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総裁記者会見要旨(6月25日)
2004年6月28日
日本銀行
―平成16年6月25日(金)
午後3時半から約30分
【問】
本日の政策決定会合の結果について、ご説明頂きたい。
【答】
前回会合以降あまり日数が経っていないが、情勢判断としては、この間に公表された経済指標は、前回お示しした景気が回復を続けていることを裏付けるものであったとの判断である。設備投資関連、個人消費関連を含めてそうした判断を裏付けるものであったということである。
このような判断のもとで、本日の決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。
日本銀行は引き続き、消費者物価指数に基づく明確な約束に従って、量的緩和政策をしっかり継続していく方針を改めて強く確認した。
【問】
長期金利の問題であるが、総裁は前回の会見で、「ここ数日の足取りは少し早い」と発言された。その後、先週末、それから昨日は長期金利が1.9%台まで上昇する局面もあったが、こうした動きを踏まえて改めて長期金利の現状評価、認識について伺いたい。
【答】
長期金利については、やや長い目で見ると将来の経済や物価に対する人々の見方を反映して変動するものであると繰り返し申し上げているが、現に、日本の長期金利は、内外の経済・物価情勢の変化をかなりきめ細かく消化しながら動いているという実感を持っている。為替市場や株式市場との相関関係もきちんと図りながら、様々な変化を着実に消化してきていると見ている。
同時に申し上げていることは、そうした債券市場、長期金利は、短期的には様々な思惑によって動く一面も有している。このことも繰り返し申し上げている。私どもは市場の動きをつぶさに見ていると、時々そういった意味では不安定な感じを垣間見る瞬間があることも事実である。
従って、市場の動きについては今後とも引き続き注意深く見ていきたい。
【問】
前回の記者会見時の長期金利に関する総裁の発言を巡って、マーケットでは2つの見方がある。1つは長期金利の上昇を牽制されたというものであり、もう1つは、長期金利の上昇を総裁が容認されたのではないかというものである。そういう2つの見方が交錯して長期金利が1.9%台へ乗せるような動きもあったのだが、その辺の総裁の真意について改めてお伺いしたい。
【答】
特に意図を持って発言しているわけではない。マーケットに対する極めて客観的な我々のものの考え方と、その考え方に照らして見てマーケットの現実の動きがどうかということについて、コメントを申し上げたつもりである。
今も申し上げた通り、マーケットには、長い目で見て経済や物価の情勢の先行きに沿うように動いていくという一面と、短期的には様々な思惑も絡んで不安定な動きを示すという一面がある。常にこの二面を申し上げているので、一面の動きをとらえてどうだとか、また一方の動きをとらえてどうだという解釈は、有り得ると思うがそれはどうぞご自由にということである。
【問】
当社ではエコノミストを対象に、量的緩和の解除時期の予想サーベイなどを行っている。その中で、量的緩和が解除されてもゼロ金利が相当期間に亘って続く──具体的に言うと1年あるいはそれ以上続く──という見方が増えているのが最近の特徴的なところである。もともと量的緩和のCPIに基づく時間軸──約束──というのは、いつ金利が引き上げられるかという市場の予想に基づいて時間軸が形成されて、短期から長期までのイールド・カーブが形成されるという仕組みだと理解している。仮に量的緩和が3つの条件を満たして解除されたとしても、それから相当期間に亘ってゼロ金利が続くというようなことが起こると、時間軸も正常に働かないのではないかと思うが、こうした現象が起こっていることに対してどのようにお考えか。もともと量的緩和の出口に関する話なので時期尚早と一蹴される可能性もあるかと思うが、コミットメントの非常に重要な点であると思うのでできればお答えをお聞かせ頂きたい。
【答】
繰り返しの上に繰り返して申し上げるが、あまりにも時期尚早ということに尽きると思う。今後どれくらいの時間がかかって、さらにどのような経過を経て、昨年10月にお示しした、いわゆる3つの条件がクリアされる状況に結びついていくか、現段階では誰しも明確でないという状況である。従って、現段階でもっとも重要なことは、本日の政策決定会合でも議論の上確認したことであるが、今後とも経済・物価を含め、情勢判断を我々としてはより正しく持つように努力していき、それをきちんと市場にお伝えしていくことである。そして、市場の反応というものを十分窺いながら、市場との間でコミュニケーションを重ねていきたい。そうしたことによって、最終的に3つの条件が満たされるまでの──我々はまだかなり長い期間だと思っているが──過程において、時間軸が市場の思惑によって短くなったりするという可能性を極力排除したいということに尽きるわけである。
だいぶ先の話になるが、仮に3つの条件が満たされた後の状況というものを今から正確に「どういう経済・物価情勢、市場状況か」ということを読める方は、おそらくどなたもいらっしゃらないと思う。もちろんいろいろな賭けをすることは可能であるが、その後の金融政策のフレームワークについては──いずれ我々はお示しすることになると思うが──、具体的に今おっしゃったようなゼロ金利が長く続くとか続かないとか、そういうことを判断しうる材料は今何一つないと思っている。
【問】
先日発表された金融経済月報の中では、景気の先行きについて、雇用者所得への好影響の波及が次第に明確化していくとの見解を示している。企業部門から家計への波及について、確かに雇用者数は増えているというデータが出ていると思うが、賃金への波及はまだ明確に出ていないと思う。そこの点について、先行きに相当自信を持っておっしゃっている根拠をお聞かせ頂きたい。
【答】
そこのところは先行きに対する我々の予想というか見通しであるが、まだ明確でないことは確かである。現在までのところは、雇用者数に好影響が及び始めたことは確認できるが、雇用者所得ということになると次の段階である。ただ、我々の見通しとしては、そこまで徐々に及んでいくであろうということを確信をもって申し上げた。それを裏付ける証拠が出始めているかといえば、まだ十分には出始めていない。しかし、大企業の夏のボーナスの予測等の中には、その走りみたいなものが少し出始めている感じがしないでもない。それから、常用雇用の方々の報酬、あるいはパート・タイマー、臨時雇用の方々の報酬を細かく見ると、ところによっては少し上がり始めたところもないではないという程度の情報はある。しかし、常用雇用よりもパート・タイマー、臨時雇用の雇用者のウエイトが上がるという傾向が今同時に進んでいるので、それぞれの部門について、あるいはその部門の一部について、雇用者所得が若干上昇しても、雇用形態の構成が変わることによって全体の雇用者所得はなかなか上がりにくい状況になっているという面もある。
【問】
バーゼル銀行監督委員会の新BIS規制が間もなくまとまるが、これに関連して伺いたい。よりリスク感応度の高い資本の質が求められ、かつ、エコノミック・キャピタルという新しい資本の考え方が入っている。現在の邦銀の自己資本の質が新しい規制に照らして、どのようなものだとお考えか。また、大手行の資本政策はこれからどのような方向に向かっていくべきなのか、総裁のご意見を伺いたい。
【答】
新しいBIS規制については、明日、バーゼルで最終合意がなされる見込みになっている。私自身も出席するため、この後すぐバーゼルに向かう。バーゼルIの段階も、これから新しく始まるバーゼルIIの段階でも、ある種の規制に基づく自己資本比率のルールは、あくまで個々の金融機関がこれからどのようなビジネスモデルを打ち立てて、どのようなビジネスに挑戦していくか、どのようなリスクを受け入れていくか、そのリスクをどのように統合的に管理して、最終的にエコノミック・キャピタルでしっかりリスク・バッファーを後ろに持つか、この戦略的な組み立てを能動的に進めていく場合の、一番最後列で安全の仕掛けを敷いていく──つまりそうした金融機関のより能動的なリスク管理体制を後ろから支援していく──ようなものだと思う。
金融のイノベーションの進展のもとで、そして金融機関の業務内容の進展のもとで、その後ろ盾の仕掛けそのものも常に前進して行かなければならないという宿命を持っていると思う。おそらく、明日、各国の銀行監督当局者そして中央銀行のメンバーが集まって、最終的にバーゼルIIの合意をすると思うが、これで終わりという感じにはならないのではないか。
将来にわたって、銀行は、エコノミック・キャピタルの概念をさらに前進させながらビジネスを展開していくだろう。監督当局としても、いわゆるレギュラトリー・キャピタルというか、規制上の資本の概念というものも、これからさらに進展させながら、両者の組み合わせが最適なものとなるように、工夫と努力をしていかなくてはならない。
バーゼルIは最初に口火を切ったわけであるが、バーゼルIIは今後の銀行監督体制をさらに近代化させていくための、第2回目のステッピングボードになるだろうと思う。
【問】
先週18日に、UFJ銀行が金融庁から検査忌避を始めとする4件の業務改善命令を受けた。特に、検査については、組織的な改ざんおよび隠蔽というかたちで指摘を受けた。個別銀行のことではあるが、日銀も考査というかたちで金融機関に立ち入り調査しているわけであり、そういった立場から、今回の検査忌避を始めとするUFJに対する業務改善命令について、どうお考えか。あるいはその後、UFJ銀行はガバナンスの抜本強化を打ち出し、昨日は追加的な役員の更迭で内部の刷新を図っている。そういったガバナンスの取り組みについても、どのように評価されているのか。
【答】
ご指摘の通り、UFJ銀行に対しては、金融庁から業務運営と内部管理体制の確立・強化を中心にそれらを命ずる業務改善命令が出た。UFJ銀行では、ガバナンス体制を新しくするということを手始めに、早速、信認回復のためのステップを踏み始めたと私どもは理解している。
金融機関にとっては、やはり法令の遵守を中心に、適正に業務を遂行していく、そして、信用をさらに築いていく──ここのところが生命線で大変大事なことである──、そうした点について、UFJ銀行が今後さらに真摯に問題に取り組んで、信用の回復ないし強化という方向で実績を上げていって欲しいと願っている。
我々も、考査だけではなく、日常、UFJ銀行と接触があるわけで、できる限り良いアドバイスをしていきたいと思っている。
【問】
90年後半からずっと金融危機ということがテーマになってきたが、その後、昨年のりそな銀行の実質国有化から始まって、今はおそらく金融再生ということが金融業界の大きなテーマだと思う。その金融再生という目で見て、現在の置かれている状況は何合目にあるのか。もしくは金融再生の最終的な姿はどういうものなのかについて、お聞かせ願いたい。
【答】
危機対応、金融再生、さらには新しい金融機能の確立・強化というように、視点がどんどん前向きに移っていかなければならない。現に、不良債権処理の進展度合いが早い金融機関から視点が前向きに変わりつつあるという状況だと思う。将来に向かって企業が必要とする新しい金融サービスを提供し、かつ金融機関としてもしっかり収益を上げていく新しいビジネスモデルの確立に向かって、既に大きく舵を切り替え始めている金融機関も見られる。中央の金融機関だけでなく、地域の金融機関の中にもそういう傾向が見られ始めており、そういう意味では金融機関を巡る全体の潮流は変わりつつある。この変化は今後加速していくであろうと思う。少なくとも来年春のペイオフ全面解禁後は、この流れがさらに加速していくだろうと予測している。
【問】
先程からのお話を伺っていると、昨年10月に決められたCPIのコミットメントの3条件を満たすまでは量的緩和を続けるし、10月のコミットメントを今のところ変更するような必要性はないと考えているのだと思うが、総裁が何度か言われている「新たな政策のフレームワーク」に関しては市場で若干混乱があると思う。一方では、量的緩和の下で時間軸の強化としてこれが用いられるとの見方があると思う。しかし、総裁は、CPIがゼロを超えたからといってすべてのステージががらっと変わるわけではないということを言われている。このことは、CPIがゼロということは持続的な経済成長における通過点であり、量的緩和の後の政策として市場を安定化させるというか、市場が混乱しないような目的で「新たなフレームワーク」というものが必要なので、量的緩和とは切り離して「新たなフレームワーク」の必要性を言われているのか、その点を伺いたい。
【答】
コミットメントの3つの条件を修正するつもりは全くない。この3つの条件を満たすということは、景気が回復を続けているこの状況を眺めても、そんなに容易な課題ではないと、なお我々は本当にそう思っている。従って、3つの条件を満たすタイミングをどんどん先取りしながらいろいろとものを考えるということは、きっと思惑の中に溺れるリスクのほうが大きいと私どもは思っている。
先々は──本当に先々の話だが──、3つの条件を満たした後、そんなに経済が急屈折しない限り、金融政策だって急屈折するわけではないということを、全く一般論として申し上げているわけで、今それ以上に先々のことを具体的に思い描いて想像する段階ではない、ということを繰り返し申し上げている。
本日は5月の全国の消費者物価指数と6月の東京の消費者物価指数が出たが、6月の東京の消費者物価指数には幾ばくか石油製品の値上がりの影響が反映されている状況である。全国についても、1か月後に出る6月の消費者物価指数から石油価格上昇の影響が出てくると思うし、東京よりは全国の消費者物価指数のほうが石油関連製品の指数計算上のウエイトが高いので、その影響が少し強めに出る可能性があると思う。これは、どういう数字が出るかは全くわからない。短観の結果がどう出るかについても市中のいろいろな観測はあるが、我々は実際に数字が出るまでは全くわからない。しかし、おそらく、景気は回復し続けるという我々の基本的な情勢判断を多かれ少なかれ裏付けるものになるだろうし、物価のほうも、なかなか最終段階の物価への上昇圧力がそう急に高まってくるわけではないという基本的な判断を、目先修正しなければならない感じのものが出るとは容易に想像できないのではないかと──私の勝手な推測だが──思っている。そういう意味でも、我々はこの3条件が満たされるまで粛々と今の緩和を続けるというスタンスは揺るぎない。次回、記者会見をする時にもおそらく同じことを言うだろうと思う。
【問】
前回の会見の時にデータをよく見た上で市場は動いてほしいというご趣旨のことをおっしゃったと思うが、そのデータというのは一体何をどういう部分を指しているのか伺いたい。
【答】
本日長期金利について申し上げた通り、市場は、経済および物価に関する動き、指標を着々と消化しつつ動いていると申し上げた。何をというよりはすべての指標を消化しながら動いている。そういう意味では、市場は正常に動いているというように私どもは判断している。しかしやはり、市場は常に先のほうを見ながら動くという面もあり、そこにやはり時々思惑が入って不安定な動きを示すこともある。これは市場本来の性格として避けられないところである。そこのところは我々も注意深く見ていかなければならないと申し上げているところである。市場は、指標に目をつむって動いているとか、指標を読み間違っていると申し上げているわけではない。
【問】
原油高について伺いたい。原油高については、前回の会見の中で総裁は、素直な物価高である反面、企業収益の圧迫要因にもなりうるとおっしゃったと思うが、現状でどの程度企業収益を圧迫する要因になっているのか、評価を伺いたい。また、出口政策を今後考えるにあたって、例えばコミットメントの総合判断の中で、その部分をどのように判断されているのか伺いたい。
【答】
今のところはまだ消費者物価指数に出てきていない段階であるので、経済全般へのコスト高という面からの影響は我々としても測りかねている。少なくとも企業段階では、収益の見通しが急に暗くなったという感じは今のところ聞いていないが、やはり消費者物価指数の段階でどの程度影響があり、経済全体にコストアップ効果がどのくらいあり、また翻って企業段階がそれをどう受け止めるか見極める必要があると思う。何分にも景気は比較的順調に回復しているが、デフレ脱却という目標からすると、まだかなり遠い状況にあるので、原油価格の上昇を単に景気が強いことの反映というように一面的には見ていない。常に二面性——もう1つの面——についても注意深く見極めながら、対処していきたいと思っている。
以上