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福間審議委員記者会見要旨(3月25日)
2004年3月26日
日本銀行
―平成16年3月25日(木)
午後 1時30分から約25分間
於 ホテルニュー長崎
【問】
まず、本日、金融経済懇談会の参加者の方と意見交換されたと思うが、どのような意見が出たのか。また、そこで出た意見を踏まえ、中央と地方の経済格差ということが言われる中で、長崎県の経済についてどのようにお感じになったのかを伺いたい。
【答】
色々な層の方々と意見交換をし、現在の状況を自らの改革で乗り切らないといけないというお話をお聞きした。こうしたことは、大手の企業もそうであったし、中小企業の方々も皆さんそうした意識を持っておられて、これは日本全体を覆っているムードだと感じた。具体的には、企業によって恵まれた条件の下で業績が好調であったり、あるいは、今努力途中で果実がもう少しで出てくるというように、色々あったが、いずれにしろ皆さん一生懸命汗を流しているということで、心強く感じた。
長崎県がどういう産業を中心にやっていくかということについて、皆さんご存知のように、観光業あるいは水産業にさらに力を入れていくというお話があった。それと、今日の県副知事のお話では、製造業のウェイトをもう少し引き上げないといけないということであった。長崎県は元々製造業のウェイトがもう少し高かった地域だが、やはり製造業というのは一つのコアであるし、その周辺にサービスやソフトがあるという形であればいいが、今のアメリカのようにサービスやソフトばかりに偏っているのはどうかと思う。当地には、せっかくモノ作りの基盤があるのだから、雇用の受け皿として、もう少し製造業を呼び込みたいということを副知事はおっしゃっていた。私もスピーチでお話したように、モノ作りの基盤があるという点がアメリカと日本の違いではないかと思う。それは中国をはじめアジアというマーケットが近くにあるということや、アジア諸国と日本が産業構造面で補完関係にあるということが大きいと思う。特に長崎県の場合には、地理的に中国・アジアに近く、歴史的にも、上海との関係が日本で一番早く開かれた所なので、アジアとの関係が重要であると思うし、実際、アジアとの関係を深めていく努力を着実におやりになっていると思った。
【問】
昨年の10~12月期に高い経済成長率を実現し、政府も景気判断が前向きな方向になっているが、現在の日本銀行の政策運営の基本的なスタンスについて改めてお話し頂ければと思う。
【答】
これは色々な機会に申し上げているが、まずもって日本銀行としての最優先課題はデフレからの脱却である。景気回復の下でも物価が下がっているようであれば、量的緩和は継続するし、その過程で必要があれば——そういうことは今からはあまりないと思うが——機動的に動くこともある。結局、何がポイントかというと、ミクロの改革によって景気は浮上してきているので、次はデフレからの脱却ということになる。そのために、昨年10月10日に「量的緩和政策継続のコミットメントの明確化」を発表し、量的緩和政策解除の第一、第二の条件として、CPIが足許および予想においてプラスになることを必要条件とし、十分条件としては、その上で総合判断することとした。何も総合判断するということが弱気という訳ではなく、文字通りそこで虚心坦懐にもう一度レビューして、ボタンを押さなければいけない時にはボタンを押すということである。
【問】
質問を2つさせて頂く。今、「これから機動的に動くことはあまりないと思うが」とおっしゃったが、1月20日の追加緩和について、3つの理由を講演で挙げておられた。1つ目は円高の懸念があったということ、2つ目はFBの発行額が急増しているということ、3つ目がペイオフ全面解禁に向けた保険であったということだった。これが4月の展望リポートの発表時に、また改めてデフレが続くという展望が示されれば、また、同じように円高であれば介入も続けられるだろうし、FBも発行されるであろうし、ペイオフもまだだし、当然1月と同じように、我々も市場も追加緩和をして頂けると、強い期待を抱いている訳だが、そういう期待を裏切られないのかどうか、そこを期待していいのかということについてお聞きしたい。もう1点は、昨日の産経新聞で、武藤副総裁が、個人的な意見というふうにおっしゃっているが、「消費者物価の前年比について、緩やかな景気回復が続き、需給ギャップが縮小していけば、いずれ安定的にプラスになる状況が展望できる。個人的には17年度にそういう事態がくることを期待している」とおっしゃっている。執行部である武藤副総裁としてはかなり大胆な発言をされていると思うが、執行部以上に自由に発言できる審議委員として、福間委員も同じように期待できると思っていらっしゃるのか、それともまだまだと思ってらっしゃるのか、以上の2点についてお聞きしたい。
【答】
追加緩和については、今日のスピーチでも申し上げたが、ある程度資金需要が出てきているし、金融機関も貸出姿勢が積極化しているので、私は、それが、次の事後的な指標としてマネーサプライにどう現れてくるか、要するに、あまり空回りしていないかどうかということを含めて点検する必要があると思っている。スピーチで量的緩和政策の副作用と効果ということを申し上げたが、ぼつぼつそういうところを全体的に見ていかないといけない。かといって、私は、ここで止めるというように予断を持っている訳ではなく、デフレ脱却ということについては、しつこく見ていきたいと思っている。円高がデフレをどの程度招くかということは、今のところ——円高慣れしたとは言わないが——フレッシュなレベルではないだけに、レベル感よりはむしろスタビリティー(安定性)の方が重要になっているのではないかと思っている。ここからどんどん行くようであれば、財務省の介入も含めて色々なことを考えなくてはいけないと思っている。マネーの観点からみると、設備投資が出てきているということで、資金需要の動向も含めて、私は貸出がどう伸びていくかというところに視点を置きながら、その上で意見を言っていきたいと思っている。私としては、4月にどういうことがあるかについては、もう少し時間もあるし、今ここで、こうやります、ああやりますというには、まだ少々材料不足というところである。
2番目の武藤副総裁の記事に関して言えば、もちろん、出来るだけ早くデフレから脱却したいということは、日銀では副総裁に限らず皆そう思っている。先程申し上げたように、国際商品市況が上がって、企業物価も上がってきていることは——上がることが良いという訳ではないが——物価がデフレから脱却する一つの素地が出来つつあるという面で、エンカレッジングなサインだと思っている。ただ、先程も申し上げたように、CPIというのは、日本だけではなくて、アメリカでもあるいはアジアでも、ヨーロッパでも安定しており、その背景にはITの活用とかグローバル・コンペティション(世界的な競争激化)とか色々あると申し上げたが、そういう点を考えると、デフレ脱却については、「出来るだけ早く」ということは言えても、時期がいつだ、何年だということはなかなか言い難いと思っている。昨日からの当地の方とのお話しの中で、受注産業型の企業からは、最近の国際商品市況の上昇、あるいは素材価格の上昇に加えて、デリバリー(原材料の調達)も不安定になっているというお話を伺った。昔であれば、それだけで値段が上げられたが、今は外との競争が厳しいということもあり、上げにくいという状況にある。そういう中では、デフレ脱却の時期がいつということよりは、希望としてだが、もう随分長く続けている訳なので、緩やかながらも景気回復が継続していく中で、ぼつぼつ脱してもらいたい、その位の体温は高まっていくのではないか、そのように思っている。それが2006年なのか、あるいはそれ以降なのかということは別として、とにかく来年4月のペイオフ全面解禁までは金融システムの健全化が一つの大きなポイントで、それまでに不良債権を半分に圧縮するということが行われ、金融システム問題からやっと卒業できるという状態になれば、様相は金融システムの面からは変わってくると思っている。デフレ脱却の時期ということについて言えば、正確に何年ですというよりは、希望的には、もう随分続けているので、一日も早く脱却したいという気持ちである。しかし、環境は相当に厳しいため、それまでは、コミットメントしているとおり量的緩和は続けるということである。
【問】
最近、巨額の為替介入についての議論が活発になってきたが、この必要性について、ご意見を聞かせて頂きたい。
【答】
優等生の回答をすれば、為替については財務省マターなので、私がレベルとか介入についてコメントすることはできないが、私は、長い間通貨を見てきた経験からすれば、レベルよりはスタビリティ(安定性)を求めるべきだと思う。おそらく財務省としても、一点のレベルを守るということよりは、スタビリティ(安定性)を保ちたいということだと思う。そういう面では非常に理解できるし、日銀としてもそれに一対一で呼応する訳ではないが、ある程度の金融緩和条件を創出させておくことが必要だと思っている。日本が約13年間苦しんできた中で、明るいところが見えて、もう少しで出口という時に、もう一度デフレの要因が高まることを避けるために、政策として通貨政策が使われるということは理解できる。
【問】
最近高まっている議論の一つだが、日銀がCPIゼロ以上といっていることについては、その上に色々な条件もあると思う。数字をオフィシャルに変えるということでなくても、また、インフレターゲットとは言わないまでも、マーケットとの対話の中で、ゼロというよりは、例えば1%とか、ゼロでは足りないとかいうようなメッセージが、日銀の4月のレポート発表の際に出てくるのではないかとの見方もある。そうした見方についてはどう思われるか。
【答】
量的緩和政策のコミットメントの明確化を昨年の10月に図ったので、ゼロに接近したからといってCPIに関する内容を変えることは、マニピュレーション(操作)になる。やはり、そういうものは一つの指標や内容でもって判断しなければ、ますますマーケットとの対話が遠くなっていくと思う。CPIの指標にはバイアスがかかっているなど、もちろん学問的には色々あると思うが、少なくとも今はCPIでもってプラスになり、あるいは予想がプラスになるということでマーケットとの対話をやっている訳である。今の段階でそれに触るということは私としてはないのではないかと思うし、あるとしたら、私としてはなかなか賛成しかねる考え方だと思っている。
【問】
福井総裁が2日前の国会での半期報告において、今年になって財務省との間で行った米国債の現先取引について、今後そういう必要性に再び迫られた時には同じような方式だけではないという可能性を示唆されたということだが、現先以外ということになると幾つか選択肢があって、財務省の外為特会から米国債を直接買い切るというのが一つ、あるいは市場から日銀がオペの一環等で米国債を買い切るという方法もある。そういう意味では、今後、現先取引以外にどのような選択肢があるとお考えか。
【答】
日銀法40条の中で、為替の売買の方法を色々規定してあるので、そう種類がたくさんあるとは思わない。私の個人的意見を求められれば、目的からみて、私は先般の現先がやはり一番王道かなと思う。一時的に円資金がないという場合には、ああいう方法が一つの方法なのではないかと思う。補正予算が通るまでの暫定的な措置としてやられるという、今回のような事態であれば、ああいう方法が一番常識的な方法ではないかと思う。おっしゃるように、買い切りにするということになったら、そう簡単には結論は出ないのではないかと思う。先程の日銀法40条の問題もあるし、権限からいっても財務省の問題になっているので、やはりそれに対してのファイナンスという面からは、現先という方法が一番即時性のある、あるいは手馴れた方法だろうと私は思う。今回の場合は、介入資金不足という問題であったので、オプションとしては、それが一番良いと申し上げた。
以上