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総裁記者会見要旨(10月12日)

2005年10月13日
日本銀行

──2005年10月12日(水)
午後3時半から約50分

【問】

 本日の金融政策決定会合の結果および、本日公表の「金融経済月報・基本的見解」を踏まえた景気の現状と見通しについて伺いたい。

【答】

 本日の金融政策決定会合では、現在の当座預金残高目標30~35兆円程度を維持することを決定した。また、「なお書き」についても変更しないこととした。日本銀行としては、引き続き、消費者物価指数に基づく明確な約束に沿って、金融緩和政策をしっかりと継続していく方針である。

 背景となる経済・物価情勢について、先般公表した短観でみると、事前の市場予想よりは少し控えめであったが、私どもは、これだけ原油価格が高騰する中で、それを織り込んでの比較的しっかりした内容であったと思っている。経済が回復の持続可能性を確実に強めながら前進していることを推察させる短観結果であったと思っている。

 事実、日本経済の動きを見ると、引き続き企業収益が高水準で推移している。原油高を飲み込んで企業収益が高水準で推移しており、設備投資はそれとの関連で増加を続けている。中小企業における設備投資の積み増しも非常に順調である。裾野を広げながら設備投資は増加していると思っている。

 また、こうした企業部門の好調さは家計所得にも波及しており、雇用者所得は、緩やかな増加を続けている。個人消費は、夏場の売上げ関連統計は少し弱めの数字も出ているが、全体としては底堅く推移している。

 先行きについて、日本の景気は、緩やかながら息の長い回復が続いていくと判断している。輸出は、足許緩やかに拡大しているが、海外経済の拡大を背景に、今後とも拡大していくとみられる。国内民間需要も、高水準の企業収益や雇用者所得の緩やかな増加を背景に、引き続き増加していく可能性が高い。こうしたことから、緩やかながら息の長い景気回復が続くとみている。

 もちろんリスク要因には、今後とも十分に注意しなければならない。リスク要因は、当面は国内よりも海外のほうにより強く見られる。とりわけ原油価格の動向が海外経済に及ぼす影響、ひいては日本経済に及んでくる影響という点について、十分に注意していく必要があると思っている。しかしながら、当面は、緩やかながら息の長い景気回復が続くと判断している。

 物価面では、前回の記者会見でお話したところから特に変わったところはない。引き続き、私どもの事前の予想通りに物価全体が動いていると思っている。国内企業物価は、原油価格高騰の影響などから上昇しており、先行きについても上昇傾向を辿るとみられる。消費者物価指数(除く生鮮食品)は、なお小幅なマイナスとなっているが、先行きは、需給環境の緩やかな改善が続く中、米価格のマイナス寄与が剥落していくことや、電気・電話料金引き下げの影響が弱まることなどから、年末頃にかけてゼロ%ないし若干のプラスに転じると予想される。

【問】

 景気回復の底堅さに加え、多くの民間予想で年内に消費者物価指数がプラスに転化することが予想される中、量的緩和政策の出口が近付いて来ているとの考えか。また、そういった環境の中で今後の政策運営にあたって、市場に混乱を与えないために日銀がとるべき情報発信のあり方、市場との対話姿勢についても併せて伺いたい。

【答】

 当面の政策運営については、冒頭に申し上げた通り、現状、消費者物価指数は、ごくわずかだがなお前年比マイナスで推移している状況であるため、もともとの約束に従って量的緩和政策を堅持していく。これに尽きる。ただし、先行き量的緩和政策の解除つまり量的緩和政策の枠組み修正の判断基準については、繰り返し申し上げている通り、2003年10月に明確にした3つの基準に忠実に沿って、正確に判断していきたい。消費者物価指数の前年比が数か月均してみてゼロ%以上で推移することと、先行き再びマイナスに戻らないと見込まれることは必要条件である。ただし、十分条件ではない。十分条件でないという意味は、この2つの条件を満たすと機械的に量的緩和政策の枠組みを修正するということではない、ということである。量的緩和政策の枠組み修正にあたっては、この考え方に沿って、経済・物価情勢を改めて点検し、全体として消費者物価指数の前年比が安定的にゼロ%以上になったと言えるかどうかを、ボードメンバーで十分確認したい。

 量的緩和政策の枠組み修正の時期については、現状では2006年度にかけてその可能性が高まっていくと考えているが、それ以上でもなくそれ以下でもない。具体的な時期については今後の経済・物価の情勢次第である。予断を持って臨むということはなく、適切に判断していきたいと思っている。

 この前の講演でも申し上げたが、時の経過とともに経済情勢の大きな変化を背景に、量的緩和政策の効果については、短期金利がゼロ%であることによる効果が次第に中心的な役割を占めるようになってきている。従って、量的緩和政策の枠組みの変更自体は、金融政策が突如不連続に変化することを意味するものではない。このことをまず十分にご理解頂くことが大切である。量的緩和政策のもとで長い期間を経過してきているため、印象として段差がついて変化すると受け取られかねない心配はあるが、そうではなく、あくまでも連続線上の変化であるということをまずご理解頂くことが大事だと思っている。その上で金融・経済情勢に関する判断をさらに正確に固めて、これを詳しく説明しなければならないし、その後の金融政策運営に関する基本的な考え方についても丁寧に説明する必要があると思っている。私どもは、市場との対話に十分工夫を重ねながら、まずは量的緩和政策の枠組みの変更があっても不連続なものではなく、その後の政策運営にあたっても、市場における期待の安定化に十分配慮しながら政策運営を進めていきたいと思っている。

【問】

 いわゆる3条件と言うか、2条件プラス「なお書き」の「なお書き」の部分は、経済・物価情勢に対する判断であり非常に範囲が広い。ポイントを絞ると、この条件をクリアしたかどうかは何によって判断するのか。例えば、その時の景気動向──物価についてはゼロ%以上ということが前提だと思うが──について、現在のように景気日付で言うと拡張期が長く続いている状況で、どの程度の景気の強さが前提になるのか。なかなか具体的には言いにくいとは思うが、経済の情勢判断のポイントについて、もう少し敷延して頂きたい。

【答】

 実体経済と物価は、不可分一体なものであるが、強いて分ければ、景気回復の持続可能性を改めてしっかり確認するということだと思う。これからそういったことを判断する時点までにリスク要因がどのように変化し、リスクがあっても経済が確実にそれをこなしつつあるかどうかなどについて、今後の推移を十分点検しなくてはならない。さらにその最終判断の時点で、その先の様々なリスク要因に対して日本経済がこれを十分に乗り越え、緩やかであっても持続性をもって景気回復を続けられるかどうかが、重要な判断ポイントである。

 物価は、消費者物価指数が数か月プラスになった、あるいは先行き見通しもプラスだと判断しても、その物価が形成されていく背後の事情、つまり経済の持続的回復と裏腹であるが、需給の関係がどのように変化しつつあるか、ユニット・レーバー・コスト(単位当たりの労働コスト)の状況がどのように変化しつつあるかなど、物価形成の一番重要な決定要因のところを探り当てて、きちんとした判断を固めたい。

【問】

 金融政策が不連続にならないようにするとのことだが、既に限りなくゼロ金利の効果に近づいているという面から考えると、解除した後もゼロ金利が継続する可能性があると判断して良いのか。また、量的緩和政策の解除に必要な3条件のうち、必要条件の「数か月均してみてプラスになる」という表現について──数か月とは、我々の常識では2~4か月で、5か月や6か月ではない──、具体的にどのように考えているのか伺いたい。

【答】

 まず、2つ目のお尋ねについては、「数か月を均して」とは、マイナス、プラスがあって均してプラスということではなく、ゼロ%ないしゼロ%を上回る月が数か月続く、という意味である。

 数か月という言葉については、予め2か月とか3か月といった特定の数字を念頭に置いていない。少なくとも1か月でないことは確かである。その時々の物価に関して、常に背後の事情を分析しており、安定的にプラスであるか否かという安定性の判断に際しては、掘り下げた分析を行いながら、物価上昇のスピードも織り交ぜながら判断していく。従って、予め何か月という機械的な前提条件を置いていない。

 量的緩和政策の枠組み修正を、金利をターゲットとする政策への切替えととらえた上で、連続性について考えてみる。現在の量的緩和政策においても、消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になる時期が、かつてに比べればかなり近い距離に見えて来ているので、人々が自動的に時間軸を短くしてきており、その結果、ゼロ金利を強く意識している。最終的には、時間軸がほぼゼロという時に政策の枠組みの切替えが起こり、これがすなわちゼロ金利である。つまり、枠組みの修正それ自体は何ら段差がつかないということである。そこで実質的に「ゼロ金利」、名目的にもゼロ金利になった時点以降に、どのような金利水準に誘導するかはその時の情勢次第である。その時点に立って、先行きどのような経済・物価情勢になるかという予想に100%依存している。しかし、その場合も今の段階で言えることは、かねがね申し上げている通り、景気が持続的に回復しても物価が上がりにくい環境が続き、インフレ期待が急に昂進するという事態が予測されないのであれば、引き続き余裕を持った対応ができるのではないかと思う。最低限その程度までは言えるが、具体的なことについては、その後の情勢次第である。

【問】

 量的緩和の解除に関しては閣僚から慎重な対応を求める声が出ている。これに関連して、総裁は先の国会答弁で、異常な政策をいつまでも続けるわけにはいかない、といった趣旨の発言をされているが、一般の国民からすれば、量的緩和やゼロ金利に慣れてしまっており、何が異常かわからないと思われる。改めて量的緩和政策をいつまでも継続した場合の副作用について、どのような考えなのか伺いたい。

【答】

 副作用は数多いが、かねてから申し上げている通り、一番重要な副作用は、金利機能を封殺しながら政策運営をしていることだと思う。従って、この量的緩和政策の枠組み修正は早すぎてはいけないが、遅すぎてもいけない。遅すぎるとデメリットがメリットを大きく上回るリスクがあると思う。その辺の判断をきちんとしなくてはいけないし、これからが重要な局面だと思う。ただし、おっしゃったような注文が具体的についているという認識は、鈍感なのかもしれないが、持っていない。現状、消費者物価指数はまだわずかであるがマイナスの世界で動いており、私どもは今の政策を堅持すると申し上げているので、不一致はないと認識している。

【問】

 時間軸がゼロになった時には、政策が切り替わりゼロ金利となって、それ以降はその時の情勢判断次第であるとのことだが、その時には時間軸に変わるような考え方を金融政策に導入される可能性はあるのか。

【答】

 金利をターゲットとした普通の金融政策に移行した場合には、金利が多くのことを物語ってくれる。従って、市場と私どもとの対話は、言葉を通じた直接的な対話だけでなく、金利そのものをお互いに眺めながら、金利を通じて行なわれる。金利が多くのことを物語るので、私どもの金利水準の設定が正しければ自ずと会話が合うというかたちになる。それが広く伝播すれば、経済の安定化につながると思う。もっとも、デフレ脱却、さらにより均衡の取れた日本経済の姿に到達するまでに時間的距離があるので、私どもとしては金利がすべてを物語ると手放しで安心することなく、コミュニケーションを引き続き密に行いたい。どのような物の言い方が良いか、私どもの政策の提示の仕方がどうあれば良いかを綿密に検討して、必要なものを提供していきたい。ただ、金利ターゲットになった以降は、基本的には金利をして語らしめるということが一番大事なことだと思う。

【問】

 来日されるグリーンスパン議長とはどのようなテーマで話をされるのか。

【答】

 肩肘張って待ち構えているわけではなく、退任される前に是非日本にいらして今の日本経済の姿を直接ご覧下さいと申し上げてお誘いした。グリーンスパン議長も気楽にお越しになるのではないかと思っている。現状、日本銀行とFRBとの間で問題は何もなく、グリーンスパン議長を待ち構えて何か交渉をしなければならないということはない。改めて、日本経済を現地で見て頂きながら、いろいろな意見交換をしたいと思う。

【問】

 郵政民営化法案が衆議院を通過し、参議院でもおそらく成立するだろうとみられているが、これに関して感想を伺いたい。

【答】

 これから先の長い将来までの日本経済を考えた時に、本当にダイナミックな経済—─イノベーションがどんどん誘発されて、少子高齢化の中にあっても活力が充分な日本経済—─になっていくために欠かせない条件として繰り返し申し上げているのは、民間部門のリストラだけではなく、残された公的部門のリストラである。これが成し遂げられて資源の配分がきちんと行われ、すべての資源が有効に活用される状況に持っていかなくてはならないと思っている。公的部門のリストラをどこから手をつけるかといった場合、いろいろな角度からのアプローチが可能だと思うが、小泉内閣では郵政民営化を突破口にしたいということである。それはもちろん大歓迎で、大いに突破口として次なる改革にしっかりつなげて頂ければ非常に有難い。そういったダイナミックな動きが出てくれば、金融政策の効果も一層高まることは間違いないと思っている。

【問】

 総裁は無類のタイガースファンとお聞きしているが、今回の村上ファンドによる阪神球団の上場要請について、一ファンとしてはどのように受け止めているか、お聞きしたい。

【答】

 ファンとしてインタビューを受ければ無限に語れるが、今日は金融政策決定会合の後の公式な会見であるので、一ファンとしての発言はできない。村上氏の率いるファンドの投資行動は、ひとつの投資主体の投資行動であるので、私の立場からはコメントすべきではないと思っている。ノーコメントでお許し頂きたい。

【問】

 政策委員の方々は、最近の講演の中で、米国経済のリスク・ファクターとして原油問題を挙げている。直近の米国経済については、ガソリン価格の上昇に伴って消費者コンフィデンスがかなり後退しているとの見方がある。一方、FRBの判断としてはインフレ懸念を考えると継続的にFF金利の正常化を行わなければならないという課題もある。米国は、二律背反的な課題を抱えていると思うが、総裁の見解を伺いたい。

 また、現在、NYダウは1万ドル程度まで調整を深めているが、例えば株価がさらに下落し、住宅価格の上昇が止まり、米国経済が調整局面に入るとしたら、日本が10年前に経験したような資産デフレに直面する恐れがあるとお考えか。

【答】

 大変重要な問題であり、実は非常に難しい問題であると思っている。原油価格の高騰が長続きする可能性とその影響は、世界経済共通の大きなリスク・ファクターとしてとらえられている。これを自分の国の経済に持ち帰った場合に、どのような径路でどのような影響を及ぼすのかが事前にわかっているに越したことはない。

 原油価格高騰に加え、「カトリーナ」、「リタ」といったハリケーンが連続して米国を襲ったことが、この問題の構図を非常に明確に浮かび上がらせたと思っている。ハリケーンが浮かび上がらせた第1の問題は、原油価格上昇が消費者コンフィデンスに何がしかの影響を及ぼし始めているということである。消費者コンフィデンスに影響が及ぶと消費者の支出態度に何がしか影響が及び始める。まだ何か深刻なことが予想されているわけではないが、そういう影響が多少出始めているという径路があると思う。

 もう一つは、米国の原油の生産設備あるいは石油精製設備にダメージを与えた。回復が進みつつあるが、十分なスピードで回復しているかどうかはわからない。つまり、米国内において、原油および精製後の石油製品の供給ネックがいくらか浮かび上がっている。今回の原油価格上昇は、全体としては需要が強いことによって引き起こされているが、供給面の問題が全くないわけではないことを、ハリケーンがクローズアップしたと思う。これは米国において、インフレ・リスクあるいはインフレ心理を刺激する危険を少し強調して見せている面がある。実際に、それが現実のものになりそうだというところまで危険度が高まれば、長期金利上昇の引き金になりかねない。ひいてはご質問のポイントである住宅価格をはじめとした資産価格の下落の引き金を強く引くことになりかねない。

 また、米国の企業については、引き続き収益好調、投資活動も順調であるが、原油だけでなくその他の資源価格の高騰を含め、コスト・アップをどこまで吸収し続けられるかという問題がある。この面についても問題をクローズアップしている。従って、米国の投資家あるいは市場においては、米国の個々の企業の今後の収益見通しを厳しくチェックしようという感じになっている。そして相対的に企業収益の見通しが弱いところについては、株式市場で早めに株価がチェックされるという動きが出ている。このようなことが株価形成にも響いていると思う。

 もっとも、ものは考えようで、影響の径路が予めクローズアップされ、そこを中心にずっと見ていけば、問題の重さや深さは的確に判断でき、結果的にマネージャブルにもなるかもしれないとも思える。従って、径路やその変化の度合いを正確につかみ、政策対応をきちんとできるかどうかが重要である。構図がはっきりしている分だけ、対応しやすいという面もあると思う。しかし、問題は、それを上回る影響が出てくるかどうかであり、そういう目で見ていくべきではないかと思っている。何もわからない中で、突如として問題が浮かび上がるよりは、良いかもしれない。

【問】

 財政再建が大きな課題となり、総裁も財政審議会などで財政再建の必要性を述べている。財政再建を進めていく上では、歳出削減あるいは増税のいずれにしても、景気にはある程度下押し圧力がかかる可能性がある。そうした中で、財政再建中は、財政は引き締めながら金融政策はある程度緩和を維持するといったポリシー・ミックスが必要ではないかとの議論もあるが、こうした考え方について総裁の考えを伺いたい。

【答】

 かねてより申し上げている通り、政策というものは足し算、引き算、イコール答えというような算数では何ら答えは出ない。あくまでもダイナミックな経済の動き、それに対していろいろな政策が対応し、その総合力の結果として次なるダイナミックスを生む、という非常に動態的な理解が必要である。ある瞬間に動きを止めモデルを動かして、足し算、引き算の結果として金融政策はこの金利水準を維持すべきだというのは、生きた政策にならないと思っている。

 財政再建は長い期間を要する。しかも歳出・歳入両面からの抜本的な対応が必要な重要な課題である。従って、その再建過程では、その他の政策を止めてじっと待つといったことが、ダイナミックな経済を作っていくことと両立しないということは、すぐにおわかり頂けると思う。財政再建のプレッシャーや原油価格の上昇等その他の様々なリスク要因があるが、それらのリスク要因や政策的な負担を吸収しながら、経済を鍛えさらに前進するだけの力をつけていかなければならないということだと思う。

 金融政策の役割とは、全体の経済の動きでもっとも適切な資源配分が行われ、企業が安心して次の事業課題に取り組んでいけるような条件を整えることである。その最たるものは、物価の見通しについて上下の振れがなく、企業がしっかりした採算見通しのもとにリスクをとって次の投資をすることができる条件を整えることである。インフレ・リスクがあるにもかかわらず、財政再建の途中だからモデル計算の結果金利は据え置いたほうが良いということでは、企業は安心して次のビジネスにチャレンジできない可能性が出てくる。そうしたことがないように判断していく。

 財政政策のほうも、一旦再建のプログラムを決めたからといってこれを機械的に実行するのではなく、経済は変動するものであるから変動に合わせてある程度は伸縮性を持って、再建プログラムを実施していくことが重要である。この組み合わせが大事ではないかと思っている。

【問】

 政策変更に伴う日銀当座預金残高の引き下げペースについて、十分時間をかけるべきだという議論や、ある程度市場が予見性を持つようにしたほうが良いという議論があるが、この点についての考えを伺いたい。また、解除後の金融政策の透明性を図る工夫について、インフレ参照値のようなものを検討対象に入れる考えを持っているのか伺いたい。

【答】

 まだ量的緩和政策の枠組み修正について具体的な検討に入っているわけではないので、量的な供給目標、実際の供給額をどのペースで修正していけば良いかについては、今の段階では全く考えを持ち合せていない。そういうプロセスに入れば、市場に余分なショックは与えないように、無理なオペレーションを打たなくても自然に吸収される範囲内で吸収を進めるのが一番理想的である。その時の経済・物価情勢を睨みながら、それとの整合性がとれる範囲で最もスムーズな吸収の仕方ということになると思う。

 期待の安定化を図るためにどのような道具立てあるいはコミュニケーションの仕方があるかについても、まだ多様な考え方があり、今のところはこれを収斂させて物事を組み立てていこうという段階には至っていない。インフレ・ターゲティングやインフレ参照値がお題目的に議論されるのを私は好まないが、そうしたものについてもバリエーションが可能であり、私どもとしてはさらにそこに知識創造を加えながら、本当にそうしたものが使えるのか否か、使えるとしてもどのように組み立て直して使えるのか、あるいは全く使えないのか、これから十分に検討したいと思う。

【問】

 政府系金融機関のあり方が議論されているが、これまで政府系金融機関が果たしてきた役割をどのように評価されるのか。また先程もおっしゃっていた公的部門のリストラという意味で言えば、今後政府系金融機関はどうあるべきなのか、総裁の考えを伺いたい。

【答】

 政府系金融機関は、戦後非常に長い歴史を経ている。復興の過程あるいは高度成長期の初期の段階までは、民間金融機関を補完する役割が非常に大きかった時期もあり、相応にポジティブな評価を与えるべき過去の系譜を有している。最近でも、90年以降のバブル経済崩壊以降、民間金融機関が不良債権処理に相当なエネルギーを注ぎ込み続けなければならなかった時期において、やはり民業補完の幅が広かった時期があったと思う。そうした時に果たした役割は十分評価すべきであると思う。ただこの先のことを考えると、先程も申し上げた通り、民間部門においてより多くの資源がより有効に使われるようにしなければ、人口が減少していく中で、この厳しい国際競争場裡において日本経済が強い競争力を保っていくことが難しくなることは明確である。従って、非常に長い尺度で過去から将来にわたる金融の流れを考えていけば、趨勢的には民業を補完する余地が狭まっていくと、基本的には思っている。

 もっとも、民間金融機関においては、不良債権処理の問題が概ね終了したが、これからの新しいビジネス展開はまだ緒についたばかりであり、本当に力強い展開がどの程度行えるのかということとの兼ね合いもある。静止画のようにある瞬間にすべての動きを止めてパチンと写真を撮るようにして、ここからここまでが民業、ここから先は官業というように判定できない難しさがあると思う。今後の民間金融機関のダイナミックな展開を前提にしながら議論しなければならない非常に難しい課題である。私は民間金融機関に大いにがんばって欲しいと思っているが、ただ官業を封じ込めるというだけの議論ではだめで、民業が大いにがんばるという部分を示していかないと、正確な判断ができないと思っている。

【問】

 先程、量的緩和政策解除後の政策運営について、名目的にも実質的にもゼロ金利になった後の金利政策、政策運営の方法の先行きは、その先の情勢判断に100%依存するとおっしゃった。元々連続線上にあるということで、大きな実態的な変化はないとおっしゃっているが、そうは言ってもこれだけ長く同じ政策を続けると、やはり大きな政策転換であることは間違いないと思う。海外に対しても日本銀行は金融政策を変えたという非常に大きな印象を与えることになると思う。その意味で、政策変更をするという段階で、プラスの金利を展望できない情勢で取りあえず量的緩和政策を解除するというスタンスなのか。もしそうであると、同じバスに乗っている私どもとしては、闇夜に鉄砲というか、運転手自身がどちらを向いているのかわからないのに闇雲に運転しているような不安感もある。量的緩和政策を解除する段階で、少なくとも明確なプラスの金利に耐えうる経済、あるいはプラスの金利がふさわしい経済を展望して量的緩和政策の解除に踏み切るというスタンスなのか、それとも取りあえずやってみるというスタンスなのか、どちらであるか伺いたい。

【答】

 「取りあえずやってみる」という意味が不明確なので、お答えするには大変リスキーな質問であるという気がする。かねてより、景気回復の持続性をしっかり点検し、物価の動きを掘り下げて、需給関係、ユニット・レーバー・コストの動き等もきちんと判断した上で、量的緩和政策の枠組み修正に踏み切ると申し上げている。物価がプラスの世界に入っていくということは、遅いか早いかは別にして、方向性としては金利についてもプラスの方向に入っていく。そこまではしっかりとした判断を持って政策判断をする。それでもなお幅があると思う。それはその時、早すぎず遅すぎず正しいタイミングでやらないと、その政策が市場に円滑に吸収されないということになるので、市場に円滑に吸収されるように正確な判断をしたいと思っている。「闇夜に鉄砲」とおっしゃったが、皆様方が闇夜に鉄砲で撃たれるとは信じ難い。既に皆様がこちらの方に向いてライトを照らしておられ、その明るいライトのもとで、私どもは冷静に正しく判断したいと思っている。

【問】

 先程から量的緩和政策解除後の政策について、言葉による市場との対話だけでなく、金利を通じた対話という表現があったが、金融政策の決定方法について、現在と解除後とで何か違いを設ける考えがあるのかどうか、特に中央銀行の独立性という観点から総裁の考えを伺いたい。

【答】

 決定方法については、一から十まで金融政策決定会合で経済情勢を十分点検し、情勢判断を固め政策内容を決める。外から一切干渉を受けないという点では、これまでも量的緩和政策の枠組み修正後も変わらない。

 金利政策になると、市場の金利機能がますます活きてくるので、市場から受け取るメッセージの量も内容も多くなってくる。私どものアクション、言動に対して市場が反応する度合も濃密になってくる。そこを正確にコミュニケートして、エッセンスを汲んで先行きの判断を積み重ねていくことになる。市場機能が活きてくるという点が現在の量的緩和政策の枠組みのもとと違う点である。

【問】

 長期金利の動向について伺いたい。量的緩和政策を解除した際の長期金利の動きがいろいろと議論されており、量的緩和政策解除に伴って長期金利が跳ね上がるリスクを指摘する声もあれば、一方で、昨年来のFRBのように、利上げに転じても長期金利は上がらないというようなシナリオを取り沙汰する向きもある。総裁はそれについてどのようにみておられるのか。さらに、長期金利が跳ね上がった場合にどういう対応を行う用意があるのか伺いたい。

【答】

 市場金利、特に長期金利を金融政策で飴細工のように一定のポジションに置き換えることはできないと思う。それ故に、私どもは情勢判断に正確を期して政策を遂行する以外になく、情勢判断が正しければ、長期金利は、多少の振れを伴っても、結局のところ先行きの経済・物価見通しに関する人々の観測と一致するところに修正されていくはずである。そのような運営を行っていく以外にはないと思う。もちろん、市場の中でその方向性と違った動きをすることによって鞘取りなどのいろいろな取引が行われると思うが、実勢から離れた市場金利の水準を長く維持できる力のある人は、この世の中には存在しない。結局は、経済実勢に合ったところに金利は修正されていくと思う。金融政策のスタンスと経済の先行き見通しについて、多くの皆さんの見通しと私どもの見通しが一致していて、政策もそれに一致している限り、非常に飛び離れた金利が長く続くという危険はそれほど大きくないと思う。

【問】

 量的緩和解除の3条件のうちの第2条件である「政策委員の多くが、見通し期間において、消費者物価指数の前年比がゼロ%を超える見通しを有していること」の解釈について伺いたい。これは見通し期間の平均値がゼロ%以上ということではなく、見通し期間にわたってゼロ%以上であると理解するのが、先程の第1条件の解釈からしても自然だと思われる。しかし、現状の展望レポートでは、年度平均で見通しが表明されており、我々は表に出てくる情報からはその点を読み取りにくい。そこで、政策委員の見通しについて、第2条件を満たしているか否かがクリアに分かるように見通しが表明されると期待して良いか。

【答】

 足許の物価が何か月も続いてプラスであり、先行きもプラスであると言う時に、一回マイナスとなることを前提に議論することは、あまり生産的ではないと思われる。素直に理解すれば、足許がプラス、先行きの年度の見通しがプラスという限りにおいては、多少の波があっても概ねプラスで推移することが当然想定されているのであって、時々大きく沈むことを想定して、予測を立てるということは多分ないのではないか。

【問】

 つまり、年度平均で見た消費者物価指数が前年比ゼロ%以上であることが事実上の解除条件なのか。

【答】

 第2条件のみを取り出して議論しても、意味がないことを申し上げている。第1条件がまず実現し、その上で第2条件が問題となるのであって、第1条件が未達成であれば、その先についても様々な世界を想定できよう。しかしながら、第1条件が実現し足許の物価がプラスとなった上に、消費者物価指数の前年比が先行き平均してプラスで推移するだろうという時に、その途中でマイナスに転ずることがあっても良いのか否かと問われても、あまり意味のあるお答えはできない。

以上