融審議会では、そういうかたちの議論ではなく、ある意味で少し飛躍のある議論をしながら——将来必要な金融サービスや金融機能、市場機能を一度きちんと整理して、そこからプレーヤーというものはどのような要件を備えるべきかと、議論の順番を従来と逆にしながら——、結論を出して欲しいと思っている。
【問】
財務省のほうで新しい国債管理政策というものを示しているが、今後、日銀としては具体的にどのような協力が考えられるのか。例えば、日銀が保有する大量の国債について、買入消却に応じるとか、現在TBで乗り換えているものを、もう少し期間の長い国債で乗り換えていくとか、そのようなお考えはあるのか。
【答】
国債管理政策と日本銀行の金融政策ないしは金融調節のための国債売買ということは目的が異なっている。具体的な着眼点が異なっているので、今おっしゃったような意味で協力し合うというよりは、「良い市場を作っていく」という観点からお互いに意思疎通を図るということが一番のベースになると思う。
先程、国債は信用リスクが伴わないという意味でリスク・フリーな金融市場だと申し上げた。政府では、10年ぐらい先にはプライマリー・バランスを回復するという方針を既に確立しておられるわけで、そうした大きな方針が必ず実現するような経済運営について協力していかなければならないということはあると思う。より短期的にみれば国債の大量発行がしばらく続く中、それを市場で円滑に消化しながら、政府としては長期的にみてコストの低い調達ができること、中央銀行としては過大なリスクを負担しないかたちで金融調節の目的を全うできること、というように具体的な目的・着眼点は異なっている。しかし、マーケットの基礎的な信認を損なうことなく、そして、マーケットの機能度を——常に流動性が高く透明な市場という意味で——より高くし、保全していくために知識を交換し、お互いにそれにもとるような行動をしていないかどうか、良く確認しながらやっていく、ということが依って立つところの基本になると思う。
買入消却とおっしゃったが、そのこと自体がすぐに国債管理政策への協力になるかどうかについては、具体的な問題として考えなければいけない時に、そういう観点から検討がなされると思う。買入消却に応じることがアプリオリ(先験的)に国債管理政策への協力かどうか、これは一概に言えないと思っている。
【問】
量的緩和政策継続のコミットメントに関連して伺いたい。消費者物価指数の改善──特殊要因があったとはいえ──、日銀の景気判断の上方修正、株価の上昇等を受けて、時間軸効果が弱まって金融市場が若干振れた時期もあったが、量的緩和政策継続のコミットメントの明確化により、その後は金融市場も安定していると思う。こうした状況下、最近では良い経済指標が続いている中でも、すぐに政策が変わるということは考え難いためか──10月に公表された「展望レポート」をみても、消費者物価指数に関しては来年度もマイナスが続くと見通している──、金融市場は然程反応していないかと思う。こうした最近の金融市場の反応と、量的緩和政策継続のコミットメントの明確化の市場への影響等についてお聞きしたい。
【答】
年末が接近しているが、市場の安定という意味では、短期金融市場は近年にない落ち着いた状況になっていると思う。経済は少し良い方向に動いており、金融システム面の不安要因も一頃に比べれば解消される方向に少し前進している。また、日本銀行の流動性の供給が非常に厚めに行われているほか、長期・短期を組み合わせた肌目細かいオペレーションを行っており、年末越えないしは来年3月の期末越えというところまで、かなり目配りの効いた金融調節を進めている効果が出ていると思う。
長期金利について申し上げれば、景気が良くなってくる方向性が強まれば強まるほど反応するわけであるが、我々のコミットメントが非常に明確なので、——「消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで量的緩和を継続する」とし、「安定的にゼロ%以上になるまで」というのはこういう意味であるというところまで明確に述べている——、少し景気が良くなっても——物価の動きが一時的にプラスになることがあっても——中央銀行はなお動かないという点について信認を頂いているのではないかと思っており、そういう意味の安定効果が働いていると思う。
我々は、経済が好転するにつれて需給ギャップがどの程度縮小し、特殊要因を勘案した物価がどのように動いているかについて、いろいろな角度から点検しなければならない。また、価格設定の主体である企業の価格戦略がどう変わるか——一頃のように安値攻勢一本槍というプライシング・ポリシーがどのように修正されていくのかなど——について、いろいろな材料を集めながら判断していかなければならないと思っている。今のところ、我々の物価の基調判断を変えるような段階には至っていない。
【問】
為替について、現在、円は対ドルでは107円台後半で高止まりしているが、その背景についてどのように分析されているか。また、景気が緩やかに回復している中で、円高が企業収益に与える影響についてのお考えや、今回の金融政策決定会合でこうしたことについてどのような議論が交わされたのかについて、お聞きしたい。
【答】
最近の為替相場の動きを、若干時系列を遡ってみると、基本的に言えることは、ドルが弱い方向に振れているということだ。その反射効果として、ユーロが強い方向に振れ、円も強い方向に振れているという感じは非常に明確になっていると思う。
米国経済は回復の力を増しており、高い生産性上昇率を伴いながら予想以上の速さで回復している。しかも、個人消費、住宅投資だけでなく、企業活動の活発化も伴いながら回復している。こうした状況と、ドルが弱いということとの平仄を、皆がどのように理解するかという課題はまだ残っていると思う。
2003年は間もなく終わるが、2004年をどう見通すかについて、市場は少し長い目で、来年の世界経済に対して探りを入れているということだと思う。地政学的リスクをどのように軽減していくのか、米国経済の一番のベースのところで双子の赤字がどうなるのか、といったリスク要因に市場が光を当てながら、今の相場を形成している可能性がある。市場のことなので、細部に亘って要因分解はできないが、取りあえずのところ、ドルが安くなる傾向の反射効果としてユーロが非常に強くなり、円もある程度強くなっているということだと思う。
企業収益への影響については、現在のところそれ程大きな影響はない状況にあると思うが、短観の業況判断でも大企業・製造業の先行きに少し慎重な業況判断が出ている部分の中に、そうした懸念が幾ばくか反映されている可能性はあると思う。しかし、企業の収益の上げ方をみると、以前に比べれば、輸出取引でも上げるが海外投資の結果として上げる部分もあるなど、収益の源泉が非常に多角化しながら企業経営が進められている。従って、従来と同じ尺度で、円が強くなればこれに比例して収益にダメージが及ぶとは必ずしも考えなくて良いかもしれない。そこのところはこれから見極めていきたいと思っている。
【問】
今年最後の記者会見になるが、3月に就任されて、総裁ご自身としてこの1年間はどのような年であったのか、また総裁として来年はどのような年にしたいとお考えか。
【答】
大変忙しく、あまり振り返る暇もなくここまで来てしまったので、年末の感想というものはまとまっていない。しかし、現時点で経済を点検すると、着任した時点で予想したよりはほんの僅かに経済が良い方向に動いている。金融システムについてもほんの僅かに、私どもが予期したよりは良い方向に動いているので、これは是非来年につなげたいというのが率直な気持ちである。現状で決して満足はしていない。来年は、より良き日本経済に向けてもっと努力したいと思っている。
米国や中国などの海外の経済環境はどうかとよく言われるが、確かにグローバリゼーションの中で経済は連関を強めながら動いているので、海外要因というのは非常に重要であるし、為替相場の動き等にもいろいろなインパクトを受けるだろうと思う。しかし、私どもにとって一番大事なことは、日本の民間セクターの企業および金融機関が、早く今の構造問題を処理して、前向きの投資により多く着手できるような体制に進んでもらいたいということである。そうした観点から、我々は、民間企業、民間金融機関の構造改革努力を引き続き強くサポートしていけるような金融政策に狙いを定めて、さらに努力をしていきたいと思っている。
以上