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春審議委員記者会見要旨(12月7日)

2005年12月8日
日本銀行

─2005年12月7日(水)
前橋市における金融経済懇談会終了後
午後2時から約30分間

【問】

 本日の金融経済懇談会における議論の内容について伺いたい。

【答】

 本日は高木副知事、高木市長をはじめ16名の方にご出席頂き、様々なご意見等を伺った。頂いたご意見等は今後の活動に十分活かして参りたい。

 私の受け止め方を申し上げると、群馬県経済は自動車関係の産業が好調であり、有効求人倍率も高く、活発な工場立地が見られるといったことから、全体としては元気な地域に属しているとの印象を持った。ただ、皆様からは、依然として中央との格差が残っており、特に中小企業は回復の実感に乏しいとか、県内でも、製造業が多くて東京に近い東毛地域と他の地域との格差があるといったお話をお聞きした。

 金融機関の方々からは、企業の資金需要が今年になってようやく出てきており、貸出の増加に向けた動きと見て良いのではないかといったお話があった。また、ビジネスマッチングやM&Aの仲介など、企業活動の支援のための金融サービスを活発化させているというお話もあった。

 全般的に、原油等の素材価格の上昇の影響を相当受けているが、コストダウンの努力で何とか吸収して利益を出しているというお話だった。少し特徴的な動きとしては、流通業の方から、最近、高齢者を中心に、比較的高価格の商品を買う動きが目立っているというお話があったほか、製造業の方から、これまでは専ら海外進出を進めてきたが、様々な技術開発等で海外との差別化が出来たので、今後は国内の工場も増強する方向で考えているといったお話もあった。

 また、昨日は、太田市のメーカーを訪問する機会や、前橋、高崎地域の行政や地元経営者の方々と懇談する機会も持たせて頂き、様々な企業経営の前向きなご努力の様子に触れることができた。多様な顧客のニーズに合わせて、新商品、新サービス、あるいは新しいビジネスモデルの開発に努めているといったお話や、社員のレベルアップのために目標を設定して技能向上、安全確保を目指しているといったお話、他社との差別化を行って高価格でも売れるような商品の開発に取り組んでいるといったお話を伺った。また、当地は有効求人倍率が高いが、雇用の流動化を背景に、求人情報誌が急成長しているというお話や、全国的に駅前商店街が難しい状況に陥る中、高崎駅周辺においては、若者を含めたショッピング客等で賑わっているというお話も伺った。

 以上を通じて、群馬県経済は、様々な意味での格差を残しながら、国全体として緩やかな回復の方向にある中では若干先行しているという印象を抱いた。

【問】

 東毛地域と他地域との格差とおっしゃったが、これはどういう原因でどのような格差があるということか。

【答】

 自分としても初めてお聞きしたことだったが、東京に近いことと、昔から産業が非常に発達していたことが理由ということだったと思う。

【問】

 本日の金融経済懇談会の出席者から、日本銀行の金融政策についてこうして欲しいという要望はあったか。

【答】

 冒頭の質問に対して申し上げるべきだったが、何人かの方から日本銀行の金融政策についてのご意見、ご注文があった。私の挨拶の中で、量的緩和政策の解除の可能性が高まっているというお話を申し上げたことを受けてのことと思うが、せっかくの景気回復を妨げることの無いように、また特に中小企業の負担が増えないように、慎重に配慮しながら進めて欲しいというご意見を何人かの方から伺った。

【問】

 最近、様々な方面から金融政策に対する意見が相次いでいるが、量的緩和政策の解除に関しては、従来どおりあくまでコアCPIで判断するということでよいか。また、物価の基調的なトレンドを重視するというのが日銀の基本的な考え方と伺っているが、例えば竹中大臣が言っているようなエネルギーを除く新指数や、特殊要因をさらに除いた所謂「コアコアCPI」と言われるものだとか、どのような点を重視して量的緩和政策の解除に臨まれるのか。

【答】

 現在日本で発表されている物価統計の中で、日本銀行は、国民の皆様、あるいは消費者の方々の最も肌に感じられる物価指標であるコアCPIを基準として量的緩和政策解除の判断を行うという「約束」をしており、コアCPIで判断するというのが基本的な考え方である。

 ただ、生鮮食料品のほか、加工食品等の食品全般とエネルギーを除く新指数、所謂米国型のコアCPIを、今後、政府が継続的に発表していくならば、それも含めてどういった指標が物価のトレンドを読む上で適切なものであるか、今後の検討課題だと思う。また、「コアコアCPI」についても、日本銀行として消費者物価の状況を丁寧に見ていくために、十分検討していかなければならないと思う。このほか、GDPデフレーターも考慮すべきではないかという意見もあると思う。

 いずれにしても、どのような指標を使って物価を判断していくかということは日本銀行にとって最も重要なテーマのひとつである。現在は、基本的にコアCPIを基準として判断していくが、判断に当たっては、その他のCPIやGDPデフレーター等にも十分に目配りをしていく必要があると思う。

【問】

 今のお答えの最後のところをもう一度確認させて頂きたい。物価の基調判断にあたっては、GDPデフレータ−も含めて、コアCPI以外の重要な指標等も考慮するということか。

【答】

 基本的な判断はコアCPIを基準にするが、コアCPIだけを見て判断するのではなく、その他の重要な指標にも目配りをしながら判断していくということである。

【問】

 二点教えて頂きたい。本日の懇談会での挨拶の中で、解除条件を満たしても、量的緩和政策を継続する場合もありうるという考えを示されているが、実際そうなるような景気の腰折れリスクがあるとお考えか。

 また、解除条件を満たしても量的緩和政策を継続するという判断をするときに、特にどのような指標や状況を重視されるのか伺いたい。

【答】

 非常に難しいご質問だと思う。二つの必要条件を満たしても、周囲の状況を見て量的緩和政策を解除しない場合もあるということは、すでに公表されている。これは、二つの条件以外の様々な経済金融情勢を見ながら、総合的に判断するとしか申し上げることはできないと思う。

 具体的にリスクがあるかというご質問もお答えがなかなか難しい。要するに二つの条件を満たしたからといって機械的に判断するのではなく、経済・金融・物価情勢をよく見て、敢えて言えば、明らかにデフレ克服の方向に向かっていて、その可能性がかなり高いといった判断がついた場合には解除するということだと思う。

【問】

 量的緩和政策を解除した後も極めて低い短期金利の水準を経て、次第に金利水準を適正なレベルに調節していくということだが、解除後もゼロ金利が当面長い間続くとお考えか。

【答】

 当面長い間続くのかという質問もお答えが難しいが、少なくとも解除した時点でゼロ金利、別の言葉で言うと極めて低い金利状況になるが、その後どのようなペースで中立的な金利に近づけていくかということは、現時点では全くの白紙としか申し上げられない。

【問】

 量的緩和政策の解除の判断において、機械的に見るのではなく、明らかにデフレ克服の方向に向かっている可能性が高いという判断がついたときに解除するということだが、9月の講演では「来年年明け以降解除の可能性が徐々に高まっていく」とおっしゃっていた。今の時点でそうした考えに変わりはないか。

【答】

 以前私が講演を行ったときには「年明け以降」という言葉を使い、その後のオフィシャルな展望レポートでは「06年度にかけて」という表現を使ったが、ほとんど同じような意味だと思う。公表の仕方として、「可能性は、2006年度にかけて高まっていく」という、かなり広い幅を持った言い方で申し上げるという政策委員の間での合意がある。私は基本的に、かなり広い幅を持った想定で申し上げているので、現在もその言葉を変える必要はないと思っている。

【問】

 製造業の方からあった国内の工場増強といったお話について、もう少し具体的に伺いたい。また、企業の方とお話になったときに、最近の円安傾向というのは輸出企業の業績や輸入コストにどのような影響があるのか、お話があったら伺いたい。もし、無かった場合には、春委員ご自身が、今の円安傾向の、マクロ経済に対する影響をどうご覧になっているか伺いたい。

【答】

 これまでは海外立地を積極的に進めてきたが、これからは、技術開発により人件費格差を吸収する目処が立ってきたことや、技術の国外への漏洩を防ぐ配慮から、相当大幅にというほどではないが、国内工場を増強する方向で見直したいといったご発言が自動車関係メーカーから——他にも恐らく同様の動きがあると思うが——あった。

 円安については、輸出採算が良くなっているというご発言があったが、同時に、安い方向でも高い方向でも、大きく動くのは好ましくないというお話もあった。

 私自身の見方については、為替は、海外との金利差、経常収支、経済のファンダメンタルズという、おおよそ3つくらいの要素で決まると言われている。現在は、おそらくマーケット関係の方々の関心が金利差に非常に集まって円安の状態になっているということだと思う。今後は、これが、経常収支のレベルとか、ファンダメンタルズを含めて、マーケットの見方がどう変わっていくか、よく注目していきたい。取り敢えず全体としては、円安は経済にとってプラスの影響があるのかなと思っている。

【問】

 政府から、インフレターゲットとか、望ましい物価上昇率の水準を示してはどうかという意見が引き続き出ているが、こうした意見について、春委員はどのようにお考えか。

【答】

 政府からとおっしゃったが、政策委員の中にも、それに近いご意見をお持ちの方もおられるし、現実に諸外国では、かなりの数の中央銀行がインフレターゲット、あるいはインフレ参照値という名称で、望ましい物価水準を公表するという形を取っている。金融政策のコミュニケーションというか、市場との対話については、ひとつは透明性を上げていくこと、もうひとつは金融政策の機動性を損なわないという、2つのことが重要だと考えている。透明性を上げるという意味では、望ましい物価上昇水準を公表すると言うことはプラスの効果があると思う。ただ、量的緩和政策解除については3つの条件の「お約束」を行っているので、現在の問題ではないと思う。将来、量的緩和政策を解除し、あるいはデフレ状態が克服された状況で、インフレターゲット、あるいはインフレ参照値を日本でも設定して公表していくのは、重要な検討課題と思っている。

 一点付け加えると、インフレターゲットは、中長期的な望ましい水準が目標として公表されるということと、それに向かってかなり弾力的な金融政策が取られなければいけない——いけないというよりも、今上手くいっている国はだいたいそういったやり方をしているという言い方が正確かもしれないが——ということである。そういう意味でも、日本でインフレターゲットなり、望ましい物価上昇率を仮に設定して公表していく場合には、そういう性格のものであるということについて、十分にご理解を得るようにしていかなければならないと考えている。

【問】

 現状のフレームワークの中で当座預金残高目標値を引下げることに関しては、春委員は基本的には現在の目標を維持することが適当と本日の金融経済懇談会でも述べていたが、日銀が予想している物価、経済の状況が実現されれば、量的緩和政策のフレームワークの中でも、当座預金残高目標値の引下げは十分可能であるとの見方に変わりはないか。

【答】

 現在のフレームワークの中で目標値を下げていくことが、どのような影響を持つかは判断しかねる。ただ、現実にこれからメガバンクの統合が行われるなど、金融機関の流動性資金の需要も減少していく可能性があるので、当座預金残高目標を維持することが難しくなる状況も予見される。既に6月の2日間等、資金供給に対する金融機関の応札状況などから資金需要が極めて弱いと判断されたため、目標の下限割れを許容したが、今後は一時的では済まない場合がないともいえないと思う。そういう場合には、やはり量的緩和政策の枠組みは解除できないけれども、残高は下げることも考えなければいけないのではないか、ということも一つの例として考えている。

【問】

 日銀の量的緩和政策解除の3条件の最後に「総合判断」というのがあるが、それを判断する際に、特にみていきたいという指標とか、あるいは経済状況に基づいて気になる事項があったら伺いたい。

【答】

 政策委員の間で合意したのは、経済、物価情勢を総合的にみるということである。例えばコアCPI以外の物価指標などがあるが、いずれにしても、その時に必要なものを全部見ていくということに尽きると思う。特にこれ一つという指標は、今はない。

【問】

 一部報道によると、自民党の金融政策に関する小委員会の座長を務める山本議員が、名目経済成長率を政府と日銀の共通の政策目標として挙げて、具体的な実現手段は日銀に任せることでどうかと提案されているとのことである。経済成長率を目標に挙げるというのは先進国では異例なことだと思うが、こうした提案に対して、どのように日銀としてお考えになるか。

【答】

 私も新聞等で書かれていることしか情報がないが、日銀法に基づく日銀の役割は、物価の安定を通じて持続的な経済成長を図っていくということであり、直接的に名目経済成長率を政策目標あるいは何らかの判断基準として挙げることは、かなり検討の余地があるアイデアではないかと思う。いずれにしても、仮にそういうご提案があれば、十分真剣に検討して判断していくということだと思う。

【問】

 冒頭のお話の中で、東毛地域の経済が活発だというお話があったが、一方で、群馬県内には金融機関がたくさんあり、東毛地域の金利競争は激しく、そういった中で収益力の確保に地域金融機関が非常に苦慮しているという状況にあると思う。日本銀行では金融高度化センターを活用し、金融機関とのコミュニケーションを保っていくということだが、政策運営的な観点あるいは地域金融機関の経営の観点から、多様な金融機関が地域にあることの意味、特に、第2地銀以下の金融機関の存在意義を伺いたい。

【答】

 群馬県内の個別の金融機関について十分な情報がないので、場合によっては支店長から説明していただくのが良いのかもしれないが、単に数が多いから望ましくないということでは必ずしもないと思う。それぞれの金融機関が、貸出を積極的にするとか、その他企業に対する経営支援を行っていくなど、それぞれの置かれた立場やビジネスモデルに基づいて、独自の金融サービスにより収益力を高めていく方向で、考えておられると思う。日本銀行も、今おっしゃっていただいた金融高度化センター、あるいは、前橋支店と、それぞれ力を尽くして、応援させていただきたい。

【福田前橋支店長】

 春委員から話があった、貸出が増える方向に進んでいるとか、あるいは、様々な形でのM&Aや事業のマッチングが増えているというお話は、必ずしもトップ地銀だけではなく、広範に様々な業態の金融機関の代表の方々からお話があった。まさに、春委員が申し上げたように、それぞれの分野で結構しっかりとした前向きな努力が始まったということである。

以上