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福間審議委員記者会見要旨(9月30日)
2004年10月1日
日本銀行
―平成16年9月30日(木)
松江市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約30分間
【問】
本日午前に行われた金融経済懇談会において、どのような意見交換が行われたかということを中心に教えていただきたい。
【答】
島根県の現状、財政の状況、今後目指すところなどについて、知事、市長、会頭など、いろいろな方からお話をいただいた。当地は公共投資のウエイトが大変高い地域で、国の財政事情から、現在非常にご苦労されているという意見があり、中には日銀への要望もあった。ただ、多くの意見の中に、「何としても自立していこう」という意欲がほとばしっているということを感じた。また、新産業の育成はなかなか大変だが、粘り強くやっていきたいということをおっしゃっており、インプレッシブであった。
私も民間企業を経営してきており、過去10数年間は事業転換の時期で非常に厳しかったが、知事、市長は正に今この事業転換を行っており、企業経営に非常に似ていると思った。何にしても変革することは難しいわけだが、知事、市長は、意欲もビジョンもお持ちで、そういう面では成功してもらいたいし、成功されるのではないかと思っている。
もう一つ、当地の印象的な産業として、観光がある。最近は中国や台湾、香港など、様々な地域から観光客が日本へ来ているが、当地は名所、旧跡が多い地域で、これが昔のままで残っているということは、貴重な資源であると思った。
【問】
今回の金融経済懇談会の中で、日銀への具体的な要望といったようなものはあったか。
【答】
今の量的緩和を粘り強くやってもらいたいということと、為替の問題や、それとの関連で人民元の話も出た。通貨・金融に関するものは、そのようなところである。
【問】
午前中の基調説明において、最近のマーケット、例えば10年物国債金利や株価の動きはボックス圏にあり、これについて、「デフレが緩やかになっている」との見方であった。私達からみていると、日本も米国も半年前の水準まで戻ってしまったという印象であり、「新たな景気減速の始まりではないか」、「今までの経験的な景気サイクルからすれば、もしかすると、踊り場からもう一度下を向いていくのではないか」との見方が増えている。これをあえて、「デフレが緩やかになっている証左だ」と強調された背景を伺いたい。
【答】
去年は株価が7千円台まで下落し、長期金利も0.43%まで落ち、その後それぞれここまで戻ってきたが、まだ沢山の問題が残っている。だが、3つの過剰問題の解決を図る動きを始め、ミクロはかなり元気であり、したたかになっている。日本で儲からなければ海外での売上比率を上げるなど、ミクロの改革で底が強くなっていると言える。
ご指摘の「デフレが心配だ」というのは、多分に原油高の問題を指していると思う。原油高にはインフレとデフレの両面があり、インフレを心配する人は金利引き上げを、デフレを心配する人は金利を引き下げるべきだと言うなど、対応の仕方は2通りある。実際、韓国や南アフリカは金利を下げているが、豪州や米国は金利を上げているなど、各国の経済状況によって対応が違うわけである。原油高の影響一つとってみてもそれだけの政策の違いがある。
今は、第一次石油ショックのように石油供給そのものが抑制されているわけではなく、経済活動に影響が出るような状況ではない。多少の企業物価上昇はあるが、企業改革あるいはグローバル化、経営効率化の一段の推進によって対応は十分可能な状況にある。これが更に思いもしない石油価格の高騰となれば別であり、注意を払っていく必要はあるが、今の状況ならマネージャブルであり、デフレの心配はそれほどしていない。
他に配慮すべきは、IT産業の在庫調整であると思うが、こうした動きの可能性については以前から認識していた。また、日銀に限らずいろいろな人が指摘していたところでもある。民間の在庫調整は、日頃から、サプライ・チェーン・マネージメントをやりながら、非常に微妙な調整をやっているということである。そういう意味では、2000~2001年のITバブルとは全然違っており、今回はその時のような捉え方をするべきではないと思っている。したがって、GDPについても、今年4月の展望レポートにおける予測値より高くなることは間違いないと思っている。
【問】
金融経済懇談会での基調説明において、量的緩和政策を解除する際の条件——具体的には3つの条件のうちの3つ目のいわゆる総合判断と言われている条件であると思うが——に金融システムの問題をあえて取り上げていたが、その背景について伺いたい。これはある意味で解除のハードルを少し厳しくしたというように受け止めてもよいのか。
【答】
そのようなことはない。事実として、いまだ金融システム問題が残っているということが一つ。ただ、それに対しては今度の2兆円の措置により、地銀等を中心に金融機関が対応できるようになっている。また、メジャーバンクについては、預金保険法第102条による対応が残っている。システム全体については、これだけ揃えば心配はしていない。システムではなく、個別の問題が依然あるかもしれないということを申し上げた。
もう一つ、量的緩和のところであえて申し上げたかったことは、金融市場、コール市場がスムーズに動いていないということである。スムーズに動いていないという意味は、要するに、日銀の量的緩和を前提に動いているということである。銀行間のクレジット・ラインの復活・拡大がまだスムーズにできていない。オーバーナイト市場には自律的かつ機動的な動きが出てきたが、ターム物市場にはそうした動きがまだ殆ど出てきていない。こうした中で、今、量的緩和を急に止めると、そこに不安定な動きが出る危険性がある。
それをどうしたら一番良いのかというと、やはり、クレジット・ラインを相互に拡大して、ターム物取引ができるほどまでに、金融機関の格付・体力が回復することが必要であると思う。それを見定めなければ、あまり中途半端なところで量的緩和を止めるわけにはいかない。これは、私が2002年に日銀に来てからずっと言っていることである。
けれども、相当良いところまで来ていることは確かである。オーバーナイト市場では取引ができるようになっており、クレジット・ラインも相当復活・拡大が図られている。2002年はこうした動きさえもなかったし、去年は一時的に駄目になっていたこともあった。残る問題はターム物取引である。銀行はオーバーナイトばかりで資金を回しているわけではないので、3か月以上のターム物取引ができるようにならないといけない。
この件に関しては、それ以上の含みはない。
【問】
確認の意味で伺いたいが、今の石油価格上昇について、審議委員はどちらかと言うとデフレ圧力になる可能性が高いとみているということか。
【答】
石油の問題については、デフレもインフレもあり得る。石油の問題で興味深いのは、米国は自国が石油価格上昇に対して一番強いと言っているし、英国も同様の見方をしている。私はいろいろなデータからすると、日本のエネルギー効率が一番良く、デフレ・インフレ双方のファクターとも一番働きにくいと思っている。現状程度の原油高であれば、それほど先行きのシナリオを変えなくてもよいと思っている。
【問】
今年度は展望レポートを上回る見通しとのことであったが、民間エコノミストなどでは、来年度は実質GDPの伸び率が1%台に低下するなど、景気が減速するという見方や懸念がみられている。審議委員は来年度についてどうみているか。
【答】
展望レポート発表を前に具体的な数字を申し上げるのは差し控えるが、いわゆる「ゲタ」の問題もあるため、来年度の成長率は今年度に比べ少しは見劣りするかもしれない。ただ、ご指摘のような数字にまでは落ちないと思っている。というのは、現状は、内需も外需も出揃ってきているからである。
例えば、新聞記事によると、トヨタ自動車が北海道で変速機の工場を作るとか、九州工場を拡大するといった動きがある。鹿島製鉄所の稼動もある。鉄鋼も、いろいろな形で能力増強をやっている。そういう意味では、設備投資は今後も高いというか、落ちる危険性はそれほどなく、堅調であることに変わりはない。今の勢いからすると、石油価格が多少上がったからといって、こういった動きが腰折れするとは今のところ思っていない。
今の日本の状況は、アメリカ人がよく言う"hiccup"(しゃっくり)という、一時的な状態であると思っている。石油価格が一段と高騰するとか、供給不足になるといった状況となれば別だが、今は供給不安はない。新聞記事でもWTIがドバイ原油比高騰しているということを書いていたが、これはアジアには石油の供給が十分であると言うことを示唆するものだ。
日本人はどうしても第一次石油ショックの記憶が鮮明であるため、それを連想してしまうが、むしろ思い出さなければいけないのは第二次石油ショックの時のことである。あの時は、第一次石油ショックを思い出して様々な対策を講じたが、結果においては、幸いにも殆ど影響がなかった。では、第一次と第二次で何が違ったかというと、第一次の時は石油価格の上昇に伴い賃金も上昇した。今回も、企業業績が良くなっているため、賃金は多少上がるだろうが、それ以上に企業の生産性は上がっており、吸収力が当時とは全然違うと思う。
【問】
ターム物の話について伺いたい。市場でターム物の取引が少ないのは、ある意味、日銀の量的緩和政策に甘えることができる状況にあるということだと思うがどうか。
【答】
おっしゃるとおりである。ただ、ターム物取引が殆ど出来ていない背景には、ターム物レートを含め金利がほぼゼロであることや、合併・統合により銀行の数が減少していることを指摘する声も聞かれるが、底流には、銀行間で互いの信用力に対する確信が持てない状態が続いていることがあるのではないかと考えている。そういうことを考えると、ここにきて全てを外すのが正しいかと言うとそうではない。もう少し慎重にやらなければいけないと思う。
【問】
審議委員ご指摘のとおり、公共投資への依存度が非常に高い当地経済は、現在も全国的な動向に比べ、なかなか回復に向けた足取りが厳しい状況にあるとみている。そこで、新産業創出あるいは育成などといった諸々の支援策が打ち出されているところであるが、それらを踏まえた上で、当地経済の活性化のために、どのような取り組みが企業に求められているのか、所見を聞きたい。
【答】
皆さんが非常に苦労されているのは実感できる。東京一極で良くなっているという言葉がよく出てくるが、ご承知のように東京よりは東海の方がよい。あるいは、当地近隣では、広島あたりがよい。何が違うかと言うと、1つには今花形の自動車産業あるいはIT産業ならびにその部品工場があるからである。
マツダが経営難に陥った時、下請け工場は大変だった。その時彼らが何をやったかというと、──これはトヨタ系列・日産系列もそうであるが──顧客をマツダなりトヨタなり日産なりに絞らず、どのメーカーにも共通する物を作った。それが今日の強さとなっている。昔は、「私はマツダ系列です」、「トヨタ系列です」、「日産系列です」と言っていた。しかし、そうではなくグローバルな展開を図り、GMにも供給するしフォードにも供給する、もちろんトヨタにも供給する、それが強さになった。
右肩上がりの経済下であれば別だが、需要の奪い合いがある中で、先程も申し上げたように、もし事業拡張をするのであれば「オンリーワン企業」を狙わなければならない。石見地方の瓦産業では、産業再生機構の活用など非常にご苦労があったと思うが、伝統産業を残して将来に引き継ぐという意味では将来に繋がる措置であったと思う。
私は、「シュリンク・トゥ・グロー」とよく言うのだが、まずはシュリンクして需要のサイズに合わせ、そこで基盤強化を図って、それで攻めるべきところを攻める。今は先発してシュリンクした人達が攻めており、能力拡大をやり始めた。これについては、鉄鋼会社の人は「これまでの苦労があったから今攻めることができるんだ」と言っている。彼らは苦労した。グローバル展開もした。それが今の回復に結び付き、また能力拡大に繋がって、収益基盤も強くなった。
当地の方々は、その点をよくご認識されているとの印象を受けた。特に知事は、「自立により再生を図る」と強調されていた。
以上