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総裁記者会見要旨(10月13日)
2004年10月14日
日本銀行
―平成16年10月13日(水)
午後3時20分から約25分
【問】
本日の金融政策決定会合の結果の趣旨と、本日公表された「金融経済月報・基本的見解」を踏まえた景気見通しについて、総裁から説明頂きたい。
【答】
本日の金融政策決定会合の結果は、日本銀行の金融政策の基本スタンスは変えないということである。具体的には、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、消費者物価に基づく明確な約束に従って、金融緩和政策をしっかりと継続しているが、今後もこれを継続していく方針である。
背景となる経済・物価情勢の認識は、前回の金融政策決定会合と基本的に変わっていない。一言で言えば、景気は回復を続けているし、先行きについても回復を続け、前向きの循環も明確化していくとみられるということである。
こうした判断については、先般、日本銀行が発表した9月短観のデータが相当程度これを裏付けているという面もある。海外経済が拡大を続けているもとで、足許輸出や生産は、伸びをやや鈍化させつつあるとはいえ、方向としては増加傾向を続けている。また、企業収益や企業の業況感は改善が続いているということが非常に明確であるし、企業の設備投資も引き続き増加している。家計部門では、企業の雇用過剰感がかなり薄らいできているということもあり、生産活動や企業収益などからの好影響が少しずつ強まってくるという動きが続いていると判断している。
物価面も、前回の金融政策決定会合の時の判断と変わっていない。全く変わっていないと言っても良いくらいである。内外の商品市況高や需給環境の改善を反映して、国内企業物価は上昇を続けている。先行きをみても、原油高の影響もあって、当面、上昇を続けるとみられる。ただ、国内企業物価の上昇の影響は、川下段階にいくに従って、企業部門の生産性上昇や人件費抑制によってかなり吸収されているという状況である。
従って、消費者物価指数──とりわけ生鮮食品を除くコアの消費者物価指数──の前年比は、現状小幅のマイナスとなっている。先行きについても、生産性上昇の影響に加え、需給環境が改善方向にあるとはいえなお若干緩和した状況が続くので、小幅のマイナスが基調として続くと予想される。これが基本的な判断である。
なお、原油価格は、既往ピークと言える水準にあり、今後どのような動きを辿るかは、極めて不確定な状況にある。原油高の経済および物価両面への影響は注意深くみていかなければならない。そのことを付け加えさせて頂きたいと思う。
【問】
9月短観の結果をみると、大企業製造業の景況感は市場予測を上回る改善を示した一方で、先行き予測では悪化を見込んでおり、不透明感も指摘されている。こうした今回の短観の調査結果を踏まえた上で、改めて、日本経済の全体像について見解を伺いたい。
【答】
9月短観の先行き判断についてであるが、短観のDIがこのように高い水準になった時には、過去の経験則でもそうであるが、先行きについては慎重な考え方や判断が出がちになるという、いわば、統計のクセがほとんどを説明していると思う。もちろん、現状から将来を考えた時には、いずれの企業も、ここ暫くの間の高い成長率が少し下方修正されていく──世界経済の動きが巡航速度に向かっていることではあるが──ということは当然織り込んでいると思うし、その他、原油価格の動向等の不確定要因がある──原油価格については不確定要因が少し増している──ということが念頭に置かれていることは間違いないと思う。しかし、基本的には、業況判断の水準がここまで高くなったことに伴う、統計のクセというものが出ているのではないかと思う。
従って、これも含めた経済全体の先行きの見方ということになると、世界経済全体としても、あるいは日本経済単体でみても、先行きはやはり巡航速度に向かって成長速度を若干調整しながら、持続的な回復の軌道に近づいていくという標準シナリオに沿って動いているとみて良いと思う。
【問】
ダイエーの問題について伺いたい。今、主力行とダイエーの間で再建計画——特に産業再生機構の活用——を巡るぎりぎりの協議が続いている。今日に至る借り手と貸し手の間の様々な経緯を踏まえて、ダイエーの再建問題が今後どういった決着をみるのか、総裁の見解を伺いたい。
【答】
日本経済の今後、あるいは日本の金融システムの今後ということに絡めて見ても、ダイエー問題の処理というのは非常に重要なポイントを成すと、かねてより私どもも思っている。従って、現在進められている当事者間——特に主力3行とダイエーとの間——の話し合いについては、私どもも非常に強い関心を持ってこれを見守っている状況である。
主力3行は、手続きの透明性や調整の円滑化といった観点から、産業再生機構を活用したいという強い意向を持っておられるようであるし、一方、ダイエーサイドでは民間ファンドの提案を聞いてみたいということのようである。そうした関係者間の話し合いというのは、これ以上あまり時間をかけないで、なるべく早く合理的な結論に達してほしいと思っている。ポイントはやはり、市場や顧客からの信認が、早期にかつ十分回復できるようにするということであろう。主力3行もダイエーサイドも、そのポイントを外さず議論が進められていると、私どもは見守っているところである。
【問】
UFJ銀行に対して金融庁が刑事告発し、それを受けて東京地検特捜部による強制捜査が続いているが、銀行が銀行法違反ということで捜査を受けているということと、それが金融システムに与える影響について、総裁の見解を伺いたい。
【答】
あのようなかたちで、金融庁から告発を受け、現在の状況になっているということは、やはり信認を重んじなければならない金融機関のあり方としては、大変遺憾な状況になっていると私どもも思っている。
しかし、UFJ自身は、全体として、新しい再建計画を出しながら、これから着実にそれを実行していくべき段階にある。業務の改善計画は既に公表されているし、それを軸に、これから経営改革を進めていくという段階にある。
過去のことは、きちんと裁きを受けて処理をしなければならないということであるが、これから先の日本の経済とか金融ということになると、こうした大きな金融グループにおいては、公表した業務改善計画を公約通りきちんと実現していき、それによって、経営改革を進めて、経済に貢献できるようなグループに早く脱皮していってもらいたい。私どもとしては、考査その他の場面を通じて、今後のプロセスを綿密に確認していきたいと思っている。
【問】
ダイエー問題に関して、ダイエー側が18日まで待ってほしい、民間の案が出てきた上で判断させてほしいと言っていることに対して、産業再生機構はそれまで待てないという姿勢を示している。この状況について、産業再生機構が待たないという考え方について、総裁はどのようにお考えか。
【答】
ダイエー、産業再生機構、あるいは主力3行、それぞれの立場について、私どもは具体的にコメントできる立場にはない。
ただ、全体に経済合理性が貫かれ、透明性のある手順で物事が進められ、かつ、早く処理しなければならないと思う。問題処理に過去既に非常に長い年月を使っているということだけでなくて、処理が煮詰まっていく段階であっても、やはりダイエーという企業の価値というものは、時間の経過とともに減るということもある。従って、処理はやはり急がなければならないというのは公理であり、その線に沿って早く処理しなければならないと思う。
産業再生機構が今どういう態度を示されて、それがどういう根拠に基づくものかということについては、私どもはそこまではわからないので、そのこと自体についてはコメントできない。ただ、全体が早く処理されなければならないということは、誰の目から見ても非常に明らかなことだと思う。
【問】
昨年の10−12月期、本年の1−3月期、4−6月期の経済成長率を平均すると大体4%から5%近い成長かと思うが、これだけ高い成長率に持続性があるとはなかなか言い難い。人によって潜在成長率の見方が異なるので数値を一概に言えないのも良くわかるし、展望レポートを公表する10月29日より前に具体的数値を発表するのは難しいと思うが、総裁がおっしゃっている「巡航速度」というものがどの程度のものなのか、イメージでも良いので教えて頂きたい。また、来年度に景気が上振れるリスクについて、現状においてはどのように見ているのかも伺いたい。
【答】
固定的な一定の数値で示される成長率でもって、巡航速度というようなものを表せないと思う。経済というのは非常に動態的に変わるものであり、生産性ないしは潜在成長力自身も刻々と変わるものである。先行き日本経済の底力がどれだけ強くなっていくのか、上手くソフトランディングしていけるような環境や経済の自律的な運動メカニズム、政策対応の適応性などの様々な要素の組み合わせで巡航速度が実現していくということなので、一本の数字で表すことはなかなか難しいと思う。
おっしゃる通り、昨年の10−12月期から最近に至るまでの日本の経済成長率は、平均してみると5%近傍である。これが巡航速度と比べて高過ぎるということは明確に言えるが、今これよりは低いところで、潜在成長力は着実に上がりつつあるので、その上がっていくラインにかなり近いところで──できれば潜在成長力を少し上回るようなところで──、上手く持続的なパスを日本経済が見出していければと思っている。
世界全体についても、まったく同じようなことが言える。ご承知の通り、IMFも、本年の世界経済成長率は大体5%ぐらい、来年についても、今のところの見通しだと4%台前半と見ている。これは、世界経済が巡航速度に収斂していく過程という見方をしているようであるし、巡航速度そのもの、あるいは潜在成長力そのものという点からいくと、来年の見通しの4%前半というのは、そういうトレンドよりもなお少し高めかもしれないというぐらいで見ているのではないかと思う。概ねイメージとしてはそのようなところである。
【問】
今後の消費者物価の見通しに関して、「小幅のマイナス基調が続く」という見通しを述べられたが、1月の政策変更時には、デフレ脱却を後押しするために量的緩和の追加に踏み切られた。今、物価はマイナス基調が続いているし、今後もマイナス基調を見通すということであれば、追加的な量的緩和措置をとることによってデフレ脱却を促進するという考えはあるのか。
【答】
基本的には従来の考え方は変わっていない。より綿密に言うと、同じ消費者物価指数の小幅のマイナス基調であっても、かつてのような大きな需給ギャップというよりは、生産性の上昇あるいは賃金の調整、それらを合わせたユニット・レーバー・コストの低下というふうに、デフレないしはデフレ的現象の背後にある事情というのがかなり変わってきている。今はかつてのようにデフレ・スパイラル再突入を心配するということよりは、景気の回復をより持続的なものにしていくことによって、デフレからの脱却も自動的・並行的に可能になるという方向になってきていると思う。従って、量的緩和政策を維持することによって景気回復の持続性をより保証し、同時に物価のマイナス基調からの脱却も図れるということに、政策スタンスとしての照準が合ってきていると考えている。
【問】
現在、政府税調では、定率減税の廃止や消費税も含めた増税論議が行われている。総裁は、財政規律の堅持ということを常々おっしゃっているが、こうした政府の動きについてどのように評価しているか。また、仮に増税ということになれば、一方で景気には悪影響を与える可能性があるが、これについてどう考えるか。また具体的に何か政府に求めることはあるか伺いたい。
【答】
来年度の財政政策についても、あるいはより長い視点に立ったプライマリー・バランス回復の様々な方策についても、政府サイドでは、改造内閣発足後、検討に着手された段階である。私どもは、今後の検討の進展に信をおきながら、いかにして財政規律をより強く保っていくかという方向性に沿って政府が行動されるか、見させて頂きたいと思っている段階である。従って、個別の税制あるいは歳出面、その他社会保障制度面などの処理の仕方について、今は私どもが具体的に注文を申し上げる段階ではないと思っている。
いずれにしても大事なことは、今後かなり長きにわたり、「その時々の経済実勢に則しながら」ということが大きな条件になると思うが、その中でやはり時の経過とともに財政規律を政府が強めていくということを、マーケットあるいは国民一般、我々の一人ひとりがきちんと認識できることが大事だと思う。国民一人ひとりもその方向ならば納得し自覚しながら経済生活を送らなければならないと思うような、政策当局と国民との間での、生活レベルの築き方に関する意思の交流がしっかり確立されていく、いわば対話と言うか、民主主義の良い意識交流が築き上げられていくことが非常に大事だと思う。
単年度主義で考えて、今年度はこうであれば良いという問題ではないわけで、これから10年以上も続く非常に長い過程を苦痛と感じるか、自分たちの生活のリズムの中に上手く取り込んでいけるものになっていくかが、非常に大事な点である。そういう意味であまり短期的なコメントではなく、長期的な財政規律強化ということが、いつも経済実勢に合っているし、国民の生活意識の中にしっかり取り入れられていくことが大事だと思っている。
以上