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福間審議委員記者会見要旨(2005年2月24日)

2005年2月25日
日本銀行

―2005年2月24日(木)
甲府市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約30分間

【問】

 山梨県経済についての感想と、本日行われた金融経済懇談会の出席者からどのような話があったのかについてお伺いしたい。

【答】

 山梨県経済は日本経済そのものだと感じた。東京エレクトロンやファナックなどのグローバル企業がある一方で、本当の意味での地場産業や建設業がある。グローバル企業については、現在調整期にあるが、IT関連企業の中には底入れしている、あるいは底入れしつつある企業もみられた。半導体の前工程をやっている企業は調整終了までにもう少し時間がかかる見通しであるなど、製造工程のどの段階を行っているかによっても状況は異なっていた。これは日本全体あるいはグローバルな動向と同様ではないかと思った。もう一方の地場産業、建設業については、例えば当地のユニークな産業である宝飾業は独特の地位を築いており、マーケット・シェアも大きいが、全国同様、グローバルな影響、具体的には中国等の影響も受けつつあり、これに対して懸命に努力されている。また、山梨県では、統計的にみて全国で一番苦しい状況にある建設業のウエイトも高い。「シャッター街」、オーバーストアの問題を抱える小売業もある。小売業については、需要面の問題もあるが、もう一つ、郊外に大型ショッピングセンター等ができて、駅前等の中心部にある商店街が「シャッター街」になるという産業地図の変化もある。この問題は、東京の都心を除けばどの地域でもみられる現象である。さらに、観光立県を目指すこと、特色ある地場産業を育成すること、これらのために何をすべきか、という点についても力強いご意見を伺った。

 以上のように、山梨県は、日本の縮図のように感じられ、全国と共通の悩みを持っているということがよくわかった。そうした中で、地元の方々は、「ここで踏ん張って頑張る」という意欲を持っておられ、少々のことでは後に引かぬという粘り強さを感じた。また、皆で知恵を絞ろうと頼母子講等いろいろな所で情報交換をなされている。これはとてもユニークで、クロス産業の情報交換という点では大変良いことだと感じた。山梨県の方々も大変ご苦労されているが、決して将来に結び付かない努力をされているわけではなく、「皆で活路を探していこう」という意欲を持っておられる。実際、雇用情勢を含め方々に光がポツポツ見えてきているように感じた。

【問】

 量的緩和政策に関して福間委員の考え方を確認したい。講演録を基に委員の考え方を整理すると、第一に、2001年3月に金融政策の操作目標を「金利」から「量」へ切り替え、量的緩和政策の枠組みを導入したこと自体は、デフレ解消を目的としたものなので、消費者物価指数で定義したところのデフレが解消するまでは、その枠組みは崩さない、第二に、その枠組みの中で当座預金残高目標を増やしてきたこと自体は、金融システムの安定化を狙いとしてきたものなので、その安定化が確認できれば、消費者物価指数で定義したところのデフレ解消が確認できなくても、当座預金残高目標の数字そのものは下げられる、そのように理解してよいか。つまり、当座預金残高目標を下げること自体は、量的緩和政策の解除ではないと考えているのか。

【答】

 そういう言い方もある。デフレ解消は、金融システムの安定化なしにはあり得ないと考えている。2002~2003年は明らかに金融デフレであり、その当時、預金は減る、株は7,000円台、長期金利は0.43%まで低下する、企業間信用は縮小する、銀行の格付けは格下げラッシュとなる、そうした状況の中で銀行の流動性が足りなくなった。この流動性不足に歯止めをかけないと、デフレ・スパイラル、金融デフレは止まらない。この点に関して私の原体験としてあるのは、1997~1998年の金融危機である。当時も日本の銀行は流動性不足に陥り、貸し渋りや貸し剥がしを行ったが、中小企業だけでは足りないために、大手企業に対しても行った。あの時、流動性供給を行えば違う姿になるのではないかと、当時産業界——民間——にいてそう感じていた。2002年の時は1997年の入り口よりも経済状態は遥かに悪く、そうした中で1997~1998年のような貸し渋りや貸し剥がしが起こったらいよいよもって大変である、まさにデフレ・スパイラルに陥る、と考えた。

 このような講演の場では繰り返し申し上げていることだが、ゼロ金利は企業の金利負担軽減効果を通じてリストラ、バランスシート調整を促進した。金融機関は不良債権の償却ができた。このようにゼロ金利はある意味で「質」の面のサポートをしている。一方、「量」の面のサポートは、金繰りを何とかサポートしなければならないということである。1974年のヘルシュッタット危機のときもそうであったが、流動性危機に遭遇すると、マーケットにある資金を全て取りたいという、それくらいの不安感を持つ。そこにジャパン・プレミアムが生じる余地も生まれる。そうした市場の不安感に応え、流動性危機を何とか回避しなければならない。それは財政政策ではなく金融政策が行うべきで、そのためには当座預金残高目標の引上げを行うべきだと当時私は考えたわけである。当座預金残高目標の引上げは、引き上げること自体が目的なのではなく、流動性危機を防ぎ、金融デフレを防ぐためのものである。2002年は銀行、企業の格下げラッシュであったが、去年あたりから格上げラッシュとなっている。これは金融政策が「質」と「量」の両面でサポートしてきたことの結果という面もある。2002~2003年は流動性リスクが非常に高まったため、この対策に力点を置かないとさらに金融デフレを深刻化させる惧れがあった。本来であれば——流動性リスクがなければ——恐らくゼロ金利だけで対応できたと考えられる。

【問】

 本日の基調説明要旨にあるように、当座預金残高目標の引上げは、金融市場の安定化に配慮して行ってきたので、金融システムの安定化が確認されるまでは現行の「30~35兆円程度」を維持する、そして、金融システムが安定化したかどうかの試金石は4月のペイオフ全面解禁であるということだが、そうだとすると、4月のペイオフ全面解禁が円滑に行われて、金融システムの安定化が確認できれば、消費者物価指数で見たデフレ解消が確認されなくても、目標値の引下げ自体はできると考えているのか。

【答】

 お尋ねの点は将来の金融政策に関わることであり、金融政策決定会合の外では触れたくない。ただ、札割れが生じているということは、日銀が資金供給しても市場が受け付けてくれない、それくらい金融システムが改善しているということを表わしている。これは、むしろ量的緩和の効果が出てきたこと、リストラが進んだということを示している。金融政策をどうするかということは金融政策決定会合で議論することであるが、いずれにしても金融システムの改善がはっきりしなければならない。この点については最後の最後まで息を抜きたくない。但し、改善がはっきりするのが4月1日なのか、あるいはそれ以降なのか、ペイオフ全面解禁後も問題があるのかどうかは今の段階ではわからない。わからない限りは今の目標値を達成していくということである。

 札割れが起きているということは、市場は資金を供給されることに拒否反応を示している、コール市場で資金を取り易くなってきている、ということを示している。こうした市場の反応を虚心坦懐に読んで、金融政策に遺漏がないようにやっていきたい。ただ、我々は量的緩和政策をスタートした時から、ビハインド・ザ・カーブであったわけであり、当座預金残高目標の動かし方についてもやや安全に進めるというのは、それはそれなりに意味があることだと思う。

【問】

 ただ今の福間委員の答えとして、資金供給を市場が受け付けないのは、量的緩和の効果が出てきた——リストラが進んだ——ことの結果であるという話があったが、そのリストラを進めたのはゼロ金利であるとも発言された。ゼロ金利の恩恵を受けてリストラが進んだ結果、「30~35兆円程度」という「量」を市場が受け付けなくなったという考え方は理解できる。もう一方で、企業がリストラを進めその効果が現れてきている中、資金をこれほどジャブジャブにすると市場機能も機能しないということであれば、ゼロ金利すらも——今すぐとは言わないまでも——もう少し景気が回復してくれば、過去の約束に捕らわれてゼロ金利である必要もない、金利がプラスの世界に行くことも正当化されると思うが、その点はどうか。

【答】

 金融経済懇談会でも申し上げたが、要するに量的緩和の枠組みは残すということである。ただ今のご質問は、枠組みとゼロ金利および当座預金の動かし方をいわば三位一体で運営していくのかどうかという意味に受け取った。当座預金残高目標については、私は2001年に量的緩和政策が導入されたときは日銀の外にいたが、当時、流動性不足があれほど深刻になるとは思っていなかった。ペイオフ部分解禁の時にあれほど預金が大きく移動するとは思っていなかった。流動性危機に対しては、リザーブを増やすのが中央銀行としての伝統的な政策と思っている。だからこそ、FRBがブラックマンデー、マネーセンターバンク危機、LTCM危機、同時多発テロの時などに大量の資金供給を行ったことについて述べたわけである。いわば中央銀行の基本動作であると理解している。したがって、当時の流動性危機に対しては「量」で対応するのが一番適切な政策だと思った。ただ、最近のFRBのコーン理事が論文の中で、流動性危機が去ったら早く回収しないとモラル・ハザードやインフレを起こすと述べているが、私も全く同じ認識である。

 一方で、量的緩和政策そのものについては、消費者物価がプラスになるまで続けるのかという問いに対しては、私は「続けるべき」と考えている。なぜならば、量的緩和は、マーケットのインフレ期待やリスク・プレミアムをコントロールしてきたため、条件を満たさないまま約束を外すことは、よほどのことがない限りできない。相当の説得力のある説明がない限りできないと考えている。2001年の導入から4年経っているので、この間に形成されたイールド・カーブやインフレ期待、金利のプレミアムに対する見方はそれなりに尊重していかないといけない。そのため、3条件を外すということは今のところ考えていない。量的緩和の枠組みを残すということにはそういう意味もある。

【問】

 1月18~19日の金融政策決定会合議事要旨では、先行きの金融政策について、当座預金残高目標の引下げ、あるいはその修正について、何人かの委員が、「当座預金残高を減額することが適当だ」とか、「効果と副作用のバランスが変化することも考えられる」とか、あるいは「一時的な資金需給の振れを許容するような工夫も必要ではないか」などと述べている。それに対してまた何人かの委員が、「現在の量的緩和政策は金融不安への対応も含めてデフレからの脱却を目標としたものであり、金融不安の後退だけを理由に当座預金残高目標を減額することは説明が難しいのではないか」という認識を示した、とあるが、これに対して福間委員はどのような説得力のある反論をお持ちなのか伺いたい。

【答】

 金融政策決定会合の中身に関することなので、最小限の発言にしたい。要するに、約束通り金融システムの安定化を確認することが必要であり、その金融システムの安定化については4月のペイオフ全面解禁の実施が最大の説得材料であると考えている。もちろん、それに勝るものが出てくれば別であるが、それまでは息を抜くことなく対応することが必要だと思う。量的緩和については、議事要旨にある通り、ボードメンバーの間で共有されていることは、金融システム不安の一段の後退から市場では資金余剰感が高まっており、これを背景にしてオペの札割れが増加しているという現状認識である。このほか、経済金融動向に対する情勢判断について前回会合以降大きな変化がない以上、当面は金融調節上の工夫により現行の当座預金残高目標を維持していくことが適当であることについても全員一致で採決した。一方、ボードの間で意見の相違がある点として、当座預金残高目標の減額について、これに前向きな意見と消極的な意見の両方がある。双方の間で論点となっているのは、主に減額についての説明責任が果たせるのか、金融引締めと誤解されるリスクはないのか、減額以外の方策はないのか、現行の目標を維持した場合のメリット・デメリットは何かといったことである。以上のことは議事要旨に書かれていることだが、念の為に整理するとそのようなことになる。これらの相違点について相当激論を交わしたことは確かである。

【問】

 量的緩和の3条件のいわゆる「総合判断」において、福間委員は以前から金融システムの安定ということを述べていた。金融システムの次の総合判断項目として注目されるのは具体的にどのような案件であると考えるか。

【答】

 総合判断は総合判断である。もちろん一番大きな条件は景気の状況であるし、円相場もあるいは考慮の対象になるかもしれない。場合によっては、他国の金融政策も考慮に入れる段階に当たっていれば、そういうことも考えなければならない。しかし、今の段階では何が重要であるかが読めないから、総合判断と言っている。指摘された金融システムの問題は、ペイオフ全面解禁が順調に行われるのであれば、総合判断の要因の中から外れるかもしれないが、一方で新たな不安要因が出てくればそれを考えなければならない。

【問】

 福間委員は、「少なくとも金融システムの安定化が確認されるまでは、『30~35兆円程度』という目標値に基づいて資金供給を行っていくことが適当である」、「その金融システムの安定化の試金石となるのは、4月のペイオフ全面解禁」と述べている。繰り返しになるが、これはペイオフ全面解禁が滞りなく実施されたことが確認できたら、当座預金残高目標について「30~35兆円程度」に拘らないという意味と理解してよいのか。

【答】

 それこそ総合判断して頂きたい。お尋ねの点は私ひとりが決めることではなく、金融政策決定会合の場で決めることである。ここで個人的な見解を述べると皆さんの議論を混乱させることになるかもしれないので、差し控えたい。

以上