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総裁記者会見要旨(2月26日)

2004年2月27日
日本銀行

―平成16年2月26日(木)
午後3時半から約25分

【問】

本日の金融政策決定会合について、国債市場の流動性向上に向けた制度導入を検討することとし、金融調節は現状維持という結果になったが、この趣旨についてお伺いしたい。

【答】

本日、ご報告することは2点ある。1つは、次回の政策決定会合までの金融調節方針に変化はないということである。現在の30~35兆円程度の当座預金残高目標を維持することを決定した。

これは、この当座預金残高目標のもとで潤沢な資金供給を今後も継続し、現在みられる景気回復の動きを、さらにしっかりとサポートしていきたいという趣旨によるものである。

また、もう1点は、日本銀行が保有する国債を、市場に対して一時的かつ補完的に供給する──いわゆる「品貸し」というかたちで提供する──ことによって、国債市場の流動性を高めていく一助にしたいということである。

具体的には、これから事務局においてスキームをよく詰めさせて頂きたい。市場関係者ともよく相談しながら、フィージブルなものにしていきたい。中央銀行の市場への関与であるので、あくまでも補完的措置という性格のものであるが、補完的性格のものであるにしても、使用する場合には有効な措置として使えるよう、良いものを作り上げていければと思っているところである。

調節方針の現状維持決定の背景は、現在の経済および金融情勢に対する判断に根ざすものである。経済に関する判断については、一言で言えば、海外経済、国内経済とも、目下のところ順調な回復過程を辿っているという判断である。

当面の注目点としては、10~12月のGDP統計はかなり高い数字であったが、この1~3月期と均してみて、実勢をさらによく確認してみたいという点がある。輸出、設備投資を中心に景気回復のモメンタムが強まっている。そこに生産、企業所得、そして企業の投資の好循環が強まりつつ展開している。そうした景気の勢いが、10~12月、1~3月、均してみて実勢としてどのように確認できるかということが1つである。

もう1つは、10~12月のGDPの数字でみても、個人消費についても比較的しっかりした数字が出ているが、この点についても、1~3月の動きをよくみたい。個人所得の回復を伴いながらの個人消費の伸びということにつながっていくのかどうか、あるいは、個人所得の増加がさほどでない状況が続いても、企業が提供してくる新しい商品・サービスが需要誘発型であることから、消費も伸びるという面がある程度伴っているのかどうか、あるいは、その合わせ技か。様々なことをきちんと判断していきたい。これが当面の注目点の2点目である。

3点目は、申すまでもなく、物価である。ご承知の通り、企業物価は下げ止まって、プラスマイナスゼロというところまで来ている。これが今後どのようになるのかということと同時に、こうした川上段階の物価の動きが、小売ないしは消費者物価指数の段階までどのように波及していくか。金融政策の観点から、重要なポイントである。

金融市場のほうは、平穏に推移しているという判断である。市場の中での資金のやりとりは非常に円滑に進んでいる。金利の形成もスムーズであり、短期金利だけでなく、より長めの金利も、景気回復のモメンタムが増す中で逆に少し低下の方向に動いている状況にある。市場の雰囲気も落ち着いていて、期末を巡っても格別の心配をする動きはないという状況にあると判断している。

これらを総合的に判断して、次回の金融政策決定会合までは、少なくとも、政策変更の必要はないとの判断に至ったわけである。

【問】

10~12月の実質GDPは年率7%と予想を上回る伸びだった一方、デフレーターのほうは、下落傾向が続いている。これについては、実質GDPを嵩上げしているとか、あるいはデフレ圧力が依然強いといった見方があるが、総裁のお考えを伺いたい。

【答】

実質GDPの伸びはかなり高い数字が出たというのが率直な印象であるが、同時に、名目GDPをみてもプラスになってきているということで、両方みて、景気が順調な回復過程に入っていると判断できると思う。

この間のギャップが大きいのは、イノベーションの進展が非常に著しい環境の中で、デフレーターが1つの従来にない新しい経験則を生み出しつつあるという印象を持っている。

全てを総合して、景気は緩やかな回復を続けている。この先も続くことについての我々の確信をかなり裏付けている。そして、物価についても、基調のところでは、緩やかに良い方向に向かっているのではないかと判断をなし得る材料ではないかと思う。

【問】

2点伺いたい。まず、今日検討を指示された「品貸し」について、なぜ今こういうことを指示されたのか。2点目は、テクニカルな話であるが、現担レポのかたちで行われるのか、文字通り「品貸し」そのもの——賃料だけ——でやりとりするものとなりそうなのか。現担レポになれば金融調節に絡んでくるので、金融調節の中で吸収サイドのほうになってくると思うのだが、如何か。

【答】

タイミングについては、普通の金融政策のように経済情勢との関係からみて、今がベスト・タイミングであるとか、そういう際立ったタイミングの判断があったわけではない。かねてより国債市場の整備については——他の市場も重要であるが、とりわけ国債市場というのは金融政策の中心的な舞台ということもあり——従来から様々な努力をしてきている。例えば、国債決済のRTGS化、あるいは情報整備の面でも様々なインフラ構築について日本銀行は支援してきたが、そうした長期的な努力を継続していることの1つの新しいステップだと考えて頂きたい。

これから具体的に検討しようとしている「品貸し」のスキームだが、それほど頻繁に日本銀行がこういうかたちで市場に手を貸さなければいけないということを想定しているわけではない。過去を振り返ってみても、「あの時こういう制度があれば良かった」というケースがいくつかあるが、それほどあるわけではない。しかし、いくつかあるケースというのが、市場価格の形成に歪みを残したという過去の形跡がしっかり残っている。従って、今後の国債市場の売りも買いも円滑に進めていくために、そして市場価格の形成に歪みがないようにもっていくために、むしろ市場が平穏な今、こうした用意をしておくということは意味があるのではないかということである。

どういう形式の「品貸し」の仕組みにするかということは、これから検討しなければわからない点である。レポ形式をとるか、単純に貸借契約にするか。海外でも大きく分けて2つのやり方があり、日本の市場の場合、どちらが良いか利害得失を詰めなければならない。この点についてもこれから詰めることである。

【問】

先程、景気について、総裁は「順調な回復過程にある」という言葉を使われたと思う。これまで日銀は「緩やかな回復過程」という言葉を使ってきたわけだが、一段と景気の見方が強気なものになってきたということなのか。

【答】

全く同じ言葉を使わなければ同じ見方ではないというところまで厳密にお考え頂くのであれば、言い直さなければならない。今まで通り「緩やかな回復過程を続けている」という判断に変わりはない。毎回「緩やかな回復」が続いているとしても、何か心配事があるのかないのかということまで考えて言えば、そうした範囲の景気回復であれば、当面そんなに大きな懸念材料がないという意味で「順調だ」ということだ。私の使う単語について、あまり厳密にその連続性をご理解頂かないほうが会話がしやすい気がする。

【問】

先程3点目に挙げられた物価動向について、最近、原油高や国際商品市況高が非常に目につく。また、先日の岩田副総裁の講演でも、川上部門の急騰が中間財および最終財に波及していくことを慎重に見極めなければいけない、とご発言されている。一次産品の急騰が今後どういったかたちで物価に出てくるのか、総裁の個人的なお考えで結構なので伺いたい。

【答】

これからの動き次第なので、明確に予測し難いところがあるというのが率直なところであるが、少なくとも世界経済、日本経済ともに、過去の国際商品市況ひいては国内商品市況が上がる局面との対比でみると、今回は、最終段階の価格——小売段階や消費者物価の段階——への波及の時間的ラグが、過去のパターンよりもかなり長いという感じで、既に認識され始めていると思う。日本だけでなく、主要国も押し並べてそういった状況である。従って、今後急速に消費者物価の段階にまで川上段階の物価の上昇が及ぶとは、断言し難い状況であると思っている。

しかし、世界経済、そして日本経済の回復が順調であれば、着実に需給ギャップが縮まっていくわけであるし——その中でも企業間競争がグローバル化の下でかつてなく厳しく、その面では最終製品について高い値段を通し難い環境は今後とも続くと思うが——、大きな下敷きとして需給ギャップが少しずつ縮まっていけば、力のある企業から順次価格戦略をより積極的にしていく可能性があると思う。これからの見極めどころであると思っている。

【問】

景気回復のモメンタムが高まる中で、短期だけでなく長めの金利が逆に低下しているとのお話しが先程もあったが、最近の長期金利をみると、1か月前の金融緩和から比較すると10ベーシス・ポイント、年明けと比較すると20ベーシス・ポイントぐらい低下していると思う。これは財政や金融政策の狙いの上では良いのかもしれない──量的緩和の1つの効果と言えるのかもしれない──が、現実にシクリカル(循環的)な動きが強まっている中で、ある種の市場の甘えとか、行き過ぎた期待といったようなものにつながっているとの見方もあると思う。これについて如何お考えか。

【答】

非常に大きな背景として世界的に景気の回復が進んでいる中で、日本だけでなく、海外主要国の債券市場をみても、やはりほぼ同じぐらいの幅──今、10ベーシス・ポイントとおっしゃったが──で長めの金利も下がっている状況である。日本の長期金利というか、やや長めの金利の最近の低下は、日本だけが際立っているというわけではなく、だいたい世界の長期金利の動きと整合性のある動きをしていると思う。そういう意味では、景気の回復傾向ということを市場は十分認識しながらも──また商品市況が非常に上がっているということも認識しながらも──、最終的な物価動向に対する急激な変化ということを市場は必ずしもまだ予見していないという状況である。そういう状況であるから、主要国の中央銀行の金融政策もどちらかと言えば、緩和スタンスをなお続けているという中での金利形成だと思う。

市場の中に甘えがあるかどうかは私にはわからない。わからないが、少なくとも日本の市場だけが特異な現象をしているとは感じていない。

【問】

前回のドバイG7の声明は、マーケットによって一部誤解されたというのが主要国の一連の考え方だったと思うが、今回のフロリダでのG7後の市場の動向を見て、ドバイ後に起きた誤解が今回での新しい声明によって修正されたのかどうか、その辺についてのご見解を伺いたい。

また、昨年夏以降、長期金利がかなり大きな変動をする中で、一部スクィーズが起きたとも言われているが、ここ半年程度の長期金利の動きと今回の国債品貸し制度とを具体的に関連づけて少しご説明願いたい。

【答】

今回のボカラトン(フロリダ)でのG7声明の結果、為替に対する理解が市場の中で深まったかどうかについて、市場関係者の方々のご意見を全部つぶさに承知しているわけではないので断定はできない。しかし、やはり為替相場の動きはファンダメンタルズに沿うべきである、過度のボラティリティは景気に対して望ましくないという声明の部分は、時間の経過とともに理解度がやはり浸透してきているのではないかと推察している。そのため、ボカラトンでの会議終了後、それぞれの国において様々な発言が出ているが、そうした発言に対する市場の反応というのは、為替相場を飛び跳ねさせる方向に動いているというよりはある種の落ち着きの方向に動いているのではないかという感じを持っている。

ドバイ以降というよりも、既にそれ以前の段階から──過去2年ぐらいの間の米ドルをとってみて──実質実効為替レートのベースでかなりのドルの減価が進んできている。それが世界経済に対してある種の均衡化作用を示し始めるぐらいのところまできて、為替相場の水準調整が終わったのかどうかというところはもちろん断言はできない。為替市場が深層心理において、そういったところまで感じながら市場の落ち着きが始まっているとすれば──そこまでは私自身はまだ断定する自信はないが──、将来にとって良い安定効果を持つと思っている。

品貸しについては、昨今の国債市場の動きから何か答えを引き出したというよりは、流動性の高い市場を作っていこうという長年の宿題として、抱えていた問題の1つを、むしろ市場が落ち着いているこの段階で、持ち出してみようと考えたわけである。国債市場の機能というものは、常に重要であり、この先ますます重要になっていくというのは誰の目から見ても明らかであるから、外国の中央銀行が具体的に持っている手段を、ある段階では我々も持っておいたほうが良いだろうという気持ちは以前からあった。むしろ市場が落ち着いている今の段階で、具体化できるものであるなら具体化しようということである。

【問】

地域金融機関の問題で1点伺いたい。昨日、熊本ファミリー銀行が、今期は大幅な赤字となり、優先株も無配とすると発表した。大手行のほうでは財務の健全化が進んでいる一方、地銀のほうではあまり進展がみられていないのではないかと思うが、期末を控えた現在の地域金融機関の健全性について、総裁の現状認識を伺いたい。

【答】

今お話頂いた熊本ファミリー銀行についてはご指摘の通りのことが起ったわけであるが、地域の金融機関全般ということでお話すれば、もちろん大手行に比べて問題の処理のテンポが少し緩慢な形で今日まできていることは事実としても、それぞれの方向性としては、問題処理が着実に進むという方向で進んできていることは確かである。熊本ファミリー銀行のような例が今後続出するというような心配はないと考えている。ただ問題が全く解消したわけではなく、これから処理されるべき問題──もっと努力を加速して処理していくべき問題──を、それぞれの金融機関が抱えているので、来年の春のペイオフ完全解禁というところを睨みながら、今後努力が加速されていくということが非常に大事であると思っている。

以上