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総裁記者会見要旨(4月6日)
2005年4月7日
日本銀行
―2005年4月6日(水)
午後3時半から約40分
【問】
本日の金融政策決定会合の結果について、その趣旨を説明頂きたい。また、賛成多数というのは久かたぶりだと思うが、何対何だったかということも併せて伺いたい。さらに、先日公表された短観や本日公表された「金融経済月報・基本的見解」を踏まえた景気見通しを伺いたい。
【答】
本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標(30~35兆円程度)を維持することを決定した。日本銀行としては、引き続き消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針である。
また、「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」が対象とする期間について、今後、当該年度に加え翌年度を含めることを決定した。つまり、これにより、年2回公表している「経済・物価情勢の展望」は、4月公表分、10月公表分とも、当該年度および翌年度をカバーするということになる。具体的に言うと、今月公表する「経済・物価情勢の展望」は、2005年度および2006年度をカバーするということである。
政策決定の背景となる経済・物価情勢の現状についての私どもの判断についてであるが、景気は引き続き踊り場的な局面にあり、先般公表した短観でも窺われるように企業の業況感にもやや慎重さが窺われる。もっとも、IT関連分野における調整が徐々に進捗していることが確認され、そういう状況のもとで、生産も横這い圏内に持ち直すなどの動きがあり、景気回復の基本的なメカニズムはしっかりと維持されている。
海外経済が拡大を続けるもとで、日本の輸出は持ち直しつつある。また、企業収益の改善基調を背景に、設備投資は製造業を中心に増加傾向にある。また、雇用面での改善も続き、雇用者所得も下げ止まりが明確になる中で、個人消費は底堅く推移している。
先行きについては、遠からずIT関連分野の調整の影響が弱まるにつれて、輸出や生産は増加していくとみられる。企業の人件費抑制姿勢は引き続き根強いとみているが、企業収益が増加し、雇用過剰感が払拭されていくもとで、雇用者所得は緩やかに増加していく可能性が高いと判断している。従って、景気は回復を続け、次第に持続性のある成長軌道に移行していくものと判断している。
なお、IT関連分野の調整が進んでいると言っているが、IT関連需要の動向は見極め尽くしたというわけではないので、引き続き留意する必要がある。また言うまでもなく、高水準で推移している原油価格の動向とその内外経済への影響は、しっかり留意していかなければならない。
先週末公表された短観の結果は、今申し上げたような私どもの経済の現状および先行きの認識との関係ではどうかというご質問であるが、私どもとしては、短観の結果は今お伝えした情勢判断と整合的なものと評価している。企業の業況感はIT関連分野などの製造業を中心にやや慎重化したものの、企業収益は引き続き高水準で推移しており、設備投資についても年度当初としては強めの計画となっている。また、雇用の過剰感はごく小幅ながら「不足」超に転じた。そうしたことを全体としてみると、私どもの判断と整合的だと考えている。
なお、物価面では、国内企業物価は、足許弱含んでいるが、先行きについては、原油価格や内外商品市況の上昇を反映して、再び強含んでいく可能性が高い。消費者物価指数の前年比変化率は、引き続き、小幅のマイナスで推移する可能性が高いと予想している。
金融調節方針については現状維持とすることを決めたが、本日は全員一致ではなく、少数意見が1票あった。
【問】
4月1日にペイオフ全面解禁が約10年ぶりに実施された。まだ数日しか経過していないが、この間の金融機関、預金者、金融市場の動向について、どのようにご覧になっているのか伺いたい。
【答】
4月1日から幾日か過ぎ、私どもは預金者の動き、金融機関の動き、市場の動きを注意深く見ているが、金融機関や預金者の動向は引き続き落ち着いたものとなっていると判断している。ペイオフ全面解禁は予想通り円滑に実施に移すことができたと、とりあえず判断している。
預金の動向をみると、少なくともこれまでは、個別金融機関や業態をまたがる資金シフトはみられておらず、個々の金融機関の資金繰りも、引き続き極めて安定的に推移している。
むしろこれから将来に向けての展開になっていくと思うが、ペイオフ全面解禁後、預金者にとっては、従来以上に、自らの生活設計等に照らしたニーズに応じて、金融機関が提供する商品やサービスを見極めていくことが重要となってくると思う。日本の消費者、預金者はたいへん賢明であるので、そうしたことも十分に認識しながら、これから行動していくだろうと思う。また、金融機関も、これに応えて、経営資源を一層効果的に活用しつつ、高度な商品・サービスを提供していくことが求められる。既に以前からその体制を整え始めている先が多いわけであるが、そうした動きが加速されていくだろうと思う。
日本銀行としても、ペイオフ全面解禁前の3月18日の段階で発表した「ペイオフ全面解禁後の金融システム面への対応」で示した通り、今後、金融の高度化に向けた民間の取組みを積極的に支援し、金融システム全体の機能度や頑健性の向上を図っていきたいと強く念願している。
【問】
先般、日銀は初めてとなる5か年の中期経営戦略を策定・公表した。この中には一部機構改革も入っているが、こうした5か年計画を策定した趣旨および狙いについて、改めて説明頂きたい。
【答】
日本経済は、80年代以降の世界経済の大きな潮流変化への適応に大変苦しんできた。しかし、苦しんできた末に、新しい発展に向かって局面変化の時期を迎え、現に新しい発展に向かって既にスタートした、そういう局面にあると思っている。日本銀行は、中央銀行としての幅広いサービスの質を高めていかなければならないし、この重要な転換局面にあって、今後一層日本経済の発展のためにお役に立ちたい。こうしたことから、私どもも持てる経営資源をより有効に活用するべく、私どもがなすべきことの重点項目の的を絞って、有効に資源のシフトを図りながら仕事をしていきたいという趣旨で、中期経営戦略というものを初めて作った。
なにぶん今回が初めてなので、これからさらに勉強を重ねて必要ならば修正も施しながらやっていかなければならないかもしれないが、今申し上げた通り、セントラルバンク・サービスの質の向上を目指していくためには、役職員の目的意識をやや長いタームでしっかり揃えていく必要があると感じたわけである。こうした戦略の実現にとっては、IT投資や人材の育成・確保ということが最も重要な要素になるが、細切れの期間ではこれらをうまく実現できないことは、どこの会社でも経験していることである。従って、この点について、長いタームでしっかり実現すべきことは実現していくという方針を踏まえたものである。これまでも毎年、単年度の業務運営方針を決めて示してきたが、これからは5か年の中期戦略を背景におきながら、その中期戦略を実現するために、毎年毎年、今年は何をするかということを詰めて、具体的なアクション・プランを作るというやり方をとることにした。
重要なことは、単年度の計画の、1年後の実施状況について、中期経営戦略という尺度に沿ってどのように進んだかということを点検しようということであり、点検した結果は業務概況書において公表していく方針である。なにぶん初めてのことなので、本当にうまくいくかどうかはわからないが、とりあえず、そういう枠組みを役職員あげて共通のものとして持ちながらこれから行動し、事後評価もきちんとやっていきたい。中期経営戦略が私ども自身の仕事に本当に役立つものになるかどうかは、私ども自身のこれからの努力にかかっている。さらに努力を重ねて、結果として国民の皆様のより大きな信頼を得ることができればと思っている。
【問】
ペイオフ全面解禁に関連して、おっしゃったように円滑に解禁されたとは言っても、銀行間の決済の途中段階にある資金や決済用預金が全額保護されることについて、金融界の規律を緩めてしまうのではないかという指摘が一部にある。これについて認識を伺いたい。
【答】
私の記憶が正しければ、今おっしゃった決済途上のものをきちんと保全する、あるいは決済用預金を保全するという措置がとられたのは、確か2002年だったと思う。ペイオフ完全解禁後の姿がまだ見えない段階で、しかし将来をしっかり見据えてあのような措置が導入されたわけだが、これは一般の預金者に安心感を持って頂くという意味で非常に重要な措置であったと思っている。あくまで私の個人的な感じかもしれないが、この措置は、今申し上げたように一般の方々の安心感を最後につなぎ止めるというか、最終的な拠り所であるというところに非常に意味があるのだろうと思っている。しかし、決済システムの直接の担い手であるプロの金融機関は、自らの行動あるいは規律というものを正すことによってシステムの安全性を確保し、これをもとに預金者その他一般の方々に真に高度化された金融サービスを提供することによって、その見返りとして自ら信認を確立する。こういうプロセスを当然の前提としてできた制度だろうと思う。プロの金融機関までもこの制度を非常に広範囲な拠り所とし、自己規律を失うというようなことであっては、制度本来の趣旨に反するのだろうと理解している。
【問】
金融政策決定会合の件で、反対票——少数意見——が1票あったということだが、これは全体の議論が従来の流れからどういう方向に動いたというふうに理解すればよいか。詳細な内容は議事要旨を見てほしいということになるのかもしれないが、議論の方向性と、それに対する総裁の受け止め方を聞かせて頂きたい。
もう一点、景気認識に関して、踊り場からの脱却の時期について、従来は春以降というような表現があったかと思うが、現時点ではどう考えているのか。
【答】
最初のご質問については、既に私の代わりに答えをおっしゃって頂いたと思う。議事要旨を詳しく見て頂きたいということに尽きる。ただ方向性はどうだったかというお尋ねなので、そこに誤解が生じてはいけないので一点付け加えさせて頂く。既に過去何回かの金融政策決定会合の議事要旨が公表され、その中で議論が少し積み重ねられてきている方向性はご承知の通りだと思う。長々とは申し上げないが、現在の量的緩和の枠組みはしっかり堅持し、消費者物価指数の前年比変化率が安定的にゼロ%以上になるまでその枠組みは守るという前提のもとで、金融市場の変化の中で流動性需要がどう後退しているか、その流動性需要の変化に対して、最低限受身である程度の調整がいるのではないか、こういう方向性での議論である。
踊り場からの脱却の時期については、前回の金融政策決定会合の時に申し上げたところと全く変わっていないとご理解頂きたい。
【問】
踊り場からの脱却時期について、春以降とおっしゃったが、そうこうするうちに春は過ぎてしまう。この前の短観では、大企業製造業の景況感を見るとかなり下がっているし、2期合わせて10ポイント以上下がるということは、過去のいろいろな下がり方を見ていても小さくない幅だと思う。今回の短観の結果を見て、総裁は想定されていたよりも後ずれの印象を持ったのか、あるいは全く変わらないのか伺いたい。
【答】
短観の業況判断が、その他の経済指標との整合性という点からご覧になって、過去の経験則よりも少し大きく下振れているという点については、私どももその通りに認識している。しかし、実体経済そのものの動き、特にIT関連の生産・在庫調整という観点から見ると、最近の時点ではほとんど想定通りに進展しているということもまた間違いない事実である。企業収益は非常に高い水準を維持し続けているし——収益率をどんどん無限に上げていくということは、もとより当然不可能なことだが——、新年度も引き続き高い収益率を確保しながら、かなりしっかりした設備投資をやっていくという実体的な判断を、企業は短観の中で明確に出していると思う。つまり、踊り場状態から脱却していくという点について、既往の判断を修正する材料は無かったと思う。
企業が業況判断を下方修正した要因は心理的なものなので、全ての材料をここで具体的に示すことは不可能なことである。たぶん原油価格や素原材料価格の上昇は、一時的なものではなく少し長引く現象だとすれば、そのことが世界経済を通じて、あるいは市場を通じて、日本経済にどういう影響をもたらしてくるであろうかということは、企業にとって新しい不透明要因である。企業収益がバブル時の水準まで上がった状態でこうした先行きを見た時に、どのように新しく収益を構築していくか、将来のビジネスプランをどういうかたちで改めて作っていくかは、全て視界が晴れてクリアカットに先に延ばせるということではなくて、様々な新しい工夫をしながらやっていかなければならないという感じが、最近時点で企業の間で少し強まっているのだろうと思う。そのことが非常に率直に気持ちとして出ているというふうに、とりあえず私自身は翻訳している。これはひとつの翻訳であって、分析ではない。
【問】
今回の金融政策決定会合で、この4月に公表する「経済・物価情勢の展望」から、翌年度の経済・物価見通しおよび数字を含めるという決定をしたが、なぜこの時期にこのような決定をしたのか、背景を伺いたい。
【答】
なぜこの時期にと言われると返事に窮する。この時期とすることに特別の大きな理由があったわけではない。いろいろなかたちで工夫を凝らしながら私どものコミュニケーションを良くしていく。政策決定の前提となる私ども自身の見通しを極力先に延ばしながら、それに基づいて政策決定をしていく。見通しについてはできる限りお示しして、共有して頂きながら、私どもの政策行動についても理解を深めて頂く。こうした以前からの運動の一環であり、別にこれに限らず様々な工夫を凝らしてきているし、今後も続けていくということである。
もともと「経済・物価情勢の展望」の見通しは、とりあえず1年となっていたが——これは私の着任以前から始まっていたことであるが——、1年でとどまらなければならない理由はない。金融政策の効果が波及する時間的長さは、1年以内というよりは1年より長い。それが1年半なのか、2年なのか厳密な測定を世界中誰もしていないが、やはり1年以上はかかるというのは共通の認識になっている。1年先までいろいろ考えながら政策決定をしていく以上、見通し、その分析、経済の動きのメカニズムについて、私どもが政策決定前に抱く認識とできるだけ同じものを共有して頂きたいという発想はもともとあった。従来の「経済・物価情勢の展望」の性格や中身の理解の仕方について、世の中の理解と私どもの理解との共有のされ方が非常に進んできたと認識されたので、できればもう少し長くという、従来から持っている私ども自身の希望を今回実現しようということになった。
【問】
3月31日の当座預金の着地は35兆7600億円で、現行の目標幅の35兆円程度の中に収まっていた、つまり、なお書き対応ではなかったという判断であったと思う。目標幅の下限は30兆円程度であるが、単純に計算すると、29兆2400億円とか、29兆1000億円ぐらいでも、十分30兆円程度の範囲内であると考えて良いのか。
また、4月に入って短期国債の利回りが異常なほどに急低下しており、昨日も6か月物のTBで応札倍率が1000倍くらいあった。今日も3か月物のFBで700倍近くあり、また異常な状態が始まっている。これについてどのような見解をお持ちか。
【答】
まず最初の質問について、「程度」はあくまで程度であって、これは前もって定義ができない性格のものであると思っている。なお書きというのは、なお書きの文章を読んで頂くと、何か特別な理由があって資金需要が大きく振れた場合に、経済の安定、システムの安定のために適用しようということであるが、そうしたことがなくても、資金需給というものは月単位、週単位、日々、あるいは瞬時に非常に振れる性格のものである。従って、本当に1日が終わってみないと、その日の流動性供給額を端数までは事前につかめない。そうした性質のものをちょうどの数字でお示しして、少し飛び出したからこれは何だというのはあまり意味のないことであるから、「程度」というのをつけている。「程度」は、あくまで日本語としての程度としてご理解頂きたい。金額いくらいくらまでは「程度」というような、事前の定義的な理解を私どもも持っていないとご承知頂きたい。
第2の質問については、先程も申し上げたように、ペイオフ全面解禁後まだいくばくも日は経っていないが、この何日か経過している状況だけを見ても、市場は非常に安定して推移している。やはり、先々に対する不透明感——特に金融システムの面での不透明感——というものを、市場は時間の経過とともに、少なく抱きながら、市場地合いの形成を図っている表れであると理解して良いのではないかと思う。
【問】
原油高等の影響で米国では一時期と比較してインフレ懸念が出てきており、それが金利や通貨のほうにも影響しているかと思う。一方、日本の場合は、1月の経済指標は強かったが、2月は1月の反動ということが言われている。最近のこうした経済状況を含めた為替市場の動きの背景と、円安からもたらされる日本企業の収益への影響を伺いたい。
【答】
その時々の為替市場の動きについては基本的にはコメントを申し上げないということであるが、最近の為替市場の動きを私なりに理解してみると、引き続きグローバル・インバランスというものに市場が全く無関心になったわけではないと思う。しかし一方で、例えば米国と対欧州、米国と対日本というように実体経済の動きを見た場合には、何がしか成長率格差のようなものを市場が感じる、あるいは、グローバル経済全体としてインフレが起こりにくい経済になっているとは思うが、その中でも米国経済についてみれば、時間的経過のなかで、いくばくかインフレ・リスクが高まっているかどうかということに多少の関心がごく僅か高まっているのではないか、そのようなことを消化するために為替市場は微妙に動いているということではないかと思う。
為替市場の動きについて、何かの要素に決めつけて判断するのは極めて危険であると思う。そのような様々な要素を消化しつつ動いているのではないかと思う。
【問】
今月中旬にG7の開催が想定されている。まだ情報等がなかなか集まっている状況ではないかもしれないが、現段階で総裁はG7に対してどのようなテーマに注目されて、どのようなところに関心を持たれて赴かれるのか。
また、これまで何回か出席していた中国の閣僚級が今回出席しないということもあるようだが、これに対してどのように捉えているか。
【答】
新聞のヘッドラインになるような、「テーマはこれです」というように申し上げられる材料は今何も持っていないというのが率直なところである。おそらく、米国がどうとか、中国がどうとか、原油がどうとか、といったように部品に分解して何かを強くクローズアップして問題視するというような取り上げ方ではないのではないかと思う。世界経済全体としてのスピードと基礎的な資源の需給との関係や、その資源が効率的に使われているのかいないのかということ。そんなに速くもない経済の中でインフレは起こりにくいが、インフレの危険も何か少し感じるというふうに一見矛盾するような現象。さらに日本経済について、ソフト・パッチを抜け出すことは確実であると思うが、ソフト・パッチを抜け出した後の経済の径路、つまりデフレ脱却の径路。こうした問題はすべて、グローバルなストラクチャーの中でダイナミックな位置付けに置き直して見なければ正しい解が出ないような世界経済になってきていると思う。
G7における議論も、ますます難しいレベルのものになっていくだろうというのが私の率直な感じである。為替だけ議論するとか、原油だけ議論するとか、中国経済を議論するだとか、従来は楽であった。そういう段階では段々なくなってきている気がする。
中国の当局者が今回いらっしゃらないのかは、良く承知していない。
【問】
郵政民営化の件だが、今週政府部内の調整が一応決着して、党との本格調整に入ったが、政府部内の調整の時は貯金と保険の株式を完全売却するかどうかで対立があったやに聞くし、一部は保有しておくべきだという総務省の案もあったかと思う。そこで総理が今回完全売却を決断したことへの評価と、今後、党との法案作りの調整に対して期待されることがあったら伺いたい。
【答】
政府レベルでの交渉の経緯というものを逐一承知していないので、そのこと自体についてはなかなかコメントし難いと思う。むしろ、皆様方の報道の助けを借りて私が知り得た情報で考えている限りにおいては、昨年9月に閣議決定された郵政民営化の基本方針の一番大事なところを守ることに、やはり相当な苦労を伴っているけれども、しかし懸命になって基本方針を守るという努力が続けられているものと理解している。
私自身も、経済財政諮問会議を通じて、非常に大事な点がいくつもあるなかでも特に重要な点として、民営化された郵政と既存の純粋な民間部門とのイコール・フッティングを実現する、そして、民営化された郵政が様々に行っていくビジネスの中でも、金融ビジネスについては明確にリスクを遮断する、という2つの点を保証して欲しいということを言ってきた。昨年9月の郵政民営化の基本方針が守られるかどうかという点についても、その点に焦点を絞って注目し続けているということである。
これから具体的な法制化のプロセス、さらなる政治折衝があると思われるし、その先には実際の民営化移行への具体的な運営についての検討もあると思われるが、こうした全てのプロセスを通じて、いくつかの点の中で特に重要なイコール・フッティングとリスク遮断の2点を中心に引き続き注意深く見守っていきたいし、必要に応じて主張して参りたいと思っている。
【問】
先程の少数意見に対する総裁自身の見解を改めて伺いたい。
【答】
私自身は議長の立場として、十分議論を尽くした上で、多数意見で本日の結論を取りまとめた。日本銀行の政策委員会は典型的な合議体であり、議論を尽くして一つの結論を導き出すための創造的な過程である。その際に、全会一致の場合もあるし、少数意見が残る場合もある。少数意見については、私は議長として、その中で将来につながる価値ある部分が含まれているかどうかということを、今後よく考えたい。あるいは私自身だけではなくて、政策委員会のメンバー全てが、自分は少数意見を出さなかったけれども、少数意見を出された方がある場合に、その少数意見の中に将来につながる価値が含まれているかどうかということは真剣に考えて次の会議に臨んでくる。こういうプロセスを大事にしていきたいと思っているが、これは政策委員会のメンバーの方々にもその意識を共有して頂いていると思う。会議をしなくても前もって賛成か反対かだけわかればものが決まる、といったこととは根本的に性格が違うという理解で、政策委員会を運営させて頂いているつもりである。
【問】
少数意見の中に将来につながる価値があるかどうかについて、総裁は今どのようにお考えか。
【答】
まだ即断を許さないと思う。これから真剣に考えたいと思っている。
【問】
以前に、ペイオフ全面解禁後の流動性需要の動向などをみていきたいというご発言もあったかと思うが、即断を許さないと言われるのは、その辺りのこととも絡んでいるのか。
【答】
この席でも、あるいは国会でご質問があった場合にも、ペイオフ全面解禁後の経済情勢の展開、金融システムの安定化度合いの更なる深まりの状況、それらを背景としながら金融市場がどう変化するか、具体的な流動性需要がどう変化するか、といったことを十分考えながらでなければ結論の出ない問題である、と申し上げてきた。ペイオフ全面解禁後まだ数日の状況であるので、そういう意味で、まだ予断をもって臨むべき段階ではないと私自身は思っている。
【問】
では、どの程度の期間をみればその辺の見極めがつくと思っているのか。
【答】
まだ数日しか経っていないと私が申し上げたので、「期間で答えが出せるのか」というような感じを与えたとしたら、それは私の答え方がまずかったわけで、今後の情勢次第だというふうに思って頂きたい。
【問】
今朝方の話だが、日銀の元局長であった福岡銀行の寺本会長が亡くなられた。個人的なご感想で結構なので伺いたい。
【答】
全く突然の訃報で大変驚いている。心からお悔やみを申し上げたいと思う。
以上