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春審議委員記者会見要旨(6月27日)
2005年6月28日
日本銀行
─2005年6月27日(月)
旭川市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約30分間
【問】
道北の経済は、東京に比べて景況感がかけ離れた状態にあり、日銀の金融経済概況でもその旨出ている。今回、行政トップや経済界トップの方々の意見を2時間に亘って聞き、どのような点が北海道経済の問題なのか、どうすれば良くなるのかといった点で、ご意見、ご感想があれば伺いたい。
【答】
本日は、旭川市・菅原市長、上川支庁・高橋支庁長、旭川商工会議所・高丸会頭をはじめ、11名の方々にご出席を頂き、金融経済懇談会を開催させて頂いた。金融経済懇談会を旭川で開催するのは約6年振りであった。本日、当地で皆様と意見交換ができたことを感謝している。また、日本銀行の旭川事務所はおかげさまで来年で設立60周年を迎える。この点についても、これまでのご支援に対してお礼を申し上げた。
さて、当地の経済情勢であるが、公共事業をはじめ官への依存度が相対的に高い地域であるだけに、総じてみると官需が減少・縮小傾向にある中で、住宅などの民間建築あるいは個人消費も低調であり、全体として停滞局面が続いているように窺われた。雇用面でも厳しい状況にあると伺っている。
個別の業界について若干触れると、建設業は特に公共工事減少の影響を受けており、ソフトランディングが課題ということであった。バス事業も補助金縮小の影響を受けて苦しいとのことであった。当地の代表産業である家具製造業の方からも、当面、中国との競争が非常に厳しいとの話があった。農業についても、どうやって付加価値を付けていくかが課題だと伺った。また、金融業は、信用コストが低下しており、金融業自体の収益は回復基調にあるが、資金需要がまだまだ乏しく、企業経営者の業況感も、改善基調にはあるが、まだ水面下の状態が続いている、と伺った。
こうした中にあって、当地の経済活性化に向けた各種の取り組みや動きについて伺った。旭川市や旭川商工会議所が総力を挙げて、外国チャーター便の招致や、そのための旭川空港の整備プロジェクトなどを進めていることや、私も昨日見学をさせて頂いたが、全国的な人気となっている旭山動物園を地元経済の活性化の起爆剤とすべく各種の取り組みを行っていることが挙げられていた。また、官民連携して旭川市経済活性化戦略会議を発足させ、美瑛における農業を観光資源として活用した例が挙げられるなど、食と観光に注力すべく検討が開始されたということも伺った。公共工事の減少に伴う土木建築、個人消費関連への影響の広がりなど、当地の産業構造からくる問題への対処は、いまだ時間のかかる難しい問題かと思うが、今回、色々お聞きした動きがさらに強められ、広げられていくことが、当地の経済活性化に繋がっていくのではないかと期待をしている。
頂いたご意見等は今後の日本銀行の活動に十分に活かしていきたい。また、現在の量的緩和政策を引き続き堅持していくことの重要性を改めて感じたところである。
【問】
金融経済懇談会の中で、春審議委員のほうから、経済活性化の取り組みについて何かご助言あるいはご提案をされたのか。
【答】
私から特にアドバイスを申し上げたということはなく、色々と現地でのご苦労の様子を伺って、意見交換をさせて頂いたということである。
【問】
日銀としては引き続き量的緩和政策の維持に努めたいということであったが、全国的には、景気は回復基調にある一方、この道北地域はなかなか回復基調に向かっていない。量的緩和政策を維持しても、この地域はどうなるのかといった疑問も持っている。そうした観点から、本日、経済界の色々な方から話をお聞きした感想を伺いたい。
【答】
日本銀行の量的緩和政策の堅持ということは、経済全般のデフレ克服に向けた動きを支えていく効果はあると思うが、道北地域の固有の問題を解決するうえで役に立つとは言えないのではないかという点は、その通りかと思う。やはり、この地域で既に始まっている行政や各種経済団体等の動き、あるいは個別企業の動き、そういったものがしっかりと根付いて進んでいくことが重要と思う。また、先程も少し触れたが、旭川市経済活性化戦略会議が発足し、官民共同での検討が始まっていると聞いている。そうした中に、日本銀行の札幌支店あるいは旭川事務所も参加させて頂き、日本銀行として持っている色々な情報や各地での産業活性化の実例を紹介し、意見交換をしながら、協力することを続けていくということではないかと思う。
支店長、事務所長から何かあれば、付け加えられたい。
【遠山札幌支店長】
春審議委員から申し上げたとおりである。私どもが地域のために何ができるかというのはなかなか難しいが、旭川事務所、札幌支店が協力して情報交換に努めながら、我々の考え方も少しずつお伝えし、地域が少しずつ良くなることに貢献していきたいと考えている。
【問】
5月の金融政策決定会合議事要旨が公表され、その中で複数の委員の意見として、景気回復が明確になった後、現在の当座預金残高目標が維持できなくなる場合については、目標を下げることも選択肢の1つだという意見が出されていた。当座預金残高目標の引き下げと景気動向の関係について、どのようにみているか、伺いたい。また、本日、長期金利が1.2%を割ったが、日銀は景気を踊り場局面と判断していることとの関係で違和感があるのか、認識を伺いたい。
【答】
先ず景気と当座預金残高の関係であるが、今の量的緩和政策そのものについては、私としては所謂3条件が満たされるまで堅持していくということが大前提であると思う。それから、3条件を満たしているかどうかの判断をする際、私自身としては、早過ぎても遅過ぎてもいけないというタイミングが重要であるが、どちらかといえばデフレに戻らないということを重視して判断をしたい、と考えている。そのうえで、量的緩和政策を堅持しながら、今は一時的な下振れはあり得るという形の運営をしているが、それが今後景気が変ってきた場合にどう考えるかということについては、資金需要がどうなるかという問題があろうかと思う。金融機関の経営の安定に伴って資金需要が減退してくる状況にあって、一時的な下振れを許容するということは既に決定したわけである。今後、メガバンクの統合などがある中で、資金需要がさらに減少していくのかどうかというのが1つのポイントと思う。2番目が、景気が良くなるかどうかということと、量的緩和政策を堅持しながらの当座預金目標の引き下げについてどう考えるのかという点である。市場に詳しい方々の意見を聞くと、「量的緩和政策を堅持しながら慎重かつ小幅に当座預金目標を引き下げても市場に与える影響はそう大きくない」とみている方が多いように感じられる。ただ、やはり市場関係者ばかりではなく、一般の方の中には、当座預金目標を引き下げると、それは金融引き締めに向かった第一歩なのではないかという理解も出てくる可能性があることは否定できないと思う。仮に当座預金残高目標を引き下げたとした場合に、そういう意見が出るか出ないかということは、その時の景気実態がどのような状況かということによって、見方が変ってくる可能性があるのではないか。そういうことから、資金需要の状況と、市場関係者あるいはその周辺の方々の受け止め方を慎重にみながら、考えていくべき問題だと考えている。そういう意味で、私は必ずしも3条件が満たされるまで今の目標をそのまま維持するという約束はできないと思うが、基本的には今の残高目標をできるだけ維持しながら3条件が達成されるまで堅持していくのが、私なりの基本シナリオと考えている。
2つめの質問は長期金利についてだが、長期金利は、色々話題になっていて、今の状況は謎であるとみられているようだ。世界的に長期金利は低下傾向にあり、短期金利との金利差が縮小する、所謂フラットニング現象が見られている。学者の方等の意見を伺うと、長期金利は経済成長の予測とかインフレ期待とかにリスクプレミアムが乗って決まってくるといわれている。従って、長期金利が下がっているということは、成長予測やインフレ期待が低下していると考えるのが標準的な考え方かもしれないが、私なりに言うと、基本的に、現状、世界経済は順調に拡大しており、中国や米国などでは、むしろ過熱とかインフレが一部に懸念されているという状況にあるので、長期金利が世界的に下がってきていることは、やや違和感を持つ。これは私ばかりではなく、そういう見方をされている方が多いと思う。中には、GMショックがあるからとか、年金・生保の運用が長期化しているからとか、世界的な金融緩和の金余り状態が根拠になっているとの説明もあると思う。日本の場合、10年国債の利回りが1.2%近辺で、確かに水準としては非常に低いし、数日前あるいは数週間前の水準と比べてもやや下がっているということは事実かもしれないが、長短金利差から考えると、必ずしも諸外国と比べて特に小さくなっているわけでもない。今の金利の動きが今後どういう動きになるかは分からないが、それほど大きな動きとみる必要は必ずしもないのではないかと思う。いずれにしても注意深くみていかなければならないとは思う。
【問】
景気が踊り場を脱しないうちに当座預金残高目標を引き下げるということを、春委員としては必ずしも排除していないということか。また、景気の踊り場からの脱却について、日銀の展望レポートでは、年央以降、回復が明確になってくるということを見通しとして出しているが、既に年央近くになっている中で、踊り場の脱却がいつ頃になるのか、近く脱却できるのか、その辺りの見通しを伺いたい。
【答】
景気が踊り場を脱する前に引き下げることは、「100%ないと言うことはない」と言うつもりかという質問かと思う。景気が踊り場を抜け出さない前に当座預金目標を引き下げるということは、先程申し上げた市場関係者の方々やその周辺の方々から「これは日本銀行が引き締めに向っての第一歩を踏み出したのではないか」という受け止められ方をする可能性がむしろ強いし、ある意味では慎重に小幅な引き下げをしたとしても、やや副作用のリスクが多いのではないかと思う。どういう状況になるか分からないので、踊り場を抜ける時期が来るまでは、びた一文変えないと申し上げられるか私はよく分からないが、できればそういうことをしないで済ませることが望ましいと思う。
今1つは、踊り場脱却について、年央以降という表現であるが、そろそろ年央なので、もう少し明確にしてはどうかという話だが、景気の踊り場という言葉は、必ずしも明確な定義があるわけではない。私自身の見方としては、今回の景気の踊り場というのは、IT関係の調整によって踊り場状態が出てきたということと思う。従って、その踊り場を抜け出したかどうかの判断も、電子部品デバイス工業における在庫循環がある所まで進んだかどうかで判断するのが、1つの判断基準ではないかと思う。そういう意味では、電子部品デバイス工業の在庫循環が45度線を区切る状況にはまだ達していないが、かなりそれに近い状況になってきている。先行きどういう展開になるか分からないが、私としてはそういう状況はかなり近くなってきているのではないかという理解をしている。
【問】
本日も原油価格が上がっているが、原油の景気への影響について伺いたい。また、本日の挨拶でも全国的な景気の地域間格差が縮小していないという認識であったと思うが、景気の地域間格差についてご意見を伺いたい。
【答】
特に先週末から原油がWTIで60ドルと高い水準に達して、中には60ドル時代の始まりとの見方もされている。私の見方は、日本の場合、相対的にみれば原油高の影響を受けにくい状況にある。むしろ、他の国との競争関係から言えば、有利な面も一部には考えられる。ただ、このところ若干外需が弱いとは言っても、外需の影響等は受けざるを得ない。米国あるいは中国が原油高によってかなり大きな影響を受けた場合、その間接的な影響を受ける可能性はあるかと思う。また、原油高の持続性、あるいはさらなる上昇によっては、直接的な影響も否定することはできないと思う。現時点で考えられる下振れ要因として最も懸念されるのは、私は原油高ではないかと思っている。
もう1点は地域間格差の問題である。本日、行政あるいは経済界の方々との意見交換をさせて頂いたところ、ある程度覚悟していた点ではあるが、皆様の真摯な努力にもかかわらず、道北地区の経済状態はなかなか上向かないとのことであった。こういう地域は、他にもあろうかと思う。地域間格差をどう考えるかということだが、良い所がさらに良くなることは、ある意味では望ましいことだと思う。格差が全く無くなることは、おそらくあり得ない。若干他の地域より苦しい地域があった場合、その地域がどういう自助努力によってその状況を打開していくかは非常に難しい問題である。先程申し上げた通り、日本銀行としては、支店網等を通じて日本銀行なりの──どういう支援ができるか分らないが──協力をさせて頂くが、それぞれの地域の自助努力で、他の地域に追い付いていく努力を是非期待したい、というのが基本かと思う。
【問】
量的緩和政策の枠組み変更の時期に関して、再びデフレに戻らないことを重視して判断されるということであるが、その判断基準として、どのような状態を考えているのかを伺いたい。
【答】
所謂3条件を基に量的緩和政策を解除すべきかどうかといった判断をする時期がいずれ来るであろうと想定をしているが、その時に、第1条件、第2条件は比較的数字に基づいた判断であるので、それほど差は付かないだろうと思う。一方、第3条件は、総合判断の問題になるので、人によって判断基準に差があると思う。例えば、同じ物価水準であっても、前年比の絶対水準だけではなく、物価上昇の持続性とか、物価上昇の速度とか、その時点での景気実態とか、短期金融市場の状況とかである。あるいは今すぐ問題になるとは思わないが、土地価格等の資産価格等も1つの判断基準として入ってくるのではないか。勿論、今申し上げたいくつかのことを全部均等に判断するということはない。その時に、そういう状況から判断するということであるが、私はやや慎重に、どちらかと言えば、デフレにはもう戻らない可能性が高いということをある程度確認してから、そういう判断をしたほうが良いと思っている。
以上