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総裁記者会見要旨(4月28日)

2004年4月30日
日本銀行

―平成16年4月28日(水)
午後3時半から約30分

【問】

本日の政策決定会合の結果について趣旨をご説明頂きたい。また、本日公表された「展望レポート」を踏まえて、現時点での日銀の景気・物価に対する見通しを伺いたい。

【答】

本日の決定会合では、当面の金融調節方針について、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。この当座預金残高目標のもとで引き続き潤沢な資金供給を行い、今後の景気回復の動きをさらに確かなものにしていきたいという趣旨で決定したものである。

背景となる経済・物価情勢の判断については、前回会合(4月8・9日)以降、あまり日が経っていないため、特段大きな変化はないと言ってしまえばそれまでであるが、経済は生き物であるので、注目すべき変化は刻々と出ていると思う。

米国をとってみても、雇用情勢の改善が次第に確認されてきているし、物価指数が予想よりもやや高めに出ていることもあり、金融情勢に対する観測も微妙に変わってきていると思う。

アジアのほうでも、例えば、中国では第1四半期の経済成長率が9.7%という非常に高い数字が出て、中国人民銀行の経済成長ペースに対する調整、その効果について、関心が少し高まっているということがある。

国内のほうも、昨年10~12月の高い成長率に比べると今は少し反動局面にあるとは思うが、景気回復の裾野が広がってきている。あるいは、物価の面でも企業物価指数の段階では、海外商品市況高騰の影響が及んできているということがある。

そうした変化をすべて受け止めて、日本の金融市場は引き続き平穏に推移している。つまり外からの様々な影響を吸収しながら市場地合いは極めて落ち着いた状況にあるといったことを情勢判断に取り入れながら、今回の「現状維持」という方針を決めた。

また、本日、いわゆる「展望レポート」を決定・公表し、2004年度の経済・物価の見通しを明らかにした。そのポイントはいくつかあるが、一言で言えば、2004年度も、生産や企業収益の増加を背景に、前向きの循環が次第に強まるもとで、景気は回復を続けるという予想である。

すなわち、海外経済は米国や東アジアを中心に高めの成長を維持するとみられるため、輸出や生産は増勢を辿り、企業収益も増加基調を維持するとみられる。こうした状況のもとで、設備投資は製造業を中心に増加傾向を辿るであろう。また、生産活動や企業収益の増加の好影響は、雇用・所得面や資産価格の変化を通じて家計部門にも徐々に及んでいくと考えられ、つれて個人消費は緩やかな回復に向かうと想定されるという判断である。

物価面についてみると、国内企業物価は、内外商品市況高や国内需給の改善などを反映し、2004年度は前年比若干のプラスとなる可能性が高いという内容を織り込んだ。一方、消費者物価についてみると、物価の基調に影響する需給ギャップは着実に縮小すると見込まれる。しかし、米価格上昇などの一時的要因が剥落するほか、商品市況上昇の影響も企業部門における生産性上昇等によってかなりの程度吸収されると見込まれる状況にある。従って、2004年度の消費者物価指数は、基調的にはなおごく小幅の下落が続くと予想し、これをレポートの内容に織り込んだわけである。

【問】

先週末のG7開催時における各国当局者との意見交換等を踏まえて、最近の世界経済動向や当面の主要課題などについてどのような認識がG7で共有されたのか、総裁に改めてご説明頂きたい。

【答】

現地での記者会見でも申し上げた点であるが、前回2月のG7に比べると、為替相場の問題が特にクローズアップされたということがなかったため、どちらかと言えば非常にオーソドックスなG7であったと思う。「オーソドックス」という意味は、世界経済の今後の方向をきちんと確認して、各国それぞれに必要な政策対応について、これを考える良い機会を持とうという趣旨の会合になったということである。

世界経済の動向については、順調に経済が拡大する方向性が次第に定着してきているということが確認されたと思うし、一方、物価情勢について言えば、世界的にみてディスインフレーションの傾向に歯止めがかかりつつあるということも確認されたと思う。

今後引き続き各国とも、抱え続けている構造問題の改善にさらに努力をしていく。特に、税制や労働市場の改革といったことに多少焦点が当たっていたと思うが、加えて、長期的には、健全な財政運営をもう1つの重要な要素として意識しながら、経済政策のより適切な運営に今後努力を続けていけば、さらに強く、バランスの取れた世界的な経済成長が実現するのではないかといったことが確認されたように思う。

なお、金融政策については、特段主要課題となったわけではないが、先程も申し上げた通り、世界的にみれば物価情勢あるいは金融市場の基調に微妙な変化が起こってきているわけであり、世界的に低金利が行き渡った状況から今後を展望した場合に、金融政策にとって非常に重要なことは、市場における期待の安定化ということにより努力しながら、適切に金融政策を行っていかなくてはならない。こういったことが改めて確認されたということではないかと思う。

【問】

先般のG7などの際に、過剰流動性の問題についていろいろと発言されているが、今そういった懸念を持たれる——多分、商品市況の問題等だと思うが——背景を伺いたい。また、そのことと、今の日本銀行の量的緩和政策とがどのように整合性を保っているのかも伺いたい。

【答】

過剰流動性ということを、昔の過剰流動性のイメージ——資産価格の暴騰と関連付けるようなイメージ——で受け取られるとすれば、そういう意味での過剰流動性という言葉の使い方は今の時点では正しくないと思う。

先程も申し上げた通り、主要国の中央銀行はおしなべて金融緩和政策を推進してきており、今は非常に低い金利水準が行き渡っているという状況ではないかと思う。エマージング諸国などを見ても、金利水準が一般的に低いというだけでなく、いわゆる信用スプレッドも小さくなっている。信用力格差に伴って生ずる金利格差の幅ですら小さくなってきているという状況から、今後、世界の経済情勢がさらに良くなっていき、物価情勢にも微妙な変化が出てくる中では、市場がその状況に相応しい金利形成をしていく過程で、市場の中における期待が常に安定を保つことが自律的にできるかどうか。市場には、いろいろな物事に過剰に反応する性格と、逆にそれを吸収する性格と両方ある。常に落ち着いた市場情勢で新しいファンダメンタルズに沿った市場条件が形成されていくかどうかということについては、事前にはわかり難いところがある。しかし、事後的にはなるべく安定性が常時保たれているという状況を実現する必要があるわけで、そういう難しさのことを申し上げたわけである。

主要国の中央銀行ではいずれも、そこのところは明確に念頭に置きながらこれからの金融政策の舵取りをしていこうという認識は揃っている。そのこと自体が非常に重要なことだと思っている。

【問】

日本銀行の今の量的緩和政策と過剰流動性の問題というものをどのように位置付けて理解すれば良いのか。

【答】

今おっしゃった過剰流動性ということ——世界的な低金利が行き渡っているという状況——が、世界経済全体としてはこれから微妙な調整を受けながら新しい市場条件を次第に作っていくだろうと思うが、日本もその影響を多かれ少なかれ受けるであろうから、各国の中央銀行の金融政策の呼吸が合っていなければならないということをまず申し上げたわけである。その中で、日本の経済・物価・金融情勢を前提にした日本銀行の金融政策ということになると、日本は先進国の中で物価が引き続きマイナスで走っている状況なので、少なくとも消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるまでは今のフレームワークを続ける——今のフレームワークのもとで緩和政策を続ける——ということは約束通りである。流動性の供給水準について約束を破って修正をすることはない、ということである。

【問】

昨日、金融庁で大手行対象に通常検査、特別検査のほかに大口融資先に対する管理体制に関する新たな検査を導入するという発表があった。これに対して、銀行側では当惑の声も広がっているようだが、金融庁の新しい検査に対して、どのような認識をお持ちか。

また不良債権問題について、大手行あるいは地域金融機関の中でも不良債権処理のスピードにだいぶ格差があるような認識を抱いているのだが、金融機関の不良債権問題についての最近の総裁の認識を伺いたい。

【答】

金融機関ごとに不良債権問題の処理の現状について格差があるのは否めないと思う。もっとも、格差を伴いながらも、全体として不良債権問題の処理が加速されながら、良い方向に向かっているのは事実である。昨日発表された特別検査結果をみても、やはり債務者区分が下方にシフトした先が引き続き少なくない一方、上方にシフトした先もこれまでに比べれば増えているということで、不良債権問題の処理が引き続き促進されているということがここにも現れていると理解している。

大口与信管理態勢検査──金融庁において新たに実施されるもの──については、金融庁独自の何か新しい考え方に基づくものであるかもしれない。私どものほうからは具体的にコメントを申し上げるのは難しいが、日本銀行の考査においては、金融機関の信用リスク管理体制について、債務者の実態把握あるいは自己査定、企業再生に係る経営改善計画の評価が適切かどうか、管理体制全般について厳正に検証することとしている。特に大口与信については、信用リスクの変化が金融機関の経営全般に与える影響を定量的に算出した上で、適切な対応が講じられているかどうかということを確認するなど、より詳細な検証を行うこととしている。これらの点については、既に「平成16年度の考査の実施方針等について」にも盛り込んでいるところである。おそらく、金融庁のやり方と、こうした新しい方針を盛り込んだ日本銀行考査とは、平仄のとれたものになっていくだろうと考えている。

【問】

日本銀行は市中銀行から2兆円ほど株を買入れているが、16年3月期で含み損益がどれくらいになったのか教えて頂きたい。

【答】

日本銀行が買入れた株式の含み益は、2004年3月末時点で6,464億円である。

【問】

中国人民元について伺いたい。中国では、先日預金準備率が引き上げられるなど、いずれは人民元を切り上げていくのではないかという話が、市場ではまだ消えていない。中国が景気の過熱をもう少しなだらかにするためなどから、人民元相場を変更した場合、アジア経済には長期的に見てどのような影響があるとイメージしたら良いのか。

【答】

人民元の為替相場の仕組みをよりフレキシブルにしていこうという基本的な認識は、中国当局、とりわけ中国人民銀行首脳の方々はしっかりと持っておられると思うが、今後どのようなプロセスを踏んで、どれぐらい時間をかけて、どういったかたちで実現していくかということは、今のところ明らかになっていない。従って、我々の立場からみて、今の段階では全く予測できない状況である。中国の政策当局は、方向性について非常にしっかりと認識しておられると我々は思っているが、今こうなればこうなるという予測を申し上げられる立場にないと思う。

【問】

今回の展望レポートでは、2004年度のCPIについて、政策委員の大勢見通しの中央値が−0.2%であった。一方、足許については、一時的要因もあって、実勢としては−0.4~−0.5%辺りではないかと審議委員の方が講演・会見などでおっしゃっている。足許が−0.5%辺りで、今年度の中央値が−0.2%ということは、先行き景気が回復していくということを前提にすると、ほぼ1年後には若干プラスになっていてもおかしくないということが想定されると思うが、そのことについて如何お考えか。

また、CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで「現在のフレームワーク」を続けるということであるが、現在のフレームワークは、2001年3月から──「金利」から「量」のレジームに変えた時から──続けているものである。このフレームワークの中では、当座預金残高目標を増やし続ける、一定に保つ、あるいは減らすということについては何も言っていないわけで、量のフレームワークを続けている限りは、「量的緩和である」という定義ができるかと思う。そういう意味からすると、「CPIの前年比上昇率がゼロ%以上になるまで現在のフレームワークを続ける」ということの中には、現在の30~35兆円程度という当座預金残高目標を減らしていくということもあり得るのかどうか伺いたい。

【答】

前段のご質問の、展望レポートの中の消費者物価指数の予測、特に中央値の前年比−0.2%というのは、年度全体を見渡して平均して、大体そういう予測を持つということである。年度の中の変化、つまり、いわゆるラップ・タイムでみてどうかというようなことは、今の段階で正確に予測していないので何とも申し上げられない。

ただ、年度を通じて持続的な経済の回復の足取りがよりしっかりする、前向きの循環メカニズムがより強く働く方向に作用する、景気回復の裾野が広がる、それをサポートする海外経済の要因も下振れリスク要因が顕現化してきて日本に悪い影響を及ぼすことがないとか、仮にすべて良い方向を前提とする。また、川上段階の物価が川下段階に波及していく可能性という点についても、国内においてコスト・アップ要因ではなく需要サイドの要因として、企業の先行き潜在成長能力に対する期待が高まり、現実に総需要が徐々に強まるという環境のもとでは、おっしゃる通り、CPIの前年比上昇率が上方にシフトする可能性は論理的に当然考えられるということであると思う。しかし、数字の上で、年度の後半、あるいは来年度にさしかかるような時点で、僅か−0.2%ぐらいだからすぐにプラスになるかもしれないというほど、今のところ、あるイメージを持って予見できるというような状況ではまだない。そこまで明確にはまだ見通せないと考えている。

後段のご質問であるが、「今のフレームワークのもとで緩和政策を続ける」と申し上げた。現状で当座預金残高目標が30~35兆円程度という幅で、大量の流動性を供給し続けており、基本的にこれは修正しないということを前提に申し上げている。

【問】

市場を安定化させることが非常に重要だとおっしゃられたが、CPIの前年比上昇率がゼロ近傍になってきた時に、「安定的にゼロ%以上」というコミットメントに対して、市場でいろいろな解釈がなされる可能性があると思う。実際にCPIの前年比上昇率がゼロ近傍に達した時に、「ゼロ%以上」という意味合いをさらに明確化するというお考えはあるか。例えば「『安定的にゼロ%以上』というのはこの位の水準を指すのだ」というように、コミットメントをさらに明確化することをお考えになる必要性が、今後出てくる可能性はあるのか。

【答】

今、既に、「安定的にゼロ%以上」ということを、さらに3つに分解している。すなわち、現実の消費者物価指数の前年比上昇率が、数か月続いて、つまり基調としてゼロ%以上になること、政策委員の多くが、見通し期間において、消費者物価指数の前年比上昇率がゼロ%を超える見通しを有していること、さらにすぐに枠組みを変えるのではなく、本当に枠組みを変えて良いかどうか実質的に判断する、という3つの条件を申し上げている。私どもとしては、この3つの条件はかなり明確な条件ではないかと思っている。市場がその解釈を巡って混乱する可能性があるとは必ずしも思っていない。しかし、おっしゃる通り、局面によっては理解の混乱が起こる心配というものをまったく打ち消しているわけではない。今後の状況をみながら、私どもとしては必要なメッセージは当然差し上げなければならない、その都度、工夫を凝らして新しいメッセージが必要であれば、差し上げていきたいと考えている。しかし、今のところ、消費者物価指数の前年比変化率が、我々がそのようなことを考えなければならないくらいの時間的距離で、安定的にゼロ%以上になりそうだという展望はまだ持っていないので、その必要はまだないと思っている。もっと近づいてから──その時期が早く来ることを願っているが、なかなか来ないのであるが──と考えている。

【問】

先程、特別検査を受けた上での金融機関についての所見を伺ったが、この特別検査の結果を受けて、今年度大手行が取り組むべき残された課題、問題意識をどのように考えているか。

【答】

来年の春までに不良債権比率を半減することを確実なものにするために、不良債権処理を加速してもらいたいということがナンバーワンだが、特に大手行の場合には、当然自力でペイオフ全面解禁を乗り越え、さらにその先を展望し、前向きの新しいビジネスを顧客のニーズに十分応えられるかたちで展開できるように、できるだけ早い段階から体制の整備をしてもらいたい。新しい業務の構築ということがビジネスの最前線できちんと行われるとともに、その銀行の資産サイドのポートフォリオの管理が能動的にできるような新しい経営体制——これは今年度の日本銀行の考査の方針に入れているが、この方針の中で念頭においたようなビジネスの体制——を組んでほしい。つまり、後向きの不良債権処理はかなり進んだが、もっと加速してほしいということと、もうそれがある段階を過ぎつつある金融機関にとっては、どんどん前向きの体制を整えてもらいたい。新しい能動的なポートフォリオの管理、新しいリスク管理体制という裏打ちを十分持ちながら、新しいビジネスの体制を整えてほしい。

以上