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総裁記者会見要旨(10月3日)
IMF・世銀総会終了後の福井総裁・渡辺財務官内外記者会見における総裁発言要旨
2004年10月4日
日本銀行
—— 於・ワシントンDC
平成16年10月3日(日)
午後12時50分から約40分(現地時間)
冒頭発言
G7からIMF・世銀総会までの一連の会合が、先程の谷垣大臣による日本の総務演説終了で、ほぼ終わりに近づいているということで、感想を含めて一言申し上げます。IMF関連の一連の会合では、IMF専務理事にラト氏が新たに就任され、またブレトンウッズ体制が60周年を迎えたということで、将来に向けて新しい意気込みが持ち込まれた会合であったと感じています。
世界の経済動向については、G7で議論した枠組みを超えるものではないが、一言でいえば、世界経済は、引き続きバランスのとれた順調な回復をたどる可能性が強い。もちろん、原油の値段の帰趨がどうなるかとか、地政学的リスク等の様々な不確実性を伴っているが、全体の見通しとして比較的好ましい状況にあるということです。
こうした状況が続く間に、21世紀の長きに亙る世界経済をより良いものにしていくために、必要な長期的努力を強めていこうというモチベーションを強く感じながらの会議であったと思います。もちろん、先進諸国は、一層の生産性向上に向けて努力しなければならないし、エマージング諸国は、市場メカニズムの枠組みの中に自らの経済を組み込ませながら、グローバル経済の発展に貢献していかなければならない。さらに貧困問題を抱える国々ついては、皆で協力して貧困問題の削減努力を加速していく。そういう意味で、単に経済のグローバル化が進展するということだけでなく、その中身の充実について、各国の一層の努力を前提としつつ、国際的な協力を強めながら実現していこうという機運が、全体として共有されたと思います。
(以下質疑)
【問】
G7会議も含めて、中国の参加の意義について総括を伺いたい。
【答】
先程申し上げたが、エマージング諸国は、市場メカニズムの枠組みの中にしっかり自分の経済を組み込みながら、グローバル化の中で一層発展していく世界経済に対して貢献度を高めていく段階に入ってきています。そのタイミングで、その代表選手である中国がG7にゲストとして招かれ、非常に率直な意見交換が行われたということは、今後の流れを踏まえると非常にエポック・メイキングなことだったという印象を受けました。G7後に中国人民銀行総裁とお会いしたが、総裁自身は、議論し易かったし、中国としても非常に意味のある会議だった、と率直におっしゃっていました。
【問】
一点目は、日本経済が非常に安定している状況でG7を迎えたのは久しぶりだと思うが、各国の日本経済に対する見方がどのように好転しているのか、印象を伺いたい。二点目は、会議等の中で、総裁自身の見通しとして、今年度後半さらに来年度にかけての日本経済の成長および物価の見通しについて、どのような説明をされたのか伺いたい。
【答】
海外の方々は、日本経済が長年の困難な問題をこなし、持続的な発展軌道に改めて乗ろうとしているという基調的な動きを、正しく受け止めておられるということが、より強く確認されたという印象をもっています。もちろん、GDP統計の四半期ごとの振れの大きさなどに少し驚いている面もあるが、最近のグローバル化の流れの中で、各国の政策当局者も、日本の企業家、金融機関関係者、その他の一般の方々と接触する機会が格段に増えていることもあり、日本経済全体としての体温のぬくもりというものをしっかり感じておられる。したがって、GDP統計に振れがあったとしても、基調的な回復への動きに変わりはないことが短観によって裏付けられているといった我々の説明や、グローバルな展開の中で、特に中国を含むアジア諸国との相互依存関係、ネットワークを強めながら、新しい出発が力強くはじまっているという説明に対しては、素直に理解されるという雰囲気でありました。
今年度下半期および来年度にかけての日本経済の見通しについては、日本経済の底力、つまり潜在成長能力が徐々に上がってきていて、それに見合う水準、いわゆる巡航速度に向かって落ち着いた経済成長率が実現していく過程に入るであろうという見通しを説明しました。具体的に数字を入れての見通しは、今月末の政策委員会・金融政策決定会合でさらに検討して発表するので、今月末までお待ちくださいと申し上げました。
物価については、消費者物価でみると、小幅のマイナスが基調的な動きとして続く可能性が高いということを申し上げました。ただ、以前のような需給ギャップによるものというよりも、次第に生産性の向上あるいは賃金の調整等によるマイナス物価の継続であるので、今後の景気回復を持続的なものにしていくということと物価のマイナス基調から脱却することは、表裏一体となって進む段階に入っている。したがって、日本銀行が粘り強く今の量的緩和を続けることは、政策目標としての景気の持続性維持とデフレからの脱却という両面に通じると説明しました。
【問】
今回のG7では、原油価格の高騰と中国経済の過熱が大きなテーマであったと思うが、原油価格の高騰と中国経済の過熱はどのような関係にあるとお考えか。この二つに密接な関係があるとすれば、中国はどのような政策対応が必要だとお考えか伺いたい。
【答】
この点については、私個人の理解ということではなく、G7およびIMF関連の会合に出席された各国の方々の共通のものの見方として申し上げる必要があると思います。原油価格の上昇に関しては、世界経済の順調な回復に伴う世界的な需要の増加という側面と、供給面で、高く伸びている需要に対する供給余力に何か心配はないか、さらにその点には、なかなか正確には測定できないとか地政学的リスクも絡んでいるという点で不確実性を含んでいるという側面がある。これらの両面から原油価格の値上がりの問題を捉えなければならないし、経済に対する影響も複雑だというのが共通の理解である。
中国との関係について、原油価格上昇に伴う問題を、特に中国経済だけをシングルアウトして深堀りするという感じにはなっていない。世界経済の順調な回復には、中国だけでなく米国、欧州、日本、その他エマージング諸国がそれぞれのウエイトで貢献しているので、中国が特にということではない。世界需要全体を受けての動きであるので、特に中国の高成長が原油価格上昇の際立った要因となっているというような特化した議論は行われなかったと思います。
ただ、中国を含むエマージング諸国については、エネルギー効率向上の余地を大きく持っている国が多い。この先長い世界経済の発展の方向性を考えた場合、エネルギー効率の良し悪しは、エネルギーを中心にして問題を世界経済に持ち帰るマグニチュードが小さくないという意味で、規模の大きい中国は、エネルギー効率改善について世界的に熱いまなざしが注がれる立場にある。中国自身も、この点をよく認識しているということではないかと思います。
【問】
中国は、エマージング諸国の代表としてゲストの立場でG7に参加するほうが良いのか、G7の正式なメンバーとして役割を果たしていくほうが良いのか、お考えを伺いたい。
【答】
中国経済はこれから益々発展するでしょうし、世界経済全体の観点からも、中国経済が長く健全な発展を遂げていくことは、皆の利益になることであり、皆が望んでいることであると思います。グローバル経済の仕組みの中に、益々大きくなっていく中国経済が、仕組みの面でもきっちり組み込まれていくことが重要であり、中国はその努力を既に始めているということである。したがって、今後の中国経済の発展を確認しながら、そういう(G7の正式なメンバーになる)時期が来るかどうかがみえてくるということではないかと思う。私としてはそういう時期が来ることが望ましいと思うが、今の段階でG7のメンバーになるか否かを直ちに議論することは、おそらく中国自身もそう思っておられないと思います。この点については、将来の建設的な方向の中で、良い答えが出てくるのではないかと思います。
以上