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総裁記者会見要旨(12月13日)
2004年12月14日
日本銀行
―2004年12月13日(月)
午後1時45分から約30分
於 名古屋マリオットアソシアホテル(名古屋)
【問】
2点質問させて頂く。まずは、本日の金融経済懇談会で各界から様々な意見や要望が出たが、それを踏まえて、東海地区の経済の現状についてどのような印象をもたれたかについて伺いたい。もう1点は、名古屋支店が発表している経済情勢判断は全国と比べても強めの動きが出ているが、懇談会を終えられて、情勢判断等を踏まえた率直な感想を伺いたい。
【答】
今朝名古屋駅に着いて会場に来て、まだ名古屋市内に一歩も出ていないので、そういう意味では実感は少し十分でないところもあるかもしれないが、今朝の懇談会や昼食時に名古屋の経済界の代表の方々と意見交換をさせて頂き、当地の事情について非常に詳しく伺うことができた。私の受けた印象は、事前に思っていたところとそう大きな相違はない。
やはり当地の経済の場合には、優れた技術と高い品質に裏打ちされた製造業を牽引役として、これまで着実な回復を辿ってこられた。特に自動車、自動車部品、工作機械、あるいはIT・デジタル関連等が中心であるが、まさに経済を強く引っ張ってきた業種がしっかりしているということだと思う。そうした業種であっても最近は海外経済の若干の減速の影響──もちろん輸出の面を中心に——を受けておられるということであるし、原油・資材高の影響、最近では為替相場の不規則な動きに対する懸念といった様々な問題に直面しながら、来年以降の経済の展望をしっかりもちたいといった構えで今対処しておられるようだ。雇用環境についても、全国に比べて、改善の度合いが一歩先に進んでいて、いくつかの業種では人手不足感すら出始めている状況だと伺った。来年以降、世界経済が、成長率を少し減速させつつもより持続可能な拡大パスに辿りつくということであれば、国内においては引き続き当地の経済が牽引力となって、日本経済をより安定的な軌道の方向に進めていく重要な鍵を、当地の経済が握っておられると感じた次第である。
それから、企業規模別の格差あるいは地域別格差という点では、日本経済全体の先頭を走っている当地域においても、やはり地域間格差、なかんずく、中堅・中小企業と大企業との格差とか、業種別格差という問題は、全国と同様に存在するという話を詳しく伺った。大企業製造業・同非製造業、中小企業製造業・同非製造業とも、今の時代にあっては常にイノベーションを先頭に押し立ててその成果を挙げるということが、結局、生産性の上昇、収益の源泉に繋がっていくという点では変わりがないわけであるが、全国的にも製造業大企業を中心にその動きが次第に目立ってきている。そして大企業であっても非製造業に若干遅れがあり、中堅・中小企業の場合には製造業・非製造業とも、若干の格差があるというような状況で動いているわけであるが、持続可能な成長軌道に日本経済全体がより近づいていくという過程の中で、大企業製造業以外の業種についても、その前向きな力を強めていける可能性を同時に秘めているということも、当地で話を承って、実感として感じたところである。
いつも申し上げていることであるが、日本経済の過去の景気回復のパターンとして、中央で景気回復の動きが始まった場合には、公共事業とか補助金といったかたちで、地方への所得還元メカニズムが非常に太いパイプで作動して、中堅・中小企業も含めて、景気の同時回復を実現させるメカニズムがあった。しかし、このメカニズムは日本の経済社会全体の構造改革の流れの中でむしろ細ってきているため、地域毎に、そして業種毎に、あるいは産業・企業毎に、地域の特性を活かしながら、そして自分のもっているノウハウを新しい付加価値創出に結びつける方向でビジネスの再編をすることで、新しいメカニズムを作り出す必要がある。多少時間はかかるが、各地域においてその芽は十分あるし、当地においては他の地域にもまして、その芽はあるのではないかと感じた次第である。
当地の場合、非製造業でも製造業と関わりの深い業種から徐々にそうした改善の兆しが得られており、回復の裾野は全体として広がっていくのではないかと思っている。
【問】
午前中の金融経済懇談会の中で、総裁から、「ペイオフ全面解禁後も凪の状態があるわけではない」との話があった。また、金融庁では金融機能強化法を制定し、再編を促している。こうした状況の下で、当地金融機関に対する評価と、今後、当地でも金融機能の強化に向けた再編が必要かどうか、お考えを伺いたい。
【答】
当地に限らず、全国各地の金融機関では、来年4月のペイオフ全面解禁に向け、不良債権問題の早期克服、さらに前向きに収益力の強化といった観点から、様々な努力を既に展開してきている。例えば、中堅・中小企業向け貸出の増強──無担保・無保証の定型ローンを含む──、シンジケート・ローンの組成、投信窓販の拡充、といった努力もしてきている。それから、合併等の金融機関の再編についても、このような金融機関の前向きな取り組みを強化するための一つの流れだと考えられる。
ペイオフ全面解禁後は、不良債権処理にのみ専念してきた従来の姿とは様変わりとなる。より前向きに利用者ニーズに的確に応え、最適な質の高い金融サービスを提供し、それを通じて自らの収益性も上げていく、というふうに明確に照準が変わると思う。金融機関の再編というのも、あくまでこうした効果を挙げていくための手段・戦略の一つということで、金融機関は考えておられると思う。
従って、金融庁の新しい取り組みも、金融機関が国内的にも国際的にも強い競争力を培養していく、そして顧客に対して質の高い金融サービスを提供していけるような諸条件を整えていく、といった金融機関の努力をバックアップするということに最大の焦点が当てられているのでないかと思う。
こうした流れの中で、日本銀行においても、考査・モニタリングの在り方というものは、そうした視点を機軸として、これから切り替えていきたいと思っている。
当地の場合には、金融機関の競争が元々激しい地域──昔から「名古屋金利」と言われている──であるが、これからの「金融地図」を考えた場合、当地においては、既に企業が活性化しているし、これからますます活性化していく中で、金融機関に求められる金融サービスの中身は、さらに高度化したものが求められると思う。こうしたニーズに直面していく金融機関としては、否応なしに、質の高い金融サービスの提供に向け、全国的にも先頭の位置を占めながら、前進していかれる可能性が高いものと思う。
金融機関の競争が激しい地域と言ったが、元々は伝統的な預金・貸出業務、特に貸出業務に集中したかたちでの競争であったから、名古屋金利とかそういうかたちになっていたものと思うが、これからは、個々の金融機関毎に、自らの特性を最も発揮できる金融サービスというかたちで競争していく、つまり横の展開が大いに広がりをもった競争の世界になっていくのではないかと想像している。
【問】
当地で圧倒的シェアをもつUFJがMTFGと経営統合することになるが、当地の老舗企業・地場産業からは、「旧東海の流れをもつUFJはこれまでの伝統的な取引推移等を把握してくれているが、東京三菱はそういった経緯を知らないため、見捨てられるのではないか」との不安の声が出ている。こうした金融再編に対する不安に関する濃淡について、総裁はどのようにお考えか。
【答】
当地に限らず、全国的に企業と金融機関との接し方が急速に変わってきているし、今後もさらに急速に変わっていくものと思う。今の言葉をそのまま借りれば、企業のほうでは、「金融機関との関係が疎遠になるのでは」と思っておられるのかもしれないが、金融機関のほうも、「下手をすれば、顧客から相手にされなくなるのではないか」という不安感を同時に抱いているものと思う。
つまり、金融機関側からみれば、顧客ニーズはどんどん変わっていくとみているわけであり、顧客ニーズに寸分違わぬ新しい金融サービスを自分のところで提供していけるかどうか、しかも収益を上げながら提供していけるかどうか、もしそこがうまく対応できなければ顧客から見捨てられる、との心配をもって、新しい努力を開始しているものと思う。
企業サイドからみても、伝統的に面倒をみてもらった金融機関自身が、様々に姿・形を変えて新しいサービスを提供しようとしていること自体は理解しているものと思う。今度は、企業自身が、「伝統的な金融サービスだけで足りるのかどうか」、「新しい金融サービスを求めるだけの自らの事業の組み立て方の変化はどうか」という面についても心配を抱きながら、しかし相当自信をつけながら、変化の途上を進んでおられるものと思う。
UFJとMTFGの経営統合問題についても、確かに伝統的な預貸金業務を中心に取引してきた企業と旧東海との関係でいえば、その関係はかなり変わるものと思う。企業サイドからみれば、前向きな展望でもあり、かつ同時に不安でもある、という考えが混在しているものと思うが、私は、客観的にみて金融機関と企業との関係は何らかの変化が必ず生じると考えている。
既に一歩先に進もうとしている企業からは、こうした大手銀行の統合に伴って、企業側の経営基盤の強化とか、海外でのビジネスを金融機関がどういうふうにサポートしてくれるかといった点を中心に考えた場合に、統合後の大銀行の提案力の向上に期待したいという声もある。
つまり、金融機関サイドが一歩先に出ているか、企業サイドが一歩先に出ているかで、その辺の感覚の合わせ方が異なってくる。企業サイドが、「従来の親密な関係が疎遠になるのでは」と心配される気持ちは良く分かるが、そのことは金融機関も十分理解しているはずであり、今後、金融機関と企業の間で、「新しい関係はどのようにあるべきか」という擦り合せが真剣に始まるものと思う。その擦り合せが、互いのビジネスを前向きに発展していくかたちで関係の再構築が進んでいく、つまり、新しい発想でそうした取引関係を考えていく、その輪が広がっていくことが大事だと思っている。金融機関も企業もお互いの関係がなるべく従来どおりであるというふうにやっていくと、必ずしもビジネスとして最適な金融関係が成立するかどうかは一概には言えない。
特に、当地の場合、日本経済全体の中でも先頭を切って走っていく地域であるので、金融機関と企業の新しい関係の再構築という点でも、全国をリードするようなパターンを是非出して欲しいと思う。
【問】
総裁に限らず、中部経済が日本経済をリードする牽引役と皆が言うが、これは愛知万博や中部国際空港という2大プロジェクトに下支えされたものという一面も持ち合わせている。こうした点を踏まえると、2大プロジェクトが終わった後の反動をどのように想定するのか。また、2大プロジェクト後も中部経済が日本経済をリードしていくという役回りを演じることができるかということについてどのように考えているか。さらに、仮に反動があるとした場合には、どういった新たな産業を創出することが今後の当地発展に繋がるのかについてお考えを伺いたい。
【答】
まず万博、中部国際空港という2大プロジェクトであるが、来年2、3月から始まるということで、ぜひ大成功することをお祈りするとともに期待している。そういった大きなイベントが一時的に経済を盛り上げて、その後はむしろ反動要因にならないかどうかといったお尋ねだと思うが、それはプロジェクトの内容と当地の企業がこれをどのように活かしていくかにかかっているという気がする。
私が伺っている限り、愛知万博というのは従来とは一味も二味も違った新しい要素を入れており、例えば、環境対応ということを非常に大きなテーマにしているということである。環境ビジネスという言葉を用いると、非常に限定的で狭い範囲の印象を伴うかもしれないが、環境関連のイノベーションというのは日本の経済、日本の産業にとってはこれまでもかなり得意の分野であり、これからアジアと日本経済との相互依存関係をさらに強くしながら、将来の新しい日本経済をきちんと位置付け、力強いものにしていくために、企業としては環境とエネルギーの面で技術開発を大きく前進させ、それからの波及効果としてそれ以外の分野にもイノベーションや知識創造を促していく、そうした大きなプラス効果のある分野である。従って、日本経済の中で最先端を走ろうとしている当地において、この万博が行われ、その地元の利を十分に活かして、それを本当に環境開発やビジネスに活かしていくとすれば、つまり、国際的なビジネスの展開の中でそれを活かしていくということが具体的にこれから進むとすれば、この万博が終わって一時的に多少の波があるかは別にして、ロングランには力強い出発点になる可能性があると思う。
また、環境だけではなく、今日、名古屋商工会議所の箕浦会頭の話を伺っていると、中小企業と商工会議所が共同して初めて展示を行う──万博の歴史を通じても初めて──とのことであったが、こうした対応をみると、「当地は違うな」という印象を受けた。大企業と中小企業との格差という話を一方でしながら、中小企業と商工会議所が一体となって新しいエキシビションをするというのは将来に繋がるシーズ(種)をもっているものと感じる。私はぜひ万博を拝見したいし、そういった部分があるのであればその部分を特に一生懸命みたいと思っている。従って、単に環境だけでなく、新しい企業の興し方という点で、中堅・中小企業のレベルにおいても何か新しいシーズ(種)をみせようという意欲が明確であることが、今後に繋がる部分であると感じた。
中部国際空港については、今日、これから見学させてもらう予定である。見る前に何かコメントするのも空振りみたいなところもあるかもしれないので、よく勉強してからと思っている。
【問】
景気の回復という点では先頭に立っていると思うが、消費という面に絞ってみた場合、企業の活発な活動に比べ、中部の消費は飛び抜けて活発とは思えない。中部の消費は下げ止まりになっているものの、消費での牽引役は果たしきれていないように思うが、消費の牽引役になり得る可能性をもっているとみているか。
【答】
個人消費については、全国的にいつも申し上げていることであるが、最終的には雇用者所得の増加というところにきちんと結びついていて、所得の増加の裏付けをもった個人消費の回復、ないし増加に繋がっていくことが大事だと私は依然として思っている。もちろん、それに先行して消費者マインドが良くなって、個人消費の回復が所得の増加に先行して始まるとか、ある程度続くということはあり得るし、現に日本経済においては最近の時点ではそれが起こっている。愛知万博、中部国際空港という大きなプロジェクトを契機に当地において全国のマインドより強く支持されることであれば、所得の増加に繋がるまでの期間の個人消費の増加にさらにもう一つ力強い仲間ができるというか、力添えが加わるという点は頼もしいことだと思っている。経済回復の先陣を切っている当地においては、全国に先駆けて雇用者所得の増加という面でも先鞭を打ってもらいたい気がしている。
【問】
足許の減速にも関わらず、基本的な景気判断は変っていないとのことと思うが、10月末に「展望レポート」を公表した際の会見では、量的緩和政策の解除について、2005年度かその少し後になるか変更の時期はいずれ迎えるだろうとおっしゃったが、そのような見方にこの時点でも変化はないか。
【答】
景気は、今一時的に踊り場にあるけれども、日本経済全体としては回復過程にある。来年に向かって言えば、緩やかであってもより持続的に回復する軌道に向かって動く可能性が高いという判断は、「展望レポート」の時点と基本的に変っていない。
GDP統計については、大幅な技術的改訂があったので数字そのものには直接コメントしにくいが、消費者物価指数については、来年度中に平均0.1%のプラスになるというのが政策委員会メンバーの中心的な予想であることは変っていない。従って、全体として金融政策の運営について、2005年度中に枠組みの変更ができるかどうかはまだ定かではないが、2005年度中か2006年度以降かいずれかの時点で、持続的な景気の回復とデフレからの脱却──CPIがプラスの世界に安定的に入っていくこと──の両立が展望し得る状況にある点も変っていないと思う。
【問】
午前中の金融経済懇談会において、総裁は、量的緩和政策を「消費者物価指数の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上になるまで継続する」という約束がもたらす景気支援効果は以前に比べて強まっている、とおっしゃったが、その反面、量的緩和政策の約束に伴う弊害は以前に比べて変っていないかについて伺いたい。
【答】
このような枠組みで緩和政策を続けているプラス・マイナス、利害得失みたいなものの評価は常に行っており、政策委員会の金融政策決定会合の度に直接・間接に議論が交わされているわけである。おっしゃるとおり各企業において生産性が上がり、収益が上がるという状況が続くのであれば、当然それとの対比で我々の約束に基づいてイールドカーブがほぼ横這ったような状態で全体としてゼロ近傍あるいは若干のプラスであっても非常に低い金利が実現しているということは、相対的に景気刺激方向への金融緩和効果が強まっていることだと思う。
しかし一方で、副作用はどうかというと、一番の副作用は金融市場において金利機能をかなり封殺しているということだと思う。その副作用が実際にどの程度の大きさになっているのかを目を凝らしながらみているが、まだ正確には掴みかねている。時の経過とともにこの副作用が大きくなるリスクがあり得るということを頭の中に置きながらみているが、今のところ副作用が目立って顕現化しているとは受け止めていない。
また、別に資産価格の点も非常に注意してみているが、フローの物価上昇率の変化の前に資産価格の面で異常な現象が出ていないかということも我々の関心事である。別に量的緩和でなくても、今までの米国や英国では低金利状態の下で物価よりも資産価格のほうが若干早く問題になるというケースを目の当たりにしている。日本の場合、ゼロ金利または量的緩和ということであるからそのリスクが将来全くないとは言い切れない。最近における都市部の不動産価格の上昇などについてもそういうリスクの走りがないかと注意してみている。これまでのところ、土地の値段の決まり方が収益還元価格による、キャッシュフロー見合いにセットされるように、従来とは違った価格形成メカニズムができあがっていることは明確に認められるが、それを超えて、バブル的な値段形成になっているとは今のところ判断できる状況にはなっていない。それに限らずいろいろな面をみているが、今のところは副作用のほうが上回り始めたという状況とは判断していない。
【問】
午前中の話の中でも財政の問題の話があったと思うが、財務省から国債の管理政策の関連で、日銀に対して割引短期国債の再乗換えについて要請したいという話があるようだが、現段階で日銀としてどのように対応しようとお考えかお聞かせ頂きたい。
【答】
いまお尋ねのあったとおり、財務省から私どもが聞いているのは、2005年度に国債の償還が集中する、つまり償還にコブがあるというので、これを平準化する必要があるという観点から、今年度中に乗換えで取得した短期国債の一部について再乗換えを実施して欲しいという要望があった。我々のほうは、償還期限の到来する保有国債の乗換えについては、毎年度政策委員会できちんと対応方針を決めることにしており、これまでもそのようにしてきた。2005年度の取り扱いについては、財務省から頂いた要望の趣旨、つまりコブをならすという趣旨をよく踏まえて、それだけでなくて、日本銀行としてそうしたことに応じた場合に、先行きの金融政策の遂行上何か支障が生じないかどうか——この点が非常に重要であるが──、そこを慎重に点検したいと思っている。いま点検中である。点検が終われば、適切に判断して政策委員会の決議にかけたいと思っている。
以上